「はあっ、はあっ、はあっ!」
ありえへんありえへん! そりゃ確かに見知らぬ人間が急に現れたらビックリすると思うよ! でもいきなり襲い掛かりますかね普通!?
あと何で脛ばっかり蹴るんだ中学生の初めてのいじめみたいな事しやがって畜生!
あー、あー、ただ今アホのルッカのあほな実験に巻き込まれたマールを助けに阿呆のルッカの言うことを信じてマールを追いかけたらはい! とっつぁんぼーやに追いかけられてます!
……超展開過ぎるだろ!? なんだよそれ? たまたま拾った女の子が実は魔法の国からやってきたお姫様だったくらい超展開だよ! 俺自身がついていけませんよ! ちゅーかたまたま拾ったってなんじゃい! 女の子はたまたま拾うものじゃねぇ! 空から降ってくるんだ! 事件は現場で起きてるんだ!
「あだっ! なになになにさ!?」
あっ、ねるねるねるねみたいな言い方になった。どうでもいい。果てしなく。
後ろを見ると俺を「ヒャッハー! あいつは俺たちの晩飯だぜぇぇ!!」みたいな顔で見ているとっつぁんぼーや達の一人が野球投手の新浦みたいにきれいなフォームで石を投げていた。
凄いねそれ。走りながらよくそんなことできるね、何処の通信教育で教えてもらえますか?
「いたいよいたいよ! あかんわあれ絶対百三十キロは出てる! あいつら子供みたいな体格なんだからガキ大将剛田位の投球スピードにしとけよ!」
俺の文句が聞こえるたびに「エケケケケ!!」という笑い声が聞こえる。
多分訳すと「今夜の獲物は活きがいいな! 今から捌く時の悲鳴が楽しみだぜ!」みたいな感じなんですかね。狂ってる。
「はあ、はあ、痛いししんどいし疲れたし、もう走れねえ……」
途中の岩壁に体を預けて、深呼吸を繰り返す。当然俺を追いかけていたとっつぁんぼーや(一々そう呼ぶの面倒くさいし青色丸でいいな、肌青いし。ていうかあいつセルゲームの時に何匹かいなかったっけ?)は俺に追いつき周りを囲み始める。
「エケッ、エケケケ!!」
「あー、もう。俺ガチの戦闘嫌いなんだよ。見たら分かるだろ、腰に木刀ぶらつかせてる奴は自分に酔った可哀想な奴か、俺と喧嘩売れば容赦なくこれを使いますよって牽制してるんだから。どっちにしても喧嘩なんかしたくないビビリなんだよ」
ちなみに俺は二つのうち両方当てはまる。
言いながら俺は木刀を両手で持ち、青色丸達を見据える。数はそれほど多くない、一人一撃で倒せば特に怪我も無いだろう。きっと、多分。恐らくは。
青色丸たちは「お、俺達とやろうってのか?」と言わんばかりに顔を見合わせて笑っている。
そりゃあ、今まで泣き言を叫びながら逃げ回っていた奴が急にカッコつけても笑えるだけだろうさ。
「笑え、笑え。何にもできないただのアホと思ってればその分俺の勝率は上がる」
ついでに俺も休憩できる、と心の中で呟き一瞬、ほんの一瞬だけ俺も気を抜いた。
……それがいけなかった。
顔を見合わせていた青色丸たちは打ち合わせでもしてたんですかというタイミングで同時に俺のほうを向き、閃光の如きスピードで俺に襲い掛かった!
「う、うわあっ!!」
とっさに木刀を右になぎ払って俺にダメージは無かったが……それ以上に最悪な事態となってしまった。
「おおおお折れたぁぁ!!!」
そう、青色丸三人分の蹴りとパンチに耐え切れず木刀が半ばから叩き折られたのだ。一人一撃で倒す? 夢見てんじゃねえ!
呆然としている俺に、青色丸の一人が実にいやらしそうな顔で近づいてくる。
途中で地面に落ちている折れた木刀をバキッと踏み潰しながら。
「エケケケケ……」
無駄に訳してみると「小便はすませたか? 神様にお祈りは? 部屋のスミで以下略」ってなところかな。なんともアメリカンな野郎だ。
「……フッ」
ニヒルな笑みを浮かべ、背中に手を伸ばす。その動作に青色丸たちは怪訝な顔をして、すぐにまた警戒態勢へと戻り、俺から少しずつ離れていった。
どうやら、奥の手のさらに上位に位置する奥義を使わねばならんようだ。
驚くなよ? 俺はこの手でルッカの追撃を五回も振り切ったんだからな! (捕縛回数千前後)
「おらあああああああぁぁぁぁぁ………」
俺は全力で青色丸たちに走り出す、と見せかけて明後日の方向に力の限り走る。
奥義、「ハッタリ」である。
いやいや、背中になんかなんも隠してないし、木刀が折られた時点でまともに戦うなんて選択肢存在しねえんだよ。誰だって好き好んでタイガー道場になんか行きたくねえよ!
クロノ、心の俳句、と締めた後に数秒遅れて青色丸たちが走り出すがもう遅い。俺の逃げ足は弾丸より速いとと学校のホームルームで俺自身が宣言したのだから。
青色丸たちの声がエケケという笑い声からゴガッゴガガッ! という怒声に変わる頃には俺は風と一体化していた。気分はボルト。
青色丸たちから無事逃走を果たした俺は、山の途中から見えた町に向かうこととした。
山を降りる間にもう無駄に色々あった。
宝箱があったのでパネえ! パネえ! と喜びながら空けてみると二週間くらい洗ってなかった靴下みたいな臭いのする手袋。崖下の滝に宝箱ごと叩き落した。
気を取り直して歩き出すとまた宝箱があったのでもう騙されるかと中身を見ずに崖下に蹴り落とした。落ちていく途中で蓋が開き、中からポーションが出てきたことを覚えている。(ポーションとは体力回復の薬である。勿論あって困るものではない)
買ってきたプラモを帰り道で落として壊してしまった時のような感覚に襲われていると、下からグギャア!! という鳴き声が聞こえた。
え、なに? どういうイベント? と戸惑っているとなにやらバサバサと大きな鳥が羽ばたくような音が聞こえた。
大鷹でもいるのかね、と思っていると下から俺と同じくらいの大きさの鳥が二匹現れた。
片方は頭から血を流しており、なるほど、俺の落とした宝箱が当たったのかと推理する。どうかねワトソン君!
まあ、その鳥だけでもまずいのだが、もっとまずいのは鳥ではない。
その鳥の足を掴んで一緒に現れたのが……そう、青色丸である。
俺の顔を見るなりグゲエエッ! と叫んだところを見るとさっきまで俺を追いかけていた奴らに違いない。
ふざけんなよ! 鳥の足を掴んでやってくるとかガッシュかよ! と悪態をつきながらリアル鬼ごっこが再開された。
喘息の発作なみに息を乱していると、なんだか急にテンションが上がってきた。ランナーズハイというやつだろうか?
少しランラン気分で歩いているとなんだろう、青色丸二人が人間の胴体くらいありそうなアルマジロでサッカーをしている。
控えめに言っても冷静ではなかった俺はその光景を見て「よーしーてー!」と声をかけてしまったのだ。
こうして、俺は他人とは適度な距離を持って接するべき、と学んだ。
「とにかく……たいへんだったんですよぉ……分かります?」
「分かるよ兄ちゃん。とにかく飲みねえ飲みねえ!」
無事下山することができた俺は喉の渇きを潤すため町の宿屋に入り、現在酒をバカスカ飲んでいるところである。
「はい……幼馴染の女の子はなにかっちゃあつっかかってくるし、折角のお祭りで知らない女の子に飛び膝蹴りかまされるし、あげくその女の子はスカタンの幼馴染の実験に巻き込まれて消えちゃうし、後を追ったらあの山の中にいるし……もう散々です……」
隣に座っている気の良い親父に愚痴を聞いてもらい、放しているうちに両目から涙が溢れてきた。
俺の人生にいつ幸福期が来るのだろうか?
「うん、裏山? そこは確かリーネ王妃が見つかったところじゃねえか」
「え、女の子がいたの!?」
どっぷり漬かった酒気が覚め、親父さんに話を促す。
「こらこら、王妃様に女の子ってのは無礼だぜ? ……まあ確かに久しぶりに王妃様の顔を見たが、確かに女の子って言えるほど若々しい人だったな。前に見たときよりさらに若返って見えた」
「王妃? ……まあいいや。あのさ、その子の特徴教えてくれない!?」
「だから……もういい。ええと、王妃様は美しい金色の髪の髪を後ろでくくってらっしゃった、服装は見つかったときはラフな白い服だったな。そして、これは見間違いかもしれねえが、背中にボーガンをつけてた気がするな」
「……ビンゴだ! サンキュ、親父さん! 最後にもう一つ。その王妃様には何処で会えるんだ?」
そう問うた俺に親父さんは眉をひそめて、
「はあ? 王妃様に会うなら、城に行くしかないだろうが」
……なるほど、道理だ。ところで……
「あの、お城って民間人でも入れますかね?」
親父さんの答えは何言ってんだ? お前大丈夫か? だった。
星は夢を見る必要は無い
第二話 急展開ってなんだかんだで必要な要素なんだよね
「着いた……ここがガルディア城か……」
宿屋からここに来るまで、まあ無難に色々あった。
肌が緑色というだけで、青色丸と姿形が全く同じの緑色丸が城にいく道筋の途中にある森で闊歩してたり。
草むらで何かガサガサ動いてるから何かなー?と思って除いてみると中から化けもんたちがウジャウジャ出てきたり。
草むらで何か光ってるからお金かなー? と思って近づくとモンスターがアメフトなみのタックルをかまして逃げて行ったり。
単行本にして三分の一は描写できそうな冒険だった。
まあ基本俺はワーワーキャーキャー言ってただけなので大層つまらない本になるのは間違いない。
「……しかし、こっからが問題なんだよな」
途中の立て札に用の無い者は来るな! 乗らないのなら帰れ! とにべもない言葉が書かれていた。乗るって何に?
まさかいきなり「すいませーん? 王妃様います? それ多分俺の友達なんで返してくれません? まじ、迷惑なんですけどー」
と言ったところで返してくれるわけが無い。
多分「そいつは悪かったねー。よいしょい!」
と言いながら槍を突き出してくるだろう。
そして俺はバッドエンド~宿命はいつまでも~とかロゴが出てきて終わる。何か良い案は無いだろうか……?
「……奥義を使うべきだな」
またの名をはったり。
俺は威風堂々と城の門を開けた。
「どうも、天下一品です。ご注文の品を持ってまいりました」
「待て! 何者だ!」
まあ、何食わぬ顔で入っても城の門番が許すわけが無い。普通に俺の肩を掴み尋問する。
「いや、ですから天下一品です。ご注文の品を……」
「……そのご注文の品はお前の懐の中に入ってるのか?」
懐疑的な目で見てくる兵士。にしても訳の分からんことを言う。天下一品といえばラーメンか餃子かチャーハンか。とにかく懐に入るような物でないと何故分からないのだろう。
「懐になんか入るわけ無いじゃないですか。頭働いてます?」
「じゃあ何でお前手ぶらなんだよ! 注文の品って何だよ!」
……なるほどね、それは盲点だったぜ。確かに両手に何も持っていないのにラーメン屋の出前のフリをするのは難しかったか……
「じゃあ税務署の方からです」
「いやあ……もう無理だよお前……修正効かないよ」
「……やっぱり駄目ですかねえ?」
俺が聞くと二人の兵士は同時にこくりと頷き、俺の腰に蹴りをいれてきた。とても痛い。
「ほら、とっとと帰れ! あんまりウロチョロするようならひっ捕らえるぞ!」
「蹴りを挟んだ理由は何だ!」
涙目になりながら講義する俺。暴行罪で訴えてやろうか、なおかつ勝ってやろうか。
「おやめなさい!」
騒々しい城の入り口に響き渡る凛とした声。
それは醜い争いをしていた俺達の動きを止めるには十分すぎる力を持っていた。
「リ、リーネ王妃様!」
兵士達が動作を再開し、跪く。
俺は何がなんだか分からないという顔で声の聞こえた方向を見る。
そこには、荘厳なドレスを纏った、マールがいた。
触れれば折れるのではないかという細身の女の子に、無骨な兵士達が傅いている。
本で何度も見たことのある光景。それがこんなに神々しく見えるのは、マールの力なのか、城という舞台に影響されてなのか。
「その方は私がお世話になった方。客人としてもてなしなさい」
「しかし、こんな怪しい者を……」
兵士の一人が、抗議ともいえない意見を放つ。
もう一人も口にはしないが、同じことを思っているようだ。
それを感じたマール……いやリーネ王妃は二人を交互に見て、口を開いた。
「私の命が聞けないと?」
ゾクリとした。
声を荒げているわけではない。
刃物を突きつけられているでもない。
ただ、その声の平坦さ、感情の不透明さが怖かった。
まるで、見えない手に心臓を軽く握られたような……
「め、滅相もありません! どうぞお通りを!」
急いで言葉を繋ぎ、視線を下に戻す。
俺が言われた訳じゃないのに、あれほどの恐怖が生まれたんだ。
言われた本人達の心情は押して知るべし、ってやつだ。
リーネ王妃は「フフ……」と妖艶に笑い、城の奥に戻って行った。
妖艶、恐怖、荘厳。
俺の知っているマールとかけ離れた印象を持つリーネ王妃。
……本当に、本当に、リーネ王妃は……
「マール、なのか?」
俺の小さな呟きは、城の大広間に響くことは無く、俺自身に向ける疑問として残った。
おまけ
それは今から六年ほど前のこと。
「ルッカ! もうちょっと優しい実験にしよう? でないと俺若い身空でこの身を散らすことになってしまう……」
「駄目よ、この実験が成功すれば私の理論は飛躍的に進むんだから。そう、時を越えることもできる……かもね」
「嫌だぁぁぁ!! 時を越えるのにどうして俺が十万ボルトの電撃を浴びなきゃなんないんだよぉぉぉ!! ただの拷問じゃん!!」
「うるさいわね! 私だって結構この実験の必要性に疑問を持ってるんだから! 覚悟を決めなさい!」
「うわあああ本末転倒の支離滅裂だぁぁぁぁ!!!」
─────春のことである。
「ルッカよお、まぁたクロノを苛めたのか?」
「苛めてない。実験よ実験。科学の進化に犠牲はつきものなのよ」
「実験ねえ……」
それから二人の間に会話が途絶える。
二人とも、別に気まずいとは思わない。互いが互いに研究をしているときには会話なんてもっての外だし、会話が無くても相手が何を考えているのか分かる。
ルッカとタバンは普通の親子よりも強い絆で結ばれているのだ。
「やっぱあれか。普通に遊ぼうって言うのが恥ずかしいんだろ? やっかいな娘に惚れられたなクロノは」
「っっ!! あいたあ!!」
急なタバンの発言に驚き、ルッカは手に持ったトンカチを足の指に落としてしまった。
顔が赤いのは羞恥か、はたまた痛みの為か。
「ととと父さん! ぜっ、全然そういうんじゃないし! クロノとか、クロノとかもうそういう風に見る対象としてありえないっていうか、いやむしろクロノって誰? みたいな! そんな奴いたかなぁ……? って悩むくらいの存在よ私の中では!!」
一息で言い放つ娘に「ほーほー」と聞き流すタバン。今も昔もルッカは父親には勝てないのだろうか。
また、先ほどと同じような沈黙が降りる。
ルッカも気を取り直し、作業に戻る。
タバンは何やらトンテンカンテンハンマーで何かを叩いているようだ。
それは然程時間のいる作業ではなかったらしく、二分程度で手を休める。
ルッカは電線と電線を繋ぎ合わせ溶接するという極めて集中力の要る作業を行っていた。
当然、そんな時に話しかけるなど言語道断、初めてのアルバイトにメモを持ってこないくらいの暴挙だった。
が、残念ながら、タバンに空気を読むというスキルは備わっていなかった。
「クロノ目覚ましの調子はどうだ? ほら、数百種類のクロノの声が録音されてるやつ。あれのおかげでお前朝起きるたびにニヤニヤしてるもんな」
「ななななんで知って! ってあつううううぅぅぅ!!」
タバン家は、トルース町の名物一家として町に様々な話題を提供している。