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No.20613の一覧
[0] 学園黙示録 in 『追跡者(ネメシス)』[宿木](2010/09/12 16:55)
[1] 第二話 『Escape from the “Tyrant”』[宿木](2010/07/26 11:17)
[2] 第三話 『Running of the “Tyrant”』[宿木](2010/07/28 23:53)
[3] 第四話 『Democracy and the “Tyrant”』[宿木](2010/09/14 22:37)
[4] 第五話 『Street of the “Tyrant”』[宿木](2010/09/14 23:43)
[5] 第六話 『In the night of the “Tyrant”』[宿木](2010/11/12 22:06)
[6] 第七話 『Dead night and the luck of “Tyrant” 1/2』[宿木](2010/11/16 01:18)
[7] 第八話 『Dead night and the luck of “Tyrant” 2/2』[宿木](2010/11/21 17:48)
[8] 第九話 『“Tyrant” in the Wonder land』[宿木](2010/11/25 12:32)
[9] 第十話 『The “Tyrant” way home』[宿木](2011/02/07 00:58)
[10] 第十一話 『Does father know the “Tyrant”?』[宿木](2011/08/07 16:44)
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[20613] 学園黙示録 in 『追跡者(ネメシス)』
Name: 宿木◆e915b7b2 ID:075d6c34 次を表示する
Date: 2010/09/12 16:55

 ・帰ってきました! 



 ・アニメを見ていたら如何しても書きたくなったので、流行に便乗して、学園黙示録HOTDの二次創作です。原作も読みました。

 ・頭の中で有る程度の流れを決めて有りますが、基本は勢いで書いています。
 ・一応、チートな話……かもしれません。

 ・楽しんで頂ければ幸いです。








 学園黙示録 in 『追跡者(ネメシス)』

 第一話 『Spring of the “Tyrant”』








 僕の世界は、白かった。


 僕が持っている記憶の一番初めが、白だった。

 白い天井。白い壁。白い床。白い部屋。身を包む衣服も白。横たわる寝台も白。申し訳程度に置かれた机も白。空気の色が白だと錯覚する程に、部屋の中には何も無く、そして自分の色も白かった。

 時折に、部屋を訪れる人間も、白だ。上から下まで、白い服に身を包み、顔を隠す様に口を覆い、頭の先から足の先まで、体を白色で覆っていない事は無かった。けれども、その布の下には、キチンと色が有る事も、僕は知っていた。

 僕と違って、白い服の下には肌色や、黒や、赤といった色が隠れている事を知っていた。

 僕には、色が無い。

 唯一に僕と交流を持つ、面倒を見てくれる、一人の看護婦さんの話では、僕は「あるびの」と言うらしい。元々に色が無い人間で、その話を聞いた時、

 (ああ、だから僕の体は、髪まで白いのか)

 と、何処か人事の様に感じた事を覚えている。




     ●




 それは、まるで巨人だった。

 緩慢に、しかし重厚に。大地を踏みしめる様に、確実に歩いていた。

 周囲に点在する、無数の亡者を気にも留めず、無数の返り血の中に、佇んでいた。




     ●




 僕は何時も、寝ている。上から下まで白い世界の中で、起きているのかも寝ているのかも良く解らない状態だ。夢なのか、そうでないのか、体を横にしているからだろうか。さっぱり解らない。

 何時も大抵に、目が覚めて最初に気が付くのは、腕に刺さった針と、針に繋がった管と、その上に釣らされた液体の袋だ。一体これが何なのか。袋には何も書いておらず、自分の体の中に何かが流れ込む光景を見る事しか出来ない。

 体を動かそうにも、僕の体は動かない事が多い。何かで動かない様にされているのでは無く、本当に動かない。寝台から身を起こす事だけは出来るけれども、地面に両足を着いた事は、何時だったのだろう。なんとなく、昔は歩いた記憶が有り、地面の感触を知っている気がするのだけれど、今の僕は違う。この白い世界での生活が始まってから、僕は歩いた事は無い。

 看護婦さんの話では、僕は大きな事故に巻き込まれ、背中と腰の骨を悪くしたそうだ。だから、体を動かす事が出来ないのだという。その時に僕が思った事は、一つだ。

 (走る、って、何だろうか?)

 看護婦さんの話を聞くと、如何やら歩く以上の事らしい。けれど僕は、歩く事も出来ないし、覚えていない。ほんの少しだけ興味が出ただけだ。勿論、動けない僕には何の意味も無い感傷だった。




 袋に入った液体が終わると、僕は自然に眠くなる。自分の体が、そう言う性質なのかもしれない。そして、眠っている間に、多分、誰かが僕の世話をするのだろう。何故かと言えば、次に目を覚ました時、腕の針は抜けて絆創膏が貼られているからだ。そして、布団とシーツも変えられ、また真っ白な世界に成る。

 僕の体は、直ぐに汚れる、らしい。眠っている間だから良く知らないが、起きている時に、看護婦さんがそう言っていた事を覚えている。だから、毎日僕が眠っている間に、体を洗って着替えさせているそうだ。なんとなく、有難うございます、と言ったら驚く様な顔をされた。

 僕がそんな事を言うとは思っていなかったのだろうか。僕には記憶が無いが、知識が無い訳ではない。確か、『何かされたら有難うと言いなさい』、と、言われたのだ。多分、僕の親なのだろうが、その顔は解らないし、声も覚えていない。知識として残っているだけだ。

 消えそうな過去の残滓に、縋りついているだけだ。




     ●




 目の前に居る一体を、腕で退かす様に払う。

 路傍の石を退かす様な、その挙動は小さかった。

 しかし、まるで車に激突したかのように、宙を舞った。

 一直線に、傍らの石壁に頭から激突し、動かなくなった。




     ●




 僕がこんな生活をしているのは、小さい頃からだ。具体的な年齢は覚えていないけれど、幼稚園だか保育園だかに通って、この容姿で虐められた記憶が、曖昧だが持っている。けれど、何と言ったか、あの小学生が背負う黒と赤の鞄……ランドセル? と言う物は、記憶に無い。

 ある時期からプツリと記憶が途切れ、次に記憶に有るのは、この寝台で寝ている所だ。『昔の記憶』は、既に曖昧だ。幾つかの、微かな記憶と、(恐らく)両親に躾けられた内容。簡単な会話は出来るけれども、難しい言葉の意味は解らない。

 話し相手になる看護婦さんが、ひらがなと、カタカナ。数字。そして、簡単な漢字の練習本を、持って来てくれた。だから、小学生位の漢字ならば扱える。数字も分かる。僕が勉強をする事を、他の人は良く思っていなかったようだ。けれど、看護婦さんが無理に要求を通したらしい。

 起きている時間は長く無かったけれども、起きている間の暇潰しに、これ以上無い物が出来た。頭は良い方だったようで、吸収は早かった。けれど、娯楽の提供は許されず、本も読めなかった。仕方なく、小学生の使う教科書を読んで、理解に努めているだけだった。

 一人での勉強はつまらない。それを読み取ったのか、看護婦さんが、時々、僕の相手をしてくれていた。彼女は僕の面倒を見る以外に、僕の話し相手でもあった。決して口数が多く無かったけれど、彼女の話から僕は、自分の白い世界以外を想像していた。

 勉強以外での、最低限の知識を得たのは、彼女のお陰だった。勿論、最低限も最低限で……例えば、病院の外はどんな季節だとか。病院の周りがどんな事になっているとか。看護婦さんの友達の話とか。そんな、話ばかりだったけれど、その話を聞いて僕は、過去の自分の記憶を、僅かに思い出していた。




 表向き、僕は重病で、隔離病棟にいる事に成っていた、らしい。病院というシステムの、詳しい事を知る筈も無い僕は、それを『他の人とは違う部屋にいる』事だと理解していた。それが随分と違う事を知ったのは、随分と後の事だ。

 僕の白い世界は、常に一カ所だけが透明だった。向こう側に何が有るのかも分からない。けれど、恐らく、看護婦さん以外で部屋に入って来る白い人達が、僕を見ているのだろうな、と何と無く思った。

 彼らが入って来る時、ほんの一瞬だが、出入り口から部屋の外が見えて、その奥に機械が有った。赤色とか黄色、緑色に光るランプと一緒に、動いていて、僕を見ている様だった。だからきっと、看護婦さん以外で僕を見る人達が、同じ様に見ていると思ったのだ。

 その事を看護婦さんに聞いてみたら、やっぱり驚いた様な顔をして、何かを言いたそうに口を開いて、けれども、何も言わずに部屋を出て行った。目が泣きそうな眼をしていた。だから僕は、其れを境に、看護婦さんに、僕の居る場所や、置かれている事に着いて聴く事を止めた。

 なんとなく、看護婦さんだけは、悲しませてはいけない様な気がしたからだ。
 僕の白い世界の中で、彼女だけが、多分、僕に感情を持ってくれていた。




     ●




 白い怪物は、ゆっくりと歩く。

 まるで何かを探すかのように、誰かを探すかのように、周囲に目を向けて。

 探す物の居場所が解っているのだろうか。

 足取りは不安定だが、確実に、真っ直ぐと。

 その足を、山上の学園に向けながら進んでいく。




     ●




 “その時”に、何が起きたのか、僕は良く覚えていない。

 ただ、何時もと同じ様に、白い世界で、起きたり寝ていたりを繰り返す筈の日常には、成らなかった。



 最初は、何も音が聞こえなかった。元々、僕の部屋は音が響かない造りだったからだ。防音で、外からでは、余程大きな音で無いと、聞こえない造りになっていた。だから、解らなかった。

 けれど、音が大きく成り、白い部屋の中に居ても聞こえるほどに、誰かが叫ぶ音が聞こえた。叫ぶ音。鳴き声。悲鳴。怒鳴り声と、喚く声。壁を隔てていても聞こえる声に、何か事件が起きたのだろうな、と思った。

 それは、遠くから徐々に近寄って来た。まるで、人から人に移って行くように、僕の部屋の近くまで、やって来ていた。此処に至って、僕でも、何か凄く大変な事が起きたのだと解ったが、如何する事も出来ない。寝台から動けず、体力も無い。普通に歩く感覚ですら覚えていない僕に、何も出来る筈がないのだ。

 部屋の外で何が起きているのかは全く分からず、僕は待つしか出来なかった。

 何時もと同じ位の時間に成っても、誰もやって来なかった。

 何時もならば、僅かな食事と一緒に出される薬を呑み、液体を入れられ眠りに落ちる筈なのに、何もならなかった。

 寝台の横には、一台の車椅子が置かれている。置かれているだけで、今迄使われた事は無い。申し訳程度に、誰かが間違ってこの部屋を見た時に、言い逃れが出来るだけの見せかけだと、看護婦さんは言っていた。

 (……乗れば、移動が出来るのだろうか?)

 そう考えて、無理だな、と思った。

 寝台から車椅子まで歩くのも、今の僕には難しい。体を起こす事は、頑張れば自分で出来る。けれど、畳まれた車椅子を広げ、その上に移動し、自分で部屋から出る事は、不可能だ。

 仕方がない、と思った。

 ずっと白い世界の中にいて、ただ呆ける様に過ごしていた。

 僕は、このまま死んでも、何も感じなかった。

 そもそも僕には、生きていると言う事が理解出来無かった。

 幼い頃は、確かに生きていたのだろう。けれど、記憶と共に、両親と共に、体の自由と共に、その実感を失った。外に出る事も無く、ただ毎日毎日、白い世界の中で時間を潰す僕は、生の意味を再度、手に入れて居なかった。

 だから、僕はこのまま、誰にも気が付かれずに放っておかれるのならば、其れでも良いと、思っていた。

 静かに朽ち果てて行くのも、悪くは無いと思っていた。

 けれど。

 「……大丈夫、ね?」

 時間は其れほど経過していなかった。隙を伺っていたのかもしれない。

 そう言って、僕の部屋の中に、入って来た人が居たのだ。

 白い筈の服に、赤い斑点を付けて、顔にも血を浴びていたから、一瞬、誰だか分らなかった。

 「逃げるよ、×××」

 けれども、声と、僕への態度で、分かった。

 息を切らして、やつれた顔で。

 僕の世話をしていた看護婦さんは、そう言った。




     ●




 一体の怪物は、悠然と歩く。

 立ちふさがる異形を障害として排除し、まるで進軍するかのように。

 今尚も悲鳴が上がる学園を目指し、確実に迫って行く。

 絶叫と悲鳴の充ちた街を。

 燃える車の脇を。

 桜吹雪の舞う坂道を。

 そして群がる死者達を押しのけて。




     ●




 僕の世界は白かった。
 けれど、外の世界は赤かった。

 そう思った。

 「大きな音に注意して」

 そう言って、僕を車椅子に乗せ換え、静かに彼女は部屋の扉を開けた。そして、目に入って来たのが、赤い壁と赤い床だった。否、本当は白い筈の壁や床が、赤く塗り替えられていた。

 その光景に、僕だけでなく、看護婦さんも息を呑むが、其のまま意を決した様に、車椅子を押す。赤い床は濡れて滑り易く、看護婦さんは苦労していた。僕に出来る事と言えば、初めて見るに近い、病院の中の光景を観察するだけだ。

 (何が? あったのか?)

 看護婦さんは足音を消し、周囲を伺いながら押して行く。その目には緊張が浮かび、額からは汗が流れていた。唾を呑みこむ喉の音まで聞こえてきそうだった。

 僕は、病院の中は賑やかなのだと思っていた。それは間違っていたらしい。少なくとも今は、この病院の中で大きな音を経てる者はいない。居なくなってしまった。

 「……っ……×××、絶対に、声を出さないで」

 何か、この惨劇を引き起こした者を見つけたのだろうか。車椅子を止め、廊下の端の柱の陰に寄せ、身を低くして、静かに、看護婦さんは耳に囁いた。

 「声を出したら、貴方も私も、死ぬわ。……絶対に、黙って」

 そう小さく、まるで注射針の様に鋭く、言葉を言う。

 僕は病室内では非常に聴き分けが良く、特にこの看護婦さんの、こんな口調の時には、絶対に従うべきだと言う事を経験で知っていた。それが、良かったのだろう。

 廊下の向こうから歩いて来た、僕の病室に良く来ていた、気に食わない感じの医者を見た。
 その喉に大きな穴を開け、肩が抉られ、白衣を血に染めた、まるで死体の様な格好の、医者を。

 「――――」

 驚いた。悲鳴を上げる訳ではない。こんな状態でも、人間は歩いて行動が出来るのかと、思った。医者と言う存在は、体を悪い部分を治したり、取り除いたりすると聴いた事が有る。だから、僕はずっと病院の中で暮らしているのだと思っていた。

 でも違った。医者は、多少体がおかしく成っても、自分の体を治して動けるらしい。

 「…………」

 看護婦さんは、胸のポケットから小さなコインを出した。十円玉、と言うやつだ。それを、静かに振り被った手で、静かに、遠くへと投げる。僕と看護婦さんが居る柱から、かなり離れた場所だ。コインが、床に落ちる。濡れていない場所に狙って落とされたコインは、甲高い音を立てた。

 「――――、ォ」

 呻き声をあげて、医者がそちらを向く。そして、コインの方にと歩いて行く。
 柱の陰の僕達が、見えなかったのかもしれない。コインの方面を向いた医者は、其のままゆっくりと歩き、遠ざかって行く。背を向ける医者の背中は、やっぱり真っ赤だった。

 「……よし」

 小さく呟いた看護婦さんは、其のまま僕の車椅子を押して、気が付かれない様に、廊下を渡った。そして、角を曲がり、そのまま素早い足取りで今の場所を離れて行く。
 数分程静かに、誰とも会わずに歩き、出口のすぐ傍に来た事で安心したのだろう。

 小さな安堵の息を背中に感じた。






 それが、悪かったのかもしれない。






 何の音が原因だったのか。

 次の瞬間には。

 同じ様に、真っ赤に染まった、別の看護婦と医者が。

 僕と彼女に、襲い掛かっていた。




     ●




 それは、まるで巨人にも似ていた。

 泰山と歩く足は巨木の様に、膨れ上がった筋肉は鋼の様に。

 各所が隆起した体。その身を破った骨。硬質化した爪。

 亡者の腕を容易く払いのけ、繰り出される牙を変色した肌が防ぎ、僅かに追った怪我も修復される。

 古代西洋の彫像のように堂々とした、しかし嫌悪感を呼ぶ巨体の体中に走った傷跡は、固く塞がり、盛り上がる。

 唇の無い、醜悪な顔から、まるで咆哮の様に、吐息が漏れる。

 炯炯と、獣よりも遥かに獰猛な光と、同時に理性を灯した瞳が、標的を探す様に観察する。

 何処で手に入れたのか、その身を丈夫そうな衣服で包み、音に集まる《奴ら》を路傍の石の様に薙ぎ払い、戦車の様に容赦無く、道を突き進む。

 唯一、人間だった名残の白髪が、その頭部に残るだけ。


 それは、今尚も足掻く生者にしてみれば、正に、悪夢の象徴の様な、怪物だった。




     ●




 其処から先は、覚えていない。

 確かに、喉や頭に噛みつかれ、痛みと共に意識を失った筈だった。

 けれど、僕は生きていた。




 最初に、目を開けて見えたのは、苦しそうに息を吐いて、汚れの少ない廊下に座りこみ、壁に寄り掛かる、看護婦さんだった。

 「……やっぱり、そうか」

 体が勝手に動いた。物凄く簡単だった。今迄の苦労は夢かの様に、容易く動いたのだ。僕が身を起こすと、彼女は、そんな風に、諦めた様な顔で、呟いた。

 「アレが、脳と神経で、肉体の支配をするのならば……骨盤や脊髄に異常が有っても、動く」

 何を言っているのか、解らなかった。

 視界の片隅に、車椅子が転がっている。そして、同じ様に地面に、先程噛みついて来た、真っ赤な色の医者や看護婦が、倒れている。何れも頭を潰され、動かない。看護婦さんが、潰したのだろうか。

 廊下を見れば、新しい赤色が周囲に散っていて――――。



 ――――其処で気が付いた。



 僕はその時、両足で、立っていたのだ。
 動かないと思っていた足が、動いている。



 「まして、事故の怪我は完治していた。精神的なショックと、思い込み。そして、決して外に出そうとしなかった連中のせいで、動けた筈の体も動かせないままだった。……そんな理屈は、通じる筈がない、と」

 ごほ、と咳をしながら、看護婦さんは言う。咳と一緒に、血が出た。

 心配だった。彼女に近寄ろうと、一歩、足を前に出す。

 途端に、上手く歩けず、転んだ。ぐらり、と重心が傾き、其のまま前に倒れてしまった。立ちあがったのは無意識だったのかもしれない。歩く感覚は、久しぶりすぎて、体が覚えていない。
 ドスン、と音を経て、それでも、彼女に寄ろうと、腕を使って前に進む。声を出そうとするが、出せない。其処で僕は、両腕も、否、全身も、今迄と違っている事に、気が付いた。

 「――×××、には、見えないな」

 体を動かそうと、苦しんでいる僕に対して、彼女は一人で、自分を責める様に、言う。

 「病院に隔離された理由。……事故で運ばれて、以来、ずっと病院の御荷物だ。費用の代わりに、治験と投薬の実験台。薬の効果を見極める為に処方された、法律ギリギリの投薬だった。――その影響か、何時しか異常に、薬の効果が出無くなって……どんどん、実験が過激になって」

 悲しそうに、自分を責める様に。

 「そして、何の偶然か。噛まれた影響で、突然変異か、化学反応か、それとも肉体の暴走か……」

 僕の方を見て、呟いた。

 「まるきり、……改造、人間だ」

 僕には、その意味が、解らなかった。
 改造とは、何かを、より格好良く変える事だと、思っていた。小さい頃のヒーロー番組ではそうだった。あるいは、より強くする為に、悪の博士が行う事か。
 どちらにしても、自分がどれ程に異常で、どれ程に怪物的な状態なのかを、知らなかった。

 強く成る事が良い事ではないかと、単純に思った。

 「――――帰って来て、両親の話を聞いて。八方手を尽くして見つけて。看護婦として入り込んで。機会を伺っていて……。そして今だ。混乱に乗じて……逃げ出そうと、思ったが。……此処で、終わり」

 諦めたように、静かに目を瞑った。

 「――――悲しい、が――、」

 静かに、看護婦さんは、天井を仰ぐ。

 そのまま、僕の方を、見る。

 何も感情を映さない、全てが終わったと言う様な、疲れた顔。

 その顔を、過去に、何処かで見た事が有る様な、気がして。




 何故か、彼女を抱きしめていた。




 そして――――――。




     ●




 白い髪の怪物は、太い指を動かす。身に纏った、巨大な野戦服の様な、上半身を覆う服のポケットから出たのは、写真だ。ゴソリ、と言う音と共に、開かれる。

 写真を見る赤い瞳と、かつては色の無い、珍しいだけの指の肌が、今では異常さと異形さを示している。

 「……見つ、k、タ」

 ボソリ、と冥府から響く様な低い声で、彼は告げた。

 「アレ、が……」

 彼に理性が有る事を知った看護婦は、残された時間で、僅かだが言葉を言った。



 『私の友人に、お前を託す』と、そう語った。

 財布から写真を取り出し、『この彼女達に会え』と、そう告げた。



 「探、しタ、相テ……」

 その真意を、彼は知らない。語るよりも早く、彼女が事切れたからだ。

 しかし、彼女は確かに、彼に幾つもの指針を、与えて行った。

 これから、彼がするべき事。

 これから、彼が目指すべき場所。

 これから、彼が出会う困難に対する激励。

 そして、最後に一言の、感謝と愛情の籠った、有難うの言葉。




 彼はまだ、何も知らない。

 けれども、その口調に、するべき事が有る事だけは、理解した。

 だから、看護婦の言葉の通りに、動いた。




 病院を抜け。

 荒らされた店から丈夫そうな衣服を奪い。

 渡された写真を大切に仕舞い。

 暴れる亡者も、襲い掛かる暴徒も、関係無く退かして突き進み。

 坂道を登り、周囲の障害を薙ぎ払い。

 彼女が此処にいる筈、という言葉を信じて。

 まるで『追跡者』の様に。




 写真に写っていたのは、三人の女性だ。一人は、彼にこの写真を渡した看護婦。もう一人が黒髪の、鋭い眼の女性。最後の一人が金髪の、優しそうな女性。

 その最後の一人の一人を、視界の中に、確かに。

 「見つ、k、タ……」




 今にも、生徒達と学園を脱出しようと動く、鞠川静香という女性を。














 と言う訳で、周囲から思いっきり誤解される主人公な話。
 そして強い代わりに、強さ以外の人間的な要素を、どんどん手放して行く中で頑張る話です。

 『追跡者(ネメシス)』そのまま。触手はまだ、有りません。外見はタイラントっぽいかな……。
 只管に追って来るだけです。でも、《奴ら》の噛みつきは愚か、大口径の銃だって効果が有りません。肉体が異常に頑丈で、まだ不慣れですが超スペック。毒島先輩with日本刀でも無理です。車で撥ねても効果なし。ロケットランチャーも回避可能。無双可能なチートですね。

 どこからどう見ても、まず味方には扱われない事を除けば、ですが。


 書きたいシーンが有るので、無駄を省いて、テンポ良く続けたいです。
 でも、他の作品を何とかしないとなあ……。


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