こなた編~帰ってきた魔法使い~
その日、私は夢を見た。
中学時代に仲の良かった、将来の夢が魔法使いになる事と言っていた彼の夢。
『君に言われた通りに来たよ。ねえ、私に話したい事って何?』
私はその彼に、私を呼び出した理由について訪ねる。
その人はそんな私の声に悲しそうな顔を向けて
『俺さ、もうすぐ引っ越すんだ。両親の都合で、この中学を卒業するまでは学校にいられない。それに、お前とこうやって話す事ももう何度もできない。けど、お前にだけは何も言わずに別れる事が出来なくてさ・・・だから、お前にちゃんと言っておきたかったんだ。俺は、お前が・・・好きだ・・・お前が俺をどう思ってくれているのかは分からないけど、けど、これが、俺の素直な気持ちだ。』
そんな彼の突然の告白に戸惑いつつも私は
『わ、私は・・・その、えっと・・・』
彼の言葉にどう答えるべきか悩んでしまい、なんともはっきりしない物言いとなってしまっていたが、そんな私に彼は星の形のアクセサリーのついた携帯ストラップを私の手に握らせて
『すぐに俺の言葉に答えることが出来ないお前の気持はわかる。それに、いきなりこんな物を渡されて混乱もしてるよな・・・だから、答えはすぐには聞かない。でも、もし、少しでも俺の事を気にかけてくれるのなら、今渡したこれを大事に持っていて欲しいんだ。』
そう言う彼を見て、私は手の中にあるストラップを、彼からの最初で最後の贈り物を握り締めた。
『・・・ずるいよね・・・そんな事になったのに私に一言の相談もなしでさ、それでいて自分の気持ちを一方的にぶつけて、さらにはこんな贈り物だもんね・・・』
そんな私の言葉に彼は複雑な表情で
『勝手で悪い、って思ってる。でも、俺にはこうするしかもう、お前への気持を伝えられないから・・・ごめん・・・こなた・・・最後に、また勝手だけど、お前の気持ちを聞かないままだけど・・・俺の事、少しでも思ってくれるのなら・・・そのストラップを大事に持っていて欲しい・・・今は俺にもどうしようもないけど・・・そのストラップが俺とお前をつなぐ、唯一の物だから・・・それがきっと、俺とお前をもう1度引き合わせるための、魔法のアイテムになるはずだから・・・だから・・・持っていてくれ・・・話は、それだけだ・・・こなた・・・俺はさよならは言わないよ。だから・・・またな?』
そう言ってまたしても一方的に自分の思いと贈り物を私に託して彼は涙で濡れる顔を見られないように踵を返してその場から立ち去った。
私はそんな彼を慌てて呼び止めようとしたけれど、結局声をかける事ができなかった。
そんな場面までを夢で見て、私は慌てて飛び起きる。
そして、乱れた息を整えて1つ深呼吸をすると、夢の中の彼の名前を呟くのだった。
「・・・けーくん・・・」
その後私は時計を見て、まだ時間もあったので寝直すことにしたのだが、2度寝がたたったらしく、朝寝坊するはめになった。
急いで制服に着替えた私は、下に降りてキッチンに向かうと、そんな私を見て苦笑を浮かべるおとーさんが
「おはよう、こなた。今日もギリギリみたいだな。朝御飯食べる時間あるか?」
そんなおとーさんに私は苦笑しながら
「おはよーおとーさん。ごめん、かなり時間ないよ。だからこれだけ持ってくねー?」
そう言って、用意されていたトーストを口にくわえると、大慌てで玄関を飛び出していく私だった。
トーストをくわえて走りながらこんな時に誰かにぶつかったりしたらフラグも立つかもね、と思いつつも昨晩の夢の事を思い出していた。
(何で今頃あんな夢見たのかな・・・あれからけーくんからの連絡や手紙だって届いてないし、私自身もあの時の気持ははっきりしないままだったから忘れかけていたのにな・・・でも・・・)
そう考えながら私は、あの夢の後から彼にもらった携帯ストラップの事を思い出して、なんともなしに、また自分の鞄につけたのだった。
何故そうしようと思ったのかは分からない。
でも、何故か、あの夢が私に奇妙な予感を感じさせていた。
(あの時のけーくんの言葉を信じる訳じゃないけど・・・なんでだろうね、何となくこうしてみたくなったよ・・・なんだか不思議な感じだけどね・・・)
そんな事を考えながら私は学校へと辿り着いたのだった。
そして、その日の昼休み。
私はかがみ達とお弁当を食べながらいつものように雑談をする。
「・・・という事があってさー。」
「それって臭いわね。」
「うんうん、臭いよね~。」
「確かに臭いですね。」
という事を話しつつ、私はかがみに
「ねえ、かがみ。毎回昼休みには私達の教室に来るけどさ、クラスに友達いないの?」
ニヤニヤしつつそう言うとかがみは顔を赤くしつつ
「ベ、別にいいじゃないのよ!これだっていつもの事じゃない!それに、友達くらい私にだっているわよ!」
そんな私につかさは
「そういえば峰岸さんと日下部さん、だっけ?おねえちゃんのクラスの人だけど2人は中学生の頃からの付き合いだよね?」
柔らかく笑いながらそう言うつかさにみゆきさんも
「中学生時代からですか?」
そう訪ねるとかがみは呆れたような顔で
「何故か中学2年生の頃から今まで一緒のクラスなのよね・・・とんだ腐れ縁だわ・・・」
そう答えるとみゆきさんは驚きながら
「それはまた、奇妙なご縁ですね。でも、かがみさんも満更嫌だと言う訳でもないのでしょう?」
その言葉にかがみは頷きながら
「まあ、そうね・・・嫌だったらとっくに友達やめてるだろうしね。」
そんなかがみに私は
「なーんだ。一応友達いたんだね。てっきりクラスではぶられているのかと・・・」
その言葉にかがみが私をキッと睨みつけて
「社交性ゼロのあんたに言われたくないわよ!あんたこそ友達とかいたの?いつまでもそんなのじゃあんたの将来すら心配になるわよ!」
という痛烈なツッコミに私は少し考えてから
「中学時代に1人だけ仲の良かった友達がいたよー?」
そう答えると、私のその言葉に驚いたかがみは
「へえ?そうなんだ?その子とはまだ交流とかあるの?」
その言葉に私は少し複雑そうな顔をしながら
「今はないかな・・・あ、それと、その友達の将来の夢は魔法使いになる事だって言ってたよー?」
その言葉にかがみは思わず
「結局、類友かよ!・・・ん?こなた?」
私にツッコミを入れていたが、私の浮かない顔に気付いたかがみは
「どうしたの?こなた。急に何だか元気なくなったけど・・・」
そんなかがみの言葉に心配して声をかけてくれるつかさとみゆきさん。
「こなちゃん、何かあったの?」
「そのお友達の事で何かあったんですか?」
そんな3人の私を心配してくれる気持がつらかったのだけど、隠していてもしょうがないかな?と思った私は
「あはは・・・ごめんね?みんな。ちょっとその時の事思い出しちゃったからさ。」
そんな私にかがみは真剣な表情で
「・・・あのさ、こなた・・・それって、私達には話にくい事?それなら無理には聞かないけど、話せる事なのなら聞かせて欲しいな。」
そんなかがみの言葉につかさとみゆきさんも
「わたしも聞きたいな、こなちゃん。」
「お話出来る事なのでしたら私もお伺いしたいですが・・・」
そんな3人を見て私はため息を1つつくと
「・・・まあ、別に隠すほどの事でもないし、いいかな?それじゃ話すよ。
・・・・・・あれは私が中学2年生の夏休みが過ぎた頃の事。
私はおとーさんの影響もあって、あの当時から、いや、あれ以前からアニメや漫画やゲームが好きで、周りからも私はオタクと呼ばれていた。
そんな私だから、クラスメートとの話しも合わない事も結構あって、そのうちに私はクラスの中でどんどん孤立していく事となった。
それでも私は、友達の1人も欲しかったから、周りに引かれても、疎まれても、皆の輪の中に入ろうとして奮闘していた。
でも結局、その思いも空しく、友達らしい友達も作れないまま、私は1人で過ごす事が多くなった。
そんな折にあの人が私のクラスに転校生としてやってきた。
「皆、静かにー!席につけー!HRを始めるぞー!」
という先生の言葉でクラスの子達は全員が席に着く。
それを確認した先生はみんなを見回しながら
「よーし、それじゃ今日はうちのクラスにやってきた転校生を紹介するぞー?森村、入って来い。」
先生の指示で教室の外にいた”森村”と呼ばれた人が入ってくると、教室中が沸きかえった。
「森村慶一です。親の都合で転校を繰り返して今日、この学校に来ました。どのくらいこの学校にいられるかは分かりませんが、その間、仲良くしてください。」
その自己紹介に女子からは黄色い声が、男子からはブーイングが飛び交っていた。
私もまた、物珍しさで森村君の事を見ていたのだけど、ふいに森村君と目があってしまい、私は慌てて視線をそらした。
その時、視線をそらす私を見て、森村君が微笑んでいた事に気付かなかったのだが。
その後は森村君はクラスの皆からの質問攻めにあっていた。
照れながらも皆からの質問に答えていく森村君の姿を横目で見ながらも、私はあの中に入れない自分を恨めしく思っていた。
それから数日してクラス内も転校生が珍しくなくなってきた頃、私はまた、皆の会話の中に入ろうと頑張っていた。
「・・・なんだよねー。それでさ・・・」
「いや、あのシーンはあれでいいんじゃないかな?」
「お前らわかってないなー。あれは・・・って事だろ?」
そして私も
「でも、あのキャラは私好きだねー。だって、すごく上手く出来てるよね。やっぱりあそこであのキャラがいたらさー・・・」
そんな風に会話に飛び込む私だったが、みんなはそんな私を見て
「・・・ごめん、泉さん。そこまではちょっと・・・」
「私は泉さんみたいに詳しくないから・・・ごめんね?」
「あーあ、また泉の濃い話が始まったよ。俺達はお前ほど詳しくもないから、もっと話の分かる奴と話せよ。みんな、いこーぜ?」
そして、みんながまた、私の前から去っていく。
もう、何度目か分からないこの光景にももう慣れてしまったと思っていたけど、やっぱり寂しくて私は1人、席に戻ってこっそりと泣いていた。
そんな私を困惑顔で見つめる森村君の事ですら、寂しさに打ちのめされている私には気付く余裕もなかった。
そんな事が何度かあったある日、またもみんなから疎まれて私は打ちひしがれながら席に戻って落ち込んでいたのだが、そんな私に声をかける人がいた。
そう、それが、森村君だったのだ。
「えーっと・・・泉さん、だったよね?さっき話を聞いてたんだけどさ・・・・・・の事、俺にも教えてくれないかな?」
突然に声をかけられた事に驚く私だったけど、それ以上にこんな私に声をかけてくれる森村君の事に驚いて私はおどおどと彼を見ていたのだけど、再度同じように話し掛けられた私は、おそるおそる森村君が聞いた事に答えていた。
「え、えーっと、あれはね・・・という事なんだよ?」
そう答えると森村君はにっこりと笑って
「へえー?そうなんだ。泉さん結構詳しいんだね。ねえ、また今度色々聞かせてもらってもいいかな?」
そんな風に言ってくれる森村君に私は
「え?で、でも、私の話なんて、人より濃いし、面白くないんじゃないかな?」
そんな風に言う私に森村君はそんな私の言葉を否定するように首を振って
「そんな事ないよ。俺の知らない事を知ってる泉さんがすごいな、って思ったし。それに俺もそういうものにも興味あるしさ。」
そう言ってくれる森村君の言葉が嬉しくて私は
「ほ、ほんと?じゃじゃあさ・・・・・・」
思わず嬉しさの余りに今まで溜め込んでいた気持をぶつけるように森村君に話しをしまくってしまっていた。
ふと我に帰って気付いた時に(あ、や、やっちゃった・・・また、引かれるよね・・・)
冷静になってその事を考えた時に物凄く落ち込んだ気持になったのだが、森村君は私の回りにいた人とは少し違っていたのだ。
「どうしたの?泉さん。何だか落ち込んだような顔してさ?」
そんな風に聞いてくる森村君に私は泣きそうな顔を向けながら
「ごめん・・・森村君。つい調子に乗って色んな事話しちゃった・・・こんな子は嫌だよね?ほんとごめんね・・・」
その言葉を言い終わると同時に私は抑えきれなくなって泣き出したのだった。
そんな私を見て困ったような顔でしばらく泣いている私をみておろおろとしている森村君だったけどやがて
「泣かないでよ、泉さん。君の話、全然嫌じゃなかったよ。むしろ、楽しかった。泉さんさえよければだけど、また聞かせてくれないかな?俺の知らない事、色々教えて欲しいんだ。」
私は泣きながらそんな風に言ってくれる森村君に驚いて泣き顔のまま彼を見た。
そんな私を見る彼は私を泣き止ませようと、私の涙を吹き飛ばすような笑顔で私に頷いて見せてくれたのだった。
そんな彼の顔を見た私は、今度は悲しみではなく、嬉しさの余りに泣き出したのだった。
そして、更におろおろする森村君が何だかおかしくて、気付いたら私は泣きながら笑っていた。
それから、私は彼と一緒に遊んだり話したりする事が多くなった。
彼は事あるごとに私につきあってくれたし、私もそんな彼に私の出来る事で応えていった。
時には料理の腕を披露したり、時には彼の行く所に付き合ってみたり、そして彼もまた私の行きたい所に付き合ってくれたし、遊んでもくれたりした。
そのうちに私は彼の事を”けーくん”と呼ぶようになり、彼も私を”こなた”と名前で呼んでくれるようになった。
自分でも気づかないうちに私は彼に惹かれ始めていた。
ある時、将来の夢というのを考えるHRがあった。
その時に一通り、自分達の考える将来の夢を発表していったのだけど、私は自分の好きな事が出来たらいいかな?と思い、その事を発表したのだけど、けーくんは周りのみんなもギョッとするような事を言っていた。
「自分の将来の夢は魔法使いになる事です。」
それを聞いた時、その時の私には彼の言う魔法使いという言葉の意味がわからなかった。
と、同時に周りからも彼のいう事を笑う人達が出たが、彼は周りに笑われても、その事をものともしないようで、逆に自信にも満ちた顔で前を見ているけーくんが逆にかっこよくさえ見えたのだった。
学校の帰り道に私はけーくんにさっきのHRで言った事の意味を聞いてみたくなったので訪ねてみた。
「ねえ、けーくん。さっきはどうしてあんな事言ったの?」
私の問いかけにけーくんは
「んー?魔法使いになりたい、ってやつか?」
その言葉に私が頷くと、けーくんは照れながら
「・・・誰かをさ、傷ついたり、落ち込んだりしてる人を笑顔にできる事って魔法みたいだと思わないか?自分の親しい人や友達、好きな人、そんな人達を笑顔に変える。俺はそんな魔法がかけられる人間になりたいんだ。もちろん、こなたの言った目標も、みんなの夢も間違いじゃない。それも大事な事だってのもわかってる。でも、これから先、生きていく上でいつでも暗い顔のままじゃ何をするにも上手くは行かないんじゃないかなと思うんだ。でも、明るい笑顔、楽しそうな顔があれば、元気があれば何だって出来る、そんな気にならないか?だから俺はそんな事への手助けができるような人間になりたいんだよ。」
けーくんは笑いながら私にそう話してくれた。
そんなけーくんの笑顔を見て、そして、けーくんの夢を聞いて、私は胸が熱くなるのを感じていた。
「けーくんなら出来るよ。だって、私に笑顔をくれたもんね。」
にっこりと笑いながらけーくんにそう言うと、彼は顔を赤らめて笑っていたのだった。
それからしばらくして、私達も3年生に上がり、ますます私達は日々を楽しく過ごしていた。
けれど、私達の別れは突然に訪れる事となったのだった。
夏休みを終えて、けーくんが転校してきてちょうど1年目が経つ頃に、それはやってきた。
その日、クラスでは、なにやらけーくんの事に関する噂話で持ちきりになっていたのだ。
そう、それは、けーくんがまた転校する事になる、そういう内容のものだった。
私は、噂を話しているクラスメートの1人に
「ね、ねえ、今の噂の事なんだけどさ、本当なの?けー・・・森村君が転校する、って・・・」
そう訪ねると、その子は
「なんかね、森村君とそのお父さんらしい人が職員室で担任の先生と話しているのを見た人がいるんだって。その時に偶然にも話し声の1部も聞こえたみたいで、その内容の中に転校、って言葉がでてきたらしいよ?」
私はその子の言葉にショックを隠せない状態ではあったものの、噂を教えてくれた子に礼を言うと、自分の席に戻った。
そして、ここ最近のけーくんが何だか元気がないように見えていた事が気がかりだったのだけど、今日の話でその事が原因だったのかも、と思う私だった。
でも、私は、それを聞くのが怖くて、彼と話している時もその話題を出す事をしなかった。
たぶん私は怖かったんだろうと思う。
彼の口からそれを聞いたら、私はまた、一人ぼっちに逆戻りするんじゃないだろうか?という怖さがあった。
今の私はけーくんが居てくれるおかげでみんなとも上手くやっていけるようになったものだから、いざけーくんがいなくなった時の不安はかなり大きいものだった。
そして、そのことを聞けないままに、ついにけーくんが私にお別れを言う日が来た。
それから数日後、私は彼に呼び出された。
そして、彼と向き合う私は彼に
「君に言われた通りに来たよ。ねえ、私に話したい事って何?」
そう言って私はその彼に、私を呼び出した理由について訪ねる。
でも、私は何となく分かっていた。
それは、私がずっと認めたくないと思っていた事、聞きたくても聞けなかった事だと悟ったからだ。
そして、その人はそんな私の声に悲しそうな顔を向けて
「来てくれてありがとう、こなた。お前に、どうしても話したい事があるんだ。」
彼は決意を秘めた目で私を見ながらそう切り出す。
そして、一呼吸置いた後、話を続けたのだった。
「俺さ、もうすぐ引っ越すんだ。両親の都合で、この中学を卒業するまでは学校にいられない。それに、お前とこうやって話す事ももう何度もできない。けど、お前にだけは何も言わずに別れる事が出来なくてさ・・・だから、お前にちゃんと言っておきたかったんだ。俺は、お前が・・・好きだ・・・お前が俺をどう思ってくれているのかは分からないけど、けど、これが、俺の素直な気持ちだ。」
そんな彼の突然の告白に戸惑いつつ、そして、私の予想通りに、別れが来た事を悲しみつつ、そんな事で頭の中を混乱させながら
「わ、私は・・・その、えっと・・・」
彼の言葉にどう答えるべきか悩んでしまい、なんともはっきりしない物言いとなってしまっていたが、そんな私に彼は星の形のアクセサリーのついた携帯ストラップを私の手に握らせて
「すぐに俺の言葉に答えることが出来ないお前の気持はわかる。それに、いきなりこんな物を渡されて混乱もしてるよな・・・だから、答えはすぐには聞かない。でも、もし、少しでも俺の事を気にかけてくれるのなら、今渡したこれを大事に持っていて欲しいんだ。」
そう言う彼を見て、私は手の中にあるストラップを、彼からの最初で最後の贈り物を握り締めた。
私はこんな物は欲しくなかった。
こんな物より、何よりも、彼が私の側にいてくれる事、それが一番大事な事だったのだ。
その事に、今更ながら気付いた私だったが、突然いなくなろうとしている彼が許せない気持になり
「・・・ずるいよね・・・そんな事になったのに私に一言の相談もなしでさ、それでいて自分の気持ちを一方的にぶつけて、さらにはこんな贈り物だもんね・・・でも、私は、私の欲しい物はこんな物じゃないよ?君にならそれがわかってもらえると思ってた・・・勝手だよ・・・私の気持はどうなるのさ・・・」
そんな私の言葉に彼は複雑な表情で
「勝手で悪い、って思ってる。でも、俺にはこうするしかもう、お前への気持を伝えられないから・・・ごめん・・・こなた・・・最後に、また勝手だけど、お前の気持ちを聞かないままだけど・・・俺の事、少しでも思ってくれるのなら・・・そのストラップを大事に持っていて欲しい・・・今は俺にもどうしようもないけど・・・そのストラップが俺とお前をつなぐ、唯一の物だから・・・それがきっと、俺とお前をもう1度引き合わせるための、魔法のアイテムになるはずだから・・・だから・・・持っていてくれ・・・話は、それだけだ・・・こなた・・・俺はさよならは言わないよ。だから・・・またな?」
そう言ってまたしても一方的に自分の思いと贈り物を私に託して、彼は涙で濡れる顔を見られないように踵を返してその場から立ち去った。
そんな彼を見た時、私の中で育っていた気持が今、はっきりとわかったのだった。
けれど、その気持に気付くのが遅すぎた。
その時にはもう、彼は私の前からいなくなっていたのだから・・・・・・。
そして私は、彼からもらったストラップと共に、その気持を封印した。
私自身、そうしなければ彼と別れた悲しみに耐えられなかったんだと思う。
そして、高校2年の今頃になるまでの間、その気持を忘れて新しく出来た友達と楽しくやっていたけれど、今日、昔の夢を見て、そして、かがみたちと話している時に、あの頃の気持を思い出した。
・・・・・・・って訳なんだよね。」
私がかがみ達に過去のことを話し終えると、それぞれ複雑な表情で
「・・・そっか、それってあんたの初恋でもあったって事なのね。」
「こなちゃん、かわいそう・・・」
「泉さんは今でも、森村さんの事を思っていらっしゃるんですか?」
そんな3人に私は
「いやー、これが初恋って訳じゃないよ?かがみ。彼は2回目の恋だったしね。私の初恋は、小学生の頃に若くて優しい学校の先生がいてさ、それが最初だったからね。それと、つかさ。私はかわいそうって訳じゃないからさ。でもありがとね?みゆきさん。私は昨晩、彼の夢を見たんだよ。そして、改めて思った。私はまだ、彼に対しての思いがあるんだな、ってさ。」
そして私は自分の鞄を机の上に出して
「ほら、これ。これが彼に貰った星の形の携帯ストラップなんだ。昨晩の夢を見てさ、何だか妙な予感を感じて再び鞄につけて見たくなったんだよね。」
鞄についたストラップを見ながら、3人は
「これが、森村君が別れ際にあんたにあげたやつなのね?」
「かわいい形してるね~。」
「星、ですか。泉さんのイメージにも合いそうな感じですね。」
その言葉に私も頷いて
「うん。あの時からまともにこれを見れなかったから気付かなかったけどさ、改めて見てみると、かがみたちの言う通りだな、って思えたよ。私も、いつまでも過去から目を背けてちゃいけないのかもね。」
また少し、落ち込むような顔を見せる私に3人は
「改めて向き合えたんならいいじゃない。それに、今は私たちがあんたの友達なのよ?だから、森村君の分まであんたと仲良くやってやるわよ。」
「こなちゃんは一人じゃないよ?わたしたちが一緒にいるもん。」
「私達はこれからも泉さんのお友達ですからね。」
そんな3人に私は嬉しさと気恥ずかしさがないまぜになったような気持になったけど、私は私なりに3人にお礼を言うのだった。
「やれやれ、かがみん達がそう言ってくれるんじゃ、私も応えないわけには行かないねー。でも、ありがとう、3人とも。」
そう言う私に3人とも笑って頷いてくれたのだった。
けれど、私は気付いていなかった。
運命の再会はすぐ近くに迫っていた事を。
それは、次の日の朝のHRで実現する事となったのだった。
「おまえら、席つけー。HR始めるからなー。」
教室に入ってきた黒井先生の声がかかると、皆一斉に席に戻る。
それを確認した先生は
「あー、噂を知ってる者もいるかと思うが、今日からうちのクラスに転校生が来る事になった。それじゃはいってきいや。」
そう促すと同時に、私は
(あれ?転校生?そんな噂知らなかったよ。でも、誰がやってくるんだろう?でも・・・なんでドキドキしてるのかな?こんな事、あの時以来だよね・・・まあ、見ていればわかるかな?)
そう心の中で考えつつ、教室の入り口を凝視する私だった。
そして、教室のドアが開いて転校生が中に入ってくる。
ゆっくりとした足取りで入ってくる”彼”の姿を見て、私はただただ驚いていた。
そう、転校生は・・・・・・彼だった。
「ほな、皆に挨拶せえや。」
転校生に黒井先生がそう促すと、彼はコクリと頷いて黒板に自分の名前を書いて
「森村慶一です。このたび、このクラスでお世話になる事になりました。両親の都合で転校を繰り返していた身ではありますが、今後は転校する事もなく、卒業までこの学校にいられる事になりました。残り1年半ですが、よろしくお願いします。」
その自己紹介と共に、女子からは黄色い声援が、男子からはブーイングが飛んでいた。
その光景は、あの日私のいた中学に転校してきた彼を見た時と一緒だった。
私はその頃の事を思い出し、そして、未だに目の前にいる人が彼なのだという事が信じられずにぼーっと彼を見ていた。
その後、休み時間となり、彼はあの時同様、クラスメートに質問攻めにあっていた。
その光景を見つつ、隣のクラスから転校生を見に来たかがみと、私を心配して来てくれたつかさとみゆきさんが
「ねえ、あんたのクラスにやってきた転校生ってあの人の事?」
「森村くんって言ってたよね?確かこなちゃんから聞いたお話に出てきた人も森村くんって言ってたよね?」
「ひょっとして泉さん、あの人、なんですか?」
私はそんな3人に
「う、うん・・・間違いないと思う・・・名前も一緒だし、困ったような笑顔も一緒だった・・・。」
そんな風に言う私にかがみは
「え!?それじゃ、運命の再会って事じゃないの?いいの?こなた、彼に声かけに行かなくて。」
そのかがみの言葉に私は複雑な表情で
「そ、そうだね・・・でも、どうしよう・・・私は彼の事覚えているけれど・・・彼がもし、私の事を忘れてしまってたら・・・そう思うと怖いよ・・・」
そんな私の言葉にかがみは呆れながら
「普段あんなにフラグがどうとか、ギャルゲならどうとか言ってる奴の台詞とは思えないわね?普段のあんたらしく、どーんとぶつかってくればいいじゃない?」
その言葉に私は慌てながら
「そ、それが出来るなら、苦労はしないよー・・・はあ・・・」
そう言いながらため息をつく私につかさとみゆきさんも苦笑を浮かべていた。
そんな私達の側に何時の間にかやって来ていた彼に気付かなかった私達は突然声をかけられて驚くのだった。
「ちょっといいかな?えっと・・・久しぶり、こなた。俺の事覚えてるか?」
その言葉にはじかれたように彼のほうを見つめる私と驚くかがみたち。
そして、私は彼を見ながら
「・・・うん、覚えてるよ・・・久しぶりだね。けーくん・・・」
涙が出そうになるのを必死にこらえながら私は彼に応える。
彼はそんな私を見てあの時と同じ優しい微笑みを向けながら
「よかった、あの時と変わってない。すぐにわかったよ。それに、いい笑顔できるようになったよな。」
その言葉に私は
「けーくんは・・・変わったね・・・あの時よりもかっこよくなったよ?」
そんな私の答えに顔を赤くして照れるけーくん。
けーくんは気を取り直すと、私に
「こなた、あれ、まだ持ってるか?」
そう確認をしてきたけーくんの言葉に頷いて、私は鞄を取り出してそこにつけてあるストラップを見せる。
「ほら、ちゃんと付いてるよ?君から貰った大事な物だからね。」
けーくんは私の鞄についているストラップを懐かしそうに触りながら1つ頷くと
「そっか、よかった・・・こなた、これ。」
そう言いながらけーくんは自分のポケットの中から携帯を取り出すと、そこに付いているストラップを私に見せた。
「あ、それって、私のと同じ・・・」
それを見て驚いてそう言う私のその言葉にけーくんは頷いて
「あの時お前にそのストラップを渡して、そして俺も、お前を忘れないように、お前と繋がっていられるように、俺の携帯にも同じストラップをつけたんだ。この星に願えば、お前ともう一度再会できる、その事を信じてさ。そして、お前の居場所を探した。お前の行ってる学校に俺も行きたいと思ったから。そして、お前のいる学校を見つけた俺は、この学校への転入試験を受けたんだ。俺ももう、両親に振り回されずに生活できるようにもなったしな。もう一度お前の側にいる為に一人暮らしもはじめた。今度は最後まで居たいと思ったからさ。」
そして、けーくんは1つ深呼吸をすると、私に
「俺は今でもお前の事が好きだ。こなた、お前はどうだ?あの時聞けなかったお前の答えを俺に聞かせて欲しい。」
真剣な表情で言うけーくんを見て、私はあの時の気持が蘇ってくるのを感じていた。
そして、他のみんなも気付けば固唾を飲んでこの状況を見守っていたが、私はそんな事にはお構いなしに自分の本心をその場で彼にぶつけた。
「私も・・・私もだよ?けーくん・・・初めて私に声をかけてくれたあの時から私はけーくんが・・・けーくんの事が好きになってたよ?けーくんと別れるあの時にはっきりと気付いたけど、でもその気持は前からのものだったって思えたんだよ。」
そして、私の告白を聞いたけーくんは私をそっと抱きしめてくれて
「ありがとう、こなた。こなた、俺帰ってきたよ?お前に笑顔の魔法を再びかけるために、お前と会うために。俺はこれからもお前の魔法使いで居たい。お前の側でお前に笑顔を与えつづけたい、いいかな?こなた。」
そんなけーくんの気持が嬉しくて私は嬉し涙を流しながら
「うん、うん。けーくん、私のためにこれからも私の魔法使いでいてよ。私の側にいつづけてよ。もう2度と君と離れたくないから、大好きだよ?けーくん。」
そう言ったのだった。
それと同時に湧き上がる歓声、私達は今、この場において再会を果たし、そして皆に祝福される事となった。
あの後私達の事は学校中の噂になり、かがみたちにも散々にからかわれもしたけど、それでもそんなものすらものともしないほどに嬉しかった。
こうして、私の魔法使いは私の元へと帰って来てくれたのだった。