<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.20458の一覧
[0] キツク茹でろおおおおおおぉぉ!!(和訳したらコレだよ) 【サイエンス・ファンタジー・?=SF?モノ】[シンシ](2011/09/13 23:45)
[1] プロローグ  出会い 【大幅改訂】[シンシ](2011/09/15 23:56)
[2] 第一話    来客[シンシ](2011/02/16 00:13)
[3] 第二話    忌むべき訪問者達 前編[シンシ](2010/09/07 23:45)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20458] 第二話    忌むべき訪問者達 前編
Name: シンシ◆148261f6 ID:05636c94 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/07 23:45
夕暮れ。即ち、逢魔ヶ刻にして大禍時。
駅前の慌しい人の流れが途絶えた空白の時間帯。

「ねえ、そこのオ客さん」

そんな時、間延びした声がした。

――――――やっぱり、ただの都市伝説だったんだろうか。
それは駅の傍にあるショッピングモールへと入ろうとしていた女性が、絶望していた処でもあった。

「目に隈ができてて、オ化けみたいに顔色が悪くて黒いワンピースを着たオ姉さんだよ」
声変わりしていないような綺麗な高音だった。 発音はともかくとして。 

其の言葉に思う処があったのか、怪訝な顔をした女性は立ち止まって辺りを見回した。
すると、彼女の直ぐ後ろに学生服を着た少年が立っていた。


――――――ピエロみたい。

左頬は心の底から愉快そうな笑み、右頬は能面のような無表情。
顔面の左右で表情が違う奇妙な少年を見ていたら、失礼とは思いながらも彼女=ベルマ・ホケラッタはそんな感想を抱いた。

「私ですか?」
  
「そうそう、君だよ君」

少年の失礼な言い草を気にすることも無くベルマが聞き返すと、奇怪な表情をした少年は頷きながら彼女へ歩み寄る。

良く見れば少年は可愛らしい顔立ちをしていた。 
二重瞼の円らな瞳。スラリと伸びた鼻筋。小さな桜色の唇。寝癖混じりの短い黒髪。
小さな顔に乗せられたソレ等は、髭一つ生えていない顎のラインに助長されて猫科の小動物のような雰囲気を出している。
 
そんな感じの少年に見つめられて、ベルマは勿体ないなあと心中で呟いた。
表情さえまともだったら、誰からも怯えられずに済むであろうに。

ベルマがそんな“ややズレた観察”をしている間に、少年は左手に持ったトランプサイズの用紙が目に入る距離―――つまりは彼女の鼻先―――で立ち止まり、更に言葉を投げかける。

「 なんか困った事とか有る? タダで聞いてあげろってさ。 タダでだよタダで。
オ偉いさんから頼まれたんだ。凄いでしょ?
あっ、オ客さんはベルマ・ホケラッタって名前でザッツライト?」

何処か嬉しそうに弾んだ声と共に彼女に見せ付けたソレは何かの証明書のようだった。 
ベルマの顔写真付で簡単なプロフィールが書かれている。 
恐らくは彼女が【オレノ国】での入国審査時に提出したモノであろう。

どう贔屓目に見ても役所勤めには見えない少年が何故そんなものを持っているのか、

「そうです!ベルマ・ホケラッタです!あります!凄く困っているんです!!貴方は誰ですか?助けて欲しいんです!!」

そんな事を深くも考えもせずに、ベルマは文法も呂律も考えずに、勢い込んで言葉を返した。 

彼女に迫っている少年は真っ赤に染まっているというのに。

とは言っても、少年が赤い肌をしているとかそう云う突飛な話をしている訳ではない。
返り血を浴び、全身が紅く染められているだけだ。そう、少年の全身からは血の雨に打たれたかのように赤い水が滴っていた。

少年の黒髪は水の重みで寝癖の一部を抑え付けられ、少年の半笑いは赤く彩られ狂気を浮き彫りにし、少年のカッターシャツは水分をたっぷりと含み肌に張り付いている。
色白な肌や、真っ黒である長ズボンですら目立ってしまう程の大量の鮮血。
それに飾られただけで日常から逸脱できるのだから血化粧というのは本当に不可思議なモノだ。
誰しもにも平等に流れるものを浴びただけだというのに。

少年の全身を汚す鮮血は乾いてすらおらず、落ちる血の雫が少年が通ってきた道のりを赤く汚している。――――――辿っていけば、被害者の末路が判るかもしれない。

少年の革靴から鳴った水が跳ねる音がベルマの鼓膜を震わせた。少年が纏うむせ返るような血の匂いがベルマの鼻腔を襲来した。少年の左手の指先から血が滴り、ベルマの顔写真を赤く滲ませた。

けれど、前述したようにベルマは怯える処か歓喜の表情で少年を見つめ言葉を返した、探し物を見つけたかのような嬉しそうな表情で。
真に追い詰められた者が求めるのは、聖書ではなく凶器だ。 己を脅かす災厄を殺せる強大な狂気だ。
もしかすると、この少年なら“アイツ”に勝てるかもしれない。
そうだ、此処は“ジン街”なのだ。 機神ですら侵略できなかったと伝えられる禁忌中の禁忌の街だ。
ならば、やはり“アイツ”に対抗出来る者が居てもおかしくは無い筈だ。
彼女が世界中から忌避されている“ジン街”へと足を運んだのは概ねそう云う思考回路が原因だった。

少年は希望に満ち溢れた熱視腺を、祈りのような切願が篭められた言葉を受け、

「へえ、あっそ。 じゃあコレあげる」

如何でも良さそうな声で遮った。そして持っていた用紙を裏返してベルマに手渡した。

反射的に受け取ったソレを見て、ベルマは小首を傾げた。
手渡された名刺のように硬いソレには濃いインクで五行分の文章が書かれているのだが、彼女には読めなかったようだ。
無理も無い。 彼女は止むを得ない事態に見舞われた為、大急ぎで【オレノ国】へと渡ってきたが、本来ならば絶対に避けるべき国の標準言語など解読出来る筈が無い。
会話は耳と喉元に付けた翻訳機が如何にかしてくれるが、流石に文字までは対象外なのだ。


「……なんですかコレは?」

「知らないよ。 じゃあバイバイ」

少年は平然と言い切って、彼女に背中を向けた。 足は動いているから、もう彼女への関心は無くなったのだろう。













「…………へっ? あっ! あっあの、ちょっと待ってくださいよ! 話を聞いてくれるんじゃなかったんですか!?」

ベルマは余りにも自由すぎる少年の振る舞いに言葉を失っていたが、やがて自分が渡来してきた目的を思い出すと慌てて少年の背を追い縋った。

「ん? まだ言いたい事、有ったの?」

そして彼女は、律儀に振り向いた少年を横殴りに襲う“黒い鉄槌”を見た。


「あっ……」

思わずベルマの口から漏れた言葉は意味を持たなかった。

プチッ! 
現実で生じた轟音に混じり、彼女の脳内では昆虫が潰れるような嫌な擬音が鳴った。 
何の前触れもなく突如出現した“ソレ”は少年の上半身を覆いつくし、
数十キログラムは有る筈の少年を軽々と浮かせ、少年を挟んだままショッピングモールの壁面へと激突した。その衝撃波で、周囲の建築物のショーウインドウが割れた。
サンドイッチという奴だ。挟まれた具材は少年、挟むパンは鉄槌と白壁。 最も、白壁に関しては瞬時に砕かれてしまったが。 
鉄槌の面積よりも遥かに大きな空洞からはパラパラと降り注ぐ粉末に混じり、買い物籠を持った主婦達の驚いた顔が覗いていた。
レジに座っていた店員も驚愕して停まった。其の眉間にライフル銃を突きつけていた覆面強盗達も驚いた顔をした。パン、と乾いた音がした。指に力が入りすぎていたようだ。

そんな妙に生々しい光景を他所に、惨劇に見舞われた少年は鉄槌から離れずにプラプラと地面から浮いている。 少し遅れて、少年と少年を襲った襲撃者の間から横殴りの赤い雨が生じた。 鉄槌に覆われていない少年の下半身まで遠慮なく降り掛かるソレは鮮血だった。

振り向いていた少年の顔が、どんな表情をしていたかも判らない。 あっという間の出来事だった。

圧倒的な風圧を顔面に叩きつけられながら、ベルマはぺたんと歩道に膝を着いた。 

爆撃のような轟音を聞いた人間達が周囲の道路や建物から集まりだした。 大半は野次馬だったが、中には飛散したガラスの破片が刺さった子供の為に救急車を呼んでいる年配の男性も混じっている。 その男は血相を変えた人間達に殴り飛ばされ、直ぐに行動を止めさせられたが。
「新参者が。悪魔なんぞ呼んでんじゃねえよ」と言いながら、暴行を受けている年配の男を忌々しそうに見ていた三人の若者達が血塗れの子供の治療に取り掛かる。 医学生と言っても通用しそうなくらい手馴れた様子だった。
警官は一人として居なかった、もとより存在していないのかもしれない。

ベルマはそんな周囲の騒ぎ声を気にせず、虚ろな目で惨劇を起こした襲撃者だけを見つめていた。
少年の襲った巨大な鉄槌の主を。

「ギャギャギャャギャあああやギャギャギャやギャがヤヤヤアガヤヤッガギあああやギャギャギャやギャがヤヤヤヤッガギャアアャがヤヤヤアガヤヤッガギャアアああああャャギャあああやギャギャギャやギヤアガヤヤッガギャアアがヤヤヤアガヤヤッガギあああやギャギャギャやギャがヤヤヤアガヤヤッガギャアアャがヤヤヤアガヤヤッガギャアアああああ!!」

無意味な哄笑をしながらベルマを見返しているのは“アイツ”だった。 ベルマにとっては容貌など説明したくもない、相も変わらず醜い奴だった。
孕んだ邪気を撒き散らすかのような醜悪な笑みに、ベルマは先程の自分の行動を思い返す。
―――用紙を手渡される際に少年の手に触れてしまったことを。

「……ごめんなさい」 

ベルマはポツリと謝罪の言葉を呟いた。其の目元から一筋の涙が垂れる。

「ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!ごめんなさい!!」

ソレを決壊の切欠としたのだろうか、彼女は滂沱のように零れる涙を拭こうともせずに、懺悔の言葉を叫び続ける。
ソレが少年を巻き込んでしまった罪悪感によるモノなのか、“アイツ”に対する恐怖心から生まれるモノなのか本人ですら判っていなかった。

狂ったように笑い続ける“アイツ”、壊れたように叫び続けるベルマ、そしてあることに気付いて悲鳴と共に逃げ出した野次馬達。
三者三様の絶叫が入り混じる混沌とした狂想曲が大通りを占領している中、


「不味いね、君」


やけに響く間延びした声がした。 黒い鉄槌がある場所から発生した声だった。


「ギャああアアアアアアアアアアアアアアアアギャがギャギャがっやああぎゃぎゃぎががっやあ!?」

次いで悲鳴。 耳を劈くような悲鳴に当てられて、数人の男性が失神した。 新参者であろうソレをランドセルを背負った少年達が引き摺って逃れようとする。
ショッピングモールで強盗をしていた男達が人質を放って裏口から逃げ出した。 其の背を追うように店員や客達も逃げ始める。 主婦の一人がこっそりと商品を万引きした事に店員達は気付いていないようだった。


気付いたら“アイツ”は消えていた。 あるいは最初から存在していなかったのかもしれない。白昼夢だったという線も有り得る。 
大量の血液と巨大な破壊痕と、ソレによって生じた二次災害さえなければ、そう思わす程度には唐突な退場の仕方だった。


黒い鉄槌が消え、ふわりとアスファルトの上に着地したのは、先程の少年だった。
其の口はモグモグとナニカを食べているように動いていた。 
その様子を見てベルマは鮮血を噴出したのは“アイツ”だったのかもしれないと、本能で正解を感じ取っていた。
――――――この時、野次馬達が逃げ出した原因が血塗れのカッターシャツを着ていた少年を目撃したせいだったとベルマが気付くまでに三日程掛かった。

「アレ? 消えちゃった。 不味いとか言ったから怒っちゃったのかな」

感想はソレだけだったらしい。
“常人なら”絶対死の災厄に見舞われたばかりだというのに、少年は半笑いを浮かべたままだった。 

ベルマは唖然とした。

「あっ、そうそう。 良かったら、オ店に来てよ。 
其処に看板があるからソレを辿っていけば、着けると思うからさ」

少年は既に行進を再開していたが、途中で何かを思い出したかのように、左手の人差し指を左方に突き出した。

そして今度こそ、少年は立ち去った。 異常なまでに緩やかな足取りだった。







少年という形をした悪夢が立ち去って十秒程度が経過したであろうか。
再び静けさを取り戻した大通りに独り残されたベルマは、呆然としながらも立ち上がって、少年が指していた路地裏を見た。
――――――其の途中で“アイツ”が零した鮮血が消え去った事にベルマは、とうとう気付けなかった。


ショッピングモールとコンビ二で挟まれた狭い路地の行き止まり――といってもコンクリートで出来た壁の中央には巨大な穴が開いているが――に設置された、立て札を見た。


『 【警告】 この先に進むべからず。 【有差別引き裂き魔 少年B】が出没する超危険地帯です』

今度はベルマも意味を理解できた。
なぜなら警告文の下には、言語を変えて同じ意味を持つ文章が備え付けられていたからだ。
アルファベット、漢文、ハングル文字と上から続き、数えて五番目に彼女の母国語の文字が書かれている。
かなりマイナーの部類に入る彼女の母国語すら案内に含まれて居る事から、この警告文の重要度が良く理解できた。
それ以前に、狂人も悪人も魔人も関係なく受け入れる“ジン街”が危険区域に指定する空間。 
そんな領域が常人が住める領域でないのは判り切った事ではあるが。


ゴクリ。
“ジン街”の洗礼を受けて固まっていたベルマは、自分が唾を飲み込む音を感じて意識を取り戻したようだ。

多分、先程の少年が引き裂いたのであろう行き止まりに出来た大穴。
ソレから覗く繁華街を見て、覚悟を決め終えたベルマは警告を無視し、“ジン街”の住人ですら恐れる中心部へと足を運んだ。

全身が震えているが、仕方あるまい。 彼女は呪われただけの一般人なのだから。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.021638154983521