<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.20458の一覧
[0] キツク茹でろおおおおおおぉぉ!!(和訳したらコレだよ) 【サイエンス・ファンタジー・?=SF?モノ】[シンシ](2011/09/13 23:45)
[1] プロローグ  出会い 【大幅改訂】[シンシ](2011/09/15 23:56)
[2] 第一話    来客[シンシ](2011/02/16 00:13)
[3] 第二話    忌むべき訪問者達 前編[シンシ](2010/09/07 23:45)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20458] キツク茹でろおおおおおおぉぉ!!(和訳したらコレだよ) 【サイエンス・ファンタジー・?=SF?モノ】
Name: シンシ◆777c7338 ID:b2fa2aea 次を表示する
Date: 2011/09/13 23:45
“ あたしのくに こくみん ぼしゅうちゅうなの みんな きてね~ by 二代目国王 火途野 彩摩智ちゃん”

 【オレノ国】。 そう名付けられた極東の島国は、そんな手書きのチラシを全世界に堂々と配布していた。
この国家概念を脅かす過激な挑発行為に対し、“第三次世界大戦”の残滓によって緊迫している世界諸国は黙殺を決め込んだ。
大国であれ、軍国家であれ、独裁国家であれ、善悪も賢愚も問わず、各国の首脳陣達は不干渉のスタンスを変えようとしない。
大儀と云う引き金に飢えた国長達の食指が留まる理由は、【オレノ国】には“ジン街”があるという噂のみ。 ただソレだけで誰もが納得してしまう。


これは、そんな“ジン街”が産んだ御伽噺。






―――寝静まった街を叩き起こすのは、白銀の軍隊と灰色の魔獣が織り成す赤い宴。


市街の中心部なのに何故か無人となっている不思議な繁華街。 其処では今夜も雄叫びと爆音と弾薬が飛び交っていた。

爆炎を撒き散らす主賓は九つの機甲兵。
 身に纏うは最新という枕詞が的確であろうメタリックなパワードスーツ【銀鎧】。
 巌の如く逞しい鋼の豪腕が掲げるは口径六十ミリを越える巨大な砲銃。 本来ならば設置式であるソレを易々と振り回させるのは、
 装甲内部に根深く張り巡らされた難解で膨大な電子回路と人造筋肉のパワーアシスト。
月光を跳ね返す背面装甲に刻まれた鳳凰のエンブレムが部隊の錬度と矜持を示している。

迎え撃つ来賓は一人。否、一匹と呼ぶべき人狼。
 迷彩柄の長ズボンのみを履いた野生的な姿。その為に武器は一目で分かる。全長三メートルを越す肉体全てだ。
 自前の毛皮を纏う凶悪に肥大化した筋肉。子供の頭程もある拳。金属光沢を持つ鋭利な爪。肉食竜を思わす巨大な口腔に生えた牙の群れ。
獰猛なイヌ科の笑みを浮かべ、羆のような巨体が縦横無尽に跳ね回る様は暴威に溢れている。

最新兵器と天然兇器。
互いを否定し狩り合う真逆の殺戮者達。 

響き渡る爆音。閃き穿つ爪牙。
両者が繰り広げる死闘に生存者はその数を減らしていく。
故に戦況は容易に分かるであろう。 軍隊の敵は一匹しか居ないのだから。


―――獣は撥ねて、刎ねて、跳ね回る。


隊長格であろう唯一赤い兵士が巨獣に撥ね飛ばされた。
ソプラノの悲鳴を出した【銀鎧】の頭部が中身ごと刎ね飛ばされた。
装甲に幾つもの傷を刻んだ兵士が砲撃する。 人狼は飛び跳ねて弾幕を回避した。


数えるにして八人と十秒。何も出来ぬまま葬られていく仲間達。
共に笑い、共に泣き、共に戦った彼等の無情な最期を見て、最後の生き残りとなった若者グロックン・サンッチは叫ばずにはいられなかった。

「クゥソッッたれがアアアアアアアアアァァ!!」

狂騒する爆音。乱舞する爆炎と粉塵。
激昂の乱れ撃ちによって深夜の街に憤怒が顕在したかのような紅蓮が狂い咲く。

けれど、憎悪と殺意の贄は建物ばかり。 嵐の勢いで跳ね回る巨大な的には掠りもしない。

------脳基移植された AIの補助、思念式発射機構により可能となったThink&Fire
------二酸化炭素と熱量、生命体の発する微弱な反応を捕らえた精密狙撃
------目標到達時間を大幅に削減した多段加速式の豪速砲弾
------実質的に再装填速度を無にした超高速連射

底知れぬ悪意によって産声を上げた殺戮の兵器達。
その筆頭を担いし討魔の砲弾が、ただ怨敵の雄姿を照らす花火へと成り果てている。


だがソレが当然である事を若者は理解していた。


経験をラジエータとして急速冷却される思考は月夜を駆ける灰獣の称号を思い返す。

―――A級害悪指定魔獣【独狗】

世界有数の軍国主義である彼の祖国を恐怖の渦に陥れた魔獣に、この程度の砲撃が命中する筈が無い。
けれど、そうと知りつつも若者は手を動かさねば気が済まなかった。

そして、

――ガッ!

「えっ?」

白銀の兵士は間抜けな呟きを漏らして静止した。 
完全な放心である。論ずるまでも無く愚行である。若輩ながらも最前線を駆け抜けてきた非凡な力量を踏まえれば、不可解とまで言える。
だが、それも致し方あるまい。 ヘルム越しに若者の碧眼に映った光景は、有り得ぬ程に不可解極まりなかったのだから。


人狼の左胸に爆炎が炸裂していた。


撃った本人すら討てまいと思った足掻き。その四桁にも及ぶ足掻きの末に一発の砲弾が人狼に炸裂した。
見間違いではない。確かに灰の毛皮に覆われた分厚い胸板は業火に蝕まれていた。
付け加えるならば、命中したのは“銀の弾”。
乱世の学徒として恐れられる【狂賢】ジェイム=グリフォードの著書“怪物の条理”によって創生された討魔の砲弾(●●●●●)だ。
つまり(●●●)呆然とする若者は此の(●●●●●●●●●●)世界にも既に登録済み(●●●●●●●●●●)である“狼男の殺し方”を成し遂げていた(●●●●●●●●●●●●●●●●●●●)






正に万に一つの奇跡。 若者は目を見開いて己の原点を思い返す。


――六歳の頃、両親を魔獣に食われた。
――復讐を誓い修練を開始した。

――三年後、女に出会った。
――五月蝿い女だった。

――それから七年の月日が経ち特殊怪魔対策室に配属された。


次々と思い出される自分の歴史。


――魔獣を狩った。ただ只管に直向きに闇雲に。
――嬉しくて楽して、何故か空しかった。

――気がつけば女が泣いていた。
――意味が分からなかった。

――更に二年経つと涙の意味が理解できるようになった。


余りの鮮明さに違和を感じたが、


――女が泣き止んだ。

――女が妻になった。

――女との間に子供を授かった。


――生きる意味を知った。



爆炎を纏いながら迫り来る人狼を見て走馬灯なのだと納得した。 
獣が浮かべる嘲笑は不条理の如く醜悪であった。


------そして、


若者の思考が現実に回帰した直後に轟音が鳴り、


------半月を背負う【独狗】は迅雷の如き突進で白銀を着飾る若者を弾き飛ばした。


驚異的な速度で飛来してきた一トン近い肉塊を前に【銀鎧】即ち、
人魔闘争の象徴である四百八十三枚にも及ぶ装甲群は存在を圧殺された。


「ヒュッ!」

若者は肺に残った酸素を根こそぎ奪われ、碌な悲鳴も叫べず大通りに新たな道を作り出す。
ガードレールを砕き、点滅する街灯をへし折り、寂れた駐車場の柵をぶち抜き、
アスファルトを抉りながら進んだ若者の強制疾走は廃ビルの根元にめり込むことで漸く終わった。

「がっ!」

堅い音が響き、頭部装甲が砕けた。破片が残る隙間から青い右眼と高い鼻梁が覗いた。口と後頭部から鮮血を吐き出した。耳鳴りが五月蝿い。
脳が揺さぶられる。また吐血した。重要な臓器が幾つか破裂したようだ。痛みは無い。意識を共有する AIが痛覚遮断措置を施したのだろう。
けれども、満身創痍に変わりはない。 もう直ぐ死ぬ。


『マスターの致死量失血を確認。本機の損害率八十パーセントを越えました。戦闘継続不能。
 これよりマスターの生命を優先し、生命維持モードに移行しま……』

――― マスターコマンド【 All Betting 】。 痛覚遮断措置、強制解除。 浮いたエネルギー使って戦線に復帰しろ --―

『……マスターコマンド承認。 戦闘モードへ復旧開始。 御健闘を御祈りします マスター』

AIの無機質な鼓舞。途端、若者の全身が焼かれた。

「ッッァ!!」

駆動音と共に、打撲と骨折と破裂による熱刺激の群れが一斉に脳髄へと到達した。
ショック死が妥当であろう激痛に、涎を垂らして失禁までした。

―――無言の悲鳴。脳裏を過ぎる妻子の笑み。

「――――シャアアァ!!」

けれど、若者は右腕を動かし、【独狗】に眼光と砲口を向けた。

砲銃を掲げる彼の目はまだ死んでいない。



「む、まだ息があるか。すまんな。今楽にしてやる」

憮然とした表情で砲弾が炸裂した辺りをポリポリと掻きながら、二本足で歩く人狼が喋った。
恐ろしいことに人語を解せるようだ。

「ぐるぜべぇよ」

――クソが。条件満たしてやっても痒いだけかよ。本気でどうなってやがる。
悪態すら上手く吐けない。代わりに血を吐いた。

視界を埋め尽くす赤色で生き延びられない事は判っている。 漸く当てた切り札ですら正答でない以上、後は一方的に喰われるだけだ。
――だからと言って即座に死ぬわけじゃねえし諦める言い訳にもならねえ

左半身のコントロール権が無くなった。規格外の衝撃で駆動回路が断線したのだろう。いや、頚椎の損傷も響いているのか。
――だからどうした まだ半分もある

頭の中で鳴り響く金切り音が白旗を揚げろと訴える。
――黙ってろ

終わりたがる体のせいで銃が上手く持てない。
――だからって


背骨が折れようと臓腑が潰れようとも曲げられぬモノが腕の震えを止める。
口が裂けようとも語るべき事は握り締めた砲銃が語ってくれる。
掲げた砲口が代弁するのは殺意溢れる命令文。

襲い来る睡魔を払いのけ、眼光に闘志を込め直す。

――自分の女房とガキを食い殺されといて許せる訳がねえだろうが。

復讐者グロックン・サンッチの殺意は向かい来る人狼に凝結した。




「しかし、此処“ジン街”にすら追っ手が来るとは。 気づかれるのが予想以上に早かったな」

そんな決死の覚悟を、向けられた砲口を気にも留めず【独狗】が呟いた。
横断歩道を渡り歩く賢狼の思念が向かう先は魔族の天敵、

「商談まで十日を切ったとはいえ、此の調子では奴等が来る可能性すら否定できんぞ」

“勇者”。

脳裏に、忌々しい姿を浮かべた【独狗】は自身の任務の行く末を思う。
人狼側も高位魔人達が派遣されるから成否には問題ない。
けれど、両者の争いに巻き込まれれば・・・。

自身の胃に含まれた“箱”の重要性を噛み締めた【独狗】は思わず苦笑する。

「それにしても、この街は拍子抜けだな。【盗神】、【ハーツ・リベリオン】、【℃螺魂】。
 数々の魔大公すら“ジン街”からは帰還出来なかったと云う不敗神話は誇張に過ぎなかったようだ」

唐突に始まった人狼の独白は浮かんだ苦笑を誤魔化す為のモノだったかも知れない。
低音で奏でられるソレは手振りまで交えられており、演劇染みた迫力を有している。

「出向を言い渡された時は死をも覚悟したのだが、なんてことは無い。
 狩場を移して一週間が過ぎたが、ただの住み心地の良い歓楽街ではないか」

観想に安堵が含まれるのも無理は無い。 此の街は外界から忌避され過ぎている。
化け物と呼ばれる【独狗】ですら関わる事を恐れるぐらいには。

 世界最凶の治安を誇り年間死傷者数が小国の人口と変わりないだの
 人間は一切住んでおらず化物が闊歩する魔王の領土だの
 神により築かれた永久を冠する楽園だの
 実は存在してない架空世界だの

外との交流が無い為、根拠のない憶測が蔓延る孤独な“ジン街”。
確実な事は“現実と幻想の戦争”から逃れた唯一の街という事実だけ。

「しかし所詮は旧時代の遺物か」

自棄食いでもしようかと、八つ当たり気味に瀕死の若者へと足を運んでいる魔獣は鼻で笑いながら最後の言葉を締めくくる。

「これ程に豪勢な食事をしても誰も騒ぎ出さないとはな。 私にとっては実に棲みやすい土地柄をしている。
 まあ、化け物や“アイツ”が棲むと言うから当然と言えば当然だ……」


           「あっ、オ客君たち見ぃつけた」


 唐突に何者かの声が【独狗】の狩場に響いた。
修羅場に混ざる心算にしては気が抜ける程、間延びした声だった。

「何者だ!?そこで何をしている」
 【独狗】は瞬時に反転跳躍し、声の聞こえた方角に爪牙と咆哮を向けた。

警戒を露にする人狼の金色瞳に映ったのは白い半袖カッターシャツに黒の長ズボン。

「フーもワットもバイトだよ。近所で騒いでたから勧誘しにね」

間の抜けた名乗りと共に路地裏から出てきたのは夏場の学生といった風な日系少年。

 黒い短髪に黒い瞳。 猫を思わす東洋風の顔立ちは女人の様に整っている。 
 筋肉質ではないが手足も長い方であり、健康的な肌色をしているから女性受けは良いだろう。
 が、左右の頬を笑みと無表情に別けた半笑いとも呼ぶべき奇妙な表情が全てを台無しにしている。
 其の右手はズボンに仕舞われ、足取りは警戒を感じさせない軽快な歩み。
 黒い革靴の響きに合わせて“ぶらぶら”と揺れる左手は腕時計すら填めていない。

「ん?もしかしてワンコ君、昨日の夜に大きくて汚い酒場の外でオ食事しなかった? 確か五人家族だったと思うけど」

「…………ハッ、ただの人間か」

アクセントのおかしい口調に呆けたが、少年が“称号”を持っておらず
無手である事に気付くと、【独狗】は警戒を解いて口角を吊り上げた。 また一人餌が増えたと。
―――話しかけられる寸前まで気配に気づかなかった事も忘れて。


異形の笑みに何を感じたか、怪物にも見劣らない半笑いを返しながら少年は喋り続ける。
壁にめり込んだ若者は逃げろと叫びたかったようだが、声に力が入らない。

「折角、オ店の近くまで来たのなら入れば良かったのに。まあいいけどさ、オ行儀良く食べましょうよ。
 烏とか猫が集まって鬱陶しかったんだから。でも、営業妨害されたのにオ客君は減らなかったんだよ。凄いでしょ。
近所の人に言ったら、『不況に負けない逞しい発想転換だな』って褒められたしね。
 あっ、で?どうなの。ワンコ君が食べたのでザッツライト?」

「……五人家族なら身に覚えが在るが、酒場というのは見覚えが無い。 
まあ、食したこと自体に変わりは無いが。 というか何だ貴様は、“ジン街”の住民か?」

話の種が飛び回る長口上な問いかけに【独狗】は殺る機と気を削がれ、思わず答えた。

「そうだよ。 あっ、言うの忘れてたよ。 初めましてよろしくお願いします」

言葉が届く距離を残して足を止めた少年も会話に没頭する。 
此方も、自身の二倍は巨大な魔獣に掛ける言葉にしては随分と緊張感が無い。

―――屍と瓦礫が散乱する夜道で、グダグダに喋る少年と人語を語る怪物の奇天烈な問答が始まった。

「そんなことよりもね。ワンコ君のオ食事を今日一日中、掃除させられたんだ。
 そしたら、近所の人がオ食事したのは外から来た人だって気付いちゃってさ。
 『食い散らかした犯人に迷惑料払わせろ』って頼まれたんだ。
 ってことで迷惑料っていうの払ってよ」

ね?と、まるで要求が通る事が当然とでも云う様な口調に【独狗】が推測する。
理解しにくいが“ジン街”の規律を乱した己に制裁を与える心算なのだろうか、と。

――人間風情が。 嘗められているなら食してしまえ。
そう語る獣の矜持に従い、【独狗】は前足をズルリと地に着けて狩りの構えを取った。

「踏み倒させてもらう。 貴様の屍と一緒にな」

そして、破裂音が虚空に響く。 夜風に舞うのは緑の布切れ。 内部の急激な膨張に弾き飛ばされた長ズボン、其の残骸。
“力み”によって人の衣を拒絶し、剥き出しの獣と化した【独狗】の肉体は尚もギチギチと音を鳴らしながら隆起を続ける。

「ケチ。じゃあいいよ、身体で払ってもらうから。
 だけど、狗汁なんて犬の餌にもならないくらい不味いらしいんだよねぇ。あっ、でも太ってるから美味しいかも」

規格外の巨体が更なる境地に膨張していく様子に何も思わないのか、少年は表情も変えずに軽口を返した。

「ほざけ小僧がああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!」

解放、跳躍。 踏み砕かれた地面の悲鳴は野生溢れる雄叫びに掻き消された。
四肢に込めた力を解放した巨獣は爆発的な推進力を以って少年目掛けて飛来する。

彼我の距離は優に五十メートルは有る。
どう考えても一跳びでは届き得ない筈の無謀な突進は、常軌を逸した筋力によって回避不能の重爆撃へと昇華されている。

「ガア?犬語って分からないんだけど」

冗談のような速度で迫り来る巨躯に、少年は反応できないのか一歩も動かない。
唯一の動作といえば挨拶する様に左手を挙げた事だけた。



そんな化け物と少年が交錯した。



壁にめり込んだ若者は声にならない声で叫んだ。

少年の左半身が赤く染まっていくのを見てしまった為に。


――マズイな。

少年の左手を口に含んだ人狼の感想はその一言に尽きる。


少年は千切れた右胴体から噴出した赤い鮮血を浴び、自然と呟きを洩らした。


「あちゃあ。しくじったなあ」


少年は振り返り、既に遠く離れた背中を見ながら言う。


「口開き過ぎだよ。服が汚れちゃったじゃんか、血って落ちにくいのにさあ」


獣の血を撒き散らす(●●●●●●●●●)少年自身より巨大な肉塊を肩に担いだまま(●●●●●●●●●●●●●●●●●●●)
―――左の逆手で引き裂いて奪った【独狗】の右胴体を肩に担いだまま。


降り注ぐ血の雨にも、半笑いは崩れない。
常識では有り得ない異形が襲い掛かってきたというのに
自らの半身以上を赤に染めたというのに少年の眼光に驚愕は見えない。

震えない胆力が意味するのは経験。
揮われた暴力が意図するのは余裕。

つまりは起こりえる常識の範囲内だと確信した動き。
故に少年にとっては当然で平凡な日常なのであろう。
消えていく意識の中で【独狗】は漸く気づいた。
―――己如きは幾度も狩られた事のある獲物に過ぎないのだと。

「じゃ、コレ貰っておくね。 バイバーイ」

少年は左手を振って別れを告げた。 つられ、肉塊が揺れて豪快に中身を撒き散らす。
其の小さな掌に、こびり付いているのは人狼の舌肉であろうか。 
アスファルトに突き刺さった白い物質は少年の柔肌に挑み、打ち砕かれた牙であろうか。


――こんな化物と出会ってしまうとは。

“ジン街”が畏怖される理由を悟った【独狗】が前のめりに倒れた。
やや左寄りに倒れたのは総重量の四分の一もある肉体を損失した為に、バランスが悪化したせいだ。



「ところで、めり込んでるオ客君も外から来たんだよね?
 オ仕事取っちゃったみたいだし飲んでってよ。半世紀くらい寝かせたワイン並のオ値段がする濁酒が飲めるよ?」
 
「早速イイのが入ったし」と、少年はコレと呼んだ肉塊を自身が来た方向へと投げ捨て、最後まで健闘していた若者に視線を投げた。

   完全武装した一個中隊を惨殺した魔獣。
   ソレを刃物すら持っていない少年が片手で狩ったと言われて、どれだけの人間が信じるであろうか。
   ――――“ジン街”の人口は不明である為、正確に解答することは出来ない。

「ん? あーあ。もう少し保てばいいのに。 まあ言われる前に掃除するけどね」

若者を見てなにかに気付いた少年は口調だけで残念がった。 
そして、何を思ったのか振り返って地に伏す【独狗】に近付き、剥き出しの腹部を踏んで歩き始めた。

莫大な質量を苦もなく運ぶ少年は、瓦礫や屍のある場所を寄り道しながら、罅割れたビルの方へと向かっていく。
体内を踏み躙りながら歩く彼の右手は結局、ポケットから引き抜かれる事はなかった。


灰色の毛皮が地面から汚物を略奪していく様は自然の摂理を体現しており、
其のアクセントは捕食者から転落した人狼には花冠のように似合っていた。


蜘蛛の巣状に罅割れたビルへ視点を変えれば、其処の底には砕けたパワードスーツから食み出た瞳が見える。

ソレには迫り来る雑巾と成り果てた人狼が映っていた。

獣の表情は右頬から下が欠けているため不明。
獣の生死は剥き出しになった心臓からも明白。



鼓動を止めた若者グロックンがソレを理解できたとしたら何を感じるのだろうか。


次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.089488983154297