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俺とアリスが会社を出てから随分と時間がたった。
アリスが操舵するゴンドラは、夕日を浴びてオレンジ・プラネットへと帰社している途中だ。
最初は大運河から始まり、小さい水路や建物など、色々と教えてもらった。
時にはガイドブックを参考に、時にはアリスのお勧め等々……。
アリスが紹介している最中、俺はバックに入れていたメモ帳にアリスから言われた事をメモする。
もともと観光名所を回ってメモするつもりで買って来たメモ帳が訳に立った。
俺はアリスと交互に操舵を変わりながら、自分の練習も行っていた。
ただ、制服はオレンジ・プラネットの物だったので、ちょっと違和感はあったが……。
アリスに、自宅に寄ってもらえれば制服に着替えてくると申し出たが、私服をアリスの部屋に置いてあるからと言う理由で却下された。
何故に……!?
ただ、部屋には遊びに行って見たいとの事だったので、後日、時間が空いた時にでも招待する事で話は落ち着いた。
「アリス、今日はありがとうございます」
オレンジ・プラネットへゴンドラを進めている時、俺はアリスに言った。
「どうしたんですか?急に……」
アリスは不思議そうに首を傾げながら問い返し来た。
「いえ。アリスのお陰で新しいお知り合いも出来ましたし、隠れスポット的な場所も教えてもらいましたから」
嬉しい気持ちを少しだけ隠しながらアリスへ言った。
あんまり興奮しながら言っても怖いだけだし。
……多分、隠しきれてないと思うのだけど……。
「いえいえ。私も色々と勉強になりますから。お互い様ですよ」
俺と一緒に練習しても、俺が迷惑を掛けるだけだと思うのだけど……。
そんな事を俺は思ったが、アリスの表情を見ている限り、迷惑そうにはしていなかった。
足手纏いにならなかった安心感から、一つだけ小さな溜息を吐く。
そして、俺はアリスが操るゴンドラに乗りながら、今日の出来事を思い出していた。
それは、大運河で教えてもらった“トラゲット”での事だ。
俺がアリスから最初に教えてもらったのは“トラゲット”だった。
“トラゲット”は唯一シングル同士でお客様を乗せられる仕事。
そして、シングルのウンディーネにとっては登竜門的な仕事だ。
実は観光客や地元の人でも地味に人気になっていると言う。
ゴンドラを止めて、アリスとトラゲット乗り場を歩いている時、アリスの先輩である人達に出会った。
ただ、そこには姫屋の人や制服に天神遊船と書かれた方も居た。
アリスに話を聞くと、他の会社所属のシングル同士も組むので、一回に色々な会社のウンディーネのゴンドラに乗れると言う事で、人気の秘密はソレにあった。
二人で操舵するし観光案内はしないから厳密には違うけど、と言う事も教えてもらったが、観光客にしてみれば、ちょっとの違いは大丈夫らしい……。
アリスはトラゲットの乗り場に着くと、同じ制服の人達に挨拶をした。
先程まで岸に居た姫屋の方と天神遊船の方はゴンドラで対岸へ向っている。
「先輩方、お疲れ様です」
「あら、アリスちゃんじゃない。お疲れ様。学校は終わったの?」
「はい。今、友達と練習中です」
会話が弾んでいるのか、アリスと話している眼鏡を掛けたシングルの方は笑顔を絶やさない。
多分だけど、アレ、アトラさんだろうな……。
そして、アトラさんの後ろに居るのが杏さんだろう。
杏さんは、俺がオレンジ・プラネットの制服を着ている所為か、何やら疑問を持った顔で俺を見ている。
目が合った杏さんに軽く会釈をすると、杏さんは慌てた様子で会釈を返してくれた。
そして、杏さんはアトラさんとアリスを横目に俺の側へと真っ直ぐと向う。
その表情は疑問とドキドキが入り混じった表情だった。
「えっと、貴女は新人さん?」
うん。
そうだろうね。
やっぱり気になるよね……。
「いえ、コレはアリスの制服です。僕はアリア・カンパニー所属の神條亜優乃と言います。宜しくお願い致します」
そう言って、また頭を下げる。
頭を上げると、杏さんはちょっと驚いた顔をしていた。
「あ、そうなんだ。てっきりウチの新人かと思っちゃった……。私は夢野 杏。杏って呼んでね。亜優乃ちゃん」
そう言って手を差し出してくれたので、握手を交わす。
杏さんの言葉に俺は苦笑を返すしかない。
本当、混乱させて申し訳ない思いで一杯だ……。
そんな事を思いつつ握手を交わした後、何時の間にか側に来ていたアリスとアトラさんが居た。
「貴女がさっきアリスちゃんの言っていたアリア・カンパニーの新人さんなのね」
どうやら、俺の事はアリスに情報を貰っていたらしい。
俺は『はい』と頷くと、アトラさんは優しい表情で自己紹介をしてくれる。
「私はアトラ・モンテヴェルディ。アトラで良いわ。宜しくね、亜優乃ちゃん」
「はい。こちらこそ、宜しくお願いします」
そう言って、やっぱり握手を交わす。
アリスは俺達の様子を見ていたが、杏さんからアリスに話しかけ、今度は杏さんと楽しそうにお喋りをしていた。
「ところで亜優乃ちゃんは何でウチの制服を?」
「やっぱり不思議に思いますよね……」
アトラさんのセリフに俺は溜息を一つ吐き、理由を簡単に説明する。
その説明に納得したのか、アトラさんはクスクスと笑った。
やっぱり他社の人間が自分の会社の制服を着ているのは、どこか変だろうし……。
と言うか、制服を着ている事には怒らないのですね……。
「そのままウチに入っちゃえば?」
アトラさんは楽しそうに言う。
怒るどころか、スカウトされ始めているぞ……。
「あはは。ありがとうございます。でも、やっぱり僕はアリア・カンパニーの人間ですから。流石にそれは出来ないです」
当たり前の返事を俺はアトラさんに笑いながら返す。
もし、他社間の人材交流などでアリア・カンパニーからの派遣で行けるなら是非、行って見たい。
そうすれば、もっと色々な事が教われるかも知れないし。
……。
あ、そうか。
だからトラゲットはシングルの登竜門なのか。
この場所で他社間の交流を行えば、おのずと横のラインも広げられて行くと言う事か。
俺は一人で納得していると、アトラさんから話しかけられた。
「そう言えば、灯里さんは元気にしている?たまに姿は見かけるけど、暫く話してなかったから……」
「あれ?灯里さんとお知り合いなのですか?」
「少し前にトラゲットを何度か一緒にやってるのよ。灯里さん、とてもセンスがあるし、一緒に漕いでても楽しいんだけど、一緒にトラゲットが出来るのって少ないから……」
はて……、どう言う事だ?
俺が感じていた時期的に、灯里さんとアトラさん達が知り合うのはもう少し未来での話しの筈。
なのに、アトラさんは灯里さんを既に知っているし、灯里さんがトラゲットを何回かやっている事実にも驚きだ。
やっぱり、このARIAの世界は俺の知っている世界とは違うのか?
そんな違和感を持ちながらも、俺は灯里さんが元気だと言う事を伝える。
「そう。相変わらずみたいね」
そう言って、やっぱりクスクスとアトラさんは楽しそうな顔をする。
反対に俺は、何処か不安な気持ちもあるが、変に納得が出来てしまった。
今、俺が居る世界はARIAの世界で間違い無い。
それは確実だ。
アトラさんや杏さん、アリスに関しては同じ会社だし、会社の交流会などで知り合っていても可笑しく無いが、灯里さんとアトラさん達が出会っている時期にはズレが生じているし、トラゲットを数回もこなしていると言う事実。
この事実から考えられるのは、ARIAの世界であっても、ここがパラレルワールドかも知れないと言う事だ。
俺の世界である現実だって、どこぞの学者がパラレルワールドはあると言っているし、ARIAの世界でもパラレルワールドが存在しても可笑しくは無いだろう。
もしかしたら、俺が主人公の小説が出ている世界が有るかも知れない。
そうすると、俺が知っているARIAと違うのは当たり前と言う事だ。
……、何だろう。
変な感覚だ。
確かな確証も無いのに、本当にそれが世の心理として当たり前の如く、俺の中で変に納得が出来てしまっている。
まぁー、そもそも今の俺が体験している状況その物が非日常であり、〝当たり前〟の日常でもあるのだけど……。
「どうかしたの?何か難しい顔をしているけど……」
アトラさんが俺の顔を覗き込みながら言った。
俺はアトラさんが近くまで接近している事に驚き、顔を引きながら手を振りつつ否定する。
「いえ、何でもありません。大丈夫です!」
「そう?体調が悪いんだったら、無理しない方が良いわよ?」
「はい、了解です!ご心配、ありがとうございます!!」
俺は適当に誤魔化しながら笑う。
アトラさんは苦笑いをしていたが、何かを思い出した様に、自分のポケットに手を入れ何かを取り出した。
「はい、飴よ。糖分は身体に良いからね。お一つどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
お礼を返しながら、飴を受け取り、そのまま袋から取り出して舐める。
うん。
美味しいなぁ……。
さっきまで考えていた事が馬鹿みたいに思えてくるよ……。
……って、食べ物で思考をやられてどうするのだ、俺は……。
そう思って、首を左右に振る。
「でも、糖分の過剰摂取は色々と毒だから気をつけるのよ?身体的にもね」
俺が嬉しそうに舐めているのが面白いのか、それとも、行動が面白いのか、微笑みながらアトラさんは言った。
その言葉に『はい』と返事を返し、飴の味を堪能する。
アトラさんは杏さんとアリスの所へ行き、飴を配っていた。
飴を貰った二人は、お礼を言いながら飴を舐めていた。
俺はその様子を見ながら先程の事を考える。
パラレルワールド……。
本当の意味としては、自分が居る世界とはもう一つの別の世界、何処かを分岐にして分かれて行き、無数に存在する世界の事だが、この場合、俺が現れた事で世界が分岐した原作から近いパラレルワールド。
つまり、俺自身がファクターと成ってしまったのだ。
今の所、原作から近いパラレルワールドだが、今後、俺自身の動きや周りの動きで色々な変化が生じ、原作から大きく外れた世界になる可能性だってある。
本当は近くに居るのに、それに気付かない近くて遠い双子の様な、そんな感覚。
なるほど、なるほど……。
面白い。
正直にそう思う。
しかし、俺が居る場所がパラレルワールドであっても、ここは俺にとっては“現実”であり、やっぱり“当たり前”の日々には変わらない。
とりあえず、今はそれで良い。
深く考えるのは後からでも出来る。
そもそもにして、猫の紳士と会えなければ、考えても仕方が無い事。
今は練習と観光名所の勉強に集中するかね。
「亜優乃、そろそろ行きましょう」
「話はもう良いのですか?」
自分の中でとりあえずの結論を出した所でアリスから練習再開の言葉が繰り出される。
俺の疑問にアリスは首を縦に振る。
意思疎通が出来た後、俺とアリスは杏さんとアトラさんに向き直し、ちょっと話した後、トラゲットの乗り場を離れる。
その後は、アリスの散歩お勧めコースを見て行ったり、観光名所を探ったり、自分の練習を見てもらったりと、有意義に休日を過ごして行った。
そして、アリスが操舵するゴンドラは、夕日を浴びてオレンジ・プラネットへと帰社している途中だ。
「とりあえず、進展はあったのかな……」
その夕日の中、ゴンドラはオレンジ・プラネットの中に在るゴンドラの停船所へ向って行く。
「でっかい何がですか?」
俺のセリフにアリスは首を傾げながら問い掛けて来た。
その様子は後ろから夕日を浴び、何処か幻想的な雰囲気を醸し出す。
一瞬で見惚れてしまう情景に、俺は言葉を無くし、首を左右に振ってから言葉を出す。
「色々と勉強が出来たと言う事ですよ」
俺は笑いながらアリスへ返事を返す。
その返事でアリスは納得したのか、それ以上の言葉は無かった。
ゴンドラを指定の場所へ停船させた後、俺とアリスは部屋へと向う。
その際、ポストを確認したり、何やら書類を貰いに行ったりと、色々とやってはいたのだけど……。
部屋に着くと、まぁ社長がアリスへ飛びついて来た。
アリスの表情は、何処か自分の子供を見る様なそんな愛おしそうな表情になっていた。
アリスは気付いていないだろうけど。
「アリス、さっき貰っていた書類って何ですか?」
まぁ社長と一緒になって遊んでいたアリスに問い掛ける。
アリスはまぁ社長を抱き上げつつ、書類を俺に見せた。
「運行報告書?」
「そうです。オレンジ・プラネットのウンディーネはペアであっても、シングルであっても、ゴンドラを出した日は、必ずコレを会社に提出しないとダメなのです」
「へー。アリシアさんの報告書は何度か書いていますけど、僕自身の報告書は書いた事は無いですね……」
アリスが貸してくれた報告書を見ながら呟く。
協会に提出する報告書とは形式が違い、オレンジ・プラネットの独自の書類だった。
「そう言えば、亜優乃はアリア・カンパニーでの書類仕事もしているんですよね?」
「はい」
書類を見ながら俺はアリスの問いに答える。
多分、この書類でオレンジ・プラネットは社員の状況を把握するのだろうな。
その為の項目が結構ある。
「それだったら、私にも書類の書き方とかコツを教えて貰えませんか?」
「はい?」
行き成りの申し出にちょっとビックリする。
アリア・カンパニーに専門の事務員は居ないので自分達で全てを行うが、オレンジ・プラネットは事務員も居るし、問題が無いと思うのだけど……。
「事務の方々も居ますけど、原本は私達が書きますから、一通り覚えないとダメなんです」
俺の疑問が顔に出ていたのか、アリスが言葉を続ける。
「協会関係に関する書類なら僕でも大丈夫でしょうから、幾らでも教えますよ。ただ、そんなに教えられる項目が有るとは思いませんけど……」
苦笑しながら言った言葉に、アリスは少し嬉しそうに口を開く。
「でっかいありがとうございます!」
アリスはそう言って、小さなテーブルを一つ持って来た。
そのテーブルって、何処に仕舞っていたのだ……?
「では、早速やっちゃいましょう!」
そう言って、色々と書類を持ち出して来る。
その様子を見ながら思う。
でっかい量が多いです……。
「あの、アリスさん。その書類の山は……?」
思わず敬称を付けて話してしまう程、書類の量は多かった……。
よくもこんなに溜め続けたなと言うぐらいに。
「これはアテナ先輩の書類です。アテナ先輩はでっかい忙しい人なので、どうしても関係書類が溜まってしまうんです。私も手伝っては居るのですが、簡単な場所しか手伝う事が出来ません。だから、私もアテナ先輩の書類を手伝えたらと思って……」
なるほど。
そう言う事でしたか。
確かに、アテナさんはプリマだし、水の三大妖精だし、色々と忙しいだろう。
でも、コレ溜めすぎ……。
「流石に、この量を今日一日で片付けるのは無理が……」
「でっかい大丈夫です。やり方を教えてくれれば明日からでも私が手伝えますから。それに、観光シーズンだとコレの倍はあります」
「なるほど……」
テーブルが埋まるぐらいの書類の倍って……。
俺は溜息を一つ出してから、両頬を叩いて気合を入れる。
そして、アリスが座っている前に俺も座り、近くにある書類に手を出す。
「えーっと、やる前に確認しますけど、僕が見ても大丈夫なのですよね?」
「はい!でっかい大丈夫ですっ!」
アリスも気合が入っているらしく、何処か力強く返事を返す。
とりあえず、俺が見ても大丈夫と許可を貰った事だし、始めちゃいますか!
「それじゃ、始めましょうか!」
「でっかい了解です!」
そう言って書類を開き、仕事を始める。
俺は手短にある書類を開き、内容を確認する。
そこに書かれている内容は、協会に提出する書類の為なのだろうか、アリア・カンパニーと変わり無かった。
ただ、オレンジ・プラネットの場合は、専門の事務員さんが居るので、全てを記載する必要は無い。
アリア・カンパニーの場合、全て自分達で処理を行うので、俺から見ると、何か変な感じだった。
俺とアリスは暫く書類と睨めっこを行っていた。
時にはアリスが書類の書き方を聞いて来たり、時にはオレンジ・プラネット関連で俺が聞いたり……。
そんな感じで時間はどんどん過ぎて行く。
だが、同じ感覚で書類も山も少なくなって来た。
「ふぅ……」
ある程度の区切りが付き、俺は書類ファイルを片付けた後、腕を上に伸ばして背伸びを一つ。
流石にテーブル一杯の書類を終える事は出来なかったが、何とか半分までは減らした。
俺自身、こんなに集中力が持続する事にビックリだ……。
アリスも区切りが付いたのか、テーブルの上に頭を乗せていた。
「やっと半分です……」
「ですね……」
アリスのセリフに苦笑しながら返事をする。
でも、この短時間で半分まで減らせたのだ。
ここは褒めるべきだろう。
「コーヒー持ってきますね」
「甘めでお願いします」
「でっかい了解です!」
アリスはそう言ってキッチンへと入って行った。
俺はアリスの背中を見送った後、窓の外を眺める。
外は既に暗く、夜の萱が下りていた。
それに気付いた俺は窓の側に寄り、空を見上げる。
空には星が視線一杯に輝いていた。
現実では光が多くてこんなに星を見る事は出来ない。
山や光が無い場所へ行けば、満天の星空が拝めるが、それだって遠く離れないと見られない。
肉眼で、しかもこんな街中でここまで星が見られると言うのは、やっぱり凄いと思う。
月が二つあると言うのにも、最初の頃は驚いていたが、今はもう慣れた。
現実に居た時も月は良く見ていたけど、俺の居た世界とは違う風流さがあり、ここの月も何処か落ち着かせる様な、静かにさせてくれる様な、そんな感覚が襲う。
「亜優乃、出来ましたよ」
「あ。ありがとございます」
アリスの呼び声で俺は視線を部屋へと戻す。
テーブルの上から書類を片付けた後、アリスはコーヒーを置いた。
俺は自分の席に戻り、「頂きます」と一言呟き、コーヒーを手に取る。
アリスの入れてくれたコーヒーはカフェ・オレになっており、ミルクと砂糖の甘さとコーヒーの苦味が独特の味を醸し出す。
思わず、「わふぅ」と溜息が漏れた。
「溜息を付き過ぎると、でっかい幸せを逃しちゃいますよ?」
アリスは笑いながら言う。
俺はそんな楽しそうなアリスを見ながらコーヒーを置き、右の人差し指を立てながら返事を返す。
「大丈夫ですよ。この溜息は幸せの溜息ですから!」
「幸せの溜息ですか?」
「そうです!今の場合はカフェ・オレが美味しくて出した溜息なので、カフェ・オレを飲めば、また幸せが戻ります!」
自分でも意味が分からない理論。
アリスは何処か首を傾げていた。
自分でも分かっていない理論だし、アリスが分からなくて当然だけど……。
「つまりは、カフェ・オレが美味しいと言う事ですよ」
強引に話を纏め笑う。
俺の笑いに釣られたのか、アリスもクスクスと笑っていた。
そのアリスの顔を見ていたら、何やら幸せな気持ちが湧いてくる。
不思議なものだ……。
「書類整理を手伝ってもらって、でっかいありがとうでした」
アリスがコーヒーを置きながら言って来た。
俺もカップを置き、アリスの顔を見ながら笑顔を作る。
「いえいえ。僕だって色々教えてもらっているのですし、お互い様ですよ。こんな事で良ければ、何時でもお手伝いしますしね」
「私も練習とか何時でもお付き合いしますよ」
そう言ってお互い笑った後、コーヒーを飲む。
その後も仕事の話などを中心に会話が展開し、途中、まぁ社長が乱入して来た事によって、まぁ社長と一緒に遊んだり、有意義な時間を過ごした。
そんな事をしていると時間も頃合になっていた。
「あれ?もうこんな時間ですか……」
「時間が過ぎるのがでっかい早いです」
アリスも俺の言葉で時間を確認した様だ。
俺はまぁ社長をアリスへと戻し、席を立つ。
「それじゃ、アリス。僕はそろそろ帰りますね」
「あ。待って下さい」
アリスは何処か慌てた様に俺を引き止めた。
何かやり残した事って……。
そう思って自分の制服を確認すると、オレンジ・プラネットのままだった。
「あはは。ごめんなさい。制服のままでしたね、僕。大丈夫ですよ。ちゃんと洗って返しますので!」
「いえ、そう言う事では無くて……ですね。今日はもう遅いですし、泊まって行ってはどうですか」
俺が制服から私服に着替え様と私服を手に取った時、アリスからの申し出だった。
嬉しい申し出だが、理由が理由だけに俺が泊まっては拙い……。
何とかして泊まる事を諦めさせなければ……。
「でも、僕は他社の……」
「でっかい大丈夫です。藍華先輩や灯里先輩も泊まった事ありますから。それに、ウチの制服を着ていれば、でっかいバレません」
「でも同室のアテナ先輩……」
「でっかい大丈夫です。アテナ先輩なら一秒で了承しますから」
それ、どこかの雪国にいる方と一緒じゃ……。
謎のジャムとか持っていたりしないだろうな……。
「それに、亜優乃をアテナ先輩に紹介したいですし……」
アリスは少し俯くと、再び顔を上げて口を開いた。
「もう少し、話もしたいので」
照れているのか、顔が少し赤い。
そんなアリスが可愛いと思いながらも、断る理由を探すが他に思い当たらない。
コレが八方塞ってヤツか……。
しかし、何故そこまで引き止めるのだろうか……。
「私の周りで同じ年齢の人が居なくて。亜優乃だったら仕事も事もそうですけど、その、色々と話せますから……」
なるほど。
そう言う事か。
学校とかで話は出来ても、仕事の話とかになると話せる友達が少ないのか。
近い年齢の女の子も少ない筈だし、話し相手ぐらいは欲しいよな……。
俺は私服に伸ばしていた手をアリスに向け、サムズアップを繰り出す。
「分かりました!今日はお言葉に甘えてお泊りさせてもらいますね」
「本当ですか?」
「はい!」
返事をした後、まぁ社長を抱き上げ、「今日は一杯遊びましょうね」と呟き、まぁ社長は嬉しそうに「まぁ」と一つ鳴いた。
泊まる事に付いて精神的な負担が無いと言う訳では無い。
しかし、会社の中で活動するアリスを見る目は、どこか一線があると言えばあるのも確かなのだ。
関係無しに話しかけてくる同僚も居るが、やっぱりそれは年上だし、アリスから見ると気兼ね無く話せると言う間でも無いのだろう……。
そんなアリスを……、一人で辛そうな表情をしているアリスをほっとける訳も無い。
だったら、俺よりアリスだ。
俺が居る事で少しでもアリスの顔が笑顔に出来るなら、安いモノだ。
「でっかいありがとうございます!」
アリスは人を魅了する微笑でお礼を言ってくれた。
その後、アリスから食堂へご飯を食べに行こうと言われ、まぁ社長とアリスと一緒に、ご飯を食べに行くのだった。
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遅くなって申し訳ないです(涙
漸く続きをアップ出来ました。
しかもアテナさん出てないし……(汗
今回の話は少なからず謎を少し明かしています。
そして、独自設定が一杯になって来ました(汗
どうか寛大な心で読んで頂けると嬉しいです!!
そして、五章も結構長くなる予感がします……。
もう少しまともに話を纏められる様に成りたい……orz
そんな訳で、今後も精進して行きますですー!!
~ 次回予告 ~
結局、泊まる事になった亜優乃。
彼女はある人物のドジっ子ぶりに驚かされてしいます。
しかし、どこか憎めないドジっ子さん。
そんな夜の一幕にご案内致します。
次回、五章 三幕 その、歌声に誘われて……
12月公開予定(にしたいけど未定でお願いします……)。