意外だった。
彼、バージル=ラカンはもっと気難しく、扱い難いものだと思っていたから。
不意に言ってしまった言葉。
『僕達の所に来ないか?』
我ながら酷い誘い文句だと思う。
彼は恐らく誰にも付いたり、組織に組する事は無い。
だから、次の彼の一言で僕は呆然となって、暫く思考を停止させていた。
『いいだろう。ただし、この旅が終った後だ』
今になって思えば、僕は心の何処かで歓喜していたのかもしれない。
人形である僕が、“心”などという不確かなものを口にするのは、当時の僕は滑稽に思えたが。
だが、この胸の高鳴りは本物だと信じたい。
そう、思いたい。
僕は……いや。
“私”は。
「バスタァァァァ……ビィィィィィムッ!!!!」
大海原に浮かぶ孤島。
白い砂浜に佇むバージルの両目から二筋の光が放たれ、遥か水平線の彼方へ着弾すると。
――ドォォォォンッ――
途方もない大爆発が起こり、閃光が空を覆い尽くした。
そして、次に起こる衝撃波により300メートルを超える巨大な高波が押し寄せてくる。
そんな巨大津波を前に、バージルはウーンと唸り声を溢したまま佇み。
津波の中へと巻き込まれていった。
300メートルを超える高波は孤島を易々と呑み込み、波が引いていく頃には緑で生い茂った島が見る影もなくなり、木々は薙ぎ倒されていった。
ただ、バージルだけは最初にいた場所から微動だにせず、未だに唸っているだけ。
そして。
「やはり、目からビームというのは些か単調過ぎたか?」
「一体何をしているのかしら?」
頭に昆布を乗せたバージルが溢した呟きと共に、背後から一つの人影が現れた。
その声に反応したバージルが振り返ると、腰まで伸びる白髪の美少女が無表情で、しかし何処か呆れた様子で佇んでいた。
「お前か、何の用だ?」
「そろそろ時間だから、貴方を呼びに来たのよ」
「何? もうそんな時間か?」
少女から告げられる言葉にバージルは少し驚いたのか、目を一瞬だけ見開かせる。
「それにしても……一体何をしていたの? 私達の別荘をこんなにもメチャクチャにして」
「いい加減技が一つだけなのも心許なくてな、現実世界にいくまで新しく考えておこうかと」
「…………」
「因みに他にもファイナルグランドクロスという全身から出す光線が……」
延々と聞かされるバージルの必殺技の説明。
少女は楽しそうに語るバージルの横顔を、ただ無表情のままジッと見つめるだけ。
しかし、何処と無く少女は笑っているようにも見えた。
すると。
「いい加減にしないか」
「ん?」
「デュナミス……」
フードコートを纏い、フルフェイスのマスクを着けた輩が、フェイト同様呆れた様子で現れた。
「そろそろメガロメセンブリアの扉が開かれる。早く行かないと手遅れになるぞ」
「ああ、分かっているよ」
「ちゃんとハナカミとティッシュは持ったか? お金はあまり使い過ぎるなよ。知らない人には誘われても着いていかない事、詐欺には充分気を付ける事、いいな?」
「……分かっている」
何度もしつこく同じことを言ってくるデュナミスが、フェイトは少し鬱陶しかった。
デュナミス、魔法使いの中でも随一の力を持つ影使いであり、完全なる世界の間ではオカン的存在。
最初はバージルの加入の際に、かなり毛嫌いしていたが、普段のバージルを見ている内に徐々に変化していった。
デュナミス談、あんな無茶苦茶な男は矯正しねばならないとの事。
そして、お節介なデュナミスと少女の従者に見送られ、二人は旧世界……現実世界に向かう為、魔法世界の本国と呼ばれるメガロメセンブリアに赴く事となった。
彼が私達“完全なる世界”に入ってから既に数ヶ月。
一度旅を終えたバージルは、その日の内に父親であるラカンに挑んだ。
結果は引き分け、未だに及ばない自分の力に嘆いたバージルは、その日の数日後に再び旅を決意する。
その際、ラカンから力を抑える為の腕輪を受け取り装着、バージルは人気の無い所で我々と合流。
そして今日に至るまで、彼はただひたすら力を求め、鍛練に明け暮れた。
用意した魔法球で修行を続け、使用した回数は数百回。
壊した回数は一度や二度ではない。
そして、自ら死に追いやった回数も……決して少なくは無かった。
自ら生み出したラカンの幻影に殺され掛け、その度に調は涙を流しながら彼の治療を行っていた。
……お陰で彼女に治癒スキルが伸びたのは嬉しい誤算だが、その同じ数だけ彼が苦しんだ回数だと思うと。
何故か、胸の奥が痛かった。
そして、一度死地から這い上がった彼の力は、以前とは比較にならない程強大に膨れ上がっていた。
これが、“向こう側の世界”から来た人間の力なのか。
今となっては、既に誰も到達出来ない領域まで力を増している彼、しかもその力を完全に解放していない状態で、だ。
恐らくは、嘗ての造物主ですら彼に敵う事は無いだろう。
彼は知らない。
自分の本当の強さを。
彼は気付いていない。
自分が既に最強の生命体である事を。
だが、それでも彼は強くなり続けた。
どこまで強くなっても、決して萎える事ない強さへの渇望と探求。
向上の努力を必要としない私にとって、彼が眩しく見えた。
「おい、おい!」
「っ!」
「何をボンヤリしている? もうすぐ時間だぞ」
どうやら、これまでの事を思い出した為に思考が停止していた様だ。
今ここにいるのは本国の内部だと言うのに、少し油断しすぎた様だ。
「大丈夫、何も問題ないよ」
「そうか……お前が考え込むのは珍しいと思ったからな」
「私は人形、そんな事はあり得ないよ」
そう言って私はソッポを向く様に、彼から視線を外した。
すると私達のいる魔法陣が輝きだし、転移開始のアナウンスが流れる。
いよいよ、私達の計画の……その始まりが序曲を奏でる。
これから向かう現実世界、そこには彼の目的である千の呪文の男と、その息子がいる世界。
私は、これからの事に思考を巡らせていると。
「おい」
「?」
「別に俺はお前が人形だろうが何だろうが、そんな事は関係ないしどうでも良いと思っている」
「…………」
「だが、それでもお前は俺の相方だ。中途半端な姿は晒すなよ“フェイト”」
「っ!」
フェイト。
真っ正面から見つめられて自分の名前を呼ばれる事に、私は何故か胸の鼓動が高鳴った。
(ああ、そうだ)
彼は、何時だって私を見ていた。
“人形”ではなく、“三番目”でもなく、“フェイト”として。
彼は何時も、私を私として見ていてくれていた。
だから、“嬉しい”んだ。
彼の傍にいれば、無色透明な自分に色が着くと、空っぽな自分が変われるのではないのかと。
……自分でも思う、何てバカな事だと。
自分でも愚かだと思う、どこまでいっても所詮は人形だと。
だけど、それでも私は彼の傍にいたい。
彼の隣で立ち続けたい。
調も、本当なら一緒に来たかったのではないだろうか?
彼女が彼を気に掛けていたのは、前々から知っていた。
それでも彼女は、現実世界には私と彼と一緒に行って欲しいと言っていた。
その時、去り際に見せた彼女の泣き顔を、私は決して忘れないだろう。
もしかしたら、調は私以上に私の気持ちを気付いていたのかも知れない。
私は、卑怯者だ。
だから、ここに誓おう。
彼を守ると。
彼と共に、帰ってくると。
だからその時に改めて確認しよう。
彼の……バージル=ラカンに対する気持ちを。
私も、それまでには必ず。
自分の気持ちを見付けて見せるから。
眩い光に包まれながら、私はそんな誓いを立てて。
彼に気付かれないよう、服の端っこを掴んでいた。
〜あとがき〜
えー。今回はフェイトのTSと女の子となった彼女の心情を書いてみました。
うん、色々突っ込み所が満載で、ガックリした方も多いと思います。
因みに、ここの完全なる世界のメンバーは、アットホームな感じですww。
何故かオカンなデュナミスが頭から離れなくてww
ですが出番はここだけだったり。
もしこのifが続くのならば、以下の世界に跳んでみようかと思います。
1.BETA相手にバスタービーム。
2.学園黙示録でダブルバスターコレダー。
3.オリジナルスパロボで「とっておきだぁ〜」
4.某機動六課相手に無音脱がし術
……すみません、妄想が止まらなくてww