私の名前は長谷川千雨。
この麻帆良学園の女子中学校に通う何処にでもいる女子中学生だ。
趣味はネットサーフィンとネットアイドル。
ハッキングも多少たしなむが、それを除けばごくごく平凡な一般人。
さて、そんな私にも最近不満になるものができた。
3―Aの変人共。
まぁ、これは別にいい。
ロボットや明らかに中学生とは思えないノッポやロリっ子がいるクラス。
しかし、他人の身体的特徴を指摘するのは、人間関係を築く際にする最も愚かな事。
ロリっ子は何かしらの病気なのかもしれないし、ノッポは普通より成長が早いだけかもしれない。
ロボットだって、私達が知らない所でNASAの研究員か何かが協力して、あんなものが出来たのかもしれない。
色々常識はずれな出来事や人物が多いこの学園都市だが、それでも最近は自分にそう言い聞かせて納得している。
あの子供先生だってそうだ。
労働基準法違反とか、何で子供が先生何だよとか、そりゃ色々疑問に思った事はある。
しかし、子供先生は外見とは裏腹に授業はしっかりとこなしているし、教え方も上手い。
生徒とも仲良くやっているし、私から見ても良い先生だと思う。
ツッコミ満載なこの学園だが、別に私個人に迷惑を掛けた訳ではないのだから、構わないとすら最近になって思ってきた。
私が大人になったから?
いや違う。
クラスの連中や子供先生、この学園よりももっと奇怪な奴が現れた事だ。
外見は黒目黒髪で、ウチの担任の子供先生と同じくらいのガキ。
だが、ガキとは思えない雰囲気を纏い、その目は鷹の様に鋭く、目が合えばそこら辺のチンピラなんてそれだけで蹴散らしてしまう。
何故、あんなガキがこの学園にいる?
明らかに普通とは違う何か。
私は、一時ウチの学校で話題になった転入生の告白事件の現場にいて、そして見た。
私がアイツを見た時、全身の毛穴が開いて汗が噴き出してきた感覚を、今でも覚えている。
怪物。
私がアイツに対する感想は、それ以外に表せられなかった。
何故かは分からない。
確証もない。
だが私の中にある本能が、コイツは危険だと確信し。
それ以来、私は外に出るのが怖くなった。
あんな化け物がいる中、学校に行く私を自分自身で褒めてやりたかった。
ていうか何故学園はあんな化け物を放逐している。
あれじゃあ、いつか誰か襲われちまうぞ。
「くそっ! イライラする」
私は今、眼鏡を上げて怒りを鎮めながら学校に向かっていた。
その時。
「な、何だ?」
突然起こった地震。
ここ最近は無かったのに、何故また。
しかも、地震は激しさを増していき、揺れもドンドン大きくなっていく。
そして、私の足下の地面に亀裂が入った。
瞬間。
「っ!?」
地面を割り、出てきたガキの姿に、私はきっと目を大きく見開いて驚愕していた事だろう。
何故なら、そのガキがさっきまで私が毒づいていた化け物なのだから。
いきなり地面からガキが出てきた事に、私を始め周囲の生徒達もポカンと口を開けて呆然となり。
そんな中、あのガキは愉快そうに口元を歪めて、重力に従い、そのまま穴の空いた地面へと潜っていった。
いきなり目の前で起こった出来事について行けないでいた私は、腰が抜けてしまい駆け付けた教師に起こされるまで、そのまま座り込んでいた。
(何なんだ。この力は!?)
自身のアーティファクトの能力で、バージルへと姿を変えたアルビレオは、全身に満ち広がる力の感覚に驚愕していた。
体の奥底から感じる力の波、決壊したダムの様に溢れてくる力の奔流。
こんなものが、あの小さな体に渦巻いていたのか。
強すぎる力は、時によって毒物になりかねない。
自身の力に呑み込まれ、破滅していった人間をアルビレオはごまんと見てきた。
これ程の力を、あの少年は自我を保ったまま制している。
「……まったく、つくづく規格外ですね。貴方は」
天高く広がる上を見上げ、アルビレオはポッカリと空いた穴を見上げる。
自分の放った拳の一撃は、バージルの脇腹を捉え。
バージルは上空へ吹き飛んでいったのだ。
天井にできた穴は、その際に出来た副産物。
予想を遥かに上回るバージルの力に、アルビレオは振り回されていた。
そして、瓦礫と共に落ちてくるバージルに、アルビレオはやはりと目を細くする。
舞い上がった砂塵の中へ、バージルは何事も無かった様に着地する。
しかし、脇腹に受けたダメージは大きく、バージルの口元からは血が流れていた。
「やはり、まだ続けるのですか?」
「…………」
「貴方は確かに強い。しかし、我がアーティファクトの力によって私は貴方と同格となった。加えて此方は貴方の攻撃は一切通用しない。勝負ありましたよ」
「………」
「痛い目に遭いたくなければ、即刻この場から立ち去りなさい」
静かに、最後の警告を告げるアルビレオ。
しかし、バージルは何の答も出さず、ただ俯いているだけだった。
そして。
「ククク……」
「?」
「フフフ……ハーッハッハッハッ!!」
「っ!」
突然大声を上げて笑いだすバージル。
狂気の混じったバージルの笑い声に、アルビレオが一瞬体が膠着した。
瞬間。
「っ!?」
自分の顔に衝撃が入り、アルビレオは壁に叩き付けられる。
何が起こった?
いや、身体能力もバージルとなったアルビレオには、自身に起きた出来事を分かっていた。
バージルはただ、恐ろしく速く自分との間合いを詰めて、拳を顔面に叩き付けただけ。
ただ、思考がそこまで回って来なかったのだ。
砂塵の中から立ち上がり、アルビレオは前へと睨み付ける。
すると、バージルは歓喜の笑みを溢しながら一歩ずつ此方に近付いて来ていた。
「どうした俺、こんなもので終る筈無いだろう?」
「……君も、本当に人の話を聞かない人間ですね」
「自分自身と戦える絶好の機会なのに、どうして逃げる必要がある?」
アルビレオの問に、バージルは何を言っているんだと首を傾ける。
そして。
「そんな事より、そんな姿をしたからにはお前にはトコトン付き合って貰うぞ」
「?」
「俺との、殺し合いをな」
「っ!?」
ニタァッと笑うバージル。
おぞましく、恐ろしく、アルビレオは見た目と裏腹に長い間生きて様々な人間を見てきたが。
幼くしてこんな笑みを浮かべるバージルに、恐怖を感じた。
そして。
「シャラァッ!!」
「っ!?」
アルビレオに向かって再びバージルが飛び掛かり、握り締めた拳を振り抜いた。
アルビレオは咄嗟に両手を交差し、防御の体勢に入る。
しかし。
「ヌンッ!!」
「グッ!?」
腕の上からでも十二分に伝わる衝撃にアルビレオは再び吹き飛んでいく。
アルビレオは壁を貫通し、狭い通路へと出る。
体勢を立て直し、煙を利用して姿を消そうと試みるが。
「どこに行くんだぁ?」
「っ!?」
壁越しから声が聞こえてきたと同時に、バージルの腕が壁を突き抜けてアルビレオの胸元を掴み。
「グッ!?」
そのまま自分達がいた空間へと投げ飛ばされた。
壁に叩き付けられる直前にアルビレオは体を捻り、逆に壁を利用して足場にしようとするが。
「なっ!?」
既に目の前には、バージルの拳が迫っていた。
しかし、アルビレオもバージルとなっている為、その身体能力と動体視力は別格。
当たる直前に上空へと逃げて。
「仕方ありませんねっ!」
漸くなれてきたバージルの力を活用し、アルビレオは本人の背後に回り込んだ。
相手はまだ此方に振り向いていない。
ならば、後頭部に回し蹴りを叩き込んで終りにさせる。
アルビレオは左足を軸に、回転して威力を高めた回し蹴りを放とうとする。
しかし。
「キシャッ!」
自分が蹴りを放とうとした瞬間、相手も同じ体勢に入り。
二人の左右対称に放たれた蹴りが交差して、そしてぶつかり合い。
地下空洞を……いや、麻帆良を再び震わせた。
二人の足場が窪み、クレーターを作っていく。
衝撃波が空洞を揺らし、頭上から瓦礫が降り注いでくる。
しかし、二人はそれを気にした様子もなく、アルビレオが距離を置くために一度離れた瞬間。
二人は、音も無しに突然消えた。
そして。
――ドゴォォンッ――
落ちてくる一つの巨大な瓦礫が、粉々に消し飛んだ。
粒となった瓦礫の場所には、バージルとアルビレオが互いに拳をぶつかり合わせ。
瞬間、再び二人は姿を消した。
音と衝撃波だけが空洞の中に響き渡り、それに呼応するかのように瓦礫の雨が降り注いでくる。
時々姿を見せては、拳や蹴りを繰り出す二人。
アルビレオは表情を曇らせ、バージルは楽しそうに歪ませ。
数分間に及ぶ二人の激闘は、尚激しさを増していった。
一方、バージルの恐ろしさにいち早く気付いた翼竜は。
「クキュル〜〜」
早く終わってくれと、世知辛い呟きを吐いていた。
「まさか……そんな」
アルビレオは、本日幾度目かの恐怖と驚愕に思考が混乱していた。
自分のアーティファクト能力は、謂わば相手のコピーになるというもの。
コピーと言えど、その力は本人と同等のものになる筈。
どれだけ相手が強大だろうと、勝つことは出来ないが負ける事もない。
しかし。
「ジャッ!」
「クッ!?」
振り抜かれたバージルの拳、アルビレオはカウンター狙いで拳を放つが。
「フンッ」
バージルは拳を止めて屈み、足払いでアルビレオの足場を崩した。
「ヌグッ!?」
そして、がら空きとなったアルビレオの脇腹にバージルの膝が叩き込まれる。
アルビレオは何とかして体勢を整えようとするが、それよりも速くバージルに足を掴まれ。
再び壁に向かって投げ付けられる。
同じ手を何度も食らうかと、アルビレオは慣れてきた超スピードを以て姿を消す。
しかし。
「…………」
自分が向かおうとした場所に、バージルが既に回り込まれていた。
戦いというものは、何ヵ月かに及ぶ鍛練や修行にも勝る経験を与えてくれる。
それが成長の糧となり、より強く飛躍できる。
だが、目の前の少年は違った。
外見こそは自分と同じであるが、その中身は既に別物へと変わっていた。
自分の技を見切り、動きを読み、全てが見透かされている様な感覚。
最早、少年のそれは成長等と生温いものではなかった。
進化。
戦いの中で進化し続けるバージルに、アルビレオは己の中にある限界を悟り。
そして。
「感謝しよう。アルビレオ=イマ」
「!」
「お前のお陰で、俺はまた一つ強くなれた。だから」
振り上げたバージルの拳。
そこにこれまでとは比較にならない程の氣が集約し、凝縮されていき。
「この一撃を以て、お前に最大の敬意を表しよう」
振り抜いた拳が、アルビレオの腹部を捉え。
アルビレオは遥か地中へとめり込んでいった。
ボロボロの姿となったバージルは、口元から流れる血を拭い。
「……腹、減ったな」
清々しい表情で、地下空洞を後にした。
本来の目的を忘れて。
〜あとがき〜
何だか今回は突っ込み所も多いし色々と中途半端に終ってしまい、申し訳ありません。
次回からは恋愛編?になるかもです。
それて、前回のあとがきの答えの数でしたが、22と規定を越えていました。
そこで、やはりXXX板は書けないヘタレな私ですが、番外編としてフェイト側に付いたもしくは手を組んだifを、近い内に短編ですが書こうと思います。
……本当はXXX板も色々考えてたんですよ。
テオドラとの《バキューンッ》な絡みとか、月詠と《バキューンッ》とか。
僅でも期待してくれた方、誠に申し訳ありませんでした。