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No.19908の一覧
[0] 真・恋姫†無双 一刀立身伝 (真・恋姫†無双)[篠塚リッツ](2016/05/08 03:17)
[1] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二話 荀家逗留編①[篠塚リッツ](2014/10/10 05:48)
[2] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三話 荀家逗留編②[篠塚リッツ](2014/10/10 05:50)
[3] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四話 荀家逗留編③[篠塚リッツ](2014/10/10 05:50)
[4] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第五話 荀家逗留編④[篠塚リッツ](2014/10/10 05:50)
[5] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第六話 とある農村での厄介事編①[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[6] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第七話 とある農村での厄介事編②[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[7] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第八話 とある農村での厄介事編③[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[9] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第九話 とある農村での厄介事編④[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[10] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十話 とある農村での厄介事編⑤[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[11] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十一話 とある農村での厄介事編⑥[篠塚リッツ](2014/10/10 05:57)
[12] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十二話 反菫卓連合軍編①[篠塚リッツ](2014/10/10 05:58)
[13] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十三話 反菫卓連合軍編②[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[17] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十四話 反菫卓連合軍編③[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[21] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十五話 反菫卓連合軍編④[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[22] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十六話 反菫卓連合軍編⑤[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[23] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十七話 反菫卓連合軍編⑥[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[24] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十八話 戦後処理編IN洛陽①[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[25] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十九話 戦後処理編IN洛陽②[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[26] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十話 戦後処理編IN洛陽③[篠塚リッツ](2014/10/10 05:54)
[27] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十一話 戦後処理編IN洛陽④[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[28] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十二話 戦後処理編IN洛陽⑤[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[29] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十三話 戦後処理編IN洛陽⑥[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[30] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十四話 并州動乱編 下準備の巻①[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[31] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十五話 并州動乱編 下準備の巻②[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[32] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十六話 并州動乱編 下準備の巻③[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[33] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十七話 并州動乱編 下準備の巻④[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[34] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十八話 并州動乱編 下準備の巻⑤[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[35] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十九話 并州動乱編 下克上の巻①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[36] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十話 并州動乱編 下克上の巻②[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[37] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十一話 并州動乱編 下克上の巻③[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[38] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十二話 并州平定編①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[39] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十三話 并州平定編②[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[40] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十四話 并州平定編③[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[41] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十五話 并州平定編④[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[42] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十六話 劉備奔走編①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[43] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十七話 劉備奔走編②[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[44] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十八話 劉備奔走編③[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[45] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十九話 并州会談編①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[46] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四十話 并州会談編②[篠塚リッツ](2015/03/07 04:17)
[47] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四十一話 并州会談編③[篠塚リッツ](2015/04/04 01:26)
[48] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四十二話 戦争の準備編①[篠塚リッツ](2015/06/13 08:41)
[49] こいつ誰!? と思った時のオリキャラ辞典[篠塚リッツ](2014/03/12 00:42)
[50] 一刀軍組織図(随時更新)[篠塚リッツ](2014/06/22 05:26)
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[19908] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第六話 とある農村での厄介事編①
Name: 篠塚リッツ◆2b84dc29 ID:fd6a643f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/10/10 05:51



「はい、終了。お疲れ様」

 一刀が声をかけると、子供達は揃って手に持った木刀を放り出し地面に身を投げた。息も荒く汗に塗れた彼らを苦笑と共に見下ろしながら、一刀は手拭で汗を拭う。

 たまにはということで子供達と一緒に素振り千本にチャレンジしてみた訳だが、慣れていない彼ら彼女らは良いとして、言い出した一刀も相当に疲れていた。

 苦なく出来ると思っていただけに、この疲労感には情けなさすら覚える。故郷の世界にいた時よりは身体も鍛えられ、少しは強くなったという実感もあるのだが全部が全部という訳にはいかないらしい。

「団長、稽古! 稽古つけて!」

 この疲れをどんな方法で癒すか、一刀が今晩のスケジュールを考えていると、疲れて動けない子供達の中から元気の塊のような人間が飛び出してくる。

 黒い長髪をきつめの三つ編みにして、肌は日に焼けて小麦色。全体的に細身だが華奢という感じはなく、口調と雰囲気も相まってその人物を実に健康的に見せている。

 名前は子義という。ここに集まった人間の中で最も若く、年齢は12、3歳――数を数えることが苦手だそうで、聞く度に年齢が変わるのだ――と一刀の感覚で言えばまだまだ子供である。

 そんな子供の無邪気なお願いに一刀は反射的に渋面を作りそうになる自分を意識し、視線を逸らした。疲れている時に、この子の相手は本当に疲れるのだ。

 一刀が子供達の面倒を見るようになって一月が経つが、その中で子義は群を抜いた才能を見せていた。他の子供よりも出来るとかそんなレベルでは断じてない。比べるのもおこがましいくらいの才能が、子義にはあった。

 最初は荀彧のように三国志の武将が美少女になっているのかと疑ったが、子義は正真正銘男の子だ。それ以前に、子義という名前の武将に心当たりはない。

 肩透かしを食らった気分だったが、強いからと言って必ずしも性転換された三国志の武将ということはないのだろう。美少女になっているのは荀彧他数名だけで、残りは皆男性のままという可能性だって捨てきれない。

 とは言え、可能性の論議をしてもただの人間である一刀にそれを確かめる手段はなかった。今は答えのでない問答をするよりも、目の前の仕事を片付けることの方が重要である。

 集まった子供達では五人でかかっても相手にならないので、子義の相手は一刀にしかできない。現状、辛うじて十戦しても全て勝つ状況が続いているが、子義との稽古はいつも冷や汗をかかされる。

 攻撃の組み立てが恐ろしく短調なせいで一刀程度の腕前でも辛うじて勝ててはいるものの、子義が考えることを覚えた瞬間に、勝つ見込みはゼロになるだろう。一緒に学んでいる子供には何も考えずに木刀を振るっても余裕で勝てるが、祖父や侯忠から指導を受けた一刀からはいまだ一本も取れていない。

 同年代での喧嘩では負けなしだったらしく、自分を負かした相手に大層感激したのか、それ以来子犬のようについて回られている。男の子とは言え子供に頼られることに悪い気はしないが、それが自分を遥かに凌駕する天賦の才を持った子供となると、荀家ではお前に才はないと遠まわしに言われ続けた一刀の心中は複雑になる。

 子義は一刀の返事を、目を輝かせながら待っている。助けを求めようにも返事にまごついている間に、他の子供達は団長さようならとさっさと帰り支度をして家路についてしまった。

 もたもたしていると日が沈む。ここは農村だ。日が沈んでからは田畑に出ないが、夜は夜で内職があるし、人手はいくらあっても足りない。

 また、農作業以外に身体を動かすということで、平常よりも疲れが溜まっている。疲れを蓄積させることは、何時の時代でもよろしくないものだ。彼らは基本的に早く寝て早く起きるという健康的な生活が染み付いている。

 目の前で目をきらきらさせている子義もこの農村の子供であるはずなのだが、彼は農作業や内職よりも木刀を振るうことに楽しみを見出しているらしく、子供達の中で最も才能に恵まれているにも関わらず、戦うことを学ぶのに最も熱心だった。

 反面、寺小屋の真似事で簡単な読み書きと計算を子供達に教えてもいるのだが、そちらの授業は隙を見てはサボろうとするので始末に追えない。単純な徒競走だと第二次成長が終わった一刀でも、子義には勝てない。逃げた彼を捕まえることは、この村の誰にも出来ないだろう。

 要するに、子義を相手に逃げたとしても足の速さの関係から確実に追いつかれるということだ。のらりくらりと言い逃れ続けたとしても、こちらがイエスというまで食いついて離してくれないのは目に見えている。

 ならば最初からいいよ、と言うのが賢い選択というものだろう。

「一本だけな……」

 しょうがない、という風を装って言うと子義は飛び上がって喜んだ。時間が勿体無いと一刀に木刀を押し付け、自分は大またでぴったり五歩距離を取り、木刀を正眼に構える。

 負けが込んでいるはずなのに、構えだけは異様に様になっていた。これで一刀の1%でも考えるようになればもっと強くなれるのだが、彼は一向に考えるということをしない。指導の方法が悪いのだろうか、と今では教育者のように考える一刀だったが、彼が考えることを始めた瞬間勝てなくなるのは目に見えているため、心の中には子義にはこのままでいてほしいと思う自分もいる。

 浅ましく醜い感情とは思うものの、どちらかと言えばもっともっと強くなった子義を見てみたいという気持ちの方が強い。どういう教え方をしたらもっと子義を強く出来るのか、今はそればかりを考える毎日だった。

 まるで先生だな、と自分の境遇に苦笑を浮かべながら、こちらの合図を待っている子義に宣言する。

「一本勝負。決着が付いたら終わりだし、日が沈んでも終わりな」
「わかりました! でも、手加減したら怒りますからね!」
「はいはい……」

 と、投げやりに返事をしても、子義の目には入っていないらしい。いきますよー! と吼えてかかってくる子義をどこか遠くに見ながら、一刀は荀家を出てからのことに思いを馳せた。


















 商隊にくっついての旅は順調だった。商人も一刀が荀家の客人だと理解していたから扱いも悪くなかったし、護衛として雇われていた面々とも早々に打ち解けることが出来た。護衛の隊長は侯忠と官軍時代共に働いていた仲らしく、見聞を広めるために旅をするのだという一刀にあれこれと物を教えてくれた。

 時間が空いた時には剣の稽古をしてくれたり、商人はこの世界における商いの基本を教えてくれた。荀家に居た時も元の世界では出来なかっただろう経験をしたが、商隊で学んだことは一刀の感性に大いに刺激を与えた。

 そんな有意義な時間を過ごしながら、最初に一行が辿りついたのは司隷河南郡のとある大きな街だった。割と都会であるらしいこの街は現在『あの』袁術の治める土地であるという。半端な三国志の知識がある一刀は袁術にはあまり関わるべきではないと思ったが、需要のあるところに品を届けるのが商人の仕事。浪費家であるらしい袁術は商人にとっては大事なお得意様であるらしく、商人は嬉々として街に足を踏み入れた。

 聞けば袁術は金色の髪をした大層な美少女であるという。性格と政治的手腕には難アリだけどな、と商人も言っていた。警備隊の中にも意見を同じくする者がいたようで、あぁ、顔だけはな……と重々しく頷くのが印象的だった。

 そこまで言うなら顔くらいは見てみたいと思う一刀だったが、性格がアレな権力者と個人的な関わりを持つべきではないという商人の尤もな意見でもって納得し、袁術の顔を見るのはまたの機会ということで持ち越した。

 さて、袁術相手の商売を終えた商隊はこれから北へ向かうという。集結した黄巾賊との決戦が近いので危険であると荀彧に言われ続けてたせいか、北という言葉に反応して一刀の脳裏に荀彧のいらついた顔が浮かぶ。行くか行かないか考える以前に、身体が向かうことを拒否していたのだ。残念だが、商隊とはここでお別れだ。

 北には行かないという事情は商人も聞いていたのか、一緒にどうだと無理に誘うようなことはせず、同道した間の手間賃――警備という名目での給料とのことだ――をいくらか多目に渡すと、脇目も振らずに北へ旅立っていった。

 何も態々危険な土地に行かなくてもと一刀は思ったが、戦争というのは商人にとっては稼ぎ時なのだそうで、曹操や袁紹などの金払いの良い、どちらかと言えば民間寄りの軍に糧食や鎧兜を売って荒稼ぎするのだそうだ。右から左へ物を流すだけで大もうけが出来るのだから商人にとってこれほど美味しい話もない。

 しかし、戦場に行くということは殺気だち武装した人間の大勢いる地域に足を踏みいれるということでもある。下手を打って荷物を奪われた挙句、無残に殺される商人も後を絶たない。

 自然、商人も護衛を雇うことを覚え、今では腑抜けた官軍よりも商隊の護衛の方が強いという現象が大陸各地で見られている。

 一刀が世話になった商人も豫州では名の知れた、精強な護衛部隊を抱える商人であるとのことだ。それだけ強い護衛を雇うとなると経費も嵩むため、自然と商売が大きな方、大きな方へと流れるだそうだ。

 とは言え、護衛が精強だからと言って、危険がない訳ではない。こちらよりも多数の賊に囲まれればそのまま殺されることだって十分に考えられるし、最悪、売るつもりだった相手に襲われることだってある。

 そうならないためにはまず、売る相手を見極めることだ……と商人は言っていた。彼が挙げていた大陸北部の上得意は三人。曹操、袁紹、袁術だ。

 例えば曹操は厳しいが公正な人格で、商人だからと言ってこちらを侮ったりはしない。適正価格で売らされるために一つ一つの儲けは少ないが、行儀の良い信用筋を紹介してくれたりと付帯効果が色々と多い。後々名を上げるだろうという見通しもあり、今最も交流を持ちたい武将であるとのこと。

 袁紹の人格は曹操に比べてお世辞にも褒められた物ではないが、名門の矜持があるのか値切り交渉などはほとんどせず、丼勘定で馬車につまれた物を根こそぎ買ってくれるという。こちらは商人風情と下に見られることが多いらしいが、大盤振る舞いしてくれる以上、それは商人にとって上得意だ。立ち寄った町で豪遊して帰っても儲けが鱈腹残るような支払いをしてくれるのならば、例え悪鬼でも福の神である。

 一番安心なのは袁術だ。彼女の勢力も黄巾賊を相手に戦ってはいるが、本人は本拠地から一歩も動かず、贅沢三昧をしている。危険な地域まで足を運ばなくてもよく、大好物らしい蜂蜜を持参するとそれはもう大盤振る舞いをしてくれるとのことで、贅沢品など利鞘の大きな物を金に糸目を付けずに買ってくれる。

 この他にも安心して取引できる陣営はいくらかあるというが、それはあくまで現状では、という枕詞がつく。栄枯盛衰は世の常だ。有力な武将が賊軍に負けて首を刎ねられるということも今の時代珍しくはない。商人が挙げた三人は、とりあえずしばらくは生き残るだろうという読みの上での、お得意様である。誰と取引をするのも勿論重要だが、何時取引するのかも重要なのだと、商人は得意先の話を締めくくった。

 さて、河南郡で商隊と別れた一刀は、実はその時点で途方に暮れていた。北へは行けないために旅を続けるならば南か西に行かねばならないのだが、肝心の足がない。徒歩で一人旅という選択肢もあるにはあるが、腕に覚えのない人間の一人旅は賊に襲ってくれと言っているようなもの。武人としては半人前の一刀では心もとない。

 それに徒歩だと不慮の事態に襲われた時に対応できないという欠点があった。何かの理由で足止めを喰らったら、野宿をせざるを得ないだろう。旅なれない人間の一人旅で野宿は自殺行為だ。現代日本の公園で新聞紙に包まり、夜を明かすのとは訳が違う。一人でいる時に獣に襲われたら逃げることも出来ないだろう。話が通じ、金品で解決できる可能性があるだけまだ賊に襲われた方がマシというものである。

 それら諸々の厄介事を解決するためにも、日があるうちに人里から人里まで確実に移動できるだけの足、もしくは賊や獣に襲われたとしても何とかなるだけの知識や腕を持った旅仲間が一刀には必要だった。

 まずは旅仲間と、一刀は荀家を出た時と同じように商隊を頼ることにした。身元に関しては荀家が証書を書いてくれたために、はっきりとしている。ここ河南に来るまでに商人の下働きの基礎は叩き込まれたし、護衛としては役に立たなくても下働きとしてならば働くことも出来る。

 待遇に文句をつけなければ、どこかしら拾ってくれるだろう、と楽観してそろそろ旅立つ予定の商隊を探したのだが、これからの一週間で街から旅立つ商隊は、軍需品を売るために北に行くか、荀家のある豫州に行くか、あるいは洛陽に行くかの三種しかなかった。

 前者二つは、一刀にとって選択肢とも呼べない物である。戦場になど行けないし、豫州にすぐさま戻るのなら何のために旅に出たのか解らない。商隊に世話になるとしたら洛陽に行くしかないのだが、権力闘争の只中にあるらしいあの都市に行って良いことがあるようにも思えない。

 だが、洛陽は何と言っても皇都である。この世界においては最も文化が洗練された都市の一つであり、物や人と一緒に情報も集まる都市だ。旅の目的は見聞を広めるという意味もあるが、最終的な目的は元の世界に戻ることだ。そのための手段を探すためには洛陽に行っておいて損はない。


 本来ならば多少の危険を冒してでも向かうべき都市なのだろうが……ただの人間である一刀には三国志的陰謀が大絶賛渦巻いているはずの洛陽で、生き残れる算段がなかった。何の権力も持たないただの男が陰謀の舞台に引き上げられるとは必ずしも言えないものの、何の情報もない異世界に叩き出された不幸を鑑みるに、都に足を踏み入れた途端官吏にしょっぴかれる可能性もないとは言えない。

 この時代、民主的な裁判なども期待できない。怪しい、と思われたらその場で首を刎ねられることだってあるだろう。

 況してや、今は戦乱の時代。そしてそこは洛陽だ。人の命など枯葉ほどの重さもない。なるべく北には行くなという荀彧の言葉もある。洛陽に行くなとは一言も言われていないが、まずは南、西に向かうのが安全という点では良いだろう。

 いつになったら元の世界への情報が集められるのか、と微妙に陰鬱な気分になりながら、一刀は酒場などを回って南や西へ一人でも安全に行ける手段を探した。

 二日程商人や街の人間から情報を集めた結果、一刀は馬を一頭買うことにした。安い買い物ではなかったが、ここでも荀家の証書の力が生きた。一刀の有り金全てを出しても本当ならば馬など買えないのだが、馬車を引くのを引退したばかりの聊か老いた馬を格安で譲り受けることになった。

 病気を持っているとか駄馬であるとか、厄介者を掴まされたのではたまったものではにないが、馬を見る最低限の目は荀家にいる間と、商隊に厄介になっていた間に鍛えられている。

 少なくとも目に見えた欠陥は見当たらない。気性が荒い訳でもないようだし、馬具も一通りセットになっている。決して安い買い物ではないが、悪い買い物でもなかった。

 即決でその馬を買い取る約束をすると、翌日、一刀はその馬に乗って河南郡を後にし、南へと向かった。出立前には地図を片手に、どこにどれくらいの規模の街や村があるのか綿密な調査を行ったのは言うまでもない。

 途中、武装した官軍や傭兵らしき集団とすれ違うことはあったが、特にいざこざには巻き込まれないまま、夜は街や村で宿を取り南下を続け、豫州を出て二月もした頃、一刀と馬は荊州に足を踏み入れていた。

 この時代、治安が良くないのはどこも一緒だが、噂に伝え聞く北部の状況に比べると平和そのものと言って良い風潮で、馬に乗ってパカパカ行くだけの一刀の旅も、順調に進んでいた。元の世界の情報も一応集めてはいるが、都会では学術的、あるいは実在の人物や地名に即した情報が手に入るのに対し、ほどよく田舎であるこちらでは、オカルティックな話が目立つようになっている。

 やれ、遠くのどこそこの山には仙人がいるとか、海の向こうにはこういう世界があるとか、御伽話と大差ないレベルのものだ。これが数ヶ月前、元の世界で聞いたのであればメルヘンな人たちもいるものだなぁ、と笑って受け入れていたのだろうが、実際に時間だか世界の壁だかを飛び越えてきてしまった以上、一概に笑うことも出来ない。何しろ一刀本人が、オカルトの体現者なのだから。

 本当に仙人がいて異界があって、そこに不可思議な力があり元の世界に戻れるのだとしたら、一刀にとってそれはオカルトなどではなく、確かな現実の一手段である。問題はそんなオカルトな存在とどうやって接触を持つかということだが、噂を語る人々もそこまでは知らないらしく、例えば仙人がいるという遠くの山も人によって名前や場所が変わったりと信憑性に欠けていた。当然、仙人にあったことがあるという人もいない。

 やはり与太話じゃないかと噂を集める旅に落胆する一刀だったが、どんな些細な話でも手掛かりには違いない。重要そうな噂だけ木簡に丁寧に書き記して行くが、一日一度は噂の整理のためにその木簡を見る物の、果たしてこれが何の役に立つのか……と気が滅入る毎日が続いている。

 反面、色々な知識も旅の過程で増えていた。

 荀家の書庫では知りえなかった、地元でしか知りえない風習。肌で知る治安の悪さに官軍の現状。民衆が賊をどう捉えており、そのためにどう対処しているのか。

 食べ物も同様だ。荀家が所謂富裕層であるのは屋敷に足を踏み入れた時から知っていたことだが、それを理解したのは屋敷の外に出てからだった。商隊で最初に出された保存食――小麦に調味料を混ぜて捏ねたものを火で炙ったもの――を最初に口にした時の顔は、商隊全員に大爆笑されたのを覚えている。

 その後は所謂、粗食だけどそこそこに美味しい物を食べさせてもらったが、宿を借りる村で出される食事は、極端に味が薄かったりあまり美味くなかったりと一刀の口に合わないことが多かった。

 最近はカップラーメンを食べたいと思う毎日が続いている。故郷にいた時は思い出したように食べていたものが、今となっては無性に懐かしい。

 時間が出来たら自分で作ってみるのが良いだろうか。カップラーメンに近い味を出そうと奮闘するなど現代の料理人が知ったらキレるかもしれないが、この時代にあの味は新しいはずだ。傍から見れば未知の味を追求しているのだから、文句を言われる筋合いもない。

 問題があるとすれば味の再現に成功したとしても、この世界の人間にウケるかということだが……その辺りは出来上がってから考えれば良いだろう。

 次に大きな街に行ったら市場にでも行ってみよう。どういう食材が良いのかとあれこれ考えながら馬を歩かせている時に、それは起きた。

 腹痛、などという生易しい物ではない。下腹部を抉られるような痛みに一刀は馬上で腹を抱えた。何が原因かと考えるよりも先に、このままここで倒れたら死ぬしかないという危機感が一刀を動かした。

 休むつもりだった村まで、馬を急がせる。朦朧とした意識の中でも、馬は良く一刀の意図を理解し、足を動かしてくれた。元々距離が近かったこともあり、日が暮れるよりも前、予定よりも早く村に到着した。

 馬に乗ってやってきた一刀を村人は珍しそうに眺めていたが、馬上で一刀が蹲っているのを見ると、慌てて駆け寄ってきてくれた。

 大丈夫か! という村人の野太い声を遠くに聞きながら、一刀は意識を失った。

















 目を覚ましたのは、しばらく後のことである。

 一体どれだけ眠っていたのか。ぼんやりとした頭で見回すと、自分が小屋の中に寝かされているのがわかった。土間に筵がしかれただけのものだったが、屋根があるだけ、面倒を見てくれただけでもありがたい。

 腹に痛みはぼんやりと残っていたが、我慢できないほどではない。差し込む日差しの明るさから、一晩はこうして寝ていたのが解った。

 筵の上で起き上がると、小屋の隅にいた女性が駆け寄ってくる。

「具合はいかがですか?」
「おかげさまで大分良くなりました」

 一刀がそう答えると、女性は安堵の笑みを浮かべた。笑うと目元の小じわが少しだけ目立つが、農村にしては物腰の穏やかな美人だった。

「昨日、村の入り口で倒れられた時には心配しましたけれど、これなら大丈夫そうですね。旅の方ですか? 何か商いをされているとか」
「いえ、見聞を広めるための旅の途中です。元々この村で宿を借りる予定だったんですけど、少し前の丘で具合が悪くなってしまって」
「村長様によれば、食あたりのようですよ」
「食べ物には気をつけないといけませんね」

 村が近かったから助かったようなものの、中間地点で具合が悪くなっていたらなす術もなく行き倒れていただろう。ここまでもった身体の頑丈さと、ただの行き倒れを看病してくれた村の人々に感謝である。

「俺を診てくれた村長さんにお礼を言いたいんですけど、村長さんはこの時間ご在宅でしょうか」
「ご高齢の方ですからお家にいらっしゃると思いますよ。行かれるのでしたらご案内いたしますけれど、まずはこちらを」

 そう言って女性が差し出したのは白湯だった。縁の欠けた椀に口をつけると程よい温かさが身体の中に広がっていく。何の味もついていない本当にただの白湯だったが、今はその温かさがとても心地よかった。

「ご馳走様でした」
「お粗末様でした。村長様のところから帰ってきたら、食事を用意いたしますね」
「何から何までありがとうございます。自己紹介がまだでしたね。俺は北郷一刀です。姓が北郷で名が一刀。字はありません」
「ご丁寧に。私は崔心と申します。お召し物はあちらに用意してますので、ご用意が整いましたらお声がけください」

 深く頭を下げると、崔心は小屋を出て行く。彼女に示された先には質素ではあるものの頑丈な仕立ての服が用意してあった。袖を通して見ると、丈はぴったりだった。荀家で一度着せてもらった軍衣に近い着心地だ。近いではなく、本当に軍衣なのかもしれない。

 農村に何故? と率直な感想を持つ一刀だったが、立ち入ってはいけない問題のような気がして、その疑問は胸の奥に押し込めた。帯を締めて身なりを整えると、小屋の隅にまとめて置かれていた自分の荷物の中から、剣を取り出す。それを帯に差し込んで、準備完了だ。

 帯剣して出てきた一刀に崔心は目を丸くしたが、直ぐに気を取り直して先に立って歩き出した。太陽が、ちょうど真上の位置にある。正午に近い午前中、もう少ししたら皆が昼食を取るような、そんな時間であるようだ。

 先の街で調べた所によれば、この村に住んでいるのはおよそ200人。村にしてはそこそこ大きな規模だ。農業以外に特に産業のような物はなく、村民はほぼ全員農業に従事している典型的な農村である。

 崔心に連れられて歩いていても、周囲に村民の姿が見えた。田畑の中で農作業をしてる彼ら彼女らの視線を受けながら歩くのは非常にこそばゆい。

「皆、俺が腹を壊して倒れたってことは知ってるんでしょうか」
「昨日は村中大騒ぎでしたからね。有名人ですよ、北郷さんは」

 どうりで視線が生暖かいと思った。村人達は一刀を見ると皆作業の手を止めて手を振ってくる。好意的に受け止められていることは喜ばしいことだが、そうなった原因が原因なので素直に喜ぶことは出来なかった。

 そんな視線を浴びつつも農道を行き、村の中央の広場を通り過ぎると、北の方へ向かう。他の家が小屋であったのに対し、村長の家はちゃんと家をしていた。隙間風が遠慮なく入ってきた崔心の家に比べて、こちらはしっかりとした造りをしている。どこに村長の家があるのか知らなくても、村全体を歩き回れば一目でこれが村長の家だと解るだろう。

 これならば一人で歩いても解ったかもしれない。昼間に看病から案内までつき合わせて申し訳ない気持ちになっていると、崔心はそんな一刀の心を知ってか知らずかずんずんと進み、村長の家の戸を叩いた。

「崔心です。昨日の旅の方をお連れしました」
「おう、入ってもらいなさい」

 しわがれた老人の声に、崔心が戸を開いて一刀を促した。先に入れということらしい。ここは知らない人間の家で、村長さんと言えば村では一番偉い人だ。既に死ぬほど世話になった後だが、何か粗相があったら不味いのではないだろうか。

 不安に思って崔心を見やると、彼女はただ微笑み返すだけだった。その笑顔が早く入れという催促に見えた一刀は心中で覚悟を決めると、敷居を跨いだ。

 天井が高い、というのがその家の最初の印象だった。勿論、荀家の部屋とは比べ物にならないほど質素だったし実際にそれほど高くはないのだろうが、気を失って目覚めた部屋の印象が強いせいかそう思える。

「具合はどうかな、お客人」

 声をかけてきたのは、皺だらけの顔に白く長いひげという、いかにも村長といった面構えの老人だった。あまりにもお約束な村長の見た目に一刀が噴出しそうになっていると、村長は自分の前の座布団を一刀に勧めてくれた。

 村長の奥方らしき女性がお茶を出してくれる。椀はやはりかけていたが、白湯ではなくてお茶だった。

 ご丁寧に、と頭を下げて茶を啜る。上等な葉を使っている訳ではないようだったが、淹れ方が丁寧だったのか、お茶は非常に美味かった。

「おかげさまで大分良くなりました。遅れましたが俺は北郷一刀と申します。姓が北郷で名が一刀です。字はありません」
「私は高志と申します。こちらの村で村長など勤めさせてもらっております」
「失礼ですが、医術の心得がおありで?」
「医術などとんでもない。少々野草についての知識があるだけでしてな。長いこと生きていると無駄な知識がつくこともあるもので、そうした知識を年甲斐もなく披露してみたくなることもあるのですよ」
「その知識のおかげで助かりました。改めて礼を言わせてください」
「いやいや、どうして助かったと言えばそれは客人の天運でございましょう。この村まで辿りつけさえすれば、例え儂がいなくとも客人は助かっていたはずです」
「死にそうなほどに腹が痛かったんですが、もしかして大した症状ではなかったのですか?」
「大事ではない、といったところでしょうかな。薬など飲まずとも客人くらいの体力があれば二日三日安静にしておれば快癒したことでしょう」

 それは良かった、と高志の話を聞いて一刀は心中で安堵の溜息を漏らした。これが大きな病気でまだ油断のならない状況が続いている、というのだったら一刀だって死にたくはない。矜持も何も捨てて、荀家まで舞い戻っていたことだろう。そうなると一生あの家に頭が上がらなくなるだろうが、死ぬよりはマシだ。

 勿論、高志が診断を誤っており実は酷い病気ということもあるが、それを気にしだしたらキリがない。医術方面の知識はどう考えたって高志の方がある。疑う理由もなし、問題ないと彼が言うのならそれを信じることにする。

「でも、今こうしてご挨拶に来られるのは村長様が俺を診てくださったおかげです。何かお礼をしたいのですが」
「礼などと。病の人間を見捨てるような薄情者はこの村にはおりませんよ。人間として当たり前のことをした。ただそれだけのことです」

 高志は言うが、黄巾賊が跋扈しているような世の中だ。都市部も農村部も困窮していることは間違いない。余分に人間を食わせるような余裕を持っている家など稀だろうし、どこの人間とも知れない人間を助けるなど、本来なら望むべくこともないだろう。

 知り人のいない土地で病に倒れることは、死に直結しかねない大事だ。

 もし、この村の人間がもう少し生きることに正直で、他の命に対して薄情だったら一刀は身包みはがされ今頃は野の獣の餌にでもなっていたことだろう。

 不幸な目にあって、なおかつ生きているということ。あらゆる力を持たない異邦人の一刀にとって、今の状況は奇跡に近いことだった。

 利よりも情を取って人を助けた村長は、礼など良いと言うだろう。

 だが、それでは一刀の気が納まらなかった。

「倒れた後で言うのも何ですが、体力にはそこそこの自信があります。いま少しの間で結構です。下働きでも何でも致しますから、ご恩を返させてください」

 お願いします、と一刀は床に額をこすりつけるようにして頭を下げた。村長は困惑するが、頭を上げろ、とは言わなかった。

 こちらの気持ちを斟酌してくれているのだろう。

 そしてここで初めて彼の中で利が動いているに違いない。

 労働力というのはいくらあっても困ることはないが、労働をするために人は食料を必要とする。ここに例外はない。一刀も高志も生きている以上腹が減るし食事もする。

 問題は、その食料が有限であるということだ。労働力が増えたとしても、それが消費する食料に見合わなければ善意の働きだったとしても赤字である。加えて眼前で頭を下げている男は農業の経験があるようには見えないし、病み上がりである。

 短い間と区切って使うとしても、村民ほどに役に立つとは思えない。なのに食料は同じだけ食うことになる。向こうから頼み込んできたとは言え、形の上では客人だ。仕事が出来ないからと言って無碍にすることは出来ない。

 快癒したのならば、さっさと出て行って欲しい、というのが正直なところだろう。一刀も頭を下げてから相手がそういう気持ちなのではということに思い至ったが、下げてしまった頭と口にした言葉はもう引っ込めることは出来ない。

 無限とも思える時間は、高志の唸るような声で終わりを告げた。

「客人は、読み書きは出来ますかな?」
「一通りは。計算も出来ます」
「ならば、村の子供達にそれを教えていただけませんかな。普段は私がやっているのですが、子供達も若い人間に教わった方が身も入るというものでしょう。お客人が完全に快癒するまで……そうですな、一週間もやっていただければよろしいかと」
「それでご恩が返せるというのなら、喜んで」

 妥協の結果の配慮だったが、その辺りが限界だろうと一刀も納得した。旅の目的を考えればいつまでもこの村にいる訳にもいかないのだ。恩返しをする機会を与えてもらっただけマシというものだろう。

「滞在する間の宿は、崔心、お前の家を貸してあげなさい」
「かしこまりました。村長様」
「良いのですか? その、俺が泊まっても」

 すんなりと村長の提案を受け入れた崔心に、一刀は慌てて声を挙げた。

 女性の家に男が上がりこむのは、常識的に不味い。田舎だからそういう感性が緩いのかもしれないが、何か間違いがあってからでは遅い。率先して間違いを起こすつもりは一刀にはなかったが、世の中万が一ということはある。

 健全な男子としてはそういう間違いが起こることを聊か期待しないでもないが、恩返しのつもりで滞在を申し出たのに、エロ脳全開でそれをぶち壊しにするのは流石に格好悪い。

 掘っ立て小屋でも何でも良いから場所を変えてくれ、くらいのつもりで一刀は声を挙げたのだが、しかし崔心は一刀の言葉を受けて穏やかに笑みを浮かべてみせた。

「北郷様は村のお客様なのですから、ご心配などなさらず。それに私の小屋が住んでいる人間が一番少ないのですよ。私と息子の二人だけですからね」
「……息子さんがいらしたのですか」

 とてもそんな年には見えない、と言ったら下心アリと思われたりしないだろうか、などと考えているうちに、宿は崔心の家ということで話は纏まってしまった。家の大きさを見るに村長の家に泊まるのが一番問題がないように思えるのだが、その辺りは余所者にはわからない村のパワーバランスのようなものがあるのだろう。

 高志が当然のようにそれを言い出し、崔心は少なくとも嫌な顔一つせずに受け入れた。それだけ解っていれば、泊めてもらう立場の一刀にはそれ以上言うべきことはない。彼女の他に人が、それも息子さんがいるのなら何も心配することはない。ちょっとだけ残念という気がしないでもないが……

 しかし、崔心がそれではと、その場を去ろうと促そうとしたその時、高志の家に飛び込んでくる人影があった。戸を蹴破るような勢いで飛び込んできたのは、黒髪の子供である。少年だか少女だか判断しかねるみつあみにされた長い黒髪の子供は、乱れた息も整えぬままに言った。

「賊がきました!」


 一刀の手が剣の柄に伸びる。気づくと一刀は立ち上がっていた。





言い訳という名の中書き
大分間が開いてしまいました。お久し振りです。
荀家を飛び出して今回から別シリーズが始まります。
反董卓連合に合流するまでの準備期間とお考えいただけたら幸いです。

一話目ということで一刀の他に原作キャラが出てこないというヤバい状況ですが
次話の終わりからようやく登場します。
誰にするか悩みに悩んだ、チームちんこ最初期からの軍師役です。
誰になるかは次話をお楽しみに。






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