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No.19908の一覧
[0] 真・恋姫†無双 一刀立身伝 (真・恋姫†無双)[篠塚リッツ](2016/05/08 03:17)
[1] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二話 荀家逗留編①[篠塚リッツ](2014/10/10 05:48)
[2] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三話 荀家逗留編②[篠塚リッツ](2014/10/10 05:50)
[3] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四話 荀家逗留編③[篠塚リッツ](2014/10/10 05:50)
[4] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第五話 荀家逗留編④[篠塚リッツ](2014/10/10 05:50)
[5] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第六話 とある農村での厄介事編①[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[6] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第七話 とある農村での厄介事編②[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[7] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第八話 とある農村での厄介事編③[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[9] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第九話 とある農村での厄介事編④[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[10] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十話 とある農村での厄介事編⑤[篠塚リッツ](2014/10/10 05:51)
[11] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十一話 とある農村での厄介事編⑥[篠塚リッツ](2014/10/10 05:57)
[12] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十二話 反菫卓連合軍編①[篠塚リッツ](2014/10/10 05:58)
[13] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十三話 反菫卓連合軍編②[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[17] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十四話 反菫卓連合軍編③[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[21] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十五話 反菫卓連合軍編④[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[22] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十六話 反菫卓連合軍編⑤[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[23] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十七話 反菫卓連合軍編⑥[篠塚リッツ](2014/12/24 04:57)
[24] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十八話 戦後処理編IN洛陽①[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[25] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第十九話 戦後処理編IN洛陽②[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[26] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十話 戦後処理編IN洛陽③[篠塚リッツ](2014/10/10 05:54)
[27] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十一話 戦後処理編IN洛陽④[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[28] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十二話 戦後処理編IN洛陽⑤[篠塚リッツ](2014/12/24 04:58)
[29] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十三話 戦後処理編IN洛陽⑥[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[30] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十四話 并州動乱編 下準備の巻①[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[31] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十五話 并州動乱編 下準備の巻②[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[32] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十六話 并州動乱編 下準備の巻③[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[33] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十七話 并州動乱編 下準備の巻④[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[34] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十八話 并州動乱編 下準備の巻⑤[篠塚リッツ](2014/12/24 04:59)
[35] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十九話 并州動乱編 下克上の巻①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[36] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十話 并州動乱編 下克上の巻②[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[37] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十一話 并州動乱編 下克上の巻③[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[38] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十二話 并州平定編①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[39] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十三話 并州平定編②[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[40] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十四話 并州平定編③[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[41] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十五話 并州平定編④[篠塚リッツ](2014/12/24 05:00)
[42] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十六話 劉備奔走編①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[43] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十七話 劉備奔走編②[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[44] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十八話 劉備奔走編③[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[45] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第三十九話 并州会談編①[篠塚リッツ](2014/12/24 05:01)
[46] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四十話 并州会談編②[篠塚リッツ](2015/03/07 04:17)
[47] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四十一話 并州会談編③[篠塚リッツ](2015/04/04 01:26)
[48] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第四十二話 戦争の準備編①[篠塚リッツ](2015/06/13 08:41)
[49] こいつ誰!? と思った時のオリキャラ辞典[篠塚リッツ](2014/03/12 00:42)
[50] 一刀軍組織図(随時更新)[篠塚リッツ](2014/06/22 05:26)
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[19908] 真・恋姫†無双 一刀立身伝  第二十四話 并州動乱編 下準備の巻①
Name: 篠塚リッツ◆e86a50c0 ID:5ac47c5c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/12/24 04:59





 洛陽を出立してから一刀一行は問題なく歩みを進めていた。孫家軍にいた頃の行軍と比べると速度は劣ったが、それでも予定よりも大分早く司州を出て、并州に入ることができた。

 そして、并州に入って二日目のことである。

 いつものように朝食を取り馬車に乗ってかぽかぽ進んでいると、突然先頭を歩いていた要が緊張した様子で足を止めた。それを見て全ての人間が足を止める。すわ敵襲か、と兵にも緊張が走ったが、その緊張を打ち破ったのは底抜けに明るい、聞き覚えのある声だった。

「やー、久し振りやな。もうちょいかかるか思ったけど、随分早いやん」

 声の主は向かって右側の森から現れた。サラシを巻いただけの上半身に羽織と下駄。一度みたら忘れることのできない特徴的な装いは、紛れもなく張遼だった。氾水関で遠目に姿を見たことのある兵が驚きの声を挙げて距離を取る。『張来々!』と大騒ぎする彼らを気にする風もなく張遼は御者台にあがり、呂布の家族たちを見やった。

「無事に脱出できたようやな。と言うても、うちじゃ全員いるかどうか解らんけど」
「呂布将軍はどちらに?」
「この先にある屋敷におるよ。月たちも一緒や」
「では、そちらで受け渡しということでよろしいのでしょうか」

 そう問うのは、一刀の横に座っていた稟だった。洛陽での遣り取りは間に数人挟んでの手紙が主だったため、稟が張遼と直接顔を合わせるのはこれが初めてである。話に割り込んできた稟に張遼は軽く眉を顰めたが、頭から爪先までその姿を眺めると、彼女が軍師であることを察したらしく、旧来の友人にするように人懐っこい笑みを浮かべた。

「せや。あんたが郭奉孝やな。一刀から聞いとった通り、眼鏡の似合う美人さんやな」

 美人、という単語に稟の頬が一瞬で朱に染まる。恨みがましい目で睨んでくる稟を華麗にスルーしながら、余計なことを喋り捲りそうな張遼に、お手柔らかに、と釘を刺す。

「俺たち全員で押しかけても良いのですか?」
「別にええよ。恋からしたら、一刀たちは恩人やからな。一時的な避難先みたいな場所やから大したもてなしはできんけど、暖かい食事と屋根のある部屋は用意できるで」

 張遼の言葉を黙って聞いていた兵達から歓声が挙がった。孫家軍での調練から野宿にもはや抵抗はなくなったが、屋根のあるところで寝られるというのなら、それを断る道理はない。温かい食事が出るのならば尚更だった。

 あまり世話になるのは避けたかったが、一度こういう雰囲気になってしまったものを壊すのは忍びない。額を押さえて小さく呻いている稟を横目に見ながら、一刀は張遼の招きに応じることにした。












 屋敷というだけあって、張遼に案内された場所は本当に立派な屋敷だった。要を初めとした兵達は『おー』と感動の声をあげている。屋敷とは縁のない生活を送っていた人間ばかりだから、余計に珍しいのだろう。荀家で世話になっていた経験がなければ、自分もああしていただろうと思うと、彼らの態度にも親近感が湧く。

「馬車はあっちになー」

 張遼の言葉に従い、呂布の家族を乗せたもの以外の馬車がそちらに引かれていく。残った馬車は屋敷の正面に横付けされた。そこでは戟を持った呂布が相変わらずぼーっとした様子で待っている。一団の代表として、一刀がまず呂布の前に歩み出た。

「お久し振りです、呂布将軍」
「ん」

 呂布は言葉ですらない一音を発して、挨拶もそこそこ、御者台に飛び上がる。そのガラス球のような瞳で馬車の中を確認すると、天下の飛将軍は大きく頷いた。

「みんな、いる。ありがとう、かずと」
「お役に立てたのなら何よりですよ」

 今度は返答すらなかった。馬車の扉を開けた呂布は大事な家族との再会で忙しいらしい。旅の途中ではあれだけ懐いてくれた動物たちも今は呂布のことしか見ていない。元々彼女の家族なのだから当然であるが、妙に寂しい一刀だった。

「黄昏ているところ申し訳ありませんが、一刀殿。そろそろ」

 御者台の周囲には軍師が勢ぞろいしていた。招待されたのなら、それに応じなければならない。呂布と家族の再会は、一刀達にとってはついでのイベントに過ぎないのだった。

 こっちや、という張遼に案内されて、屋敷の中に入る。

 屋敷は床の隅にまで掃除が行き届いていた。空気も淀んでいない。避難先というから使われていない屋敷をどうにかしたのかと思っていたが、そうではないらしい。

「ここはウチの知り合いの屋敷でな。事情を話して貸してもらっとるんよ」
「張遼将軍は并州のご出身で?」
「ウチだけやなくて恋もそやで? 幼馴染、言うにはちょう付き合いは短いけどな。洛陽に来る前からのツレなんや」

 たわいもない世間話のように、張遼と会話をする。隣を歩く稟をはじめ、軍師三人は一言も口を開かない。会話をするのはお前の役目と言わんばかりだった。それでも会話そのものには耳を傾けているのだろう。稟などは反応が顕著で、会話の内容が変わる度に肩を震わせたり、目を細めたりと微細な反応を繰り返していた。

 採点されているようで、緊張する。彼女らも巻き込んでしまえば、この空気も晴れるのではと無駄な抵抗をしてみる一刀だったが、会話を振っても振り替えされ、結局は一刀と張遼の会話に戻ってしまう。軍師殿らはよほど、観察に徹したいらしい。

 これで会話もなくなってしまったら地獄だったが、張遼は見た目通り話好きのようで、それについては特に不自由することもなかった。

「――まぁ、そんなとこやな。さて、これから月にあってもらう訳やけど、そっちはこの四人でええの?」
「はい。俺と軍師の三人でご挨拶させていただきます」
「そか。そういえば自己紹介しとらんかったけど、中で一緒にさせてもらうわ。ほな、いくで」

 案内されたのは屋敷の中でも最も奥まった部屋だった。中央のテーブルを挟んで向かいに董卓と賈詡がいる。供の人間がいないのは、これが密談の類だからだろう。あちらはその二人と張遼で全員のようだった。

「陳宮殿はいかがされました?」
「ウチらに任す言うて恋のとこにいったわ」

 そうですか、とだけ答えて一刀は董卓の対面に座った。一刀が董卓の真正面で、左右に稟と風。雛里は風の隣に腰を下ろした。張遼が月の背後に付き従うようにして立つと、董卓が一度立ち上がり、深々と頭を下げる。追従するように一刀たちも立ち上がり、董卓の礼に応える。

「私は董卓、字を仲穎と申します。まずは、お礼を。仲間の家族を無事に連れていただき、ありがとうございました」
「董卓殿のお役に立てたのなら、何よりです」

 お互いの自己紹介はここでついでに行われた。着座すると、張遼が給仕を始める。その所作は意外に危なげがない。一刀たちが驚いているのを見ると、張遼は悪戯が成功した子供のように笑みを浮かべてみせた。何も口にしなかったが、『意外やろ?』と得意になっているのが良く解る。

 張遼の淹れてくれたお茶は本当に美味しかった。茶葉が良いものなのは分かるが、淹れ方も良いようである。張遼の意外な特技を見た一刀は、素直に感嘆の溜息を漏らした。

「董卓殿は、今後どうなさるのですか?」

 いきなり突っ込んだ問いをするのは、稟である。テーブルの向こうで賈詡が迷惑そうに目を細めているが、稟にとっては何処吹く風だった。北郷軍の対外交渉担当でもある稟の胆力は、多少のことではびくともしない。

「いずれは涼州に戻るつもりだけど、しばらくは何処かに身を隠すつもりでいるわ」

 稟は確かに董卓に問うたはずだが、その質問に答えたのは賈詡だった。今度は稟が目を細める。対する賈詡は得意顔だ。こちらの交渉役が稟であるように、向こうは賈詡がこういう面倒くさいことを担当しているのだろう。確かに、お嬢様然とした董卓がやるよりも、話は早くまとまりそうだ。交渉する側としてはそれも痛し痒しである。

「当てはあるのでしょうか」
「どこで情報が漏れるか解らないし、その辺りは秘密にさせてもらうわ」
「左様ですか。これから我々は并州に根を張る身です。一県令の立場ではありますが、お役に立てることがありましたら何なりとお申し付けください」
「ご丁寧に。でも、恋の家族をここまで連れてきてくれただけで十分よ」

 ありがとう、と礼を言う賈詡の顔には微かに笑みが浮かんでいるが、言葉そのものは突き放すようである。稟はどうにかして董卓軍と関係を持とうとしているが、あちらはそれほど乗り気ではない。

 それも解る気もする。この関係は弱小勢力である北郷軍にこそメリットは大きいが、都落ちしたとはいえまだ強大な勢力である董卓軍には、それほどの旨みはない。恩を売ったという事実こそ残り、董卓も賈詡もこれを無碍にしたりはしないだろうが同時に、構築できるコネはその程度で終わってしまう。

 これでは軍師としては面白くない。どうにかしてもっと恩を売りたい、関係を持ちたいというのが稟の本音なのだが、賈詡の反応冷ややかである。

 それでもめげずに当たり障りのない会話を続ける辺り稟の粘り強さも相当なものであるが、これは無理だろうな、というのが一刀にも何となく解ってしまった。風など既に諦めモードで、うつらうつらと船をこぎ始めている。張遼も退屈そうだ。

 雛里はその中でも頑張っていたが、交渉役が稟一人であるためにこの場ではすることがない。緊張を強いられる場面で、行動に逃げられない人間は活動している人間よりもい疲れる。

 間の悪いことに雛里はプレッシャーに弱い性質であるので、この状況は酷く堪えるのだろう。脂汗をかいたその顔は既に青くなっていたが、体調が悪そうだから中座しますとは言い出しにくい雰囲気だった。相手が気を使ってくれればと董卓陣営を見るが、賈詡は稟の相手で忙しく張遼は暇そうに佇んでいるだけでこちらを見てはいない。董卓は周囲に気を配っている風ではあったが、こちらよりも仲間の賈詡が気になるらしく時に微笑ましく、時にはらはらとしながら自らの軍師を見つめていた。

 助けを求めるように雛里が視線を送ってきても、申し訳ないがどうしようもなかった。一刀にできることは、雛里のために祈ることだけである。


 幸い、稟と賈詡の話し合いは雛里の胃に穴が開く前に終了した。

「話が終わったところで、ちょっとええかな」

 これでゆっくりできる、と立ち上がろうとしていた雛里は張遼の言葉で体勢を崩した。倒れそうになる雛里を寸でのところで抱きとめる。『はわわ……』と呻く雛里は相変わらず可愛くその身体は癖になりそうなくらい柔らかかったが、それを堪能するには周囲の視線が多すぎた。稟のいてつくような視線に、一刀はわざとらしく大きな咳払いをすると、雛里を椅子にそっと降ろす。

「お騒がせしました。お話を伺わせていただきます、張遼将軍」
「話の前に聞いときたいんやけど、一刀んとこ、兵ってどないなっとるん?」
「それは何とも。これから赴任する先の県の兵を使うことになりますが、何分洛陽で目録を確認しただけですので実数はわかりません。俺個人の、ということでしたらおよそ二十人といったところでしょうか」
「つまり、表にいる連中で全員ってことやな」
「そうなりますね。お恥ずかしい限りですが」

 孫呉を蹴ってまで自分についてきてくれた仲間である。彼らにはいくら感謝してもし足りないが、大軍団を指揮していた張遼を前にするには、聊か物足りないのは事実だ。
発言には思うところがあるものの、事実であるので仕方がない。言葉を吐いたのが張遼ならば尚更である。

「確かに頭数は少ないけどな、仲間をそんなに卑下するもんやないで。ええ奴らやないの。皆、一刀についてきたくてついてきたんやろ?」
「俺には勿体ない仲間です」
「そか。せやったら、ウチもその仲間に加えてくれんかな」
「……なんですって?」

 言葉の意味は理解できていたが、とっさに聞き返していた。稟たちは元より、賈詡も董卓も目を向いて張遼を見ている。平然としているのは、張遼本人のみだ。

「そのままの意味なんやけどな。ウチを一刀のとこで使こうてくれへんかなー、いう話なんやけど、どないや?」
「いや、俺としては願ってもない話ですが……」
「どういうことよ霞!」
「そりゃあウチは武人やからな」

 答える張遼は邪気のない笑みを浮かべる。

「戦のないところにおってええはずがない。月にも詠っちにも恩義はあるけど、ほとぼり冷めるまで再起はせえへんねやろ? せやったら、腕を錆びさせておくんももったいないし、これから大事な時期の一刀とこに世話んなろうかなー思ったんよ」
「思ったんよってあんた……」

 張遼の物言いに、賈詡は押し黙ってしまう。武将がその腕を生かす場所を求めて主を変えることはこの時代良くある話だ。

 故に有能な武将、軍師を抱えている勢力は彼ら彼女らに逃げられないよう待遇を良くしたりして対応する訳だが、戦から距離を置こうとしている董卓と戦場を求める張遼とでは、求める環境が全くと言って良いほど合致していない。

 ならば新たな戦場を求めて、という張遼の言い分もわからないではないが、大陸を二分した勢力の将軍が一県令の下に着くというのは前代未聞である。張遼ならばそれこそ曹操軍でも孫策軍でも、いくらでも仕官先があるはずなのだが……

「一刀のとこ、面白そうやからな。恋の家族も気に入ってたみたいやから悪い人間やなさそやし、これから軍団を編成するなら仕事も沢山あるやろ?」
「将軍にご満足いただけるような戦場は提供できないと思いますが……」

 汜水関で張遼を前にし、死ぬ思いをしたのを思い出す。あんな環境にそう何度も巡り合うとは思いたくはない。彼女ほどの武人が近くにいてくれるのならばこれ程ありがたいことはないが、北郷一刀に張遼ではどう考えても宝の持ち腐れだ。

 それにいくら差しあたって戦う予定がないとは言え、放出する側からすれば溜まったものではないだろう。こちらの世界にきたばかりの頃ならば諸手をあげて歓迎していただろうが、今は自分の立場を考えるくらいの余裕はある。董卓軍との関係を考えたら、すぐに飛びつくのは得策ではない。

 隣で稟が小さく頷くのが見えた。対応は、間違っていなかったようだ。

「いらん言うなら無理にとは言わんけどな。ま、今日いっぱいは考えてみてな。ウチは別に逃げへんし、お仲間と相談する時間も必要やろ」
「お気遣い感謝したします」

 別に気にせんでえーよー、と張遼の口調は緩いままだ。態度から、その真意は測りかねる。今の主である董卓を前に口にしたのだから、冗談の類ではないはずだが、それでも、戦がないところにいたくはないと口にしてしまった以上、董卓のところに留まる理由も消えてしまった。

 これで自分が断ったら、彼女は一体どこへ行くのだろうか。止せば良いのに、と冷静な自分が声をあげるが、現実の一刀は躊躇わずに小さな自分に反逆した。

「気を悪くされないで聞いてほしいのですが、もし俺が断ったら、将軍はどうなさるのですか?」
「んー? まぁ、実家に帰るんもええか思っとるよ。并州はウチの地元やしな。昔の仲間んとこ戻って身の振り方でも考えるわ」
「もしや、呂布将軍も?」
「恋はどないやろな。まだ話しとらへんのやけど、案外恋も同じこと言うかもしれへんで。家族はみーんな一刀に篭絡されてもうたみたいやし、恋ももうころって落ちてもうてるかもな」

 ははは、と張遼は笑うが一刀は全く笑えなかった。賈詡の視線が痛い。董卓も視線を一刀と張遼を交互に見つめ、落ち着かない様子だ。いずれにしても、張遼は董卓軍から離れるということを決めているようだった。ならば移籍のための交渉をするのも、悪い話ではない。

 だがここで飛びつくのはよろしくない。ゆっくり考えてくれと向こうから言ってくれたのだから、お言葉に甘えて考えることにする。

 まとめ方こそアレな感じとなってしまったが、この屋敷での最初の会合はアレで終わりのようだった。何やら忙しくやりあっている賈詡と張遼を他所に、給仕が入ってくる。いずれも若い少女だったが、立ち振る舞いが異様に洗練されている。いざという時は兵の役目も担うのだろうことは、一目で解った。例えばここで剣を抜いて飛び掛ったとしても、三合と持たずに切り捨てられるだろう。

 相変わらず、自分の腕は大したことないなと心中で苦笑しながら、董卓たちに挨拶をし、部屋を出て行く。扉がしめられ董卓たちの姿が見えなくなると、雛里が大きく安堵のため息をついた。横を歩きながら、お疲れさま、と雛里の頭を撫でる。それで青い顔をしていた雛里は真っ赤になった。手を払われなかったのを良いことに、ぐりぐりと頭を撫で続けていると、凛がわざとらしく咳払いをした。

 名残惜しいがお楽しみの時間は終了である。未練がましく今度は稟の頭に手を伸ばすと、間髪いれずに叩き落とされてしまう。稟の顔は真っ赤に染まっていた。羞恥というよりは怒りの色が濃い。これ以上調子に乗ったら殴られると察した一刀は、早々に降参の意思を示した。

 軽く両手を挙げると、稟はつまらなそうに小さく息を吐いた。これだから貴殿は……という心の声が聞こえてきそうである。

 でも、稟の頭はがしがしと撫でてみたい。撫でさせてくれない相手にこそ、一刀の魂は燃え上がる。稟が雛里とはまた違った反応を見せてくれることは想像に難くない。それには殴られたり文句を言われたりする覚悟が必要になるが、荀彧を相手に鍛えられた一刀にはそんなものはどこ吹く風だった。いつか絶対撫で回してやると廊下を行きながら固く心に誓う。

 視線を下げれば、思わせぶりに頭を差し出している風が見えた。こちらを見てはいないが、ふふふーと底意地の悪い笑みを浮かべているのは手に見て取れた。撫でてほしいから頭を差し出しているのだろうが、これを撫でたら即座に稟から報復があるのは目に見えている。報復を恐れたりはしない一刀だったが、流石に今この時に冒険するのは躊躇われた。ここで風を相手にオイタをしたら、稟は多分口をきいてくれなくなる。殴られたり罵倒されたりするのは耐えられるが、放置プレイは勘弁してほしい。

 一刀が何もしないことがわかると、風はあっさりと頭を引っ込めた。何も言ってはこなかったが、頭の上の宝譿が一刀を非難するように動いた……ように見えた。

 そもそも、人形が動くはずはない。疲れてるのかな……と一刀は目をこする。

 給仕に通されたのは一人部屋だった。一刀以下、三人の軍師には個室が与えられ、それ以外の兵は大部屋である。一刀個人は大部屋で枕投げでもして遊びたかったのだが、世の中そういう風にはできていないらしい。立場というのは面倒くさいものである。

 食事の際にはお呼びいたします、とだけ残して給仕は部屋を出て行った。扉がしまっても、一刀は去っていった給仕の背中を思い浮かべていた。荀家でも思ったが、この世界の給仕服には華やかさが足りないように思える。一刀個人の好みとしては、もう少しひらひらしてても良いと思うのだが、その好みがしっかり採用された給仕服というのはこの世界ではまだ見たことがない。

 ひらひらしたメイド服の採用は権力者になったらやってみたいなーと思っていたことの一つである。口にしたら縁を切られそうなので、まだ誰にも言っていないが。自分ではデザインはできないから、企画を服飾師に持ち込んで製品化してもらうことになるだろう。技術的には問題ないはずなので、後は予算の都合がついて稟に邪魔されなければ
メイドさんを侍らすことは可能となるはずだった。

 デザインが受け入れられるかという問題もあるが、軍師の学校がミニスカを採用してるくらいである。給仕にメイド服を採用したところで、それが奇抜すぎるということはないはずだ。実際に給仕をする人間がOKと言ってくれれば、それ以上の問題はない。

 メイド服を着た稟を想像して、一刀はほくそ笑んだ。拝み倒しても着てはくれないだろうが、想像するだけならば自由だった。何か罰ゲームの権利でも勝ち取った時に提案してみることにした。

 深呼吸して、気分を切り替える。旅の疲れもあったが、食事まで時間があるのならできることをしたい。扉をあけて廊下を見る。給仕さんの監視はついていなかった。稟たちに声をかけようかとも思ったが、一人で歩き出す。下手に立ち入り禁止のところに突っ込んでも問題があるから、そそくさと、寄り道をせずに、今日通ってきた場所だけを通って、一刀は外へと繰り出した。

 横付けされていた馬車は厩の方に片付けられていたが、動物たちはまだそこに残っていた。ご主人様とその子分も一緒である。闖入者に子分の方は無遠慮な視線を向けてくるが、親分であるところの呂布はガラス玉のような視線を持ち上げ、ぺこりと頭を下げるだけだった。一拍おいて、一刀も慌てて頭を下げる。ぼーっとしている呂布を見ていると忘れそうになるが、彼女は当代最強の武将なのである。礼を払って払いすぎるということはない。

「ご家族はどうですか」
「みんなげんき。ありがとう、かずと」
「将軍の手助けができたのならば、何よりです」

 言葉を返すと、ぱたぱたとセキトが駆け寄ってくる。

「久しぶりだなーセキト」

 抱き上げると、セキトは遠慮なく顔をなめてきた。身体を撫で回すと、気持ち良さそうに小さく唸る。暖かな毛並みに柔らかなお腹を遠慮なくぐりぐりと撫で回す。北郷一刀、至福の時だった。

「おいちんこ県令。話があるのです」

 自分が呼ばれていることは状況から判断できたが、即座に返事をすることには抵抗のある呼称だった。呼びかけてきたのは、董卓軍の軍師であった陳宮である。これまた奇抜な衣装をした少女が、親の仇でも見るような目でこちらを見上げている。彼女に粗相を働いた記憶はないが、悪印象を持っているのは間違いがなかった。なにしろちんこだ。

「私のことでしょうか?」
「お前以外に誰がいるのですか。頭の悪いちんこ県令なのです」

 ふふん、とぺったんこな胸を張る仕草が異様に様になっていた。いつまでも偉そうに見えないと稟に小言を言われる立場としては、地味に羨ましい特性である。

「話の腰を折って申し訳ありません。それで、私に何か御用でしょうか軍師殿」
「お前、霞から例の話は聞いたのですか?」

 霞、という名前に首を傾げるが、それが張遼の真名であることにはすぐに思い至った。

「例の話といいますと、張遼将軍が私のところに、という話でしょうか?」
「そうなのです。お前、霞の奴をどうするつもりなのですか?」
「良い話だとは思いますが、同時に難しい話でもあります。色々なことについて考えなければなりませんから」
「霞を御せると思ってるのですか?」
「私のところに来ていただいた場合、という仮定で話を進めさせていただきますが――」

 陳宮の視線は鋭さを増している。余計なこと、ふざけたことを口にしたら蹴飛ばしてやると、何より視線が言っていた。細いその足は無限の可能性を秘めているように思えた。あの足で蹴られたら、もの凄く痛いだろう。脚力どうこうという話ではない。おそらく陳宮は、何の手加減もなく、容赦なく、全力でこちらを蹴飛ばしてくる。

「大体の部分をお任せするという形になるでしょう。俺は大軍団を指揮した経験はありませんし、仲間の軍師も同様です。将軍の知識経験は、俺たちの大きな助けとなることと思います。正直、喉から手が出るほどに欲しい人材です」

 我ながら惚れ惚れするくらいの、型どおりの返事だと思った。これは相手が張遼でなくとも一字一句違えることなく利用できる文言である。陳宮の目つきが胡乱なものに変化する。言った自分が理解しているのだから、聞いた陳宮がどう思うかは想像に難くない。どうにも直情径行型の人格なようだから、馬鹿にされたと判断したら即座に蹴りが飛んでくるかもしれない。いつ蹴られても良いように一刀は密かに防御体勢を取ったが、蹴りは飛んでこなかった。

 陳宮の顔には不満と書いていてあったが、それだけだった。じっと一刀を睨んだ陳宮は不機嫌さを全く吐き出さないまま、

「恋殿。このちんこはこんなことをいっておりますぞ」

 判断を呂布に丸投げした。呂布は構っていた家族を地面に降ろすと立ち上がり、足音一つ立てないまま一刀の眼前まで移動した。目の前でじっくり見ると、武将であることが良く解る。むき出しのお腹にはしっかりと筋肉がついていたし、細身ながらも引き締まった身体をしている。それでも一刀の故郷の世界の強者よりはずっと細身であるのだろうが、美少女は理解不能なパワーを発揮するこの世界において、呂布の身体つきは相当に強そうな部類に入るように思えた。

「かずとのところは、人手が足りない?」
「あって困るということはないと思います。何分、領地となる場所の状況を、俺も把握しておりませんので」

 まずは現地についてからですね、と一刀は言葉を締めくくったが、次に呂布が言い出しそうなことについて、何となく察しがついてしまった。陳宮の機嫌が悪いのは、要するにそういうことなのだろう。

 呂布はガラス玉のような瞳に、小さじ一杯分の好奇心を滲ませて、言った。

「かずと、恋のご主人さまにならない?」
















「……貴殿の手腕には目を瞠るばかりです」

 稟の声には温度というものが感じられなかった。褒められているはずなのに、怒られているような気さえする。椅子の上で、思わず正座をしてしまったほどだ。身体が痛いのですぐに膝は崩してしまったが。

 一刀の部屋として割り当てられた部屋に、軍師全員が集合していた。要たち兵は全員、大部屋で盛り上がっている最中である。『俺たちでも飛将軍に一矢報いるにはどうしたらいいか』という果てしない無理難題について、熱心に議論している彼らを止めようか迷ったが、たまたま部屋の横を通り過ぎた陳宮が完全無視を決め込んだので、放っておくことにした。どんなものであれ、夢を追いかけるというのは良いことだ。

「呂布将軍まで、貴殿の元で働きたいと?」
「そういったね」
「本気なのでしょうか」
「嘘を言ってるようには見えなかったな。陳宮殿は不機嫌そうだったし」

 何度も蹴られそうになったよ、と苦笑を浮かべながら付け加えると、稟は大きくため息をついた。メガネを外して目を閉じ、指でまぶたを揉み解している。稟に一番似合う仕草だ。何だか嬉しくなってにやにやしていると、メガネをかけなおした稟がぎろりと睨んでくる。一刀は微笑みを浮かべて視線を逸らした。

「何れにしても良かったのではありませんかー? あのお二人が仲間になってくださるのなら、風たちとしては万々歳ですし」
「しかし、董卓殿との今後の関係にも関わる問題です。軽々に決めるのはどうかと思うのですが」
「でもさ、張遼将軍はどっちにしても出て行くつもりみたいだぞ? それに向こうからこっちに来たいって言ってるんだから、それを受け入れない手はないと思うんだ」
「頭から信じてかかるのは危険なのでは?」

 稟の声音はあくまでも落ち着いている。張遼の言葉に、何か裏があるのではと疑っているのだ。穿ちすぎでは、というのが一刀の所見であるが、稟の言うことにも一理あるのも事実である。一刀は椅子に深く腰を落ち着けて、大きく息を吐いた。

「稟は、将軍たちを受け入れるのは反対?」
「大賛成です。董卓殿のことを考えなければ、そも反対する理由がない。我々の戦力不足は深刻ですから。ここで両将軍を迎え入れることができれば、大分楽になります」
「要するに、角が立たないように受け入れられれば良いんだろ?」
「それができれば苦労はしません」

 まったくだ、と一刀は項垂れる。さてどうしたものかと考えていると、風が椅子から立ち上がりすすす、と近寄ってくる。なんだなんだと見ていると風は軽く首を横に振った。否定の仕草ではない。確証はないが『退け』というのが一番近いだろうか。椅子から退けというのならばこれほど横暴なこともないが、さてどうしたものか。とりあえず身体の正面を空けてみると、それが正解だったのか風はぴょんと一刀の膝の上に飛び乗った。そのままもぞもぞと膝の上で動き、自らの収まりの良い所を探し始める。

 初めてのことではないが、仮にも男性である一刀は気が気ではない。年頃の美少女が膝の上でもぞもぞしている光景というのは、色々な意味でよろしくなかった。雛里は気まずそうに視線を逸らしているし、稟は苛立たしげに踵を鳴らしている。何もなければ迷わず逃げ出しているところだが、膝の上の風が重しになって逃げられない。何だか前にもこんなことがあったような気がする……と過去の記憶を引っ張り出そうとした一刀の口に、ぐるぐる飴が突っ込まれた。

 あぁ、前もこんなだったな、と納得しながら飴の甘ったるい味をかみ締めていると、すわりが良くなったのか風はようやく動きを止めた。ベルトのように一刀の腕を前に回してようやく完成である。

「風に妙案があるのですが、聞いてもらえますか?」
「私はあなたの行動に関して問いただしたい気分ですが、ひとまずそれは置いておきましょう。それで、どんな手なのです?」
「いやー、別に大したことではないんですけどねー」

 ふふふーと微笑む風の表情は、しかしそれが大したことがあると物語っていた。風が不敵な笑みを浮かべる時は、何気に自信がある時なのである。

 風は自分に皆の視線が集まるのを待ってから、薄い胸を張って堂々と言ってのけた。

「いっそのこと、幹部の皆さん丸ごといただいちゃうのはどうでしょうか」











すいません、間に合いませんでした。
今回から并州パートです。月たちとの話し合いは次回でまとめて、次々回からはついに領地につきます。


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