「まったく、婆やにも困ったものだわ……」 通りの影に隠れるようにしながら、少女は一人ごちた。大通りから少し外れた、少女が一人でいるには似つかわしくない場所である。少女本人は隠れているつもりでもその実凄く目立っており、周囲の目を集めに集めていたが、隠れたつもりになっている少女だけがそれに気づいていなかった。 目立たないようにしながら、気息を整える。家からついてきた追っ手は今撒いてやったばかりだ。今ごろ血相を変えて辺りを探しているはずである。いずれ見つかってしまうだろうが、故あって人を多く割くことができないので、見つかるまではまだ時間がかかるだろう。 それまでは、自由な時間だ。 とは言え、街を一人で歩くのは初めての少女にとって、いきなり自由と言っても持て余すだけである。 何しろ、何処にどんな店があるのかも良く知らないのだ。一人で歩いて良く分からない店に入り勝手に失礼を働いては、自分の名誉に関わる。 そうならないために案内役が必要なのだが、その人選に少女は難儀していた。 普段の供回りは先ほど撒いたばかりなので、案内役は現地で調達しなければならない。地元の人間であることが望ましいが、それも絶対ではなかった。求めるのは一緒にいて楽しい人間である。こちらの立場を邪推したりせず一人の少女として扱ってくれ、かつ、淑女として自分を立ててくれる。 そんな貴族的でありながら庶民的な、できれば顔立ちの美しい男性が少女の求める人材だった。 追っ手から逃げつつもそんな男性を探しているのだが、少女の眼鏡に適う男性はいまだに見つかっていない。 これだけ人がいるのだから一人くらいは、と楽観していたのだが、それが甘かったのだろうか。 もしかして高望みをしているのかも……と刻一刻と消費されていく時間を思うと不安になるが、せっかく追っ手を撒いてまで一人になったこの状況で、妥協しても楽しくはない。 自分の意思で決めて、ここまで来たのだ。良くない結果が先に待っているとしても、自由でいられる間は絶対に妥協したくない。 萎えそうになる気持ちを叱咤し、追っ手の目を気にしながら街を移動する少女の脇を、一人の男性が通り過ぎた。 その瞬間、少女は振り返り、その男性の腕を掴んでいた。 その行動に理由があった訳ではない。一番驚いていたのは、少女自身だった。腕を掴れた男性も何事かと目を丸くしている。 手を繋いで見詰め合う男女に、周囲の視線が集まっていく。 いつまでもこのままでいる訳にもいかない。 この男性がどういう素性の人間かさっぱりだったが、自分の嗅覚はこの男性は『当たり』と告げていた。 不細工ではないが、美形でもない。容姿としては中の上の域を出ないことが不満と言えば不満であるが、容姿以外の条件は満たしていそうなこの男性を逃すことはできなかった。 生まれてからこれまで、一番緊張している自分を意識しながら、少女は口を開いた。 「この街に不慣れなの。案内してくださらない?」 昼飯を食べようと一人で街を歩いていたら、いきなり腕を掴れた。 兵士をしているとそういうこともないではない。洛陽は大都市で、そこには多くの人間がいる。覚えのない喧嘩に巻き込まれることも日常茶飯事だ。 腕を掴れたその瞬間、また喧嘩か……と内心辟易したものだが、振り返った先にいた少女の姿を見て、一刀は目を丸くした。 目の覚めるような美少女だった。 仲徳や士元も相当だが、眼前の少女は更にその上を行っているような気さえする。 年齢は士元と同じか、少し下くらいだろう。肌の全く露出しない長衣は動きやすさを考えつつも、所々に装飾品のアクセントがある。その一つを取っても、目の飛び出るような金額がかかっていそうなことが、一刀の目にも解った。 仲徳と同じくらいの長さである黒髪は絹のようで、良く手入れされているのが解る。立ち振る舞いにも口調にも、隠しようのない気品が感じられた。 先に知り合った公達に高貴なものを感じた一刀だったが、この少女は雰囲気はそれ以上だ。 どこか由緒ある家の姫様か金持ちのお嬢様か。いずれにしても、そんじょそこらの庶民ではあるまい。間違ってもただの兵である自分が関わって良いような身分でないのは一目で解ったが……何がどうなっているのか、少女は自分に案内をせよと言っている。 これが人生のモテ期という奴かしら……と内心で冗談も言ってみるが、世の中そんなに甘酸っぱくはない。「一人?」 一刀の問いに、少女はこくりと頷いた。 これに一刀は疑問を抱く。 少女が高貴な身分であるのなら、一人で出歩いているはずはない。戦争も一応の決着を見せたとは言えまだまだ物騒な世の中だ。こんな人の多い場所を歩くのなら、護衛の一人や二人はいないと絶対に可笑しい。 少女の行動に配慮しているのかと辺りを見回してみるが、護衛らしい影はない。 尤も、その護衛が思春クラスの実力者であれば自分に感知できるはずもないが、護衛する立場からすれば今の自分は不審者も不審者である。そんな自分が排除されないということは、きっと護衛はいないのだろう。 すると今度は『護衛はどこにいったのか』という疑問が湧き上がってくる。 一番最初に思いついたのは、眼前の少女が護衛を撒いてきたという可能性だ。高貴な雰囲気を漂わせているが、お転婆な感じもひしひしと伝わってくる。 兵士としての感性では、この少女に付き合うべきではないと感じている。付き合うふりをして少女を探しているだろう護衛の方々に引渡し、何事もなく昼食を取って通常の業務に戻る。それがデキる兵士の過ごし方というものだろう。 しかし、困っている美少女の面倒を見てあげたいというのも、男として当然の感性だと思うのだ。 きっと自分が断れば、違う人間を探して声をかけるのだろう。 それを想像すると、そんなことをさせてなるものか! という気分になった。男というのは正直な生き物である。「俺はこれから昼飯なんだけど、一緒にどう?」「むしろ望むところよ。私、一度街で食事をしてみたかったの」 一刀の誘いに、少女は二つ返事でOKを出した。 お嬢様に貧乏人の食事など口に合うのか心配だったが、少なくとも少女は乗り気のようだ。同行にOKを出してもらったことで、一刀の今日の食事は少しだけグレードがあがった。場末の食堂で一番安いメニューを頼むつもりだったが、いくら少女が乗り気とは言え、甘寧直属隊御用達の店に行くのは気が引けた。 少女に人目は不味かろうという配慮もあったが、何より今は知り合いに会いたくない。 先日、公達を助けた件で奉孝達には目をつけられているのだ。この少女をエスコートすることに疚しいことなど一つもないが、喧嘩する原因になりそうなことを排除しておくに越したことはない。 幸い、口が固そうで軽い子義も今はお使いで席を外している。 完全に、少女と二人きりの状況だった。「じゃあ行こうか。少し人ごみの中を歩くから、はぐれないようにね」 だから手を繋いでいこうと、手を差し出したつもりだったのだが……少女は差し出された手を、不思議そうに見つめるばかりだった。握ろうともしないし、かと言って拒絶しているようにも見えない。 手を差し出したまま固まる一刀と、それを見ているだけの少女。傍から見ると実にシュールな光景だった。「……私はこの手をどうした良いの?」「はぐれるといけないから、手をつながないか?」 いや、別に嫌なら良いんだけども、と補足することも忘れない。初手をスルーされたことで、地味にナイーブになっている一刀である。その焦りが伝わったのか、少女の顔にからかうような笑みが浮かぶ。 孫策が士元をからかう時のようなその表情に、手を差し出したまま僅かに身を引いてしまう。 そんな一刀を追いかけて、少女はそっと手を握ってきた。見た目の通り柔らかい手だったが、微かに固さも感じる。剣か拳か、何か武術を嗜んでいる手だ。「武術も淑女の嗜みなのよ」 疑問が伝わったのか、少女が笑みと共に教えてくれる。気を使われたようで、少し恥ずかしい。「そう言えば自己紹介がまだだった。俺は北郷一刀。北郷が姓で名前が一刀。字はない」「私は劉姫よ。字は伯和。よろしくね、一刀くん」 小学校でも行き違いになりそうなほどに年の離れた少女に『一刀くん』と呼ばれるのがこそばゆかった。こちらの世界に来てからは初めてかもしれない。 初めてが年下の美少女というのは良いことなのか悪いことなのか分からないが、少女を上に置くことに違和感はなく、くん付けで呼ばれても不快な感じはしなかった。 伯和の手を引いたまま、道を行く。相変わらず人は多いが、やってきた時に比べると治安も良くなった。二つの関と異なり、戦火に巻き込まれたのは最終戦、それも門の付近だけ。その復興も終わりつつある今、洛陽の街は戦前の姿を取り戻そうとしている。 一つの戦が終わり、次の戦のための準備が始まろうとしていた。 各軍の上層部は今、此度の戦の論功行賞について話し合っている。得られるものは当初の予定よりも遥かに少なくなったが、董卓を洛陽から追い出したことで、宙ぶらりんになった利権がいくつかある。その分配が済み次第、各軍は撤収、領地へと戻ることになるだろう。 身の振り方を考えなければならないのは、一刀も一緒である。 この戦の間だけという契約ではあったが、孫策が何か手を打ってくるというのは目に見えていた。思春も言葉では好きにしろと言っているが、一刀は残るものとして話を進めている雰囲気がある。 仲間として認められているのだと思うと嬉しい限りだが、奉孝たちのことを考えると独立の思いを捨てることもできなかった。 彼女達の知恵に見合うよう一生懸命に戦ったつもりだったが、それが今、彼女達を苦しめることになっている。 世の中難しいものだ。「ここにしようと思う」 一刀が足を止めたのは、大衆食堂だった。 当初食事をする予定だった屋台よりは値段が張るが、適度に清潔感に溢れているし客層も大人しい。何より同じ部隊の人間と顔を合わせる可能性が低いというのが、選んだ理由だ。「へえ……一刀くんは普段、こういうところで食事をしているのね」「まあね。あぁ、足元に気をつけて」 伯和の手を引いて店内に入る。 昼時ということもあって、店内は賑わっていた。兵士に大工に商人にその他諸々。立場の偉そうな人間は一人もいない。まさに庶民のための庶民の食堂だった。 そんな中、突然現れた育ちの良さそうな美少女に、皆が目を奪われる。 それでたじろぎもすれば騒ぎになったのだろうが、肝が据わっているのか、男たちの無遠慮な視線に晒されても伯和は全く動じなかった。 男たちはそれで、大きな興味を失ったようだった。何しろ美少女であるから視線を集めはするが、どういう人間なのかという興味は失ったようである。 彼らは再び働くエネルギーを得るために食事をしているのであって、食事そのものを楽しみにきているのではない。自分に関係のないことに関わっているような時間は、彼らにはないのだ。「いらっしゃい。二人かい? 角の席を使っておくれ」 給仕のおばちゃんが示したのは、ちょうど良いことに二人席だった。奥まった場所にあるので、あまり目立たない。知り合いに会わないようにと思っていた身には絶好の場所だ。「どうぞ」 席を引くと、当然のように伯和は腰を下ろした。ありがとう、と礼を言うことも忘れない。 まるで自分が紳士になったようで、少しだけ気分が良くなった。 伯和の対面の席に座ると、伯和から正位置になるようにメニューを渡す。ラインナップは前に来た時と変わっていない。冒険をしたメニューもないのは残念ではあるが、それだけに何を頼んでも外れはない。「目移りしちゃうわね……」「この中ではラーメンがお勧めかな」「じゃあラーメンにするわ。一刀くんも同じもの?」「もちろん」「お揃いね。嬉しいわ」 微笑む伯和を横目に見ながら、おばちゃんに注文する。 食堂の雑多な喧騒の中、伯和を見た。場末の食堂の中にあっても、美しさが損なわれることはない。長い黒髪を指で弄りながら、面白そうに周囲を見回している。「こういう場所、初めてなんだよな?」「ええ。実家の食堂以外で食事をするなんて、数えるほどしかないわ」 「連れてきた俺は責任重大だな」「そうね。これで口にあわなかったら、終身刑にしちゃうんだから」「それは怖いな……でも、俺が払える範囲で食った中では、ここは一番の味だよ。これで駄目なら大人しく獄に落とされるしかない」「期待してるわよ」 待っているうちに、ラーメンが運ばれてきた。湯気の立つラーメンに、伯和が感嘆の溜息を吐く。 お嬢様過ぎてラーメンを知らないのか、という可能性に今更思い至ったが、いただきます、と両手を合わせた伯和は迷うことなく箸を取り、麺を啜っていく。 実にお上品な食べ方に、思わず一刀の頬も緩む。「私を見るのに夢中だと、麺がのびちゃううわよ」「……いただきます」 どうにも、この少女とは相性が悪いようだった。「一刀くんって兵士よね?」「そうだよ。所属は――」「江東の孫策旗下、甘寧将軍の部隊に所属してるのよね?」「もしかして、前に会ったことあるか?」「貴方、有名人よ? かの飛将軍呂布に一騎打ちを挑んで退けたって。そんなに腕が立つように見えないけど、本当なの?」「挑んでもいないし、退けてもいないよ」「でも、あの呂布の前に立って生き残ったのは事実なんでしょう? 凄いじゃない」「ありがとう。麺がのびるぞ」 この話はこれで終わり、という意味を込めて食事の再開を促すと、伯和は上品ににやりと笑った。「甘寧部隊の副官になったと聞いたけど、このまま孫策に仕えるつもりなの?」「そういうことになるかもしれない、ってところかな。この戦の間だけって契約のはずなんだけど、どうも雲行きが怪しいんだ」「呂布を退けた渦中の人だものね」 まだ言うのか、と軽く睨むが伯和は何処吹く風だ。「でも、私が孫策の立場だったとしても一刀くんを手放したりはしないと思う。それに、一刀くんから見ても悪い話じゃないはずよ? 孫策は曹操と同等の有力株だもの。袁紹が脱落しかけてる今、乗る勝ち馬としては申し分ないわ。立身出世もしやすいはずだけど、何が不満なの?」「自分の領地を持ちたいと思ってるんだ」 見た目に反して情報通な伯和に舌を巻きながらも、関係者でないことから一刀の口も滑らかになる。仲間の軍師が三人いること。彼女らとの目標で、自分の領地を持ちたいこと。 そしてできるなら、天下に覇を唱えてみたいこと。 大それた望みだとは自分でも思うが、あれだけ有能な軍師が一緒にいるのだ。せめて彼女らに見合うだけの舞台は用意してあげたいし、それに相応しい実力を持ってもみたい。 それは一刀の切実な願いだったが、現実はそうもいかなそうなこと。 ラーメンを食べながら、気づけば今の状況を詳細に伯和に話していた。 全てを話し終わった後、子供にする話でもなかったかと遅まきながら伯和の顔色を伺う。伯和は真面目な顔をして思案していた。ラーメンの丼はいつの間にかスープを残して空になっている。「元々の契約を反故にするのはあちらなのだし、お仲間の軍師も優秀みたいだから、話のもって行き方次第では孫策の下でも領主になれると思うのだけど」「それだともっと上に行くには、いずれ孫策様を押しのけないといけないだろ? 世話になった人にそういうことをするのを前提に仕事するのは、ちょっとどうかと思うんだ」「押しのけるだけが出世の手段じゃないと思うのだけど……本当、貴方は変な所で真面目なのね」「他に何か手段があるような言い草だな」「孫策は女性なんでしょう? 一刀くんの魅力で篭絡してみたらどうかしら」「馬鹿を言うなよ……」 そんな恐ろしいことができるはずもない。身分の差があるし、第一、自分自身が孫策に相応しいと欠片も思うことができない。 せめて立場がもっと近ければアタックをしようと思うこともあったろうが、若干の出世を果たしたとは言え、孫策はまだまだ雲上人だ。恋愛の対象として見ることはできそうにもなかった。「良い線行くと思うのだけど? 一刀くんってばそんなに悪い顔をしてる訳じゃないし」「命がいくつあっても足りないよ」 美人でスタイルも良く、女性として魅力に思うのは事実であるが、呉の人間らしく孫策も気性の激しい人間だ。狼藉を働いた賊を皆殺しにしたとか、無礼な人間を笑顔で半殺しにしたとか、そういうエピソードにも事欠かない。 尊敬はしているし、雇ってくれたことに感謝もしているが、怖いものは怖いのだ。 そんな後ろ向きな気持ちでは、篭絡できるものもできないだろう。 第一、仮に上手くいくのだとしても、奉孝たちの視線が怖すぎる。色々な意味で孫策にちょっかいをかけるのは、一刀には不可能なのだった。「つまり一刀くんに結婚の予定はないのね。その年で寂しいことだわ」「まだまだ自分のことで手一杯だよ」「私が子供を産める年齢になって、その時私の周りに相応しい男性がいなかったら、一刀くんをお婿さんにしてあげても良いわ」「期待しないで待ってるよ」 内心の動揺を悟られないように気のない返事をしたつもりだったが、伯和はそれを見透かしたような薄く微笑んでいる。 とても、自分より年下の少女とは思えなかった。 仲徳と言い伯和と言い、見た目が幼いのにこういう表情が似合う少女は、成長したらどんな女性になるのか。詮無い想像をすることをとめることができない一刀である。 仲徳などは十年経ってもあのままのような気もするが……あれで胸や尻が薄いことを気にしているようなので、本人の前では決して口にはできないことである。「私に何ができる訳じゃないけど、貴方の夢が叶うことを祈ってるわ」「伯和にそう言ってもらえると叶いそうな気がするよ。道は険しいけど、頑張ってみる」 女の子の食事が終わったのにいつまでも男だけ食事をしている訳にもいかない。ペースをあげてスープまで完食すると、おばちゃんに会計を済ませて店を出る。「俺はこれから仕事に戻る。家まで戻るなら送ってくけど」「遠慮しておくわ。私の家、ここからちょっと遠いの」「そうか? まぁ、そう言ってくれると実はちょっと助かる。治安は良くなったけど、一人歩きには注意するんだぞ? 人の少ない路地とかに入っちゃ駄目だからな」「分かってるわ。一刀くんは心配性なのね」「当然のことを言ってるだけだよ」 くすり、と伯和は笑って一刀から距離を取る。その目は一刀の肩を飛び越えて、さらにその奥を見据えていた。何か不味いものを見つけたという体で、逃げの体勢に入っている。「名残惜しいのだけれど、また後で。機会があったらまた食事でもしましょう?」「ああ。伯和も元気で」 別れの挨拶もそこそこに、伯和は長衣を翻しながら駆け出していく。小さく細い身体なのに、その動きは俊敏だった。人の流れの中を縫うようにして走る伯和の姿は、すぐに見えなくなる。 さて、仕事に戻ろうか、と振り返ると、その先にいたのは異色の一団だった。 完全武装こそしていないが、全員が帯剣しており物々しい雰囲気である。所属を表すようなものは何一つつけていなので、誰の旗下というのはさっぱりだが、身のこなしから相当の使い手であるというのは分かった。 壮年に差し掛かった女性を筆頭に、女性ばかり三人の集団である。特に先頭の女性の雰囲気はただものではない。完全武装こそしていないがその物腰からかなりの使い手であることが見て取れる。 その集団は周囲の人波に目を光らせながら、速足で通りを進んでいた。 物々しいその集団とすれ違いながら、一刀はどうして伯和が逃げたのかを理解した。 おそらくこれが伯和の護衛集団なのだろう。少女一人に三人、それもかなり腕の立つ人間を使っているとは、思っていた以上に高貴な身分であったことが伺える。「そんな娘にラーメンとか食べさせたのか俺……」 喜んで見えたから良かったものの、これで伯和の趣味から外れていたらどんな処分が下されていたのか。 まさかいきなり斬首ということはなかろうが、この時代、金持ち及び高貴な身分の人間の不興をかって命を失う人間の話など掃いて捨てるほど転がっている。自分がその中に一人にならないとは、断言できない。 自分の首が今も繋がっていることに感謝しながら、一刀は通りを歩いていく。 洛陽の大路は、今日も盛況だ。言い訳的後書き今の仕事を辞める関係でちょっとスランプ気味です。今回は少し短めですが、次話をなるべく早くアップできるよう頑張ります。