「ラピス。ちょっといい?」
7月に入ろうという頃、仕事が終わり家へと戻ってしばらくするとアオはリビングでのんびりと本を読んでるラピスを呼んだ。
ラピスは呼ばれるままにアオの個室へ向かっていく。
中に入るとアオはテーブルの前で椅子に座って何か作業をしていたようだ。
扉の方へ椅子を向けるとラピスを目の前まで呼ぶ。
「アオ、用事?」
「うん。二人だけの内緒話ね」
「内緒?」
「そ、内緒」
アオと自分だけのという言葉に少し嬉しそうに頬を染める。
そして期待するような目をアオへと向けた。
「ラピス。誕生日って知ってるよね?」
「たんじょう...?生まれた日だよね?」
「そう、私もラピスもそしてルリちゃんも正式な日はもうわからない。
ただ、ルリちゃんは一応の誕生日が7月7日になってるんだよ」
「...それで?」
いきなりの話にアオが何を言いたいのかわからず困惑したような表情になっていた。
そんなラピスを膝の上に乗せると後ろから抱き抱える。
「うん。私とラピス、それにアキトやマナカさんにアカツキ達、ウリバタケさんも呼んでお家でルリちゃんの誕生日パーティーをしようと思うの」
「たんじょうびぱーてぃー?」
聞いた事のない言葉だった。
「そう、誕生日パーティー。ねぇ、ラピス。私はね、ラピスにもルリちゃんにも会えた事が凄い嬉しいんだ。
だから例え生まれ方が変わっていたとしても生まれてきてありがとう、貴方に会えた事は幸せだよって言ってあげたいって思うの。
でも普段一緒にいるとあんまり言う機会がないじゃない?その為に1年に1回誕生日という日を切っ掛けにしてそういう場を作るの。
ラピス、ラピスはルリちゃんに会えた事嬉しいって思う?」
「うん。私はアオにもルリにも会えて嬉しい」
優しく耳元で語りかけるアオの声に心地良さそうにしながら、ラピスは真剣に話を聞いている。
こういう時のアオとラピスは本当の母娘のような雰囲気になる。
「ありがとう。だから、一緒にお祝いするお手伝いしてくれるかな?」
「わかった。でも、何で内緒にするの?」
最初から言ってしまった方が手間が無くなるよ?とアオへ問いかける。
それに少し困った顔をしたアオは例を出して説明をする。
「ん~とね。例えば、クリスマスプレゼントの時、私が指輪買ってたのラピス知らなかったでしょ?
その時まで内緒にされて、貰えた時にどう感じた?」
「びっくりした。それと凄い嬉しかった」
「せっかくのいい事なんだし前もって誕生日のお祝いするよ~って言うより楽しんで貰えるでしょ?」
ラピスはその言葉に裏があるような気がして少し考えていた。
そして思い当たると半目になりながらアオを見上げる。
「私にはその方が楽しいからってアオが思ってるだけな気がするよ?」
「う...そ、そりゃねみんなで楽しめた方がいいじゃない?」
「へぇ~?」
「う.....」
「わかった。私もその方が楽しそうだからそれでいい」
そこでアオはほっと安堵のため息を吐く。
それからアオとラピスはダイアとフローラを呼ぶと当日までの段取りを組み始めた。
基本的に準備を行う現場はアオの個室で行う事に決まった。
「うん。わかった、しっかりばれないようにする」
「ラピス、人って考えると顔に出やすいから無理にばれないようにって考えない方がいいよ?」
「うん。頑張る」
打ち合わせが終わったラピスはそう言って出て行った。
少しぎこちないような気がするが、逆にそれが可愛らしい。
「ダイア、フローラ、あれじゃばれるよね?」
『えぇ、間違いなくルリさんなら勘付きますね』
『ラピス可愛い』
「私もラピスがあんなに隠し事出来ないとは思わなかったな」
そうして3人でしばらく微笑ましそうにラピスが出て行った扉を眺めていた。
アオは気を取り直すとダイアとフローラへ声をかける。
「よし、ダイアとフローラ。こっちはもう少し話を詰めていこうか」
『『はい』』
そうして細かい調整などを含めて話を進めていく。
ダイアとフローラも大張り切りだ。
それから1週間程の間、ルリにばれないように気をつけながら少しずつ準備を進めていく。
アオはアキトやマナカ、アカツキ達への連絡をし、必要な物の買い出しなどを行っていく。
飾り付けに関してはウリバタケが俺に任せておけと言っていたので問題はない。
料理に関してはラピスが中心になり、アキトとマナカも当日は頑張ると気合いを入れていたのでそちらも問題は解決した。
そんな中ラピスが日に日にぎこちなくなっていき、最後にはルリの前だけ平静を装いすぎて無表情になってしまっていた。
ルリはそんなラピスの様子を見てとても嬉しそうにしていた。
そしてパーティー前日の夜。
ラピスは緊張しすぎて疲れ、先に寝入ってしまっていた。
そしてアオはリビングの配置を確認しつつ頭の中で段取りを組んでいた。
そんなアオへと声がかかった。
「...アオさん?」
「ルリちゃん、どうしたの?」
「あの、ありがとうございます...」
ルリが嬉しそうに頬を染めながら頭を下げていた。
そんなルリにアオはまだ早いよと優しく返した。
「それは終わった後にラピスに言ってあげてね。ルリちゃんは知らない事になってるんだから」
「それはもちろんです。だから今夜はアオさんに伝えようと思ったんです」
「そっか。それならどういたしましてだね」
アオはそういうとルリの手を取ってソファーへ誘導する。
隣合わせで座るとアオの肩にルリがもたれかかった。
そして少し呆れたような口調でアオが呟いた。
「ラピスがあんなに隠し事出来ないなんて思わなかったよ...」
「私も驚きました。凄いんですよ、私の前だけ無表情なんです」
「無表情か...なら昔は心配してるのを私に隠してあんなに.....」
アオの言葉に哀しみが籠っていた。
そんなアオを咎めるようにルリは言葉を続ける。
「アオさん、今はそれを気にする時じゃないです。確かに、昔した事はもうしょうがありません。
けど、今のあの子は...今の私とあの子は本当に幸せなんです。だからそれでいいんですよ」
「そうだね、ルリちゃん。昔の事になるとダメだな、私は...」
「その為に私とラピスがいるんです」
「助かってます」
「妻の役目ですから」
そう言うとぎゅっとアオの腕を抱え込んだ。
頬が真っ赤になってるのを見るとかなり恥ずかしかったようだ。
アオはクスクスと笑うと空いている手でルリの頭を撫でてやる。
「ルリちゃん、明日はしっかり驚いてあげてよ?ルリちゃんも演技うまい方じゃないんだから」
「その点は心配いりませんよ。知っていても嬉しいものは嬉しいんです」
「確かにそうだね」
「あ、明日の私は予定通りでいいんですよね?」
「うん、ルリちゃんはサセボドックの食堂だね。一人になっちゃうけど大丈夫?」
「えぇ、みなさん手伝ってくれるみたいなので大丈夫ですよ」
「そっか」
それから二人はラピスのぎこちない様子をネタに話を続けていた。
そして当日、アオの家は慌ただしかった。
「流石アオちゃん。しっかりと前準備してあるからやりやすくってしょうがねぇ」
「間違いないですな。これなら余裕を持って終わりそうです」
「それで、ウリバタケ君これはどこなのかい?」
「プロスさん、ここを持っていればいいか?」
といったようにウリバタケを中心にプロスやゴート、アカツキまで飾り付けに奔走している。
リビングではアオとラピスがケーキのデコレーションに入っている。
そしてキッチンではアキトとマナカ、エリナは料理をどんどんと仕上げて行く。
「よし、ラピス。私は果物切っていくからケーキのデコレーション任せた!」
「うん。頑張る」
「アキト君ほんと料理上手ね」
「ほんとナデシコでもいいコック出来そうね」
「まだまだ姉さんの方が上手だしレパートリー多いのが悔しいっす!本職目指してるのに負けてられません!」
「「流石男の子、頑張れ~」」
そうして急ピッチでセットをしていった結果、予定より30分早く完了した。
飾り付けはバルーンで可愛らしく飾った中にモビールも吊るしている。
壁にはウォールステッカーで『Happy Anniversary』と大きく貼り出されていた。
そして天井から吊るされた『Ruri's Birthday』の看板が一際目をひいている。
ウリバタケ曰く、ギミック付きらしい...
リビングはソファーを隅へ寄せてテーブルを真ん中に置いたビュッフェスタイルになっている。
ケーキはキッチンに置いてあり、ラピスとマナカで火をつけて持ってくる予定だ。
「よし、じゃあルリちゃん呼んできますね」
「アオ、いってらっしゃい」
「「「「「「いってらっしゃい~」」」」」」
アオはそう言うと走って出て行った。
それを見送った後、ラピスはマナカの袖をひいた。
「マナカ、緊張して来た」
こういうパーティーを開催する側になるのは初めてだからか顔が強張っている。
本当に喜んで貰えるのか不安なのだ。
マナカはラピスの前に屈みこむと強張った表情をほぐすように頬をぷにぷにと触る。
「ラピスちゃん、絶対大丈夫。そんなガチガチになってるともったいないよ?
ルリちゃんやアオさん、それに私達と一緒にラピスちゃん自身も目一杯楽しんじゃえばいいの」
「楽しむ?」
「うん、こんなに面白くなりそうな事を楽しいのは損だよ」
「クス。うん、楽しむ」
ラピスが笑ってくれたので安心すると、マナカは頭を撫でつつ立ち上がった。
それからそんなに時間はかからずアオがルリと一緒に帰宅した。
『『アオとルリ帰ってきた!』』
察知したダイアとフローラがウィンドウを出す。
それをきっかけにリビングに緊張が走る。
そして、扉が開いた瞬間
「「「「「「「『『お誕生日おめでとぉ~~~~~!!!』』」」」」」」」
クラッカーが鳴り響いた。
ルリは飾り付けの凄さやクラッカーの音が思ってた以上で本当にびっくりしていた。
「あ、あの。ありがとうございます」
そしてぺこりと頭を下げる。
そのルリを後押しするようにテーブルの中央へと誘導して行った。
その間にラピスとマナカは打ち合わせ通りキッチンへと消えて行く。
「それでは早速いきましょう♪」
『『了解』』
アオの言葉を切っ掛けにダイアとフローラが照明を暗くする。
そしてバースデーソングが流れだす。
♪Happy Birthday to You♪
みんなで唱和する中ロウソクが灯ったケーキをマナカとラピスが運んでくる。
ラピスがいくぶん緊張した面持ちで落とさないように気をつけながら。
マナカは後ろからラピスがつまづかないように支えながら。
♪Happy Birthday dier Ruri♪
ラピスがルリの前にケーキを置き、ルリを見上げる。
ルリは涙ぐみながらもとても綺麗な笑顔でありがとうと伝えた。
♪Happy Birthday to You♪
そして、ルリが一息でロウソクを吹き消す。
その瞬間全員でおめでと~と拍手をする。
ふうっとラピスは安心したように肩から力を抜いたが、何か違和感を感じた。
(電気ついてない?)
あれ?とアオへ声をかけようと思った時、バースデーソングがもう一度流れた。
ラピスが手順間違えてると焦るが、ルリがぎゅっと抱きついてきた。
「え!?ルリ?」
「お返しです♪」
何の?と聞き返そうとしたが、それを言う暇を与えずルリはみんなと唱和していく。
♪Happy Birthday to You♪
いつの間にかキッチンへ入っていたアオが別のケーキにロウソクを灯して持ってくる。
♪Happy Birthday to You♪
どういう事かわからずルリを見るが、優しい目をしながら柔らかい声で歌ってくる。
♪Happy Birthday dier Lapis♪
まさか自分の名前が呼ばれるとは思っていなかったラピスの目が大きく見開いていた。
♪Happy Birthday to You♪
そして、ラピスの目の前にケーキが置かれる。
このケーキはルリがサセボドックにある食堂の厨房を借りて作った物だ。
ラピスにも誕生日をと考えたのはアオとルリだった。
その為にあえてルリの誕生日パーティーという事でラピスを中心に据えて、気付かれないようにしていた。
ラピスはどうしていいのかわからず、ケーキを持ってきたアオと自分を抱き締めるルリを交互に見る。
そんなラピスをアオはルリごと抱き寄せると柔らかく語りかける。
「ラピスは元々ルリちゃんからのクローンだよね。
だから、ルリちゃんと誕生日を同じ日にしようって決めてたんだ」
その言葉を引き継ぎ、ルリもラピスへ語りかけていく。
「そう。私とラピスは生まれた年は違うけど双子の姉妹って思ってる。
今日の事はアオさんと話して決めてたんだけど、ラピスを驚かせようと思って内緒にしてたの」
「えっと...」
それでも困惑しているラピスにアオは更に語りかけていく。
みんなも静かにその様子を見守っている。
「前ラピスに誕生日の話したよね、覚えてる?」
ラピスが頷くのを見るとそれを受けたアオはルリとラピスを見据えて語りかける。
「じゃあ、私からルリちゃんとラピスへその言葉を送らせて貰うね」
そう言って一息入れると、アオはルリとラピスにありったけの感情を込めて伝える。
「ルリちゃん、ラピス、二人とも生まれてきてありがとう。
私にとって二人に会えた事は最高に、これ以上ないくらい最高に幸せな事なんだ。
一緒に生きていられるこの幸せを少しでも二人に返したいと思ってこのパーティーを考えたの。
だからルリちゃんにもラピスにも一杯楽しんで貰えると嬉しいな。
最後に、ルリちゃん、ラピス、お誕生日おめでとう」
「アオ...ルリ...うぅぅぅ.....」
「アオさん...」
ラピスはアオにしがみついて涙を流していた。
えずきながらではあるが、なんとか『凄い嬉しい』『嬉しすぎてよくわからないくらい嬉しい』『アオもルリも大好き』としきりに伝えていた。
ルリも同じく涙を流しつつアオへ寄り添っていた。
そして寄り添いながらラピスを落ち着かせるように頭をゆっくりと撫でてやっている。
そしてラピスが少し落ち着くとアオはラピスの顔をあげてやる。
「ほら、ラピス。ロウソクの火を消さないとパーティー始まらないよ」
「うん」
そうしてラピスを抱えあげると椅子へ立たせた。
ラピスはまだ涙が止まらない為、息を吹こうとしてもうまく息が吹けない。
「1本ずつでいいよ」
そうして1本ずつ火を消していく。
最後の火が消えた瞬間、溜めていた分を爆発させたようにおめでと~~~!とみんなが叫んでいた。
何時の間に繋いだのか、プレミア国王とマエリス王妃と弟達もウィンドウ越しに参加している。
しっかりと料理も揃っており、手にはワインがある所は流石だろう。
そんなプレミア国王とマエリス王妃は先程のやり取りも見ていたのか涙を滂沱と流していた。
「ルリちゃん、ラピス」
「あ、はい。ありがとうございます」
「あ、ありがとう」
二人揃ってみんなへぺこりと頭を下げる。
また一段と騒ぎ出す。
そこへウリバタケが
「こ~ゆ~事もあろうかとってな♪ほれ、ぽちっとな」
そう言ってスイッチを押すと【Ruri's Birthdasy】の看板が両側へと広がっていき【Ruri's & Lapis's Birthdasy】と変形した。
思わずみんなでおぉ~~とため息を漏らすととても嬉しそうに胸を張っていた。
その後はいつもと違う所が一つあった。
それはラピスがアオとルリの間に座っている事だろう。
ラピスの方から今日はこれがいいと言い出したのだ。
それからはプロスとウリバタケが中心になって盛り上がっていった。
プレゼントを渡す時も品物のブランドから値段、入手の難しさなど詳細な解説が入るという凝り様だ。
ウリバタケやゴートが送ったのは某ねんど□いどのアオ・ルリ・ラピスセットのような怪しげな物。
エリナやマナカはドレスとエプロン、アキトやアカツキにプロスは時計やアクセサリーとジャンルが多様である。
そしておおとりで渡すのはアオのプレゼント。
「みんな色々考えてたから被りそうで怖かったよ~」
そう言って二人へ渡したのはヘアアクセサリーだった。
「ルリちゃん大分髪伸びたからね。前使ってたのと同じのがあって良かったよ。
ラピスは個人的に違う髪形も見たいな~という私の願望も入ってたりします」
ルリはこちらへ跳んでから髪を伸ばし始めている為に髪を下ろした状態で足の付け根近くまで伸びていた。
それに加え精神的な影響も出ているために、今のルリは大人びた表情を見せている。
それを見ているアオは最近、こちらへ跳ぶ前に着けていたヘアアクセサリーの方が似合いそうだと思っていたのだ。
ラピスに関しては言った通り、ポニーテールにしても可愛いだろうなと純粋に思っていた。
「アオさん、ありがとうございます。明日から着けさせて貰いますね」
「アオの好きな髪形にするから楽しみにしててね」
やはり二人にとってはアオからのプレゼントという時点で一番嬉しいらしい。
ちなみにプレミア国王は土地をあげようとしてマエリス王妃から見聞を広める為に国外生活中の娘相手に何を考えてるのと突っ込まれ無効となっている。
それからもプロスとウリバタケで大騒ぎとなっていた。
料理にがっつくのはもちろん、ゴートにアカツキ、アキトまで巻き込んで飲み比べを始めていた。
アキトは思い切り未成年なのだが、アオも今回は屋内だから問題ないだろうと見ない振りを決めた。
マナカとエリナは相変わらず仲良くお酒の飲みつつ談笑している。
ルリとラピスはマエリスと弟達交えて楽しげに話をしていた。
プレミア国王はダイアとフローラを交えて2時間のスペシャル特番用に編集をといったような内緒話をしている。
そんなみんなを眺めつつアオは楽しそうに、嬉しそうに時間を過ごしていた。
その後しばらく騒いでいたが、ルリとラピスは騒いだ上に泣き疲れたのだろう。
うとうとし始めたのでアオの判断でお開きとなった。
それからすぐにルリとラピスはお風呂へと入り、寝室へ向かっていった。
後片付けはみんなで手分けして一気に終わらせていった。
洗い物に関してはマナカとエリナとアキトが手早く済ませた。
飾り付けもウリバタケが中心にさっと終わらせている。
その後二次会と称しまた酒盛りが始まり、ビールから始まったそれは次第に悪乗りしていく事となる。
次に焼酎、そして日本酒から泡盛、シャンパンが入ってワインに行き、ウィスキーにラムとチャンポンしていった為に全員リビングで撃沈。
まさに死屍累々である。
空調はダイアとフローラが見ているので問題ない上にカーペットもかなり上質なため、例え裸で寝ても風邪の心配はない。
そんなみんなを横目に、アオは庭へと出た。
流石のアオも疲れが見え、少し眠そうだ。
「アオ殿、少しよろしいか?」
そんなアオへ声がかかった。
プレミア国王とマエリス王妃のウィンドウも開かれていた。
「あ、はい。なんでしょう?」
「今回の事、あの子達の親として心から感謝する」
「いつもあの二人の事を考えて頂き本当にありがとうございます」
ウィンドウ越しではあるが二人はしっかりと頭を下げていた。
「いえ、私も楽しんでやってますし、ルリちゃんとラピスは家族って思ってますから...」
「そうだったな。しかし、本当に残念だ」
「え、はい?」
いきなりの残念発言に話についていけなかった。
「いや、な。アオ殿が今も男であればなと常々思っているのだが...」
「あぁ...」
「あなた。非公式には交際は認めてるんですからいい加減覚悟を決めた方がよくありませんか。
そもそも現状ですらほぼ公認ですわよ?
日本の暗喩になぞらえて【Fairy Lily Garden】なんて世界中で言われてるんですよ。
最近ではAP、Reuters、AFPでも使われてるんですからね?」
意味合いとしては【百合の妖精の園】である。
その主な原因は親馬鹿なプレミア国王がダイアとフローラに編集して届けて貰っている映像なのだから文句が言えない。
そして、そんな二人を眺めつつアオは苦笑していた。
「そ、それでだな、今後もルリとラピスの事をよろしく頼むと伝えたかったのだ」
「それって娘を嫁にやる言葉ですわよね?」
「ぐっ.....」
なんとか話題を元に戻そうとするプレミア国王だが、総て裏目に出てしまっている。
アオはこれ以上突っ込まれるプレミア国王を見るのも忍びないと思い助け船を出した。
「はい。以前お二方の前で誓った事に全く揺るぎありません」
「うむ」
アオが自分の質問へ答えるのを聞くと助かったと安堵した。
「私からも改めてお願いしますね」
「はい」
マエリス王妃は信頼を籠めた目でアオを見つめていた。
それから少しの間3人で談笑を続けたが、アオの欠伸を切っ掛けにお開きとなる。
「では、余り遅くなってもいかんので通信を切るとするか」
「えぇ、アオさん。ゆっくり休んで下さいね」
「はい、お二人もお休みなさい」
通信が切れた後、アオはんっと背伸びをした。
「さ、お風呂入って寝よう~」
そう呟くと家の中へ戻っていった。