「「「「新年、明けましておめでとうございます」」」」
髪の色に合わせた黒、桃、水色の振袖を着た少女が3人とその少女達に向き合うように留袖を着た女性が1人、座礼をもって新年の挨拶を交わしていた。
4人が顔を上げると同時に厳かな雰囲気が緩み、華やかな笑顔がこぼれる。
テレビに映る時間は0時00分を指したばかり、2196年が始まった。
クリスマスパーティーの翌日以降、年末年始で連休を貰っていたマナカはアオ達の家に泊っていた。
何故翌日かというと、イブの夜は3人に気を利かせた事に加えエリナと朝まで飲み交わしていたからである。
そして次の日にアオの家を訪ねると、出てきた3人の左手薬指に指輪がはまっているものだからかなり驚いた。
思わずその場で問い質すと、ルリとラピスがアオの腕に抱きつきつつ嬉しそうに昨日の夜のいきさつを説明していった。
「それで、着けて貰う時どんな感じだったの?」
満面の笑みでとても楽しそうに話す二人にマナカは特に気になる部分を聞いてみた。
だが、ルリとラピスは顔を見合わせクスクス笑うとマナカの方を振り返ると軽く舌を出した。
「「内緒です」」
「むっ。...アオさん?」
「...言えません」
アオは顔を赤くしながらもしっかり答えた。
3人だけの秘密らしい。
それから年末までの間、マナカは仕事へ出かけるアオ達についていき見学をしたり、アオ達を見送ってから雪谷食堂へ行きアキトを手伝ったりと楽しんでいた。
家にいる間はアオ達の代わりに家事をやってくれていたので、アオ達はかなりゆっくりと過ごす事が出来てとても感謝をしていた。
アオ達3人の指輪に関しては流石のアキトも気が付きアオに聞いていた。
その時にアオはアキトへ『私がルリちゃんとラピスを守るっていう誓いの証なのよ』と愛おしむように優しげでなおかつ真剣な目をして語っていた。
そんな目をされてしまったアキトはそれ以上何も言えなかったが、自分でさえ入り込めない何かがある事に少なからず寂しい思いをしていた。
そして三十日、大晦日と雪谷食堂が年末休業に入ったアキトを呼び出しみんなで大掃除を行った。
それも終わると年越し蕎麦を食べ、年が明けるまでのんびりと1年を振り返って談笑をしていたのだ。
アキトがどこへ行ったのかというと初詣へ向かう車の用意をしている。
アオがアカツキに用意をさせた地球では数少ないIFS搭載車である。
地球ではIFS自体持ってる者がほぼ皆無な事からIFS対応の免許を取る者も教える者もいないのが現状だ。
しかし、一応の形だけは免許制度としてあるため年齢制限さえクリアすればほぼ申請するだけで通ってしまう。
そこでアオはアキトにあるのとないとじゃ違うからと取るだけ取らせていたのだ。
そうこうしていると玄関からアキトの声が響いた。
「みんな、用意出来たよ~」
「アキトがゆっくりしてるから年明けちゃったよ!先に挨拶しなさ~い!」
「嘘!!すぐ行く!」
アオがアキトに向かって声をかけると、すぐにばたばたと足音が聞こえてきた。
アキトはリビングへ入ってくるとすぐに4人の前へ正座をして礼をする。
「ごめん、みんな。えっと、明けましておめでとうございます」
「「「「明けましておめでとうございます」」」」
そうして5人が深々とお辞儀をした。
挨拶が終わると車へ乗り込み、一路長崎の諏訪神社まで向かっていった。
運転はアキトが、助手席にはマナカが乗り込み後部座席ではアオを中心にアオとルリが座っている。
高速を使って大村湾をぐるりと縦断する2時間程の旅である。
「うわ...車停めれるかな?」
「凄い人ね...」
「はぐれないようにしないとね」
神社の近くまで着いたのはいいが、かなりの量の車と沿道を歩く人の多さにアオにアキト、マナカは驚いていた。
ルリとラピスはアオにもたれかかりつつ寝息を立てているので、幾分声を落としている。
アオ達は神社の駐車場に停めるのは早々に諦め、それ程離れてない場所の有料駐車場から歩くことにした。
駐車場へ停めると、アオが二人を起こしたのだが...
「ん...アオさん...」
「アオ...?」
寝ぼけた二人を起こす為にいつもの口づけをする事になってしまった。
初めて見たアキトは唖然としていたが、マナカが慣れた様子で『いつもしてるわよ?』と言うので無理やり自分を納得させていた。
納得させつつも頼んだらしてくれないのかなと頭のどこかで考えているのはやはり年頃の男だからなのだろうか。
ルリとラピスを起こした後は5人でのんびりと諏訪神社まで歩いて行く。
アオの両隣りにはルリとラピスが、アキトの隣にはマナカが寄り添っている。
ルリとラピスも流石に振袖を着てまで腕に抱きつく事は出来ず、はぐれないように手を握っているだけだ。
ちなみに、マナカ以外初詣に来るのが初めての為にしきりにキョロキョロとして忙しい。
「ほら、アオさんやアキト君までキョロキョロしてないでしっかり歩いて下さいな。転びますよ?」
「「うっ、ごめんなさい」」
流石に恥ずかしかったのか二人とも顔を赤くしていた。
それをクスクスと笑いながら見ていたマナカはちょっとした事を思い付いた。
「そんな調子だとアキト君もはぐれちゃいそうですから、私が手を握りますね」
「えっ!?ちょ!!」
そう言ってマナカは隣にいるアキトの手を握った。
振り払うのも悪い上にキョロキョロしていたのは事実な為にアキトは顔を赤くしつつもされるがままになってしまった。
それを見たアオは面白い物を見たとばかりに顔の表情を変えるとマナカへと声をかける。
「マナカさん。アキトがはぐれないようにお願いしますね」
「アオさんの頼みですから、しっかりと任されますわ♪」
そうしてはぐれない様に気をつけつつ境内へ向かっていった。
ルリが予め作法を調べて置いたのか、鳥居をくぐる前にしっかりと一礼をする。
そして境内に入ると一段と多くの人で溢れており、詣でるまでかなり時間がかかりそうだった。
大門を潜って右手にある御手水舎へ向かうと、両手と口を清め拝殿へ向かう。
ようやく順番が回ってくるまでそこから更に10分以上かかる事になった。
拝殿へ到着すると5人で並び賽銭箱へ500円をそっと入れる。
二礼二拍をし昨年の感謝と新年の誓いを済ませ一礼をした。
お参りが終わるとお御籤をひきに向かった。
「アオさんは何をお参りしたんですか?」
お御籤を買う順番を待ってる時にルリがアオへ尋ねた。
アオは5人の中で特に時間をかけて伝えていたからだ。
「んっと、まずは私というチャンスを貰えた事。そして私達の可愛い教え子達や火星のみんなが助かった事への感謝だね。
それにルリちゃんとラピス、アキトやマナカさん、ナガレ達やルリちゃんとラピスのお父さん達に出会えた事。
誓いはルリちゃんとラピスを守り、幸せにしますって事が一番だね。後はアキトを鍛えますって事。
10月1日に向けてやるだけやりますって事とそれ以降も同じく気合い入れて頑張りますって伝えてたの。
ルリちゃんとラピスはどう?」
「私は感謝した事は大体同じです。誓いとしてはラピスと共にアオさんを支えて幸せになりますって伝えました」
「私もルリと同じ。アオとルリと3人で幸せになるって伝えたよ」
「そっか、二人ともありがとね」
可愛らしい少女3人が頬を染めながらそんな妖しげな空間を作り上げてる為に、すぐ後ろにいるアキトとマナカはともかくとして周りの参拝者から俄然注目されていた。
アキトは恥ずかしさから他人の振りをしようとはしているが、マナカが『やっぱりアオさん達仲いいわよね♪』と声をかけるものだからグループと認識されているのは間違いない。
それから20分近く並んでようやくお御籤が買えたのだった。
結果は図ったように全員中吉だった。内容も総て一緒で腰を据えてじっくりと事に当たれば万事うまくいくと言った感じである。
みんなで確認し合うと思わずアキトが呟いていた。
「見事に似たり寄ったりだね」
「やっぱり私達5人共ナデシコに乗るからじゃないかな?本当に神様っているのかもしれないね」
「アオさんがそう思うのもわかります。私もびっくりしました」
そうして5人は確率的にどうのとしばらくそれをネタに話をしていた。
だが、来年の話になった時にアオが『あっ』と思い付いたような声を漏らした。
「そういえば来年宇宙だけどどうすればいいんだろう?」
「ネルガルは日系企業ですし、確か艦内神社がありましたよ」
「そっか、ならなんとかなりそうだね」
それから車に着くまでの間、分祀元をどこにするかといった話で盛り上がっていた。
そんな5人がようやく車に着いた頃には4時近くになっていた。
この後は白木峰高原からの初日の出を拝む予定になっている。
しかし、直接向かうと1時間程で到着してしまう上に標高が1000m近い場所で2時間も待たなければならなくなる。
そこで、一旦24時間営業のファミリーレストランで時間を潰してから向かう事に決まった。
時間を潰した5人が高原へ向かう途中、お腹に物を入れた事からルリとラピスが行きの時と同様にアオへもたれかかって寝息を立てていた。
アオはしょうがないなという顔をしながらも二人が身体を冷やさないようにストールをかけてやった。
白木峰高原へは7時少し前に到着した。
既にかなりの人出があり、駐車場に結構な数の車が停まっていた。
着いたのでアオがルリとラピスを起こしたのだが、案の定また寝ぼけているので起こすために二人に口づけをしていった。
車を降りたアオ達5人は近くの建物の屋上から日の出を望めるという事で、そちらへ向かっていった。
屋上に上ると結構な人数が集まっていた。
アキトやマナカはともかく、背が低いアオとルリ・ラピスは前の人が邪魔で見れそうもなかった。
だが、係の人がアオ達に気付くとお子様連れだからと最前列に入れて貰う事が出来た。
空はかなり明るくなってきており、次第にざわつき始める。
目に焼き付けようと一心に見つめる人、写真を狙う人やムービーを撮る人など人それぞれだ。
そうして待つ事20分.....
一際明るい光が漏れる。
どこかで気の抜けたように『あっ』という声が聞こえた気がした。
そしておのずと拍手が沸き起こっていた。
アオ達もしばしその光景を見つめていた。
「すげぇ...」
「うん。綺麗...」
「「はい」」
「アイにも見せてあげたいわ...」
「再来年には見れますよ。絶対に」
「えぇ。そうね」
アオ達はそんな感想を述べていた。
そのまま寒さを忘れたように余韻に浸っていた。
しばらくしてラピスが欠伸をしたのを切っ掛けに帰る事になった。
帰りの道中は流石に疲れたのか、運転をしているアキト以外の4人マナカを含めアオやルリ、ラピスが寝息を立てていた。
アキトは会話する相手がなく少し寂しい思いをしていたが、4人が幸せそうな顔で眠っているので
(お父さんってこんな感じかな?)
と益体もない事を考えながら、順調に家路を辿っていった。