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No.19794の一覧
[0] 天河くんの家庭の事情(逆行・TS・百合・ハーレム?)[裕ちゃん](2010/07/24 18:18)
[1] 天河くんの家庭の事情_00話[裕ちゃん](2010/07/23 17:46)
[2] 天河くんの家庭の事情_01話[裕ちゃん](2010/06/26 12:59)
[3] 天河くんの家庭の事情_02話[裕ちゃん](2010/06/24 07:53)
[4] 天河くんの家庭の事情_03話[裕ちゃん](2010/06/24 07:53)
[5] 天河くんの家庭の事情_04話[裕ちゃん](2010/06/24 07:54)
[6] 天河くんの家庭の事情_05話[裕ちゃん](2010/07/10 22:31)
[7] 天河くんの家庭の事情_06話[裕ちゃん](2010/06/24 07:55)
[8] 天河くんの家庭の事情_07話[裕ちゃん](2010/06/24 07:55)
[9] 天河くんの家庭の事情_08話[裕ちゃん](2010/06/24 07:55)
[10] 天河くんの家庭の事情_09話[裕ちゃん](2010/06/24 07:56)
[11] 天河くんの家庭の事情_10話[裕ちゃん](2010/06/24 07:56)
[12] 天河くんの家庭の事情_11話[裕ちゃん](2010/06/24 07:57)
[13] 天河くんの家庭の事情_12話[裕ちゃん](2010/06/24 07:57)
[14] 天河くんの家庭の事情_13話[裕ちゃん](2010/06/26 02:01)
[15] 天河くんの家庭の事情_14話[裕ちゃん](2010/06/26 11:24)
[16] 天河くんの家庭の事情_15話[裕ちゃん](2010/06/26 23:40)
[17] 天河くんの家庭の事情_16話[裕ちゃん](2010/06/27 16:35)
[18] 天河くんの家庭の事情_17話[裕ちゃん](2010/06/28 08:57)
[19] 天河くんの家庭の事情_18話[裕ちゃん](2010/06/29 14:42)
[20] 天河くんの家庭の事情_19話[裕ちゃん](2010/07/04 17:21)
[21] 天河くんの家庭の事情_20話[裕ちゃん](2010/07/04 17:14)
[22] 天河くんの家庭の事情_21話[裕ちゃん](2010/07/05 09:30)
[23] 天河くんの家庭の事情_22話[裕ちゃん](2010/07/08 08:50)
[24] 天河くんの家庭の事情_23話[裕ちゃん](2010/07/10 15:38)
[25] 天河くんの家庭の事情_24話[裕ちゃん](2010/07/11 07:03)
[26] 天河くんの家庭の事情_25話[裕ちゃん](2010/07/12 19:19)
[27] 天河くんの家庭の事情_26話[裕ちゃん](2010/07/13 18:42)
[29] 天河くんの家庭の事情_27話[裕ちゃん](2010/07/15 00:46)
[30] 天河くんの家庭の事情_28話[裕ちゃん](2010/07/15 14:17)
[31] 天河くんの家庭の事情_29話[裕ちゃん](2010/07/16 17:35)
[32] 天河くんの家庭の事情_30話[裕ちゃん](2010/07/16 22:08)
[33] 天河くんの家庭の事情_31話[裕ちゃん](2010/07/17 01:50)
[34] 天河くんの家庭の事情_32話[裕ちゃん](2010/07/21 01:43)
[35] 天河くんの家庭の事情_33話[裕ちゃん](2010/07/21 23:39)
[36] 天河くんの家庭の事情_34話[裕ちゃん](2010/07/22 04:13)
[37] 天河くんの家庭の事情_35話[裕ちゃん](2010/07/24 18:16)
[38] 天河くんの家庭の事情_小話_01話[裕ちゃん](2010/06/25 20:30)
[39] 天河くんの家庭の事情_小話_02話[裕ちゃん](2010/07/07 03:26)
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[19794] 天河くんの家庭の事情_16話
Name: 裕ちゃん◆1f57e0f7 ID:326b293b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/27 16:35
「おぉ~~~!!いいねぇ!最新技術をふんだんに盛り込んだ戦艦!
そして人型機動兵器!これで燃えなきゃ男じゃない!」

その日、サセボドックに現れた男はそう言いながら楽しそうにドック内を歩き回っている。
そのすぐ後ろには眼鏡にちょび髭をはやしたプロスペクターがついている。

「ウリバタケさん、本当によろしかったんですか?」
「あんたもしつこいね。俺が求めたのは自由!そう自由だよ!
それにここを取り仕切ってるのは可愛い女の子だっていうじゃないか!
その上あいつの尻に敷かれる生活から離れられたんだ。文句はない!」

そういって拳をふりあげているのはウリバタケ・セイヤ。
違法な改造屋を営んでいたのだが、この度ネルガルの目に止まり整備班班長として雇われてきた。
しかし、何故整備士なのにナデシコが建造を開始する今日この場にいるのかという疑問が生じる。
それは、そスキャパレリ・プロジェクトを監修しているテンカワ・アオの依頼の為である。
未来において改造好きが高じて天才的ともいえる新しい技術や製品を編み出していったからである。
その事を知っているアオからすれば早くから関わって欲しかった人材である。
ただ、妻であるオリエに悪いとも思っており、せめて給金を上げて貰うようにしていた。

「そうですか、では早速スキャパレリプロジェクトでの統括部長になるテンカワ・アオさんにご紹介しましょう」

プロスとゴートはウリバタケを連れてアオのいる部屋へと案内していった。
プロジェクトに急遽関わり始め、ナデシコの大幅な改修案を出したという天才少女。
どんな子なのだろうという興味と緊張にウリバタケはかなり硬くなっていた。

「それで、そのテンカワさんが改修案なんかも出したんだって?なんでも超人だって噂は聞いたが...」
「えぇ、そうですね。確かに色々と出来る方ですね。ですが、何よりとてもお優しい方ですよ」

そうアオを思い浮かべつつ語るプロスの顔はとても柔和な雰囲気を伴っていた。
ウリバタケは一種捉えどころのない雰囲気を持つプロスにそんな表情をさせるテンカワさんという少女に感心してしまった。
ニヤッと笑うとさも楽しそうにプロスへと声をかける。

「お前さんがそういう顔をするくらいか、楽しみだな」

そうして歩いて行くと部屋の前についた。
扉の前についているインターホンを押すと中から可愛らしい声が聞こえる。
だが、何かしていたのだろうか少し息が上がっているようだった。

「あ、は~い?」
「プロスペクターです。整備班班長のウリバタケセイヤさんをお連れしたのでご挨拶を...」

そこまで言った時、中からの声が急に焦ったようなものへと変わった。

「え!嘘!そんな時間!呼んでくれたらこっちから行ったのに!ちょ!ちょっと待って下さいね!」
「はいはい、時間はあるので焦らないで下さい。すいません、少しお待ち下さい」

そしてインターホンからバタバタと片付ける音が聞こえてくる。
アカツキから何もいらないと言われて前日にこちらへ来たのはいいのだが、送った資料は総て段ボールに入って机の上だった。
扉を開けるまでその事をすっかり忘れていたアオは自分の迂闊さを呪いながら一所懸命片付けをしていたのだ。
ちなみに、ルリとラピスも同じような状況になっており、初日のこの日3人は片付けで仕事が終わる事になる。
そんな彼女の様子を聞いていたウリバタケは妙に納得がいった顔をして言った。

「あぁ、なんか今ので大体わかった気がする」
「えぇ...」

ウリバタケの言葉にプロスは困ったような表情を浮かべていた。
それからしばらくして、扉が開いた。
中から黒髪で顔立ちの整った妖精のような少女が現れる。
ドックで着る物とは思えない黒のシックなドレスに掃除をしていたためかエプロンをつけている。
そのアンバランスさが逆に似合っていて可愛らしい。

「す、すいません。お待たせしてしまって...どうぞお入り下さい」

まだあちらこちらに書籍や資料などが散らばっており、とりあえずスペースだけ作ったような感じだった。
そんなアオはプロスの方を見てあはは...と乾いた笑いを浮かべていた。
プロスはアオが珍しく失敗をしているのが見れたので何もなかったという事にした。
突っ込まれるのを心配していたアオだが、プロスが見て見ぬふりをしてくれるようなので一度咳払いをして気を取り直す。
それを受けて、ようやくプロスが紹介に入る。

「お疲れ様です、アオさん。こちらが整備班班長のウリバタケセイヤさんです」
「初めまして、テンカワ・アオです。お話はお伺いしてますよ」
「あ、あぁ。ウリバタケ・セイヤだ。こちらもですよ」
「あぁ、敬語は大丈夫です。むしろくすぐったいので困ってしまいます。私の方が年下なので普段通りにして欲しいです」

ウリバタケが敬語で話しかけてくれたのだが、妙な表情をしながらアオは伝えた。
未来でウリバタケから受けた事のない敬語なのでどうも居心地が悪い。
敬語はいらないと言われたウリバタケは安心したような表情をすると了解した。

「そうさせて貰おう。育ちが悪いんでな。敬語は使いにくくってしょうがない」
「ありがとうございます」

そうして挨拶が終わると、プロスが本題を切り出した。

「ウリバタケさん。これからはアオさんと協力してナデシコとエステバリスの製造作業の監修をして頂きます。
その中で構造や回路の把握をして頂き、運用の際に不備がないようにして頂きます」

その言葉を受けたウリバタケは頷くとアオへと振り返る。
その顔は既に技術者としての顔だ。

「あぁ、わかった。それじゃあ、テンカワさん。まず何をすればいい?」

そうウリバタケは問いかけたのだが、帰って来た答えは予想だにしない物だった。

「はい、セイヤさん。セイヤさんにして頂く事なんですけど。基本的に何をしてもいいです」
「は?」

ウリバタケは思わず聞き返してしまった。
それはしょうがないだろう。初めて来た所で何をしてもいいと言われて困らない人はいない。
そんなウリバタケにアオは微笑むと、言葉を重ねて説明していく。

「プロスさんが選んできた方ですから間違いないと思ってます。
なので、好きに回って頂いて好き勝手に手伝ったり手を出して下さい」
「...いいんだな?」

ウリバタケは次第に顔一杯に喜びの表情を浮かべて行く。
だが、今にも飛びださんとした彼をアオは止めるように言った。

「ただ、条件はありますよ。まず最初にナデシコは一度形が完成するまでは設計図を厳守する事。
次にですね...」

アオはそういうと机の上に分けてあったデータをウリバタケへ渡していく。
データディスクに加え書類がかなりの量渡されていく。

「こっちがナデシコの各機関の仕様書で、設計図、回路図、OSの資料で、ソフトがこれですね。
今度はエステバリスも同じく仕様書と、設計図、回路図、OSの資料に、ソフトです。
これをお貸ししますので総て把握して下さい。それが出来次第好きにして頂いて大丈夫です」
「あぁ!わかった!一週間で覚えてやる」

この後本当にウリバタケは全資料を一週間で覚え切ってしまった。
さすが天才というのか、好きこそものの上手なれといった所なのだろう。
その後自由に動き回れるようになったウリバタケは色んな現場に顔を出し、その技術がみんなに認められていく事になる。
更に改造出来るのがまだエステバリスのみになるので、そこで色々と弄っているらしい。

「続いて、改造についてですが、そちらも好きにして頂いて大丈夫です。
ですが、何でもかんでも資金は出せませんので出来あがった物が有用だった場合のみかかった費用を返上します。
ちなみに、その決定権があるのは私、そして私と同じく監修をしているルリ・フリーデンとラピス・L・フリーデン。
それに加えてプロスペクターさんです」
「ぐっ.....そ、そうか」
「はい。完全に駄目という訳ではないのでそこはご安心くださいね」
「あぁ、わかったよ」

それからウリバタケはアオからドック内の簡単な注意を伝えられると退室した。
ドック内を歩きながら、何事かを考えていたウリバタケはふとプロスへと振り返る。

「確かに、いい子だな。だが、ああいう子に頼らないといけないという状況は辛いな...」
「まったくですよ。私達大人がしっかりしていればこうはならなかったんですけどね」
「ああいう子を助けられるんだ、本当に出てきた甲斐があったな。ま、せいぜい楽させてやれるように気張るか」
「えぇ、お願いしますよ」
「お互いにな」

そう言ってお互いに励ましあっていた。
ウリバタケもアオの事が気に入ったのだろう。

その頃アオは片付けを再会していた。
まだまだ終わりそうにもなく、だいぶ泣きそうになっていた。
そこで少しでも英気を養おうとルリとラピスの声を聞く事にする。

「ダイア。ルリちゃんとラピスに繋げられる?」
『落ち着いて話せる状況じゃないみたいですよ?』
「いいよ。声聞けるだけでいい~」

ダイアにそう伝えるとすぐにウィンドウが2枚開く。
どちらも似たような状況に苦笑を浮かべる。

「ルリちゃん。ラピス。どうそっちは?」
「泣きたいです」
「ぐちゃぐちゃだよ」
「こっちも同じく...早く終わらせてそっち手伝いに行くからなんとか頑張って!」
「はい。こちらが早く終わったら手伝いに行きますね」
「持てないのがあるからお願い...」
「じゃぁ、あんまり邪魔しちゃ悪いから切るね」
「「は~い」」

それから二人を手伝う為に気合いを入れたアオは一気に片付けを終わらせていった。
その後は先にルリを手伝い終わらせた後、ラピスの部屋を3人がかりで片付けて行く。
それらが終わったのは夕方過ぎ、既に終業の時間が過ぎていた。
ドックから出た3人はうなだれながら、家までをてくてくと歩いていた。

「アオさん。いつもより疲れました...」
「腕上がらない」
「私も疲れた~」
「ご飯どうしますか?」
「ん~~。今日はアキトに明日からの事伝えようと思ってたし...
これから食べに行く?」
「私はそれでいい」
「えぇ。いつもなら2日連続夕食を外食で済ますのは嫌ですが正直きついです」
「それじゃタクシー呼ぶね」

そうして3人はタクシーを呼ぶと、雪谷食堂へと向かっていった。

雪谷食堂は丁度書き入れ時なのかかなり混雑していた。
そんな中一件場違いにも思える雰囲気のアオ・ルリ・ラピスが入ってきたのでみんなが注目する。
アオ達はそんな視線を気にせず相手いる4人席へ座り注文をお願いする。

「うん、注文はそれでお願い。アキト、お会計の時に明日の事について書いた書類渡すから忘れないでね?」
「あぁ、わかったよ」

そうしてしばらくすると注文が届く。
今日はみんなでつまめるように、八宝菜とエビマヨから揚げにそれぞれチャーハンを頼んだ。
そして食べながら、明日以降どうするかを談笑交えて話し合っている。

「アオさん。エステのシミュレーターってもう入ってるんですよね?」
「普段はシミュレーターでいいとして、実際には動かさないんですか?」
「アキトが動けるようになったら実際の感覚掴む為に動かすつもり」
「場所はあるんですか?」
「近くに演習場があって、そこを借りられるみたいだよ」
「アオ。その時見に行っていい?」
「うん。見に来れるように頼んでおくね」
「は~い♪」

中々物騒な話も交じってはいるが、店内も騒がしくそれを気に留める者はいない。
そうして終始和やかに食事が終わると、少し落ち着くのを待ってから会計をする。

「はい、お金とこれ。ちゃんと読んどいてね?」
「わかったよ。姉さん」
「あと、これが入館証ね。無くしたら知らないからね?」
「そんな子供じゃないって」
「ふ~ん、ほんとに?例えばどの辺が?」

アオは悪戯っ子の様に目を細めると下から見上げるように顔を覗き込む。
免疫が少ないアキトはそれだけで顔が真っ赤になっていた。

(うわ、凄い!目がぱっちりしてる!可愛い!
あぁ、目が潤んで来た!駄目だ、姉なんだから...)

などと頭の中で葛藤している為に何か喋ろうとしてもあうあうと声にならない。

「ごめん。聞こえないよ?」

そう言ってもう一歩アオが近寄る。
アキトは更に顔を真っ赤にさせると、なんとか声を絞り出す。
そんなアキトへ向かって店内の客から嫉妬の視線が突き刺さっている。

「あ、後は何もないんだろ?気をつけて帰れよ」
「あれま。逃げられた」
「アオさん。アキトさんにそれやって楽しいですか?」

ルリはアキトへ悪戯をして楽しげにしているアオの姿を見て冷たい視線を注ぐ。
アオはそれに対して考えるような仕草をするとルリへ答えを返した。

「なんかね、アキトの前に出ると姉としての部分が強く出るみたいなのよね。
アキトとしては自分相手だし何も感じないし、むしろこうするとこう反応するっていうのが手に取るようにわかって...」
「要は楽しいという事ですか...」
「はい。自重します...」
「そうして下さいね?」
「がんばる...」

そうして3人は雪谷食堂を出ると、タクシーを拾い家へと戻っていった。

そして次の日の朝、アオ宅と雪谷食堂との中間辺りにある公園でアオ達とアキトは落ち合っていた。
それぞれトレーニングウェアを着込んでおり、寒くなってきたのもありロングパンツとタンクトップの上にジャケットを羽織っている。
公園はかなり広く、芝生の広場や遊具場など施設も揃っている。
アオ達と同じく朝から走ってる人や犬の散歩をしてる人、芝生で太極拳をしてる人などそこそこ人もいた。
4人共に走ってきており、いい具合に身体が温まっていた。

「おはよ、アキト」
「おはようございます、アキトさん」
「アキト、おはよ~」
「みんな、おはよう。ルリちゃん達も走ってるんだね?」
「うん、私からの提案でね~」
「そっか。仕事が内勤だと運動不足になりそうだしね」
「そゆこと~」

それからアオは柔軟をしながら、ざっとIFS搭載の人型機動兵器についての説明をしていく。
何故身体を鍛えるのか、そして格闘の術を身につけるのかについてだ。

「IFSの事は大体わかってると思うけど、今日の夜に乗って貰う人型機動兵器になるとそれは更に顕著になるんだよね。
素人でも確かに動かせるんだけど、身体を動かす感覚でそれも動かすから動きも総て素人になっちゃう。
イメージが重視になる分、実際に身体を鍛えて動きを覚えさせた方がより動きが機敏に、正確になるのよ。
でも、実際のメリットはそれだけじゃないよ?」
「それだけじゃない?」
「うんうん、例えばアキトにとって本当に大切な、守りたい人が出来た時その相手が暴漢に襲われたとする。
しっかりと鍛えて、ちゃんと技や闘い方を習得しておけば機動兵器に乗ってる時以外でもしっかりと守れるようになる」
「あぁ、そうか。確かに...」
「ね?このご時世何が起こるかわからないからさ。お店開いても強盗が入るかもしれない。
そんな時に何も出来ずに捕まって大事な人が傷付くのは嫌でしょ?だから、しっかり覚えよう」

そう言ってアオはにっこりと笑う。
その顔を見てアキトは決意を新たにする。
最初は嫌々だったし、あり得ない量のトレーニングメニューにげんなりしていた。
だが、今まで自分を含めて親さえ知らなかった正真正銘の姉としっかりと守れなかったアイの母親であるマナカを今度こそ守りきる。
その思いを噛み締め、ここでいいと弱音を吐く気持ちを叱咤しトレーニングを続けて行った。
次第にメニューに身体が馴染み、楽にこなせるようになっていく達成感に自信もついていくようになった。

「将来はどうなるかわからないけど、今は姉さんやマナカさん、ルリちゃんやラピスちゃんを守る為にだね」
「うん、最低でも私を守れるようにはなって貰わないとね~」
「アオさん。それが出来るようになったら太陽系で敵なしです」
「んな事ないよ~?」
「ううん。アオに敵う人はいない」
「あの、ルリちゃん、ラピスちゃん。姉さんってそんなに凄いの?」
「「はい」」

実際はアキトの頃と比べて筋力もない上に女性の身体なので、生身での戦闘ではそんな事は全くない。
機動兵器では確かに現時点で敵う者がいないのだが、ルリとラピスの中では全てにおいて【アオ=最強】である。
そんな事を自信たっぷりに二人から言われたアキトは『俺、早まったかな?』と嘆いていた。

それからアオは木蓮式柔を中心にアキトへと教えていく。
だが、未来での例もありやる気になったアキトは覚えも早くアオは嬉々として色々と教えて行く。
アオにインストールされてるのは武術に関しても多く、教えるものがどんどんと多様化していく事になる。
そして最終的には何を使ってもいいから兎に角相手を無力化すればいいという、恐ろしく実戦的な物へと変貌していった。

そうして、アキトへは基本の型を中心に、ルリとラピスへは教えている護身の軽い組手をしていった。
2時間弱鍛錬を続けた所でアオから時間だねと声が上がった。

「アキト。朝かなり早いけど大丈夫?」
「トレーニング始めてからこの時間だし大丈夫だよ」
「そか、なら明日からもこの時間で」
「わかった」

アオ達はアキトと別れるとまた元来た道を走って帰っていく。
家へ戻った3人はシャワーを浴びて汗を流すと朝ご飯片付けと3人で協力して済ませていき出勤の為準備を進めたのだった。

アオ達はサセボドックでそれぞれの担当部署へ指示を出した後3人でシミュレータールームへ来ていた。
稼働試験途中ではあるが、パイロットの習熟の為にシミュレータールームへは最新のシミュレーターが6台納入されている。
ちなみにシミュレーターでの戦闘の様子はシミュレーターの上に設置された大型スクリーンへ確認出来るようになっている。
シミュレーターは最新という事もあり、重力発生装置により身体へのGや揺れの再現も以前の物よりも正確に再現する。

アオとルリ・ラピスの3人はそこでシミュレーターのチェックと設定を行っていた。
ルリは主にシミュレーターの調整をやっており、実機との差異を減らしていく。
ラピスはルリが知らないブラックサレナや試験機のデータ、夜天光のデータまで入力していた。
アオは一人パイロットスーツへ着替え、シミュレーターでテスト中である。
そんな中ルリとラピスはウィンドウでアオと話していた。

「アオさん。どんな感じですか?」
「うん。これなら問題ないね」
「アオ。ブラックサレナのデータも入れ終わったよ?」
「うん。わかったちょっと試してみるね」
「その身体では初めてですから余り無理しないで下さいよ?」
「わかったよ。他の人に見られないようにしてね~」
「「はい」」

そして、アオのブラックサレナでのテストが始まる。
その様子を他人には見せないように大型スクリーンの映像を消し、手元にウィンドウを出した。
最初は最初期のエステバリス10機との戦闘から始め徐々に身体を慣らしていった。
普段なら最小の動きで敵からの攻撃を避けていくのだが、テストともあって普段よりも無理な挙動で動かしていく。

「...グッ!身体は華奢だけどGには結構耐えられるな」

アオはそう呟くとどんどんとシミュレーションをこなしていく。
そしてアオの身体へとかかる負荷もそれに釣られるように上がっていく。

「アオさん!それ以上は危険です!」

その数字を見たルリは慌ててアオへと通信を入れ止めようとする。
それを見た後は一旦動きを落ち着かせるとルリへと伝える。

「ルリちゃん、逆なんだよ、安全の為に今のうちに自分の限界を知っておくの。
そうしないと実戦で無理をし過ぎて意識が飛んじゃうからね」
「...わかりました」
「ルリ。アオは大丈夫」

こういう事は【黒の皇子様】時代共にいたラピスの方がよくわかっている。
確かにラピスが取り乱していない状況なら大丈夫なのだろうと思い込むことにした。
だが、ウィンドウを見つめながら手が白くなる程握りしめているのを見るとかなり無理して我慢しているようだ。
その後もシミュレーションは続いて行った後アオからウィンドウが開く。

「うん、大体わかった。それじゃ、最後に北辰達とのシミュレーションで締めるね」
「「はい」」
「さ、いけるかな...?」

そしてアオの目がスッと細くなる。
姉の身体での生活も長くなり、未来で敵は既に取っている為にもう憎悪を感じさせる程の殺気が乗る事はない。
だが、何度も闘ったあえていうならば好敵手である。
本気で戦うのだろう。
そして、1対7でのシミュレーションが始まった。

「だぁ~~~!やっぱり1人じゃ厳しい」

シミュレーターからへろへろになってアオは転がり出てきた。
その場で仰向けに倒れ肩で息をしている。
レッドアウトする程まで無理したのだろうか、目も真っ赤になっている。

結果としてはアオが負けた。
北辰衆の連携は凄まじく、それぞれがフォローし合うので思うように攻められないのだ。
それでも隙を作り出し徐々に敵を減らし、北辰と配下1人の2機までは減らす事が出来た。
しかし、最後で配下に捕まり、北辰から配下諸共に串刺しにされてしまった。

ルリはすぐに走り寄るとアオに膝枕をして汗を拭いてやる。
ラピスはジュースを買ってくるとルリの横に座った。

「あ、ごめんね。二人とも...」
「無理しないでって言ったのに」
「ごめん、最後頑張りすぎちゃった。でもアキトの頃よりもGに対しては抵抗出来るみたい。
これもナノマシンのせいかな?」
「考察は後で、ひとまず息を整えて下さい?」
「はぁ~い」
「アオ。疲れてても綺麗だね」
「う、うん。ありがとねラピス」

一人ラピスが頬を染めていた。
大人として扱って貰う発言からこっち色々と目覚めてきてるらしい。
そのおかげでルリも戦々恐々しているのだが、それは機会があればお話ししよう。

そして、今のシミュレーションについて話をしていた際の事だった。
ルリがシミュレーターのIFS処理がアオのIFSに追いついてない事がわかった。

「アオさん。結構動きにくかったですか?」
「いや、ただ動きだけをしようとするなら反応は問題なかったよ。
だけど、ブラックサレナの時癖でセンサー系の入力も加えようとしたらその有様です」
「ラピス。ブラックサレナの時のIFS装置ってどうなってたんですか?」
「アキトの時はナノマシン処理が上がってたから特注で作ってたみたいだよ」
「うん、そうなんだ。しかも今はIFS強化体質だからね。更に上がってるから自制するのが大変」
「アカツキさんに頼みますか?」
「ん~。いや、ウリバタケさんの方が早いかな。資料を覚えたら出てくるだろうからその時にお願いするよ。
ただ、ブラックサレナのIFS装置を元にしてある程度考えておけるからそれはこっちでやっちゃおう。
ルリちゃんもラピスも手伝ってね?」
「「はい」」

そうしてシミュレーターのチェックを終えた。
それからルリとラピスが片付けている間にアオが汗を流し、全部署の進捗状況を確認して行った。

「「「ただいまぁ~!」」」
『『おかえりなさい~』』

夕方過ぎにアオ達は家へ戻ってきた。
それをダイアとフローラが迎えてくれる。
それからは3人で一緒に夕ご飯を作り、みんなで仲良く食べていた。
談笑にはダイアとフローラも加わり、声とウィンドウが飛び交いかなり賑やかだ。
後片付けも一段落して、リビングでしばらくのんびりしていた3人だったが、アオが時間を見て立ち上がる。
そのアオに用事でも?とルリが問いかけた。

「ん?あぁ、アキトとシミュレーターでトレーニングしにいくの」
「それなら私もご一緒していいですか?」
「私も行く!」
「でも、退屈だよ?」
「せっかくですしアキトさんようの調整データも作っちゃいます」
「私も手伝う~」
「ん~。そっか、それなら一緒に行こうか」
「「は~い」」

そうして3人で連れだってもう一度サセボドックへと向かった。
向かってる途中、後ろから自転車でアキトがやってきた。

「あら、みんな揃ってる。こんばんは」
「お、こんばんはアキト」
「アキトさん、こんばんは」
「アキトこんばんは~」

挨拶も済んだ所で、4人で歩きだす。
アオは、道中でエステの説明を交えつつ注意点を話していった。

そしてシミュレータールームには再度パイロットスーツに着替えたアオと格好が変じゃないか気にしているアキトがいた。

「最初は取りあえず感覚掴むのが狙いだから気負わなくていいよ。
IFSなんだし、それこそ思うように動いてみればいいからね」
「あぁ、わかったよ」

アオとアキトがシミュレーターへと入っていく。
ルリとラピスはIFSコンソールで細部データを確認しながら大型ウィンドウを見ていた。
シミュレーション場所は実機の練習をする演習場だった。

「どう?」
「本当にシミュレーション、これ?」
「当り前でしょ。細かい調整をルリちゃんとラピスにお願いしてるから実機との感覚の際はわからないと思うわよ」
「すげぇ...」

CGとは思えない光景とシミュレーションとは思えない感覚に素直に感動していた。

「まぁ、最初は取りあえず動いたりして感覚を覚える事ね。
一気にあれこれだとわからないと思うけど、一通りの動きを教えた後に一度相手をするね」
「わかった!」

そうしてトレーニングが始まった。
基本的な動きから始まり、武器の使い方や飛ぶ時の注意点などを一緒にやりつつ教えて行く。
それから実際に打ったり殴ったりと徐々にランクが上がった物を試していく。
IFSのおかげでアオとアキトの動きにはそんな違いがないように見えるが実際はかなり違う。
アオは先を見て動くのに対して、アキトは行き当たりばったりの動きである。
銃に関してもアオは狙いを定め、誤差や風邪を修正した上で細かい数値をIFSへ送っているが、アキトはただあれに当てると考えているだけである。
最初からそんな事をしろと言っても無理なのだが、追々とそれも教えて行く事になるだろう。

そして2時間近く経った時に、アオはアキトと最後の仕上げとして対戦をする事を伝えた。
無理だとアキトは言ったが、『どうせ私が勝つけど今の実力を思い知るならうってつけでしょ?』とアオが挑発。
姉の頼みと男としてのプライドがあり、アキトは了承してしまった。
場所は変わらず演習場、双方陸戦フレーム搭乗。
ハンデとしてアオは素手、ワイヤードフィストのみで対するアキトはイミディエットナイフとラピッドライフルを装備していた。
そして、ルリとラピスの合図を切っ掛けに対戦が開始される。

「うおおおぉぉぉぉ!」

開始と同時にアキトはその場でラピッドライフルを乱射し、アオが近づけないようにする。
それを最小限の動きで交わしつつ徐々にアキトへと近づいてくる。

「ほら、手が届いちゃうよ?」

かなり余裕ぶった口調で挑発しつつアオはひらひらと銃弾を交わしていく。
陸戦フレームは飛ぶように出来ていないのだが、スラスターをうまく使うその様は舞っているようでもある。
それにアキトが舌打ちをすると後退しながらラピッドライフルを片手へ持ち換え、イミディットナイフを取り出す。

「あら、残念」

そう呟いたアオはクスリと笑うと脚部のキャタピラを急加速させ、猛スピードでアキトへ突っ込んでいく。

「なっ!」

いきなり加速して突っ込んでくるのに焦ったアキトは片手な事も手伝い、うまく照準がつけられない。
危ない銃弾だけを見極め、それだけを避けつつ一気に肉薄する。

「うわぁ!来るなぁ!!!」

もう駄目だと思ったアキトはラピッドライフルをアオへ投げつけナイフを繰り出す。
それでも止まらないアキトの目の前にアオが突っ込んでくる!
...が、何も起こらなかった。

「...あれ?」

目を開けて辺りを見渡す。
しかし、繰り出したはずのイミディットナイフは無くなっていた。

「アキト。後ろ振り向いて~♪う・し・ろ♪」
「うっ」

そんな楽しそうな声が聞こえてきた。
恐る恐る振り向くと、そこにはイミディットナイフを持って手をひらひら振っているアオがあった。
そのアオの手が翻ると、ナイフがコクピットへ向かって最短距離を奔った...

「はぁ...」
「ふふふふ。最初から勝てたら苦労しません♪」

落ち込んで出てきたアキトに対してアオはとても楽しそうだった。

「なんでそんなに嬉しそうなのさ?」
「ん~?私は一発も当たる気なかったんだけどね~♪」

勿体ぶったアオの言い方をルリが捕捉する。

「アキトさんがアオさんへ被弾させたんですよ?」
「え?嘘、いつ?」
「それは、これです」

そういって大型スクリーンにアキト機へアオ機が突っ込んでいく場面が映っていた。
最後の辺りに来るとスローモーションになる。
段々と近づいてきたアオ機にアキト機は取り乱してライフルを投げつけ、それが当たった。
自分としては取り乱した結果当たったと言われても嬉しくともなんともない。
だが、それでもアオはとても嬉しそうだ。

「いやね、取り乱したとしても呆然とならずになんとかしようとした上、被弾させられたのにお姉ちゃんは嬉しいのです。
その調子でギリギリまで諦めず頑張ってくれたまえ弟よ♪ご褒美にハグしてあげようハグ♪」
「なっ!わっ!ちょっと!」

アオは嬉しさ余ってアキトに抱きつくとそのまま頭を撫でていい子いい子している。
柔らかかったりいい匂いだったりなんか胸に柔らかい感触を押しつけられたりしてアキトは大いに焦ってしまう。
無理に剥がそうとすると色々危ない所に手が届きそうなのでそれも出来ずルリとラピスへ助けを求めた。

「ほんといい子だね。お姉ちゃんはそのまま育ってくれるととても嬉しいぞ~♪」
「ルリちゃん!ラピスちゃん!助けて!」
「むしろ私はアキトさんからアオさんを助けたいです。アオさんは私達のなのに...」
「アキトさっさと離れて。アオを取るのはアキトでも許さない」
「そんな!いいから離して!姉さん!」

それからしばらくの間アオはたっぷりとアキトを可愛がっていた。
アオがアキトを話すとルリとラピスはアオに抱きつき、アキトへと嫉妬の目を向けた。
自分が悪い訳じゃないのにと嘆きつつアキトは平謝りをしていた。

それから2人共着替え、帰る事になった。
帰ったらすぐお風呂へ入るので、二人ともシャワーは浴びていない。
アオの家の前までつくと挨拶を交わして別れる。

「じゃあ、こんな感じで朝のトレーニングと夜のシミュレーションをするからね」
「あぁ、頑張るよ」
「うん、基本動作も出来てたから基本的に実戦で覚えて貰う形になるからね。
実際それが一番覚えるのが早いし、色んな状況に対応出来るからね」
「...大変そうだけどなんとか頑張る」
「うん。それじゃ、また明日ね」
「あぁ、お休みなさい。ルリちゃんもラピスちゃんもね」
「...えぇ、精々夜道にはお気を付け下さいね」
「...永遠にお休み」

ルリとラピスの頭の中で【こちらのアキト=アオを奪う泥棒猫】になってしまった為中々物騒な挨拶をされる。
そんな言葉を背中に受けつつアキトは自転車で坂を下って行った。


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