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No.19775の一覧
[0] 【次回更新は11月!】ナルトが馬鹿みたいに前向きじゃなかったら?(原作再構成) [ビビ](2010/09/29 14:16)
[1] 1.序[ビビ](2010/06/24 11:04)
[2] 2.序[ビビ](2010/07/02 22:24)
[3] 3.序[ビビ](2010/07/02 22:24)
[4] 4.カカシ事変――Ⅰ[ビビ](2010/07/22 20:22)
[5] 5.カカシ事変――Ⅱ[ビビ](2010/07/22 20:22)
[6] 6.カカシ事変――Ⅲ[ビビ](2010/07/22 20:23)
[7] 7.カカシ事変――Ⅳ[ビビ](2010/07/22 20:23)
[8] 8.挿入話 『ヒナタの悩み』[ビビ](2010/07/02 22:25)
[9] 9.波の国――Ⅰ[ビビ](2010/07/22 20:23)
[10] 10.波の国――Ⅱ[ビビ](2010/07/22 20:24)
[11] 11.波の国――Ⅲ[ビビ](2010/07/22 20:24)
[12] 12.波の国――Ⅳ[ビビ](2010/07/27 10:58)
[13] 13.波の国――Ⅴ[ビビ](2010/07/27 10:58)
[14] 14.波の国――Ⅵ[ビビ](2010/07/27 10:58)
[15] 15.波の国――Ⅶ[ビビ](2010/07/27 10:58)
[16] 16.波の国――Ⅷ[ビビ](2010/07/27 10:58)
[17] 17.波の国――Ⅸ[ビビ](2010/07/27 10:58)
[18] 18.波の国――Ⅹ[ビビ](2010/07/27 10:58)
[19] 19.挿入話『新必殺技!? 燃えろ、サクラちゃん!!』[ビビ](2010/07/27 10:59)
[20] 20.挿入話『戦慄!? 秘められた乙女の心を暴け!!』[ビビ](2010/07/27 10:59)
[21] 21.挿入話『ナルトに嫉妬!? 怒れるキバが牙を剥く!!』前篇[ビビ](2010/07/27 10:59)
[22] 22.挿入話『ナルトに嫉妬!? 怒れるキバが牙を剥く!!』後編[ビビ](2010/07/27 10:59)
[23] 23.中忍選抜試験・前日[ビビ](2010/07/27 10:59)
[24] 24.中忍選抜試験・開始[ビビ](2010/07/27 10:59)
[25] 25.中忍選抜試験・筆記試験[ビビ](2010/07/27 11:00)
[26] 26.中忍選抜試験・死の森――Ⅰ[ビビ](2010/07/27 11:00)
[27] 27.中忍選抜試験・死の森――Ⅱ[ビビ](2010/07/27 11:00)
[28] 28.中忍選抜試験・死の森――Ⅲ[ビビ](2010/07/27 11:00)
[29] 29.中忍選抜試験・死の森――Ⅳ[ビビ](2010/07/27 11:00)
[30] 30.中忍選抜試験・死の森――Ⅴ[ビビ](2010/07/27 11:00)
[31] 31.中忍選抜試験・死の森――Ⅵ[ビビ](2010/07/27 11:00)
[32] 32.中忍選抜試験・死の森――Ⅶ[ビビ](2010/07/27 11:01)
[33] 33.中忍選抜試験・死の森――Ⅷ[ビビ](2010/07/27 11:01)
[34] 34.ナルトと自来也――Ⅰ[ビビ](2010/07/28 12:34)
[35] 35.ナルトと自来也――Ⅱ[ビビ](2010/07/29 14:57)
[36] 36.ナルトと自来也――Ⅲ[ビビ](2010/07/29 16:00)
[37] 37.ナルトと自来也――Ⅳ[ビビ](2010/07/30 23:12)
[38] 38.ナルトと自来也――Ⅴ[ビビ](2010/08/02 21:54)
[39] 39.挿入話『砂と音』[ビビ](2010/08/05 14:02)
[40] 40.挿入話『滝と模倣』[ビビ](2010/08/10 10:26)
[42] 41.中忍選抜・最終試験――Ⅰ[ビビ](2010/09/10 11:16)
[43] 42.中忍選抜・最終試験――Ⅱ[ビビ](2010/09/10 14:30)
[44] 43.中忍選抜・最終試験――Ⅲ[ビビ](2010/09/16 11:25)
[45] 設定資料集……ってほどのことでもないかも。ネタバレ注意[ビビ](2010/07/12 10:53)
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[19775] 28.中忍選抜試験・死の森――Ⅲ
Name: ビビ◆12746f9b ID:5a173f50 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/27 11:00
6.

 邪悪に微笑みながら、【首斬り包丁】の切っ先を向ける。腐葉土の地面には、侵食されたチャクラが漏れ始めていた。
 我愛羅は恐怖を感じながら、目線を向ける。原因となった金色の少年は、禍々しいチャクラに包み込まれており、どす黒い何かを孕んでいた。赤黒く明滅する【首斬り包丁】は必殺の意思を感じさせる。
 吊り上がった唇から、唸り声があがる。
 死を幻視させられるほどの殺気が込められた威圧的な声音だけで、我愛羅が纏う砂が崩れ落ちそうになる。苦痛の表情を浮かべて、ことさらに力を込めなければ立つことすらできない。
 いくら我愛羅と同じ人柱力といえども、存在の大きさが完全に違う。同じ系列に並べることすらおこがましいほどの絶対悪。それは強いという次元を越えていた。

「どうした? さきほどまでの威勢はどこへ行った? 臆したのか? 所詮は狸。九尾の妖狐に挑む気概はないということか?」

 知れず、我愛羅は一歩後退していた。緊張のあまり硬直した手を開くだけの行為が難易度の高いことに思える。
 生存本能が警鐘を鳴らす。早く逃げろ、と腹の内に住まう守鶴が騒ぎ出し、背筋に戦慄が走った。
 しかし、我愛羅は逃げたくない。意地があった。
 我こそは修羅なり。
 かつて味わったことのない戦いがここにある。
 自分は強いのか、弱いのか。確かめるためのに相応しい絶対強者が眼前にいる。
 挑め。
 戦え。
 そして、殺せ。
 さすれば己が正を見出させる。

「……ぐるぅあああああああっ!!!」

 叫びに応じ、砂が細く長い鞭を形成していく。触手のようなそれをナルトの【首斬り包丁】が火花を発して迎撃した。
 衝撃でナルトの踏みしめる地面に靴裏が食い込む。刃を切り返し、砂の鞭を赤黒く明滅した刀身が切り払い、砂は宙へと霧散する。
 切断された砂は再び鞭を形成し、その細く長く、数を増やしていく。砂塵を巻き上げながら、鞭は音速の壁を叩き壊す衝撃波を撒き散らしながら、九尾に幾度も襲い掛かる。
 鞭というものは先端を見切ることが不可能に近い。そういうふうにできている。
 だが、ナルトは薄く笑いながら全ての攻撃を無造作に振るう【首斬り包丁】で受け止めていた。

「そうだ。頑張れ。ほら、そこだ。おっと、後少しだったぞ。惜しい、惜しい」

 死の弾幕を切り払いながら、九尾はくぐもった笑いを抑えきれずに漏れ出している。
 耳を聾する爆音と、降り注ぐ鞭の雨の中、九尾はゆるりと歩みを進める。鍛え抜かれた右腕で【首斬り包丁】を垂直に振り上げて、跳躍した。
 血色の刃は長さを増し、剣というよりも槍のような形状へと変化していく。空中で姿勢を整え、迎え撃つように飛来してくる鞭の弾丸を身のこなしだけでするりと隙間を抜けていく。剣を頭上へと振りかぶり、瀑布の如き一刀を降らせた。
 轟っ!!
 禍々しい鮮血の刀身が、一気に我愛羅の殻を切り砕いた。【砂の壁】や【砂の鎧】などよりも硬質であろう砂の身体は豆腐のように切断され、一気になかほどまで刃が到達した。剥がれ落ちる流砂の中から垣間見える我愛羅の身体には深い傷が刻み込まれ、粘性の液体が身に纏う忍装束を濡らしていく。

「あぁぁぁぁっ!!」

 悲痛な叫びがあがる。
 
「つまらん。所詮は脆弱な人間か。守鶴を出せ。お主ではワシの遊び相手はつとまらぬ故」

 氷の声で言い放った九尾が、刃を首筋に当てて命令する。
 首に触れている刃に、徐々に力が込められる。残酷に輝く【首斬り包丁】が、絶叫する我愛羅の首にめり込んでいく。愉悦を刻み込んだ悪辣な黄金の瞳に亀裂が走った。

「あ……ぐぅ……」
 
 苦痛に呻き始めた九尾はチャクラが無産した漆黒の鉄塊を地面に取り落とし、もがき始める。
 荒れ狂うチャクラが暴風となり、我愛羅の身体を吹き飛ばす。木の葉のように宙を舞う我愛羅は、突如現れたしなやかな腕に抱きとめられた。

「……大丈夫か、我愛羅?」
「逃げるじゃんよっ!」

 兄弟であるテマリとカンクロウが、我愛羅を助けた。
 手酷い仕打ちを与えたというのに、返されたのは救いの手というのは我愛羅には理解しがたいものであり、過去のトラウマから、他人のことを素直に信じられずにいた。
 目を見開き、弾き飛ばそうと努力するが、チャクラを使い切ったおかげで身体が言うことを聞かない。
 その間にも、苦しみもがく九尾からは膨大なチャクラの風が溢れ出し、周囲の木々を薙ぎ倒していく。まるで小さな台風のようだ。

「何じゃんよ。あれは何じゃんよ……?」
「今のうちに逃げよう。ね!? 我愛羅!」
「黙れ……俺は……っ!!」

 血を吐き出すような思いで我愛羅は抵抗しようとするが――

「やばいじゃんよ。うめき声が消え始めている」

 九尾の暴走が沈静化していった。
 しかし、苦痛のうめきは途切れることなく、それを背後にしながら暴れようとする我愛羅を無理やり押さえつけ、テマリとカンクロウはこの場を後にした。
 残るは頭を抑えてのたうち回る九尾と、近くに転がるサクラの遺骸。
 九尾がちらりとサクラの遺骸を目に留めると、さらに苦しみが増していく。

――約束を違えたな……っ!

 腹の中から響き渡る言葉。
 臓物を引き裂かれるような、脳髄を焼き尽くされるような、形容しがたい劫火が暴れ狂う。
 宿主が覚醒し、怒りに染まって自分の身体を傷つけているのだ。

「くそ……せっかくの自由を邪魔する気か……憎き仇の息子よぉぉぉっ!!」

――サクラの命を救えと言った! それに、俺には親などいねぇっ!

「……助ける。助けるから――頭が割れそうだ……っ!」

――中から見させてもらっていた。お前は俺の仲間を蹴り飛ばした。

 九尾の意思に反して、右腕が【首斬り包丁】の柄を硬く握り締めた。
 血でぬらついた刀身が不気味に輝く。

――俺の中で生きる脆弱な妖魔よ。俺が死んだらどうなるんだろうな……?
 
 脅しの言葉が木霊する。
 九尾からすれば気紛れに殺せる程度の力しかない人間に脆弱と罵られ、見下される。
 許せるものではなかったし、それに、人が痛がりだというのも知っている。

「やってみろ、小僧がっ!」

 その言葉が仇となった。
 瞬間、刀身が左腕に突き刺さる。
 千切れはしていないが、半ば貫通したそれは視界が焼かれるほどの熱を発する。再び振り上げられた【首斬り包丁】がさらにぬめり気を帯び、鮮血で染められていた。

――腕を抉りつけた。次は心臓だ……!

「ぐ……本気かっ!」
 
 ナルトの本気を感じ、九尾は退いた。
 大人しく封印の中に潜り込み「いつか喰ろうてやるぞ、小僧」と怨念の篭る捨て台詞を吐く。
 身体の指揮権はナルトの手元に戻ってきた。
 がくり、と身体が倒れそうになる。
 千切れかけの左腕は身体に残る九尾のチャクラで治り始めているが、完治はしていないおかげで、目が眩む。血が足りない。九尾に酷使されたか身体が悲鳴を上げる。

「――くそ……サクラは……そこか」

 倒れ伏すサクラは泥に塗れ、穢されている。
 巻きつけたジャケットからも血が溢れ出し、生命の存在は感じない。
 ぎりり、と歯が鳴る。

「やり方なんざわかんねー。失敗したら、ごめんな」

 九尾のチャクラが身体に残っている。普段のチャクラとは違う、圧倒的な力を掌に込め、サクラの腹へと流し込んでいく。
 その量は莫大なものだった。身に余るチャクラは掌から注ぎ込む作業は神経を焼き尽くすほどの痛みを代償とし、徐々にサクラの頬に朱がさしていく。
 呆気ないほどに上手くいくことに嬉しさがこみ上げていくが、油断はできない。
 傷口が塞がっていき、腸が身体の中に押し込まれていくのを確認して――途切れかけの意識の中、確かに見た。目を開き、「――あれ……ナルト……?」とぼんやりとした眼で見つめるサクラの姿を。

「おう、おはよう……」

 無意識に答え、ナルトはサクラの身体の上に前のめりに倒れ伏した。

「ナルト!?」

 サクラはナルトを抱きとめたが、冷ややかな体温が伝えてくる。
 ナルトが、危ない。
 状況は不明だが、助かったことだけを確認し、ナルトを背負うと、サクラは傷む身体を根性で奮い起こして立ち上がった。

 ◆

 サスケが太腿にはめ込んだホルスターから二振りの苦無を引き抜きながら、高速の投擲を打ち放った。二条の刃を大蛇の鼻の穴に滑り込むように入り、突き刺さる。悲鳴があがった。
 巨体をうねらせて周囲の木々を長大な尻尾で薙ぎ倒す。
 怯んだ隙を衝き、サスケは木の幹に吸着して空に向かって走り抜けると、大蛇の顔面の近くへと移動し、跳躍した。大蛇の苦痛に呻く開かれた大口へと飛び込んでいく。
 気づいた大蛇は口を閉じようとするが、サスケが中に入ったほうが早く、頭頂部と足だけで口の中に空間を生み出す。空いた両手は印を組み――

「……つあぁぁぁっ! 火遁・豪火球の術ッ!!」

 軋む身体に無理を通して、口腔から劫火が吐き出された。口内を侵略する猛火は上下問わず焼き尽くし、穴という穴から空気を求めて逃げ惑う。それは眼球を侵し、体内を侵し、小さな脳すら焼き尽くした。
 身の内を侵略する灼熱に耐え切れず、大蛇は悲鳴をあげる余裕すらなく、苦痛に悶えて倒れ伏す。

「腹の中焼かれたらさすがに効くだろ」

 肉が焼かれる汚臭に鼻を曲げながら、サスケは横たえた大蛇の口内から現れた。
 煤けた服はところどころ燃え尽きており、自分も無傷ではないのだろう。軽い火傷を負っていた。
 破けた服の切れ端を引き千切りながら、サスケは周囲を窺い、吐き捨てる。

「――そこに隠れてる奴、出てこい。そんなに殺気出してたら猿でも気づくぞ」
「ク、ククク、気づいていたのね。うちはサスケくん」

 現れたのは長身痩躯の男だった。笠で隠れて顔はあまり見えないが――関係なく、底の見えない男である。
 目に見えた瞬間、死を幻視した。頭をかち割られ、殺される惨殺の映像が脳内で映写される。
 感じた彼我の力量差は推し量られないほどに隔たれているようで、サスケは息すらできないほどに圧迫される。

「……か、ぐぅ……くっ!」

 強者と相対したときの心得を思い出す。
 カカシが言っていた言葉――

(腹に力を込めろ。死に魅入られるな。俺は強い。俺は強い。俺は強い。俺は死なないっ!)

 折れかけの心は力を取り戻し、丹田に気が充実する。
 男は驚いたようで、笑いながら拍手をしてきた。

「へぇ、耐え切るのね。さすがは天才忍者の末裔と言ったところかしら?」

 何故自分の名前を知られているのかは思考から除外する。
 落ち着いた思考はひたすらに現状認識に傾けられていた。

(相手の戦闘能力は未知数。殺気からして格上だと判断する。逃げ道はない。仲間の支援もない。絶望的な戦況だ……)

 選択肢は『降参』か『反逆』の二つのみ。
 前者は性に合わない――残るは一つ。

「……けど、やるっきゃねぇよな」

 呟きとともに浮き上がる写輪眼の紋様を見届けた男はにやりと笑うと、超高速の抜き打ちで苦無を投擲する。
 軌道が写る写輪眼の前で投擲など意味はなく、投げられた苦無を指先で反転させ、勢いそのままに男に返す。神業といってもいいそれを見て、男は驚きのあまり目を見開いた。

「へぇ、凄まじいわね。その歳でここまで写輪眼を使いこなすとはね……」

 速度が落ちることなく戻ってきた苦無を受け止めて、そのときにこそ男の顔は驚愕に染まる。
『ジジジッ』と点火する札が、苦無の柄に巻きついていたのだ。

「起爆札……いつのまにっ!?」
「爆死しろっ!」

 爆裂の刃が激発し、男の身体を吹き飛ばす。
 爆裂寸前に男が飛翔した事実を、サスケの写輪眼が見逃すはずもなく、既に着地地点へと疾走していた。
 木の幹に水平に男は着地する。待ち受けていたサスケは関節を全て連動した、踏み込んだ地盤が踏み砕かれるほどの激烈な拳を放つ。軌道上に舞い散っていた木の葉は破裂し、そのまま男に向かっていくが――受け止められた。無造作に優しく掴み込まれた拳の威力は完全に殺されて、衝撃は生み出されない。

「ふ……ふふふ、予想以上の逸材だわ! 天才なんて言葉が悲しく思えるほどの才能! 素晴らしい……素晴らしいわっ!!」

 男は感嘆し、絶叫する。
 男は左腕を振り下ろし、サスケの右頬へと撃ち込まれる。
 自分から首を捻り、反転した身体の勢いのまま、サスケは左足での後ろ回し蹴りを繰り出した。頭を伏せて男は回避するが、蹴りの軌道が変化し、踵を落とす。
 男は左手でサスケの左踵を掴む。サスケが肉体活性で身体を強化し、身体を捻った。左足を相手に掴まれた状態で、旋風となった右足の回し蹴りを放つ。
 首を引いて、男が高速の蹴りを回避するが、その間にサスケが後退し、距離を取る。
 どちらも攻撃を当てることができず、無傷に終わった交差は――何が楽しかったのか。男はくつくつと背中を曲げて笑い始めた。

「先読みをしているのね? 私の攻撃を先読みしているのね!?」

 歓喜溢れる声音が響き渡る。
 折れ曲がった背中が伸ばされて、男はサスケを睥睨する。
 瞬間、サスケは男の目に魅入られた。

(金縛りっ!?)

【金縛りの術】――まるで見えない鋼の糸で相手を縛りつけるような身体拘束術である。身体の動きを封じられ、竦んだように動かなくなる。

「ふふ、これで君は動けない……」

 余裕の表情で男は言うが――サスケは裂帛の気合を込めた雄叫びとともに、拘束に抗う。
 じわじわと自由を取り戻していく様を、男は呆然と見守っていた。
 金属が打ち鳴らすような硬質の音が、森の中に木霊する。【金縛りの術】が破られた。

「写輪眼はすべての術を見破る。金縛りなんていう低劣な術に伏すると思うなっ!」
「やっぱり兄弟だわね。あのイタチ以上の能力を秘めた目をしてる」

 知った名を聞き、サスケの柳眉が歪む。

「イタチ……だと? 何故それを知っている。お前は何者だ?」
「熱くならないのね。冷静だわ。金縛りを無理やり破った反動が治まるまで会話で時間を稼ごうとするなんて……君、忍の資質はとても高いわよ」

 図星だった。サスケは術の反動で身体の自由がきかず、万全の体勢ではなかった。

「でも、そうね。会話に付き合ってあげようかしら。どうせ、君が万全の状態であっても敗北する私ではないし……
 私の名は大蛇丸。目的は君の身体……うちはの血を色濃く継いだ、君の肉体よ」
「カマを掘られる趣味はないんだがな……」
「ふふ、強がりを言うのね。可愛らしいわ。けどね。君は私から逃げられない」

 どうしたことか。
 男――大蛇丸の首が轆轤のように伸びると、サスケに向かって突き進んでくる。
 気持ち悪い光景にサスケは一瞬言葉を失うが、迎撃するために両手で印を組む。

「火遁・鳳仙火の術ッ!」

 複数の火球を生み出し、勢いそのままに攻めてくる大蛇丸を迎撃する。
 大蛇丸も印を組み、風を巻き起こしてかき消そうとするが――

「こんなもの……」

 消え去った炎の中から風を切り裂いて疾走する手裏剣が大蛇丸に襲い掛かる。
 伸びた首を引っ込めて回避すると、手にもった苦無で全てを叩き落した。

「……なるほどね」

 手裏剣へと注意を逸らした刹那、大蛇丸の懐に潜り込んだサスケは『チッチッチッチッ』と独特のリズムを刻む雷光の右手を突き出していた。
 大蛇丸は身体をそらしただけで回避し、左脇の下を通り過ぎた【千鳥】で防護されていない二の腕を掴み取る。苦笑混じりに、少しだけ警戒を顕にしながら、サスケのことを見下ろしていた。

「油断も隙もないわね。なんで君はまだ下忍なの? 理解に苦しむわ……」
「くそっ、離せっ!」
「離すわけないでしょうに……」

 もがくサスケに呆れたように言うが――

「そりゃ助かる」

 とのサスケの呟きで、気づく。【千鳥】の鳴き声に紛れて聞こえづらいが、確かに不吉な音が――

「起爆札!?」

 サスケの【千鳥】の中で隠れていた起爆札が大蛇丸の背後で発火する。
 束ねられた起爆札は連鎖を起こし、爆轟がサスケと大蛇丸を破砕する。
 地獄の業火は全てを嘗め尽くし、爆発で吹き飛ばされたサスケから見えた光景は壮観なものだった。
 爆発に次ぐ爆発。止むことのない爆音は耳を聾し、視界を焼く。これで決まらなければどうしようもないという確信を得て、重度の火傷を負った右手に水を浴びせて、苦痛に顔を顰めていたのだが――

「言葉も出ないわ。私を格上だと想定し、捨て身の攻撃すら厭わないその姿勢。感嘆するばかりだわ……」

 無傷のまま、大蛇丸は爆発した場所とは全く違う草陰から現れた。
 驚愕し、水筒を取りこぼす。ばしゃん、と中に詰まった清水は地面へと染み渡っていく。

「欲しい。君が欲しくてたまらない。君のような優秀な忍は木の葉隠れで腐るべきじゃないわ」
「黙れっ! 木の葉隠れは仲間のいる大事な里だ! 誰であっても、卑下することは許さねぇ……っ!」
「気を悪くしたのなら謝るわ。けど、そうね。謝罪ついでにこんなのはどうかしら」

 ぼんっ、と煙を立てて、眼前に立っていた大蛇丸は消える。
 影分身。
 そして、背後に気配を感じた。

「な……!?」
「君に力を上げる。代償は――もちろんあるけどね」

 かぷり、と間抜けな音が耳朶を打つ。首筋に――齧り付かれた。
 処女を奪われた少女のように、サスケは苦痛の悲鳴をあげる。耳を劈く慟哭を聞き、大蛇丸はうっとりと呟いた。

「可愛い悲鳴ね。食べちゃいたい」

 抱きしめながら、撫で回すように背中に手を添えるが、そのとき、明確な敵意を感じて大蛇丸は一歩退いた。

「ちょっと、あんた! サスケくんに何したの!?」

 現れたのは背中に金髪の少年を担ぐ桃色の髪の少女――サクラ。
 服は血で染まり、顔面にも血痕がこびり付いている。青色吐息な状態で、肩を大きく揺らしながら、それでも強い眼差しを大蛇丸に向けていた。

「あら、確か……君はサスケくんの班員ね。それに――九尾の人柱力ね……悪意すら感じる班構成だわ」
「何言ってんのよ……?」

 意味のわからない敵の言葉にサクラは眉を吊り上げる。

「ふふ、まぁいいわ。用事はもう終わったし、私は帰らせてもらうとしましょうか」

 大蛇丸は反転し、興味が失せたかのようにサスケのことを手放した。
 うずくまり、白目を剥いてのた打ち回るサスケに駆け寄りたい衝動を抑え、サクラは静かに大蛇丸の背中を睨み続けている。

「だから、そんなに身構えなくてもいいわよ? 実力の差がわからないほどの愚者なら相手してあげてもいいんだけど……そうでもないみたいだし」
「クッ……」
「じゃあね。また会いましょう」

 木の葉が舞い、視界が埋め尽くされたと思ったら、大蛇丸の姿が掻き消えた。
 見逃された――そういうことなのだろう。
 満身創痍の仲間二人の姿を確認し、サクラはほっと安堵の吐息を漏らす。どちらも、生きている。

「――最悪の事態ね。まずは、隠れなきゃ」

 両肩に仲間を一人ずつ担ぎ、初めて身体を鍛えていたことに感謝した。担いでもなお、余裕がある。

「私が守るから。絶対に――」

 隠れる場所を探すため、サクラは森の中を駆け出した。




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