北エリアの山岳地帯に隠されている洞窟 ドクターゲロの秘密研究所。
「おのれ! 孫悟空は死に、ベジータが19号を破壊できるほどにパワーを増していたとは計算外だった!」
ベジータに見逃された人造人間20号が、制御に失敗してお蔵入りしていた人造人間17号と18号の再調整を行っていた。
「だが、ワタシの人造人間をガラクタ人形呼ばわりした報いは受けてもらうぞ」
カタカタカタ、
コンピューターのキーボードをたたく音が室内にひびく。
「戦闘系に回すエネルギーを抑えて制御系を強化する。これならばワタシの命令にも従うはずだ。多少の弱体化はやむをえん」
16号・17号・18号の永久式人造人間シリーズは、動力に永久エネルギー炉を採用して無限のエネルギーと強大なパワーを獲得している。
しかしその代償は大きい。制御機能に割くための容量が足りなくなった結果、命令を無視して行動してしまうという致命的な欠陥を抱えてしまっていた。
(パワーを抑えれば命令に従うようにすることは可能だ。
だが、あまりにもパワーを抑え過ぎれば強くなったベジータに対抗できなくなってしまう。
可能な限りのコントロールと、ベジータを倒せるパワーを両立させる。絶妙のさじ加減が必要だ)
20号は3日間の時をかけて慎重に、念入りに調整を施した。
「よし、ベジータと孫悟空の仲間どもを最優先抹殺対象に指定!
さあ目覚めろ17号! 18号! ワタシをコケにした奴らを抹殺するのだ!!」
20号は万が一に備えた緊急停止用の制御コントローラーを片手に、2人の人造人間を起動させる。
プシュー!
壁際に備えつけられていた2つの大きなカプセルが開いて、中から人造人間17号と18号が姿をあらわした。
17号は首に赤い色のスカーフを巻いているオシャレな少年タイプ。
18号は金髪でつり目のかわいい女の子タイプだ。
「おはようございます。ドクターゲロ様」
起動した2人の人造人間は、人造人間20号ことドクターゲロに、うやうやしく挨拶をしてみせた。
・・・
エイジ767年5月15日。
最初の交戦から3日後の正午。南の都から南西9キロ地点にある島の、破壊されてしまった旧市街地。
20号はベジータとの約束通りに人造人間17号と18号を従えて、ベジータ、ピッコロ、クリリン、天津飯たちZ戦士の前に再び姿をあらわした。
「そいつらが17号と18号か。思ったとおり大したことはなさそうだ」
「図に乗るなよベジータ! お前たちでは17号と18号には勝てん。絶対にだ!!」
苦心して調整を終えたばかりの人造人間たちをベジータにバカにされて、20号は怒りをあらわにする。
先日破壊された19号とは違い、17号と18号は戦闘を目的に造られている。その性能には絶対の自信があった。
「勘違いするな。貴様らをぶっ壊すのはこのオレだ! 後ろにいるこいつらはただのギャラリーにすぎん!」
「……もしお前がやられても人造人間はオレたちで始末してやる。安心して負けていいぞ」
自分たちを観客扱いするベジータに、ピッコロは口元を歪めて毒を吐いた。
「お前たちは絶対に手を出すんじゃないぞ!」
ボウッ!!
ベジータは気を高めて超サイヤ人になると、ごきりと両手を鳴らして前に出た。
「へぇ、本当に変身するんだ」
「髪が金色になったな。雰囲気も少し変わったか?」
超ベジータのすさまじいオーラを前にしても、18号と17号に動揺はない。
「油断するな。変身したベジータのパワー値はお前たちとほぼ互角のはずだ」
「そいつはすごい」
パワーレーダーを搭載している20号からの警告を受けて、17号はベジータの強さに感心してみせる。
「ごちゃごちゃ言ってないでかかってこい!
ガキか! 女か! 2匹まとめてかたづけてやってもいいんだぞ!!」
「ふふ、ずいぶんと強気じゃないか」
「いいわ。わたしが相手してあげる。こういうムダにプライドの高い男ってキライなんだよね」
かわいい女の子タイプの人造人間18号が、戦闘態勢で前に出た。
「な、なあベジータ、移動しないか? ここで戦うと街に被害が」
「うるさい! 地球人どもが何人死のうがオレの知ったことか!」
おっかなびっくりで誘導を試みるクリリンだが、ベジータはまったく聞く耳を持たない。
シャッ!
先に仕掛けたのは18号の方だった。ベジータがクリリンに気を取られたスキをついた形だ。
「ちっ」
無言で接近してきた18号の左フックをベジータは右腕をあげてガード。
つづく右の拳を左手で受け止め、そのまま18号の身体を引き寄せて反撃のひざ蹴りを叩き込む。
ズンッ!
「……ッ」
「なるほど。少しは楽しめそうだ」
攻撃が当たる瞬間、18号が打点をずらしてダメージを軽減したことを察して、ベジータは満足げにうなずいた。
・・・
ズガガガガッ! サッ!
高速で繰り広げられる力強い攻撃の応酬。ベジータと18号の戦いは、空中戦へと移行していた。
「す、すげえ……」
「戦い方に余裕がある。相手の人造人間もすさまじい強さだが、それでもベジータの方が実力は上のようだ」
ベジータと18号の戦いを見上げているクリリンと天津飯の口から感嘆の声が漏れる。
「はははっ、そりゃそうだよな。ベジータは悟空と同じで超サイヤ人になったんだ。負けるわけないもんな」
「……1対1の戦いならそうだろうな」
上空の戦いに見入っているクリリンたちとは違い、ピッコロは地上にいる17号と20号の方を注視していた。
「まずいな。あれではベジータの体力が尽きる前に18号が破壊されてしまう」
永久式の人造人間は無尽蔵のエネルギーを持つとはいえ、まったくダメージを受けないわけではない。
20号が予想したデータでは両者のパワーはほぼ互角。スタミナ切れが存在しない18号がベジータを押しきれるはずだったのだが……
ベジータは3日前の19号戦を上回るパワーを発揮して、18号を追い詰めつつあった。
「17号。おまえも行って18号と2人がかりでベジータを倒すのだ」
「よろしいのですか?」
17号はまだ動きを見せていないピッコロ、クリリン、天津飯、餃子らに視線を向けた。
18号に続いて17号までもがベジータとの戦いに参加した場合、フリーになった彼らが20号を襲うかもしれない。
「わからんのか、ここで18号が倒されるようなことがあれば我々の敗北は必至だ!
ワタシのことはいい。お前たちは確実にベジータを倒すことに専念しろ!」
「かしこまりました。ドクターゲロ様」
17号は20号ことドクターゲロに向かって深々とおじぎをする。その口元には、あざけるような笑みが浮かんでいた。
ドガガガガッ!
上段、下段、中段。ベジータの繰り出す連続キックが、18号を翻弄している。
「くそォッ!」
「そろそろ身体にガタが来ているんじゃないか!」
バギャッ! スッ、
(!)
18号を殴り飛ばし、さらに追撃をしようとしていたベジータの前に17号が割って入った。
「楽しそうだな。オレも混ぜてくれよ」
「ふん、負けそうになったんでここからは2人がかりってわけか。いいだろう、遊んでやる」
「では遠慮なく」
シャッ!
オシャレな少年タイプの人造人間、17号の参戦により、戦いの流れは人造人間たちに一気に傾いた。
ドカッ! バキッ!
「ぐっ、くそっ、ちょこまかと動き回りやがって~~~!」
空を縦横に駆け巡り、息の合った一撃離脱をくりかえす17号と18号。
1対1のタイマン勝負なら持ち前の戦闘センスで圧倒できるベジータだが、次から次へと繰り出される死角からの攻撃には対応しきれない。
彼ら人造人間には気が存在しない。ゆえに、視界外からの攻撃を察知することが極めて困難なのだ。
・・・
「まずいな。ベジータの奴が押されはじめた」
「オレたちも加勢しないと!」
「やめておけ。文句を言われるのがオチだ。
それにやつらは強い、オレたちが束になってかかっても一時的な足止めがせいぜいだろう」
天津飯は戦況を冷静に見つめている。すぐにでも飛びだしていこうとしたクリリンを、ピッコロが押しとどめた。
「オレたちで20号の方を先に倒すぞ。あの2人がベジータにかかりきりになっている今がチャンスだ」
「ベジータには加勢しなくていいのか?」
「1人で戦うのは奴が自分から言い出したことだ。せいぜい利用させてもらうさ」
「わかった」
天津飯の確認に、ピッコロは非情な答えを返した。腐っても元大魔王である。
「でもよ、あいつも今は一応味方なわけだし」
「心配するな。本当にやばそうだったらオレが助けに入る」
それでもベジータを仲間と認識して食い下がるクリリンに、ピッコロは柔軟な答えを返してみせた。
・・・
「よし、打ち合わせ通りに行くぞ」
「おう」「任せろ」
ピッコロ、クリリン、天津飯ら3人の戦士は散開して、20号を包囲する陣形をとった。
「うるさいハエどもめ。17号と18号を避けてこちらにやってきたか」
シャッ!
油断なく身構える人造人間20号に対して、ピッコロが格闘戦を挑む。
「はっ、でやっ、たあっ」
「このワタシを甘く見てもらっては困る!」
左右の連打、左のボディブロー、右のハイキック。
マントとターバンを脱ぎ捨てたピッコロの素早いコンビネーション攻撃を、20号はことごとくかわしてみせた。
「反応が良い、というわけじゃなさそうだ。オレの動きを先読みしているのか?」
「いかにも。先日の19号との戦いで十分なデータをとらせてもらった。貴様の動きはお見通しだ」
「ふん、オレたちの実力をデータなんぞで計れると思うなよ。本当の戦い方ってヤツを教えてやろう」
「そうしてもらおうか」
ピッ!
「ぐわっ」
予備動作なしに20号の目から放たれたアイビームが、ピッコロの胸をつらぬいた。
(!)
ピッコロをひるませることに成功した次の瞬間、20号は側面に回り込んでいた天津飯の気の高まりを感知する。
「ハァーーーーッ!」
天津飯が腰だめにかまえていた両手を前に突き出すと、左右の手から気功波が放たれた。
「バカめ! ワタシに気功波は効かん!」
ギュウウウンッ!
20号は振り向きざまに両手を突き出し、天津飯が放った気功波のエネルギーを掌から吸収する。
(かかった!)
ズバッ!
「なにぃ!?」
エネルギーを吸収するために動きが硬直する瞬間。それを狙っていたクリリンの気円斬が、20号の両腕を断ち切った。
「いくらパワーがあってもしょせん貴様は科学者だ! 戦い方は素人だったようだな!」
エネルギーを吸収しているコンマ数秒の間、20号は無防備になる事を見抜いたピッコロの作戦だった。
「ぐうっ、17号! 18号! 戻ってきてワタシを」
「おそいッ!」
バギャァッッ!!
背後から襲いかかったピッコロの強烈なキックで、20号の首が千切れとんだ。
「おのれピッコローーー!!」
宙を舞った20号の頭部が、怒りに血走った目でピッコロをにらみつける。
「ふむ。予想はしていたが、頭だけになっても生きていられるとはな。しぶといもんだな、ドクターゲロさんよ」
「なんだと!? まさか気づいていたのか!?」
「オレの耳は特別製なんでな。
そもそも貴様の言動には最初から違和感があった。決定的だったのはお前が17号と18号に命令していたことだ。
戦闘力で勝るあの2体が従っている理由、それは貴様が人造人間たちの生みの親だからだ。そうだろう?」
「ぬぅぅぅぅ……」
「おい人造人間ども! いますぐ戦いをやめて降参しろッ! 降参しなければドクターゲロの命はないぞ!」
ピッコロは人造人間20号ことドクターゲロの頭部を地面から拾い上げ、空へ向かって高々と掲げた。
「人質だと!? あいつら勝手なことを」
ズギャッ!
ピッコロの声に気を取られて動きを止めたベジータを、17号は容赦なく後ろから攻撃。地上めがけて蹴り落とした。
「合わせろ!」
ズババババババッ! ドドォォオオオンッ!!
2人の人造人間はベジータの落下地点めがけて連続エネルギー弾を叩き込み、ベジータを地上の街もろとも爆砕した。
・・・
「やめろっ! おとなしく降参しないとドクターゲロを本当に殺してしまうぞ!」
「ふふ、人質だってさ。どうする?」
「あいつの命なんて知ったことじゃないよね。きっちり始末してくれればよかったのに」
「まあそういうなよ。話くらいは聞いてやろうぜ」
人造人間17号と18号は、ピッコロの呼びかけに応じて地上へと降り立った。
「ど、どういうつもりだ! 17号! 18号!」
危うくピッコロに握りつぶされそうになっていた20号の頭部が、17号と18号を叱責する。
「べつに。ドクターゲロを助けることよりも、ベジータ殺害の方が優先順位は上だったからな」
「そういうこと。ああ、こっちも片付けとかないとね」
ビッ!
18号が指先から放ったエネルギー波が、地面に転がっていた20号の身体を爆散させた。
「ワ… ワタシの身体が……? 自分たちがなにをしているのかわかっているのか!?」
「お前が持っていた制御コントローラーを敵に使われるわけにはいかないからな。適切な処置だろ?」
17号はニヤニヤと、悪意に満ちた挑発的な笑いをうかべる。
「なにを言っているのだ17号!? じょ、冗談のつもりなのか……!?」
ピッコロたちが制御コントローラーを奪って使うなどということはあり得ない。彼らはその存在自体を知らなかったのだ。
ましてや、制御コントローラーを主人であるドクターゲロの身体ごと吹き飛ばす必要性などどこにもないはずだった。
「なぜかって? お前が言ったんだよな。『ワタシのことはいい。お前たちは確実にベジータを倒すことに専念しろ』だっけ?
お前の身体を破壊することぐらいどうってことないさ。ドクターゲロを助けろだの守れだのという命令は受けていないからな。
それに、お前はどうせベジータとピッコロたちを始末できたらオレたちを停止させてしまう。それじゃ面白くない」
「正直さ、また眠らされるなんてまっぴらなんだよね。せっかく外に出てきたんだからもっと色々と遊びたいわけ」
もはや17号と18号の反意は明らかだ。周囲すべてが己の敵だと悟り、20号は顔面蒼白となった。
「バ、バカな!? ワタシは永遠の命を手に入れたはずだ!!
17号! 18号! いますぐワタシを助け――」
「うるさいな。邪魔するなよ」
ビッ! ドムン!
17号が口封じのために放ったエネルギー波が、ピッコロが掲げ持っていたドクターゲロの頭部を破壊した。
「くっ!」
「さてと、邪魔者が消えたところで戦闘再開といこうか」
「あわわ。ど、どうするんだよピッコロ!」
「万事休すだ。オレたちだけではやつらには勝てん……!」
最大の戦力だったベジータが脱落し、ドクターゲロを人質に人造人間たちを降参させるという作戦も失敗に終わったことで、地球の未来は絶望に包まれた。
まずい流れになったと狼狽するクリリン。だが、ピッコロがあきらめの言葉を口にしたまさにその時、最後の戦士が戦場に到着しようとしていた。
・・・
最初に気づいたのはクリリンだった。
「……! 誰だ? 大きな気がこっちに近づいてくる!」
「悟空? いや違う、あれは……!」
空を見上げた天津飯の身体に震えがはしる!
天津飯の優れた視力は、自分たちを手助けするため自ら死地へと飛び込んでこようとする男の正体をとらえていた。
鳥か!? 飛行機か!? いいやちがう! まったくちがう! あれは! そう、あの男の名前は!!
「ヤムチャさんだ! ヤムチャさんが来てくれたんだーーー!」
シュタッ!
「すまんな。遅くなった。だいたいの事情はブルマから聞いてる」
「なんだヤムチャか。孫悟空だったら面白かったのに、おたがい残念だったな」
「わざわざこんな場所にあらわれるなんて、自殺願望でもあるわけ?」
ドクターゲロから与えられた情報によれば、狼牙風風拳のヤムチャとは有名なかませ犬であり、ヘタレであり、いわゆる雑魚である。
知らないうちにどこかで死んでいたとしても何ら不思議はない男。戦士としてはほぼ完璧にノーマークだった。
それがなぜこのタイミングで出てくるのか、17号と18号にはさっぱり理解できない。
地球からの緊急連絡で人造人間という新たな敵の出現を知ったヤムチャさんは、苦渋の決断で試合を放棄。
人造人間との戦いには間に合わない可能性が高いことを感じつつも、バトルオリンピア出場をあきらめて地球への帰路についたのだ。
ドクターゲロがリベンジを挑んでくるまでの3日間で宇宙船を飛ばしに飛ばし、この局面にぎりぎり間に合ったのである。
「いちおう確認しておくが、話し合いでどうにかする、というわけにはいかないんだよな?」
「話し合う必要なんかないさ。こいつはゲームなんだ。
オレたちかお前たち、どちらか全滅した方の負け。シンプルで良いだろ?」
「やさしさなんぞ期待するだけ無駄だ。さっき奴らの生みの親であるドクターゲロを人質に取ったが、何のためらいもなく殺されてしまった」
「うーむ、気を感じられないからよく分からんのだが、もしかして超サイヤ人よりも強かったりするのか?」
「いいや、1人1人の力は超サイヤ人になったベジータよりも下だ。もっとも、オレやお前よりもはるかに強いのは確かだがな」
ピッコロの皮肉っぽい言い回しに、ヤムチャさんは苦笑を返した。
「わかった。1人はオレが倒して見せる。後のフォローは頼むぜ」
「倒すだと? いまオレたちを倒すって言ったのか? ヤムチャのくせに?」
(ヤムチャ、お前には無理だ)
ヤムチャさんをバカにした言動をくり返す17号と、ヤムチャさんには一切期待していない天津飯。
彼らは知らない! ヤムチャさんがきびしい修行を乗り越えてきたことを! 新しい必殺技をひっさげてここに来ているという事実を!
「はぁぁぁぁぁ!」
メキメキメキ……! ボンッ! バチバチバチィッ!
ヤムチャさんの全身の筋肉が大きく膨張して、灼熱のかがやきを帯びたオーラがスパークした。
肉体を一時的に活性化させ、内に秘めている潜在パワーを100%引き出す強化系能力『爆肉鋼体(ばくにくこうたい)』だ。
過去にはヤムチャさんの師匠である亀仙人が、異なる次元の未来においてはトランクスという青年が使用した高等技術である。
「こ、これは!?」
急激に高まっていく気の波動を肌で感じて、3人のZ戦士たちは目を見開いた。かつもくせよ! これがヤムチャさんだ!
「むぅぅぅうん!」
ボウッ!
ヤムチャさんの右掌に、膨大なオーラを凝縮した繰気弾が生み出された。
放出系と強化系と操作系、3つの得意系統をうまく組み合わせて最強の必殺技を完成させる。
ハンター世界で心原流念法の奥義を学び、ヤムチャさんがたどりついたのは、とてもシンプルな答えだった。
放出系と操作系の複合技である繰気弾に、強化系のパワーを上乗せする。
『螺旋繰気弾(らせんそうきだん)』
気のコントロールを磨きあげることにより実現した、野球ボール大の圧縮繰気弾。
天空闘技場のライバルたちの協力により習得した爆肉鋼体と、数え切れぬほどに繰り返した投球練習。
それら約1年もの長きにわたる武者修行の集大成。大きく振りかぶったワインドアップモーションから放たれる魂の一球!
「いくぜ! これがオレの新必殺技! マックスパワー螺旋繰気弾(らせんそうきだん)だ!!」
キュゴォウッッ!
ヤムチャさん自身の投球技術と繰気弾に付与された操作能力によって強烈な螺旋回転を加えられた魔球が、超高速のレーザービームとなって17号を襲う。
ボンッ!
ヤムチャさん渾身のジャイロストレートは、とっさに受け止めようとした17号の両掌と胸を貫通して、彼方へと飛び去った。
「え…… 17号?」
事態を飲み込むことができない18号の目の前で、心臓部に大穴をあけられてしまった17号の身体がゆっくりと後ろに倒れていく。
彼の最大の敗因は、ヤムチャさんを侮っていたことだった。
容量の都合からパワーレーダーが搭載されておらず、実戦経験にも乏しかったために、ヤムチャさんの必殺技の危険性を見抜けなかったのだ。
マックスパワー螺旋繰気弾。様々な要素がかみ合った相乗効果により飛躍的に増した攻撃力と貫通力は、超サイヤ人の一撃をも凌駕する。
「あ、あああ、あああぁぁーーー!」
目の前で17号を失い、狂乱した18号がヤムチャさんに襲いかかった。
「くっ」
ヤムチャさんは急いで体勢を整えようとするが、その動きはにぶい。
螺旋繰気弾はとても強力な反面、大量の気を消費してしまう。オーバーアクションゆえに前後の隙も大きい、まさに諸刃の剣なのだ。
「ヤムチャさん!」「やらせるか!」
「お呼びじゃないんだよ! 邪魔をするなっ!」
怒りに燃える18号は、ヤムチャさんのフォローに入ったクリリンとピッコロを一瞬で叩き伏せる。
「死ねヤムチャ! 17号のカタキだ!!」
「真・狼牙風風――」(ダメだ! 迎撃が間に合わない……!)
「新気功砲(しんきこうほう)!」
ズドンッ!
ヤムチャさんの目の前にまで迫った18号を、横殴りの衝撃波が吹き飛ばした。
「サンキュー! 天津飯!」
「ふっ、まさか本当に人造人間を倒してしまうとはな。オレは正直、お前を見直した」
ガラガラガラッ、
吹き飛ばされた際に突っ込んだ建物のがれきを押しのけて、18号が立ち上がる。
「やはり無理か。オレの気功砲ではダメージを与えることはできても致命傷を負わせることはできない。
ヤムチャ。さっきの技、もう一発いけるか?」
「ああ。けど、あの技は準備するのに時間がかかっちまうんだ」
「まかせろ。時間だったらオレがかせいでみせる」
勝機はある。あとはそれを実現するだけだ。天津飯の目には捨て身の覚悟が宿っていた。
(悲しまないでくれ餃子。無事にお前のもとに戻るという約束、オレは果たせないかもしれん)
憤怒の表情を浮かべて迫りくる人造人間18号に対して、天津飯は全身全霊を持って
「……あ。すまん、もう必要ないみたいだ」
「なんだと?」
ギュアッ!
決死の戦いを覚悟していた天津飯とヤムチャさんの横を、金色の戦士が駆け抜けた。
「どこを見ていやがる! 貴様の相手はこのオレだぁっ!」
ズギャッ!
猛スピードで強引に割り込んできた超ベジータの蹴りで、18号の身体が空中に跳ね上がる。
シャッ! ドゴォッ!
さらにベジータは空中に先回りして、両手を組んでの強烈な打ち下ろしを叩き込んだ。
ズドーン!
生意気な18号を地面にめり込ませると、ベジータは最後の力を振り絞って突きだした右腕にありったけの気を集中させる。
「やばっ! 天津飯! いますぐここから離れるんだ!」
「わかった!」
危険を察知したヤムチャさんは、気を失っているクリリンを背負って大急ぎで退避する。
天津飯も、弱っているピッコロに肩を貸してすぐにその場から逃げ出した。
「くらえ! こいつが超ベジータの ビッグ・バン・アタックだ!!」
カッ!!
ベジータの右腕から放たれた巨大な光弾が直撃した18号は、そばにあった17号の遺体もろとも、あとかたもなく消滅した。
あとに残ったのは市街地の半分を消し飛ばしてできた巨大なクレーターだけだ。人造人間たちの全滅により、この戦いは終結した。
「あぶなかったー 派手にやりすぎだろベジータ! これじゃどっちが悪党なのかわかりゃしないぜ!」
「貴様こそ余計なまねしやがって! あいつら2人とも、このオレが粉々にぶっ壊してやる予定だったんだぞ!」
超サイヤ人を維持できないほどに消耗して、普段の黒髪に戻ったベジータがツバを飛ばしながら怒鳴り立てた。
「宇宙からはるばる帰ってきたってのにひでー言い草だな! だいたい敵を倒すのなんて早い者勝ちだろうが!」
「よっぽど死にたいらしいな! こっちへこい! 貴様に引導を渡してやる!」
「やなこった! くやしかったらここまでおいでーだっ!」
「ガキか、お前ら……」
こうしてヤムチャさんとベジータ、天津飯たちZ戦士の活躍により、地球の平和は守られたのだった。
ところで。今回の事件により、修行で他所の惑星にいると地球の危機にすぐ駆けつけられないという大問題が発覚した。
しまった! 瞬間移動を習得しないことには安心して地球をはなれることができないぞ! ヤムチャさんの冒険はここで終わってしまった!
・・・
その後のハンター世界について語ろう。
1999年3月 幻影旅団
ヤムチャさんを捕らえたことで地球その他に関する情報を得た幻影旅団は、超重力修行による戦力強化を実施した。
宇宙は広い。上には上がいる。自分たちが扱っている念能力には、都市を一瞬で消し飛ばし、星をも砕くだけの可能性が秘められている。
その現実を認識するに至ったことで、精神的ブレイクスルーを遂げた幻影旅団の面々は、短期間のうちにメキメキと力をつけていった。
1999年9月 ヨークシンシティ ドリームオークション
ヤムチャさんのおかげで金策に成功したゴンとキルアはグリードアイランドの落札を狙うが、GIの買い占めを行っていた大富豪バッテラにより撃沈。
同じくGIを狙っていたキルアの兄、ミルキと協力して最後の一本を手に入れようと計画するも、大富豪バッテラの資金力にはあと一歩及ばなかった。
2人はゲーム本体を手に入れることこそできなかったものの、ゴンの機転よりGIプレイヤーとして雇われることに成功する。
1999年9月 天空闘技場 バトルオリンピア
優勝候補の一角であったヤムチャさんは「すまんが急用ができた」と戦線離脱。ニコルへの伝言を残して地球へと飛び去った。
きびしい修行をおこない、さらに磨きをかけた新虎咬真拳を武器に参戦したカストロだったが、初戦でぶつかった謎の覆面闘士ミスターエックスに敗退する。
今大会は特別招待選手であるミスターエックスが圧倒的な強さを見せつけ優勝をさらった。その正体はハンター協会のネテロ会長ではないかとうわさされている。
2000年1月 第288期ハンター試験
ヤムチャさんが受験した第287期の4倍近い人数、約1500人もの受験生たちが本試験会場へと集結した。
本来の歴史では今年唯一の合格者となるはずだったキルアは、去年のハンター試験ですでに合格しているため参加していない。
今期合格者の中には、ヤムチャさんの繰気弾を喰らったことで念能力に目覚めたゲレタ&バーボンと、去年は惜しくも不合格となったポックルの姿もあった。
1999年 ~ 2000年 グリードアイランド攻略
ヤムチャさんの指導により原作以上に力をつけていたゴンとキルアは、順調にゲームを攻略していく。
ビスケ・ゴレイヌ・ツェズゲラ・ハンゾーらと協力してゲームマスターであるレイザーに挑むが、ヒソカ不在の穴を埋めることができずレイザーに敗北。
爆弾魔(ボマー)との戦いには勝利したものの、ツェズゲラ組が離脱してしまったため人数が足らなくなり、レイザーに勝つための準備で足止めを喰らっている。
2000年5月 NGL キメラアント編
巨大なグルメアント(キメラアント)の女王がNGL自治国に潜伏。人間を餌として大量繁殖する生物災害(バイオハザード)が発生。
女王を守る直属護衛軍、ネフェルピトーに敗走したプロハンターカイトからの要請により、ネテロ会長ら討伐隊がキメラアントの巣を強襲する。
蟻の女王を守るため巣に集結したキメラアントたちだったが、ネテロ必殺の5倍界王拳『百式観音(ひゃくしきかんのん)』によって全滅させられた。
クラピカは幻影旅団の情報を求めて裏社会をさまよっている。レオリオは医術と念法を学んで仙豆もどきを具現化した。
ヤムチャさんに敗れてしまった奇術師ヒソカは、凶悪な宇宙人たちが跳梁跋扈する地獄の世界で楽しい日々を過ごしている。
死の運命を免れた者たちがいる。生まれ出ることすら許されなかった者たちがいる。
良くも悪くも、ヤムチャさんの存在はこの世界の歴史に多大な影響を与えていた。
ヤムチャ in H×H END.
***
『でも、クロロと殺り合えないで終わるのが少し残念かな。
ねェヤムチャ。ボクの代わりにクロロと戦ってみないかい?
きっと面白いことになる。』
とある奇術師の予言。
***
『終幕 幻影旅団 in DB』
帰ってきたヤムチャさんと超ベジータが活躍した今回の戦いを、人知れず見ていた者たちがいた。
「ありゃ勝てねーわ」
「1000年に一度あらわれるって伝説の超サイヤ人。ふつーに2人目が出てきたじゃねーか」
「ピッコロが殺されるとまずいってんで見にきたけど、とんだ無駄足だったね」
司令塔のクロロ、武闘派のフィンクス、情報担当のシャルナーク。
気配を消して高みの見物をしていたのは、100倍の超重力修行を克服してすでに地球入りしていた幻影旅団の面々だ。
「あいつら想像してた以上に強くなってるよな。オレたちが見てなかった半年間でヤムチャも急成長したみたいだし」
「クリリン、ヤムチャ、天津飯はまだいいとして、ピッコロとベジータはなんか対策しとかないとやばいだろ」
「むしろベジータと戦えてた人造人間ってのがすごいよね。この星の技術水準からみてもあれは異常なレベルでしょ」
ヤムチャさんが披露した新必殺技の威力と、ベジータが覚醒していた超サイヤ人の強さにはすさまじいものがある。
しかしそれ以上に彼らの興味を引いたのは、超サイヤ人に匹敵する力を持つ人造人間と、それを開発した天才科学者ドクターゲロの科学力だった。
その後、ドクターゲロに関する情報を集めた幻影旅団は、北エリアの山岳地帯にある洞窟にて彼の秘密研究所を発見する。
幻影旅団はドクターゲロの遺産である完全機械仕掛けの超戦士「人造人間16号」とその内部に搭載されていた「地球破壊爆弾」を入手。
さらには同研究所の地下に隠されていた「スーパーコンピューター」と、作成途中だった究極の人造人間「セル」をも掌中に収めた。
これにより幻影旅団は、コルトピの能力で複製した使い捨ての人造人間16号を、シャルナークの能力で遠隔操作するという最強コンボを完成させる。
「さて、そろそろ始めるとするか」
絶対の切り札を手に入れたと確信した幻影旅団は、団長であるクロロ=ルシルフルの指揮のもと、Z戦士たちとの戦いに打って出る。
最後にドラゴンボールが使用されてから1年が経過したその日、ヤムチャさんと人造人間たちの戦いからおよそ4ヶ月後。
ヤムチャさんたちと幻影旅団によるドラゴンボール争奪戦が幕を開ける。かもしれない。
to be continued...