朝、カーテンの隙間から漏れた日の光で目が覚めました。
普段なら暫くの間寝ぼけ眼のまま愛しの布団との時間を堪能するのですが、今日はとても清清しい目覚めです。
そう、今日からようやく、ようやく!魔法やら何やらの面倒事に遭遇する事のない平穏で退屈な日常が再開されるんです!
そのおかげで気分は最高潮。とはいえ目覚めが早いだけで、着替えも移動も調理も全部能力でそれぞれ操っているんですけどね。
フライング座布団はなかなか楽でいいです。もう自宅の中では歩く必要すらありません。
ソファーに沈み込むように腰掛け、いつもと同じ様に朝のニュース番組を眺めながら、砂糖とミルクがたっぶり入ったコーヒーをゆっくりと味わいます。
最近の私は色々とイベントが多かったのですが、ニュースを見る限り日本国内はいつも通りだったみたいですね。相変わらず政治家がどうとか交通事故がどうとか。
・・・そういえばちょっと前に海鳴で動物病院が倒壊したとか巨大な樹が現れたり消えたりしたとかやってましたけど、アレは今思えばジュエルシードが原因だったんでしょうか。
ふむ、結局ジュエルシードの危険性がいまいち分からないまま終わってしまったせいで全然実感がありませんね。皆さんいい人・・・じゃなくていい宝石?ですし。
さて、今日も学校です。いつも通り歩いて登校する事になりますが・・・ジュエルシードにお願いして転移魔法でも使えるようにしてもらえばよかったでしょうか。歩くの面倒です。
この世界にも魔法が存在していれば私も歩かないで登校出来るんですが、なんとかならないものでしょうか。
いっそ漫画みたいに魔法の強制認識とかでも起こってしまえばいいんですけどね。
学校はいつも通り・・・とはちょっと違うみたいです。
高町さんが居ないせいでしょうか、バニングスさんと月村さんの元気がいつもよりもありません。
高町さんも手伝うのは良い事だと思いますけど、友達を心配させるのはダメでしょうに。まぁ、私には特に関係のない事なんですけどね。
私の友達は遠藤さんしか・・・あぁ、そういえばフェイトさんとアリシアちゃんも友達になったんでしたね。アリシアちゃんはどちらかというと友達の妹ですが。
しかし、友達ですか・・・まさか私に友達が増えるとは思いませんでしたね。両親も喜んでくれそうです。
まぁ、もう魔法関係には関わらないのでそうそう会う機会なんて訪れないでしょうけどね。
「遠藤さん、久しぶりに一緒にお弁当食べませんか?」
「え?珍しいね、松田さんが誘ってくるなんて・・・普段は面倒とか考えて行動しないのに」
「今日は気分が良いですからね」
ええ、とても気分が良いんです。多分明日になると以前までと同じ様なテンションになるでしょうし、今のうちに貴重な友人と親睦を深めておく事にしましょう。
・・・しかし、調理器具任せの料理も美味しいですけど、やっぱり誰かの手作り料理の方が美味しいですね。能力で作ると美味しいんですけど、何というか無難な味付けにしかならないんですよね。
それに比べて昨日のプレシアさんの手料理は美味しかったです。見た目魔女だったあのプレシアさんがあんなに美味しい料理を作るとは思いませんでした。
というかアリシアちゃんを蘇生して病気を治してから雰囲気変わってましたね。多分数日したら魔女から普通のお母さんになりそうです。
しかし手料理ですか。自分で作るのは面倒で嫌なんですけど、やっぱり食べるなら美味しいものの方が良いですよね。
どこかにメイドさんでも落ちてたりしないものでしょうか。出来ればメイドロボだと色々と楽なので嬉しいのですが。
・・・魔法があるなら、どこかに存在しない事も無いかもしれませんね。面倒なので探しませんが。
それにしても平和です。退屈な日常が大好きな私でしたが、これからはもっと大好きになれそうです。
学校も面倒ですが、魔法関連の厄介な事件に巻き込まれる事と比べたらまだマシですし。
願わくばこのままの生活が続いて欲しいものです。
まあ、今思えばそんな事を考えていたのがフラグだったのかも知れません。
あれから二日後、学校から帰宅すると家の前に数人の人影が見えました。
それを見た瞬間その場から逃げ出そうか悩んだのですが、このパターンだとどうせ捕まるだろうと思うのでそのまま立ち向かう事にします。
この人達には何だかんだで関わってしまいますしね。こっちを見て嬉しそうな笑みを浮かべている金髪のお嬢さんを筆頭に。
「再会が早すぎませんか、プレシアさん」
「あら、私たちはまたねって言ったわよ?」
本当に、テスタロッサ家は鬼門と言ってもいいのかもしれません。
「で、何の用ですか?」
「冷たいわね、せっかく会いに来たというのに」
「何度も言ってますが、私は面倒な事が大っ嫌いなんです」
仕方が無いので家の中に招き入れ、リビングでお話を聞く事にしました。
フライング座布団や勝手にコップに注がれるジュース等を見て最初は皆さん呆然としていましたが、流石に慣れてきたらしく今ではあまり気にしていません。
あ、でもアリシアちゃんは未だ興味深々らしく、飛び交うものを笑いながら目で追っています。ちょっと可愛いので暫く何か飛ばしていましょう。
「もう魔法関連から手を引けると思ってたんですけどね・・・」
「大丈夫よ、ある意味魔法関連とも言えなくは無いけれど、厳密にはそんな事ではないわ」
「はぁ、そうですか」
でも面倒事には変わりないんですよね?それが嫌だと言っているんですけど。
というかどれだけ面倒な事になるんでしょうか。フェイトさんとかリニスさんが物凄く申し訳無さそうなを顔している気がするんですが。
「実は、フェイト達を暫く預かって欲しいのよ」
「はぁ、面倒なんで断りたいんですけどとりあえず、一体何故そんな事を?」
「・・・今回のジュエルシードの事件を終わらせて、フェイトとアリシアに平穏な生活をさせる為なのよ」
今回の事件の発端であるジュエルシード。これを運んでいた次元航空艦・・・まあ宇宙船みたいなものですが、それを撃墜したのがプレシアさんらしいです。何してるんですか貴女。
勿論これは明らかに犯罪です。それにロストロギア・・・ジュエルシードを不法所持していますし、管理局もフェイトさんがそれを集めていた事を知っています。
ジュエルシードを集めていた理由やフェイトさんが管理局から逃げた理由は誤魔化せますが、流石に撃墜した事は不可能。それに過去のクローン研究も犯罪なので、まず常識的に考えて普通の暮らしをする事は現状不可能らしいです。
そこで司法取引です。ジュエルシードを返還し、違法研究に協力していた人物や科学者の情報を提供し、クローン研究の過程で完成させた医療に転用できる技術の提供する。
そして管理局に数年間の勤労奉仕をして罪を償い、影でこそこそ暮らさなくてもいい様にするらしいです。
「これで、少なくともフェイトが罪に問われる事は無くなるでしょうね」
「成程。そして数年間帰る事が出来ないから私に預かって貰いに来た、と」
「ええ。この世界に戸籍や人脈があれば何とかなるから家も借りられるでしょうけど・・・」
「はぁ・・・あれ?じゃあジュエルシードを探していた時って、フェイトさんをアルフさんは何処に住んでたんですか?」
「あの時はアルハザードに行くつもりで全部切り捨てるつもりだったから、残っていたお金を殆どつぎ込んでマンションの管理人に無理やりなんとかさせたわ」
「力技ですね・・・というかそのマンションに住めば良いのでは?」
「数ヶ月借りる契約だったのよ。もうすぐ期限切れだから、せいぜい一ヶ月が限度でしょうね」
とりあえずうちに頼った理由はある程度納得できました。でもまだ聞きたいことがありますね。
あ、アリシアちゃん暇ならテレビ見てて良いですよ?
「プレシアさんが居なくなったとしても、リニスさんが居れば何とかならないんですか?」
「リニスを置いていければ問題無いでしょうけど、ミッドで働いてお金を稼いでもらわないと生活費が無いのよ」
「まさかそこまで貴女に迷惑はかけられませんし・・・ここに戸籍があればこの世界で働いて家も借りられるのですが」
つまりこの世界に戸籍さえあれば何とかなりそうという事ですか。戸籍、戸籍ですか・・・
「話は聞かせてもらった!!」
「人類は滅亡するわ!!」
「「「えぇ!?」」」
「お父さん、お母さん。いきなり帰ってきたかと思えば変な事を言わないで下さい。後フェイトさんとアリシアちゃんと、後何気にアルフさんも信じちゃってますから撤回してください」
というかいつから聞いていたんでしょうか。犬の使い魔と猫の使い魔がいるのに盗み聞きがバレなかったってどういうことでしょうか。
本当に謎すぎる両親です。
「で、このタイミングで出てきてそんな発言をするという事は何とか出来るんですか?」
「勿論。ちょっと友達に頼めば何とかなるよ」
「家も友達に頼めば何とかなると思うわよ~」
相変わらず不思議すぎる人脈を持っている両親ですね。さすが吸血鬼と月見したりするだけの事はあります。
「っと、いきなりすみません。どうやら杏がお世話になっている様で」
「・・・はっ!?い、いえいえ、むしろ私達の方が娘さんの世話になりっぱなしです」
「それにしても杏の友達が増えるなんて思わなかったわ。めんどくさがりだからもう増える事は無いって思ってたもの。一人しか居ないみたいだったし」
「杏お姉ちゃん、友達居なかったの?」
「面倒だっただけですよ」
「えっと、私、友達で良かったのかな・・・」
「友達だと思ってましたけど、もしかして独りよがりだったんでしょうか。流石にショックなんですが・・・」
「あ、ううん、友達だよ!私の始めての友達!」
「・・・お互い友達が少ないですね」
「・・・そうだね」
「フェイトも杏お姉ちゃんも私も、友達少ないね・・・」
私はあまり気にしていないんですが、どうやら二人はちょっと気にしているみたいです。
ちなみにアリシアちゃんがフェイトさんの事を呼び捨てにするのは、実感が無くても本当は自分が姉だかららしいです。何気にフェイトさんが残念がってました。
「・・・というわけで、三日後にまた来てください。その頃には用意が済んでると思いますので」
「本当にありがとうございます。なんとお礼を言っていいのやら・・・」
「いえいえ、杏のお友達の為ですから」
気が付けば話が纏まったようです。
というか、一体どんな用事があって突然世界旅行から帰ってきたんでしょうか?
「なんとなく、帰った方がいい気がしたのよね~」
本当にこの両親は謎です・・・まさか魔法使いだったりしないですよね?
ともかく、そんな感じでテスタロッサ一家が地球住む事となりました。
まだ何処に住むのかは分かりませんが・・・この両親の事ですから、恐らくこの家の近くなんでしょうね。
結局魔法関連から離れる事は出来ないわけですか。
・・・でもまあ、貴重な友人と会いやすくなる訳ですし、別にいいでしょう。面倒ですけどね。