「んー・・・」
朝、カーテンの隙間から入ってくる日差しが顔に当たっていたせいで少し早く目が覚めた。それでも、まだ少し眠いから目を開けずにそのまま布団の中に居る事にする。
抱き枕に顔をよせて、何だか温かくて幸せだなぁ・・・と考えていた所で、私が普段抱き枕なんて使って無い事に気付いた。
何を抱きしめているのかな?と考えてすぐ、昨日は杏と一緒に寝た事を思い出した。
(昨日の杏は可愛すぎだよ・・・)
うーうー言いながらゴロゴロ転がった杏を確保してからは、ひたすらナデナデしたり抱きしめたりしながら色々と会話をしていた。今思うと私も結構暴走してた気がする。
でも、長い間杏と一緒に暮らしてたけど、杏がこんなに甘えん坊になるとは思わなかった。やる気満々というか願望に正直になってるみたいだって本人が言ってたから、これがある意味杏の本当の姿なのかもしれない。
何せ最初は恥ずかしがってうーうー言ってた杏も、後半はもう開き直って抱き返してきてたもんね。本当に可愛かった。
照れ笑いを浮かべながら上目使いで見られた時は、思わず何かいけない扉が開きそうになったよ・・・なのは達にはもう開いてるって言われそうな気がしたけど気のせいにしておく。うん、気のせい。
さて、そろそろ眠気も覚めてきたし起きなくちゃいけない。なので杏を抱きしめたままの状態で目を開けて・・・思わず停止してしまった。
「すぅ・・・すぅ・・・」
「・・・」
杏を抱きしめてるからすぐ近くに居るのは当たり前だけど、まさか私の顔のすぐ前に杏の顔があるなんて思わなかった。小さいからもう少し下だと思ってたよ・・・
というか近い!物凄く近い!今更気付いたけど互いの息がかかるくらいの距離だよ!?むしろくっつきかねないくらいだよ!?
・・・それはともかくとして、こうして杏の寝顔を見るとやっぱり普通に可愛いと思う。普段は小さいとか妹みたいだとかそういう方向で可愛いって言われてる杏だけど、こうやって見たら普通に美少女なんだよね。
杏は私達同級生メンバーが集まってる時は皆が可愛いし美人だから見られてるって思ってたみたいだけど、杏も普通に注目されてたしね。気付いてなかったのかわかっててスルーしてたのかは知らないけど。
・・・そういえば杏って一回ラブレター貰った事があったんだっけ。そんな事があったんだから気付いてもよさそうなんだけどね。
「ん・・・むぅ・・・」
「あっちょっ」
杏がもぞもぞと動く。勿論物凄く顔が近い状態でそんな事をされると色々と危ないのは当たり前。うっかりキスしてしまうなんて展開にはなってないものの・・・ほっぺたにキスされて、その後体を丸めた杏の顔が私の首筋辺りに来た。
ああ何だろうこの感情。まさか開いてはいけない扉が開いてしまったんじゃ・・・いやいやまだ私は大丈夫。この状態でいきなり名前を呼ばれたりしたらちょっとヤバいかもしれないけど、これくらいなら問題は無い。
・・・あれ?これってまさかフラグなのかな?
「んん・・・ふぇ・・・」
「っ!?」
「ふぇ・・・」
やっぱりフラグだったらしく杏が寝言で何かを言いそうになってる。しかも言い方が物凄い猫なで声というか、甘える様な話し方で・・・ゴメン皆。私はもうダメかもしれない。
というか名前を呼ばれる事を期待している私がいる時点でもうダメかもしれないけど。
「ふぇ・・・」
(どきどき)
「ふぇ・・・」
(どきどきどきどき)
「めんどうです・・・」
さて、起きよっか。ほら杏も起きてねー。
朝御飯は既に起きていた母さんが作っていた。朝は泊り込みの仕事が無い限りは基本的に母さんが作ってるから、つまりはいつも通りという事。
どうやら今日は洋風らしく、ベーコンエッグとトーストとコーンスープという献立だった。杏曰く「いかにもな朝食」のメニューだね。
「むぐ・・・やはり食パンにはチョコレートクリームですね」
「マーガリンも美味しいよ?」
「フェイトさんがそういうのなら、たまには食べましょうか」
そしてその杏は今、美味しそうに朝食を食べてます。・・・私の膝の上で。
「えーっと、杏お姉ちゃん?何でフェイトの膝の上に?」
「もう催眠に抗いようが無いので開き直って精一杯甘える事にしたんです」
「開き直った割には物凄く顔が赤いわよ?」
「当たり前じゃないですか!全く何でこんな人前で羞恥プレイをしなければならないんですか・・・」
「乗ったのは自分からだけどね」
真っ赤な顔で膝の上に乗っていいか聞いてきた時は物凄く可愛かった。アリシアも可愛いって言って抱きついてたくらいだからね。
「それにしても、何でフェイトに甘えるんだい?プレシアも居るのに」
「そうですねー。姉みたいだというのもあると思いますけど、多分今まで一番一緒に居る時間が長かったからでしょうか?ぶっちゃけ両親よりも一緒に居ますし」
「その発言は悲しすぎるよ・・・」
「積もり積もったその辺の寂しさが今の杏の甘えっぷりを作ってるのかもしれないわね」
「あー、その可能性はあるかもしれないですね。自分ではそこまで気にしてなかったんですが・・・」
そんな会話をしつつ食事を終わらせて、そろそろ現在働いている翠屋へと向かわなければいけない時間になった。
うーん、今の杏を置いて仕事に向かうのは少し心配だけど、でも催眠を解くのは個人的にもっと堪能したいのでもう少し遅らせたい。・・・あれ?私もう末期?
と、ともかく、お留守番してもらうしかないよね。
「じゃあ、私は仕事に行ってくるね」
「えっ・・・行っちゃうんですか・・・?」
言った瞬間杏が物凄く悲しそうな顔でこっちを見てきた。何だろう、今の杏の状態と元々の小ささが相まって、幼い子を泣かせてしまっている様な罪悪感に襲われる。
やめて!?そんな目で見ないで!物凄く心が痛むよ!?
「いっそ連れて行っちゃば?事情を説明したら問題ないと思うよ」
「アリシア・・・それはそうかもしれないけど」
「電話で桃子さんに聞いてみたらいいんじゃない?」
ほぼ間違いなく許可を出すだろうなと思いつつ、杏を放っておけないのは確かなので電話で事情を説明して聞いてみる事に。
結果。
『是非連れてきて!』
桃子さんがハイテンションでノリノリになっていました。こういう事好きそうだもんね。
この調子だとなのはにも見られるだろうし、そこからアリサとすずかと希、もしかしたらはやて達にも伝わるかもしれない。
あぁ、杏が元に戻ったらまた悶える事になるんだろうなぁ・・・とりあえずアリシアは催眠の責任をとらされるだろうから、応援しておこう。
「じゃあ行こっか、杏」
「はい!」
素早く準備を済ませた杏は、私の言葉に満面の笑みで返事を返してくれた。
なのは、物凄く驚くだろうなぁ。