ただでさえ最近忙しかった機動六課は、以前までにも増して多忙な状況となっていた。
一瞬にしてミッドを支配(笑)してしまったはやての影響から、次元犯罪者が自首してきたり民衆がはやてを一目見ようと押しかけたりと、それはもう大変な事になっていた。
つい先程はなんと世紀の大犯罪者であるジェイル・スカリエッティまでもが自主してきた上に、その傍らには自分達は管理局最高評議会だという、自動人形のロリ美少女を連れていた。
流石にもう着いていけなかったのか、はやてはとうとう胃痛で仕事を中断。自分の魔法で治療をしつつ医務室で休憩することとなってしまった。
「チャンスや。確かに平和を実現するチャンスなんや。犯罪者もどんどん自首して来とるし、傾向としては悪くは無いんや・・・でも・・・」
「いいのよはやてちゃん。我慢しなくてもいいの。辛い時は私達を頼って」
「そうです。我々はその為に居るのですから」
「そーだよ。だから無茶しすぎちゃ駄目だ」
「ええ。仕事熱心なのもいいですが、主が倒れては元も子もありません」
「まあ、今回は仕事せざるを得ない状況だったので仕方ないのかもしれませんが・・・」
はやてと同時に魔法をかけて治療しているシャマル、そしてそれに続守護騎士全員の発言に、はやては思わず涙腺が緩んだ。
思えば、夜天の書が杏ちゃんに改造されてからずっと皆には励まされてきたなぁ・・・とはやては過去を振り返る。
足の麻痺は闇の書が原因と知った時は、確かに悲しかった。でも新しい家族と過ごせるその日々は何物にも代え難い宝物だった。
気が付けば最強魔導師にされた上に将来的にプログラム体になる様にされてしまった時は混乱してしまったが、それでも皆と一緒に居られる事に喜んだ。
それから管理局に入り、辛い事や大変な事が数多くあった。守護騎士の皆もそれぞれ自分達の仕事が忙しいにも関わらず、はやてが挫けそうな時にはすぐに気付いて励ましてくれた。
「あはは、みんなのおかげで元気が出てきたわ。・・・ありがとうな。これからもよろしく」
自分も最終的にプログラム体になって長い時を生きるのだ。最初はそれってどうなんだと思ったものの、それはそれで良いかもしれないとはやては考える。
一応生きるのが辛くなった時の為に自己封印も可能らしいが、きっと皆が居るならそれも必要ないだろう。皆が居るから、私は頑張れる。
そこまで考えたはやての頭に、とある想像が思い浮かんだ。
あれ、私がプログラム体になるって事は、これからもずっと働き続けるって事なんやろか?少なくともこの状況を杏ちゃんに早く何とかして貰わんと、暫くはこの状況が続く事になるなぁ。
・・・もしこのまま杏ちゃんが洗脳?を解除せんまま居なくなってしまったら、死なないままずっとこの状況?永遠帝国の完成?
いやいや、流石にいきなり杏ちゃんが居なくなるなんて事は・・・そういえば杏ちゃん何か神レベルな能力使っとったな。手には本を持っとったし。
杏ちゃんがまるで旧神ってちょっと前に冗談半分で言ったけど・・・本・・・魔導書・・・ナコト写本?ネクロノミコン?ルルイエ異本?
え?旧支配者と旧神の戦い?封印したり消滅したり次元の果てに行ったり狭間に幽閉されたり?
いやいや、それは無い・・・いやでもあの杏ちゃんやで、もしかしたらもしかするかも・・・
「ぐぅぅぅ、胃が!胃が!」
「は、はやて!?なんでいきなり!?」
「シャマル!?いったいどうなったのだ!?」
「多分はやてちゃんが変にストレスを感じる事を考えたんだと思うけれど・・・ああもう!もう魔力温存なんて考えないで治療するわよ!」
「主!心を落ち着かせてください!」
「変な想像はしてはいけません!今はただ休む事だけを!」
八神はやて。胃痛と疲労が慢性化しそうな19歳だった。
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「こ、これは・・・!?」
「凄い・・・甲乙つけ難いよ・・・」
「美味しいです・・・ああ、幸せな味・・・」
「ありがとう。でも、やっぱりそう簡単には越せないんだね」
どうも。最近旧神もとい新神になった松田杏です。
クトゥルフ神話に真っ向から喧嘩を売る事実が判明してから二日後の現在、私達はなのはさんが持ってきた翠屋のシュークリ-ムとフェイトさんの作ったチーズケ-キを食べ比べています。
チーズケーキは旅の途中で仕入れた材料なや調理法を使って作ったらしいですが、それでも桃子さんの特製シュークリームと同等という結果になりました。
桃子さん凄いですね・・・魔法を使った効率の良い調理や地球に無い良い材料を使ってようやく互角とは・・・
ちなみにその別の世界で仕入れた材料を翠屋にお裾分けしました。なのはさん曰く、桃子さんがはりきって「これで美味しいケーキを作るわ!」と言っていたそうです。
桃子さんの技術であの材料を使ったらどんな凄いケーキが出来上がるんでしょうか・・・興味が尽きません。
さてさて、あれから色々と日記的な金属板からお話を聞きながらのんびり過ごしていました。
ご先祖様が物凄い長生きしていたという話を覚えていたユーノさんが、
「もしかして杏の身長が小さいのは、そのご先祖様と同じ寿命だから成長の速度も遅いとか、そんな理由だったりするのかな?」
と、私に希望を与えるかもしれない仮説を言ったので金属板に聞いてみました。
そして判明した事実・・・本来なら18歳程度の年齢で老化が急激に遅くなるらしいですが、私は何らかの理由で小学生時代から成長が遅くなってしまったらしいです。
金属板が言うには、肉体に何らかの干渉があったのではないかという事ですが・・・
「そういえばジュエルシードで自分の体に色々やってたよね。杏ちゃん」
「杏・・・自業自得だったんだね・・・」
「そんな、馬鹿な・・・!?」
割と本気で涙が止まりませんでした。そしてその後にご先祖様の容姿を聞いてまた涙が出ました。
ご先祖様の身長が150cm・・・つまり私が成長しても、そのくらいで止まっていた可能性が高いという事。どちらにしろ小さい・・・!!
「じゃあ、自分で伸ばすの?」
「うぅ・・・いえ、もう外見に関してはユニがいるのでいいです。ユニが唯一の希望です」
『ありがとうございます』
それはさておき・・・何というか、物凄い力を手に入れたはいいものの、何に使えばいいのかさっぱりですね。
一応フェイトさんの料理の為に冷蔵庫に食材をたっぷり用意した程度にしか活用してません。私自身の能力なら相変わらずフライング座布団でダラダラしているんですけどね。
うーん・・・やっぱりこう、世界を左右できる能力を手に入れたからには、何か物凄い事件でも起こした方がいいんでしょうか・・・
あ、でもそんな事をしたらフェイトさんに怒られておやつ抜きにされてしまいますね。
「結局フェイトちゃんが一番強いのかな?」
「そうですね。私はフェイトさんには全く逆らえません。胃袋がもう完全に降伏していますし」
「杏なら洗脳とかでも何とか出来ると思うけど」
「大事な友人に洗脳なんてしませんよ。基本的には」
それにしても、妙な人生ですよねぇ。
不思議な能力を持っているだけの人間かと思いきや神っぽくなってますし、地球は地球で神秘だらけで、更には魔法も急速発展してますし。
初めての友達は退魔師で、二人目の友達兼初めての親友は異世界の魔導師・・・そして気がつけば周囲に一般人はいませんでした、と。
・・・あれ、改めて考えるとなんでこんな事になっているんでしょう。あれですか、類は友を呼ぶとでも言いたいんですか。実際友になってるので全く反論出来ませんけど。
・・・まあどうでもいいですね。そんな面倒な事より、今後の事です。
「今日から旅を再開するんでしたよね?」
「うん。一応前回までのレポートは纏め終わって本にする準備は出来てるみたいだから、今度は第二巻目の分だね」
「杏の調べた裏情報は本気で危ないのを除いて載せるみたいだよ」
「おぉう、冒険しましたねローウェル・・・」
「今のミッドの状態ならむしろ隠すより明かした方が良いって。実際そこまで危ない情報は少なかったしね」
そうですね。まあ一部とんでもないものも確かに存在しましたけど、それも殆どは遠い過去の話が多かったですし。
ともかく、あの程度なら大丈夫なんですね。ならこれからも容赦無く情報をかき集めましょう。
それじゃあ、
「行きましょうか」
「うん」
「そうだね」
「まぁ、僕は多分途中で抜けるけどね」
「ここは後で抜けるとしても、そのまま返事だけして出発するべきでしょう・・・」
・・・ともかく、行きましょうか、皆さん。
「あ、杏お姉ちゃん達もう出発するの?」
「あ、お帰りなさい。はい、今行こうとしていました」
「その前にこれ、杏宛の小包よ。相手の名前は書いてないけれど・・・」
「書いてないんですか?誰でしょうね・・・」
「あ、でもここに中身について書いてるよ?えっと・・・輝くトラペゾ」
「すいません私は今とても素早くアグレッシブに旅立ちたいので今すぐ出発しようと思いますそれでは行ってきますねさようならて何で小包が飛んで追っかけてくるんですかー!?」
「輝くトラペゾヘドロン・・・確か、クトゥルフ神話で出てくる何かだった様な・・・」
「・・・どうしよっか。このまま杏と一緒に行ったら旧支配者っぽいのに遭遇するかもしれないけど」
「・・・まあ、その時はその時という事で」
「・・・そうだね」
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『あ、アリシアちゃぁ~ん・・・杏ちゃんおるか~』
「は、はやてちゃん大丈夫?杏お姉ちゃんなら昨日旅に出たけど・・・」
『・・・旅・・・?』
「う、うん・・・あっ・・・まさか、そっちの対処忘れたまんまだったり・・・?」
『・・・ふふ・・・ふははは・・・そうかそうか、そうくるか・・・それが世界の選択、か・・・』
「は、はやてちゃん?」
『・・・いあ、いあ、はすたあ・・・』
「は、はやてちゃーん!?」
---あとがき---
投げっぱなし感漂う完結です。
とはいえ一応完結というだけで、もしかすると次元帝王HAYATE怒涛編とか杏VS旧支配者夢の大食い決戦とかよくわからないものが続くかもしれません。
他にも途中で省いた杏ラブレター編とか、いっそ感想欄にあったGS希的な番外とかも書くかもしれません。
でもとりえず完結という事で。
怠惰はA’Sで終わる予定でした。前に感想欄で書いた気がします。IF ENDをそのまま本ENDにしてしまおうかと思った事もあります。
この完結の仕方だとむしろIFの方がそれっぽいので、今からでも遅くないならば(ry
まあアルハザードのおかげでこんなオチ?を付けれた訳ですが。下手したら着陸出来ずに放置なんて事にもなりかねない感じだったので。
なので所々明らかに後付な場所もありますが・・・まあ受難の頃からそんな感じなので笑ってスルーでお願いします。
さて、なんだかんだで長編SSはこれで完結2本目になりました。
受難と怠惰。なんでこんなアレなSSばかり完結させてしまうのか、自分。謎です。
今後は新しく長編を書く事はせずに、今あるものを終わらせる方向で行くと思います。多分。
でも時々チラ裏に変な単発ネタは投稿するかも。もしくは単発ネタを何とかして長編にするという暴挙に出るかも。
まあ受難も怠惰もその暴挙の末に生まれた様なものなんですけどね。
始めから終わりまでちゃんとプロットが(脳内かつ大雑把ですが)出来上がってるのなんて、チラ裏にある某まるで更新していないネギまSSくらいなんですけどね。
受難と怠惰はネタありきで書いてたので・・・
長々?とあとがきばかり書いても仕方が無いので、ここらで終わりにしましょう。
今まで読んで下さった方々、感想を書いてくださった皆様、これで『怠惰な操り少女』は完結となります。
杏さんの活躍はこれからも続いていく的な終わり方なのでしっくり来ないとは思いますが、その辺はまだ続くかもしれないからしょうがないとか、そんな感じで勘弁してください。
それでは、今までありがとうございました!