ユーノさんと合流してから数日が経ち、そろそろ違う世界に行こうという話になりました。
この世界での成果はそれなりにあり、フェイトさんはレシピと美味しいお店を七つ程、なのはさんは写真を五十枚程、ユーノさんは昔話や世界特有の風習等のコラムを五つ程。
そして私はこの世界に伝わる伝承の真実や都市伝説の様な話、そしてちょっとヤバそうな裏話等を九つ程ユニに纏めて貰いました。
本にする時はローウェル貿易の方で編集してもらうので、アウトな話は向こうで省いてくれる事でしょう。出来ればタブーだとしても無視してそのまま出版して貰いたいですけどね。面白いですし。
まあどうなるかはレポートを送った先にいる編集の人次第なんですけどね。
「さて、郵送手続きも完了したね」
「じゃあ次の世界に行こう」
「次は何処に行こっか?」
「ちなみにここから一番近いページがある世界は第123管理世界みたいです」
でも一気にそこまで行ってしまうのもちょっと勿体無いですね。中継地点になる様な世界で何処かいい場所は無いでしょうか?
出来れば面白そうな場所が良いんですが・・・などと考えていると、ユーノさんが「あ、そうだ」と何かを思いついた様な声を発しました。
「第131管理外世界に行かないかい?あそこは魔法は無いけれど、結構いい所だよ。ちょっと気になってた遺跡もあるし」
「え?管理外世界だとちょっと問題があるんじゃあ・・・」
「僕はスクライアだからね。管理外世界の遺跡なんかも行ける様に許可証を持ってるんだよ。僕も含めて四人までしか連れて行けないけどね」
何という都合の良い許可証があったものですね・・・以前なのはさんが言っていた「杏ちゃんはご都合主義を発生させる」というのは本当なのかもしれません。
その割には私の身体的特徴に関しては全然都合よく行きませんが・・・
「さて、ちょっと早起きしたせいで眠いのでユニに代わって寝ておきますね」
「あ、うん。おやすみ杏」
「え?ユニゾンデバイスってそんな事も出来たっけ?」
「杏ちゃんだけだよ」
という訳でユニと交代です。
私の体が光りに包まれ、意識が奥へと引っ張られます。そしてバリアジャケットで作っていた服の色が黒くなり、ユニの人格が表に出ます。
「---交代完了です」
『じゃあお願いしますね』
「はい。お休みなさい」
さて・・・三時間くらい寝ましょうか。次の世界についてもすぐには起こさなくていいですからねー。
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地球の海鳴の松田家、その地下にある未使用スペースにいつの間にか作られていた研究室で、プレシアは自動人形にあるプログラムを組み込んでいた。
「ふぅ、とりあえず完了ね。調子はどうかしらイレイン」
「問題無いわよ。・・・でも、また戦闘プログラムを組み込まれるなんて思って無かったわ」
事の発端はリニスがローウェル貿易の情報サーバーに不法アクセスがあった事を発見した事だった。
情報サーバーには確かに大事な情報もあったが、本当に重要なものは全てオフライン端末で保管していたのでそれほど問題ではない。
しかし、情報サーバーへのアクセスで得られる情報の中には重役であるテスタロッサ家やそれに関わるバニングス家と月村家、その所在地などが存在していたのだ。
クラッキングしてきた相手がどんな存在かはわからないが、万が一ローウェル貿易に害を成す為に非魔導師である月村家やバニングス家の人間を襲った場合大変な事になってしまう。
それ故の自衛手段の一つとして、過去イレインに組み込まれていた戦闘プログラムを再び組み込んだのだ。しかも改良して。
「仕方が無いわ。ミッドから何者かが来る可能性があるもの。すずかちゃんが危険な目に会うのは貴女も見過ごせないでしょう?」
「まぁ、もう長い間一緒にいるしね・・・でも、たかが戦闘プログラムを組み込み直した所で魔法に勝てるの?」
「この世界の格闘や戦闘のレベルは異常なのよ・・・Aランク魔導師までなら何とかなるわ。それ以上の存在が現れたらちょっと苦しいだろうけれど」
プレシアは以前たまたま見る機会があった高町家の剣術を思い出す。
御神流と呼ばれる剣術。その戦闘は見たのが模擬戦といえども、十分にプレシアの度肝を抜く凄まじさがあった。
肉体のリミッターを解除して意識加速するとかあり得ないでしょう!?とか、衝撃を徹す技術があるのは知っていたけど限度があるでしょう!?など、それはもう突っ込みまくったものだった。
最もその後は魔法的な部分を組み合わせて更に強化出来ないのかと忍に興味本位で聞かれ、その結果恭也がKYOYAとなれる様になってしまったのだがそれはまた別の話である。
「ともかくこれで月村家は大丈夫ね。バニングス家はローウェル貿易で勤務している魔導師を何人か護衛に回せばいいし・・・」
「杏が旅に出てなければもっと簡単だったろうにね」
「あの子に頼りすぎると何もかもが馬鹿らしくなってくるからダメよ」
アリシアとリニスの蘇生や自身の病気の治療など、散々頼りまくっていた前科を棚に上げてそんな事を言うプレシアであった。
「ところでイレイン。擬似リンカーコアを組み込んで、更にユニゾンデバイスとユニゾン出来る様に改造していいかしら?」
「ちょっ、変な改造はしないって約束でしょ!?」
「変じゃないわ。これをすれば理論上はSランク魔導師とも戦える・・・筈!成功すれば!」
「不安すぎる!?」
その後イレインが更に改造されたかどうかは、当の本人達しか知らない。
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機動六課の上層部が集っている会議室。そこでは予言に関しての会議が行われていたのだが・・・
「なあはやて。これって・・・」
「言わんでええ、多分その通りやから・・・」
『怠惰な操り少女』という部分を見た夜天組のテンションが著しく下がっていた。
実際に会った事の無い部隊長のゲンヤ・ナカジマとウイング隊隊長でもある執務官のティーダ・ランスターも話には聞いた事があった為、何とも言えない表情をしている。
「ま、まぁ、杏ちゃんが関わっているなら結果的には特に被害も無く平和に終結するんじゃないですか?」
「そういえば、結果だけ見れば何だかんだで奇跡的な平和解決ばかりしているな・・・」
「だが対策部隊として作られたここの部隊長としては、何もしない訳にはいかないぞ」
全員で頭を悩ませる。いっその事杏を管理局の権限で探し出して連れて来ようかとも考えたが、犯罪者でもないのにそんな事をする訳にはいかない。
そもそもそんな手段を取ると杏にどんな恐ろしい仕返しをされるかわかったものではない。はやてが杏がラブレターを貰った時の件で思いっきりからかった時、はやてが身に着けている全てのものに命令して『勝手に体が動いて小指全てを壁やドアにぶつける呪い』を発動させられたのだ。
力技で何とかしようにも標的は衣服なので破けたら裸になってしまうし、帰って着替えてもまるで感染する様に他の衣服も同じ動きをする始末。結果的に四本の小指を強打しまくってマジ泣きする羽目になった事があったのだ。
「とりあえず、以前の予言は完全に覆った訳でも無いんだろ?ならとりあえず今は方針を変えずにロストロギア事件を追うべきだ」
「ティーダの言う通りだな。そっちばかり気にして即応部隊としての機動六課が動かなくなったら意味が無い」
予言対策と事件即応、その両方の為に本局と地上が協力して作り上げたのが機動六課なのだ。どちらかを疎かにする訳にはいかない。
今回の会議ではとりあえず現状維持という事で話は纏まり、各人それぞれ自分の仕事へと戻っていった。
「はぁ、ジュエルシードに夜天の書に自動人形に量産型ユニゾンデバイスに予言に・・・杏ちゃん重要案件に関わりすぎやろ・・・」