フェイトさんと二人で、願いが叶うといわれている泉へとやってきました。
高い木が生い茂った森の中に突如現れる開けた場所と泉は、何処となく神聖な感じがしないでもありません。
「魔力は感じないけれど、杏は何かそれらしいものを感じる?」
「泉の中に何かがある様な気が・・・」
ただ何だかはっきりとは感じられないんですよね。水の中だからなのか、もしかしたら更に水底の土に埋まってたりするからなのか・・・
でも潜って土を掘るのも嫌ですし、魔法で吹っ飛ばすわけにもいかないので、このまま会話が可能なのか試してみましょうか。
「もしもーし、聞こえますかー!」
『---』
「あ、通じましたね」
「本当?じゃあ何か願いが叶う事について判るかもしれないね」
そうですね。もし本当に願いが叶うというなら、色々お願いして叶えてもらいましょうか。
それはさておき、とりあえず挨拶ですね。
「初めまして。他の世界から観光に来た松田杏です」
『---』
「は?」
いきなり何言ってるんでしょうこの泉の方は?
「何て言われたの?」
「はい、何かよく分かりませんが『ほう、今は松田杏なのか』とか何とか」
「まるで会った事があるみたいな言い方だね」
「というか生まれてからずっと松田杏なんですけど」
異世界に知り合いなんて居ない・・・訳でも無いですけど、少なくともこの泉には来た事ありません。
なのに向こうは知っている様な反応・・・まさか次元を越えたストーカー・・・
「冗談はさておき、何か私の事知っている様な反応ですけど、どういう事でしょうか」
『---』
「あぁ、成程。私のご先祖様を知っていてたんですか・・・いやいやいやいや」
何でそんな人を知っているんですか。というか、私のご先祖様は地球から出た事があったんですか。つくづく謎な家系ですね・・・私も両親も含めて。
『---』
「え、あ、はい。何だかよくわかりませんがわかりました」
「何て言ってるの?」
「はぁ、何でもご先祖様が、自分の子孫が来たら着いて行けと言っていたらしいので・・・とりあえず能力で泉から引き上げようかと」
たまたま来ただけの世界でこんな事になるとは・・・ご先祖様は未来予知でも使えたんでしょうか。
まあでもそんな事を気にしても面倒ですし、とりあえず引き上げましょう。ささっといつも通りに動かす要領で引き上げて・・・出てきましたね。
「本ですね」
「でも中のページが無いね」
『---』
「どうやらページは違う世界にあるらしいですね」
・・・という事はゲームのイベントの様に探さなくてはいけないんでしょうか?面倒なので拒否したいんですけど。
というか何故ご先祖様はこんな変な事をしているんでしょうか・・・家宝にでもして代々受け継いでいけば普通に渡せますし、本の中身を別の場所に持っていく意味もわかりませんし。
まあただのノリとか思いつきの可能性もありそうですけどね。松田家ですし。
「あ、そういえば願いが叶う泉って言われてたのは貴方が原因ですか?」
『---』
「あ、違うんですか。しかも叶わないんですか」
「じゃあこの本って何なんだろうね」
うーむ、変な事態になってきましたが・・・まあとりあえず、当初の予定通りに周囲の植物から他人の面白い願いを聞いてみましょうか。
本に関しては宿に帰ってからで問題無いでしょうしね。
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『ふむ、タイミングがいいものじゃな』
『まあ考えてみれば、確かにジェイルの興味を引きそうなネタだったから考えられる事態でもあった訳か』
『ともかくこれで、自動人形のプロテクト解除に関しては問題が無くなりましたか』
薄暗い室内に損愛する三つの生体ポッド。その中には緑色の液体で満たされていて、その中には脳髄が浮かんでいた。
この三つの脳みそこそ管理局を作り上げたという功績を打ち立てた先人。そして、今なお肉体を捨ててでも君臨し続ける管理局最高評議会の正体である。
評議会はレジアスからの報告により自動人形の存在を知り、大いに喜んだ。
量産が可能で事務処理能力が高く、機械故に肉体はそれなりに頑丈で壊れても簡単に替えが用意出来る。始めは質量兵器かとも思ったが、戦闘能力は最低限の自衛程度しか持っていないらしいので兵器ではないだろう。
そんな素晴らしいものを知った評議会はすぐさまレジアスから伝えられたプレシアからの要望、自動人形に関しての販売等に関しての計画を許可した。
勿論裏の思惑はあった。自動人形を解析して管理局でも製造可能となれば、そして独自の改造によって魔法技術での戦闘が可能になれば最高の戦力となる。そう考えていた。
が、どうやら完全コピーは不可能らしいという事が判明し、複製してもどこかが劣化したものになるだろうという事が判った。
その上プロテクトがあるせいで動作や思考のプログラム等を改造出来ず、ただ複製しただけならば起動すら出来ない、文字通りの人形となってしまっていたのだ。
そこで評議会は自分達がアルハザード文明の遺産からDNAを採取してクローンとして産んだジェイル・スカリエッティにプロテクトの解析を命じたのだが・・・
なんと彼も既にそれに取り掛かっていて、もうすぐ解除出来るだろうというのだ。
ジェイルのテンションが振り切れ気味だったので軽く引いていた三脳ではあったが、これで問題は無くなったと自分達の配下の研究所に自動人形数体の製造を命じた。
現在では所々劣化した物になってしまうが、プロテクトさえ解除してしまえば何とでもなると考えているのだ。
『人造魔導師とどちらが効率がいいか・・・』
『今の時点ではどちらも一長一短だろう』
『人造魔導師といえば聖王のクローンももうじき動ける様になるらしいですね』
『ふむ、これから忙しくなりそうじゃな』
彼らは知らない。プロテクトを解除してもプログラムが難解すぎて配下の研究者では劣化部分を修繕出来ないという事実を。
彼らは知らない。ジェイルがプロテクトの解除に成功してすぐ地球に行ってしまい、自動人形のプログラム修復を命じようとしても連絡が取れなくなってしまう事を。
彼らは知らない。ジェイルが放置したガジェットがレリックと聖王のクローンが積まれた車両を襲撃し、管理局の表部隊に引き取られてしまう事を。
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