さて、月村家で色々とやってしまってから、しかし何のアクションも起こされずに数日が経ちました。現在は平日の放課後。
平和なのはいい事ですが、ここまで来るとむしろ何かアクション起こして早く終わらせて欲しいとも思っています。気になって仕方がありません。
最近はたまにすずかさんも私を見てる様な時がありますし・・・やっぱり秘密を知った相手は血を吸って下僕にするとか、そういう事を考えているんでしょうか?
すずかさんはとてもおしとやかで優しい人なのでそんな事は無いと思いますが・・・現になのはさんやフェイトさんの様な、戦闘になるとちょっと大変になる人と遭遇しているので断言は出来ないんですよねぇ。
いや、まあ別に危険自体に陥っても何とか出来る自信はあるんですけどね。能力のおかげで。
「杏、また悩み事?最近多いよね」
「まぁ、別に気にしなくても良い事なんですけどね」
「杏お姉ちゃんが気にしなくていいことを気にするなんて、けっこうたいへんなんじゃないかなぁ」
「そこまで深刻そうじゃないから聞かないけど、いつでも相談してね」
「ありがとうございます」
問題の本人であるすずかさんに心配されてしまいました。それはともかくアリシアちゃんそれはどういう意味ですか。
・・・まあ普段から面倒事が嫌いと言ってますからね、そう思っても仕方が無いでしょう。でも完全に放置するのも問題でしょうからねえ。
ま、とりあえず今はこれで打ち切りにしておきましょう。これから全員で翠屋に行くんですからね。今は私とテスタロッサ姉妹とすずかさんの四人だけですが。
なのはさんは学校に忘れ物をしてしまったのでそれを取りに戻っていて、アリサさんはそれに付き合って着いていきました。
本当は私以外全員着いていこうとしたんですが、引き返すのを面倒がって私が早々に先行すると宣言したらこうなりました。わざわざ他人に付き合って引き返すなんてとんでもないです。
しかし、冬なので仕方が無いですが寒いです。雪が降っていない事が幸いですが嫌になりますね。夏の暑さよりは対処が簡単なのでまだマシですが、それでも嫌なものは嫌です。
早く暖かい室内に避難してゆっくりコーヒーでも飲みながらダラダラしたいですね。あ、今日はココアでもいいかもしれません。
まあどちらでもいいので早く翠屋に行って暖かい飲み物とケーキを・・・
キキーッ!
バンッ!
がしっ!
「「「「え?」」」」
という訳で、現在翠屋に向かっていた私とテスタロッサ姉妹とすずかさんは、大きいワンボックスカーの中で縛られています。
あれです。いわゆる誘拐というものですね。まさか現実にそんな事件に遭遇するなんて、事実は小説より奇なりとはよくいったものです。・・・魔法とか能力とか吸血鬼とか、そういうものに関わってる身としては割と今更かもしれませんが。
でも今回はファンタジー等ではなく現実的な事件ですし。ちょっとドキドキしたりしなかったり、そして何より面倒な事に巻き込まれたことにげんなりしています。
「しかし誘拐とは貴重な体験ですね。何かの参考に出来ないでしょうか」
「杏は誘拐を参考にして何するつもりなの?」
「杏お姉ちゃんならへんなことしかしないと思うよ」
「失礼ですね。その通りではありますが」
「お前等誘拐されたってのに何でそんなに余裕なんだよ・・・」
いつも通りに三人で会話していたら誘拐犯の一人の若い男性に呆れ顔をされました。ちなみにすずかさんは始めは怖がっていましたが私達のやりとりを見て呆然としています。
それはさておき・・・別に危険を感じませんしねぇ。私が居れば物や植物は私の味方ですし、フェイトさんに至っては魔導師ですしね。アリシアちゃんは何も出来ませんけど、まず私達が何もさせないでしょうし。
問題はすずかさんですが・・・見捨てる気はありませんけど、家柄などから考えて多分今回の誘拐のメインでしょうし、これが吸血鬼とかそっち側に関するものだったら迂闊に手を出したら面倒そうなんですよね。
現にすずかさんがメインであるかの様な会話内容が運転席側から聞こえてきていますし。月村がどうとか残りはどうする、何で余計に攫ってきたとか・・・って、私達は攫う予定が無かったんですか。じゃあ帰してくださいよ。
・・・うわっやっていいかとかビデオ撮りたいとか聞こえてきました。襲ってきたら酷い目に会わせます。本気で。
「おいこらてめぇら!ガキ共の扱いを勝手に決めんな!クライアントに聞いてからにしろ!」
おや、若い男性が止めましたね。若いのに中心人物なんでしょうか?まあ若いといってもこの車内では一番年上みたいなのでおかしくは無いですけど。
しかし助かりました。物凄い不快でしたからね。他の三人もしそれぞれ嫌そうな顔をしたり泣きそうな顔をしていましたし。
ちなみに嫌そうな顔をしていたのはフェイトさんとアリシアちゃんで、泣きそうな顔をしていたのがすずかさんです。すずかさんはともかく、テスタロッサ姉妹が意味を理解できたのは多分昼ドラのせいですよね。
「止めてくれてありがとうございます。物凄い不快だったので」
「だから何でそんなに余裕なんだよ・・・最近のガキはこれくらいじゃ怖がらないのか?」
「そうでもないと思いますよ。私達がちょっと特殊なだけですし」
「私達って特殊かな?」
「少なくとも杏お姉ちゃんはふつうじゃないよね」
「最近アリシアちゃんが反抗期になってきてる気がします」
「えっと、私も普通じゃないと思う・・・」
「すずかさん、誘拐されてからの第一声がそれですか」
「誘拐されたのに何でほのぼのした空気を醸し出してるんだよ・・・」
そんなこんなで誘拐されたとは思えない空気のまま、私達は郊外の方へと輸送されていきました。
とりあえずバルディッシュを通してリニスさんに念話で事情説明しましたから、後は大人しく待ってましょう。そのうち何とかなります。