「旅行に行くよー」
いきなり両親が帰ってきたと思えばそんな事を言いました。まだおかえりとすら言ってないんですが。
というか旅行ですか。貴方達はずっと旅行三昧じゃないですか。確かに今は連休なので旅行に行く家族は多いですけど。
「普段から杏は遠出しないだろう?だから偶にはね」
「それに久々に家族で温泉でも行きたいもの。勿論杏がめんどくさがらない様に近場よ?」
その為だけにわざわざ世界旅行から帰還したんですか。いえ嬉しいですけどね。
それにしても近場で温泉ですか・・・という事は、何度か行った事のある海鳴温泉旅館でしょうか。あそこは結構好きなので嬉しいですね。
ご飯は美味しいですし、温泉も広いですし、自然も多いのでのんびりするには最高の場所です。最近ジュエルシード探しで疲れていたので、ゆっくり休むには丁度いいでしょう。
まあ探すといっても、登下校の時に植物や石や聞き込みをするだけなんですけどね。
そうそう、聞き込みで何度かジュエルシードの話を聞く事が出来ました。
でもその殆どが例の金髪の子とか、そのライバルっぽい白い子が持っていってるみたいです。やはり魔法少女にはライバルがいるものなんですね。流石お約束です。
しかしそのお陰で私がジュエルシードを見つけることが出来ません。もっと聞き込み範囲を広げれば別かもしれませんが、それは面倒なんですよね。
・・・とまあ、そんな感じで、普段より色々考えたり動いたりしていたので疲れているわけです。なので、今回の旅行の話はのんびりするには丁度いいですね。
「というわけで準備が完了しました」
「うん、後ろで色々飛び交ってるなぁとは思ってたけど、やっぱり準備だったんだね」
「相変わらず便利よねぇ~」
父さんも母さんも相変わらずリアクション薄いですよね。問題は無いんですけど。
さて、父さんが運転する車で旅館に向けて出発です。車内では今までの旅行で行った時の話しを色々聞いています。
でも所々妙な話が出てきますね。紛争地帯でテロリストと飲み会したとか、ドイツで吸血鬼と月見したとか、香港で凄い特殊警察っぽいのに遭遇したとか、アメリカで超能力者に出会ったとか。
最初のテロリストはまぁ理解できないでもないですけど、後は全部ファンタジーじゃないですか。あ、私もファンタジーでしたね。これは失敬しました。
というか私の両親はどんな人脈を作り上げているんでしょうか。私も大概とんでもないですが、それよりもこの両親のほうがとんでもない気がします。
まあお話が面白いので問題は無いんですけどね。私も魔法なんてものに遭遇した挙句お願いを叶えて貰ってる訳ですし。
でもちょっと長い時間話をしてて疲れたので眠る事にしました。おやすみなさい。
「着いたわよ~」
「うぅ?はい~」
母さんに起こされると既に海鳴温泉旅館に到着していました。それでは早速・・・
「森の中でお昼寝してきます」
「いってらっしゃーい」
「迷子にならない様にねー」
迷子なんてなりませんよ。植物の皆さんに道案内してもらえばいいですし。
さてさて、ここに来た時にいつもお昼寝している場所へとやってきました。
周りには木があり、しかしそこまで密集している場所ではないので木漏れ日が降り注いでいます。近くには川があり、水の流れる音が何となく安らいだ気持ちにさせてくれるいい場所です。
ここには昔私が作った木のベンチがあり、毎回ここでお昼寝しています。勿論作り方は能力を使ってです。木の温もり溢れる良いベンチですよ?
さてお昼寝を・・・と思いましたが、せっかく遠出したので周りの植物にジュエルシードについて聞いてみましょう。何か良い証言が得られるかもしれません。
「---ということなんですが、何か知りませんか?」
『---』
「え?知ってるんですか?」
『---』
「おお、むしろすぐそこに落ちてるんですか!」
どうやら今日の私はとても運がいいみたいですね。まさか旅行に来てジュエルシードが見つかるなんて思ってもいませんでした。
とりあえず道案内してもらって、ジュエルシードが落ちている所に行きましょう。勿論、ベンチに座ったままで。歩くの面倒ですしね。
僅か二分で到着しました。本当に近いですね。というか川にあったんですか。流れて行かなくて良かったです。雨が降ってたら海まで行ってたかもしれませんしね。
ま、そんな事はさておくとして、まずはお話しましょうか。
「こんにちは。貴方の兄弟?の五番さんの友人です。杏って呼んで下さい」
『---』
「あ、はいそうです。NO.5のジュエルシードです」
『---』
「十八番さんですね。よろしくお願いします」
さて、お願いを叶えて貰いたいんですが・・・ううむ、どんなお願いを叶えて貰いましょうか。一応今度は食事関係と考えていたんですが・・・
「とりあえず、ちゃんとお願いが叶えられる様に調整しておきますね」
『---』
「大丈夫ですよー五番さんのお墨付きですから」
『---』
「はい、ちょっと待ってて下さい・・・よし、完了です」
『---』
「いえいえ、お願いを叶えて頂ければそれでいいです」
『---』
「ありがとうございます。でも、まだお願いが決まってないので今考えますね」
さてどうしましょう。食事関係はちょっと我慢すれば何とかなるんですが・・・実はちょっと叶えてもらおうか悩んでいる事があるんですよね。
実は私、物凄く身長が低いんです。132cmしかありません。130代のクラスメイトは他にもいるんですが、私は今の身長になってから全然伸びなくなりました。
寝る子は育つという言葉が本当なら今頃私は170超えてもいいくらいな筈なんですが・・・せめて150cmは欲しいです。
しかし、しかしですね?ジュエルシードにお願いしていきなり身長が伸びてしまったら、どう考えても面倒な事にしかなりません。
徐々に伸びるようにして貰ったとしても、後々から自力で急激に伸びて決まった場合、身長が大変な事になってしまいかねないですし。
それより何より、別に身長が低くてもちょっと視点が低かったり微妙に悲しい気持ちになったりするだけで、堕落した生活を送る上では問題が無いんですよね。
うーん、どうしましょうか・・・二つのお願いを叶えるのもいいですけど、その途中で魔法少女がやってきたら面倒ですし。出来るだけ見つからないうちに逃げちゃいたいんですよね。
えーとえーと・・・あ、そうだ。
「身長を3cm伸ばすってお願いなら、どれくらいの時間で出来そうですか?」
『---』
「おお、早いですね」
よし、じゃあまず最初に食事関係のお願いを叶えてもらって、その後に身長を少しだけ伸ばしてもらいましょう。3cmくらいなら誤差のうちですよね。
それじゃあどんなお願いを叶えてもらいましょうか・・・
「・・・よし、必要な栄養を勝手に毎日ちゃんと取れる様に出来ますか?最近買出しが面倒なんですけど、栄養面で考えるとこれ以上手抜き出来ないんですよね」
『---』
「おお・・・空気中にある魔力を栄養にしちゃうんですか。霞を食べて生きる仙人みたいですね」
『---』
「あ、はい。じゃあお願いします」
十八番さんから青い光が放たれ始めました。多分、以前会った金髪の子か見た事無い白い子かはわかりませんが、これで気付いちゃうでしょうね。早めに逃げないといけません。
それはまあ置いといて、光は前回と同じ様に収束して球体になり、私の中に吸収されていきました。
これで私は栄養失調とは無縁の体に進化したわけですね・・・素晴らしいです。
『---』
「はい、ありがとうございます!・・・それで、もう一つだけお願いしたいんですけど、いいでしょうか?」
『---』
「ありがとうございます!えっと、身長を3cmだけ伸ばしてもらえないかなぁ、と」
『---』
「い、良いじゃないですか!気になるんですもん!」
『---』
「うぅ・・・はい。お願いします」
十八番さんにからかわれました。魔法の宝石にからかわれるなんて多分私だけだと思います。うぅ、悔しい。
でもお陰で身長が少しだけ伸びました!大きくなった瞬間いきなり視点の高さが変わってちょっと気持ち悪くなりましたけど、嬉しいので問題ないです。
うふふ・・・135cmです。幸せです。
「それではそろそろ失礼しますね。多分もうそろそろジュエルシードを集めている魔法少女が来ると思うので、ご兄弟に会えますよ」
『---』
「あー・・・恩があるので叶えて差し上げたいんですが、巻き込まれるのはちょっとアレなんで。また他のジュエルシードを先に発見したら調整させて頂きますね」
『---』
「はい。それでは失礼します」
さて、誰かがやってくる前に早く逃げてしまいましょう。ベンチさん全速前進です!
そして今度こそお昼寝します!今なら幸せな気分で眠れるでしょうしね。
その後、お昼寝を終えて旅館に戻り、美味しいご飯や温泉を堪能しました。
何やら同じクラスの仲良し三人組がここに泊まっていたみたいですが、温泉以外では客室に篭ってたので全然遭遇しませんでした。
しかし・・・私がお昼寝してる最中に魔法少女がバトルしていたと植物の皆さんが言ってたんですが、まさか白い子の方が高町さんだったとは・・・やっぱり主人公だったんですね。
しかしそんな事はどうでもいいのです!今重要なのはもっと別の事!
「少し体重が増えました・・・」
そうです。栄養が勝手に足りてしまうのに食事なんてしたら、そりゃあ栄養過多で太りますよね。今までは何だかんだで体質なのかあまり太らなかったんですが。
今度見つけたらこの辺りを何とかして貰いましょう。そうしましょう。切実に願います。明日からは少しだけ頑張って探しましょう。面倒ですけど、今回は緊急事態ですし。