さて、何やら魔力をよこせと言われたのですが・・・この紅い子は魔力を持っている人間と持っていない人間を見分ける事が出来ないんでしょうか。
私とアリシアちゃんはリンカーコアなんて持っていないんですけど。
・・・というか、この子人間じゃないですね。かといって月村家のメイドロボとも違いますし、何というか、漫画とかの言葉を借りるとしたら情報体みたいな感じでしょうか。
ともかく操作は出来そうなので警戒はそんなにしなくていいですけど。
「とりあえず、私とアリシアちゃんは魔力を持っていないんですけど、そこの所はどうなんでしょうか?」
「は?・・・って、何でリンカーコアの無い奴が結界に・・・」
「魔法バレイベントだねー。まんがだったらオコジョとかカエルにされちゃうのかな?」
「えっと、杏?何でそんなに落ち着いてるの?アリシアも」
「何とかなりそうですから」
「杏おねえちゃんがおちついてるから、もしかしてーっておもって」
「あ、そうなんだ」
「何の話をしてんだ!っつーか魔法も使えない奴があたしを何とかするって、馬鹿にしてんのか!?」
いえ、馬鹿にしているわけではないんですけど、仕方ないじゃないですか。貴女が人間じゃないからそんな評価なんですし。
諦めてください。生まれは選べないものですしね。
「まあいい、さっさとぶっ倒して魔力を蒐集させてもらうぞ」
「お断りします」
「断っても関係無い!!」
ハンマーで襲い掛かってきました。魔法と言っていたのでこの子も魔導師だと思いますけど、鈍器で殴る行為には非殺傷設定が存在しているんでしょうか。
というか問答無用とは随分と血の気の多い子ですね。将来が心配です。あ、その前に成長するんでしょうか?体の情報を弄れば大きくは出来そうですけど。
・・・ともかく、こんな面倒な事には付き合っていられません。お引取り願いましょうか。
「止まってください」
「止まれと言われて止まるかぁ!」
「あれ?」
「えっ?」
「くっ!?プロテクション!!」
おぉう、これは予想外。お願いしても止まらないとはどういう事でしょうか。やっぱり意思が強いんですかね?
まあ、お願いが無理でも方法が無いわけでは無いんですけどね。
「ど、どどどどうしよう杏おねえちゃん!フェイトが!?」
「大丈夫ですよー。というわけで今度はお願いじゃない形で・・・『止まりなさい』」
「ぐっ!?」
ふっふっふ、強制的に操作するのはあまり好きではないので普段はお願いという形で使ってましたけど、命令すれば物体の意思を無視して強制的に操作できるんですよね。
命令を最後に使ったのは何時だったでしょうか・・・ああ、宝くじの中継生放送で番号操作した時ですね。あの抽選機械は自分の仕事に誇りを持っているみたいでしたし。
まあお金の為に折れて貰いましたけど。私は必要な時には容赦しませんからね。
「な、何をしやがった!?」
「命令ですけど」
「あり得ねぇだろ!?何で主以外の奴があたしらに命令出来るんだ!?」
「成程、貴女の他には主が居て、更に仲間も居るわけですか。という事は全員を何とかしないと平和は帰って来そうに無いですね」
「なっ!?」
「杏、どうしよっか?」
「そうですね。じゃあとりあえず、私の家に連行して事情を洗いざらい話して貰いましょうか。・・・あ、一応『仲間と連絡を取らないで、暴れないで、私達に従いなさい』」
「ぐっ・・・一体何なんだよお前は!?」
「怠け者ですけど」
さて、連行しましょうか。
という訳でお話の時間です。抵抗は不可能な尋問とも言います。
最近仕事に余裕が出てきて自宅勤務が増えてきているリニスさんが帰宅していたので一緒に尋問をしましょう。と、思っていたのですが。
「主・仲間・魔力の蒐集・・・もしかして闇の書の守護騎士でしょうか?」
「え?リニスさん知っているんですか?」
「ええ、恐らくですけど」
「ふむ、どうなんですか?その闇の書?の子なんですか?『答えなさい』」
「・・・そうだよ」
という事なので、まずはリニスさんから教えてもらう事になりました。
闇の書。古代ベルカ時代にて作られたデバイスの一つで魔力・魔法を蒐集する機能を持っていて、完成させると主に物凄い力をもたらすようです。
それだけなら別に問題は無いと思われますが、なんとこの闇の書は完成すると暴走し、周辺世界を巻き込んで破壊を撒き散らすらしいです。迷惑にも程があります。
その上破壊しても無限転生機能というトンデモ機能が働いて、新たな主の下にて再生されるらしいです。
一応デバイスなので改造してそういった機能を止めようとした人もいるらしいですが、主以外の存在が闇の書に干渉しようとすると主を巻き込んで暴れて逃げるという面倒な機能をも持っているとの事です。
おかげで時空管理局も闇の書を追っているのですが、出来る事といえば破壊して暴走を食い止める程度。根本的な解決が出来ないまま今まで来ているらしいです。
「そんな、嘘だ!?そんな訳が・・・そんな・・・っ!!」
「あれ、何か物凄い否定されてますよ?」
「覚えてないんじゃないですか?こんな記憶があったら魔力蒐集なんてしませんし」
成程、魔力蒐集する存在が嫌がらない様にする為の処置でしょうか。中々に悪どいデバイスですね。闇を名乗るだけの事はあります。
「前回は今から十年程前でしたか、確かアルカンシェルで消滅させられた筈です」
「アルカンシェルって、前に聞いた反応消滅がどうこうってアレですか?そんなとんでもないもの受けても転生出来るとか、どんな技術を使っているんでしょうか」
「うー、いじってみたい・・・」
「ダメだよアリシア、弄ったら暴走しちゃうよ?」
「そうですよ。私も興味ありますけど、そんな危険な事をする訳にはいきません」
「まあ私がその機能を止めたら問題無いでしょうけどね」
「「それだ!!」」
おぉう、アリシアちゃんはともかくリニスさんもですか。まあ研究者としては確かに興味がそそられそうな物ではありますけど。
・・・そうですね。アリシアちゃんはともかく、リニスさんにはいつもお世話になっていますし、お礼代わりにちょっとだけ協力しましょうか。
「という訳で闇の書を渡してください。蒐集に来たんですから、多分持ってますよね?」
「だ、誰が」
「『闇の書を渡しなさい』」
「ぐぅぅぅぁぁぁああああ!!!!!」
必死の抵抗もむなしく闇の書をゲットしました。私達に襲い掛かってきたのが運の尽きでしたね。
さて、ちょっと弄りましょうか。
「えーとまずはお話しますか。もしもーし?」
『な!?主以外の者が何故私と会話出来る!?』
「そういう能力があるから仕方がありません。諦めてください。」
というか他のデバイスとか物と比べて随分とはっきりした意思がありますね。この紅い子と似た様なプログラムで意思が作られているんでしょうか。
「それはともかく、ちょっと未来のデバイス技術とデバイスマイスターの為の礎になって頂きたいんですが」
『止めろ!そんな事をしたら・・・』
「安心してください。・・・っと、こうこう、こうですか?こうですね」
『・・・は?』
能力で干渉した瞬間闇の書がちょっとだけ不穏な空気を発しましたが、何か起こる前に暴走するプログラムを押さえ込みました。
それにしても防衛プログラムが暴走の原因だなんてとんだ皮肉ですね。まあおかげで防衛プログラムを機能停止させただけで殆ど無害になりましたけど。
『は?えっ、ん?な、何が・・・?』
「防衛プログラムが暴走の原因みたいだったので一時的に機能停止させただけですよ。安心してください」
『ちょ、ちょっと待て!・・・ほ、本当に止まっている!?』
「いいですか?それじゃあ実験に付き合ってあげて下さい」
『待て!?待ってくれ!?』
何ですか、うるさいですね。アリシアちゃんとリニスさんがうずうずしているんですから早くしてください。というかうずうずしてるリニスさん可愛いですね。写真に撮りたいです。
あとフェイトさん、前に友達が増えたのが嬉しかったからってその赤い子と友達になろうとしなくてもいいと思いますけど。
紅い子物凄く睨んでますよ?私を。
『頼む!その能力で私を・・・夜天の書を修復して欲しい!もう破壊を・・・主を苦しませたくないのだ!』
「夜天の書?闇の書じゃ無いんですか?・・・まあどうでもいいですね。面倒ですけど、アリシアちゃんとリニスさんの実験が終わったら何とかしてあげますよ。危ないものじゃ無くなればいいんですよね」
『本当か!?・・・感謝、する』
「いいですよーこれから散々弄繰り回されるでしょうから。という訳で・・・どうぞ、お好きなだけ弄繰り回してください」
「よしリニスいこう!」
「ええ行きましょう!」
受け取った瞬間凄まじい速さでテスタロッサ家へと走っていってしまいました。本格的な研究室は向こうにしかありませんしね。
闇の書・・・夜天の書でしたか。ともかく修復するまで無事だといいですね。二人ともキラキラ輝く満面の笑みを浮かべていましたし。
「さて、私達はどうしましょうか?」
「・・・お前、本当に闇の書を何とか出来るのか?」
「はい。もう暴走は抑える事が出来ていますし、特に問題は無いと思いますが。あと正式名称は夜天の書らしいですよ」
「夜、天・・・それよりも、本当なんだな!?はやては助かるんだよな!?」
「はやてって主ですか?まあ後でちゃんと弄れば問題は無いと思いますよ」
「本当か!?はやてが酷い目にあったら絶対ぶっ飛ばしてやるからな!!」
「はいはい。ちゃんと直しますから落ち着いて下さい。あと暴れないで下さいね」
さて、あの二人が帰ってくるまでテレビでも見ましょうか。暇ですし。
「杏、アイス食べる?」
「あ、はい。・・・そこの紅い子にもあげておいて下さい」
「うん、わかったよ」
冬に暖房器具で暖まりながらアイスを食べるのは最高の贅沢です。些細な幸せですね。