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No.19486の一覧
[0] 【咲-Saki-】アカギ、傀、竜が清澄高校麻雀部に入部したそうです【多重クロス】[叶芽](2014/01/03 10:58)
[1] #1 プロローグ[叶芽](2013/03/27 02:47)
[2] #2 県大会[叶芽](2013/04/24 04:21)
[3] #3 県大会決勝 先鋒戦~中堅戦[叶芽](2014/02/18 11:58)
[4] #4 副将戦 その1[叶芽](2012/09/16 03:11)
[5] #5 副将戦 その2[叶芽](2011/10/26 22:13)
[6] #6 大将戦 その1[叶芽](2011/10/26 22:13)
[7] #7 大将戦 その2[叶芽](2012/09/16 03:17)
[8] #8 大将戦 その3[叶芽](2011/10/26 22:13)
[9] #9 大将戦-休憩-[叶芽](2011/10/26 22:14)
[10] #10 大将戦 その4[叶芽](2011/10/26 22:14)
[11] #11 大将戦 その5[叶芽](2011/10/26 22:14)
[12] #12 大将戦 その6[叶芽](2011/10/26 22:14)
[13] #13 エピローグ 第一部終了 第二部開始[叶芽](2013/08/03 21:04)
[14] あとがき[叶芽](2012/12/29 17:01)
[15] 第一部 まとめ[叶芽](2012/06/21 22:55)
[16] #14 須賀京太郎[叶芽](2013/04/25 18:54)
[17] #15 宮永咲 その1[叶芽](2011/10/26 22:15)
[18] #16 宮永咲 その2 [叶芽](2013/05/16 23:37)
[19] #17 宮永咲 その3[叶芽](2013/05/13 07:05)
[20] #18 竹井久 その1[叶芽](2011/10/26 22:16)
[21] #19 福路美穂子 その1 [叶芽](2011/10/26 22:16)
[22] #20 福路美穂子 その2 [叶芽](2014/01/22 20:20)
[23] #21 天江衣[叶芽](2013/04/03 08:24)
[24] #22 原村和[叶芽](2011/10/26 22:17)
[25] #23 加治木ゆみ[叶芽](2011/10/26 22:17)
[26] #24 東横桃子[叶芽](2011/10/26 22:17)
[27] #25 国広一[叶芽](2012/06/27 23:51)
[28] #26 竹井久 その2 第二部終了 第三部開始[叶芽](2013/08/03 21:04)
[29] あとがき その2 と異能解説[叶芽](2013/08/09 07:31)
[30] 第二部 まとめ[叶芽](2012/06/21 23:13)
[31] 前書き[叶芽](2016/03/24 15:29)
[32] #27 Episode of side A その1[叶芽](2013/04/14 19:20)
[33] #28 Episode of side A その2[叶芽](2014/03/31 22:34)
[34] #29 雨の日と その1[叶芽](2014/03/31 22:33)
[35] #30 雨の日と その2[叶芽](2014/08/06 19:38)
[36] #31 雨の日と岩倉玲音[叶芽](2014/04/01 09:43)
[37] #32 serial experiments “Saki”[叶芽](2014/04/01 11:54)
[38] #33 竜と虎 その1[叶芽](2016/10/07 10:43)
[39] #34 竜と虎 その2[叶芽](2016/10/07 10:55)
[40] #35 竜と虎 その3[叶芽](2016/10/07 11:06)
[41] #36 竜と虎 その4 -子供達へ-[叶芽](2016/10/07 11:13)
[42] #37 DUVET その1[叶芽](2016/06/17 02:12)
[43] #38 DUVET その2[叶芽](2013/05/16 13:08)
[44] #39 DUVET その3 -Gold Experience-[叶芽](2013/04/25 18:56)
[45] #40 『インターハイ』 その1[叶芽](2013/07/24 05:27)
[46] #41 『インターハイ』 その2[叶芽](2014/01/27 14:56)
[47] #42 『インターハイ』 その3 -会話-[叶芽](2013/04/18 00:08)
[48] #43 Dragon’s Dream その1[叶芽](2013/06/25 12:46)
[49] #44 Dragon’s Dream その2[叶芽](2016/09/09 04:59)
[50] #45 Dragon’s Dream その3 -仁-[叶芽](2014/01/08 19:43)
[51] #46 オーバーワールド その1[叶芽](2013/04/24 19:04)
[52] #47 オーバーワールド その2[叶芽](2016/09/21 08:26)
[53] #48 オーバーワールド その3[叶芽](2013/12/16 00:18)
[54] #49 オーバーワールド その4 -Ego-[叶芽](2013/07/25 17:26)
[55] #50 咲-Saki-[叶芽](2016/10/07 10:23)
[56] #51 人鬼の世界[叶芽](2016/01/26 06:57)
[57] #52 人鬼の世界-OUTRO 第三部終了 第四部開始[叶芽](2013/08/05 10:29)
[58] 後書き 人鬼について[叶芽](2013/08/10 04:04)
[59] 前書き[叶芽](2016/01/21 12:35)
[60] #53 部室[叶芽](2013/12/13 20:00)
[61] #54 姉妹[叶芽](2016/10/07 10:35)
[62] #55 墓場[叶芽](2014/10/08 13:25)
[63] #56 胎内[叶芽](2014/01/08 19:45)
[64] #57 死海[叶芽](2014/01/24 01:13)
[65] #58 聖母[叶芽](2014/07/19 17:19)
[66] #59 実力[叶芽](2014/08/23 20:58)
[67] #60 対話[叶芽](2014/10/22 21:25)
[68] #61 黄金[叶芽](2016/03/28 15:21)
[69] #62 混沌[叶芽](2016/06/15 10:18)
[70] #63 神威[叶芽](2016/06/17 04:28)
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[19486] #29 雨の日と その1
Name: 叶芽◆8aff19b3 ID:44c4781d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/03/31 22:33
 
 その日は雨だった。
 一人の少女が、傘も差さず雨に打たれていた。
 会場を背にして、ただその場で、空を見上げていた。
 涙を、雨でごまかすように。



「ねぇ、どうしたの?」



 一人の少女が話しかけた。
 白糸台の制服を着た女子。
 彼女も、傘を差していなかった。



 ザザ……

 ザザザ……



 音…がする。


 雨の音。


 違う。



 この音は。



―――
―――
―――






 【プレゼント・デイ】







 【プレゼント・タイム】





―――
―――
―――












「先鋒戦で注意するんわ、清澄の傀です」
 姫松高校のミーティングにて、末原恭子は傀について説明を始めた。モニターには傀が映し出されていた。
「まあそうやろうなぁ」
 エースの愛宕洋榎は頷きながら言った。残念そうな表情も浮かべており、まるで傀と戦いたがっていたようである。それを見た末原は続けた。
「確かに、彼とまともに打ち合えるのは先輩くらいです。しかし残念なことにオーダーの変更は出来んことになってます」
「中堅にエースそえるんがうちの伝統になってますからね。もう仕様がないですよ」
 その傀と当たることになった、上重漫がため息交じりの声で言った。
「この化け物は地区大会で恐ろしい成績を残してます。県大会決勝以外、全ての先鋒戦で3校をまとめてトバしています」
「10万点持ちのスタートでそれをやるって、インターハイ史上最大の化け物じゃないですか…」
「最大ではあらへんで漫ちゃん」
 否定した、末原は、モニターの画像を切り替えた。映し出されたのは金髪の少女。
「臨海高校先鋒、ヴィヴィアン…。彼女は『全ての』先鋒でそれをやってます。それも激戦区の東東京で」
「は……?そんなん勝てるんですか?」
「初戦でヴィヴィアンの方と当たらなかったのは幸運です。清澄の傀の方は、普段は序盤は見にまわることが多いそうです。しかもその卓の『敗者』を見つけて、その者を狩るとか」
「えげつないですね」
「逆に言えば『敗者』にならなければいいんです」
 末原の狙いはこうである。先鋒戦に関しては、1位を目指さない。そもそも上重にトップを期待はしていない。トップと30000離されたら罰として、額に落書きをする、ということをするくらいである。
 先鋒戦では『敗者』にならない。これを意識することを、末原は上重に言った。
 末原は可能な限り、傀の対局、それも裏も含めて調べ上げた。そこから彼女は、対傀戦において『敗者』になる大半のケースが『調子に乗る奴』だということを見つけた。
「つまり、序盤活躍してしまう奴のことです。故に、2回戦先鋒戦にて『被害者』になる可能の一番高いのは永水女子の怪物、神代小時。そう読んでます」
 神代小時は、薄墨初美や石戸霞と違い、強さにブレがあるものの、それでも強者にかわりはない。内に化け物を潜めているのなら、人鬼はそれを狩るだろう。
 
 上重が爆発しない限り……



「ツ……ツモ…2000・4000です……」


(爆発してもうたー!)



「―――前半戦終了ーッ!姫松高校先鋒、上重漫、強豪、清澄と永水を相手に圧倒的リードを広げています!」


清澄(傀)     81200
姫松(上重)    146300
永水(神代)    84600
宮守(小瀬川)   87900


(漫ちゃん何してんのー!)



 上重漫は団体戦メンバーの中では最弱と言ってもいい実力であるどころか、そもそもメンバーに選ばれること自体疑問視されている。
 彼女をメンバーに入れたのは大将を勤めることになった末原であるが、彼女は上重のある傾向を掴んでいた。
 それは、順位点、オカを無視した単純収支の累計がプラスであること。相手が強いほど爆発するように点棒を稼ぐ所、である。
 個人的感情もあったであろうが、それらの要素は、団体戦のメンバーたる条件を十分にクリアするほどの力であると、末原は思っていたのだ。
 だがそれは『今ではない』。今ではいけなかったのだ。


「―――さて、後半戦が開始されました。逃げる姫松を他校は抜き返すことができるのか!」


(やばい。やばいで漫ちゃん、これはやばいでー…)


 人一倍傀について、調べ、知っている末原は冷や汗と震えを止めることが出来なかった。いつ『御無礼』が始まるのか、その恐怖だけが頭を埋め尽くした。

(末原先輩、『ツモるな』って言われてもあれはツモっちゃいますよ…)
 末原は先鋒戦前、そして前半戦終了後の休憩時間、上重に対して『言い聞かせた』。仮にバカツキが降りてきても、おとなしく、静かに、目立たず振る舞えと。『御無礼』の的になってしまったら、先鋒戦で飛んでしまう、と。
 しかし、上重には出来なかった。勿論、最初のうちは、序盤に張っても、アガリを拒否した。しかし、手を進めるごとに、手が高くなっていく。それでも何度もアガリを拒否しても、見逃しても、他家はリーチもかけてこない。張っている雰囲気もないまま海底まで進む。すると、海底直前、あるいは海底でツモってしまうのだ。
 上重は傀の試合を観たことが無かったわけではない。圧倒的ツキにはやはり驚愕はした。だが、所詮はバカツキの連続程度の考えでしかなかったのだ。末原の言っていることは荒唐無稽で、オカルトじみている。現に今の自分にわけのわからないバカツキが舞い降りている。麻雀では珍しいことではないのだ。なら、点は取れるうちに取った方がいい。思考の最後はその結論に落ち着き、『ツモ』るに行き着いた。



(めんどくさいのは清澄と永水かと思ってたけど、意外な所が来たなぁ…)

 前半戦、得点を稼いでいたのは上重であったが、他もされるがままというわけでは無かった。傀と小瀬川白望は、早あがり、差し込み等を駆使して上重の連荘を防いでいた。永水の神代はノーホーラだったが、振り込みは無く、牌を喰わせることで傀や小瀬川をサポートしていた。
 だが、それでも上重を完全に止めることは出来なかった。

 しかし


「ツモ、1000オールです」


 後半戦東一局。
 起家を引いた上重だったが、その開幕のあがりは安かった。

東一局終了時

上重(東家)  149300
傀(南家)   80200
神代(西家)  83600
小瀬川(北家) 86900



(ん?ずいぶんと低くなってるぁ…)


 正確にはこの兆候は前半戦の終盤にも見られた。上重は自分が二着との差を広げるにつれて、自分の流れ、勢いに確信を持つようになる一方で、不安もあった。
 あがれる時にはあがってしまおう。そう思うようになった。
 白糸台の宮永照のような一方的な連荘をしているわけでは無い。傀や小瀬川、神代に止められてしまう。勿論それは構わない。止められても、次局にはあっさりツモれてしまう。だが、確信は持てても安心が出来なかった。上重の意識は、高さより早さにシフトしていった。

「あ…」

 東一局一本場開始前、神代が

「ごめんなさい。少し寝ていました…」

 彼女は謝罪し、これからは全力以上であたらせてもらいます、と意気込んだ。


(はぁ…めんどくさいのが増えるのはやだなぁ…)

 小瀬川は上重の爆発に関してはさして脅威とも感じていなかった。彼女が警戒していたのは、神代と、傀。
 特に序盤は神代を注視していた。しかし、掴みどころの無い印象を受ける一方で、彼女からは攻撃の気配が全くなかった。そこから、小瀬川は意識を傀の方に向けた。石橋を叩くように慎重に打ち、そして観察をした。
 だが、掴めない。まだわからない。上重の爆発が観察にノイズを加えているのか、あるいは彼が隠しているのか、彼の奥底が見えない。起こっている状況は、爆発する上重に対抗して、早あがりや、差し込みを互いにしているだけ。しかし真意は違う。
 そんな中で、厄介、面倒なことが増えるのは小瀬川にとって、やはり面倒なことだった。

 が

(あれぇ…?)

 その局、神代は小瀬川に振り込んだ。
 小瀬川が手を『作り上げた』わけでは無い。その前に出来てしまった。とりあえず聴牌に、神代が振り込んだのだ。

(本気出すんじゃなかったのかな…)

(親番が……残り二回のうち一回の親番が流れてしもうた……)

 前半戦程の勢いがもう無くなって来ていることは上重も気づいていた。

(ここからは、流そう。少しでも早く局を消化せな……)

 だが、早あがりに向かう、彼女よりも先に、傀と小瀬川は早かった。
 その時にかぎって、安牌、現物がなく、降りれない。彼女は東二局から、東四局にかけて、彼らに振り込んだ。三連続の振り込み。
 そして


「やっとかぁ……」

 南一局、小瀬川に手が入り、彼女はツモる。倍満。上重の親かぶりである。


上重  124500
傀   89100
神代  74100
小瀬川 112300


 迫られる。近付いてくる。
 前半につけた差はもうなく、上重の手は汗で濡れていた。

「す、すんません…」

 急いでハンカチで手汗を拭く。

(まずい……あかん……先輩の言った通りになるんちゃうか、これ…)

 迫ってきているのは、宮守の小瀬川。だが、これは傀の仕組んだことなのでは。このまま行けば、最後には傀が全てを持っていくのではないか。次は南二局。傀の親番。死の宣告『御無礼』が始まるのではないか。上重は思考を巡らす。そして後悔する。
 このままでは、『敗者』は自分になってしまう。

(どうか……この局だけ…この局だけ!)

 上重は祈る。配牌に、手牌に、山に、流れに。
 そして、その祈りに応えるように、彼女には手が入った。まだ河の一段目の段階。彼女は運に感謝した。

七八九⑥⑦⑧⑨9西西 チー八七九 ツモ 9索

 ⑥筒を切れば聴牌。彼女は傀の捨て牌をみた。⑥筒を一巡前に捨てている。通る牌である。


「ポン…」

 静かに声がかかった。傀の声だ。その声は上重にとっては刃物に等しい鋭さのある声だった。

(来た!)

 既に切っている牌のポン。まず間違いのない『仕掛け』。上重は思わざるを得なかった。

 しかし同巡、神代からあたり牌が切られる。

(え?)

 一瞬、彼女は目を疑った。そして次の瞬間、彼女の脳内は安堵と歓喜で満たされた。

「ロン!ロンです!1000点!」

(やった、凌いだ、逃げ切った、傀の最後の親番を蹴った。これであの人に飛ばされることは無くなった!)

 一方、小瀬川にあったのは疑問だった。

(どんな手で鳴いたんだ?捨てた牌を鳴き返して……)

(先輩の思い過ごしや。毎回毎回あんな馬鹿ツキはあらへん、あったとしても…今回は違う……)

(姫松の焦るような安手あがり……傀の爆発の兆候の無い雰囲気……まさか……)


(傀は不調だ)


 安堵からの、そして疑問から始まった二人の思考の最終地点は一致した。
 でなければ、わけのわからない鳴きでプレッシャーなどかけてこない。しかも最後の親番である。仮に『仕掛け』、そして仕上げるのならもっと前である。
 傀のやろうとしていたことは、被害を最小限に食い止めることだった。そう結論付けた。

「ツモ…300・500です」

 南3局。これまでノーホーラだった今の神代にすらあがられる。傀には何かを起こす兆候すら見られない。

 そしてオーラス

上重(南)      126600
傀(西)       88800
神代(北)      72600
小瀬川(東 親)   112000


 ドラ9索(表示牌8索)

(なら…最終局)

 二人は最終局の指針を決める。

(突き放そう!もう振り込んでも、傀の連荘はあらへん!)
(これくらいでいいかなぁ……聴牌気配あったら差し込も……)

「リーチ!」

 上重は考えうる最高形でリーチした。

七七八八九九九九78999

(ダマじゃすまさない!ここまでおちょくられたんや。痛い目みせたる!)

(えー?高そうだなぁ……差し込むのやめようかなぁ……)

 攻める上重。
 小瀬川は降りた。



……
……

その時


(ん?)


 風。


次に寒気。


そして圧力。


(これは……)


 その先に居たのは、神代…


 神代小蒔……





「今更とは言っても怖いね…」

 宮守女子引率兼顧問、熊倉トシは語る。

「鹿児島の山中深く―――女仙だけが住む仙境がある…そんな御伽噺もあるけれど、彼女はそこから降りてきたようなモノかもねぇ」

 リーチをした上重はツモる。あがり牌ではない。引いてきたのは⑨筒。彼女も感じ取った。しかし、切るしかない。




「ロン」





 六女仙を従える―――


 霧島神境の姫…




①②③③③④④[⑤]⑤⑥⑥⑦⑧







「でも…」






 熊倉は続けた……






―――鬼は二人いた






『御無礼』






①①①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑨⑨




「頭跳ねです。32000」










先鋒戦終了

姫松  93600
清澄  121800
永水  72600
宮守  112000





 そのあがりに、上重は言葉を失った。

(つまり…どういうことや?やばいモノの上にやばいモノがおった?違う、逆転されたんや……あかん。なんてヘマを……)

 後悔、罪悪感が上重に押し寄せてきた。

(あかん…あかん……先輩たちになんて言えば……)

 彼女はその場で金縛りにあったように動くことが出来なかった。
 傀が先に席を立った。そして言った。

「次は『強い方』で来てくれることを楽しみにしています」

 神代に対しての言葉だった。
 彼女は数秒呆けたようであったが、しかしその言葉を理解し、そして微笑み、返した。

「はい。私もそうなってくれることを祈っています」

 彼女も席を立つ。

(なるほどなぁ……端から眼中に無かった、と……)

 一息ついて、小瀬川も席を立った。そして、上重だけが舞台に残された。

(次の試合が始まる…はよ……どかな。でも、みんなに言うべき言葉が……。あんだけ先輩に言われたんに、何も考えずに突っ走って、一位通過も出来たのに……アホか私は……)

 彼女は動かない。動けない。
 そんな中


「漫ちゃん!」

 末原が舞台に来ていた。動けないでいる上重を見かねて、彼女は来た。

「せんぱ…」

 末原は、彼女の手を掴み、舞台から降ろした。引っ張って、廊下まで連れて行った。

「カメラあるけんな…」
「え?」

 末原は言った。
「漫ちゃん。点数覚えてる?」
「はい?」
「93600。で、トップの清澄の点数覚えてる?」
「え、あ……」
「121800。差は?計算してみ」
「二万……八千…二百、です……」
「なら、何を落ちこんどるん?十分やん。額の落書きもあらへん」
「でも……」
「でもやあらへん。漫ちゃんはよおやったんや。期待以上や。傀や神代相手にほぼプラスで帰って来とる。そうは出来へんで。傀相手に生きて帰ってくるんは」
 末原は上重の頭を撫でた。上重の目は潤み、声は震えて、次の言葉を言うに言えなかった。
「それにな、私は今怒っとる。漫ちゃんにやあらへん。傀に対してや。傀は漫ちゃんに御無礼言ったんやあらへん。神代に対してや。漫ちゃんは眼中に無かったっちゅうことや。漫ちゃんがあんなにすごいのに、それに見向きもせえへんかった。許せんなぁ。めっちゃゆるせんなぁ漫ちゃん」
「………夢……みたいですわ……」
「何言うとんの?」
「先輩がこんなに優しいなんて、夢みたいです……変な夢ですね……」
 末原は顔を真っ赤にして返した。
「そ、そんなことっ……。漫ちゃんが十分な仕事をしたから、私は……」
「それでも、ありがとうございます…」
 上重は一歩下がり、改まって一礼した。末原は顔を背けた。
「そ、それより、次や。次は手加減してやる必要はあらへんで。傀に対して、いやそれだけやない!ヴィヴィアンに対してもや。まとめてぶっ飛ばすんや。だから、めいいっぱい爆発してや、漫ちゃん」

「はい!」

 上重漫は、今日という日があったことに感謝した。










 とある雀荘にて



「あのさ、ほんとにあれ傀?調整する必要ないんじゃないの?」

「確かにそうかもねヴィヴィ。私も『アレ』があの『人鬼』には思えないね。だが、『あの通り』なら、だ。彼らはね、自分の本質すら上手に隠せるからね。だから、舐めてかかると痛い目をみるよ」

「ふん。この私をこんなちんけな大会に出して…本当は傀とかテルテルとかと戦わせるのが目的じゃないでしょ?本当の目的を教えなさいよ。どーせ、まだ顔も見せてない『大将』が関係してるんでしょ?」

「ふふ。隠しても無駄か。……その通りだよ」



「この大会でね、私は決めようと思っている」



―――私の【最高傑作】を




「だから、頑張るんだよ。ヴィヴィ。傀を『超えて』自分の価値を証明するんだね」


「は?何それ。ちょーやる気でないんですけど、それ」











 




「ここまでよく頑張ったな。臨海のD・D、そして、桜輪会高津組の信頼を得て、臨海高校の副将につけた。あとは本番だけだ」

「ええ。確かにここまで大変でした。D・Dの目的は先鋒戦と大将戦の結果しかありません。次鋒から副将はその繋ぎでしか無い。しかし、信頼できるレベルの能力は必要です。元々臨海高校の生徒で実力もある次鋒の鉄壁君以外、D・D軍…彼の子供たちで埋められる枠でしたが、なんとか入れました。また、僕と同じような目的で、中堅にイレギュラーが入ったせいで、結局『D・D軍』はヴィヴィアンだけとなりましたが…」

「まあ『そいつ』のことはいい。問題はアンタだ。助けたいんだろ?あの娘を」

「はい……。約束は守ってくれますよね。『白虎』さん」



「勿論だ、ケイ……いや……」






―――氷のK








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