第七話 騎士見習い
和磨が地球人初の単独飛行に成功してから、一ヶ月の月日が流れた。
その間もやはり様々な出来事があり、ある時は、某侍従長の
「侍従たるもの、炊事洗濯家事一切に始まり、あらゆる幻獣を乗りこなし、あらゆる武器を、あらゆる道具を扱えなければなりません」
との有り難いお言葉から(和磨は「それはもう侍従じゃない」と突っ込んだら、どこからか取り出されたハリセンでシバキ倒された)手始めにと、元々一人暮らしで、炊事洗濯等の家事はできていたので、裁縫からお菓子作り等をやらされたり。と、見習いならではの苦労をさせられ、休日には、カステルモールに魔法を習っていた。
そんな和磨と共に、当然のようにイザベラが一緒にいたが、カステルモールも一々突っ込むような事はせず、魔法に打ち込む生徒達を眺めるだけであった。
実際、和磨の飲み込みの早さは異常で、一度コツを掴めばあっと言う間に成功させてしまう。
最も、コツを掴むまでに時間がかかる事が多かったが。
そして、和磨は掴んだ感覚を、あの手この手でイザベラに伝え、イザベラも少しづつではあるが、魔法が使える様になってきていた。
ただし、彼女が使えるのはコモンスペルのみで、系統魔法になると全くと言って良い程使えない事には変わりが無かった。
そしてその事に気がつくや否や、和磨が一言
「なら、系統魔法じゃなくて、コモンマジックを極めればいいじゃない」
パンが無ければ云々のような感覚で、平然とそう言ってのけた。
一般的に「魔法」とは、系統魔法の事を指して言う。だが、和磨にとって系統だろうがコモンだろうが魔法は魔法な訳で。
系統が無理でも、コモンが使えればもうそれで良いじゃん。と言い切ってしまう辺りが、和磨が魔法なんぞ一切存在しない世界から来た故に生まれる切り替えの早さであった。
そしてそんな励ましというか、半ば投げたとも取られかねない発言を聞き、一悶着あった訳だが、結局、イザベラも納得。
彼女は今、コモンマジックの練習と、その使い方の研究をしている。
一方の和磨は、一通りコモンマジックを習い終え、系統魔法を習っていた。
流石に、最初に魔法を見た時程のハイテンションでは無かったが、それでもやはり、テンションがやたら高く、錬金の魔法を練習する時など思わず、両の手のひらを合わせ、そのまま大地に着け「錬金!」と大声で叫んでいた程だ。
当然、杖である木刀《コテツ》を手にしていないし、何かを何処かに持って行かれてもいない一般人がそれで錬金できるハズも無く。
余談だが、その後、和磨が初めて錬成に成功した彫像は、2メイルを超えるムキムキマッチョの髭が、ポージングしている姿だったとかなんとか。
そして、ある程度魔法を教え込んだ和磨を、カステルモールがある場所に案内したのが二週間ほど前。
そこは、ガリア東花壇騎士団の騎士達が汗を流し、体を鍛えている鍛錬場であった。
そこで、カステルモールが団員を集め、和磨を紹介。
侍従見習い兼騎士見習いとして。
一通り挨拶を終えた所で、一人の騎士と和磨を対戦させた。
結果。
一瞬で間合いに入られ、対応しきれずに騎士の敗北。
そのまま和磨は、なんと怒涛の三連勝を飾った。
このまま騎士団全て抜くか!?
とまぁ、世の中そんなに甘くは無い。
三戦で動きを見切られ、対応策も用意されてしまい、連勝はそこでストップ。
だが、他の騎士団員に騎士見習いとして認められるには十分だった。
なにより、一人一人、戦う際に一々礼をするその姿と、勝って驕らず、負けて怒らずの。礼節を重んじる剣道家としての態度が、騎士達と打ち解けるのに要する時間を、大幅に短縮したと言える。
結局、そのまま周囲の騎士達に歓迎され、和磨は東花壇騎士団の訓練に見習いとして参加する事を了承される。
この時、カステルモールが某新世界の(ry
そんなこんなで、一ヶ月。
侍従見習いの仕事をしながら、騎士見習いとして訓練に参加し、カステルモールに魔法を習う。というなんともハードな日常を送ってきた和磨だが、実のところそんなにキツくも無かった。
基本的に、侍従の仕事はあくまでも「見習い」である為そこまで多く無い。その上、一通り仕事を覚えた和磨は比較的暇で、侍従長様直々の特別レッスンが無い日は、騎士団の訓練に顔を出し、休日にあるカステルモールの魔法授業も、ドットスペルを一通り習った所で終わった。
というより、そこから先に進みようが無くなった。
何せ、和磨は魔法が使えると言っても初心者《ドット》な訳で、属性を足すなんて事は結局出来なかったのだ。
ドットと言っても全ての系統ではなく、基本風。それと土の錬金と、火の火球。水の治療くらいで、他はどうにも覚えられなかった(コツを掴めなかった)ようで、和磨は風のドットメイジという事になっていた。
それでも本人曰く「別にドットでいいじゃん。これだけで十分」との事なので、まぁその内何かのキッカケでラインになるだろう。と言う事になり終了となった。
が、あくまでもそれは”カステルモールによる”魔法の指導であって、本来の目的であるイザベラの魔法の練習は未だ続いている。
そんな訳で、本日虚無の曜日は、最早恒例となった魔法練習の日だった訳だが
「たまには、騎士団の訓練でも見ようかね」
との、気まぐれなお姫様の一言で、和磨とイザベラは現在、東花壇騎士団の鍛錬場に来ていた。
世間一般に、虚無の曜日は休日だが、だからと言って騎士が全員休暇という訳にも行かない。その為、休日にも関わらず、それなりの人数が鍛錬場に居た。
そんな中に、和磨は一人入っていく。
イザベラは少し離れた位置で「私はここで適当に見てる」とだけ言うと、何処からとも無く現れたクリスティナ侍従長が用意した椅子に座り、優雅に紅茶なんぞ啜っていた。
「よーうカズ坊!虚無の曜日に来るなんて、珍しいじゃねーか」
「あれ、ゲンさん。今日非番じゃありませんでしたか?」
「いやぁ、そうなんだけど、体を動かさないとどうにも調子が出なくてなぁ。という訳で、ココに来て見たら、お前さんが居たって訳だ。それより、ゲンさんっての何とかならんのか?」
「なりません。だって、ゲンさんって呼び易いし」
「俺にはゲイランって名前がだな」
「ゲイさんって呼ばれるより、ゲンさんの方がいいでしょう?」
「はっはっはっはっは!相変わらず変な坊主だ。よし!一丁揉んでやるからかかって来い!」
「うっす。よろしくお願いします!」
言いながらお互い得物を手に取り距離を取る。
周囲も心得た物で、周りに居た者達はその場を離れ、いつの間にか審判らしき男が一人、二人の間に立つ。そして手を振り下ろし、開始の合図。
「行くぞ小僧!」
「はああああぁぁぁぁぁぁ!!」
そのまま二人が激突。
そんな光景を、少し離れた位置から眺めていたイザベラが、近くに来ていたカステルモールに問う。
「いっつもあんな感じなのかい?カズマは」
「えぇ。誰に対しても分け隔てなく、明るく元気が良いと、団員達には弟分の様に可愛がられてますよ。実際、此処に居る中で一番若いのは彼ですしね」
「ふ~ん。ま、上手くやってるなら良いんだけどね」
最初、和磨を騎士見習いとして訓練に参加させる事を渋っていたイザベラだが、この光景を目にしてまで文句を言う事は無かった。
今も、年輩の騎士に負けたにも関わらず、笑顔でなにやら話しをしている和磨。
すると、すぐに次の相手が名乗り出て来て、再び対戦。今度は和磨が勝ったが、それでも笑顔を崩さず、お互いアレコレと指摘し合っている。
少し離れた位置で、しばらくそんな光景を眺めていたイザベラの耳に、やたら甲高い怒声が聞えてきた。
「何故お前のような平民がここにいる?」
背後からの声に和磨が振り向くと、そこには、金色に輝く鎧を身に着けた男が、こちらを見下ろすようにして立っていた。
「えっと・・・どちら様で?」
「私の名を知らんというのか平民?我が名はグレゴワール・マルセル・ブルゴーニュだ」
グレゴワール・マルセル・ブルゴーニュ。
名門ブルゴーニュ伯爵家の次男にして、最年少で東花壇騎士団入りをしたエリートである。実際、家柄だけでなくその実力もかなりの物なのだが、訓練に顔を出す事は滅多に無い為、今日まで和磨は彼の存在を全く知らずに居た。
「・・・はぁ。それで、自分に何かご用でも?」
「用?そうだな。私が君に要求する事は一つだ。すぐに此処から立ち去り、二度と戻って来ない事。たったそれだけだ」
「えっと・・・そりゃまた何で?」
「決まっている。此処は、君のような薄汚い平民が居て良い場所では無いからだ。此処はガリアが誇る花壇騎士団の。東花壇騎士団の訓練場だぞ?」
「はぁ。つっても、せんせ・・・団長に見習いとしてココに立ち入る許可は貰ってるんですが」
「知らぬ。普通ならばその時点で、自身の身の程を知り、辞退するのが道理であろうに」
なんともはや。
随分とまぁ、自分勝手な理屈だ。
こういう妙な理屈を捏ねる相手が苦手の和磨は、少し嫌そうな顔をしながらも穏便に事を収めようと、会話を続ける。
「いやまぁ、ほら。それでも一応、許可は頂いてる訳でして・・・その時はアレです。舞い上がってしまっていて、辞退という選択が思いつかなかった訳で。ともかく、自分は貴方の邪魔をする気は一切ありませんので、自分如き、無視して頂いて結構ですよ」
舞い上がっていたと言うのは、嘘ではない。カステルモールに訓練に参加してみないかと誘われた時、正直嬉しかった。何せ召喚されて以来、素振りくらいしかやっていないのだ。形式が違うとは言え、試合が出来るのは非常にありがたかった。
「私はそれでも一向に構わんのだがな。だが、栄光あるガリア東花壇騎士団の訓練に、見習いとは言え平民が参加していると言う事実を、見過ごす訳には行かん。このままでは東花壇騎士団の名に傷が着く」
そこまで言った所で、見かねて年輩の騎士が口を挟んできた。
「おいおい、グレゴワール。そいつは言いすぎだ。坊主が騎士にあるまじき行為をしたってんならお前の言い分もわかるが、コイツは特に何もしてない。回りに迷惑もかけてない。坊主が言う通り、坊主の事が気に食わないなら、無視してれば良いじゃねぇか」
「ゲイラン殿。口を挟まないで頂きたい。これは私とそこの平民の会話。貴方は関係ありません」
「ほぉ、随分な口聞くじゃねぇか。若造が」
言いながら、ゲイランが剣に手をかけた所で、慌てて和磨が割って入った。
「ゲンさんゲンさん。落ち着いて。ほら、もういい歳なんだから、あんまり怒っちゃダメですよ」
「おいおい坊主。コイツはお前を」
「はいはい。良いです。良いですから。ね?ゲンさんが何か言われた訳でも無し。気にしちゃいけません。という訳でゲンさん。ちょっと向こうで訓練しましょうよ。実はゲンさんの動きで、どうしても教えて欲しい物がありましてですね!」
何とかこの場を誤魔化そうとする和磨の行為に苦笑し、「わかったわかった」と言いながらその場から離れようとした二人だったが
「待て。平民。私の話はまだ終わっていない」
呼び止められた和磨は、相手から見えない位置で大きく溜息をついた。
「えっと、まだ何か?」
「何かも何も、答えを聞いてない」
「答え・・・?」
「私の要求のだ。立ち去れと言った」
「あ~・・・そーですね。前向きに検討し、善処しますので、今日はとりあえずここまでと言う事で」
振り返り、そのままこの場を離れようとしたが、グレゴワールが剣を抜き、突きつけてきたので動きを止めた。
「今此処で答えろ。立ち去るか、否か。このまま速やかに立ち去るならば、見逃してやろう」
「・・・もし断れば?」
「このままその命を絶つ。と言いたい所だが、そうだな。その場合は別の方法で強制的に放逐するまで」
「別の方法?」
「決闘だ。そして私に敗れ、去れ」
どーしてこう、妙な事になるのだろうか・・・。
このまま答えないって選択すると、ザックリきそうだよねー。この人。
あ~、どーっすっかなー・・・。
和磨としても、別に全員と打ち解けようとは思っていない。部活や道場のノリで今日まで楽しく過ごしてきたが、それでもやはり、何人か自分を快く思っていない人物も居た。
そんな人物とは、極力揉め事を起こさないよう、こちらから話しかけず、接触も最低限にするという事無かれ主義を通してきた和磨の、ここが正念場だ。
どうにかして、この場を誤魔化そうと頭を悩ませる和磨だったが、意外な所から意外な助け舟が。
「よかろう。その決闘、私が立会人になろう」
・・・・・・・・・助け舟?
そう言って名乗り出てきたのは、東花壇騎士団団長、バッソ・カステルモールその人である。
「ちょ、先生!?いきなり何を」
「おぉ、団長殿。感謝致します」
驚愕する和磨と、一礼するグレゴワール。
そして、グレゴワールはそのまま、カステルモールの後ろに着いて来ていたイザベラを見て、さも丁度今気がついたと言わんばかりに驚き、恭しく頭を垂れた。
「これはこれは姫殿下。ご機嫌麗しゅう」
「・・・・・・・・・あぁ」
「本日はご視察に参られたので?それならば丁度良い時に参られましたな。今からこの私。グレゴワール・ブルゴーニュめが、栄光ある東花壇騎士団に掬うゴミを片付けてご覧に入れましょう」
「そうかい。まぁせいぜいがんばりな」
頭を垂れるグレゴワールを冷めた目で見下ろし、イザベラは和磨へと視線を移した。
「ちょっと先生!勝手に決闘って、どういう事ですか!!」
珍しく怒気を発し、怒る和磨を、まぁ落ち着けと言い、宥めてから
「いいかね?コレはいい機会なのだ。まだ我が東花壇騎士団では、全員が君を認めた訳では無い。いくら見習いとはいえ、君は平民なのだから。だが、今回の決闘はそれを認めさせる好機ではないか」
「そうだな。団長殿の言う通りだ」
ゲイランが首肯しながら言うのと同時に、いつの間にか三人の周囲に集まっていた他の騎士達も、「そうだな」だの「確かにその通りだ」等、皆が揃って頷いている。
だが、和磨一人は未だ納得していなかった。
「それはそれです!そもそも、俺は今回、あの人と戦う理由がありません!」
「戦う理由・・・?君は、アレほど平民だなんだとバカにされたのにかね?」
誰か、周囲に居た一人の声に、和磨は怒鳴った。
「それがどうしたんですか!?俺が平民なのは事実。東花壇騎士団がガリアの伝統ある騎士団である事も事実。そしてそこの訓練に、見習いとは言え、平民の俺が出入りしているのも全部事実。そしてその事が原因で、東花壇騎士団が何らかの不利益を被る可能性もある。あの人は何一つ間違った事を言っていないんですよ!!」
そこまで言った所で、後頭部に凄まじい衝撃を受け、和磨はその場で頭を抑えてしゃがみこんだ。
「っつ~~~~て、ゲンさん!?何を」
そのまま、周囲の騎士達にもゲシゲシと足蹴にされた。
「いっててててて・・・何するんですか、いきなり」
「ふん。好き勝手ほざいた罰だ」
もう一度ゴツンと。拳骨を落としながら、ゲイランが続ける。
「いいか?今坊主が言った理屈なんて、ここに居る全員わかってる。だから、俺らが怒ったのはそこじゃねぇ。俺達は、坊主を認めたんだ。見習いとか、平民とか、そんな理屈を置いといて、この場で共に汗を流し、体を鍛え、技を磨く者としてな。なのに、グレゴワールの野郎はそれを認めようとしない。坊主の事をろくずっぽ知らないくせに、好き勝手言いやがった。いいか!?俺達が認めた坊主を、奴が認めないという事は、間接的に、奴は俺達も認めないって事だ!だから、団長が決闘で白黒付けると言った事に、俺達は賛成した。俺達が認めた坊主なら、実力で奴に認めさせる事ができると信じてな。それなのに坊主ときたら、戦う理由が無いだの間違ってないだのと、フザケた事ぬかしやがって」
周囲を囲む騎士達を見回すと、皆一様に頷く。
「・・・・・・・・・は~。わかりました。そうですね。お世話になってるゲンさん達にそうまで言われちゃ、断れないじゃないですか。揉め事は嫌いなんですけどねぇ・・・」
「がっはははははは。そうだ。それでいーんだよ。それに俺は、あの小生意気な若造が気に入らん。是非、この機会に痛い目に合わせてやりたいのよ!」
その通り!
何が名門だ!
家の方が歴史あるぞ!
バカみたいに派手な鎧着やがって!
そんな野次が飛び交う中、苦笑する和磨に、カステルモールが話しかけた。
「まぁ、そういう事だ。頑張りたまえ」
「わかりました・・・勝てる保障もありませんが、全力でやってみます。でも、何も決闘じゃなくても良かったのでは?」
「いや、無理だ。他の方法ではイザベラ様が納得しなかったのだよ・・・」
少し疲れたように答えるカステルモールに対し、心底不思議そうな顔で、首を傾げる和磨。
「リザが?何で?あいつには関係無いのでは?」
「・・・・・・はぁ。まぁ、ともかく頑張りたまえ」
何か先程よりも更に疲れた様子のカステルモールは、そのまま答えずに離れていく。
「では、双方そろそろ宜しいか?」
既に位置に着いているグレゴワールが大きく頷くのを見て、和磨も小走りで駆けていった。
凡そ15メイルの距離で、二人が対峙。
和磨はペコリと一礼し、木刀を構える。
眼前には、黄金の重鎧を着込んだ身長180サントを超える美丈夫。
対し、和磨の姿は、道着と袴のみ。
元々、東花壇騎士団の訓練では、あまり防具を使用しない。
怪我をしても魔法ですぐ直る上、その方が。危険に身を晒した方が、より実践に近い感覚で訓練できるとの理由からである。
和磨の剣道の防具等は、元の世界の道場に置いてあるので、こちらに一緒に持って来たのは道着と袴と、僅かな手荷物のみ。なので訓練に参加する時は常にこの格好なのだが、決闘者として対峙すると、なんともみすぼらしく見える。
そんなみすぼらしい相手の姿を見て、グレゴワールは唇の端を吊り上げた。
普段あまり練習に参加しない彼が、虚無の曜日にもかかわらず、本日現れたのは偶然では無い。
二週間ほど前、平民が騎士見習いとして鍛錬場に出入りし始めたと聞いた時は、眉を顰めたが、特に気にしなかった。
平民は所詮平民。名門貴族の次男にして、東花壇騎士団の騎士たる自分にとって、なんら障害にすらならないと思ったからだ。
その考えは、今現在も変わっていない。
正直、平民が出入りしようが、所詮見習い。正規の団員でもないのでどうでも良いと言うのが彼の本音。
だが、今日は少し事情が違う。
なにせ、ガリア王国第一王女自ら視察に来ているのである。
その情報を入手し、現場に急行してみれば、都合良く件の平民も訓練に参加しているではないか。
これは好機。
ここで王女の覚えが良ければ、自分には更なる出世の道が見えてくる。
平団員で終わる気などさらさら無かったグレゴワールは、あわよくば、見習いとは言え平民を訓練に参加させる事を決めたカステルモールを追い落とそうと。
そうすれば上の席が一つ空くと。
名目はあくまでガリアの、東花壇騎士団の為と銘打って、決闘と言う名の舞台で自分の実力を王女に認めてもらおうと。
そんな事を思考しながら、グレゴワールは剣を構えた。
両者が剣を構えたのを見て、カステルモールが宣言する。
「では、始めよ!」
ちょっと長くなりそうなんで、今回はここまでで。
2010/07/07修正