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No.19454の一覧
[0] ゼロの使い魔 蒼の姫君 土の国物語 (オリ主[タマネギ](2010/07/26 18:23)
[1] 第一話 二人の出会い[タマネギ](2010/07/07 21:51)
[2] 第二話 魔法・・・それは、人類に残された最後のアルカディア。人はそれを求め、数多の時を(ry[タマネギ](2010/07/07 22:02)
[3] 第三話   ハルケギニア[タマネギ](2010/07/07 22:17)
[4] 第四話   就職?[タマネギ](2010/07/07 22:26)
[5] 第五話   姫君の苦悩[タマネギ](2010/07/07 23:19)
[6] 第六話   魔法と印[タマネギ](2010/07/07 23:52)
[7] 第七話   騎士見習い[タマネギ](2010/07/08 00:08)
[8] 第八話   決闘と報酬[タマネイ](2010/07/08 00:36)
[9] 第九話   王の命令[タマネギ](2010/07/08 01:07)
[10] 第十話   リュティスに吹く雪風[タマネギ](2010/07/08 01:18)
[11] 第十一話   姫君の意思[タマネギ](2010/07/08 01:34)
[12] 第十二話   王の裁き[タマネギ](2010/07/08 22:37)
[13] 第十三話  名も無き丘で[タマネギ](2010/07/08 23:10)
[14] 第二部 第一話   使い魔  (一部修正[タマネギ](2010/07/27 15:53)
[15] 第二部 第二話   日常   (旧タイトル 新撰組 大幅に修正しました[タマネギ](2010/07/26 18:58)
[16] 外伝  異世界の事変[タマネギ](2010/07/10 12:48)
[17] 第二部 第三話   王。再び[タマネギ](2010/07/21 21:30)
[18] 第二部 第四話   魔法学院[タマネギ](2010/07/21 20:52)
[19] 第二部 第五話   休養[タマネギ](2010/07/21 20:52)
[20] 第二部 第六話   戦場[タマネギ](2010/07/24 08:50)
[21] 第三部 第一話  光の国[タマネギ](2010/07/26 20:06)
[22] 第三部 第二話  北花壇騎士[タマネギ](2010/08/01 23:10)
[23] 第三部 第三話  吸血鬼[タマネギ](2010/08/02 01:18)
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[19454] 第三部 第一話  光の国
Name: タマネギ◆52fbf740 ID:60f18e82 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/26 20:06









第三部 第一話  光の国













時間と言う物は平等だ。
何かしても、何もしなくても。
自然と時計の針は自然と動く。
それを止めることは出来ない。
なら。どうせなら、何かしたほうが有意義。
貴方も、そう思いませんか?







ヴィシー会戦。
ブリミル暦6142年。
年明け早々に起こったガリアの乱。
反乱軍。王国軍。両軍合わせて三千人ほどの被害を出した戦い。
それから、一週間の時が過ぎた。

この会戦で名を上げた三騎士のうち一人。
伊達和磨。カズマ・シュヴァリエ・ド・ダテは、現在――――――――






ここは、東花壇騎士団が訓練の為に使用している広場。彼らの鍛錬場。

「それで!そこでどうなったんだよ!?」

「おいおい、焦るなよジャン。なぁ、ボウズ。もったいぶらずに次を」

「グスコさんだって焦ってるじゃないですか!」

「お前ら!うるさいぞ!!カズ坊の話が聞えん!」

和磨は、周囲を騎士達に完全に包囲されていた。それこそ蟻の這い出る隙間も無いくらいに。

「えっと・・・それで、ですね」

「「「「それで!?」」」」

和磨達の活躍は、ガリア全土に知れ渡っていたが、ここでは特に。
何せ目の前に当人が居るのだから、騎士達が詰め寄って話を聞かせろと騒ぎ立てるのも無理からぬ事。
言うまでも無いが、彼らは全員騎士である。
そんな彼らは当たり前の様に。戦場で武功を立てたいと、常日頃から思って、また憧れている。
また、彼らは貴族だ。
貴族である彼らは実はというか、やはりというか。英雄譚という物が大好きなのだ。

単騎で強大な敵に立ち向かう。
追い詰められた所を、知恵と勇気で潜り抜ける。
仲間達と力を合わせ、大きな目的を達成する。

何でも良い。そう言った話は、貴族達に限らず誰でも、僅かなりとも引かれる物ではなかろうか。

そんな物語の中の。空想上の出来事を、本当にやってのけてしまったのが和磨達三人。
憧れだけでなく、嫉妬や妬み。その他負の感情もあるはずなのだが。
ソレらは、ここでは表に出てこない。
何故か?それは一重に、語り部である和磨の口調と、態度故に。

伊達和磨という青年は本来。こういった実体験を他人に語って聞かせるのは得意では無い。しかし、こちらの世界に呼ばれてから。毎日の様に姫君と実体験というか、色々な話をしている内に、ある程度は上達した。といっても、それは語り方ではなく。事柄を在りのままに伝えるという技術が、である。誇張せず、主観を入れず、入れる場合は予め断わってから。相手が少しでも理解しやすいように常に考え努力しながら語る姿は、聞き手に好感を感じさせるには十分だ。態度としても普段からそうだが、特に武功を鼻にかける訳でも無く。増徴している訳でも無い。普段と変わらない態度。何より

「そこでですね。グスコさんに教えてもらった事が役に立ったんですよ。それと、ここはゲンさんの――――――」

普段から変わらない。素直に、誰々のどんな教えが役に立った。誰々のどんな言葉を思い出した。ありのままを伝えているのだが、これは聞き手からしたら嬉しい限りだ。何せ、大手柄をあげたのは自分の。自分達の今までの協力があったからこそと、そう言われているような気になるのだから。



それを計算では無く、自然とやってのけるからこそ、彼は多くの人に慕われるのだろうな。

「団長、そんな所で一人。腕組んでニヤニヤしてないで。一緒に坊主の話を聞きましょうや」

少し離れて団員達の様子を伺っていたカステルモールの下に、年輩の騎士。ゲイランが笑顔で歩み寄って来た。

「む?ニヤニヤなんぞしていないぞ?」

言いながら自分の頬に手をやり、おや?

「ほらね?まぁ、愛弟子が大手柄をあげたんで嬉しいのも分かりますがねぇ」

「・・・・・・師弟。という物でも無いだろう。私と彼は」

「そいつは団長。あんた、鈍いですわ。鈍すぎですわ。坊主がたった一人。先生って呼んでる相手があんたで、あんたがいつも。他の奴より人一倍力を入れて鍛えてるのが坊主でしょう?」

それは、ほら。名前が長いからという理由で勝手に省略されてたり、彼は飲み込みが早いので教える側としても教え甲斐があったり、色々と事情がだなぁ・・・・・・

カステルモールの言い訳だかなんだかよく判らない言葉を笑いながら聞き流して

「ねぇ団長。覚えてますかい?去年の春頃。団長が我々に語った計画」

覚えているも何も、自身で考えた事だ。忘れるはずも無い。
彼を利用して王女を操り、内側から王国を揺さぶる。
今でこそ考えを改めたが、そういえば。一番始めに反対したのは

「お前だったな、ゲイラン。一番最初に賛同して、一番最初に反対に回った」

「えぇ。最初、団長に聞かされた時は素晴らしいと思いましたよ。何より、リスクが少ない。危なくなれば平民一人切り捨てれば良い。トカゲの尻尾ですわな」

それから、考えが変わったのは少しして。カステルモールが件の青年を騎士見習いとして訓練に参加させ、何度か剣を。言葉を交わした後。

「私はね。最初は平民の一人くらい。しかも王国の民では無く、異国の民の一人くらい、どうなっても良いと。思ってたんですがね」

話す内に。過ごす内に。

「あれはダメですよ。あの坊主は、私らみたいな腹黒い奴等に利用されちゃいけません。あいつは良い奴ですよ。でもそれだけじゃぁない。そう。その内、何かデッカイ事をやらかしてくれるんじゃないかって、そう思わせるだけの何かをね。感じたんですよ」

今にして思えば、ただの感情論か直感か良くわからない。それでも良い。

「結果はご覧の通り。騎士達を引き付け、手柄を立て、姫殿下の信も厚い。この国の次代をひっぱるのが、あの坊主の役目でさぁ」

「・・・・・・お前が、正しかったという事だろうな。最初、真っ先にお前が反対した時は裏切る気かと、頭に血を上らせたが」

それがきっかけで、もう一度考え直してみようと思った。その後にあの決闘騒ぎ。結果、そこで考え直したのだが、だからこそ。あの日。あの丘で剣を向けたのだ。

しかしゲイランは苦笑しながら、ゆっくり首を左右に。

「違いますよ。私が考えを変えたのは。変えさせたのは坊主本人だ。私はただ、坊主に引っ張られただけでさ。もしくは、少し気取った言い方をすれば、時代とかですかね。時代は私みたいな、私らみたいなのより、坊主みたいな若者を生かそうとした。そう考えた方が夢があるじゃぁないですか」

「そうだな。そんな考えもアリだろう」

というか、私もまだ二十代。十分に若いのだが?

「団長はダメですよ。黒すぎて」

「悪かったな」

可笑しそうに笑いながら、二人は

「さて、行きましょうや」

「あぁ。まぁ、弟子の初陣だ。しっかり聞いてやらねばな」

騎士達の輪の中へと。




「いいかカズマ!確かに、お前の功績は見事だ。認めよう。お前は立派な騎士であると。しかし、しかしだな!!」

今まで黙って話を聞いていた黄金の騎士。グレゴワールは立ち上がり、ビシっと指を突きつけて

「それでも、私はお前が大嫌いなのだ!!」

最初に決闘して以来、何度も何度も剣を交えているが、この二人は一行に歩み寄れず

「じょーとーだよ・・・毎度毎度突っかかってきやがって。今日こそ決着つけてやんよ!グリコォ!!」

「グレゴワールだと、何度言えば理解するのだこの単細胞があああぁぁ!!」

「黙れ!荒ぶる鷹のポーズでもとってろ!!」

激突。

周囲もこの二人の行動にはすっかり慣れたものなので、皆が皆、安全圏まで退避。
東花壇騎士団最年少。21歳のグレゴワールと、19歳の近衛騎士和磨。この中で一番年の近い二人は、いつもこんな感じ。グレゴワールも、影からネチネチやるのではなく、正面から嫌いだと。そう言ってくるので、和磨としても非常にやりやすい。

「今度こそ叩き潰すっ!!」

「ふん!何度も同じ手を食らうか!」

何だかんだでお互い楽しんでいるように見える。少なくとも、周囲の騎士達の目にはそう映っている。

「あ!てめっ!!何時の間にこの辺りの地面に固定化なんぞかけやがった!?」

「バカめ!!貴様が話し込んでいた隙にだぁ!」

和磨《ドット》の錬金では、それ以上のランクで固定化をかけられている物を錬成できない。グレゴワールは先ほどまで、しっかりと和磨の話を聞きながらも、せっせと周囲に固定化の魔法をかけていたのだ。

「このっ!卑怯だぞ!」

「戦に卑怯もクソも無いわ!」

オッズは3;2。
和磨の方が若干高いが。

「団長。止めないんですか?」

「どちらをだね?賭け事をか?それとも」

「賭けはダメ。私は今回坊主に賭けたんだから。そうじゃなくて、試合ですよ」

「・・・・・・・・・自身が不利だから、私に試合自体を止めさせようと?」

「いえいえ。騎士団の風紀がですねぇ」

「今更だ。止めんよ。好きにやらせておけ」

そろって二人の戦いを眺める。
騎士団長殿の手には『グレゴワール』とだけ書かれた一枚の紙切れ。


ガリアは今日も、平穏無事。
世はなべて事もなし







「かぁ~ずぅ~まぁ~?」

「・・・・・・何でゴザイマショウカ?姫殿下」

ずごごごごご。
怒りのオーラが狭い個室を覆い尽くす。
危険を感じた和磨は昨日の回想を止め、冷や汗タラタラ。

「私の話。聞いてた?」

ニッコリ

「・・・・・・・・・えぇ、モチロンですよ」

笑顔とは、かくも相手を畏縮させるモノ足りえるのか・・・

「そう。じゃぁ言ってみて?」

「・・・えっと、ね。ブリミルってのが神様で、その弟子がふぉ・・・フォルラン?で、MVPが。でも優勝したのは」

姫様。笑顔で指をパチン

「そんでえええぇぇぇぇぇぇ!!ガルム!おま、ちょ!噛むないてぇやめろおおおぉぉぉ!おいお前俺の使い魔だよねいてててててて!」

ガルルルルルルル

―――――済まんな。最高級の牛肉を頂けると言うのでつい―――――

「うらぎr!やめ!痛い!マジで!ゴメン。ごめんなさい!!」

彼らは今、遥か空の上。
竜籠の中。ガリア王国首都リュティスから南へ。

一通の書状がプチ・トロワに届けられたのがつい先日。
それはガリア王国の南。
ロマリア連合皇国の皇。教皇。聖エイジス32世からの招待状であった。

ロマリア連合皇国。
元々は小さな都市国家でしかなかったこの国は、幾多の戦乱を経て周辺の都市国家を併呑。ハルケギニアの南。突き出したように在るアウソーニャ半島を統一。首都ロマリアを頂点とする連合制都市国家となった。そして、このロマリア連合皇国。略して皇国と呼ばれる国は、ハルケギニアにある唯一絶対の宗教であるブリミル教の総本山。始祖ブリミルが没した地。その弟子であるフォルサテが墓守を務めてきた聖なる土地であると。その歴史的事実等を最大限に利用している為、国の長である教皇は、公式ではハルケギニアの王よりも位が高い事になっている。そんな教皇聖下直々の招待を断わる事は、普通一国の王ですら出来ない。ましてや、王の娘でしかない姫君にそれが出来る訳も無く。

なので現在。
彼女はお供に、護衛の為にと和磨、身の回りの世話をさせる為に侍従長。クリスティナを引き連れて空路。竜籠で皇国の首都ロマリアに向かっていた。

外。周囲には、ロマリアまでの護衛としてガリアの竜騎士隊。
竜籠の中には和磨。イザベラ。通常の狼サイズのガルムが。竜籠の御者台には、いつかのようにクリスティナが。



「人が、この私が!直々に。いいか?一国の王女であるこの私がっ!ブリミル教やロマリアについて教えてやっているのに、それなのにお前は!!」

「いや、だってさぁ・・・」

「あ?」

ギロリ

「いや、その、だから・・・」

「だから何だってぇ?」

そりゃ、せっかく人様が熱心に教えてくれているのを、ボケっとして聞いていなければ、普通は怒られるだろうに。

「それとも何か?カズマ。あんた元の世界で何か信じる神様でも居たのか?」

それならば、まだ救いようもあるが。

「ん~・・・・・・・・・まぁ、在るっちゃ在るな」

それはまた意外。

「へぇ?どんな神様なんだい?」

これはもう、純粋な興味から。普段そんな物信じて無いだろう男が、敬虔な教徒だったと暴露したのだから興味を覚えるのは当然。

「いや、厳密にどんなっつわれてもなぁ・・・そうだなぁ・・・例えば、コレとか?」

腰の刀を鞘ごと少し持ち上げ、見せる。

「刀?武器が神様って事?」

「ん~、それも在りかな?後は、アレとか、コレとか」

あちらこちら。窓の外や椅子。籠の中の備品を次々に指差す。

「?どういう事だ?そんなに一杯神様が居るのか?」

「まぁ、そうね。居るんじゃないの?」

それが、彼の信じる。信じると言うのは大げさだが、彼の想う宗教とでも言うべきもの。
八百万《やおよろず》の神々。
800万。別に数が決められている訳では無いが、世の中には多くの神々が居るという考え。水には水の神。風には風の神。火には火の神。
神は何にでも宿っている。
彼の国独特の考えだが、和磨自身。この考えは非常に気に入っている。

「皆が想う数だけ神様は居るんじゃないかな?だから、ブリミルって神様も居るだろうし、ガルム達が言う大いなる意思っての?そんなのも神様みたいなモノなんだろうし」

「そう言われると、何か適当に言ってるだけって気もするんだけど・・・」

「ん~・・・とは言ってもなぁ・・・俺は「コレが神様で、他のは全部異端です。コレだけを信じましょう」って考えは好きじゃないんだよ。なんか、こう。押し付けられてるって感じがするの。いいじゃん。神様ってのは一杯いて、それこそ、人の数ほど居るってのもさ。みんながそれぞれ、信じたい神様を信じていれば良い。その方が気楽だし」

へらへらと。笑いながら言っているが、別に適当に誤魔化している訳では無い。それはまぁ、実に

「なんというか、カズマに合ってる。カズマらしい考えだねぇ」

姫君も納得して微笑む。

「だろ?まぁ、俺が考えた訳でも無い。元々そういう考えがあるのが、俺の住んでた国ってだけさ。他から見りゃおかしいのかもしれないけどね」

そうだね。うなずいてから、笑みを消して真剣に。

「良い考えだと思うよ。私も、その方が好きかもね。でもね、分かってるとは思うけど一応言っておく。それを絶対、ロマリアの連中の前では言うなよ?」

言えばたちまち、異端として処理されかねない。いや、確実に異端として宗教裁判という名の処刑が行われるだろう。いくら彼女でもそれを庇う事は出来ない。そうなったらもう

「分かってるよ。一応、理解はしてるつもりだ。ロマリアの前では敬虔なブリミル教徒を演じるよ。ボロを出さない為に無口になるのも良いかもな」

「そう。なら良いさ。だったら」

再びニッコリと笑って

「敬虔な教徒になりきる為に、しっかりとお勉強しておかないとね?」

うぐっ・・・

「いや、だから、ですね?正直、いやもうぶっちゃけ。ぶりみるが何だ。どーでもいーんですけど・・・」

興味が無い事柄に関してはとことん無関心なのがこの男。伊達和磨である。

「だまれ♪」

素晴らしい笑顔でいらっしゃる。
見苦しく抵抗を続ける和磨を、そのたった一言で黙らせて、姫君は熱心に講釈を。
それも一重に、彼を想っての事と。
いつまでもグダグダ情けない言い訳をする自分の使い魔《騎士》への、なんというか、こうモヤモヤとした感情が。もっとシャキっとしろ!と、そんな想いも含めての、それはともかく。いや、それも含めて

全ては愛故に。

こう書くと非常に美しい。








しばらくして。
彼ら一行はロマリア連合皇国の領空へと。
そこで、周囲を囲んでいた竜騎士達が次々と引き返して行く。
ここから先は、ガリア竜騎士隊では無く

「ほぉ、アレが噂のロマリア聖堂騎士団か」

周囲には空を翔る白い馬。
ロマリアに生息する、翼の生えた聖なる馬。ペガサス。騎士団御用達の玄獣の群れが、彼らの竜籠を厳重に取り囲んでいる。
護衛というか、護送と言った表現が合っていそうだが、構わず。窓の外、和磨は周囲の聖堂騎士団をじっくりと眺めて

「かなりの腕前だな、連中」

「そうなのかい?」

「あぁ。動きが完璧に統制されてて、無駄口一つ叩かない。あぁして騎乗してても隙が無い。良く訓練されてると思うよ」

最近初陣も終え、北花壇騎士として期間は短いが、数としてはかなりの任務をこなして来た和磨は、以前よりもかなり。そういった部分を見抜く眼が養われている。今こうしている間も冷静に対象を観察。
そんな己の騎士《使い魔》に、頼もしい思いを感じつつ、ふと思った事を口に出した。

「それじゃぁもし、ここでこいつ等に襲われたら、私達は助からないね」

しかし和磨は、不敵に笑って

「いや?逃げるだけならいけるさ。なぁ?」

『うむ。我等の逃げ足。疾き事風の如し。である』

・・・・・・せめてもう少しこう、お前だけは守ってやるとか、返り討ちにしてやるとか、勇ましい答えを期待してたのに・・・・・・

「まぁ、お前達らしいけどね」

「『だろう?』」

息を合わせて何処か得意げに鼻を鳴らす二人を見て、呆れと親しみとがブレンドされた笑顔で笑っている所、和磨が。

「ん?あれ?なぁ、聖堂騎士って皆ペガサスに乗る・・・だったよな?」

「そのハズだけど。どうしたんだ?」

「いや、先頭に一騎。竜がいる。しかもあの竜、かなりデカイ」

彼らを乗せている竜籠。それを背中に背負って飛ぶ竜よりも、さらに一回り以上大きい白い竜。別にそれ自体は不自然でもなんでも無いのだが、聖堂騎士団の中に在るという事が実に奇妙。しかも、その一騎が先頭という事はこの部隊の長という事か。

「あれに騎乗してる騎士。いや、ロマリアだから神官か。かなりのお偉いさんって事かな?」

興味を引かれ、主従揃って窓からそちらを。すると、丁度タイミング良く振り返った神官と目が合った。
金色の髪に整った顔立ち。左右の眼の色が違う。月目《オッドアイ》。かなり若い。
神官は微笑みながら軽く会釈し、再び前を向く。

「おいおい、あんな若造がか?」

お前も若造だよ。そんな突っ込みは無し。

「だねぇ、しかもまぁ、結構な美形じゃないか」

「あ?お前、あぁいうのが趣味なの?」

和磨の問い掛けに、一瞬キョトンとして、すぐに。ニヤリと。意地の悪そうな笑みを浮かべて

「なんだ、焼いたのか?」

しかし、今度は和磨もキョトンと。

「何を?どこか燃えてるのか?」

ブチ

「お前は・・・なんでいつもそうなんだよ!!別に期待はしてないさ!あぁ、そうさ!だけどな、こういう時はもっとこう、うがぁあぁああああ!!」

「いでででででふぁふぃふんはふぁはふぇ!」

ぎゃーすかぎゃーすか

最初は向かい合って座っていた二人は、いつの間にか隣合って。取っ組み合いの―――姫君が一方的にだが―――大騒ぎ。

以前、和磨は親友に言った言葉。
――――近すぎて距離がわからないってやつ?――――
何故か。そう、何故か。それをふと思い出し、狼はひっそりと嘆息した。







やがて。彼ら一行は、周囲を聖堂騎士団に守られロマリア。皇国の首都へ。
その一画。六本の大きな塔。
中央が最も巨大な塔。周囲に五本、五芒星の形に塔が配置されている。このロマリアを象徴する建物。大聖堂。ロマリア宗教庁である。
その敷地に、誘導されるがままに降り立つ。
周囲の聖堂騎士は全て下馬し、両手を胸の前で交差させる神官式の礼。
しかし、竜籠のドアを開けに寄って来る者が居ない。
いくら教皇の方が立場が上とは言え、招待した客人に対しての態度では

「これ、勝手に開けて出ろって意味か?」

「・・・・・・どうなんだろう?それなら喧嘩を売ってるとしか思えないんだけど・・・」

流石にそれは無いだろう。少し待ってみよう。
そんな会話をしていると、窓の外。例の竜騎士が竜から降りて指揮棒を取り出すと。

「へぇ、聖歌隊ってやつか。本物は初めて聞いたなぁ」

「ロマリア流の歓待ってやつかね」

声変わり前の少年達の清らかな。その美しい歌声が周囲に響く。
実に素晴らしい歌声なのだ。なのだ、が

「・・・ダメだ。眠くなる」

「カズマ・・・お前さ、もうちょっと、こう、なぁ?」

「いや、なんつーかなぁ・・・良い歌さ。良いんだけど・・・ね?わかる?」

わかるか!

聖歌をBGMに二人はいつもの様に。やがて歌が終わり、指揮者。先ほどの月目の騎士が竜籠のドアを開けて一礼。

「ようこそ、姫殿下。我がロマリアへ。私はお出迎え役のジュリオ・チェザーレと申します」

イザベラは和磨と会話していた時の表情を完全に消し、それは王国の王女の顔で。

「出迎えご苦労様です。早速で申し訳ありませんが、案内をお願いして宜しいですか?」

「かしこ参りました。ではこちらへ。我が主がお待ちです」

恭しく礼をするジュリオと名乗った神官に続き、イザベラと。腰の刀を袋に包み――――ロマリアでは、武器をそのまま携帯する事は許されていないので――――片手に持った和磨が付き従い、後に続く。
現在の彼は騎士の正装。しっかりマントも羽織っている。今回木刀は無し。騎士が木の剣を持ち歩く訳にはいかないのだから。
一人残された侍従長と、共に残ったガルムも、別の案内人が来て部屋へと。

そのまま。主従は案内されるがままに大聖堂の中へ。

聖堂内は白い大理石で埋め尽くされ、色とりどりの美しいステンドグラス。それに日の光が辺り、七色の光が降り注いでいる。
当にそれは聖なる場所。そう言われ、誰も否定できないだろう。
そんな中を進むと、違和感が。
聖なるこの場にはおよそ似つかわしくないような、ボロ切れを纏った。言い方は悪いが、汚らしい人々がそこに居た。周囲が白で統一されているからこそ、彼らがよりいっそうそういった風に見えてしまう。
そんな者達に、二人も思わず視線を向けてしまったのだが、そこで。

「彼らは、難民なのですよ。姫殿下」

案内をしていたジュリオが振り返り、疑問に答えてくれた。

「我が国。ロマリアは、世間では光の国などと呼ばれておりますが、実態は別物です。各国から難民が流れ、彼らは日々の生活の糧にも困り果てる。しかし、そんな彼らを他所に、神官達は皆綺麗な衣服を身に纏い、豪華な料理を腹いっぱいに食べ、毎日祈りを捧げるのみ。それが我が国の実態なのです」

「それで、彼らは何故ここに?」

「聖下のご差配です。彼ら難民はここが光の国であると、信じてやってきておりますが、実態は違う。聖下はそんな矛盾を嘆き、悲しみ。少しでも改善しようと努力なさっております」

「そうですか。それは素晴らしいですわね」

お互いに笑顔で。先ほどから和磨は一度も口を開いていない。それどころか、その顔に表情は無し。ボロが出ないようにと、無口無表情を完璧に演じている。

そのまま二人は更に奥へと。
教皇の謁見待合室に通され。

「聖下はこの中。謁見室に居られます・・・ですが」

ここに来て、初めて彼は言葉を濁した。

「どうかなさいましたか?何か、ご都合でもよろしくないとか」

「いえ、そうではありません。ですが一つ。こう言う言い方は可笑しいのですが、お怒りにならないで頂きたい」

良く分からない言葉だったが、とりあえず了承。そのまま、中へと


そこは、驚くべき光景が。
教皇。ブリミル教の最高権威である教皇の謁見の間。そこは、図書館かと思える程、本棚にの大量の本。それは良い。良いのだが

「せいかせいか!これ、こうでいいんですよね?」

「せいか!これをみてください!」

「せいか~!できたよ~!」

たどたどしい口調で聖下。聖下と。子供達が集まり、皆紙に何かを書き込んでいる。彼らの中央には、長身で長い金色の髪を持つ男性。若いが、彼こそ。ロマリア教皇。聖エイジス三十二世。ヴィットーリオ・セレヴァレその人であった。

無表情を貫こうとした和磨も、僅かに眉を動かしてしまった。姫君も唖然と。正直、怒るとかなんとか以前に、どう反応すれば良いのか良く分からないと言った所。
そんな二人を見て、どこか諦めたような息を吐いたジュリオが教皇に声を。

「聖下。聖下。ガリア王国第一王女。イザベラ姫殿下がお見えです」

その声に彼は振り向き、こちらを見てから

「おぉ、姫殿下。ようこそおいで下さいました。失礼ですが、もう少々お待ちを。今子供達に字を教えている所なのです」

一国の姫を呼びつけて置いてその態度は、普通はありえないのだが・・・だからこそ、最初にジュリオは断ったのだろう。怒るなと。まぁ、怒るに怒れない状況ではあるのだが。
どうすれば良いか、いまだに答えの出ない主従を無視し、教皇聖下は子供達に話しかける。

「皆さん。あそこに居られるのは、ガリア王国という国の姫殿下です。ご挨拶を」

「「「「こんにちは!ひめでんか!」」」」

はい、よくできました。
そう言いながら再び。本を片手に子供達に文字を。

「あの、姫殿下。どうか・・・」

「いえ、別に腹を立てる事ではありませんよ。ご心配なく」

反応が無いイザベラに対し、不安げに問いかけてきたジュリオだったが、彼女としても怒るというより、呆れているだけなので適当に返す。
何故自分を呼びつけたのか、それが分からないが、それよりも。あの教皇が何を考えているかが全く理解できない。なのでもう、いいやと。何を言われるのかと緊張していた所、来て見ればコレだ。なんというか、肩透かしを食らった気分。仕方無しに、そのまま。ボーッと教皇と子供達を眺める事しばし。

「では皆さん。本日はここまでです。続きはまた明日」

「「「「はい!せいか。ありがとうございました」」」」

声をそろえてお礼を言う子供達は、そのまま。教皇の謁見室を後にした。
そのまま彼は、資料として使っていた本を自身で本棚へと戻してから、ようやく。

「お待たせして大変申し訳ありません、姫殿下」

僅かに頭を下げて。

「いえ、聖下のお優しいお心。十二分に理解させて頂きました。御礼を申し上げますわ」

咄嗟に応えたとは言え内心では冷や汗が。
教皇が頭を下げる?王では無く、その娘でしかない自分に?ロマリアの教皇が!?しかも、下げた理由も自分の都合。時間を調節するなり、ジュリオという神官に適当に案内させて時間を潰させるなりできたのに、態々ここに案内させて、その上で待たせて、頭を下げた。もう、何がしたいのか全く理解ができない。彼女の思考はオーバーヒート寸前。

そんな彼女をある意味救ったのは、今まで一言も発しなかった和磨だった。

「教皇聖下。本日はどのようなご用件で?」

「えぇ、そうですね。それをお話しなければなりません。貴方は・・・」

「失礼しました。お初にお目にかかります。ガリア王国近衛騎士。カズマ・シュヴァリエ・ド・ダテと申します」

すると、教皇は僅かに目を見開き

「ほぉ、貴方が。銀狼殿ですか?」

「えぇ。それは自分の二つ名です」

「それはようこそ。我がロマリアへ。まさかヴィシーの英雄殿にお会いできるとは光栄です」

「・・・・・・いえ、教皇聖下御自らに、自分如きの名前を覚えて頂いているとは、こちらこそ、言葉に表せない程の感動です」

ヴィシーの英雄。あの会戦で武功を立てた和磨達三人を、そう称する者は少ない。大抵、ヴィシーの三騎士。こちらの方で呼ばれるのだが。いや、それ以前に。そもそもこの話は国内にはそれなりに知られているが、国外では殆どしられていない。ヴィシー会戦という戦いがあって、王国軍が勝利したという事実のみなら広く知れ渡っているが、内容は別である。

つまり、教皇はあの戦いを。いや、自分か?もしくは彼女か。それらの周囲をしっかりと調べてからここに呼びつけた。狙いは何だ?

―――――ガルム。何か異常は無いか?―――――

―――――何も。侍従長殿も特に何も言っていない。どうかしたのか?―――――

―――――いや、まだ何も。何かあったら直ぐに知らせてくれ―――――

―――――承知した―――――

一瞬で思考し、使い魔のルーンを通じての会話を終えると、教皇の話は続いていた。

「そう畏まらずに。あぁ、そうでした。貴方達を呼んだ理由。でしたね」

貴方達・・・ねぇ。最初から俺も呼ぶ気だったって事。か?

「お二人をお呼びしたのは他でもない。実は、見て頂きたい物があったのですよ」

「何を、でしょうか?聖下」

「えぇ。それは先ほどの物です。どうでしたか?私の授業は。子供達は皆喜んでくれていますが、しっかりと教えることができているかが不安でして・・・」

「それは、大変素晴らしかったかと思いますが、あの、聖下。何故、それを私に?」

「いえ、姫殿下も私と同じ事をなされていると耳にしたものですので、やはり、こういう事は同じ志を持つ者に聞くのが良い、と思いましてね」

それは・・・

確かに、彼女。イザベラは、エリザベータという偽名ではあるが、子供達に字を教えている。志、というのはまぁ間違いなく違うだろうから置いといて、問題はその事実をこの教皇が知っていると、そういう事だ。
別に隠している訳では無いのだが、興味を持って調べようとしない限り出てこない事実である。なのに彼は知っていた。つまり

「そう、ですね。しかしそれならば、本日はお招き頂いた事に感謝を致しますわ。私も、聖下の教えは大変に参考になりましたので」

「おぉ、そうですか。そう言って頂けるとありがたいです。そうだ、ジュリオ。せっかく姫殿下にお越し頂いたのです。歓迎の宴の準備が整うまでの間に、アレをご覧頂きましょう」

「はい聖下。ではお二人共。こちらへ」

ジュリオの案内で、まず教皇自らが。次にイザベラ。最後に和磨が。大聖堂を進み、しばらくして地下へと。
螺旋階段を下りた先。僅かな灯りに照らされた湿った通路を一行はすすむ。

カツン。コツン。

足音だけが響く中

―――――ガルム。合図したらすぐに動け。位置は、わかるな?―――――

―――――あぁ。しっかりと。警戒しろ。我が行くまではお前一人だ―――――

僅かに。イザベラとの距離を詰め、袋越しに刀を握る手にも力を込める。

こんな場所に連れてきて、どうするつもりかねぇ・・・

表情は変えず、声も出さないまま、最大限に警戒を続ける和磨。
そんな和磨の変化を察し、イザベラもやや体を強張らせるが、そんな二人に。唐突にジュリオが声をかけた。

「ここは昔、地下墓地があった場所なのですよ。今はもう、墓地としては使われていませんがね」

「それはまぁ。しかしこんな所に何があるのですか?」

「それはですね。っと、到着したようですね」

教皇自らが説明をしようとして、少し開けた場所に。円形状に広がった空間。奥には鉄の扉。その両脇に、衛兵だろう。鎧を着込んだ屈強な男が二人。
四人は、そのまま扉の前に。

「ご苦労様です」

教皇自ら声をかけると「はっ!」とだけ応えた兵士は、おもむろに杖を取り出すと教皇へ向け、なんと。ディテクトマジックを使用し始めた。

ディテクトマジック。魔法を使用していないかどうか見破るために使用する魔法だが、これは本来。高貴な者に使うのは最大限の侮辱に当たる。なのに、彼らは。そして教皇も。それを当たり前の様に行い、また受け入れている。
それを見た主従は、どうにか平静を装いながらも、背中には嫌な汗がダラダラと。

何がどうなっているのか、ここに来てから何一つ、自分達が理解できる物が無い。
完全なアウェー。

そうこうしているうちに今度はジュリオも。そして終わると

「姫殿下。大変に失礼なのですが・・・」

まさか、教皇が調べを受けたのに、自分が断ると言える訳も無い。なので素直に了承し、和磨も同じく。
全員をディテクトマジックで調べ、異常が無い事を確認した衛兵は、それぞれ左右に分かれ、重そうな扉を。事実重いのだろう。ギギギギギと、音を響かせながらゆっくりと開かれた。

「さぁ、この中です。参りましょう」

「きっと驚かれますよ」

教皇とジュリオの案内で二人も。
魔法のランタンを手に取り、ボタンを押す。
暗かった部屋にうっすらと灯りが。
その光景を見て顔色を変えなかったのは和磨のみ。それは、侍従長の訓練の賜物か。はたまた、想定外の事態に頭と表情が追いついていないのか。

「これは・・・武器・・・なのですか?」

驚いていた姫君が言葉を発した。

「えぇ。場違いな工芸品と、そう呼ばれる物です。我々はこれらを、何百年も前からエルフ達に見つからないように東の地より運び込んでいるのですよ」

辺りには銃。剣。槍。様々な武器が置かれ、大くはこの世界では見られないような物ばかり。中には、反りのある不思議な剣。日本刀らしき物まで。

「聖下。アレは如何致しますか?」

「もちろん、見ていただきましょう」

いまだに硬直している二人を他所に、ジュリオは少し置くにあった小山へと。
小山。布で覆われた一層巨大な何か。
その布はすぐに引っ張られ、隠れていた物はその姿を現した。

「これは・・・・・・何なのですか?」

「車の上に大砲を載せた物です。どうですか?その発想も素晴らしいのですが、何よりもその技術。この精巧な作り。コレを創った者達の、技術力の高さが伺えます」

タイガー戦車。和磨の世界で、半世紀以上前の大戦において、最強と恐れられた戦闘兵器がここに。側面にはしっかりとシンボルマークも書かれている。
鋼鉄の騎兵。圧倒的な威圧感を放つそれが、何故。

「これは、また・・・確かに、聖下の仰る通り。素晴らしい作りですわ。一体誰がコレをいえ、コレらを作ったのでしょうか・・・」

言いながら周囲を見渡すフリをして和磨に視線を向ける。彼女としても、コレらの品々は和磨から聞いていた色々な話の中に出てきた物で、あちらの世界からやってきたという事は理解している。彼の愛刀となっている刀と同じように。しかし、それを表情には決して出さず。ロマリア《彼ら》が何をしたいのか理解できていない現状では、僅かでもこちらの情報を渡してはならない。
そしてその考えは和磨も同じらしい。相変わらずの無表情の鉄仮面。それを確認し、内心でホっと一息。

「誰が作ったのか。それは分かりません。しかし、我々では無い事は確かです。何せ、我々にはこのような精巧な細工を創る事など出来ないのですから」

説明しながら、教皇は和磨に視線を向け

「おや、貴方の剣。そちらに保管されている剣と形状が似ておりますが、もしや?」

チッ

イザベラ、内心で顔をゆがめ、舌打ち。
これが目的だったのか?まさか、感づいている?和磨!!

彼女の心配を他所に、侍従長さながらの鉄仮面と平坦な声で。

「いえ、聖下。残念ながら自分にもわかりかねます。確かに、自分の剣は場違いな工芸品と呼ばれる物でしょう。そちらに保管されている物と非常に良く似ておりますので。しかし、自分はコレを武器屋で購入して頂いただけで、誰がどうやって作ったのかは存じません。参考にならずに申し訳ありません」

「いえいえ、謝る必要などありませんよ。ふと思った程度の事です。お気になさらず」

その後、そろそろ晩餐の用意が整った頃ですねと。
彼らは地下墓地《カタコンペ》を後にした。
用意された食事はいわゆる精進料理という物で、質素な具に薄い味付けであった。教皇は一言「本日は精進日で、こんな物になってしまいまして申し訳ありません。明日はしっかりとしたおもてなしをさせて頂きます」と。
イザベラとしてはもう、色々と言いたい事がありすぎたのだが、黙って。和磨としては、むしろこの方がありがたかった。別に精進料理が好きな訳では無いが、味か濃い貴族の、豪勢な料理は正直口に合わない。もっと薄味の方が好きなのだ。
そんなことはまぁどうでも良い。些事として、歓迎の宴を終えて、二人は用意された部屋へと戻った所、予め控えていた侍従長と狼の出迎えを受けホっと一息。

「ふ~・・・なんかもう、今日は疲れたよ・・・」

グッタリとベットに倒れこむ姫君。和磨も、肩に手をやりコリをほぐす。

「姫様。はしたのうございます。貴方もです」

ピシャリと。侍従長様に叩かれた。

「そうは言ってもだなぁ・・・かずまぁ~。お前からも何か言ってやれ」

「・・・・・・・・・・・・」

無言。
どうやらもう、ロマリア《ここ》に居る間はずっと無口無表情人間を貫くらしい。変に気を抜くと崩れそうで。

そんな使い魔を見て、はぁ。と嘆息してから

「そういえば、風呂を用意してあるとか言ってたな。カズマ、入っこい」

相手をしてくらないのはつまらない。と

「はっ」

一言返事をしただけで、部屋を後に

「お待ちなさい。コレを。入浴の前に飲みなさい」

侍従長から手渡された小瓶。中には透明な液体が。これは?視線だけで問いかけても、彼女は何も応えず。

「今の貴方の役目は護衛です。常に気を引き締めておきなさい」

それだけ言って、彼女は視線を外す。
それだけで理解した。つまり、ここは敵地だと、そう思って常に警戒を怠るな。そういう意味だ。なので「はい」とだけ短く返事をして、受け取った小瓶をポケットにしまい、そのまま廊下へ。案内の人間に連れられ、大浴場。大きな湯船のある広い風呂場へと足を踏み入れた。


服を脱ぎ、畳んで篭の中へ。言われた通り、小瓶のフタを開け、中の液体を一気に飲み干す。少し苦いが、一気に。

ふ~。

口元を拭い、そのまま湯船へ。
どうせ他に使用している者も居ないし、まず体を洗うとかなんとか、そんなマナー知るか!どっぷりと肩まで浸かって

「はぁ~」

風呂は良い。なんとかの生み出した文化の極みだね。そんな台詞を何処かで聞いた気がする。その言葉通り、極楽極楽と。色々と溜まった物を吐き出すような一息。
目を細め、ぼんやりと天井を眺めながら湯に浸かる。天井にも凝った細工が施されていて、実に豪勢な事だ。

ぴちゃん

空から水滴が。
そのまま、どれだけ時間が経ったか。一々数えていないし、時計も無いから分からなかったが、十分に骨休めが出来たので、そろそろ上がろうかなと言う所で

「やぁ、失礼するよ。騎士殿。カズマ殿、と、お呼びしても良いかな?」

全裸の。風呂場なのだから当たり前だが、ともかく。
月目の神官。確か、ジュリオとか名乗った青年が片手をあげながらにこやかに。

「これは、ジュリオ殿。自分の事はお好きにお呼びください」

一礼して、再び湯に浸かる。ジュリオも、笑顔のまま和磨の隣に。

「まぁまぁ、あまり堅苦しくならないで。歳も近そうだし、もう少し、こうフランクに行きません?」

「・・・・・・申し訳ありません。何分、聖なる土地ロマリアには、生まれて初めて来た物で。恥ずかしながら、未だに緊張しているのです」

良くもまぁ口から出任せをペラペラと。いや、どれもこれも嘘では無いが、本当の事でも無いので、あながち出任せでも無いか。

そんな答えを聞き、ジュリオは苦笑しながらも「そうかい、まぁ仕方ないかもしれないね」と軽く流して

「しかし、英雄殿というのは随分と傷が多いですね。特にその胸にある大きな傷。例のヴィシー会戦で受けた傷ですか?」

服の上からでは分かり難いが、和磨の体にはそこかしこに傷跡が。特に目を引くのは、胸にある大きな傷。治療した後だが、その痕跡だけでどれ程の大怪我かが伺える程の物だ。

「・・・・・・えぇ、まぁ。他にも色々とありましたので」

「ほぉほぉ。さすが、英雄と呼ばれるだけのお人ですね」

「・・・・・・そのような物ではありませんよ」

その後、取り留めの無い話をいくつかしてから、そろそろ失礼しますと、断って浴槽を後に。

部屋に戻り、そのまま。姫君も用意された風呂に入ったのか、服を着替えていて寝巻き姿。疲れたから今日はもう寝る。
それだけ言われ、和磨は部屋を追い出され、用意された別室。といっても、隣だが。そこに入りベットに倒れこんだ。その際チラリと。胸元を確認すると、そこには先ほどまであった大きな傷は既に無く。いや、元々胸にそんな傷受けていないので在るはずも無い。いつも通り。ミミズののたくったようなルーンが。それを見てホっと一息つき、その日はそれで終了。

深い眠りに付いた。

明くる日。昨日の言葉の通り、今日は朝から豪勢な食事が。昨日のほうが良かったのにと、内心で愚痴を言いながらも朝食を終え、再び案内を命じられたジュリオに連れられ、ロマリア見物としゃれ込んだ。とは言っても見る物はそんなに多く無い。ロマリアの名物。というかなんと言うか。そんな物は神官、または各地にある聖堂。そして孤児院等、それくらいだろうか?そんな場所を転々としてから、最後に。聖堂騎士団が普段訓練をしている広場へと案内された。

「実は私。一つ、姫殿下にお願いしたい事があるのですが」

今まで案内を続けていたジュリオが、恭しく頭を下げながらイザベラへと。

「何でしょうか?ジュリオ殿」

「はい、実は私。これでも多少剣の腕には覚えがあるのです。そこで」

チラリと。和磨を見て

「彼のヴィシーの英雄殿と、是非とも。手合わせをお願いしたいのです」

それは、また。
和磨としては、そもそも英雄なんぞと呼ばれるのは好きじゃ無いのだが、それは置いといて。手合わせははっきり言ってしたくない。何故かと、理由はあるがともかく。それを分かっている姫君も、丁重に断ろうとしたのだが

「ジュリオ。姫殿下にあまり無茶なお願いをしてはいけませんよ」

政務を終えたのだろうか。教皇聖下が現れ、ジュリオを諌めた。

「申し訳ありません、聖下。しかし、しかしです。私とて武人の端くれのつもりなのです。強者とは是非とも手合わせをしてみたい。それが有名な者であればあるほど!どうか、どうか卑しき私の思いも汲んで頂けないでしょうか!」

「そこまで言うのであれば・・・姫殿下。大変に申し上げ難いのですが、出来れば。宜しければ、ご許可をくださいませんでしょうか?」

何がご許可だ!!
叫びたくなるのをどうにか堪え、笑顔を崩さずに。
教皇直々にそんな事を言われて、そもそも断るという選択しなど在るはずも無いのだから。

「そうですね。ジュリオ殿のお気持ちも良く理解できますので。カズマ。いいな?」

「・・・はっ!」

教皇とジュリオが礼を述べるなか、さてどうした物かと。和磨は考える。

「では、改めて。ジュリオ・チェザーレ!参ります!」

「・・・カズマ・シュヴァリエ・ド・ダテ」

双方構え、開始。
真剣での戦いだが、別に命のやり取りでは無い。純粋な力試し。しかし

場所が悪すぎる・・・

何度も剣を交えながら、和磨は思考し続ける。

初めから戦う心算でここに案内したのかな・・・どっちにしろ、周りに誰も居なければまだ良い。けど・・・

周囲には、聖堂騎士団の団員達が。グルリと囲み、当たり前だが、別に彼らは何か手出しをする訳では無い。問題は居る事自体だ。
教皇の側近である神官。それが、和磨達から見たジュリオ・チェザーレという男。そして恐らく、それは間違っていないだろうと思っている。だからこそ、万が一。ここで和磨が勝ってしまえば、教皇の顔に泥を塗る事になってしまう。周囲に誰も居なければその事実が外に漏れることは無いが、今は周囲に大勢の聖堂騎士がいるのだ。隠し通す事は不可能だろう。かと言って、和磨も負ける訳にはいかない。別に自分一人の問題なら今すぐ負けても良いのだが、問題は自分の主。和磨は、王女の近衛騎士だ。そんな人物が負ければ、今度は王女であるイザベラの顔に泥を・・・勝つ事は論外。かといって負けも許されない。

チラリと。視界の端に蒼の少女を捕らえ、目が合った。

どうしたものか・・・・・・まぁ、それなら仕方ないよな

想いを決め、一撃。

「はぁっ!」

気合を込めた一閃は、ジュリオの剣で受け止められて

カキン!

絶妙な力加減で撃たれた一撃は、彼の手から剣を弾き飛ばし、同時に。

カラン。カランカラン

和磨も、刀を弾き飛ばさせた。

周囲が一瞬息を呑み、音が消えた瞬間。誰も声を出していないその時に、和磨が。

「いや、さすがです。かなりの腕ですな、ジュリオ殿。自分の負けでしょう」

若干笑顔で、握手を求めて手を差し出した。

「いえ、そちらこそ。私も剣が無い。これでは戦えませんよ。引き分けです」

ジュリオも笑顔で応じた。その瞬間、周囲からは拍手が。
互いの健闘を称えあう暖かい声援と拍手。ジュリオと和磨。二人してそんなギャラリーに軽く手を振って答える。

「さすがですな。姫殿下。素晴らしい騎士をお持ちだ」

「いいえ、教皇聖下。彼も、実に良い腕かと。神官にしておくには惜しいですわ。いえ、決してけなしている訳では無く」

「ははは。いやはや、お褒めに預かり光栄ですな。ジュリオもそのお言葉を聞けば喜ぶでしょう」

和やかに談笑。
結局、その日もこれでお開きになった。
豪華な夕食を食べ、再び昨日の様に風呂へ。そこでまた和磨はジュリオと出くわしたが、相変わらず笑顔のジュリオと無表情の和磨。本来なら、ジュリオのように接してくる相手には和磨も笑顔で対応するのだろうが、ここではそれは無し。
次の日も、いくつかの場所を案内され、最後には教皇聖下と共に子供達に字を教えたイザベラと和磨。

そんな感じで数日間滞在して、教皇自らの見送りで、彼らは聖都ロマリアを後にした。

帰りの竜籠の中。
周囲にはロマリア聖堂騎士が。彼らの先頭には、やはり月目の神官ジュリオ。
彼らは一糸乱れぬ隊列を組み、姫君達の乗る竜籠を囲み、飛行を続ける。

「「・・・・・・・・・・・・」」

籠の中は無言。
和磨は腕を組んで目を瞑り、口を閉じる。
同じく、イザベラもすまし顔で目を閉じ、口は開かず。
ただ静寂だけが流れ、やがて。
ガリアとロマリアの国境が見えてきた。
ガリア側には、迎えの竜騎士隊が見える。

「姫殿下。それでは、我々はこれで失礼します」

「ご苦労様でした。聖下には是非とも、よろしくお伝えくださいますよう」

隣に並び、最後に挨拶をしてから。ジュリオと、それに率いられた聖堂騎士団は次々と引き返して行く。
変わって、周囲をガリアの竜騎士隊が囲んだ所で


「「はあああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~」」


主従揃って、長く長く、大きく息を吐き出した。

「いやぁ・・・本当に、疲れた・・・」

先ほどまでの凛とした姿勢を崩し、グッタリと椅子にもたれ掛かる姫君。
和磨も、マントを適当に脱ぎ捨て、同じようにグッタリと。
ようやく周囲を味方に囲まれたので二人とも完全に力が抜けたらしい。

「あ~・・・疲れた・・・もう二度と行きたくない」

「罰当たりだよ~。あそこは毎年、巡礼に行く人も多いのにさ~」

「知るかよ・・・俺は行かないんだし」

ぐだぐだと。どうでも良い会話を続けてる。
やはり、あぁ言う堅苦しい所は彼の。彼らの性に合わないらしい。
ノンビリと、気を抜きながらどうでも良い会話を少しした所で

「さて、と。カズマ。どうだった?」

いよいよ、核心について話そうと。だが

「ん・・・ん?ガルム?」

突然。先ほどまで床に寝そべっていたガルムが起き、鼻を二、三度クンクンと。そしていきなり。ガバっと窓に飛びついたかと思えば

ピーピィー!

パタパタパタ。窓に居た小鳥は間一髪。捕食者の牙から逃れ、空へ

「・・・お前、何やってんのさ?」

『む。逃したか・・・いや何。少々小腹が空いたのでな。つまみをと、思ったまでだ』

ペロリと、口の周りを舌で舐める己の相棒を、どこか呆れたように見ながら

「お前・・・つか、おい。口の周りに血が付いてるけど、まさか他にも何か食べたのか?」

『うむ。そこの座席の下に小動物が居たのでな。しかし、アレはダメだ。骨と皮だけでまったく美味くない。やはり肉が無ければ』

もう一度ペロリと舌なめずりをしながら、ブツブツと文句を。そのまま、先ほどと同じように床に寝そべって目を閉じた。

「・・・はぁ・・・変な物食って腹壊してもしらねーぞ・・・ったく。んで、何の話してたっけ?」

「ロマリアの事さ。そうさね。とりあえずあの神官。ジュリオだっけ?あいつの腕は実際、どうだったのさ?」

「ん~・・・悪くねーんじゃねーの?」

何か、適当な。

「いや、そうじゃなくて。実際お前とどっちが強い?」

「俺」

今度は即答した。しかしまぁ随分と自信がある答えだ。

「さっきも言った。アイツの腕は悪くない。才能ってのも、あるんじゃねぇかな?でも、経験が足りない。俺に言われるくらいだから、全くと言っていい程足りてないんじゃねーかな。それになにより」

剣の腕は、剣のみで言えば良い勝負になっただろうが、和磨は今回。魔法を一切使っていない。本来の彼は、魔法を。フライ《重量制御》を使用しつつ、他の魔法と組み合わせたトリッキーな動きで敵を翻弄して倒すというスタイルで、今回は正面から斬りあっただけだ。相手も本気では無かった。が、それを差し引いて計算しても自分が上だと、そう答えて

「気迫がまるで足りない。アレじゃダメ。先生は言うまでも無いが、グリコにも劣る。あんなんじゃ、実戦慣れしてる連中には勝てないんじゃないかな」

そう締めくくった。そんな答えにふんふんと。うなずきながら、今回のロマリア行きについて色々と考えて見る。
行って、教皇と話して、地下墓地を見て、ロマリア見物をして、和磨とジュリオが戦って、子供達に字を教えた。それだけ。

「結局、教皇聖下は何がしたかったんだろうね?」

「さー?どーでもいーけど、もう俺を巻き込まないで欲しいー」

心底そう思っていそうな答えに苦笑しながら、ふと思った

「ねぇ、あの地下墓地にあった兵器。カズマの世界の武器だよね?」

「あぁ。間違いない。しっかしまぁ、ティーガーまであるとはねぇ・・・アレ、多分世界一有名な戦車だよ。強さもまぁ、当時は最強って言われてたらしいし」

「もしかしてさ、教皇聖下。アレを使ってどこかと戦争を・・・」

「それは無いんじゃね?」

「どうしてそう思うんだい?」

「だって、アレだけの量じゃ戦争どころじゃないっしょ。もっと数があるなら、実際表に出したのがアレだけで、裏では量産されてんのかもしれないけどさ。どっちにしろ、あの程度じゃ無理だと思う。いや、無理っつか、ウチに来るのは無理ね。もっと他の小国ならアレでも十分に行けそうだけど」

「どういう事だい?あのセンシャっての。最強って言われてた代物なんだろ?そっちでソレなら、こっちだと対抗できないんじゃない?」

「一定数揃って、一定の錬度を保って、部隊として行動して初めて、戦争で役に立つんだよ。と、まぁコレはジルの受け売りだけどね。アレ一台だったら簡単だよ。空から攻めれば良い。戦列艦から砲撃でも良し。装甲は抜けないだろうけど、衝撃は伝わる。穴掘って足止めしても良い。火のメイジで囲んで蒸し焼きってのもアリだな。いくら硬くても所詮鉄の箱だ。中に居る人間はこんがりさ」

それに、兵器。武器という物を使いこなすには、それなりの練習が必要だ。また、練習するにも、今までの経験で得られた蓄積が必要で。全く何の知識も無い状態から、それらを得るには膨大な時間と物資。人手が必要だろう。そんな事、とてもではないが秘密裏には出来ない。よしんば、どうにかある程度使えるようになって、あの場にあった物だけ実戦に投入できたとして。たったアレだけの数ではガリア王国軍は打倒できないだろう。他の弱小国なら話は別だが。

「まぁ、どっちにしろ。こっちに来なけりゃどうでも良いんだけどね」

「それもそうだね。ウチ《ガリア》に来なければ、好きなようにやれば良いさ」

なんともまぁ自分勝手な言い草だが、彼らの偽りない本音であった。









「聖下。ただいま戻りました」

「ご苦労様です。ジュリオ。どうでしたか?」

ロマリア宗教庁。大聖堂の奥。教皇の執務室で、金髪月目の神官と、歳若い教皇が。

「無事国境を越えられました」

「そうですか。それは何より。それで、結果は?」

「はい。その、実は・・・籠の中に潜ませておいた動物は、その・・・狼に」

「あぁ、銀狼殿の使い魔ですか・・・それは、まぁ。仕方の無い事ですね。自然の摂理には誰も逆らう事ができないのですから」

「申し訳ありません。しかし、件の地下墓地と、風呂場で確認した限りでは、彼の体にはルーンらしき物はありませんでした」

左手には何も無し。一応戦ってみたが、やはり違うだろう。右手には、在るはずは無い。顔も、無し。何か魔法薬でも使って隠している事も考えて、わざわざ地下墓地でディテクトマジックまで使って調べさせたが、結果はシロ。風呂場でも、胸には傷があるだけで何もなかった。つまり。

「そうですか。ではやはり、ガリアの虚無は・・・」

「えぇ。現国王。ジョセフ一世の可能性が非常に高いかと。これで残るは」

「アルビオンに一人。そして、トリステインには・・・・」

「はい。まもなくフェオの月。魔法学院では、使い魔召喚の義が行われます。そこで」

「確か、ヴァリエール公の三女でしたか。名前は」

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢です。おそらく、間違いないかと」

「えぇ。残りはアルビオン。あと一人。それで、四人の使い手が揃う訳ですね」

「はい。聖下」

二人は共に、窓へと歩み寄り、そこから空を見上げる

「何としても、四の四を揃えなければなりません。聖地を取り戻す為に」

「聖下のお心のままに」



まもなく、最後の。最初のピースが揃う。それからが始まり。

彼と彼女。彼らと彼女ら。
多くの人に待ち受ける未来とは、如何に・・・。











あとがき
三部。ロマリアへ行こう。でした。ロマリア組を書くのは、閣下と姉御を書くのよりも遥かに難しいと感じた今日この頃。何かあの二人、書いてても何したいのか、させたいのか分からなくなってくるのです・・・Orz


以前も感想で少し書かせてもらい、今回プロローグにも追加しましたが。
本SSは、原作「ゼロの使い魔」1~18巻と外伝「タバサの冒険1~3巻。烈風の騎士姫1~2巻。以上を私が読んで、その時に決めた設定で書いております。
今後新刊が出ても、細かい部分。魔法の説明やら、国の説明やらそういった部分以外の大筋は、変更ありません。

修正しながら追加です。


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