SS投稿掲示板




No.19454の一覧
[0] ゼロの使い魔 蒼の姫君 土の国物語 (オリ主[タマネギ](2010/07/26 18:23)
[1] 第一話 二人の出会い[タマネギ](2010/07/07 21:51)
[2] 第二話 魔法・・・それは、人類に残された最後のアルカディア。人はそれを求め、数多の時を(ry[タマネギ](2010/07/07 22:02)
[3] 第三話   ハルケギニア[タマネギ](2010/07/07 22:17)
[4] 第四話   就職?[タマネギ](2010/07/07 22:26)
[5] 第五話   姫君の苦悩[タマネギ](2010/07/07 23:19)
[6] 第六話   魔法と印[タマネギ](2010/07/07 23:52)
[7] 第七話   騎士見習い[タマネギ](2010/07/08 00:08)
[8] 第八話   決闘と報酬[タマネイ](2010/07/08 00:36)
[9] 第九話   王の命令[タマネギ](2010/07/08 01:07)
[10] 第十話   リュティスに吹く雪風[タマネギ](2010/07/08 01:18)
[11] 第十一話   姫君の意思[タマネギ](2010/07/08 01:34)
[12] 第十二話   王の裁き[タマネギ](2010/07/08 22:37)
[13] 第十三話  名も無き丘で[タマネギ](2010/07/08 23:10)
[14] 第二部 第一話   使い魔  (一部修正[タマネギ](2010/07/27 15:53)
[15] 第二部 第二話   日常   (旧タイトル 新撰組 大幅に修正しました[タマネギ](2010/07/26 18:58)
[16] 外伝  異世界の事変[タマネギ](2010/07/10 12:48)
[17] 第二部 第三話   王。再び[タマネギ](2010/07/21 21:30)
[18] 第二部 第四話   魔法学院[タマネギ](2010/07/21 20:52)
[19] 第二部 第五話   休養[タマネギ](2010/07/21 20:52)
[20] 第二部 第六話   戦場[タマネギ](2010/07/24 08:50)
[21] 第三部 第一話  光の国[タマネギ](2010/07/26 20:06)
[22] 第三部 第二話  北花壇騎士[タマネギ](2010/08/01 23:10)
[23] 第三部 第三話  吸血鬼[タマネギ](2010/08/02 01:18)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[19454] 第二部 第六話   戦場
Name: タマネギ◆52fbf740 ID:60f18e82 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/24 08:50






第二部 第六話  戦場












パコーン。カコーン。

木と木が奏でる音色が響く。

パーン。コーン。

木製の羽子板と呼ばれるラケットで、同じく木製の羽根と呼ばれる数枚の鳥の羽が付いた木球を打ち合う。
まぁ、つまり羽根突きである。最近はあまり見なくなったが、正月の風物詩である伝統的な遊び。

「うわ、とと!」

「ふははは!もらったぞ!エリザ!」

スパコーン!

イザベラが上手く返せなかった羽根を、ジャンヌは叩き付ける様にスマッシュ!
見事に決まった。
・・・本来スマッシュ禁止とか、打ち損じたら顔に墨を塗るとか、色々細かいルールもあるのだが、まぁ。本人達が楽しんでいるので良いか。

「くっ・・・ジャンヌ!もう一度だ!」

「ふん、良いだろう。何度でも来い!」

すぐに次の試合が始まる。
不思議な事に。この世界ではテニスだの、ゴルフだのなんだの、そういった体を使う娯楽があまり発達していない。なので、年が明けて現在ヤラの月。日本で言えば正月なので、和磨が羽根突きでもしたら?と、提案した結果がコレだった。

「いやぁ、楽しんでるみたいで結構結構」

「だねぇ、しかし、コレはまぁ、うん。良いねぇ。こう、華やかでさ」

「だろぉ?」

「うん。君の居た国というのは、実に良い文化があるみたいだねぇ」

男二人。和磨とジルは、最近完成したばかりのカズマ邸の縁側で、東方産のお茶を啜りながら、現在庭で行われている戦いを目を細めながら眺めている。

「でも、良くあんな衣装見つけたよね。東方のなんでしょ?」

「あぁ。東方の・・・何だけど、見つけたっつか、話したら作ってくれたというか、な」

メイドinクリスティナ。匠の技で仕上げたのは、二着の振袖。
イザベラの方は、赤い生地に白い花模様。
ジャンヌの方は、紺色の生地に赤で花模様。
無論、サイズもピッタリ。着付けも侍従長様の手でバッチリ。
パーフェクトでござい。

パーン。カコーン。

「ジャンヌ!後ろ!!」

「え?」

「隙ありいいぃぃ!!」

スコーン!

「ああ!?」

二人がそれぞれ腕を振る度、長い袖が綺麗に揺れる。美しい模様が宙を舞う。
ジルの言う通り、実に華やかな光景。目の保養。目の保養。

「でもさ、女の子二人は良いけど、カズマの格好って地味だよね。ドウギだっけ?」

「ほっとけ。別に着飾る趣味は無いからコレで良いさ。ちょっと寒いけど着慣れてるし」

「ふ~ん。というかさ、ボクにだけ何も無しって、何気にヒドくない?」

「野郎に着物着せたってつまらんぞ?」

「・・・・・・そこは同意できるね。確かに、ボクが着てもねぇ・・・」

「だろぉ・・・」

二人して麦団子―――モチっとさせたパンのような物。カズマが料理長のセガール氏に頼み作ってもらった―――をパクつきながら

「えぇい!汚いぞ!」

「あっははははは!勝てばよかろう!なのだ!」

「このっ!もう一回だ!」

「こ~い!」

パコーン。カコーン。

「うん。華やかで実に良いね」

「それ、さっきも言ったぞ?」

「大切だからね、何度でも言わないと」

本日はヤラの月、第二週三日目。ヘイムダルの週、エオーの曜日。
昨日まで始祖の降臨祭という年明けのお祭りで、つまり、年が明けてヤラの月になってから十日間ぶっ通しで、飲めや騒げやの宴が連日連夜。
第一王女であるイザベラと、その近衛騎士である和磨も―――――こちらはやや強引にひっぱっられた―――――当然参加。諸侯を招いた王宮での宴は、それはもう豪勢な食事が大量に振舞われ、美しい音色が鳴り響いていた。それはそれで大変結構な事なのだが

「餅が食いてぇ・・・」

とまぁ、そういった豪華な宴なんぞ参加した事の無い和磨は疲弊し、出される食事も彼の口というか、胃にも合わなかったようで。現在。降臨祭が終わり、遊びに来てたジルとジャンヌと共にノンビリと過ごしていた。

「来年は福笑いでもやるか。カルタ。百人一首も良いな」

「良く分からないけど、君の国には色々あるんだねぇ」

「あぁ。何より、それでもやっぱり米が・・・餅が食いてぇ・・・」

のんびりとした平和な時を過ごしながら、ボーっと空を見上げる。
平和だ。
庭に響く少女達の笑い声。
雲ひとつ無い青い空。
肌寒い風がまた、心地良い。





―――――カズマ。カズマ!おい!!―――――



「あ?ジル。何か言った?」

「え?何も言ってないけど?」


―――――カズマ!到着したようだぞ!いつまで寝ているんだ!!―――――


「ガルム?・・・あぁ、そうか・・・これ、夢か」

だんだんと、意識が現実へと








『おい!いい加減に』

「わりぃ。起きたよ。サンキュー」

欠伸しながら軽く伸び。寝転がっていた場所、ガルムの背中で身を起こす。
最初はただ、腕を枕に横になっていただけなのだが、動物の暖かい体温と、歩行により、一定のリズムで揺れる背中は、実に気持ちの良い場所。

いつの間にか、眠ってしまったようだ。

「そういや、初日の出に初詣でも行って無いなぁ」

『む、何の話しだ?』

「さっきまで見てた夢の話さ。ほら、この前リザとジャンヌが羽根突きしてた時の」

『あぁ、あの時か』

「お前は部屋の中で丸くなってるだけだったな」

『寒いのは嫌いだ。だが、あのフリソデという衣服は実に素晴らしい。眼福である』

そこはしっかり見ていたのか・・・というかお前、狼のくせに・・・

「まぁ、それはまた来年な。それより今は・・・」

『あぁ、全く。今更だが、同族同士で争うとはな。人間とは愚かな生き物だ』

ガッチャガッチャ。
ガシャガシャ。
ザッザッザ。
カッポカッポカッポ。
ヒヒーン。

「だよなぁ・・・正月くらい平和に過ごさせて欲しいもんだ」

二人の周囲には人。人。人。
皆鎧を着込み、武器を手に手に。あるいは、馬に乗り、派手な格好をしている者も。その数は軽く千を超える。

「ったく・・・反乱なんて。何でだよ・・・」






遡る事四日。
年が明けて、彼らがカズマ邸でノンビリと過ごしていた日の翌日。
北方より、急報が告げられた。

即ち『北部、及び東部地方の諸侯、謀反!!』

その知らせに、ガリア宮廷は一時騒然となった。
その後の知らせにより、反乱を起こしたのは、北はゲルマニアと接するランス地方。東はかの有名なアーブラハン城を含む、サハラと接するグルノーブル地方。
面積だけならば、王国の実に三分の一にも達する地域が反旗を翻した事になる。
ガリア王国全土の徴兵数はおおよそ十二万。今回の反乱勢力の兵数は、計算すると総勢三万。後先考えず限界まで徴兵すればもう一、二万ほどかき集められる。
その知らせを受け、諸侯は急遽王宮へ。降臨祭が終わり、皆一度領地へ戻った。もしくは戻ろうとしていた所にこの知らせである。
先程も述べた通り一時期、宮廷は騒然となった。
何せ最大で五万にも上る反乱勢力だ。
「最近アルビオンで王党派と対しているレコン・キスタなる者達が我が国にも?」
だが、少しして詳細な報告が届くと、集まった貴族達は揃って安堵の吐息を吐いた。

『反乱勢力は、旧オルレアン派』

そしてもう一つ。

『北部、及び東部地方で、反乱に加わらず軍を集め、領地を防衛している貴族も多数在り』

なんだ、その程度か。

ガリア王国は、王家は建国から六千年続く由緒ある家。王家が誇る長い歴史の中、反乱など数え切れない程経験している。そしてその全てを打ち倒してきた故に、今の王家が、王国が存在する。しかも、北部、東部の全てが叛いた訳では無い。王家に忠義を誓う者達が複数居て、それぞれに兵を集め、領地を防衛している。ならば、反乱勢力もそれに対抗して一定の数をそれらの周囲に置かなければならない。すると必然的に正面戦力は減少する。何せ、領地に篭る諸侯を一つ一つ潰して行ってはキリがないのだから。かといって備えも無しに放置すれば背後を突かれる。
彼らはレコン・キスタなる組織ではなく、旧オルレアン派。つまり、彼らの目的は現王派。ジョセフ一世を討ち倒し、オルレアン公の遺児であるシャルロット姫殿下を王位に就ける。それが目的なのだから、ならば。彼らの取るべき戦略は一つ。現王派が残った領土から大兵力を集める前に、一気に王都リュティスを。ヴェルサルテイル宮を落とし、王の首を取る。時間との戦い。

その程度なら問題ない。

次々と情報が集まって来る中、宮廷に集まった貴族達の論点はすでに、戦の後の事について。そちらに移っていた。

『敵軍、王都リュティスに向け進軍。その数おおよそ五千』

『現在位置から計算するに、到着は一週間以内が確実』

そう。その程度だ。

こちらがすぐに集められる兵力は四千程。敵よりも若干少ないが、なにもこの数で打ち倒す必要は無い。足止めさえすれば、後は大兵力を集めて押しつぶすだけだ。
だから、問題はその後。
今回の反乱に加わった貴族達は、何故この時期に?何を想って?背後で糸を引いている存在。黒幕が居るのでは?
そんな事は彼らには関係ない。後で考えれば良い事だ。
それよりも、今の問題は反乱軍を倒し、反乱に加わった貴族達の領地、財産を全て没収した後。
それらをどう配分するか。
論点はそこであった。
いくらかは王領として王家に返還されるとして、残った領地は自分が。いや、自分こそ。そこまで直球での会話はしていないが、遠まわしに、互いの腹を探りあい、根回しを、競争相手を引き摺り下ろす。何せ、せっかく巡ってきたチャンスなのだ。この機会に自分の家の力を、派閥の力を大きくしようと。反乱を起こした旧オルレアン派の事情、そこに住む領民。背景。それら一切関係無い。全て自分達の都合で。

年明け早々も関係なく。彼ら貴族達の宮廷陰謀劇は続く。





プチ・トロワにあるイザベラの執務室。
そこに呼ばれた和磨は、そんな話を聞いて

「勝手にしてくれ」

こちらもかなり不謹慎だが、人々の事情や背景一切関係なく、吐き捨てた。

正月くらいはゆっくりさせろ!と。

油断していると足下をすくわれるかもしれないが、それでも良いさ。俺のやる事は決まってる。単騎で突っ込み敵将を討つ?まさか、冗談じゃない。そういうのは誰か別の、英雄様がやってくれ。俺はただ、危なくなったらリザを連れて逃げるだけ。俺とガルムなら、例え王国軍が敗れても、リュティスが包囲される前に彼女を連れて逃げ出せる。国王?知るかよ。むしろこの機会に是非ともお亡くなりになって欲しい。自分達は逃げて、後はどこかで兵力を再結集させて、リザを先頭にとって返して、反乱軍を討つだけだ。空いた王座に彼女が座れば、後はやりたい放題。好きにできるし丁度良いだろ?

そう思っていたのだが

「そりゃ、私もそう思うんだけどね・・・ほら、親愛なる我等が国王陛下からの命令書だ」

彼女としてもせっかくの好機だと、そう思っていて、実は密かに反乱勢力を支援してやろうかしら?彼らでは現政権を倒せないだろうけど、揺さぶり程度ならできるかも。どう利用しようか?などと色々腹黒い構想を練っていたところにこの命令。どこか諦めたように、やっぱりか、そう都合良く行かないなぁ、そんな感じでなげやりに。和磨に命令書を手渡す。

渡された書類を。その一文字一文字をしっかりと読み、最後まで読んでからもう一度最初から。二、三度同じことを繰り返して、内容に間違いが無い事を確認した和磨は


「はあああぁぁぁ!?」


怒り、困惑、その他色々な感情が混ざった叫びが、執務室に木霊した。


はっはっはっはっはっはっはっは!


どこかから蒼い髭の高笑いが聞えた気がする








「はぁ・・・・・・」

王狼の背中にあぐらを掻いて座りながら、大きく息を吐き出す。

『我の背でそのような情け無い声を出すな』

「いやぁ、だってさぁ・・・」

『それよりも、そら。到着したのでは無いのか?先程から軍の動きが止まっているぞ』

「・・・みたいだな。しゃーねぇ。とりあえず司令官閣下にご挨拶しとかないと」

言いながら、背中から飛び降りて司令部。軍勢の中央に設置された大きな天幕へと足を向ける。

「あれ、カズマ?何で君がここに?」

途中で、彼の良く知る顔。学友。
紺色の髪。ジル・ド・レーエと、彼の隣に金髪の女傑。ジャンヌ・ダルクが

「あぁ、そっか。そういや、お前らが居ても不自然じゃないよなぁ・・・初陣ってヤツか?」

「ん?どういう意味だ?」

不思議そうに首をかしげるジャンヌに、何でもないと返事をしてから、天幕へ

「とりあえず、司令官殿に。ジルの親父さんにご挨拶してくるよ。後でな」





ガリア王国軍先遣隊四千は現在。トリステインとの国境にある、ラグドリアン湖からガリアを横断するように流れるライン川を挟み、ヴィシー平原という、ライン川以外、周囲に森や岩地などの遮蔽物の無いだだっ広い平原で、反乱軍五千と対峙している。
後方では既に三万以上の本隊が編成中であり、先遣隊の役目は本隊が到着するまでの足止めである。
そして、その先遣隊の司令官が現ド・レーエ家頭首。ド・レーエ伯爵その人。
つまり、言うまでもないがジルの父親であった。



「伯爵閣下。お初にお目にかかります。王国近衛騎士、カズマ・シュヴァリエ・ド・ダテと申します」

騎士の礼で挨拶する和磨を見て、息子と同じような、しかし、どこか貫禄のある笑顔のままド・レーエ伯はうなずき

「わざわざご苦労ですな、騎士殿。貴方のお噂は、息子より聞き及んでおりますよ」

「はっ。恐縮です」

「まぁ、そう硬くならずに。それで、騎士殿。近衛である貴殿が私に何用ですかな?」

一瞬、彼の笑みが消えた

「はっ。王政府。国王陛下よりの命令により、戦闘に参加させて頂きますので、ご挨拶にと」

「ほぉ・・・国王陛下直々に、ですかな?」

「はい。先遣隊と”共に”反乱軍を討て、と」

「”共に”、です、か」

「えぇ。その通りです」

共に。
「指揮下に入れ」では無く「協力して」と、そういう意味。これは非常に厄介で、本来。ガリア王国近衛騎士への命令権は王族しか持たない。なので、王族の居ない戦場に出す場合は「~の指示に従え」や「~の指揮下で」と、指揮権を委譲する指示を出すのが通例だ。

伯爵はすこしの間何かを考えてから、再び。笑顔で

「左様ですか。では、騎士殿の天幕を用意させましょう」

「ありがとうございます」

「そうですな、それと、息子。ジルを世話役としてお付け致しましょう。騎士殿も、見知った顔の方が気楽で良いでしょうからな」

「ご好意、感謝いたします。閣下」

それでは、失礼します。
もう一度礼をして司令部を後に。


外に出て、はぁ。もう何度目かな、また溜息。


「やぁ、どうだった?父上は」

「よぉ。何でも、お前を俺の世話役としてつけて下さるそうだ。ありがたい事さ」

「ふ~ん。ま、要するに余計な事をしないかの監視って事かね。君も色々と大変だねぇ」

「直球だなぁ、おい」

「???二人とも、一体何の話しをしているんだ?」

揃って「何でもない」と言いながらとりあえず。三人は用意された天幕へと移動した。



「それで?」

用意された天幕に移り、腰を下ろした所で真っ先にジルが

「どうして君がここに居るのさ?一応、ある程度君達の事は理解してるつもりだけどさ、それでも、カズマ単独でってのは不自然じゃない?」

「ん~・・・そうだなぁ・・・」

腕を組みながら。どこまで話していいのやら

「ちなみに、ボクとジャンヌは君もさっき言ったけど、初陣だね。盗賊退治とかなら経験あるけど、戦争は初めてさ」

聞いてないが、彼から話す事で少しでも話しやすくしようと、そんな気遣いだろう。

「兄二人も参加してるけど、上の兄は父上の片腕として。下の兄はド・レーエ家諸侯軍の参謀見習いとして参加。ボクは。ボク達はまぁ、オマケ程度かな」

「おいジル!そんな事でどうする!!せっかくの戦場だぞ!ここで武功と立てれば騎士《シュヴァリエ》の称号も夢じゃないんだぞ!?」

「いや、まぁそうだけど・・・ってカズマ?どうしたのさ、急にうなだれて」

ジャンヌの「武功」の発言とともに、ガックリと肩を落とした和磨。

「もういいや。聞いてくれよジル~」

何かもう、諦めてグチグチと。情けなく語る。

国王陛下からの命令書にはこう書いてあった。

『北花壇警護騎士三十二号に命ずる。王国近衛騎士として、余からの命令という名目で王国軍先遣隊と共に反乱軍を討ち、武功を立てよ』

「武功を立てよ」。具体的に「~を斬れ」だの「最低でも何人~しろ」だの「~の~と~して~しろ」だの、そういった指示では無く抽象的に「武功を立てろ」とだけ。

「これでどうしろってんだよおおおぉぉぉ!!」

北花壇騎士の件は隠したが、残りはもう、そのままぶっちゃけて。
その場で立ち上がり、ブチキレた。

「あんのくs・・・国王陛下閣下様はさぁ!俺に何させたいの!?戦争に行けってんならまだ良いさ!!良くないけど置いといて、良いんだよ!!でもせめて、指示を出すならもっと具体的なのにしてくれやがってくださいよ!!もうどうしろと!?戦争素人の俺に、初陣の俺に武功って何すりゃ良いの!?だいたい先遣隊の任務って防衛戦だろ!?なら向こうから攻めてこなけりゃそもそも戦闘にもならないかもしれないじゃん!!その場合って命令違反になる訳!?あんまりおふざけになりやがらないでくださいませんかねぇ!?」

一応、周囲の耳もあるのだろうからあまり失礼にならないように・・・いや、もう滅茶苦茶だが最後の理性で。ともかく。

少し泣きが入っているが、和磨魂の叫びである。

「あ、あの・・・カズマ?」

「なぁ、ジル。ジル~・・・どう思うよ?あのクs・・・・・・・・・ジョセフ大明神大王大将の崇高なお考えは俺如き下賤の輩には一ミリたりとも理解できないんだけどさぁ・・・」

ジルの肩をしっかりと掴み、ガクガクと揺さぶりながら。

いつか愚痴を言うのも良いかと、以前そんな事を思っていたのだが、そのいつかが今になるとは。和磨自身も色々と限界なのかもしれない。

「そりゃさぁ、今まで色々言われてきたさ。大怪我するのが日常茶飯事。それならもう良いんだよ。諦めたから。だけどさ、いつもはもっと、こう、具体的な指示がある訳よ。わかる?だってそうでしょ?こんな抽象的な指令で、何をどうすれば良いかなんて、人間に理解できると思う奴がいたら、それはもうアレだよね、エイリアン。プレデターでも良いや。どっかの地下遺跡で戦ってろよ。人類巻き込むなって、マジで。俺は人間だからさ、無理だよ。なぁ、ジル。そうだろ?なぁ!」

「う、うん。そうだね、そうだから、分かったから、手を放して!」

ぜーぜーはーはー。

グダグダと何か色々ぶちまける和磨に、所々に語られるバイオレンスな内容と意味不明の言葉、鬼気迫る表情もあって。

ジルとジャンヌはやや、いや。ドン引き。

そのまま小一時間程。
延々と和磨の愚痴を聞かされた二人は、正確にはジル一人。ジャンヌは危険を察知してすぐに逃げ出したので。だが、ジルは肩をつかまれていたので逃げられず。

しばらくして、いろいろぶちまけてスッキリした和磨が、落ち着きを取り戻した頃。
そろそろ終わったかな~と、戻ってきたジャンヌがそっと中を覗きながら

「お~い・・・ジル・・・その、何だ。ダイジョウブか?」

「・・・・・・・・・うらぎりもの」

グッタリとしながら、恨みがましい視線。「うっ」っと、仰け反った。

「ゴッホン!えぇい、とにかくだ!アレだろ!?何かすれば良いんだろ!!する前から諦めるんじゃない!」

「あぁ・・・・・・そうだなぁ。そうなんだよなぁ。そうなんだけどさぁ・・・・・・」

どんどん和磨のテンションが下がる。
これはヤバイ!また・・・

「か、カズマ!!ダイジョウブ。ボク達も、その、ホラ!出来るだけ力になるから、ね!ジャンヌ!?」

「あ、あぁ!そう。そうだとも!良く分からないが、友の危機だ!うん。力を貸すぞ!」

「おまえら・・・いいやつらだよなぁ・・・」

しくしくしく。

まくし立てるように騒いだかと思えば、静かに涙する。
初めて戦争に参加する緊張やら不安やら、理不尽な命令に対する怒りやら、その他色々な物が溜まりに溜まった結果だろうか・・・。

二人して、そんな和磨をどうにかなだめるのにまたしばらく時間を要し。





「あ~・・・その、何だ。ゴメン。色々と」

「いやぁ、あはははは。本っっっ当に、君も色々大変なんだねぇ」

「心配するな。私達がついてるぞ、うん」

二人の顔が若干引きつっているのは、まぁご愛嬌。

「それで、その、さぁ・・・今の事は・・・」

「うん、大丈夫。彼女には内緒にしておくから」

「あぁ。あんな事、とてもじゃ無いがエリザには言えないだろうからな。安心しろ。私は口が堅いんだ!」

友人達の心遣いに、もう一度ありがとう。心からのお礼を言ってから。
さて、いよいよこれからどうするか。

「結局さ、問題なのが「武功」ってのがどの程度の物なのかって事だよね」

「あぁ。しかも「先遣隊と共に」って事は、本隊の到着前にって事だろ?だけど」

「ジルの父上は、他の貴族達もだが、本隊の到着までは防御に徹するという事になっているのだろう?なら、こちらから仕掛ける事は無い。とは言え、向こうから攻めてこなければ・・・」

「うん、ジャンヌの言う通り。戦闘が発生しない限り、武功も何も無いよね。ただの「功績」で良いのなら、補給だの陣地作成だの偵察だの。いくらでもあるんだけど・・・」

「でもさ、向こうも時間をかけたく無い訳だろ?なら、攻めて来るんじゃないかな?」

「う~ん・・・どうなんだろう・・・正直さぁ、今回の彼ら、旧オルレアン派の人たちの行動って理解できないんだよねぇ」

「ん?どういう事だ?私には良くわからんが・・・」

ジャンヌ、そして和磨も。正直相手の行動理由なんぞ気にしていなかったので、良く分からないと首を傾げる。
そんな二人に、ゴホンと咳払いをしてから

「いいかい?今回の反乱には不審な点が多すぎるんだ。一つ、まず時期。何で今なのかって事。特に変わった事も無い、いつも通りの年明けなのにさ。次に規模。王国の三分の一だよ?全部じゃないとは言え、かなりの規模だ。そして最後に彼らの能力。そんな大規模な反乱計画が全く他所に漏れて居なかった。それなのに、いざ実行してからのこの体たらく。そこまで隠し通したなら、もっと上手くやるんじゃないかな?降臨祭の時期にやるにしても、例えば。祭りに合わせて上手く誤魔化して、密かにリュティス付近に軍を進めておくとか、とにかく。こんな場所でむざむざ王国軍先遣隊と対峙するなんて。彼らは、こうなる前に一気にリュティスを落とす必要があったのにさ」

「確かに、言われて見ればおかしいな」

「う~ん・・・何でなんだ?」

悩む二人に、ジルは少し声を落として

「実はさ、一つ。ボクが考えた最悪のパターンがあるんだ」

いつもの笑みを消して。どうやら、かなり危険な考えらしい。和磨とジャンヌも黙り、三人は体を寄せヒソヒソと。
あくまでも、コレは仮定の話だからね。そう前置きしてから

「実は、彼らの目的はボク達。つまり、王都周辺に居る即応部隊を、リュティスから遠ざける事なんじゃないかって思ってさ」

「・・・どういう事だ?」

「うん。今、後方では大規模な本隊が集められているよね?」

三万以上。間違いなく、現在も続々と集結中だ。

「もし、そっちが彼ら反乱軍の”本隊”だったとしたら?」

言われ、気が付いた和磨はすぐに天幕から飛び出そうと

「まって!最後まで聞いてくれ。あくまでも、仮定だ。とにかく、落ち着いて!」

「お、おい。カズマ?どうしたんだ?ジル、どういう事だ?」

必死の形相で飛び出そうとした和磨を、ジルも全力で。アザが出来るほど強い力で彼の腕を掴み、押し留める。
一瞬、振り払おうとして、どうにか。何度か深呼吸して落ち着いた和磨が元の位置に座りなおしたので、手を放した

「いいかい?落ち着いて聞いてくれ。仮定でしか無い上に、コレはかなり可能性が低いんだ」

「あぁ・・・すまん。続けてくれ」

「うん。まず、この仮定が事実だったとして、それならもう、今宮廷に居る貴族達の殆どが反乱に加担している事になる。全員で無いにしろ、半数以上は確実に。何せ、本隊の兵力は各諸侯がそれぞれの領地から連れてきている。王国貴族の三分の二。その集合体が今の王国軍本隊なんだから。そしてその場合、もうボク達が何をしようと手遅れだ。ジョセフ王は討たれ、姫殿下は・・・多分、監禁されるだろうね。どっちにしろ、討伐軍として集められた兵力はそのまま反乱軍に。王都は三万以上の兵力で完全に包囲され、こうなったらもう手遅れ。他の諸侯にせよ、殆どが王城に居る以上抵抗できないし、おそらく、懐柔されて終わり。後は、王座に彼らの御旗であるシャルロット姫殿下が就けば終了。これが、ボクの考えた最悪のシナリオだ」

天幕の中、静寂が響く。
ゴクリ。誰かが唾を飲む音が

「その事を、司令には」

「うん。もちろん、父上にも話したよ」

「それで、ジルの父上は何と?」

「『確かに、それは最悪である。そしてそれ以上に、もしそうなら我等に打つ手段は無くなる。素直に投降するか、玉砕覚悟で王都に突入し、まだご存命であれば姫殿下を救出。外国に亡命。その二つくらいしか無い』だってさ。知らせようにも、誰が敵で誰が味方かもわからないしね。その場合は」

ギリッ

「決まってる。その時は助けるさ。どんな事をしても・・・必ず。絶対。絶対に。絶対にだ!!」

「落ち着いて。うん、その時はボクも付き合うから。どっちにしろ、今はそうじゃ無い事を祈って、そうじゃ無いと仮定しながら行動するしかないんだ。だから、ね?」

「か、カズマ?さっきからどうしたんだ?大丈夫か?」

ジャンヌは常らしからぬ和磨の、狂気ともとられかねない程の激情を見せられ、かなり動揺している。ジルは理由が分かるからこそ、何度も何度も、丁寧に。落ち着けと。

彼女には、相変わらずイザベラ。エリザベータの事は話していない。イザベラ自身から話すならともかく、ジルや和磨がこっそり打ち明けても、演技などできないであろう彼女は必ずボロを出す。だから、今はまだ内緒。

いつか、本当の事を話せると良いな

そう思う事でどうにか気を鎮め、頭に上った血を下げるように、天を仰ぎながら再び深呼吸を繰り返し、ゴメン。和磨が着席。頭を下げた

「ふ~・・・ホント、度々すまん」

「いいよ。少しはわかるつもりだって、言ったでしょ?しかしまぁ、彼女も愛されてるねぇ」

「そんなんじゃねーよ」

苦笑しながらのジルの言葉に、和磨はそっぽを向きながらぶっきらぼうに答える。
冗談めかして言った事で、場の空気が和らいだ。
それを感じて、良くわからないが、良し!と、ジャンヌが大きくうなずく。


仕切りなおし


「それじゃぁ、さっきの話は置いといて。こっちが父上達が考えている事。つまり『黒幕が居て、それはゲルマニア。アルビオン。レコン・キスタ。ロマリア。トリステイン。現段階で何処かはわからないけど、そこの都合で動かされている』。こっちの方が現実的だし、対処のしようもいくらでもあるからね」

「あぁ。そうだな。それで、だ。最初に戻るけど、結局。司令は本隊到着まで動くつもりは無い、と」

「うん。だから、もし武功を立てるなら敵が攻めてくれるのを祈るしか無い。流石に、こっちから何か仕掛けて動かすってのは無しだね。具体的な指示も出されていないのに、カズマの都合でそんな事したら「王の命令を拡大解釈し、私利私欲で軍を危険に晒した」なんて言われかねないし」

「だな。じゃぁ次だ。敵が攻めてきた。そう仮定してどう動くか、だけど・・・」

「ただ戦闘に参加すれば良いって訳じゃ無いだろうからねぇ・・・そうだなぁ・・・」

「む、むむ?・・・う~む・・・」

三人して腕を組み、頭を捻る。
三人寄らば文殊の知恵。はたして

「そうだ、所でカズマ」

「ん?」

「実際さ、君。どれくらい戦えるのかな?前やったジャンヌとの決闘は覚えてるけど、アレで全部じゃないんでしょ?」

「ん~・・・」

どれくらい。
聞かれても、答えるのが難しい。戦闘力を数値化しろと言われても無理で、なら他。
和磨の場合。今までの任務は基本、一対一か一体多数であった。和磨とガルム。二人合わせて1として。感覚共有のルーンの効果もあって、コンビネーションは抜群。なので人馬一体ならぬ、人狼一体の動きでの機動力を生かした戦い。
敵が多数の場合、多いときは百人規模の盗賊団を壊滅させろ、なんて物もあったが、これは何も正面からぶつかって潰した訳ではない。最初は気配を絶って、一人づつ、確実に。この段階で指揮官クラスを削れたら良し。無理でも、ある程度数を減らした所で。一撃離脱を繰り返して少しづつやるか、突撃して一気に敵の頭を潰すか。任務内容は殲滅ではなく壊滅なので、統制を失った盗賊たちが散り散りに逃げてくれれば良し。それで終了。

だが、今回は多数対多数の戦。合戦である。それも、両陣営合わせて一万近い数がぶつかる大規模な合戦。
当たり前だが、そんな物に参加した経験なんぞ無い。

「俺は基本、一撃離脱か一点突破が得意かな?ガルムと俺。速さにはそれなりに自身があるし。自分で言うのも何だけど、阿吽の呼吸でお互いの動きもバッチリだ。だから機動力を生かした戦いが得意かな。もしくは・・・群狼作戦ってのか?一匹の得物に、多数。ま、二人して襲い掛かって一気に潰す。そんなところかな?」

「ふむ。ボク達とは全く別だねぇ」

「お前らは?」

「彼女。ジャンヌはまぁ、君も戦った事があるから分かるだろうけど、あのまんまさ。大火力で敵を焼き尽くす。真正面からね」

「うむ!その通りだ!」

得意げに胸をはるジャンヌに苦笑しながらジルは?と

「ボクはね、ほら、コレ」

学生の使う短い杖では無く、身の丈程の大きな杖を手に、天幕の中に置かれていた椅子に向けると

ヒュンヒュンヒュン!

杖の先から三本。細い水の紐のような物が伸びて、何度か椅子の周囲を飛びまわった。かと思えば

「ひゅ~。すげぇな。一瞬でバラバラかよ」

「そ。水鞭《ウォーター・ウィップ》って魔法があってね。杖に水を絡ませて鞭にする。形状・長さ・本数を調節できて、対象を四方八方から攻撃できるって魔法なんだけど、コレはそれを少し改良した物。鞭の先が刃になってるんだ。ボクの二つ名。水刃。その由来さ」

ほ~、と関心しながら、バラバラになった椅子の破片をつまみ、切り口を眺める。

「今のところ最大12本。長さは最長20メイルって所かな。コレを使って中、遠距離で敵を倒すってのがボクのスタイル。ボク自身あんまり動かないで、固定砲台って感じにね」

なるほど。大火力により正面突撃。そして中、遠距離からのサポート。それがこいつらの

「そ。ボク達二人のやりかたさ」

「俺達とはまた別だなぁ」

「だね。そういえばさ、今更だけどあの大きな狼。王狼?それに名前もガルムって・・・」

「ま、ご想像の通りです」

「ん?どういう事だ?ガルムって確か、エリザの使い魔じゃぁ」

「違う違う。アレ、実は俺の使い魔。な?」

『呼んだか?』

ぬぅ、と。入り口から巨大な頭だけを突っ込んできた王狼は、変化の先住魔法を唱え、子犬に。

「これくらいなら別に良いだろ。ジャンヌ。他の奴には内緒な?」

「あ、あぁ。わかった、けど、何かよくわかんないけど凄いな」

ガルムを加え、三人と一匹。再び知恵を絞り出す。
あーでもない。こーでもない。これは?ダメだな。んじゃこうすれば?いやいや。
しばらく会議を続け、遂に。結論がでた。



その結論を持って和磨はジルとジャンヌを伴って再び。司令部のある天幕へと



「失礼します。閣下、少し宜しいでしょうか?」

「む、近衛殿。どうかされましたかな?」

中央に置かれた机を囲み、置かれた地図を睨んでいた貴族達のうち一人。ド・レーエ伯爵が笑顔で振り向き、問いかけてきた。

「はい。実は、閣下にお願いがあって参りました」

「ほう、何でしょうか?」

「閣下のご子息。ジル・ド・レーエ殿と、その従者であるジャンヌ・ダルク。彼らを一時、自分に預けて頂けないでしょうか?」

伯爵の目が鋭く光る。

「それは、何故かと。お聞きしても?」

「えぇ。実はですね――――」

和磨はジルに話したことをそのまま。北花壇騎士の部分を除いて、国王からの命令の内容を暴露した。別に「誰にも話すな」とは書かれて居ないので構うものかと。
一通り聞き終え、ふむ。伯爵は顎に手をやりながら

「騎士殿も、中々大変な任務のようですな」

「えぇ、まぁ。仕事ですので・・・それで、です。ここからが本題。正直、どうすれば良いか自分一人では決めかねていたので、友人を頼る事にしまして」

先程話し合った結果。その内容を、卓に置かれた地図を指しながら詳しく説明する。
周囲に居た幕僚である貴族達も、最初はどこか胡散臭そうにして聞いていたのだが、最後にはほぅ、と感嘆していた。
そして全てを聞き終えた伯爵が。

「なるほど。中々に良く出来た策ですな。失礼ながら、これは貴殿が考えた事では・・・」

「はい。自分では無く、殆どご子息が。彼とジャンヌと、自分で話し合って決めました」

ふむ。
伯爵はマジマジと。
若い近衛騎士を、改めて見据えた。

悪くない。若い故、経験が足りないだろうが、それでも。いや、だからこそか。他人の意見にもしっかりと耳を傾ける事が出来ている。腕の方は・・・近衛であるという事で十分だろう。それに、彼は国王陛下の近衛では無く、姫殿下の騎士であったハズだ。ガリアの次世代を担う殿下の。ならば、ここで恩を売っておくのも良いだろう。息子も友人という事らしいし、不自然ではあるまい。よし

「了解しました、騎士殿。二人をお預けします」

「ありがとうございます」

一度うなずいて、息子へと視線を向け

「ジル。良いな?」

「えぇ、勿論です」

「うむ。ジャンヌ。息子を頼むぞ」

「は!お任せください!」

それぞれに一言だけ。最後にもう一度和磨へと

「カズマ殿。二人を」

「全力を尽くします。何より、力を貸してくれる友人の為に」

伯爵はその答えに満足したようで、最後に微笑むと、彼らに背中を向け、再び地図へと視線を落とす。周囲の貴族達もそれに倣って。
三人は、彼らに一礼すると静かに。司令部を後にした。



少し歩いて、部隊から離れた所



「さて、とりあえず許可は貰った。って事で良いんだよな?」

「言質は取ってないけどね。失敗したら全部君の責任だよ?」

「うへ~、えげつねぇの」

「まぁ、どちらにせよ敵が攻めてきてくれなきゃ意味無いんだけどね」

「都合良く来てくれるかだなぁ」

「お前達!やる前からそんな弱気でどうするんだ!!」

それはそうだけどさぁ。ねぇ?

「えぇい!いつまでもウダウダと!ともかく、まずは使い魔の召喚からだろう?」

「うん、そうだね。戦力は多い方が良いし」

「移動するにもガルム一匹じゃなぁ。出来れば何かこう、役に立つ奴を頼むぞ」

「それは神のみぞ知るって事で。それじゃ、ジャンヌ。お先にどうぞ」

「うん!我が名はジャンヌ・ダルク!五つの力を司るペンタゴンよ!」

目を瞑りながらレイピアを構え、呪文を詠唱。

「我の運命に従い!我に相応しい使い魔を!」

一度振り上げ、勢い良く振り下ろす。

一瞬。辺りが光に包まれ


ヒヒ~ン。ブルルル


一頭の馬が

「えっと・・・ギャロップ?」

「何ソレ?コレは炎馬《えんば》だよ」

大きさは普通の馬と大差ない。少し大きい程度。純白の毛色。だが、何よりも特徴的なのが燃えるような。いや、実際燃えている炎の鬣。鬣だけでなく、それぞれ足下からも炎が。

「結構珍しい種類の幻獣だよ。確か、体から噴出している炎の温度を任意で調節できる。だったかな?だから気に入らない乗り手が背中に乗ると、容赦なく燃やすんだって」

「な、なかなかに過激な馬だな」

「うん・・・ジャンヌ、大丈夫かな?」

男二人の心配を他所に、召喚したジャンヌはというと。

「うわ~・・・!」

オモチャを買ってもらった子供の様に。目をキラキラ輝かせながら、何の躊躇いも無く炎馬に歩み寄り

「うん、決めた!炎。エン。お前の名前は炎《エン》だ!それでいいか?」

じーっと。
少しの間、炎馬は品定めをするかのようにジャンヌの目を見て

ブルルル

嘶きながらコクリ。うなずいた

「おぉ、お前、賢いな!言葉が分かるのか!うん、よろしくな!」

そのまま手早く。契約の呪文。そして口付け。

「見ろ!どうだ!こいつ、すごいぞ!うん。最高の使い魔だ!なぁ、お前達もそう思うだろ!?」

さっそく背にまたがりはしゃぐ少女に、そうだな、そうだねと。和やかに笑いながら返事をして二人は、いよいよ。次はジルの番。

「さて、それじゃぁ。我が名はジル・ド・レーエ。五つの力。司るペンタゴンよ」

大きな杖を振り上げ、全く気負いもせずに振り下ろす。

「我の運命により、我に使い魔を!」

再び。光が。


キュ~


「・・・ミロカロス?ハクリューか?」

「だから、さっきからソレは何さ?これは水竜だよ」

体長3メイル程の美しい水色をした蛇。しかし、実際の蛇のような鱗は無く、つるつるとした光沢のある肌。顔も、クリっと円らで大きな瞳が。

「コレはどんな幻獣なんだ?」

「ん~、確か綺麗な水のある場所にしか生息してないんだっけな。竜と言っても空を飛べる訳でもないし、人を乗せられる訳でも無いけど、体内で水を生成して出す事が出来る、とか。そんな感じだったかなぁ?こっちも珍しいから、あんまり詳しくは無いんだけどね」

説明しながら、こちらも手早く契約魔法。
ルーンが刻まれたのを確認してから

「さて、名前は・・・ボクもジャンヌに倣って、単純なので良いかな。うん、水。スイ。君の名前は水《スイ》だよ。いいかな?」

キュ~ィ!

こちらは随分と人懐っこいようで、自分から擦り寄りながら快諾したといった感じの返事が。ジルも笑顔で、小さな頭を撫でる。

「さて、それじゃ。いよいよ準備は完了って事だな?」

「うん、だね。ボクの水《スイ》は無理だけど、ジャンヌの炎《エン》は馬だから移動も楽になるね」

「その水《スイ》は移動の時どうするんだ?」

「ん。ん~?お?おぉ~」

悩んでいるジルに、水竜の水《スイ》は器用に体を巻きつけて行き

キュキュ~!

どうだ、コレで文句は無いだろ?そんな感じで一鳴き。
ジルの右腕から杖にかけてグルグルと、自身の体を巻きつけている。

「お~、器用なもんだなぁ」

「だねぇ。うん。これは良いね」

動きが阻害されないか確かめるため、軽く腕を振ってみたが特に問題は無さそうだ。

「お~い!食料を貰って来たぞ!コレくらいで良いんだよな?」

そこへ、炎馬に乗ったジャンヌが戻ってきた。どうやら、二人が話しこんでいる間に気を利かせて用意を済ませてくらたらしい。

「あ、うん。ありがとう。ん~、うん。大丈夫。これだけあれば足りるでしょ」

ジルは袋の中身を確認し、口をしっかりと締める。

「よし。っと、その前にジル、どっちに乗る?ガルム、ジル一人くらいなら平気だよな?」

『無論だ。我にはその程度造作も無い』

元の姿に戻った王狼も、相変わらず絶好調らしい。

「うん、それじゃガルム。君に乗せてくれるかな?エンだと最初から二人乗りはキツそうだし」

ヒヒ~ン!プシュルルル

そんな事ねーよ!ナメんな!とでも言いたげな嘶きだったが、ジルは構わずガルムの背中に。よしよし、大丈夫。お前は凄いんだ。私には分かってるぞ、と。ジャンヌが慰めているが、とにかく。

「ま、それじゃぁ行きますか」

「だね」

「うん。いざ!」


「「「出撃!」」」


三人。声をそろえて先遣隊陣地を後に。



若き騎士達が目指すは、遥か先。






ドドッドドッドドッ
ダダッダダッダダッ




何も無い平原。風を切り裂いて進む、王狼と炎馬の足音が響く。


ガルムの背中で地図を広げていたジルが、しばらくした所で

「そろそろ良いかな?転進して」

『了解した』
ヒヒ~ン!

先程まで西に向けて走っていた二匹は、今度は北へ。


ドドッドドッドドッ
ダダッダダッダダッ


「本当にこの位置で大丈夫か?」

「うん。遠見の魔法でもここまでは見えないはずさ。仮に見られてもたった二騎。偵察か伝令だと思われるよ」

「そうだぞカズマ!大丈夫だ。ジルはこういう細かい事が得意なんだからな!」

それもそうか。
納得した和磨はそれ以上何も言わず

「しかし、こうやってだだっ広い場所を走るってのも中々気持ちの良い物だよなぁ。冬だから、肌寒いけど」

「だねぇ。今度姫君も誘って遠乗りにでも行くかい?」

「良いなぁ。リザも喜ぶだろ」

「うん!そうだな!そう、そうだ!帰ったらまず、エリザに私のエンを見せなければな!きっとエンの素晴らしさに感激して悔しがるに違いない!」

使い魔達の背中で風を感じながら、つかの間の休息を。
どうせこの後が大変なのだ。今だけは。のんびりと




いつの間にか日が沈み、辺りは闇に包まれる。
そんな中、彼らはようやく。
目的地に到着した。




「どう?」

「・・・・・・あぁ。大丈夫。気付かれて無いと思う。それに状況も変わらず。両軍対峙したまま動かず。だ」

遠見の魔法で様子を確認した和磨が戻ってきた。
彼らは今。敵陣の遥か後方に陣取っている。発見されないように、大回りで敵を迂回。遠見の魔法圏外ギリギリの場所に塹壕を掘り(錬金で)その中に身を潜める。
先程、夕食を。軍用のカンパンなどを詰め込んだばかりだ。

「それじゃ、後は敵が動くまで待つしかないね」

「だなぁ。動かなかったら無駄足かな」

「そうでも無いよ。その場合、命令とは少し違うけど、本隊が到着した後に予定通り動けば良いのさ」

「その前に敵が引き上げる何て事があったら、すぐに逃げなきゃならんけどね」

すぅ・・・すぅ・・・

「だね。見張りはどうする?ジャンヌは・・・まぁ気持ち良さそうに寝てるから、起こすのは可愛そうだね」

「俺、お前、ガルム。後は、エンとスイも、含めていいのか?」

ヒヒ~ン!
キュイ~!

ばっちこ~い。そんな感じの答えを聞き、ローテーションを組む事に。朝に強い和磨が最初に寝て、ジル。エン。ガルム。スイ。和磨の順番。

「それじゃ、俺はお先に」

「うん、まぁ多分今夜は動かないとは思うけどね。ゆっくり休んでおいてよ」

錬金で迷彩色に塗装した布で塹壕を覆い、和磨は一足先に。
静かな夜。
夢の世界へと旅立った。



これが彼らの作戦。
そもそも、多数対多数の場に自分達三人が加わった所で大した変化も無い。
だから、万が一に備えて切り札として。

万が一、敵が動いたら。
万が一、両軍が激突し、こう着状態に入ったら。
万が一、味方が崩れかけたら。

そう言った状況で、敵の背後から奇襲をかける。

敵が攻めるとしたら、前線に兵力を集中し、後方に本陣を置くはずである。なので、両軍が激突したら後方の守りは薄くなる。そこを、自分達が突く。

そもそも、敵が動かなければ成り立たない作戦。しかし、成功すれば明確に「武功を立てた」と言えるだろう。何せたった三人で、上手くすれば状況を変えられるのだ。これならば文句無しの武功だろう。それに、先遣隊が普通に勝利しつつある状況でもダメ押しの一手として使える。動けば良し。動かなければ仕方ない。諦めて退散すれば良い。とりあえず、本隊の到着は早くて一週間は先だろう。なので、余裕を持って二週間分の食料を持ち出し、彼らはここに陣取った。
大規模な部隊が動けば敵に気取られるだろうが、たった三人ならその可能性も低くなる。万が一見つかっても、一目散に逃げれば良い。少数なので、偵察か伝令だと思われるだろうから、しばらくしてからまた戻ってくれば良いのだ。



彼らの作戦が吉と出るか凶と出るか。
戦は水物。
どうなるかは、現段階では誰にも――――――――――――








やがて夜が開け、冬の寒空。
日が昇りだし、白。
そよ風でも、耳が痛い。


「ふ~。やっぱ緊張するよなぁ・・・」

「へぇ、君もそうなのかい?」

独り言のつもりだったのだが、ジルは起きていたらしい。

「もう良いのか?当たり前かもしれんけど、まだ動きは無いぞ?」

「うん、ほら。ボクも緊張しちゃってね」

「まぁ、気持ちは分かるけどな。俺も盗賊だなんだは相手にした事があるけど、軍隊はなぁ」

「そうそう。経験無いからねぇ」

「・・・今更かもしれないけどさ。良かったのか?俺に付き合って、危ない橋渡って」

「ん~、まぁね。そりゃ本来、ボク達はこんな事する必要は無いけど。でもさ、カズマ。君、困ってたんだろ?」

「そりゃなぁ。たった一人、ガルムと二人。だけど何をしろって指示も無くて、武功を立てろだなんてさ・・・お前らが居てくれて助かった。助かってるけどさ」

「だったら良いじゃない。ボクは君の事を友人だと思ってる。そしてその友人が困っているなら、助けたいと思う。これ以上の理由が要る?」

あぁ、そうだな。俺もだ。逆の立場なら・・・だめだな。想像できないや。でも、やっぱり。出来るだけ力になろうとするだろうなぁ。しかしまぁ

「良くもまぁ、そんなクサい台詞、面と向かって言えるよな」

「君が言わせたんでしょ!突っ込まないでよ。コレでも結構恥ずかしいんだからさ!それに、先に言ったのはカズマだろ?父上の前で」

「友人の為にとは言ったけど、お前には負けるよ」

「勝ち負け関係ないじゃん!」

どんな大人物。英雄でも、当たり前だが幼い時期はある。
初めて戦場に出る初陣もまたしかり。彼らが今後、どのように成長していくのかはまだ誰にも分からないが、それでも。今現在、二人。いや、三人とも十代の少年少女。盗賊や亜人で戦闘には成れていても、大軍がぶつかる戦争は素人。

でも、だから。こうして話していると、少しづつだけど・・・・・・・・・


―――――友という物は良い物だな―――――

聞き耳を立てていた王狼から、ルーンを通しての会話。

―――――盗み聞きとは趣味が悪いぞ。まぁ、お前の言う通りだとは思うけどさ。こういうの、良いよな―――――

―――――ふん。細かい事を気にするな。主殿―――――

―――――おいおい、戦友じゃなかったっけか?―――――

―――――まぁ、お前がその方が良いと言うなら、それでも構わんぞ―――――

―――――左様でございますか―――――

苦笑した所でモゾモゾと。和磨とジルの会話のせいで目が覚めたのだろう。ふぁ~と大きな欠伸。寝ぼけ眼を擦りながら、ジャンヌまで起き出して来た。

「うるさいぞ~・・・なんだ?何かあったのかぁ?」

「あ~、ゴメンゴメン。起こしちゃったね。いや、実はね。カズマが緊張する~って言うもんだからさ」

「おいおい、そりゃお前もだろ」

「ん~、なんだ~お前ら。情けないぞ~」

「そういうジャンヌこそ。いつも朝どんなにうるさくしても中々起きないのに、今日は早いね」

「う、いや、ほら。戦場の空気が、だなぁ。そう、本能を刺激して、その、だから」

やはり、三人とも緊張していたのは同じで。それでも、あまり深刻には考えていなかった。なにせ、反乱軍はこうして王軍先遣隊と対峙した時点で、既に戦略的に負けなのだ。ならば、後は大人しく投降するか、国外に逃げ延びるか。どちらにせよ戦闘が起こる可能性はかなり低い。

だから


「まったく、結局・・・ん?おい!ちょっと静かに!」


突然、和磨が鋭く命じた為、二人とも押し黙った。

しばらくじっと。敵陣の方向を見つめてから

「・・・・・・・・・ガルム。どうだ?」

『うむ。間違いない。血の匂いだ。それと、大勢の人間が動く音。おそらく』

「そんな!?開戦したって言うのかい!?」

「お、おい、ジル!どうする!?」


何故!?何か状況の変化があったのか!?
クソ!ここからじゃ分からない!!


「ここからじゃ遠すぎて見えないな。もう少し近づこう。開戦したなら、少しは警戒も緩くなってるかもしれない」

ジル・ド・レーエ17歳。
ジャンヌ・ダルク16歳。
伊達和磨19歳。
大した差は無かったが、一応この中では最年長の和磨が一番落ち着いている。
単純に年齢だけでなく、北花壇騎士として厳しい任務をこなして来た成果もあるだろう。昨日みっともなく喚きちらし、涙を流していた時とは既に別人。
完全にスイッチが切り替わっていた。

相棒である王狼と共に、腰を落として素早く前進していく。

「・・・っ!ジャンヌ。ボク達も行くよ!」

「あ、あぁ!そうだなっ。荷物は!?」

「ほっといて良い!装備だけ持って行こう!」

ガチャガチャと鎧を着込み、二人。慌てて和磨の後を追う。




「カズマ・・・どうだい?」

大地にうつ伏せになりながら、片手を額にあて、少しでも遠くを見ようと。そんな和磨に追いつき、言葉の端に不安の色が現れるジル。この距離では、風メイジである和磨の、遠見の魔法でしか確認ができない。

「ん・・・・・・間違いない。やっぱり、もう始まってる。多分、最初に仕掛けたのは反乱軍だ。あいつらが川を渡ってるみたい・・・だな。それを先遣隊が迎え撃つって感じだと思う」

遠見の魔法でも人が米粒の様にしか見えない距離だが、どちらがどう動いているか。全体の流れを把握するには十分。

「そんな・・・何で・・・いや、今はそれは良い。そうだ。敵が無理に渡河したなら、かなりの被害が出ているハズだ」

「ん・・・多分、な。見た目的に両陣営の人数は変わらないと思うから、千人くらい犠牲になったんじゃないかな・・・でも、あの川ってそんなに深くないっぽいぞ。あれ、多分膝の上くらいまでしか水深が無い。流れも穏やかだし」

耳を澄ませば、人々の叫び声のような音が聞えてくる。大砲の爆音も

「例え浅い川でも、進軍速度は確実に落ちるからね。そこを狙えばそれなりの被害を与えられるはずだよ。それで、どうだい?どっちが有利とか、わかる?」

「・・・・・・・・・どうかな。敵は殆ど。割合からすると三千以上は川を渡って戦ってると思う。残りがこっち側の岸から・・・アレは大砲だな。砲撃部隊が残ったままだけど、他はほとんど全部前線にいるっぽい。戦況は、わからんけど、多分互角じゃないかな?激しい動きが無い」


ならば・・・


「私達の・・・」

「うん、そうだね・・・」

「作戦通りなら、な」


ここが彼らの出番。
膠着した戦況。
敵の本隊は向こう岸。
本陣は砲兵隊を含めて千程度か。

今なら・・・


しんっ。

静寂。

遠くからの地鳴りと叫び声だけが、風に乗って聞こえてくる。

皆、そこから先の言葉が出ない。
覚悟はしていたつもり。それでも、やはり。いざ本番となるとどうしても・・・・・・・・・最後の踏ん切りが・・・

元々、彼らは行かなくても良いのだ。
作戦を立て、先遣隊司令部にも上申し、非公式だが許可も得た。
それでも、はっきり言って誰も彼らに期待はしていない。司令部は司令部でしっかりと計画を立て、それに沿って行動するのだから。戦場で好き勝手に動き回るのは迷惑以外の何者でもないが、だから予め知らせたに過ぎない。彼らの。まだ子供の。それも初陣の子供達三人。そんな不確かな存在を戦力として計算して作戦を立案するほど、司令部は無能けではない。なので、無理に動く必要は無い。カズマにしても、命令違反で何らかの罰が下されるだろうが、あまり酷いものでも無いだろう。何せ、初陣なのだ。活躍しろという方に無理がある。ジルとジャンヌも、必ずやらなければならない理由など無い。



だから静寂が



「いこう」

最初に言葉を発したのは、この場で唯一の女性。

「元々、その為に来たんだ。行こう!」

「・・・だね、そうだね。ジャンヌの言う通りだ。ここまで来て、今更引き返せないよ」

「あぁ・・・その通りだ。よし」

地面から体を起こし、パンパンと。手で土埃を払う。
立ち上がった和磨は

「最後の確認だ。二人とも、良いんだな?」

「うん。大丈夫」

「勿論だ。いけるさ」

三人並んで、未だ遠い戦場を見据える。

両脇にジルとジャンヌ。
二人ともいつもの学生服では無く、甲冑を着込んでいる。彼らの甲冑に派手な細工は無いが、実用性重視。ド・レーエ家お抱えの職人に拵えさせた最高品質の一品。胸には大きく、家の家紋。
背中には、風に吹かれてたなびくマント。

その姿は当に西洋の騎士。

真ん中に和磨。
こちらも学生服では無い。いつもの、戦装束。
道着。袴。草鞋。腰には一振りの名刀。必需品となった小さなポーチ。中には最高級の水の秘薬がいくつかと、簡易医療セット。
そして彼の身を包む防具を、ただの布切れと侮る無かれ。どれもこれも丁寧に。最高高度の固定化の魔法がかけられた一品で、布地本来の柔軟性と、軽鎧並みの強度を併せ持つ特性の品々。
彼を想う少女からの、せめてもの贈り物。

その姿は、当に東洋の侍。


一陣の風が吹き抜ける中、和磨が一歩前へ。


「なぁ、二人とも。今さ。怖いか?」

「うん。怖いね。心臓がバクバク言ってるよ」

「私もだ。うるさいくらいだな」

「あぁ。俺もだ。メチャクチャ怖い。でもさ」


でも。
その怖さが何なのか、疑問に思う。
戦場に出る怖さかな?
初めての経験。未知の領域にたいする怖さかな?
死が間近に迫っている怖さかな?

それとも


「俺達なら、できそうだって。何の根拠も無いけど、そう思えるんだ。それが、何故か怖くてさ」

「うん。ボクもだ」

「私もだ。あぁ、そう。そうだ」


それ以上言葉は要らない。

もう一度振り返り、三人はお互いの顔を見合わせ、同時にうなずいた。
そして、やはり同時に握りこぶしを突き出す。

コツン

三角形の中央で、三つの拳が確かに合わさる。


俺には。ボクには。私には。

我等には。

やりたい事がある。
やらなきゃならない事がある。
守りたい物がある。
守るべき物がある。
帰りたい場所がある。
帰るべき場所がある。


帰りを待つ人が居る。


だから



「死ぬなよ」

「君もね」

「全員だ」


「「「行こう」」」


ジャンヌとジルは炎馬に。
ジルの腕には水竜。
和磨は王狼に。

それぞれ、相棒と共に。





まずは、炎馬が地を駆けた。




ワアァオオオオォォォォォォォォーーーーーーーン!!



王狼の、遥か彼方まで響き渡る遠吠えが、彼らの合図。

先遣隊の本陣にも、間違いなくそれは伝わる。




ジャンヌ・ダルクとジル・ド・レーエによる初撃。


「はああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!」


周囲の空気を振るわせる咆哮と共に


「我こそはジャンヌ・ダルク!二つ名は烈火!烈火のジャンヌ!いざ参る!!」

「ジル。ジル・ド・レーエだ!二つ名は水刃!水刃のジル!」


二人の名乗りが響き渡り、四つに分かれていた砲兵陣地のうち一つから



どごおおおおおぉぉぉぉぉぉん!!



大音量。爆炎が天高く昇る。



それが狼煙。



「いくぞ、相棒」

『応』

待機していたのは二人で一対。

「俺は」『我は』

「俺達は」『我等は』

「『銀狼のカズマだ!』」

其の名乗りを聞くのは、風と大地のみ。

「『行くぞ!!』」

それで十分。
だから彼らは跳ぶ。
滑るように大地を駆け、吹き抜ける。ただ一陣の風となって。

早く。速く。疾く。

陽動にかかり、注意が反れている敵本陣と。

後方から。わき目も振らず、一直線。


「『おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおおぉおおおお!!』」


爪。牙。刀。魔法。

人波掻き分けただ、前へ。

怒号と悲鳴が

どけ!

前に。

邪魔だ!

前に!


「『見つけた!』」


敵本陣。その中央に立つ男こそ、今回の反乱の首謀者。名前は――――――

「『どうでも良い!』」

そうだ。何者だろうと関係ない。ただ、アレが彼らの獲物。


「『ああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!』」


周囲を囲う護衛の騎士を。二体一対人狼一体。
彼らの轟く咆哮を、止めるものは、何も無い。


「『うおおおおおおおおおおおおおお!!』」


もう奴は目の前。

しかし、立ち塞がる騎士が二人。

『行け!カズマ!!』

王狼がその巨体を持って騎士を押し飛ばす。

「これでえええぇぇぇ!!」

相手も杖を構えているが、遅い!
この距離では、和磨の方が

一閃

その体を二つに分けた。

「これでっ!」

そうだ、これで。これで俺達の!!

遠慮。容赦。躊躇は無し。
油断も、今の彼には在り得ない。

だから


ズシャ


え?


左腕。二の腕に突如。焼けるような痛みが


そんな、何で!?


彼が目にしたモノは


「・・・・・・・・・・・・」

上半身と下半身が、完全に分かれているにも関わらず

「こいつ!?」

まるで痛みを感じる様子も無い男が。たった今、和磨が斬り裂いたはずの男が。絶命して、動くことすら出来ないはずなのに。

上半身が、片手の剣を。和磨の左腕に突き刺している。

「このっ!?ざけんなあああぁぁ!!」

咄嗟に、ウインド・ブレイクの魔法で吹き飛ばす。

「ぐぅっ・・・この・・・B級ホラーじゃねぇんだぞ・・・クソ!」

刺された腕からは血液が溢れ出て

「まず・・・っく!」

咄嗟に。戦場のど真ん中で刀を地に刺し、腰のポーチから一本の紐を。それを左腕の付け根に巻きつけ、きつく縛り上げ、止血。次に腰から小瓶を取り出し、惜しげもなく中身の液体を傷口にかける。

ジュゥッッ

ぐぅっ!

苦痛で顔が歪むが、気にしてられない。
僅かな時間だが完全に無防備。
そこは、王狼が賭して守る。

『おい!カズマ!?』

「っっつ、あ、ぁ。大丈夫。血は、止めた。命に別状は、無い」

傷口に目をやり、直ぐに反らす。
左腕はもう、完全に使い物にならないだろう。千切れては居ない。が、辛うじて繋がっているという有様。
これでは

「刀、ふれねぇかな」

右手一本では刀を振れない。振り回すだけなら出来るだろうが、斬る事は

『仕方ない!脱出をっ!?』

身の毛もよだつ。元の世界のB級ホラー。それが今、目の前に。

先ほどまで、彼らが打ち倒して来た戦士達が、次々と。地に倒れ伏していたはずなのに起き上がり、こちらに向けて

「ガルム!逃げるぞ!!おかしい!」

『承知!』

和磨が背中に飛び乗ったのを確認し、一気に駆け出そうとして

「くる!」

声を出す前に反応していた。
残りの大砲陣地から、味方ごと巻き込む銃撃。砲撃。魔法が

「ふざけんな!なんだそれ!!」

咄嗟に、ウインド・ブレイクの魔法を王狼の側面にブチ当て緊急回避。
和磨《ドット》の魔法ではダメージは入らないが、衝撃は伝わる。それを利用しての

『どうなっている!?奴等、味方ごと!』

吹き荒れる爆音。轟音の嵐。
まだ生きている者達も、当然の如く巻き込むそれは、悪魔の咆哮か
生者の悲鳴と死者の沈黙が辺りに響く。

しかし、死者となって初めて味方となる彼の如く、次々と。
砲撃に巻き込まれた者達は、起き上がり、此方に向かってきて、また巻き込まれる。それでも、しっかりと二人の足を止め、行く手を阻む。繰り返し

「いい加減にしろおおお!!なんなんだよ!コレは!」

右手一本で刀を持ち、体ごと回転させる勢いでもって、強引に振り回す。

『おい!このままでは』

あぁ、不味い。死ぬ。

今までも、何度も危険な目に合ってきた。最初の頃なんてそれこそ、死ぬかと。何度思った事か。それでも最近は慣れたのか、はたまた多少腕が上がったのか。死ぬと思う事は少なくなってきた。大怪我をする事は変わらないが、大怪我=死という方程式は成り立たない。
そんな中で、久しく感じていなかった本格的な死の恐怖が。
何故、味方ごと。何故、敵は生き返るのか。何故、何故、何故。
そんな事もあるが、それ以上に。


死ぬのは


「ざけんな」


まだ、ここで

「こんな場所で」

死にたくなんかない

「絶対に」

だって

「約束したんだよ!俺はぁ!!」

負けて、たまるか!


最後まで絶対に諦めない。
それで、それだけで良い。


「ガルム」

『あぁ』

最後の瞬間が訪れるまで、見苦しくたって良いさ。意地汚くて結構!何が何でも。どんな事をしても


「死んで、たまるかああああああああああ!!」


銀狼は咆える。

右手一本。三日月片手に。
体全体を使って、器用に振り回す。
力ずくで引き裂くように爪を振るい。
強引に其の牙を突き立てる。

決して美しい光景ではない。見苦しく、無様。往生際の悪い。時間の問題。悪あがき。

それでも、この。
死、渦巻く戦場で、その一画だけは。生に満ちている。


絶対に生きるんだ


雄叫びと共に、叩きつけられるように揮われる絶対の意思は、決して、最後まで折れる事は無い。

北花壇騎士として。近衛として務めて役半年。
伊達和磨として。人として生を受けて19と少し。

どちらも未熟。
まだまだ、圧倒的に足りないものが多すぎる。人としても、騎士としても。
それでも。その意思だけは、他の何者にも決して、劣るはずは無い。
何よりも、生きるために。生きなければ


「約束はぁ!死んだら守れないだろうがぁ!」


たった一人。守ると誓った主との。
女の子との、大切で。ちっぽけな約束。
理由なんて、それで十分。他に何が要る?


「『俺達のぉ。邪魔を!するなあああぁぁ!!』」


単純で純粋な願いだから、その想いは硬く。
―――硬いだけでは、折れてしまうけど―――
どこまでも一途で、迷わないから柔らかく。
―――柔らかいだけでは、曲がってしまうけど―――

二つを併せ持つ。故に決して。

最強では無い。だから、最高の一振り。

其の刀は、唯一人の主の為に。



それは、亡者如きでは相手にすらならない程に強く。生者を引き付ける眩い光を



『砲撃が・・・減っている。減っているぞ!』

何せ、彼らは二人だけでは無いのだから

「あぁ、そうだ。もうちょっとだ。なぁガルム!」

『応!流石我等の友だ!!』

残りの砲兵陣地から昇るのは、特大の火柱。複数の水柱。
俺達は一人じゃない。
仲間が。
こんな馬鹿げた事に、笑顔で付き合ってくれる最高の友人が。


「お前ら、最高だよ!!」






「こんのおおおおぉぉぉぉ!!」

燃える。荒れる炎。駆け抜ける炎。

「貴様等!それでも武人かああぁぁ!?」

味方諸共?ふざけるな!何故撃てる!?仲間だろう!?何を考えている!それになにより

「あそこには奴が。私の、友達が居るんだぞ!それを、それをっ!」

最近出来た、二人の友人。蒼い少女と黒の青年。親友と、そう呼んでも良いのだろうか?ジル以外に同年代で親しい奴など居なかったから、良く分からない。分からないけど、分かる事もある。大切な事だ。友達は助け合う物。見返りとか、計算とか、そんな小ざかしい物いらん!当たり前の事だ!何より、彼に。和磨に何かあったら、エリザがどれだけ・・・・・・・・・そんな顔、絶対に見たくない!


湧き上がる想いを炎に変えて。
溢れ出るモノを隠そうともせず。
全身全霊を賭して


「烈火のジャンヌ!今行くからなっ!!」


少女はただただ、戦場を駆ける。






「いい加減さ、邪魔なんだよね」

水が飛ぶ。水が奔る。水が撃つ。

「そもそもさぁ、何でこんな事してるのさ?」

何で味方に矛先を向けられるのかな?誰かの指示かな?何で何の疑問も無く従えるのかな?何で。何でボクの友達のいる場所にそんな事するのかな?

「流石にね。それだけは絶対にさせないよ」

知り合って未だ間もないけれどね。それでも、今までで最高の人達だと思うんだ。ジャンヌに次いでね。もうこれから先、こんな出会いは無いかもしれない。何となく、そう思うんだ。直感ってのは結構大切だよね?まぁ、直感も大切だけどさ。和磨に何かあったら、お姫様。絶対悲しむよ?正直、そんな姿想像でも見たくないね。まったくさ、もう少し自覚して欲しい物だよねぇ、でしょ?


波打つ想いを水と共に。
静かに、しかし確実な感情。
津波の前。潮が引いて


「水刃のジル。ちょっと通るよ。どいてね」


青年は決して歩みを止めず。






時が経てば経つほど、砲撃がどんどん減っている。

はは、はははははは!

『何だ?ついにおかしくなったか?』

お前だって、笑ってるじゃねーかよ

『む?いかんな。不謹慎である』

それでも、抑えられないモノだってあるだろ?

『うむ。そうだな』

砲撃が減っているだけで、敵が往き返る不気味な現象が止んだわけでも、敵の総数が減った訳でも無い。むしろ、巻き添えで吹き飛ばされていた敵が減り、数自体は増えている。

それでも、二人は笑った。

「不思議だよな」『不思議だな』

戦場に居るのに。

「さっきまで死ぬかと思ってたのにさ」

状況は殆ど変わっていないのに。

「今なら」

『うむ』

敵が蘇る?数が増えた?上等だよ!

「『今なら、負ける気がしない!』」

たった二人の援軍。でも、それで十分。
俺は、俺達は一人じゃない。
何よりも、数少ない友人に。


これ以上、無様を晒したくは無い!!


「『俺は。俺達は。銀狼のカズマだ』」

名乗りでは無い。確認。
一人じゃない。二人でもない。
孤独じゃない。暖かい。まだ冬だけど、関係ないんだよ。


「『邪魔だ!失せろ!!』」


風が戦場を吹き抜ける。
鋼の意志と途切れぬ意志で。
全ての想いを刀に乗せて。


「『はああああああぁぁぁぁぁ!!』」


大地を跳ぶ。




やがて彼ら。風と、炎と、水は交わり


「ジャンヌ!焼き尽くせ!!ゾンビは火葬が鉄則!!」

「カズマ、ボクは弓と銃を落とす。君はメイジを」

「はあああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

多くの言葉は要らない。
ただそこに居る。それだけで

「おいジル!笑ってるんじゃねーよ!」

「君だってそうだろ!?」

「お前ら、うるさい!手を動かせ!!」


『全く。素晴らしいな、我等の主は』
キュキュキュ~イ!
ヒーヒヒ~ン!


それが、彼らの初陣だった。

一体どれだけ倒しただろうか?

千は行って無いだろう。何せ、周囲にはまだまだ人が居るのだから。
それでも、百は確実。

死を振りまく戦場で、彼らだけは。正反対。
生を叩き付ける。それは返品不可能。クーリングオフなんて、気の利いた制度なんぞもある訳も無い。ただ、一方的に。


そんな彼らに抵抗できるモノは、この場に在るのだろうか?


必然的に、徐々に。徐々に敵は勢いを落とし―――――――






ブリミル暦6142年。
この年を中心とした数年間は、後に。
激動の節と呼ばれる事になる。
激動の節の開始時期については、未だに議論が続いているが、有力な説の一つがこの戦い。

ヤラの月。エオローの週。虚無の曜日。
ヴィシー平原で起こったので、そのままに。

ヴィシー会戦。

通説では、この戦いが六千年続いたハルケギニアの歴史を、僅か数年間で大きく変えた「激動の節」開幕の合図。

想定していたとは言え、予想外の敵軍の侵攻。
予想外の精強さによる苦戦。
両軍がこう着状態に陥った時。

三人の若い騎士達の名が、初めて歴史に登場した戦い。
いや、訂正しよう。
二人の若い騎士と、一人の若い侍が。

彼ら三人。背後より強襲。
手薄な敵本陣を突き、反乱の首謀者を討ち取った。
結果、敵軍の士気は崩壊。
王軍の勝利に多大な貢献を果たした。

二人の騎士は、この戦いの武功により騎士勲章《シュヴァリエ》を得た。
一人の侍は、元々騎士だったのに加え、任務を遂行しただけなので特に無し。

烈火のジャンヌ。
水刃のジル。
銀狼のカズマ。

この戦いで、これらの名はガリア全土に広く知れ渡る事となった。








「ねぇ、カズマ。本当にその腕、大丈夫なの?」

「そうだ!遠慮する事は無いんだぞ?ジルの父上も、最高の水メイジを手配してくれると」

戦が終わり、勝利の余韻が残る。そこかしこで酒盛りが行われ、勇壮な音色が鳴り響いている。そんな中。
一人、王狼にまたがり帰ろうとする和磨を、あちこちに包帯を巻いた。それでも、しっかりと五体満足の友人二人が押し留める。

「大丈夫だって。だってさ、”たかが”腕が千切れかけてるだけだぞ?止血もしてあるし、命に別状も無いんだ。”軽傷”だよ。普通に立って歩けるし。なぁ?ガルム」

『うむ。それくらいなら問題あるまい。痛み止めは効いているのだろう?』

「あぁ、大丈夫。城までは持つと思う」

『ふん。我の背でみっともなく喚かなければ、それで良い』

平然と答える和磨も、そこかしこに治療の後が見られる。一番目を引くのが、布で首から吊り下げられている左腕。今更だが、あまり派手に動かすとせっかく繋がっているのが千切れてしまうので。

なんというかもう、言葉が出ない。唖然とする騎士二人。

その怪我で軽傷!?

正直、その感性は理解できない。したくも無いけど。

「ともかく、心配無用。すぐに直すさ。それより、俺は帰らなきゃいけないからね。勝利の宴ってのもものすご~っく憧れるんだけどさ」

「・・・・・・そうだね。うん、その方が良いよ。彼女にもよろしく言っといてね」

「あぁ。悪いね。でもホント、今回は助かったよ。二人とも。ありがとう」

一度狼上から降りて、しっかりと頭を下げる。
ジルはやや恥ずかしそうに頬を染め、ジャンヌは。腕を組みながら、こちらも少し恥ずかしいらしい。若干目をそらしている。

「面と向かって言われると照れるよね。でも、うん。どういたしまして」

「ふ、うん!まぁ、その、あれだよ。うん。私達も、手柄を立てられたしな!」

そんな二人の反応が面白くて、笑いながら

「まぁ、今度。リザも入れて四人でさ。俺の家で、改めて戦勝パーティーと行こうぜ?」

「そうだね、そうしよう」

「うん!それは良いな!」

それぞれと、右手で握手を交わし

「それじゃ、またな!」

銀狼は一人。彼方へと。
帰りを待つ、たった一人の少女の下へ。

早く。速く。疾く。














「それで、ミューズよ。どうだったのだ?」

王宮。グラン・トロワ。
豪華な王座に腰掛け、片肘をつく蒼の王。

「はい。反乱を計画していた貴族達は全て、戦場にて処分いたしました」

その眼前。恭しく傅く美しい女性。

「うむ。ご苦労。まぁ、奴等も惜しかったな。相手が余でなければ、歴史に名を残せたやもしれんが」

「非常に巧妙な手段で隠されておりました。ジョセフ様以外では、手遅れになっていたかと」

「そうだ。それも面白いのだがな。だが、今はダメなのだ。ようやく、ようやく舞台が整い、駒が揃ってきた所なのだ。奴等程度に邪魔される訳には行かん」

「はっ。アルビオンは年内には片が付きます」

「うむ。良し。良いぞ、ミューズよ。しかし、アンドバリの指輪とは実に便利だな。それになにより、お前だ。ミューズよ。余の可愛いミューズ。よくやってくれたな」

「はい・・・ジョセフさま・・・」

ニッコリと微笑む主に、瞳を輝かせて答える女性は

「時にミューズよ。あやつは。カズマはどうなったのだ?」

一瞬で、その瞳からハイライトが消え去った。

「は・・・・・・・・・それが・・・・・・・」

「何だ?どうしたというのだ?任務は失敗したのかな?ふふふ。なら、どんな罰を与えてやろうか・・・はっ!まさか、死んでしまったのか!?それでは詰まらんぞ!?」

それは・・・・・・・・・・・・


この機会に。
この機会。戦場。死が日常になるあの場所でなら。確実に殺れる
と・・・・・・・・・なのに。なのになのになのになのになのに!!何故!何故だ!!何故生き残った!!ジョセフ様のご命令さえ無ければ!陣から消え去った奴等の追跡さえしていれば!むざむざと背後を突かせなかったのに!!いや、違う。ジョセフ様は関係無いのだ。全て、全てあの男が・・・・ない・・・・・・・・・せない・・・・・・・・・許せない!!


「ミューズ。余の可愛いミューズよ!どうしたのだ!?早く、早く教えてくれ!!余は、俺はもう、気になって気になってしかたがないぞ!?」


いけない。応えなければ。
ジョセフ様は知りたがっておられる。
ならば、それがどんなにあっては成らない出来事だろうと、どんなに認め難い現実だろうと、正しくお知らせしなければ。


「それが・・・・・・」

感情を押し殺し、淡々と。ありのままを語る女性。彼女の語る話を、一々うなずきながら聞いていた王は、聞き終えて

「ふ・・・ふふふふふふふふふふふふはーっははははははははっはっはっはっはっは!そうか!そうかそうかそうか!!何だ!すごいじゃないか!あんな適当な命令を、まさか本当に実行してしまうとは!あぁ、そうだ。そうだとも!分かっているよ、シャルル!間違いない。否定できない!完璧な武功だ!!これには文句のつけようが無い!!あいつ、あいつは!何処までも俺の予想を超えてくれる!良いぞ!最高だ!なぁ、シャルル!そうだろう!?」

突如、王座から立ち上がり、そのまま。脇に置いてある丸テーブル。その上に置かれたチェス盤。
盤上には、黒のナイトと黒のクイーン。
そこに、ルークとビショップを加える。

「ふふふふふふふ。いいぞ、少しづつ。少しづつ。揃ってきているじゃないか!それに何より!」

黒のナイトとクイーンをつまみ上げ

「これだ。こいつらだ!!一つ一つなら大した事が無い駒だ!なのに、この二つが揃った時。その時だけは!なぁ、シャルル。お前にもわからんだろう?この二つが揃った時。何が起こるのか!そうだな。俺にもわからないんだよ!!」

「ジョセフ様・・・・・・・・・」

「あぁ、ミューズよ。余の美しいミューズよ!ほら、見て見ろ!揃ってきたぞ!もう少し。もう少しだ!!もう少しで、ゲームが始められるのだ!頼む。頼むぞ?ミューズ。俺はもう、楽しみで楽しみで仕方が無いのだ!」

「はい・・・お任せ下さい。ジョセフ様」


その日。いつまでも
王の哄笑が鳴り響いていた。












一方。
無事(?)五体満足でプチ・トロワに帰還した和磨は。
出迎えた者達皆に驚かれた

まぁ!今回は軽傷で良かったですね!!
おぉ、よく無事に戻ったな!
うんうん。元気そうで何よりですね
え、怪我?あぁ、本当だ。まぁその程度で良かったですよ

・・・・・・・・・もう、彼らも色々と手遅れなのだろうか。

係りつけとなった水メイジにも
「今回は軽傷でしたが、気お付けてくださいよ?あまり無理をしないように」
とのありがたいお言葉を頂いた。

・・・・・・・・・ここ、プチ・トロワの住人達にとって、片腕が千切れかけている程度は軽傷でしか無いらしい。他所には漏らせない極秘事項だ。


一通り歓待と治療を受け、自室に戻ると。

「今回は大した怪我じゃなかったみたいだな」

和磨の寝床。ふかふかのソファーに腰掛けながら、本を読んでいた蒼の姫君が出迎えてくれた。

「あぁ。いつもコレくらいで済めば楽なんだけどなぁ・・・」

溜息を吐きながら、彼女の隣へ。
人二人が座っても、まだまだ広さには余りがあるが、二人の間隔は遠くない。

「もう治療は良いのか?」

「あぁ。俺よりガルムの方が重症だよ。主に食欲的な意味で」

彼は現在。さんざん動き回って大量のカロリーを消費したので、食堂にて一心不乱に燃料を補給中。さすがに、戦場でつまみ食いはしたくないとの事。

笑いながら語る和磨に、イザベラも笑みを



時に。

少し話が戻るのだが、今回の武功。
和磨には特にコレと言った恩賞は与えられていない。
歴史には、そう書かれている。
しかし、恩賞とは。褒美。贈り物とは、人それぞれにより、価値が変わる。
コイン一枚でも山ほどの金貨より嬉しいという人も、世の中には居るだろう。
だからなんだ?

そう言われれば困るのだが、ともかく。




「そういえば、まだ言ってなかったね」

「ん?」

言いながら、少女は。青年の頭を優しく抱き寄せ、その胸に。

最高の笑顔で


「おかえり」

「あぁ、ただいま」




帰るべき場所が、そこにあるなら。

それは、とても幸福な事ではないだろうか?




ブリミル暦。6142年。
激動の節。
動き出した歴史の歯車は、何者にも止める事はできない。


舞台は、次の段階へ


北からは、凶報だった。

今度は、南から。

それは、吉報か。はたまた、再びの凶報か。

舞台は、はるか南。

光の国―――――――――――

歴史は、歩みを止めず。

彼らは。彼女らは。今。


激動の時代を駆け抜ける














―――――――――第二部。完――――――――――










あとがき

第二部完結です。
一部に比べ短いのには、一応理由が。
本来。二部はもう少し後に、後四ヶ月程で原作と重なるので、その時点で「二部完。三部へ~」というのを予定していたのですが、その場合の話(まだ書いて無いけど、想定したら)はいまいち、こう。区切りの良いお話ではなさそうだったので、ここで第二部完結とさせて頂きました。
今回の話も、上下二話構成にしようかと悩んだのですが、結局。多少長くなりましたが、一話に。今回のお話でのテーマというか、そんなのは「初陣」。
戦場の空気とか(勿論、そんなもん知りませんが)緊張感とか、そういうのがしっかりと伝わっているかが不安ですが。二話にすると上手く伝わらないかな~と、思い。こういう形にしてみました。
如何でしたでしょうか?

なるべく不自然で無いように書いたつもりなのですが、あくまでも「つもり」なので実際の所は不自然かもしれません。

そしていよいよ。今までは基本オリジナルでしたが、次回から本格的に原作に絡んで行きます。

自分はRPGで最初にレベルを上げてからプレイするスタイルなので。なのでというかまぁ。一部、二部はレベル上げ。三部からは攻略という感じです。


とりあえずもう一度一話から読み直して、句読点。誤字脱字。不自然な部分の修正作業に入ります。前一部完の時は何故か、sage投稿やったのに上がった時があったから気お付けないと・・・



ちなみに。
地名は適当に。地図見ながら選んだ物です。一応、原作で書かれている地名を出して、少しでもイメージし易いようにしたつもりです。
ウォーター・ウィップの魔法は烈風の騎士姫の物。
炎馬 水竜はオリジナルですが、あんまり不自然ではない・・・かな?イメージとしてはポケ○ンのギャロッ○とミロカロ○です。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.026920080184937