「局長。今回は一つ。問題が・・・」
その日。特に用事も無く、いつもの如く。イザベラとガルムに従えられてリュティスの街を散策していた所、突如。新撰組の隊士が現れ、火急の用事だと。
そうしてやってきた本部。酒場に入ると、既に会合集そろい踏み。
何事かと。席に着きながら目線で問うた時の返事がそれ。
和磨は、一応この組織のリーダーと。頭となっているが、基本的に口は出さない。それに細かい話や難しい話も、どうせ理解できないし、自分より優秀な人間がいるなら、それでいいやと。任せっきりで、いつも。会合の席ではボケーっとしているのだ。
そして皆も心得た物で、普段和磨に話を振らないのだが、今回は。何やら重要な用件らしい。
「んで?何さ。火急話らしいけど」
「実は――――――」
リュティスの東部一帯を治める新撰組。
しかし、言い方を変えれば「東部一帯しか治めていない」と。そう言える。何を隠そう他にも。南部一帯。そして西部一帯。それぞれを収める組織が、実は存在している。今まではこの二つが互いに争っていたので、東部と北部には手が伸びていないかった。だからこそ、彼ら東部が早くから合併しようとしたのだろう。悠長に構えていると巨大組織に潰されると。
そして、彼ら新撰組。東部連合が出来、リュティスはいよいよを持って三つ巴の熾烈な争いに。
とはならず一応新撰組は中立を保ち、どちらの争いにも介入せず。という立場を取っているのだが。
そして、残っている北部一帯。ここは、言って見れば群雄割拠の地帯。小さな組織が互いにしのぎを削りあうと。潰されては新しく出来、またその繰り返し。
そんな場所なのだが
「そこに、ある組織が。いわるゆ、ご禁制の薬品を専門に扱う組織が最近出来まして」
ご禁制の薬品。ホレ薬やら、何やら。人の精神に直接作用する物や、依存性のある麻薬のような物まで。
「んで?一応、うちの管轄外な訳でしょ?それがどうしてまた」
「実は、そこの構成員は全てメイジ。しかも、トライアングル以上のメイジが最低二人。そいつらが」
「あ~・・・何となく分かった。つまり、うちの管轄にチョッカイを出してくる様になったと。そういう事?」
「えぇ。しかもラインクラスのメイジも複数居て・・・」
「なるほど。一番隊じゃ手に負えない訳か」
一番隊。現在新撰組には一~十一番までの隊がある。その内、二~十一の十隊は、東部一帯を十に区分けした箇所にそれぞれ。そこの警備として巡回を務める部隊。
そして、一番隊とは即ち、特攻部隊。
隊員達の中で、極力戦闘力の高い者達を選んだ精鋭部隊である。
彼らは、有事の際の切り札として、普段は温存されている。一応、ここにもメイジは居るのだが、数は少なく。ラインメイジも一人だけという構成。
いくら精鋭とはいえ、それはあくまで街の。民間のである。王国の誇るそれには、当たり前だが遠く及ばない。一応王女の直轄となってはいるがそれは給金のみ。
なのでトライアングル級の上級メイジに出てこられると、対処が非常に困難なのだ。
「そこで、です。実は今夜。その組織の会合があるとの情報を掴みまして。そこに襲撃をかけ、一気に殲滅したいと・・・」
彼ら新撰組の一番の武器は、その情報収集能力である。何せ、他の組織とは違い、活動資金の現地調達は一切行っていない。そんな彼らは、市民からすれば無償で自分達を守ってくれる正義の味方。なので、積極的に情報を提供してもらえるし、各地で市民の協力が得やすいのが強みだ。
そんな彼らだが、普段は敵を殲滅だの、そういう行動はしない。彼らはあくまでも治安維持組織であって、危険な者達が現れれば、それこそガリア花壇騎士の出番な訳で。
しかし、今回は時間が無かった。
会合の場所を掴んだのはついさっき。そして、今から騎士に任務を与えるには遅すぎる。だからこそ、ここで一番隊を。切り札を投入してでも、危険な組織を潰そうと。ここで逃がせば次はいつになるか。
どうするか。和磨が悩む前に答えは横から。
「なるほど。いいじゃないか。カズマ、行け」
「おいおい、んな簡単に」
「私達の管轄に手を出そうってんだ。それになにより、ご禁制の薬品を製造すれば縛り首。この国の法律だ。だから遠慮なくやれ」
なんとまぁ。その場で立ち上がり、獰猛な笑みで見下ろしながらの宣言。
それが、彼女の姉御と呼ばれる所以なのだが。
「・・・・・・了解。場所は?」
「ここです。この酒場の二階かと。奴らは今日一日。この酒場を丸ごと借り切って」
「池田屋だ」
・・・・・・・・・・
「「「は?」」」
「その酒場の呼称だ。池田屋と呼ぶ」
文句は受け付けない。そんな態度。
どういう意味か理解できない周囲をよそに、和磨は一人、違うけどコレはコレで中々~など。なにやら思案中。
静まり返った場の空気を溶かしたのは姉御。もとい、副長。
「ゴホン。ともかく、次に――――――」
後はもう、和磨の出る幕は無し。
テキパキと指示を飛ばすイザベラの姿を眺めながら、オレンジ色の空を仰いだ。
こうして、再び。歴史は繰り返す・・・?
異世界にて。同じ名前で勝手に呼称された酒場へと。
彼らは、日が沈んだ街を行く。
リュティス北部地域。
この地域は、リュティスの中で特に治安が悪いとされている。
そんな場所の、一軒の酒場の前に、一台の馬車が。
いや、一台。二台。
次々と馬車が集まってくる。そして馬車から次々と人が。
しかし、それらは皆別方向から。襲撃を悟らせない為、姉御こと副長考案の作戦により、複数の箇所から別々の道を通り、コードネーム「イケダヤ」の前で終結。
ザッ
月明かりが夜の照らす。
青地。背中に白で「誠」の一文字を背負った一団が突如。出現した。
総勢三十名程の一番隊隊士が、一列に並ぶ。
彼らより、一歩前に出て和磨。そしてその隣には、半ば強引について来たいつかの。和磨と色違いの道着。白い道着に赤の袴。肩から羽織を掛け、羽織に腕は通さずに腕組み。姉御である。
「抜刀」
彼ら一番隊は、全て剣を装備している。メイジも、剣を杖として契約。
だから、和磨の呟くような一言で、全員一斉に鞘から剣を抜き放った。
「いいか?極力一般人に被害を出すな。敵の特徴は覚えたな?対象のみ仕留めろ」
「敵の首領は捕縛。流通経路を聞き出すからね。他は各自の判断に任せる。アレン。グラム。あんた達はそれぞれ五人を率いて裏口とここ。入り口を封鎖。一人も逃がすな」
「「「応っ!」」」
和磨の命令をイザベラが引き継ぎ。隊士達が皆返事をしたのを見て。
「行くか」
そのまま。酒場のドアへと向かい。
ドカン!!
蹴飛ばす。
そして、店内全てに響く大声で
「御用改めである!!」
和磨が叫びながら店の中へ。
「ひっ!し、新撰組!皆さん!逃げて!逃げてぇ!!」
なんとも。ノリの良い店員さんは、御用改めの意味も分からないだろうに、そのまま叫びながら店の奥へ
すると、二階へ続く階段。その上に杖を構えた男が現れ
「新撰組だとぉ!?どうしてここが!」
そのまま、和磨は一瞬で階段を駆け上り、一閃。
男は、魔法を放つ間もなく、代わりに悲鳴をあげながら階段から転がり落ちた。
ドタドタドタ
「ガルム!お前は半数を率いて一階を制圧!残りは私に続け!」
和磨が一切の指示を出さない。というより出せないので、代わりにイザベラが。彼女の言に従い、隊士達が次々と駆け出す。
二階にはいくつか部屋があり、一つ一つ。和磨が扉を蹴破りながら中を確認。
そんな所に、イザベラ達が追いついた。
「和磨!ここじゃない。恐らく奥の大部屋」
その言葉を聞くや否や、和磨は走る。
何も、彼とてイノシシでは無いのだが、いかんせん今回は姫君自ら前線に出てきている訳で。だから少しでも早く敵を征圧しようと。
そんな思いがある中、奥の大部屋のドアを蹴り飛ばした―――――所で、魔法が炸裂。ドア諸共侵入者を粉々に吹き飛ばした。
が、吹き飛ばしたのはドアのみ。
肝心の和磨は、蹴った後直ぐに壁際に非難していたので無傷。
そのまま、次の一射が来る前に、一気に部屋の中へ。
20人程だろうか。全員が杖を持っているが、如何せん狭い部屋の中では思うようには魔法が使えず。何人かブレイドで応戦しようとした所、追いついて来たイザベラ率いる本体が乱入。
それぞれの怒号と罵声。悲鳴が入り混じりる中。
和磨が気づいた時には、手遅れだった。
二人のメイジが、それぞれ部屋の奥隅に。
彼らの特徴は、聞いていたそれと一致する。
すなわち、彼ら二人こそ、トライアングルのメイジにして、この組織のボスと副官。そんな二人は、味方諸共吹き飛ばすつもりなのだろう。詠唱がすでに途中まで
「このおぉぉ!!」
だから、和磨は躊躇無く駆ける。
片方。ボスの方へと。
そして、魔法が放たれる前に一閃。ただし、峰打ちで。
ドス!
崩れ落ちる相方を尻目に、もう片方がかまうものかと。杖を振り上げ大規模な魔法を放―――――――――とうとして、間抜けにも杖がスッポ抜けた。
何が起きたか理解できない男に、今度は和磨が再び。一閃。やはり峰打ち。
思わず、額の汗を拭った。
そのまま、ニヤリと。得意げに笑う姫君に、苦笑しながら目配せ。
そしてボスが討たれた事で、戦意を失った男達が、次々と降伏。
こうして、異世界にまた。イケダヤ事変と呼ばれる出来事が。
それをきっかけに、リュティス東部連合。新撰組の名は、瞬く間に知れ渡った。
彼らは今日も。リュティスの平和の為。「誠」の一文字背負い、戦い続ける。
あとがき。
この話は以前。本編二部の第二話の後半に書いていたのですが、皆様のご意見。ご感想。ご指摘を受け、外伝にしました。