第二部 第二話 日常 (旧タイトル 新撰組。大幅に修正しました。
ラドの月。日本で言えば九月。
伊達和磨が召還されたのはフェオの月。四月。
あれから五ヶ月。
和磨が騎士として務めて二ヶ月が経過した日。
今回は、そんな彼の一日をご紹介しよう。
「ふあ~ぁ~・・・・・・朝か・・・」
言いながら、黒髪の青年。和磨が体を起こす。
空は少し白みがかっている。早朝。
すっかり習慣となっている彼の起床は、目覚ましなど必要とはしない。
ここはプチ・トロワ。和磨の為に用意された一室。
そこに設えられたソファーから、ゆっくりとその身を起こす。
そして、二ヶ月ほど前から加わった同居人。いや、同居狼に目をやり、溜息。
狼。ガルムはその巨体を丸め、スヤスヤと。気持ち良さそうにベットの上。
そう。主であるハズの和磨がソファーで、使い魔であるハズのガルムがベット。
もちろん、これには理由がある。
それはまぁ、言ってしまえば単純な。つまり、和磨はあの豪華な。人が三人並んで寝ても、尚余りある程巨大で豪華なベットで寝ることが出来なかったのだ。
精神的な意味で。なんというか、落ち着かないと。
和磨は当初、いっそワラでも貰ってきて部屋の隅に布いて寝るかと。半ば本気で考えていたのだが、そこで目に付いたのがソファー。ふかふかで、人一人が十二分に横になって寝られる程の大きさ。試しに横になってみると、寝心地抜群。
以来、そこが和磨の寝床と化した。
そしてガルムを使い魔とした日。彼の辞書に遠慮という文字は無いのか。真っ先にベットの上で丸くなり。
以来、そこが彼の寝床となった。
『ふん。まぁまぁだな』
と。ありがたいお言葉。
そんなの事情で二人は一切争う事無く。平和的に寝床を定めた訳だが、やはり。こう、なんというか・・・釈然としない何かはある訳で。
「はぁ・・・ま、いいや」
すぐに気持ちを切り替え、部屋の隅に置いてある木刀を片手に。
シャツとズボンという寝巻き姿のまま、着替えとタオルを片手に和磨は庭へ。
まず水を汲んで顔を洗い、口を濯ぐ。
そしてそのまま、日課の千本素振り。
一振り一振り。丁寧に。
やがて素振りを終えると、予め井戸から汲んでおいた水を、そのまま頭から引っかぶる。
「っぶは~・・・あ~~~」
呼吸を整えながら、汗と水で寝巻きを脱ぎ捨て、タオルで体を拭く。
これで目覚めもスッキリ。
持ってきていた服。道着に着替え、脱ぎ捨てた寝巻きを片手に、今度はそのまま厨房へと。
途中すれ違った侍従と挨拶を交わし、寝巻きを手渡して。
そのままたどり着いた厨房からは、空きっ腹を刺激する良い匂いが。
「お、ボーズ!来たか。おはようさん!」
「ちーっす。セガールさん。今日は何ですか?」
「うむ。今日は前、お前さんが言ってたワショクの試作品があるぞ!」
「おぉ!またですか!頂きます!」
そのまま、テーブルに運ばれてきた料理。
「これは・・・鮭の塩焼きと味噌汁・・・?それと天ぷら?」
そこにはこんがりと。美味しそうに焼けた鮭(っぽい何かと、以前和磨が評した魚)の塩焼きと茶色く濁った汁物。そして衣で揚げた天ぷららしき物。
「あぁ。ミソシールとやらはどうだ?大分近づいてきてるんじゃないかと思うんだが」
言われ、ズズッっと。
「ん~・・・美味しいです。けど、味噌汁の味とは別ですね。やっぱ味噌が・・・それと・・・・・・」
ぶつぶつと。味噌汁(っぽい汁物)―――以下~っぽい~省略―――を啜りながらコメント。料理長のセガール氏も何やらふんふんと。頷きながら、その意見を聞く。
一応言わせて貰えば、味は十分過ぎるほど良いのだ。ただ、味噌汁としての味ではないと。それは他も同じで鮭の塩焼きは、これは普通に美味しい。文句なしだったが、天ぷら。こちらは、タレが問題だった。塩で食べれば普通に天ぷらなのだが、やはり。和磨としてはタレで食べたい。そんな感想を。なるべく事細かに口にする。
「ふむ。なるほどな。よし。次はもっと上手くやってみせるぞ!!」
「是非お願いします。出来るだけ協力しますので」
「おう!楽しみにしてろ!」
その後「ご馳走様でした」と。手を合わせ一言。厨房を後にする。
一度部屋に戻り、未だに眠りこける銀狼を無視し、刀と木刀を。
そのまま豪華な内装の施されたプチ・トロワの廊下を進み。
やがて、和磨は一室。イザベラの執務室の前に到着。
一言。扉の前に控える衛兵に挨拶し、入室。
中では部屋の主である蒼の少女が、机の上に置かれた書類と睨み合いの最中であった。
以前は部屋に控えている事が多かった侍従達は、最近は居ない。
邪魔にならぬようにと。呼ばれたとき以外は基本的にこの部屋には居ないのだ。
だから、和磨は挨拶せず。邪魔しないようにそっと。
途中で本棚から数冊の本を手に取り、部屋の隅に用意されている机と椅子の下へ。
その机はイザベラのそれよりは遥かに見劣りするが、それなりにしっかりと作りこまれていて、勉強机程の大きさ。引き出しもある。
中から何枚かの紙を取り出し。
そして腰を下ろし、分厚い本を。栞が挟まれているページを開いた。
伊達和磨という青年は、本来読書をしない。
漫画などは良く読んでいたが、活字に興味は無い。無かった。
それが変わったのはこちらに来てから。
正確には、近衛騎士になってからである。
それまでは侍従見習いとしての仕事だの、騎士見習いとしての訓練だの、姫殿下のお相手などで―――コレが最重要―――とても本を読む時間など無かった。
が、近衛になり。侍従見習いの仕事が無くなり、更に。最近国家改革プロジェクト実行の為、鋭意努力中の姫君の相手をする時間も減り、結果。手持ち無沙汰となった訳だ。
そんな時暇つぶしにと。
本棚に置いてあった一冊を手に取ったのが、それがきっかけ。
以前も和磨は何冊かこの世界の本を読んだ事はある。が、娯楽が発達し、様々な文化が、芸術が、物語が生み出され続ける現代で生活してきた和磨にとって、バタフラ婦人シリーズなどの―――――この本を引き合いに出すのは間違いとか、そんな話は置いといて―――――ハルケギニアの書籍は、どれもこれも。言ってしまえばつまらない物だった。なんというか、新鮮味が無いのだ。
だが、その時和磨が何の気なしに手にした本は、それらの本とは一線を画す。
歴史書。この世界の歴史を記した本であった。
それは、和磨にとってこの世界のどんな物語よりも面白い物となった。
なにせ歴史書という事は、実際にこの世界であった出来事が書いてあるのだ。そして和磨にとって。この世界そのものがもう、物語の世界と言える物で。
そんな世界の今までの記録。それは事実だけに、どんな創作物よりも魅力的。
そしてこの歴史書の面白さはコレだけではない。
この世界の歴史書とは――――元の世界でも一概にそうとは言えないが――――一人が。もしくは共通の認識を持った複数が書く物では無く、作者。またはそれを書かせた国の主観で書かれる物だ。
つまり。
例えば、ブリミル暦1000年。ガリアとトリステインが、ダンケルクという場所で戦ったと。そういう歴史があったとして。
ガリアの歴史書には
「暦千年。我がガリア王国軍凡そ三千が、ダンケルクへと進撃。トリステイン軍二千と対峙した。そして明くる日。我が軍は、敵を殲滅すべく総攻撃を開始。しかし、敵軍の抵抗は激しく、かなりの消耗を強いられつつも、結果。我が軍は勝利を収めた。だが、諸々の事情を鑑た結果、王国はこの地を放棄する事を決定。軍に帰還命令を出す」
一方、トリステインの歴史書には
「ブリミル暦1000年。我が神聖な国土に、ガリアの軍が攻め寄せた。そこで、当時の国王陛下自らが諸侯を率い出陣、ダンケルクにて両軍が対峙。しかし、数は我が方が少なく、若干の不利。打って出るには危険。そこで、国王陛下の策により、ガリア軍を挑発。攻め寄せる敵軍に対し、我が軍は陣を築き、堅守により、敵軍を撃退。見事、多数の敵を打ち破った」
そして、この戦に関係のないアルビオンの書では
「暦1000年。トリステインとガリアがダンケルクにて会戦。双方に多大な被害を出しつつも、引き分けに終わる」
と。
こんな感じで、それぞれ全く別の書き方がされている。
だから和磨は、同じ年代の違う国。複数の歴史書を眺め、それぞれを比較。その他の資料も引っ張り出して来て検証し、羊皮紙にスラスラと。
和磨から見た正しい歴史の覚書を書くのが、最近の彼の趣味である。
幸いにして当時から統一の言語が使われているこの世界では、それは然程難しい事では無い。が、今までその様な事をする人物が居なかったのか、世に出てないのか知らないが。だから和磨が纏めて見ようと。
それは、歴史のミステリーに挑む心境か。
後の世に、彼の記した覚書が正式な歴史書として世に出るかどうかは、現時点では誰にも分からない事。
と、まぁ長くなったが、そうして和磨は時間を潰す。
いまだ、姫君の処務は終わらず。
ついでなので、この機会に。
ここ二ヶ月で和磨に起きた変化をもう一つ。
和磨が銀狼を使い魔にして少しした日。
王政府より、一枚の命令書が届いた。
それはを読み進める内に、和磨の顔がどんどん引きつっていく。
それは「新教徒が村を一つ占拠した。そこに、ロマリア宗教庁からの要請を受け、北花壇騎士を派遣する事に」と。他にも色々と書かれていたのだが、要訳すると「一般市民を殺して来い」と。しかも一人二人では無く、村丸ごと。
その命令を受けとったイザベラの体は、プルプルと震えていた。
それは怒り。罪無き民を殺す事への。では無い。
それは悲しみ。罪無き民へを殺す事への。では無い。
正直、彼女にしてもガリアの民を殺せと。そう言われても、特に思うところは無い。彼女が民の為になる国政をしようとしているのは、一重に。自身の存在を示すため、その為に国を良くする。自身の手腕でもって。その過程として、民が富む。それだけであって、民を愛している訳では無いのだから。
では何故、怒り、悲しんでいるかと。
それは、ただ一人の騎士の為。
怒り。この任務は所謂踏み絵なのだ。そもそも、あの父王は新教徒だからと、それくらいでどうこうする性格では無い。むしろ。それが?と。そう言って何もしない様な男なのだ。だが、かといって別に危険がある訳でもない。だから行けと。だから、これは踏み絵。もしくは、嫌がらせ。はたまた他の意図か。
もしこれを断ればそれこそ次にどんな指令が来るか・・・そして「近衛の任」という言い訳は、伝家の宝刀。そう易々と乱用する訳にはいかないから。いざと言う時。余程危険な任務。和磨の体調不良。時期の問題。など、それらの事情などでない限りは、極力使用すべきではない。ましてや、この”程度”では。
だから少女は悲しんだ。
彼は、和磨ははっきりと言ったから。生き物は殺したくは無いと。
悪人なら。法律で死刑と。決まっているなら、まだ良いだろう。しかし、今回の任務は全くの、無実の民を斬れと。彼の心境は如何ほどかと。だから。
彼女がその任務を言い渡す時。
その瞳からは涙。
震える声で、涙ながらに。しかし、はっきりと。彼女自らが言い渡す。
だから、和磨も、肯く事で承知した。
握る拳から血を滴らせて。
それでも、その気持ちが伝わったから。
だから、自らの思いを押し留めて。
そして和磨の正式な初任務。
夜の闇に紛れ対象の村の周囲に錬金で溝を掘る。そこに予め用意しておいた油を流し、火を放つ。
それは、一人も逃がさない為。命令書にははっきりと「一人残らず」と。書いてあったのだから。
そして、炎の檻の中へと。和磨は跳ぶ。
この炎はあくまでも逃走防止用。じわじわと蒸し焼きにする為の炎では断じて無い。
だから和磨は自らの手で、刀で、魔法で。せめて、苦しまずに。
彼はその時泣いていた。
あの日。あの丘で。あの時決めたから。
彼女の。蒼の少女の為に、刀を振ろうと。
それでも、やはり泣いていた。
無実の人を。関係ないとは言えただ平和に暮らしていた人を。
だから泣いている。
それでも、彼女は命令をした。自分に。
それは主として。だから自分は応えなければならない。それは騎士として。
彼女はあの時言った。全て背負うと。
和磨は泣いている。
無実の民を斬る事の、それは懺悔。彼女を泣かせてしまった事への後悔。
あの時は。カステルモールを斬る時は、最後まで。一太刀入れるまでは泣かなかった。
だけど今は。
ただただ。泣きながら。その声は、悲しみの咆哮。
ごめん。
後で、墓を作ろう。
彼らの墓を。
今の自分にできる事はそれだけだから。
そして今。この瞬間を。生涯忘れないと。その墓に誓うと。
だから。
万感を込め、刀を振るう。
そうして任務を完了した所、どうやら村人が雇っていたのか。そして、たまたま村を離れていたのか。それとも偶然。近くを通りかかったのか。
一人のメイジ。
そのまま戦闘に入り、何とか撃退。
しかし、和磨も半身にライトニング・クラウドの魔法を食らい、大怪我を。
そのままガルムに背負われ帰還。
体の半分が黒こげになり、意識の無い和磨を見て、半狂乱になる姫君を宥め、侍従長が手配した水メイジは、惜しげも無く秘薬を使用。
和磨は二日間眠り続け、三日目の朝。
目を覚ますと、丁度看病をしてくれていたのか。
蒼の髪が目に入り、そのまま胸に軽い衝撃を受けた。
和磨の部屋から、しばらく。少女の。そして少年の泣く声が聞えた。
そんなこんなでこの二ヶ月。
通常では在り得ない頻度で、王政府から次々と命令書が送られてくる。
しかもタチが悪い事に、字図らでは大した危険が無い任務でも、いざ行ってみれば非常に過酷と。そんな物ばかり。
そして怪我が治るまでは。一定期間の休養を置いての。和磨が耐えられるであろうギリギリの部分を見定めての指令。
そんなこんなで、かなりのハイペースで死にかけるけるのだが、文句も言えず。
またある時、見かねた王女が「何か他に武器を使うか?」と。銃や何やら。
しかし和磨は断った。
銃だと実感が無いからと。
何も、彼は人を殺める感覚を楽しむような変態という訳では無く。それが無くなると怖いからと。魔法は、自らの精神力。魔力から来ているので、しっかりと。むしろ、刀よりも実感がある。それこそ、精神的に。しかし、銃は引き金を引くだけ。それは余りに簡単で、余りに残酷だと。
そんな訳で今もまだ。彼の武器は刀のみ。
ここで。使い魔を紹介したならば、次はその主を紹介せねばなるまい。
ガリア王国第一王女イザベラ。
彼女は、実はそこまで忙しくは無い。
何故かと。理由はもちろんある。
先も何度か述べているように彼女は現在。国政に参加すべく、努力を重ねている。
しかし、そんな彼女がやっているのは、連日の様に宮廷に顔を出す事では無く。
毎日の様に開かれる宴に参加する訳でも無い。
彼女のやっている事は、毎日午前中に書類を睨みつけ、定期的に開かれている派閥の会合に顔を出すだけ。
こうして書くと特に何もしていないように見えるが、それは違う。
宮廷に顔を出しても、魔法が使えぬ無能姫と。相変わらずそんな評価の彼女を相手にする大貴族は居らず。宴に参加しても、適当なお世辞を聞かされるだけで意味が無い。
では、何をしているのか?
それは先も述べた通り。というか、今の彼女にはそれしか出来ないのだが。
一口に国政に参加と言っても。いくら派閥を作ったと言っても。所詮、それは若手の。領地持ちすら少数で、寄せ集めと。そう取られる様な物。そんな彼らが宮廷政治に口を挟める訳も無く。
だから現在彼ら――――以下イザベラ派で統一―――――イザベラ派は、まずはその数を増やす事から始めている。
数こそは力。
それがこの国の政治。そして、彼らは皆若い。つまり、この国の次世代を担う者が多いと。そういう事である。だから彼らは焦らず。現在ある大貴族達の派閥の切り崩しと、新規の取り込みを中心に。
それをするのは姫君では無く、他の貴族達の役目。
姫君の役目は、定期的に開かれる会合に顔を出し、彼らの御旗となり。また、新人に直接声をかけ。イザベラ派による、国家改正案の草案を煮詰める事。
現在彼ら彼女ら。イザベラ派が――――彼女が和磨の話を参考にして――――計画している事は大きく分けて五つ。
一つ。国民の所得増加。
年収百エキューの平民から二十エキューの税金をとるより、年収二百エキューの平民から三十エキューの税金を取ったほうが王国としても収入が増え、平民としても税が安くと。
とは言え、言うは安し。これは綿密な計画と、試行錯誤。長い時間が必要だろう。それこそ、十年二十年単位の。
一つ。国民の教育。
これは上記の物に関わる事だが、現在のガリアの。いや、ハルケギニアの平民は、その多くが字すら読めない。そんな彼らに王政府から出す布告などを理解させるにも、現状では一々人をやり、口頭で説明しなければならない。その為、何をするにも効率が悪いのだ。だからこそ、学校を。学び舎を建設し、国営にして平民に教育を施そうと。何も特別な学問を教えるのではなく、基本的な読み書きと計算の仕方。後は、自ら学びたいと思う者のための専門機関を。
これもやはり、他の貴族の反対やらなにやらで今すぐは無理。
やはり多くの時が必要だろう。
一つ。王領の拡大。
これは最初、男爵。子爵等の小領主を対象に。彼らの領地を王国が買い取る。小領の主というのは、かなり生活が厳しい。収入の殆どを領地経営、軍備、貴族の付き合いにと。それらに取られてしまうので、懐に入る額は極小額。そこで、それ以上の給与を与えるとして王国で官職を与え召抱える。しかし、これもまた問題が。六千年の歴史ある国家ガリアでは、先祖代々が守ってきた土地と。そうして小さくても、その土地を守る為に必死になる貴族は多い。
だからこそ。こちらも時間がかかる。
彼ら若い世代が、少しづつ。どちらの方が利があるかを説いて周ったりと。地道に工作しなければならないのだから。それこそ、百年単位で時間がかかるだろう。
一つ。常備軍の設立。
上記の三つにより財源を確保し、その財を持って常備軍を。現在の軍は、どこも戦の度に平民を徴兵している。一応、常設の兵士はどこの国も持つのだが、数は少数でしかない。なのでこれを数千。数万単位の常備軍とする。豊かな国を作り、守るにはある程度の力が。軍備が必要である。常に戦の危険に晒されるようでは、発展など望めないのだから。
これもやはり、数十年単位の時間が必要。
一つ。屯田制。
かつてありし魏の国の王が考案した手法。だが、これはそれに手を加えている。かつての屯田制は「宮の兵士が農民を護衛し荒れた土地を耕す」と。土地を耕すのはあくまでも農民。しかしこの場合は、上記の常備軍を持って訓練と称して畑を。農地を開拓する。それは彼ら兵士に愛国心を。自分達が耕した土地を、自分達で守るという心を持たせると共に、国をより豊かにするという政策。
これもやはり、時間が必要。
少数でなら今すぐにでもできるが、農地の開拓を少数で行おうとすると時間がかかる上、他の貴族からなんぞ文句でも来るかもしれない。
「王国を守護する兵に平民の真似事をさせるなど」云々。
以上が大まかな計画。
その他こまごまとした事で関税の引き下げ、または撤廃。新しいガリアの特産品の開発。より効率的な領地運営。無駄の廃止。等いくらでも議題はあるのだが、どれも共通しているのは時間がかかると言う事と、今のイザベラ派にはそれらを実行できるだけの力が無いと言う事。
しかし、彼らは焦らない。
なにせ彼らは皆若いのだから。そして何より。若いからこそ、古い伝統や仕来りに縛られず、自由な発想ができる。何よりも野心がある。その野心がまた、力になる。
第一王女イザベラという御旗が彼らにある限り。いずれ。どんな形にせよ、彼らが台頭するのは間違いない。
なので、その時までに草案を煮詰め、いざとなったら即実行に移せるようにと。
イザベラは。彼女は、それらの草案の纏めや、資料の整理。その他政策の勉強などに丸一日費やす事をせず。午前中~午後の頭まで。それまでの間に、その日の予定を全て消化している。それは、夏休みの宿題を初日で終わらせるかの如く。凄まじい集中力で。
一人の天才が現れ、その人物の力により劇的な変化をもたらす。
そんな話は数多い。だが彼らは。彼らの御旗たる、蒼の姫君はそれとは逆。平凡であるからこそ。そしてそれを理解しているからこそ、必死に努力し、人を集め。皆で知恵を振り絞る。しかし、その姿こそ。百凡の者達にも分かりやすく。だからこそ、自分達でも役に立てると、皆が奮い立つ。
いつの日か。そんな彼ら、イザベラ派が日の目を浴びる日が来るのか。
それは、現時点ではまだ誰にも分からない。
とまぁ、いろいろと語ったが、気づけば時刻は既に昼。
コンコン
ドアを叩く音がしてすぐに。
クリスティナ侍従長が、お盆を持ち、その上には昼食。
「姫様。ここにお置き致します」
それだけ言い、返事を聞かずにイザベラの机に皿を一枚。紅茶を淹れる。
皿にはパンに野菜。ハムが挟まったサンドウィッチ。片手で食べれるようにと、小さくしてあるそれ。
姫君は「ん」と。答えるだけで、その目は相変わらず書類へ。
次に和磨にも同じものを。
「ども」
軽く会釈。
和磨も本を片手に、サンドウィッチをもう片手。咀嚼しながら作業を続ける。
そんな主従を見て特に何も言わず、彼女はそのまま一礼すると、部屋を後に。
そのまましばし。
二人だけの静かな時が流れ。
特に何か会話がある訳でも無い。
お互い字を読み、書くという作業をしているだけ。
だがそれは、どこか居心地の良い空間。
何故か、暖かい。そんな気がする部屋。
それが、現在の彼女の。彼女達の執務室。
やがて
「んん~~~~~~~~~~~っはぁ~~~~~~」
パタン
王女様が大きく伸び。
それが合図か。和磨は本に栞を挟み、閉じる。
「今日の分は終わったのか?」
「ん~~~~~~おわったぁ~~~~~。疲れた・・・・・・かずまぁ・・・」
グッタリと。机に体を投げ出す姫君。
そんな主に苦笑しながら和磨。
「はいはい。・・・・・・ほれ。おら・・・ここか・・・っなっと」
「ん・・・んん!・・・ぅん・・・っんはぁ~・・・あぁ・・・そこ・・・」
「まったくっ!これ。近衛の。仕事じゃ。ねーぞ。っと」
「ぁっ・・・ぁあ~~~・・・そこ。いい」
「はいはい。姫殿下の。仰せの。ままにっ!」
「んっ!イタッ!ちょ・・・もう少し優しく」
「へいへい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
まぁ、肩を揉んでいるだけなのだが。
そのまましばらく。
和磨はイザベラの肩を揉み続ける。
余談だが、扉に耳を当て、部屋の中の音声を聞き取ろうとするメイドが、ここプチ・トロワの新たな名物になってるとかないとか。
そんなこんなでしばらく。
「ふ~・・・そういや、カズマ。今日予定はあるのか?」
「ん~・・・予定。あぁ、ある。今日は俺、会合に呼ばれてるんだわ」
「ふ~ん・・・んじゃ、私も行く」
「ん?まぁ、別にいいけど。んじゃ、先に外で待ってるぞ」
そのまま、和磨は部屋を後に。
プチ・トロワの門前に出た所で
「・・・・・・よぉ、駄犬。良く眠れたか?」
『うむ。あのベットは最高だ。素晴らしい寝心地である』
最初は「まぁまぁ」と。ベットをそう評していたガルムが、眠そうな目を擦りながら。いや、実際は擦ってない。トロンとした半目でのっそのっそと歩み寄ってくる。
「・・・はぁ。まぁいいや。今から出かけるんだけど、お前も来るか?」
『む?街に出るのか?』
「あぁ」
『では、付いて行ってやろう。ありがたく思え』
言いながら、カっと目を見開き、先住の変化の魔法を。
すると、巨大な銀狼は普通の。と言っても、ゴールデンレトリバーくらいの大きさの銀狼に。
その尻尾は千切れんばかりに激しく。左右に振られている。
「・・・・・・・・・はぁ~~~~~~」
彼が街に出るのを嬉しそうにするのは他でもない。そこで和磨に餌を買い与えて――――――本人曰く貢物――――――もらえるからに他ならない。
別に普段の食事に困っているという訳では無く、街にしか無いような多種多様な物を食べるのが好きなんだとか。
普段は高級な肉をガツガツとかっ食らっているクセに。
こんな時間。昼過ぎまで惰眠を貪っていた己の使い魔。
マダオ―――――まるでダメなオオカミ―――――を見て、大きな溜息。
まぁ、和磨が言われるがままに餌を買い与えているのがいけないのだが。それはそれ。
騎士年給の他に、近衛としての高給。クビになっていない侍従見習いの給料。さらに北花壇騎士としての給料まで。
はっきり言って、和磨は金に全く困っていなかった。同時に、今のところ使い道も全く無いので、特に理由が無ければ金に関してはグダグダ言わないのだ。
それになにより、ガルムには命を助けられている。それこそ、任務の度に。だからこそその程度で文句を言うつもりは無い。
愚痴くらいは言うだろうが・・・・・・
そんな所に姫君到着。
いつか刀を購入した日。あの日と同じ格好で。
「待たせたな。行くぞ!」
元気良く。
『うむ!』
・・・こちらも大変元気が宜しい。
「・・・はぁ・・・」
一人嘆息する男を引き連れ、少女と狼は一路。ハルケギニア最大の都市。リュティスへと繰り出す。
『ふぉふ。ふぉへふぁはふぁはふぁ』
「口の中の物飲み込んでから話せ駄犬」
シャクシャク
『うむ。これは美味だな』
律儀に。果物。りんごのような何かを咀嚼し、繰り返す狼。
「ほら。これも食うか?」
『感謝する。姫』
ガルムは、イザベラの事を「姫」と。そう呼ぶ。和磨は「カズマ」か「小僧」。この差はいかに。
そしてそんな狼に、手に持っていた果物をポイと。頬リ、狼はそれをパク。口でキャッチ。
再び美味そうにジャリジャリと。
この二人が揃うといつもコレである。
「はぁ・・・」
和磨としては保護者の心境。
キョロキョロと。物珍しそうに辺りを見渡し、食べ物を見つけてはそれを買い―――――勿論。全て和磨の金で―――――自身で食べ、またガルムに食べさせると。
無邪気に犬と遊ぶ娘を眺める父親のそれか。
和磨の顔には疲労が。しかし苦笑い。
これが彼女なりのストレス発散になるなら、悪くないと。そう思いながら。
それに、和磨は好きだった。こんな平和な日常が。
今尚北花壇騎士として手を汚す自分は、既にいくらかの。多くの命を奪った自分は。自分にもまだ、居場所があると。そう、思えるから。
そう思わせてくれる少女の笑顔を見るのが、何よりも好きだと。
ふと。何とも言えない表情をしていると
「おやまぁ、カズちゃんもいつも大変だねぇ」
「そうなんですよ。分かってくれますか?」
「わかるわかる。だからさ、コレなんてどうだい?」
近くにいた商店のおばちゃんが、和磨に声をかけ、再び食べ物を
「いや・・・」
『む?なんだそれは?』
「これかい?コレはクックベリーパイって言う」
『カズマ!コレだ!我はコレを所望する!』
「あ、私も」
断ろうとした所、マダオと姫。
二人とも―――――イザベラには無いが―――――尻尾を激しく左右に。
「・・・わーった。買う」
「まいど~♪」
諦めて購入した所で
「おーい!カズ坊。これを――――」
「あらあら。カズマ君。うちの店の―――」
「おいおい。皆。小僧が困ってるぞ?だからさ。そこでコレ―――」
・・・・・・・・・
いつもコレ。
惜しげもなく金を落とす和磨は、界隈では大人気である。
最初はそれこそ、変な格好の青年だと。
最近。彼が近衛騎士であると知れ渡ると、皆恐縮していたのだが、本人が気さくに話すので、いつの間にかこの様な状況に。
最初にガルムを連れて来た時も皆喋る狼を見て最初は驚くのだが、そういう物だと受け入れるとすぐさま。彼は大人気となった。
良く食べる良い客という意味で―――カモ―――だけでは無く。
「あー!がるむちゃんだ!!」
「ほんとだ!」
「わんちゃん~♪」
『な、何だ!?貴様等!また我を!我の毛を引っ張る心算か!?だめだ!やめろ!この毛は!あ、こら!尻尾を!ちょ!やめ!カズマ!!助け!』
子供達に。
流石に彼も子供相手には弱いのか。邪気が無いので無碍にも出来ず、されるがままに。
もし彼が本来の巨狼であれば・・・いや、子供達に人形の大きさなど関係ないかもしれない。
あっと言う間に揉みくちゃにされ、悲痛な悲鳴が。
そんな使い魔の姿を見て、良い気味だと。しかし楽しそうに笑う和磨の下に、新たな人影。
「局長!」
「ん?あれ、トシさん。見回りご苦労様」
呼ばれ、振り返るとそこには。
蒼。いや。
青の羽織。その袖口には白で山形の模様。ダンダラ模様。背中には白い字で。
大きく「誠」の一文字。
和磨の世界。元の国で、幕末に存在した集団。
新撰組の羽織を羽織った男が一人。
トシさんと。呼ばれた男には、皆様も見覚えがあるのでは。え?わからない?
トシ。
本名トルシエ。
彼は以前。和磨に金銭を要求し、蒼の少女に成敗された物取りのリーダーである。
「局長こそ。ご苦労様です。それと姉御!本日もご機嫌麗しゅう」
「姉御はやめろと・・・副長と呼べよ」
姉御。ゲンナリする蒼の姫君に頭を下げるトシさん。
何故に和磨が局長で、何故にイザベラが副長で姉御で、何故にトシさんが新撰組の羽織なんぞ着ているのか。
それでは少し説明をば。
それは和磨が近衛になって少し。つまり約二ヶ月前。
基本午前中暇な和磨は、この日は朝から町へと繰り出していた。
目的は特に無い。ただの散歩。
しかしそこで意外な顔に再開する。
それが彼、トシさん事トルシエ。
再び物取りとして現れた彼だったが、相手が和磨と気付くとその場で土下座。
見逃してくださいと。
しかし、別に和磨は彼をどうこうする気は無い。というか、今の今まで忘れていたのだから。
そこでふと疑問に思ったのだ。
「あんたら、他に働き口ないのか?」
現代では無くこの世界なら。他にやろうと思えばいくらでも仕事はありそうな物なのだが。と。
しかしまぁ、それは所詮他人。いや、他世界からの視点。
話を聞くと、どこかで畑を耕そうにも良い場所には既に人が。元手となる金も無し。傭兵をやろうにも、自分達は所詮街のチンピラ。戦争なんぞできるハズも無く。文字も書けず、計算も出来ず。どこか遠くの寒村なら暮らせるだろうが、そこまで行く路銀も無し。とまぁ、そんな状況。
そこまで聞いて、流石に和磨も同情。というか、以前の彼らへの仕打ちを思い出し反省。完全な八つ当たりで彼らをイジメたのだ。今にして思えば、なんというか。
そこで、力になる事にした。
と言っても金を与えるのではない。それでは一時しのぎにしかならず、根本の解決にはならないからだ。
しかも彼らは。いや、和磨も運が良かった。和磨は昨日。イザベラから、リュティスの治安についての意見を聞かれていたので、丁度。その事を彼らの話を聞いてる内に思いついたのだ。
元の世界で言うヤの付く人々。
今はマル暴か。ともかく、そんな感じ。
つまり、彼らチンピラを集め、組織として束ね治安を維持する。そして、その代わりに店などから上がりを。治安維持の代金を頂くと。そういうシステム。
そうこうして、彼。トルシエを頭にしたトルシエ組が組織されたのが約二ヶ月前。
和磨の地道な募金活動―――買い物―――と誠意の在る説得により、彼らトルシエ組が一帯を縄張りにするのに、そう時間はかからなかった。
が、しかし。ここで問題が。
世の中。似たような事を考える人は居る物で。
彼らの縄張りの隣りに、似たような組織が存在する事が発覚。
そこで両組織の血で血を洗う抗争が始まる。
と、まぁそうなりかけた所で、知らせを聞いた和磨が慌てて駆けつけた。
相手も近衛騎士に逆らうような愚かな真似はせず、その場は引き下がる。
しかしそれではやはり解決になっていないと。
だから再び和磨。
今度は彼が仲介人として立ち会って、二つの組織の業務提携。まぁ、正式な縄張りの決定と、細かい取り決め。それらを、あくまでも話し合いで。平和的に決めさせた。
どちらも、近衛騎士自らが出張ってきている場で争う事はせず。そして和磨も、お互いに争うよりも、利を持って協力した方がより良いと。説き伏せ、事なきを得た。
しかし。真に忙しくなるのはこれからだった。
人の口には戸が立てられない。
そう言った揉め事の仲介をしたと。
あっという間に噂が流れ、更に。協力関係になった二つの組織が、ますます力を付けていくのを見て、我も我もと。次々に仲介の依頼が―――トルシエ経由―――で殺到。
そうこうして一月が経過した日。
その日、ある歴史的な会合が開かれていた。
即ち、ガリア王国首都リュティス。
そこを東西南北の四つに分けた場合。
その場合の東部一帯に当たるのが、彼ら会合集の縄張り。
そしてこの会合こそ、東部一帯の組織が一つに纏まるという席である。
しかし。こういった組織では、誰が上に立つか。それで必ず揉める。
例えると、彼らは貴族なのだ。それぞれ大きさが同じくらいの領地を持つ。力関係も、そこまで大きな違いは無い。血による優劣も当然無し。その中で王を選べと。民主主義の概念が無いこの世界では、常に王が。トップが必要。
だが、この場合はすんなり決まった。
王。この組織の代表に皆が皆、和磨を推薦したのだ。
組織間の交渉を全て仲介し、決してその席で武力を持ち出さず。公平に。なによりも私心が無い。だからこそと。
最初、和磨は断った。
それこそ器じゃない。他にもっと優秀な人間がいるはずだと。
しかしそれでも周囲の説得攻勢は続く。どうやら予め和磨を上に置く事で密かに合意していたのか、次々と。運営はそれぞれの組織から代表を出し、その会合で決めるだの。細かい作業は全部こっちでやるだの。ただ上に居るだけでいいだの。
そんな中、和磨はふと。ある事を思い、それは良いと。
二つの条件を出す事でそれを了承した。
一つ。東部一帯の組織連合。この名前を「新撰組」とする事。
一つ。自分を局長と呼ぶ事。
まぁ、ようするに和磨の趣味である。名前だけ頂いただけで、実態はまるで違うが、ともかく趣味。
こうして、30万人都市リュティスの東部一帯を統括する巨大組織。
新撰組が誕生した。
その後、和磨はこれまでの経緯をイザベラに報告――――――実は報告するのを忘れてたので――――――した所、大いに感謝された。内心忘れてた事を怒られるのでは無いかとビクビクしていたのだが、拍子抜けである。そんな彼女からまた提案が。
その提案と王女本人を携え、第一回目の会合に参加したのは、結成から三日目。
彼女はその席で「エリザベータ」と。
以前名乗った偽名を名乗り、また周りも。その蒼い髪の意味を理解するリュティスの民も、貴族の暗黙のルール。偽名を名乗るという事は、それ即ち別人として扱えと。それに従い特に何も言わず。
その席で彼女は新撰組を王政府の。正確には、イザベラの直轄機関とすると。
そうする事で、今までの収入源だった警備費用を徴収から給与へと。つまり、金は姫君が出す。そんな事になったのだ。
それは治安維持に騎士を巡回させるなど、それらの費用に比べれば遥かに安く済む。しかも目に見えて効果が現れるので、何かの交渉の材料にも使えると、彼女としても願ったり適ったり。
そんなこんなで、彼らは蒼。青を。
青を基調とした羽織を身につけ、背中に「誠」の一文字を背負う構成員達は、連日。リュティス東部を巡回。
彼らは、実に精力的に働いた。
何せ街のチンピラだった自分達が、今や王政府お抱えの治安維持組織である。
そのきっかけをくれた局長の為に。
また、王政府に。姫君に報いる為にと。
それらの事情があり、リュティスの東部一帯は現在、非常に治安が良い。
ハルケギニア一と。そう言っても良いほどに。
「それでは局長。姉御。まもなく会合ですので」
「はいよ。おら駄犬。何時まで遊んでるんだ?行くぞ」
子供達のオモチャにされた銀狼を引きずり、姫君と共に一軒の酒場に。
「おや、局長。いらっしゃい」
マスターに挨拶され、向かったのは酒場の二階。現在、ここが彼らの会合の場である。
「「「局長!姉御!お待ちしておりました!!」」」
「姉御じゃない!副長だ!!はったおすぞ馬鹿共!!」
そんな叫び方をするから姉御と呼ばれるんだと。
それを口にしない和磨は黙って上座へ。
その横に当然の様に姫君が座り、後ろに銀狼。
主要なメンバーが集まった所で、会合が始まる。
様々な議題が話し合われる中、和磨はそれらを右から左へ。どうせ聞いても分からない。それに、こういうのは主の。イザベラの領分である。積極的に発言し、意見を纏めていくイザベラ。実務能力皆無の和磨を完璧に補佐するその姿は、当に組織のナンバー2。副長と。そんな姿を横目で眺めながら、物思いに耽っている事しばし。
いつの間にか会議は進み、終盤に。
日が大分傾いている。
「――――――では、本日の議題は以上です。局長」
呼ばれ、意識を現実へと。
「ん、うん。皆さん。ご苦労様。これからも宜しく」
「以上!各自解散!次回までにさっきの件。しっかり纏めときなよ!」
「「「はっ!!」」」
どちらかと言えば和磨の締めの挨拶より、イザベラの指示に対する返事なのだが・・・まぁ、この場の誰も何も言わないので問題は無い。
そのまま、和磨は退席しようとした所、トシさん事トルシエに呼び止められた。
「あ、局長」
「ん?まだ何かあったっけ?」
「いえ。これから皆で下の酒場で飲もうと。そういう話になってまして。宜しければ局長もと」
言われ、しばし思考―――――していると横から
『ふむ。良かろう。カズマが行かぬのなら、我が顔を出してやろう』
涎を拭け。
「あ~・・・うん。そうだね。トシさん。悪いけど、俺はパス。その代わりってのはなんだけど、コイツ。よろしく」
苦笑しながらの謝罪に、トルシエも苦笑気味に「わかりました」と。
そのまま、銀狼を伴って下階へと。
いつの間にかその部屋には既に人は居ない。
居るのは和磨。それと、主の少女のみ。
「・・・さて、私達もそろそろ帰るか」
「あぁ」
そのまま二人。
喧騒響く酒場を後に。
夕暮れのリュティスを歩く。
カァ・・・ァカァ・・・カァ・・・
カラス。では無いだろう。しかし、似たような泣き声。
夕暮れに響くそれは、酷く悲しく聞こえる。
和磨は、酒を飲まない。
飲めない訳ではない。
元の世界では一応飲んでいなかったが、こちらに来て、ワインだの何だの。進められるがままに飲んでいる。いや、飲んでいた。
彼が酒を断ったのは、あの日から。
朝焼けの中。あの丘で。
契約を交わしたあの日。
それ以来、進められても飲む事は無く、宴に呼ばれても水をチビチビ飲むだけ。
理由は単純と言えば単純。
ただ、怖いから。
酒に酔うと何を口走るか分からないのが。何を想うか分からないのが。
決めた。覚悟も。
しかし、それでも。酒の魔力で吐露してしまうのが怖い。
人を斬り。人を殺め。人を屠る。
決めたから。嘆くのは後でと。だから、後である今。それを吐き出してしまいそうで、そしてそれを周囲に。何より、たった一人の主に聞かれるのが怖い。
今、自分はどんな顔をしているのだろうか?
ここに鏡は無い。
だから、それは分からない。
しかし
「カズマ」
呼ばれ、空を見上げていた顔を落とす。
「ほら、帰ろう」
彼女は、心配してくれたのだろうか?
いや、そうだろう。
だから。心配して、気を使ってくれているからこそ、いつも自分に対して明るく接し、そして今も。いつも変わらない態度で。
差し出された手に、自分の手を。
「あぁ。帰るか」
夕暮れの中二人。
手をつなぎ。いや、この場合は手を取り合ったと。そう表現すべきだ。
お互いに支え合いながら。
足りない部分を補いながら。
彼らの、帰るべき場所へと。
あとがき。
新撰組。治安維持組織としてが主です。名前と羽織だけお借りしました。
幕末ネタ。というより名前だけですが、これキリにしようかと。
背景やら何やらは全く別ですね。
最初この話の後半に、外伝の池田屋の件を入れていたのですが、皆様のご意見。ご指摘。ご感想を受け、その部分を削り、そちらは外伝として改めて掲載。
本編も、加筆して大幅に修正させて頂きました。
皆様のご意見。大変参考になり、また、自信の考えを改めさせられまして。非常に感謝しております。繰り返しになりますが、多くのご意見ありがとうございました。
ちょっと修正を。またちょくちょく修正するかもです。
嘘次回予告 (嘘です。今度は信じないで下さい
諸君。私は脇役が好きだ。
チョイ役が好きだ。やられ役が好きだ。一発キャラが好きだ。敵キャラが好きだ。雑魚キャラが好きだ。解説キャラが好きだ。マッドなドクターなど特に好きだ!
普段誰も気にも留めないような脇役が私は大好きだ!!
漫画で。映画で。活字で。小説で。SSで。あらゆる物語で!
この世のありとあらるゆ脇役達が、私は大好きだ。
テレビで、雑誌で。ネットで。人気投票で!!
主役を抜き、彼らが一位の座を勝ち取った時は興奮の極みだ。
背景の一部と化しているキャラが、突然有名になった時など心が躍る。
いつの間にか、脇役がメインになっている物語を見た時など絶頂すら覚える!!
人気がある脇役が死亡した時などとても悲しいものだ。痛恨の極みと言える。
たった一話だけの登場にも関わらず、主役以上の活躍をする者を見た時など天にも昇る気分だ。ほぼイきかける!!
古今東西あらゆる物語で跳梁跋扈する脇役達が、私は大好きだ。
されど諸君!
一騎当千の古強者の諸君!!
そんな脇役達の物語が、世の中にはあまりに少ない!!
私が知らないだけかもしれない!
だが!しかし!!それでも、やはりこれは少ないと言えるだろう!!
ならばどうするか。
《創作!創作!創作!創作!》
よろしい。ならば創作《クリエイト》だ。
世に無いのなら自ら作り出すしかない!!
創作を!
一心不乱の二次創作を!!
諸君。私は、脇役が大好きだ。
以上。タマネギ少佐の演説より抜粋。
おっと、これは別の原稿が・・・失礼。
次回。ゼロの使い魔 青の姫君 第二部 第三話 「闇のげぇむ♪」
2010/07/26修正