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No.19454の一覧
[0] ゼロの使い魔 蒼の姫君 土の国物語 (オリ主[タマネギ](2010/07/26 18:23)
[1] 第一話 二人の出会い[タマネギ](2010/07/07 21:51)
[2] 第二話 魔法・・・それは、人類に残された最後のアルカディア。人はそれを求め、数多の時を(ry[タマネギ](2010/07/07 22:02)
[3] 第三話   ハルケギニア[タマネギ](2010/07/07 22:17)
[4] 第四話   就職?[タマネギ](2010/07/07 22:26)
[5] 第五話   姫君の苦悩[タマネギ](2010/07/07 23:19)
[6] 第六話   魔法と印[タマネギ](2010/07/07 23:52)
[7] 第七話   騎士見習い[タマネギ](2010/07/08 00:08)
[8] 第八話   決闘と報酬[タマネイ](2010/07/08 00:36)
[9] 第九話   王の命令[タマネギ](2010/07/08 01:07)
[10] 第十話   リュティスに吹く雪風[タマネギ](2010/07/08 01:18)
[11] 第十一話   姫君の意思[タマネギ](2010/07/08 01:34)
[12] 第十二話   王の裁き[タマネギ](2010/07/08 22:37)
[13] 第十三話  名も無き丘で[タマネギ](2010/07/08 23:10)
[14] 第二部 第一話   使い魔  (一部修正[タマネギ](2010/07/27 15:53)
[15] 第二部 第二話   日常   (旧タイトル 新撰組 大幅に修正しました[タマネギ](2010/07/26 18:58)
[16] 外伝  異世界の事変[タマネギ](2010/07/10 12:48)
[17] 第二部 第三話   王。再び[タマネギ](2010/07/21 21:30)
[18] 第二部 第四話   魔法学院[タマネギ](2010/07/21 20:52)
[19] 第二部 第五話   休養[タマネギ](2010/07/21 20:52)
[20] 第二部 第六話   戦場[タマネギ](2010/07/24 08:50)
[21] 第三部 第一話  光の国[タマネギ](2010/07/26 20:06)
[22] 第三部 第二話  北花壇騎士[タマネギ](2010/08/01 23:10)
[23] 第三部 第三話  吸血鬼[タマネギ](2010/08/02 01:18)
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[19454] 第二部 第一話   使い魔  (一部修正
Name: タマネギ◆52fbf740 ID:60f18e82 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/27 15:53
第二部 第一話   使い魔









ここは、ハルケギニアと呼ばれる世界。
そこは、魔法が存在する不思議な世界。
そこに美しい。腰まで伸ばした青い髪を持つ。一人の少女が居た。
彼女は、魔法が苦手であった。
ハルケギニアでは、それは致命的な欠点。
彼女は、王族であった。
しかし周囲に疎まれ、宮殿に引きこもり、周囲の侍女達に、当り散らす事しかできない悲しい少女であった。
そんな少女は、ある日。彼女の人生を大きく変える出来事に出会う。



そこは、地球。
極東。かつて大海を制した国の地図で、東の端にある島国。
そこに、一人の青年が居た。
ただ漠然と毎日を過ごし。ただただ。剣を振るだけの青年。
偉大な先達の志に憧れ、夢見る少年でもあった。
そんな青年は、ある日。彼の人生を大きく変える出来事に出会う。



これはそんな二人が織成す物語。
これは、ガリアの蒼き女王に仕えた、異国のサムライの物語である。

















伊達和磨は、騎士の称号を得て。
カズマ・シュヴァリエ・ド・ダテとなった。
そして、それに伴い彼の生活もまた、一変する。

まず、住居。
いままでカステルモール邸に住まわせてもらっていたのが、正式に騎士に。近衛騎士になった事で、その居をプチ・トロワに移した。

引越しは持っていく荷物は少なかったので、そんなに時間がかからなかった。
下着と、以前服屋に注文した服が数着。
ついでにと。道着も。同じ様な物を作ってもらい、三着程注文していたので、それも。そして和磨の世界から持って来ていた小物。スポーツドリンク入りのペットボトル。これは中身は既に無く、ボトルに固定化を使用して、現在も使いまわしている。タオル。清乾スプレー。それと、既に電池が切れている音楽プレイヤー。竹刀袋に納められた、竹刀と木刀。後は腰に下げた刀が一振り。持ち物はそれくらいで、剣以外は大きめのカバン一つに全て収まる程度だった。

荷物を纏め、カステルモール邸を後にする時。使用人総出で見送りに来てくれた事に和磨は心の中で涙し、感謝した。主であるカステルモールも「いつでも遊びに来たまえ」と。笑顔で見送ってくれた。

そんな暖かい人々に見送られ、やって来たのがプチ・トロワ。
そのまま部屋に案内され、入った所で硬直した。
豪華な装飾品で彩られた巨大な部屋。置かれた巨大なベット。高級そうな机。座ったらさぞかし気持ちが良いであろうソファー。どこの帝国ホテルのスイートだよ、と。無論彼はそんな部屋を訪れた事は無いが。

今まで和磨は「使用人と同じで良い」と。四畳半程の部屋で生活していたので、というかそれで十分だったのだが。ともかく。いきなり部屋が広くなった事で戸惑った。実はコレは某姫君の好意で、本来近衛と言えど騎士如きに与えられる部屋では無いのだ。
だがそれは、和磨にとってありがた迷惑と言った所だろう。和磨としてはもっと小ぢんまりとしている部屋の方が落ち着くのだ。
だがまぁ、宛がって貰った部屋に、まさか文句を言う訳にも行かず。
結局諦めた。

次に、仕事の内容も今までとは違う。
侍従長様曰く
「何を言っているのですか?近衛だろうと騎士だろうと。私は侍従見習いを解雇した覚えはありませんよ?」と。
つまり、今まで通りこき使うゾ☆と。そう仰ったのだがさすがに。周りがそれを止めた。止めたというか、止めさせた?
和磨も彼女に逆らえず―――――逆らう気すら当の昔に絶たれているので―――――最初言われたとおりに仕事をしようとしたのだが、周囲の者達が率先して和磨の仕事を奪う。
いや、和磨に仕事をさせない様にしていたので、結果。和磨は侍従としての仕事をする事が無かった。最初、それでもと。多少強引にでもやろうとしたのだが、そうすると周りが更に躍起になって仕事をさせじと奮闘。結果、侍従達を無駄に疲弊させるだけだと思い直し、手を出さないという事にした。
そうして開いた時間はずっと姫君に張り付いているので、最近姫君の機嫌も宜しいらしい。
それでも、侍従長様直々の特別レッスンは今尚続いている。内容は、最近は座学が主。近衛としての礼儀やら、振る舞いやらを叩き込まれているとか。

そして服装。
今までは侍従見習いの仕事をする際は所謂執事服で、騎士団の訓練に参加する時は道着だった。が、近衛になったので執事服を着る訳にもいかず。
そこで、以前和磨が「コレが東方の正装」と。道着を差して言った嘘のツケがここで。


つまり、和磨は現在。道着で生活している。


どういう訳か、国王陛下とその娘くらいしか知らないハズの嘘設定が、プチ・トロワ中に知れ渡っていたのだ。
下手人は青髭か。はたまたその娘か。

和磨は生涯知る事は無かったが、真相はその両方である。

髭の方は、何を考えてか知らないが。娘の方は、やはり、こちらも何を考えてか。密かに和磨の道着が似合うと思ったのか。それとも、面白いからやったのか。はたまた、仰々しい騎士の格好をした人間に周囲をうろつかれたくなかったのか。

ともかく、変な所で似た者親子。和磨が知ればそう言うだろう。

尤も本人もあまり気にしていない様子。元々、和磨に言わせれば周囲の人々は皆、コスプレをしている様な物なので。今更自分が道着オンリーで生活しようと、余り抵抗が無かったのだ。道着自体着慣れたものだし。

余談だが、和磨は騎士《シュヴァリエ》のマントを着ていない。何故なら、最初。姫君手ずからマントを着させた時。

「・・・・・・・・・似合わん」

「あぁ。似合わんね」

以上。主従の会話。
鏡の前で姿を確認する和磨と、それを見ての姫君のお言葉。
なので公式の場以外では和磨はマントを着けない事にしているのだ。

そしてもう一つ。
今まで騎士見習いとして参加していた訓練に、正式に。騎士として参加する事になった。
本来は所属が違う。近衛騎士である和磨が―――――北花壇騎士という事は公式には伏せられているので―――――東花壇騎士団の訓練に参加する訳にはいかないのだがそこは、団長自らが周囲の者を説き伏せ、納得させてくれた。その際、多くの騎士達もまた賛同してくれたと聞き、やはり。和磨は心の内で涙しながら感謝した。
それでもやはり、一部には不満もあるようだったが、和磨もなるべく彼らとも打ち解けるべく努力している。その一部の筆頭が、以前決闘したグレゴワールだったが。

そんな訳で和磨の新しい生活が始まり、一週間が経過した日。
その日、相も変わらずいつもの如く。
姫君の傍に控え、欠伸を噛み殺していた日。

「そういえば、カズマ」

「ん?」

書類の整理が終わり、一服していたイザベラが唐突に。

「使い魔召喚しないのかい?」

彼女は何の気無しに言ったのだろう。もしくは、北花壇騎士として、任務に就く際に、使い魔が居たほうが良いと。そんな意図があったのか。

「いや、つかさ。俺《使い魔》が使い魔召喚ってできるの?」

「・・・・・・・・・さぁ?」

そもそも、人が使い魔という前例が無い。その上、その人《使い魔》が魔法を使えるという前例も当然。

そこで二人。しばし目を見合わせて

ニヤリと。

同時に笑う。

「何事も試して見ないとなぁ」

「そうだね。その通りだ」

二人とも良い笑顔で。
イザベラはそのまま席を立ち、窓を開ける。
和磨はそんなイザベラにレビテーションを掛け、手を取り

「さて。それじゃ実験しよう」

「そうしよう!」

そのまま文字通り。窓から二人。部屋を飛び出して行った。残されたメイド達は溜息一つ。心得ているのか。諦めているのか。
文句一つ言わず窓を閉め、風で飛ばされた書類を拾い集めていた。

何だかんだでこの二人。こう言う事が大好きなのか。それとも、退屈していただけなのか。実にノリノリである。
とにかく、息の合った主従は庭へ降り立つ。







「さて。そんじゃ、一丁やってみますか」

そのまま。腰に差している二本の内、木刀を抜き、正眼に構える。

「我が名は伊達和磨。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、使い魔を召還せよ」

そのまま杖を振り上げ

「黄昏よりも暗きもの。血の流れより紅きもの。汝混沌の名に置いて。契約の元我に従え。下りくれりゃ。下りてくれりゃ」

何をブチかます心算なのか。というか、何かもう色々混ざってるが、誰も突っ込む者は無し。だが、何か凄いのを出そうという気迫だけは、しっかりと伝わる。

「でろおおおおおお!!」

そのまま、勢い良く振り下ろされた杖の先。

光の門が。


ピカッ!!


一瞬。辺りが光に包まれる。








ポテ







そんな効果音と共に






一匹の子犬が現れた。






「「・・・・・・・・・」」

主従揃って無言。
いや、まぁ成功したのは良いのだが。
ご大層な台詞の割に出てきたのが血まみれの子犬一匹で

「って!おい、お前!大丈夫か!?」

慌てて、和磨が子犬に駆け寄った。

「ちょ、ちょっと!その子酷い怪我してるじゃないかっ!」

イザベラもまた、駆け寄る。
そして主従揃って近寄った所で

その瞬間。

子犬の体から眩い光が。
思わず目を瞑り、しかしすぐに光が収まったので、恐る恐る目を開いたところで。
先程の子犬の姿は無く。

代わりに巨大な

尻尾まで含めて、全長5メイルはあろうかという程巨大な犬が。普通に道を走っている乗用車くらいの大きさだ。

「な・・・なんだ?この犬」

「いや、違う。犬じゃない。狼。フェンリルだ」

王狼。フェンリル。
古くからハルケギニアに生息しているとされる巨大な狼。高い知性を持ち、人語を理解すると云われている。何より、その体を覆う毛は高い抗魔力を。ラインスペル程度なら無効化してしまう程の抗魔力を持つ。そして彼らの遠吠えは、音の大きさは普通だが、5リーグ以上離れた場所でも聞き取れる程良く響くとか。
そんな彼ら王狼《フェンリル》は、近年滅多に見られない存在である。
銃が発達して来た昨今では、彼らは格好の得物として狩られている。何せ、魔法に対しては高い防御力を誇るその体毛も、銃等の物理的な衝撃に対する防御力は、普通の毛皮となんら遜色ないのだから。狩猟者達が、高値で取引されるその毛皮目当てに乱獲。
結果、高い知性を持つとされる彼ら王狼は、危険を察しその姿を隠し、人知れず何処かで。ひっそりと暮らしているとされている。

そして今。和磨が召還したハズの子犬は、その姿を現し。
巨体を横たえ。美しい白銀の毛を血に染めて、ぐったりと。倒れこんでいた。



「と、とにかく。これ、治療しなきゃ不味いよな?リザ!悪い。水の秘薬ありったけ貰って来てくれ!!出来れば水メイジの・・・って。そういや今日はあの人休みだったな・・・くそ!こんな時に!」

悪態をつきながら木刀を片手に。もう片方の手の平を、傷口に当てる。

そのまま目を瞑り、集中。
水の治療《ヒール》を。
しかし、和磨は風系統。水はあまり得意では無い。そんな和磨が普段治療するのは、訓練での怪我である。
つまり、打撲。骨折等。あとはちょっとした切り傷や擦り傷。それくらいの傷ならかなりの数を治療しているので、ある程度なんとかなるが・・・・・・だがしかし。今も尚目の前にその巨体を投げ出し、息を荒げ、苦しそうにしている狼の傷は、その多くが銃創。そして深い切り傷と刺し傷。これでは・・・・・・

「カズマっ!コレ!!」

そこへ、先程和磨が指示を出すよりも早く。宮殿に取って帰していた姫君が、箱一杯の水の秘薬を持って現れた。

それを引っ手繰る様にして手にし、傷口に惜しげもなく降り掛ける。

そして再び目を閉じ。

「・・・・・・クソ!ダメだ!俺じゃ・・・」

やはり。
水の秘薬の助けを借りても、所詮和磨は風のドットメイジ。先程よりもいくらか、傷口が再生する速度が早くなったとは言えこれでは

「・・・・・・・・・一か八かだけど。やってみるか」

だから、切り替えた。
不得手な水の治療《ヒール》では無く。どちらかと言えば得意な土の錬金に。

傷口を。水の秘薬を材料として。周囲の肉を。血を。細胞の一つ一つを、創り出すイメージで。
狼の。ましてや異界のフェンリルなる生物の細胞など見た事も聞いた事も無い。が、イメージ。かつて学校で。顕微鏡で見た事のある細胞を。教科書に載っていた血液を。赤血球を。白血球を。何度か。オーク鬼のだが、自身が手に掛けた者達の肉を。筋繊維の一つ一つを。骨を。それらをイメージし、更に、傷を修復するイメージを。
強く。強く。強く強く強く強く。強く!!
目の前の命を助けたいと。
ただ、強く願う。

すると

「・・・・・・傷が・・・・・・」

イザベラの驚嘆の声が聞え、目を開くと。
ビデオの逆再生の様に。見る見る内に傷口が塞がって行った。

「よし!成功だ!リザ!銃創から弾を。銃弾だけを、念力で取り出してくれ。体内に残すとマズい!」

指示を出しながら次の傷へ。銃創は後回し。先に、切り傷と刺し傷の方へと。

「わかった!!」

イザベラも。傷口に近づき、その生々しさに一瞬息を呑むが、すぐに。意を決し、目を閉じ集中。
念力の魔法を使用し、傷口から慎重に。醜い鉛の塊を取り出していく。
主従の想いは一つ。ただ、目の前の命を救いたいと。
何故子犬が消えたのか?何故、目の前の狼は傷ついているのだろうか?
そんな些細な疑問は全て後に。

二人。必死に魔法を唱える。








「・・・・・・ふぅ~~~~~。これで、何とか・・・・・・」

「あぁ。終わったね・・・」

全ての傷を治療し終え、二人はそれぞれ。背中を合わせ座り込んだ。

「いやぁ。疲れた。魔法使ってこんなに疲れたのって、初めてだわ・・・」

「私もだ・・・と言うか、私の魔法が治療の役に立つ何て思いもしなかったよ」

今までの魔法行使とは全く違う。何せこれは遊びでは無く、命が賭かっているのだから。細心の注意を払い、限界まで集中して作業を続けた二人はすでにクタクタ。

「まぁ、でもコレで何とかなったな。血が足りてないだろうけど、安静にしてりゃ回復するハズだ」

専門では無いので断言はできないが。

「それにしても。この子。一体どうしたんだろう?あんなに血まみれで。それに、最初の子犬は」

そこまで言いかけ、ふと倒れ伏している狼を見ると。

ヨタヨタと。しかししっかりと。自らの足で立ちあがろうとして――――――

「おい!待て!まだ動くなっての!!」

慌てて和磨が駆け寄り、多少強引にでも寝かしつけようとするが

「グゥルルルルルルルルルルル」

四肢を踏ん張り。低い声でうなり声を。明らかに、和磨に対して敵意が篭った声。

「お、おいおい。わかったよ。近づかない。だから、座れって。なぁ?言葉、分かるんだろ?」

手をヒラヒラさせ、座れとジェスチャー。
しかし、彼の狼はそんな和磨を睨みつけ、唸り続ける。

あまり無理に体を動かすと

「大丈夫。大丈夫だから」

どうしようかと。悩んでいた和磨の横を、平然と。だからこそ違和感無しに、イザベラが通り過ぎ、そのまま巨狼の眼前へと。

おい!何を!!

叫ぼうとして、慌てて止める。
下手な刺激をすれば、それこそどうなるか分からない。今は彼女に任せるしかないと。

そのまま蒼の少女はゆっくりと。狼の顔へ手を伸ばす。

「グゥルルル・・・ルル・・・」

狼は、特に抵抗もせず。
かと言って、警戒も解かず。

「大丈夫。私達は、お前の敵じゃない」

一言一言。言い聞かせる様に。相手の目を見ながら。それは、かつて和磨が彼女に対して行った事と同じ。
だからこそ。彼女はその効果を良く分かっている。相手を落ち着かせ、話を聞かせるのに必要なのは、千の言葉では無い。万の気持ちを込めた視線である事を。

そのまま、彼女の手が狼の頬に触れ

「よしよし。いいか?お前の怪我は治した。だけど、まだ全快してない。だから、座って休め」

言い聞かせる様に。頬を撫でながら。
そんな彼女に、ようやく警戒を解いたのか。ゆっくりと。狼はその場に寝そべる様に座り込む。

和磨が握っていた木刀の柄から手を放し、ホッと胸を撫で下ろすのを他所に。


『・・・・・・お前達は誰だ』


そんな言葉が

「・・・・・・え?今の、この犬が喋ったのか?」

「犬じゃなくて狼だと。でも、そうなのかね?というか、他に居ないよ?」

呆気に取られる二人を無視し、再び

『お前達は誰で、此処は何処だ』

やはり、間違いない。この無駄に渋い声は目の前に居る狼の物だ。

「えっと。とりあえず自己紹介。俺、伊達和磨。あ、違うか。カズマ・シュヴァリエ・ド・ダテだ」

竜やエルフが居るんだ。狼が喋るくらい。今更だろ

そんな思いがある和磨が案外と素早く適応し、律儀に自己紹介を。
自らの騎士があんまりにも平然と対応する物で、主である姫君もまた、喋るくらい別にいいかと。アッサリと流し

「私はイザベラだ。そこのカズマの主。そして、ここはガリア王国。首都リュティスにある宮殿。ヴェルサルテイル内のプチ・トロワだ。それで?お前。名前はあるのか?」

『・・・・・・・・・・・・』

狼は答えない。
未だ完全に警戒を解いてはいないのだろう。
なかなかに頑固な狼である。
イザベラはひっそりと嘆息。

「それで、だ。私達が。正確には、そこにいるカズマが、ついさっき使い魔召還の儀式を行った。そして、呼ばれて出てきたのが血まみれの子犬。それが突然、姿を変えて、お前になったって訳さ。あぁ、傷だらけだったから、私達が治療したけどね」

「感謝するよーに」

いつの間にかイザベラの隣に来ていた和磨が、無駄に偉そうな態度。
そんな和磨を、軽く肘で小突いて、姫君は狼へと視線を向ける。

それで?お前は何故傷だらけだったんだ?

そんな意図を込めた視線を。

『・・・・・・お前達は、奴等の仲間では無いのか?』

奴等?

主従。顔を見合わせ首を傾げる。

「奴等ってのが誰かは分からんけど、お前をズタボロにした奴等ってんなら、違う。俺達はずっと此処に居たからな」

同意するように頷くイザベラ。
そんな二人の目をしばらくじっと。見つめていた狼は、ゆっくりと。話し出す。



彼ら王狼。
多くの氏族がある中、その中の。人間達で言う王族に当たるのが、彼が居た一族。群れであるそうな。普段人が寄り付かないような僻地。彼らの群れはそこで生活をしていた。
しかし、ある日。どうやって嗅ぎつけたのか。突如人間達が、彼らの縄張りに入ってきた。
その人間達は、銃を持ち、剣や槍で武装した大規模な集団。中には魔法使いも数人居て、その内の一人は。彼ら王狼の毛を持ってしても防げない程、強力な魔法を放つ。
普段。彼ら王狼の一族は人間達に見つかればすぐさま、その姿を眩ます。武装した人間達には、太刀打ちできないと理解しているから。しかし、今回は運が悪かった。
なんと彼らの。人間で言う所の姫に当たる一匹が、敵に捕らわれてしまったのだ。
そして、王狼達は姫君を奪還する為、逃げると言う選択肢を捨て戦った。
戦っているのだが、如何せん圧倒的に不利。
元々数もそこまで多く無い彼らの群れは、武装した集団相手に正面から戦いを挑むには余りに無謀であった。
そこで今日。彼は一人。どうにかして姫を助けようと、人間達が陣を張っている場所に奇襲を仕掛けようとした所、たどり着く前に見つかり、攻撃され。どうにか逃げようとして、最後に先住魔法の変化を使用。子犬の姿になり、朦朧とする意識の中。彷徨って居た所、突如光に包まれ、意識を失ったと。
その際魔法が解けた。

彼の言葉を要訳すると、そういう事らしい。
ちなみに王狼が人に見つからないのは、普段はその姿を普通の狼や犬に変えているから。それはイザベラが推察した事。



「つまり。お前一人で無謀にもカチコミしようとして、失敗したと。そういう事だな?」

『無謀では無い。我《オレ》は一族の為。この状況を打開しようと』

「一族総出で戦ってんのに、それでも勝てない相手に一人で特攻なんて、無謀以外の何者でも無いだろ?この駄犬」

『・・・・・・噛み殺すぞ人間』

「やってみろよクソ犬」

片や牙をむき出しにして低く唸る。
片や木刀に手をかけ、犬歯を見せて笑う。

「お止め!カズマ!!いきなり喧嘩売ってるんじゃないっ!」

両者睨み合いに入った所、ピシャリと。
姫殿下が間に入り、それぞれの頭を杖で叩く。

何やら、和磨が普段らしからない行動である。
彼は普段。自分から喧嘩を売るような事はしない。それなのになぜ?

そんな姫君の思想とは別に、和磨と狼はお互い。フンと。鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

実は和磨も、常の自分らしからぬ行いだと。それは自覚している。
だけど何故?それが、本人にも分からない。

それは嫉妬だろうか?
和磨の声を無視し、イザベラの問いには素直に答える狼への。
それは幻滅だろうか?
一族の為。ただ一人で強大な敵に挑むその姿。そんな者への憧れは和磨の中にもある。だがそれでも彼は敗れ、傷ついていた。その事で何か、和磨の中にあった憧れが、崩れる様な錯覚があったのだろうか。
それとも恐怖。いや、やはり嫉妬だろうか?
自らの主を取られるのでは?何故か。そんな言い知れぬ不安があったのだろうか。


それは、誰にも。和磨本人にも分からない。


「そういえば、お前名前あるのか?」

さっきも一度。イザベラが聞いた事だが

だが、狼は答えない。そんな態度に和磨の額に青筋が

「で?あるのか?無いのか?」

『・・・・・・ガルム』

割って入ったイザベラの問い掛けに、今度は呟くように。しかしはっきりと答えた。

「・・・・・・おい駄犬。お前、俺に喧嘩売ってるのか?」

『戯け。人間風情に喧嘩など売るか。我の勝ちが目に見えているのに』

「ほぉ・・・その人間風情にボロ糞にやられたお犬様のお言葉は、やはり重みが違いますな」

『数さえ居なければ、人間などひ弱な猿にすぎん』

「阿呆。人間の武器は数と知恵だ。そのちっぽけな脳ミソに良く刻んでおけ。そんで、勝負にたら・ればはねーんだよバカ犬」

『・・・良いだろう。貴様のその身に、我が牙で刻んでやろう。貴様が誰を相手にしたかをな』

「やってみろ。その毛皮剥いで絨毯にしてやるから」

第二ラウンドのゴングが鳴り、再び二人。
臨戦態勢へ


「いい加減にしろおおおぉぉぉ!!」


どこからか降ってきたタライが、両者をダブルノックアウト。


「カズマ!そこに正座!!ガルム!お前もお座り!!」


ガリア王国の誇る精鋭。東花壇騎士団長が一押しする黒髪の新鋭騎士。
ハルケギニアに古くから在る、巨大な狼。白銀の王狼。フェンリル。

そんな両者を、仲良く並んで座らせ、そこに説教を食らわせる彼女こそ。

この国の次期国王候補筆頭。王位継承権第一位の、イザベラ姫殿下。

誰かがこの光景を見たら言うだろう。

ガリアは安泰である。と



女王様。もとい。王女様の説教を食らう二人(?)は、お互いに
「お前が悪い」『いや貴様が』
などと、この期に及んで見苦しく責任の擦り付け合いをしていた所、一睨みで黙らされた。

「ふぅ。それで、だ」

一通りお説教を終え、どこかやり遂げた様な、爽やかな顔で額の汗を拭う姫君。

「カズマ。どうする?」

「・・・・・・どうするって、この犬の毛皮を剥ぐか、それとも」

バコン!

どこかからタライが飛んできた。

「真面目に。この子。ガルムはお前が呼び出したんだろ?どうするんだ?」

どうするとは。
契約するのか、しないのか。
ではない。それはもう和磨にも分かってる。

「・・・・・・いいのか?」

「お前の意思を聞いてるんだ。決定は私がする」

『?』

主従二人のやり取りの意味が理解できず、チョコンとお座りしながらも、首を傾げるガルム。
どうでも良いが5メイルを越えるバカデカイ犬。もとい狼がお座りをするという図は、なんともシュールである。
まぁ、それは置いといて。そんな彼(?)を放置したまま、話は続く。

「・・・そうだな。俺が呼び出したんだ。それなりの責任もあるし、それに」

「それに?」

「これも何かの縁かな。乗りかかった船ってやつ?」

「だね。でも、もう一度聞く。良いんだな?」

「・・・・・・あぁ。良い。何より。ここで見殺しにすると、後味が悪い。関わったからには、最後まで」

お互い目を見ながら。
その意思をしっかりと疎通させ。
やがて、姫君は一旦目を閉じ。
何度か深呼吸。

ゆっくりと開いた瞳は、真っ直ぐと和磨を見据える。

その顔は、王国の王女としてのそれ。

「カズマ。カズマ・シュヴァリエ・ド・ダテ」

「応!」

「お前に。ガリア王国近衛騎士。兼。北花壇騎士のお前に、ガリア王国第一王女として。任務を与える」

未だに不思議そうな表情をしている王狼をちらりと見て

「彼の者の住処を荒らす者共を蹴散らせ!状況次第では斬っても良い!」

「はっ!」

キビキビとした動作で。しっかりと一礼。
その姿は、王国に仕える騎士のそれ。

「それじゃぁ、行って来るよ」

「あぁ。無理はするなよ」

今度は二人。それはいつもの姿。

「了解。あ、コレ。預かっといて」

「ん」

和磨は腰に在る二本の内木刀をイザベラへと預け、彼女もまた、それを抱きかかえるようにして受け取った。

そのまま和磨は、事の成り行きが良く分からず、未だに混乱している狼へと。

「ほれ、さっさと行くぞ」

『・・・行くとは、何処へだ?』

「決まってるだろ?お前の仲間達を助けにだよ」

『・・・どういう事だ?』

「どういうもこう言うも。仲間を助けたくないのか?」

そんなハズは無い。彼。ガルムは、その仲間の為に既に命を賭けていたのだから。
だが、どういう流れで。彼が。和磨達が、自分達に協力する事になったのか。ガルムには理解できない。

当然だろう。
出会って僅か数時間の彼が。
出会って僅か数ヶ月とは言え、お互い理解し合っている主従の会話を、分かれと言うのがそれこそ無理。

彼。ガルムの住処は―――先程イザベラが聞きだした―――間違いなく、王領。つまり、ガリア王政府の直轄領に在る。そこでは狩猟をするにも、王政府への届出がなければならない。そして「フェンリルを狩るので許可を下さい」なんて届出等、あった場合は真っ先に気付く。だが、それが無い以上。彼らは間違いなく密猟者である。ならば、王政府の。または、王女の独断で処理してもなんら問題は無い。しっかりと報告さえ上げれば。

それが、一つ目の理由。

もう一つ。というか、これが主。先程のは建前。
ともかく、それは単純に責任感から。二人とも、召還するだけ召還して、事情だけ聞いて「あっそう」で済ませる程、軽い性格はしていない。それに話を聞けば、彼らが全く無実で、無害な事が良く分かる。だから助けたいと。力になりたいと。そう思った。”だから”彼女は、和磨に聞いた。「良いのか?」と。そして和磨は是と答えた。
故に、彼女は命じた。「密猟者を蹴散らせ」と。「状況によっては斬って良い」と。強力なメイジまで居る集団。それを、下手に「捕縛せよ」なんて言えば、それこそ不可能。ならばこそ、最初から状況次第で「殺せ」と言ったのだ。その方が、和磨は安全だから。そして、その覚悟が在ると応えたから。
だから「蹴散らせ」と。具体的にどうしろ出は無く、和磨の判断に任せると。ただし、責任は全て持つ。そう宣言した。

だから和磨は。
ガリア王国近衛騎士。兼。ガリア北花壇警護騎士である和磨は、命じられた任務を。

たった一人の主の命に、応える為に。

今。騎士となってから初めての任務をこなす。



「お前が行かないなら、俺一人で行くよ」

言いながら、プチ・トロワの外壁へと

『待て!だから、どういうつもりだと聞いている!!貴様が!貴様等が我等を助けるだと!?何故そのような事を!』

「いろいろと事情があるんだよ。それに、お前俺の使い魔候補だし。ほら、行くのか?行かないのか。今決めろ。下手に時間かけると、それこそ手遅れになりかねんぞ?」

そのまま少し。狼は、眉間に皺を寄せ考える。

自らを呼び出したという男。
黒髪。妙な服装。妙な剣。
その男の主である蒼の少女。
蒼髪。美しいドレス。意思の篭った瞳。

王狼は考える。彼らは人間である。
が、王狼は知っている。人間全てが、自分達の住処を荒らした不届者共と同じでは無い事を。
王狼は理解している。彼ら二人に悪意が無い事を。それは動物としての本能と。王狼として、彼らを観察した結果。
だから、王狼は決断した。

『小僧。名は?』

「さっきも言ったろうに・・・本当にナメてやがんなお前・・・和磨。カズマ・シュヴァ・・・いや。面倒だな。カズマだ」

『ふん。で、カズマ。人間の足では時間がかかるだろう。そこで。我の背に乗る権利を与えよう』

偉そうな態度は相変わらずだが、はっきりと。和磨の名を呼び、彼の隣へ。
その巨体を、乗り易い様にと、少し下げる。

「ほぉ、病み上がりなにの。平気か?」

ニヤリと。挑発する様な問いは、もういつもの和磨。

『我をひ弱な人間と一緒にするな。さっさと乗れ』

すると和磨は刀の柄を握り、ふわりと。
その背に飛び乗る。
その感触に、王狼は驚いた。何せ、とても人一人乗せているとは思えない感触。
まるで羽でも乗せているかの様な。
そんな驚きを他所に、和磨は至極平然と。

「ところで、お前の毛は魔法を防ぐって事だけど、風はどうだ?風《ウインド》の魔法。あれで追い風を吹かせれば、スピードも上がると思うんだけど」

『・・・追い風程度であれば問題ない。我に害を成す魔法は、その全てが大いなる意思の加護で妨げられる。が、我に害さない魔法は、加護による妨げの対象外だ』

「あ~、つまり、直接攻撃じゃなきゃ平気なのね。んじゃ、風よ《ウインド》」

突如、突風。
それは、二人の進行方向に対して追い風。

「さて、それじゃ行こうぜ」

『ふん。振り落とされるなよ!』

「上等!」

何だかんだでこの二人は仲が。いや、似た者同士なのだろうか?だから、先程の対立は同属嫌悪とか、そういう奴なのだろうか?

姫君のそんな思考を他所に、白銀の巨狼は、その背に乗る黒髪の騎士と共に、プチ・トロワの外壁を飛び越え、外へと。

「無茶はするなよ・・・」

見送る少女の一言は、彼等には届かず。




一人と一匹。
背景が後方へとすっ飛んで行く。
建物が。木が。岩が。大地が。
巨狼はその真価を発揮するが如く。全身を無駄なく躍動させ、突き進む。
速度による空気抵抗は、圧倒的な追い風により逆に押し込まれ。ぐんぐんと。
風を追い越しひた走る。

彼らは、馬で三日程の距離を僅か半日で走破した。

ちなみに、リュティスでは巨大な狼の目撃情報が多数あり、一時大混乱に陥ったとか。そんな話は、今の彼らには関係ない。

ともかく。
二人。それぞれの技能を生かした圧倒的な走りは、他者を全く寄せ付けず、瞬く間に目的地。
彼ら王狼が「ロキの森」と呼ぶ、その縄張りへと到着した。

「さて。いい感じに夜だな」

和磨の言のとおり。辺りは既に暗く、空には二つの月。
木々のざわめく音と、虫達の奏でる音色が、静まり返った森に響く。

『さて、では行くぞ』

そのまま。森へと入ろうとする巨狼を、和磨が押し留めた。

「待て待て。お前、何でそのままで行くんだよ?」

彼。ガルムは、体長5メイルを超える白銀の巨狼である。
そんな物が森の中を移動すれば、目立つわ音が鳴るわで、すぐに敵に見つかるだろう。

「だから、さっきのアレ。変化だっけ?子犬になれって」

『ふん。まぁ良いだろう。『我を纏いし風よ。我の姿を変えよ』』

相変わらずの偉そうな態度で紡がれた呪文は、しかしはっきりとその効果を発揮。
巨大な狼の姿が消え、足元には一匹の子犬。

『さて、行くぞ』

声はそのままと言うのが実にアレだが、別に和磨とてそこに文句をつける気はない。

しかし

「・・・なぁ、犬。何で俺の頭に乗るんだ?」

ガルム子犬Verは現在。和磨の頭の上に鎮座している。

『先程まで貴様を我の背に乗せてやっただろう?なれば、此度は我が乗る番だ』

どんな理屈だよそれは!!

叫びたくなるのをどうにか堪え、盛大に溜息。

まぁ別にいいや。この方が楽だし。

思いなおし、和磨はサイレントの魔法を。
周囲の音を消す魔法を使用し、木々を掻き分け森の中へと。



和磨は、頭上からの指示に従い森の中を移動。
敵陣の位置はガルムが知っているので、そこが見える位置まで移動し、和磨が樹上から遠見の魔法。要は望遠鏡で、敵陣を偵察。

「ひーふーみー・・・・・・槍持ってるのがじゅう・・・15。剣持ってるのが同じく15。銃が・・・20。あとは、アレはメイジか?杖持ちが三人。それと、肥え太った豚が一匹。アレが大将か?」

総勢50を超える大集団。

そして

「あれが・・・あの檻の中に居るのが姫君ってのか。そんで、その近くで縛られてるのが、捕まったお前のお仲間かな」

頭上では、彼も見えているのだろうか。
グルルと。唸り声。

「落ち着けって。焦って特攻したって、こっちは二人。向こうは50。まず勝ち目は無いぞ?」

『・・・判っている。我も一度、身を以ってそれを知った』

そうだな。

頷き、二人は地上へ。

「さて。どうするか。敵は崖を背に、周囲の木を切り倒して陣を張ってるから、木に隠れての接近も出来ない」

ふむ。
顎に手をやり考える和磨に

『一つ。我に策が。というかな。本来我はそれを実行しようとしていたのだが、如何せん警戒網に引っ掛かり、実行できなかったのだ』

「ほぉ?んで、それは?」

『うむ。あの崖の上から一気に下り降りて、頭上より奇襲を仕掛ける』

崖の・・・しかし

「あの崖。かなりの傾斜じゃないか?あれは無理だろ?」

さっき見た感じだと、ほぼ直角に近い傾斜がある。高さも二十階建てのビルくらいはあるだろうか?そんな場所を・・・・・・・・・

しかし、ガルムは何処か得意げに。

『普通はな。他の仲間達にもまた、それはできん。しかし、我になら出来る。何せ、あの場所は我が小さき頃からの遊戯場だったのだ。あの崖も何度と無く、下り降りた事がある』

なるほど。それが彼一人で奇襲を仕掛けた理由か。

「んで、今度は一人じゃない。俺達二人でやる訳だな?」

にやりと。

『うむ。お前が我を上まで連れて行き』

「お前が崖を下る」

お互いに。顔を見合わせて。笑う。

「『それで、後は暴れるだけだ』」

息の合った一言。やはりこの二人。なんだかんだで相性が良いようである。

「よっし。あ、でも待てよ。お前の仲間ってさ、他にも居るよね。今も森の何処かに居るの?」

『む?・・・うむ。皆遠くから様子を伺っている』

鼻を何度か鳴らし、匂いを確認したのだろうか?答えるガルム。

「んじゃさ、そいつらにも知らせといてよ。俺達が奇襲を掛けるから、そっちも合わせてくれって」

『・・・・・・知らせるのは構わん。が、彼らが信じるかは・・・』

「いいさ。ダメなら仕方ない。その時は、俺らでヤるだけだ」

子犬が肯き。
天を仰ぐ

ワァオォォーーーーーーーーーーーーン!!

月夜に咆えた。

『これで良い。さて、では行くぞ』

「あいよ」

二人。夜の闇に紛れ、子犬の案内で崖の上へ。




「うっひゃ~、上から見下ろすとまぁ。なんとも」

やがてたどり着いた崖の上。そこから見下ろす敵陣は、随分としっかりとした作りだった。
周囲に木の柵を張り巡らせ、見張り台も完備。中央では、巨大な炎を焚いている。これは正面から当たれば中々キツイだろう。
そして、キャンプファイヤーの如く。その炎を囲んで、数十人の男達が、酒を食事を次々と口に。

『ふん。下品な生き物だな』

「いや全く。それは同感」

品の無い食べ方をする男達を見下ろす二人の感想。

「さて。それじゃ、役割分担だ」

見下ろすのを止め、少し後ろに下がって。そこらに転がっていた木の棒を拾い、地に絵図面を。

「いいか?まず最優先目標は銃。次にメイジ。後は適当で良い」

この世界の銃は怖い。
いや、元の世界の銃の方が威力もあり、射程もあるし連射も利くので、そちらの方が圧倒的に脅威なのだが。それとは別に。

この世界の銃は、弾が真っ直ぐ飛ばないのが何よりも怖いのだと。和磨は語る。

何せ、狙っている場所とは違う部分に飛んでくるのだ。銃身の向きと、引き金を引く音を聞き分け回避したつもりでも、弾が逸れて運悪く命中。
何て事になりかねない。実際、和磨は一度その恐怖を味わっている。

侍従長様のスペシャルレッスンで
「撃ちますので、避けなさい」
いきなり。そう言われた。一般人にマトリクスをやれと。そう仰る侍従長。しかし
「エア・シールドがあるでしょう?それを張っておけば、一発くらいなら平気です」
銃身の向きと、引き金を引くタイミングを見極めればで上手く避けれる。
そう仰る侍従長の言葉に従い、最初は。それこそ銃で撃たれるという恐怖に身を竦ませながら。しかし、次第にエア・シールドで防御できるという確信を得て、その恐怖も和らぎ、ようやく。タイミングバッチリの所で避けた!そう思った瞬間。
気の緩みでシールドが弱くなっていたのか。銃身とは別の方向に飛んだ銃弾が、見事に命中。そのままシールドを消し飛ばし、和磨の額を掠め、髪の毛を何本か葬り去った。
あの時は、本気で死んだかと思った。
別に、真後ろに飛ぶという訳でも無いが、誤差数メイルは当たり前の世界。
だからこそ恐ろしいと。

「んで、とりあえず銃は俺がやる。だから、お前はメイジの相手を頼む。時間稼ぎで良い。それから――――――」

その方が相性が良い。
下の敵陣の図を描き、木の棒でトントンとお互いの配置を確認する。
和磨の下した指示にガルムは黙って首肯した。




そうして二人だけの作戦会議は終わり、いよいよをもって。作戦開始。

崖の上には、5メイルを超える美しい白銀の狼。
その背には、三日月を鞘から抜き放つ黒髪の騎士。

二つの月が天頂に昇った時。

ヒュオオォォォォォォォ

一陣の風が吹いた。

その瞬間。

「行くぞ!」

『応!』

二人。
絶望的な傾斜の崖を一切の躊躇い無しに下り降りた。

ド!・・・ッド!・・・ッド!・・・ダ!・・・ッダン!

崖を直接走り降りるのではなく、所々にある突起を足場に飛び降りる。
風を切る音。
獣の呼吸。
大地を踏みしめる音。

そして、密猟者達が気づいた時。

「ぎゃああああああああああああああ!!」

それは、彼らの一人が断末魔の悲鳴を上げた時だった。





彼らにとって。それは、まさに悪夢と言って良いろう。
そもそもが、今までが上手く行き過ぎていたのだ。
偶然。一匹のフェンリルを見つけた。
偶然。追跡すると、住処も。
偶然。その一匹を捕らえた。
偶然。この崖の下という場所を確保できた。
偶然。その一匹は一族の姫。
本来彼らは他の幻獣を狩る為に出張って来たのだが、そこに偶然大物が。超が二つ程付く大物が居たのだ。
抑えきれない興奮を、彼らは抑える素振りさえ見せず。捕らえた一匹を囮に、次々と。
今日まで王狼を捕らえてきた。
恐らく。今回の狩りが無事終了すれば、彼らは一生遊んで暮らせる程の大金を手にするだろう。
王狼フェンリル。しかも生きたまま。生け捕りである。それこそ、どれ程の高値で売れるか。皆が皆、その金の使い道について夢想し、お互いが夢を語り合う。
ある者は、その金を元手にゲルマニアで商売をしていつか貴族になると。
またある者は、屋敷を買って、そこでのんびり暮らしたいと。
しかし、彼らのそんな夢は力で掴み取ろうとした儚い夢。
力で築いた物は。築こうとする物は。

また同じように。より大きな力により、容易く崩れさるという事を。

彼らは、知らなかった。




「うわああああぁぁぁぁ!」

一人の銃兵が、恐怖の叫びをあげながら引き金を

「はぁっ!」

引こうとした所、一瞬で。その首が宙を舞う。

二つの影が、彼らの陣に飛び込んで来てから僅か数分。

その間に、20も居た彼ら銃兵はたった一人によってその数を半分以下に減らされていた。

「た、たすけ!」

斬。

「やめ!」

一閃。

その斬撃に手加減。遠慮。容赦。それらの言葉は一切見られず。



銃を盾にした男が、銃共々両断される。



武器を捨て、命乞いをしようとした男の首が宙を舞う。

3 



二人纏めて。斬り飛ばされる。



最後の一人。彼ら二十人は、尽くが首か頭。胸への一撃必殺により絶命。

陣内は未だに大混乱。
頼みのメイジ三人は、白銀の王狼に足止めされ、銃兵20はたった今。
その全てが消え去った。

それは必要最小限の犠牲。そう、和磨が判断した。
下手に銃兵を残すとそれこそ、まだ銃が在ると。敵が徹底抗戦に出るかもしれない。だから、まず銃を。その戦意をそぐ為に。そして、その際には容赦無く。


和磨は自らが切り捨てた男達を一瞥。すぐに視線を逸らし、王狼の姫君が囚われている檻へ。

思ったよりも、罪悪感は無かった。
彼らが悪人と。そう割り切ってしまっているせいだろうか?

あの日。カステルモールを切り裂いた日。あれは結局偏在だったが、今。和磨が斬り捨てた男達は紛れも無く本体。しかし、おかしなもので。カステルモールの偏在を切った時の方が遥かに。それこそ、比べるべくも無く。

それとも、慣れたのかな?

そんな事を頭の片隅で思考しながら、檻の前。

「さて。ちょっと離れてろよ?」

言うと、中に居る狼が檻から離れたのを確認し

「錬金」

そのまま檻に刀を付け、錬金。
檻を再構成し、鉄格子の無い、ただ四隅に柱があるだけの箱へと。

「さ、早く逃げろ。そこに縛られてるのも、すぐに助ける」

言うだけ言って。
口と両の足を縛られ、横たえられている王狼達の下へ。
そして次々と。風の刃で彼らの自由を奪うロープを切り裂く。
先程のガルムとの会話から、この程度なら彼らの毛皮を貫けないと知っているので、遠慮無しに。
万が一。彼らの毛皮が普通ならば、それこそ大惨事になっているだろう程に。

そうして開放された王狼達が和磨を一瞥し、皆森へと走って行った。

これで、彼らが無理にでも抗う理由は・・・



「やってくれたなぁ!小僧!!」

たっぷりの憎悪が込められた一言に振り返ると、そこには。
周囲を槍。剣を持つ30ほどの兵士に守られた男が。
先程偵察した時。
和磨が肥え太った豚と表した男が、杖を掲げて此方を睨みつけていた。

「・・・・・・貴族か?」

豪華な衣装。飾り立てた煌びやかなそれ。
こんな所に居るのが場違いな。
そして杖。
偵察した時もそうかと思ったが、改めての問いに彼は。鼻を鳴らし、胸を張りながら答えた。

「そうだ!この私を誰だと思っている!?我が名は」

「・・・・・・ここは王領。ガリア王国の直轄領と知っての行いですか?」

その一言で、今まさに名乗りを上げようとしていた貴族の顔が一気に青ざめた。

どうやら、知らなかったようだな

「ま、待て。いや、待ちたまえ!それは・・・それは、本当か?」

「えぇ。ここは間違いなく、王政府の直轄領。そして自分はガリア花壇騎士です」

言いながら、マントの代わりに騎士の証とする為持ち歩いている一枚の紙を取り出し、見せる。
それには間違いなく王印。つまり、本物であるとの証が。

それだけで十二分に効果があったようだ。

「ち、違う!いや、違います騎士殿!私は、私は決して!始祖に誓ってっ!王政府に楯突く所存では!!」

その後はまぁ、聞いてもいないのにベラベラと。
一匹のフェンリルを見つけ、追いたて、住処を見つけた。その際に場所を確認するのも忘れて。と。そんな言い訳が次から次へと。

そんな言い訳を全て聞き流し、和磨の一言。

「それで終わりですか?」

それはもう。聞く耳持たないとの意思。とりあえず、この男を捕らえて終わり

しかし、彼の貴族は別の意味で受け取った様だ。

「お、おぉ。そう!そうです!大事な事を忘れていました!騎士殿。どれ程お渡しすれば宜しいですかな?」

「は?」

それは、素の疑問の声。本当に意味が分からなかったから。

「ですから、騎士殿も手ぶらでは帰れないと。そう仰る訳でしょう?ご安心を。すぐにでもあの獣を捕らえ、騎士殿のお望みの額を」

あぁ。つまり、賄賂を渡すから見逃せと。そういう事か。
なんと言うか、浅ましいと言うのか。それとも、いっそその開き直りを褒めるべきか?

そこでふと。和磨の頭に、あるフレーズが浮かぶ。

―――――人は金で飼える。犬は餌で飼える。だが、狼は。何人たりとも飼えはしない―――――

確か、そんなだったな。

ある漫画の人物の台詞。
そしてそれを思い出した時。ある事項に対する問題の解決方も。
それらを想い、思わず。自分の考えが可笑しくて、口元を綻ばせた。

しかし、だからその貴族は、それを了承の笑みと思い

「おぉ、さすが騎士殿。では、如何ほど」

和磨は、彼の言葉を聞いてなかった。
思いついた事柄について考え、そして先のフレーズについても

そういえば、リザは狼。ガルムを・・・

「狼を飼えるのはただ一人。蒼の姫君。彼女のみ。ってか」

ポツリと。

あの時。彼女は唸る狼を落ち着かせた。
そしてあの後も。釈然としないが、銀狼は彼女に逆らおうとはしない。

俺も飼われてるって言うのか?
まぁ、それでも良いか。

政府の犬だの何だの。彼女に従っていれば、その内そう呼ばれる様になるのだろうか?それでも良いか。犬は犬なりに、主人に忠義を。
だかけど、犬よりは。

狼。その方が良いなぁ。犬よりは。

だから。
最後まで忠義を尽くした先達を倣う意味で。
昔憧れた。時代劇の中に出てきた彼等のようになりたいと。
ただし、自分の剣はただ一人の為にのみ。
忠義を尽くす騎士として。
忠節を誓う武士として。
主を守る侍として。
そう在りたいと。思いを込めて。

「32・・・ミブ」

それは、未だ決まって居なかった名前。
和磨の、北花壇騎士としての名前。
丁度語呂も良いと。

「ガリア北花壇騎士32号。壬生の狼」

それが産声。

「き、北花壇騎士!?」

その名前に聞き覚えがあるのか、先程まで困惑の表情を浮かべていた貴族が顔を引きつらせ

「一度だけ。武装解除して投降して下さい。これが最後の警告です」

刀を構えた。

しかし、残念ながらそれは逆効果だった様子で

「ふ、ふざけるなあああぁぁぁ!!たった、たった一人で何を!殺せ!そうすればっ!!」

その直後。和磨は跳ぶ。
豚の様に肥え太った男を、守る為に在る者達の、頭上を飛び越え。
何のことは無い。ずっとフライ《重量制御》を使い続けている和磨は、そのまま貴族を。


その一太刀で、両断した。


最初は、殺すつもりは無かった。
だけど事情が変わった。大人しく謝罪し、武装を解除して投降すればそれで良かったのだが、よりによって正式な命令を受けた花壇騎士を殺せと。

ならば。

そしてソレは、和磨に決断させるには十分だった。
王領での無許可の狩猟。これだけでも十分なのに、そこに今度は止めに来た騎士への買収と殺害命令。
彼の貴族にとって、王とは。王国とは。王族とは”その程度”であると。そう言っているに等しい。

だから和磨は決めた。

決断したからには躊躇わず。

その剣は、ただ一人の主の為に。




「う、うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ」

彼らも、この主を想っているのだろうか?

何人かの兵士達が、主人の最後の命令を実行しようと、武器を振りかざして突っ込んで来た。

頭を潰せば降伏するかと。思ったが甘かったか。こんなのでも人望があったのだろうか?それとも、給料が良かったのか・・・いや、まだだ。

内心舌打ちしながら、和磨はそんな彼らを無視。

そのまま跳躍。

「ガルム!待たせた!!」

相棒の下へ。
見ると、相方は相当苦戦している様子。当たり前か。メイジ三人を足止めだけで良いとは言え、今まで一人。一匹で相手にしていたのだから。それは十分に賞賛される事だろう。

『遅いわ戯け!!』

ボロボロになりながらも尚、その偉そうな態度は崩れない。
そんな相方に苦笑しながら、すまん。と一言。

彼らを。彼らメイジを倒せば、それこそ。敵は戦意喪失するのではないかと。
思いながら構えて

「んで?どれが・・・アレか?」

『そうだ。あの中央の一人だ。任せて良いか?』

頷く事で、了承。
だがその一人こそ、ガルムの。フェンリルの毛の防護を貫く強力なメイジ。つまり

「トライアングルって所か?スクウェアじゃなさそうだけど」

此方に放たれた風の魔法を回避。
その際どれ程の実力者か、凡そ検討をつけた。

「クソ!小僧!!よくも!」

自らの主。あるいは雇い主を殺されたのを、彼も知っているようだ

「知らんって。あんたらが密猟なんてするから悪い」

残り二人のメイジを、相方が相手をしている内に。
和磨は、一気に勝負を決めにかかる。

「はあぁっ!」

刀を一閃。
それに合わせる様に風の刃が放たれ、和磨はすぐにその後に続く。

「ふざっっっけるなあああぁぁぁ!」

そんな叫びと共に、和磨の物よりも遥かに強力な風の刃が、正面から叩きつけられる。

さすが、トライアングルと言った所か。

そしてそれは和磨が放った風を飲み込み、そのまま後ろに続いていた本人をも両断。

するか。と思われた所で、何かにぶつかり阻まれた。
風の防壁《エア・シールド》
和磨は、格上の相手の攻撃を正面から受けず、シールドの風を操り、受け流す。

しかしそれでも、流石にレベルが違うのか。受け流した所で、此方の風盾も対消滅。

しかし、既に間合いの中。
彼我の距離は3メイル。

だから和磨は駆ける。

「刺突っ!」

そのまま一瞬で。敵の胸を刺し貫いた。

血を吐き、崩れ落ちる男。

一瞥し、すぐに背を向け。次の獲物へ

残り二人。彼らを倒せば、これで――――――




そしてそれは、致命的なミス。

何せ和磨には、人間との実戦経験が無いのだ。

前回のはあくまでも試練。

しかし今回のは紛れも無く実戦。

だから、和磨は知らない。

人間が最後、どれ程の執念を持つか。





ザシュッ!





気付いた時には、右のわき腹に焼けるような痛みが。

慌てて振り返ると、そこには。

最後に一矢報いたと言わんばかりに壮絶な笑みを浮かべ、杖を。ブレイドを使用し、和磨のわき腹を刺し貫いた男は。

そのまま、崩れ落ち。

彼の時間はそこで停止。

「ぐっっっつ・・・」

和磨も同時に崩れ落ちる。




不味い。完全に油断してた。
アレで終わったと。そう思った。
でも、それは間違い。

「うぐっっっくっそ!」

声を噛み殺し痛みを堪えたまま、近くの岩に背中を預ける。

血が。

体内の液体が、自らの意思に反して外へ。

血と一緒に、何かが抜けていく様な嫌な感覚。

「っつぁ・・・これ、やば」

どうにか気を失う事だけは避けようとするが、少しづつ。意識が

『カズマ!おい!しっかりしろ!!』

偉そうだった声が、何やら必死に呼びかけて来ている。だけど、返事が出来ない。そんな余裕は無い。

だがそれは、格好の獲物で。

先程まで混乱していた男達が、主の仇と。または好き勝手やってくれたガキへの報復と。言わんばかりに、それぞれ。武器を手に手に。ジリジリとにじり寄って来る。

『おのれ!やらせはせんぞぉ!!』

銀狼が咆える。

が、所詮は一匹。しかも満身創痍。
彼も。どうやらメイジ二人を倒した様だが、如何せん消耗しすぎている。
そんなガルムに、今までこの場所で王狼を狩っていた彼らは、怯える事は無かった。

このままでは

「が・・・ヴぉ・・・づ・・・べ・・・にげ・・・」

言葉が上手く出ない。
逃げろと。ただ、それは一人ではなく

「俺を連れて逃げろ」と。

あくまでも。最後まで。生を諦めない和磨の言葉に。答えたのは、銀狼では無く。







アオオオオオオオォォォォォォォォン!


そこかしこから聞える遠吠えと共に。

王狼の群れが。

その牙を。爪を。

不埒者達に叩き付けた。








ガシャーン!



陽光が照らす一室。
プチ・トロワ。イザベラの執務室。

その窓を完膚なきまでに破壊し、部屋に飛び込んできた物は。

「よぉ・・・ただいま」

丸一日ぶりに姿を見せた、彼女のただ一人の騎士。

なにやらぐったりと。
窓を破った王狼の背中にうつ伏せで寝そべっている男に向け、蒼の少女は


「こんのぉ!!何やってるんだお馬鹿共!!」


特大の雷を落とした。




「・・・・・・で?結局その後どうなったんだい?」

一通り暴れ周り、室内を破壊し尽くした三人は、そのままメイド達に。
訂正。侍従長に追い出され、庭。和磨が、王狼を召還した場所に。

「ん?その後か。それは――――――――」

地べたに座り込み上半身裸になった和磨は、大人しくイザベラの治療を受けながら。
と言っても、水の秘薬を傷口にぶっかけて、その上から包帯を巻くだけだが。
ともかく、主自らに包帯を巻いて貰いながら、隣に寝そべる銀狼へと視線を向ける。



あの後。
血が止まらないので不味いと思った和磨は、大胆な行動に出た。
それこそ、漫画で見たという理由だけで有効かと思ってしまい、深く考えずに。
というか、考えてる余裕が無かった。

即ち、傷口を焼いて塞いだ。

本人曰く「死ぬほど痛かった」との事。

まぁ結果は功を奏し、出血は止まった。

ただし、痛みで気を失ったが。

他の密猟者達が王狼達の腹に収まる中、わき腹をこんがりと。ミディアムに焼かれた和磨が彼らの腹に収まらなかったのは、一重にガルムのお陰と言える。

その後、意識を取り戻した和磨が見た物は壮観であった。
周囲全てに居る狼。狼。狼。狼狼狼狼狼狼。
茶色や紺色。白や黒。色とりどりの。狼一色。
しかも、どれもこれもやたらサイズがでかい。
その数軽く30は超える彼らに囲まれて目を覚ました人間は、恐らく他に一人も居ないだろう。
どうやら、ここの王は他の氏族の王狼を呼び寄せ、大規模攻勢を掛ける予定だったらしい。初めからこの数が居れば、彼らがあの程度の数に負ける事など在り得ないのだから。丁度、タイミングが良かったのだろう。


その後、彼らの長。つまり王と会談。
まずは王の謝礼から始まり、次に和磨の謝罪。ガルムを勝手に呼び出した事に付いて。
が、まぁ当然というか。その件はお咎め無し。その後、いくつか話し合いをする内に、和磨は狼の王から二つ。頼みごとをされた。

「んで、その王様がさ。王領に。そこに住む事を許可して欲しいんだとさ。今まで俺達みたいに話し合える相手が居なかったから、勝手に住んでたみたいだけど。だからこそ、リザに許可が欲しいみたいな事言ってたよ。んで、出来れば王女の権限で保護っつーの?手出し無用みたいな。そんな風にして欲しいって」

「ふ~ん。まぁ、それくらいなら良いけどね。さすがに「ここにフェンリルが居るので手をだしてはいけません」とは言えないけど。私の権限で、その地域を立ち入り禁止にすれば良いか。何か適当な理由をつけてさ」

「あぁ。んで、それを受け入れてくれたら、自分達王狼の一族は、いつでもリザの力になるってさ」

彼らとしても。渡りに船だったのだろう。何せ、王政府と。王女と直接交渉が出来る人材ができたのだから。だからこそ。

「それともう一つ。「息子を頼む」って言われたよ」

「ふ~ん・・・ん?息子?」

「そ。この駄犬。なんと王子様でしたとさ」

ポンと。寝そべっている銀色の巨体を叩くと、フンと。鼻息を鳴らしながら、ガルムの前足が和磨の頭上。

その後。王と会談した後。捕らわれていた姫君自らお礼が言いたいと。和磨の前に。ガルムよりも一回り以上小さい白の狼が現れ、お礼を。そして

『カズマ殿。兄上をよろしくお願いします』

そしてその場で使い魔としての契約を。
と言っても、和磨も。犬に――――正確には狼。王狼だが、和磨にとっては大差ない――――キスする趣味は無い訳で。
さてどうしようかと少し悩み、諦めてやるかと。覚悟を決めた所。

『ふん。まぁ、我が友とするには十分だろう。光栄に思えよ?カズマ』

そんな偉そうな宣言と共に、ガルムは口を開き

ザラザラして生暖かくてベチョっとした感触が顔面を覆う。

まぁ、つまりペロリ。いや、この場合ベロリか。ともかく、その巨大な舌で顔を舐められた訳で。
既に詠唱は終わっていた契約の魔法が発動。
唇と唇でなく、舌。というか唾液で良いのか―――――

「そうして、こいつは俺の使い魔と相成りました。マル」

刻まれたルーンは「共感」
五感を共有し、テレパシーの様に。離れていても意思疎通ができる。
オーソドックスだが便利な使い魔のルーン。

「と、言うわけで、めでたしめでたし」

大怪我して何がめでたしだ。
言いながら王女にわき腹を―――――傷口―――――叩かれ、悶絶する和磨。

そんな様子を見ながら、ふんと。鼻を鳴らして、しかし楽しそうに笑う銀狼。

木漏れ日の中、響く少女の笑い声。



新たな仲間を加え、彼らの新しい生活が始まる。













あとがき

カズマ《使い魔》が使い魔召還!

黄身白身さん。
せっかくですので、そのまま第二部のオープニングに使わせて頂きました。
ありがとうございます。

北花壇騎士32号って・・・32人も居るのかなと。書いた後思った・・・でもゴロが良かったので、適当に。(嘘設定として、北花壇騎士は殉職するとその番号は一定期間欠番になる!みたいな?だからどんどん番号が大きく!とか。適当な言い訳をしてみました)



ちなみに

「お前だれだ?」

「わっちか?わっちはホロ。賢狼ホロじゃ」

という話にしようかと、小一時間程真剣に悩んで、断腸の思いで諦めました。
それやると、もうイロイロと大変なので・・・・・・




2010/07/10修正 命令の一部と、るろ剣の斉藤さんの台詞の下り。修正しました。

2010/07/26句読点など修正


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