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No.19454の一覧
[0] ゼロの使い魔 蒼の姫君 土の国物語 (オリ主[タマネギ](2010/07/26 18:23)
[1] 第一話 二人の出会い[タマネギ](2010/07/07 21:51)
[2] 第二話 魔法・・・それは、人類に残された最後のアルカディア。人はそれを求め、数多の時を(ry[タマネギ](2010/07/07 22:02)
[3] 第三話   ハルケギニア[タマネギ](2010/07/07 22:17)
[4] 第四話   就職?[タマネギ](2010/07/07 22:26)
[5] 第五話   姫君の苦悩[タマネギ](2010/07/07 23:19)
[6] 第六話   魔法と印[タマネギ](2010/07/07 23:52)
[7] 第七話   騎士見習い[タマネギ](2010/07/08 00:08)
[8] 第八話   決闘と報酬[タマネイ](2010/07/08 00:36)
[9] 第九話   王の命令[タマネギ](2010/07/08 01:07)
[10] 第十話   リュティスに吹く雪風[タマネギ](2010/07/08 01:18)
[11] 第十一話   姫君の意思[タマネギ](2010/07/08 01:34)
[12] 第十二話   王の裁き[タマネギ](2010/07/08 22:37)
[13] 第十三話  名も無き丘で[タマネギ](2010/07/08 23:10)
[14] 第二部 第一話   使い魔  (一部修正[タマネギ](2010/07/27 15:53)
[15] 第二部 第二話   日常   (旧タイトル 新撰組 大幅に修正しました[タマネギ](2010/07/26 18:58)
[16] 外伝  異世界の事変[タマネギ](2010/07/10 12:48)
[17] 第二部 第三話   王。再び[タマネギ](2010/07/21 21:30)
[18] 第二部 第四話   魔法学院[タマネギ](2010/07/21 20:52)
[19] 第二部 第五話   休養[タマネギ](2010/07/21 20:52)
[20] 第二部 第六話   戦場[タマネギ](2010/07/24 08:50)
[21] 第三部 第一話  光の国[タマネギ](2010/07/26 20:06)
[22] 第三部 第二話  北花壇騎士[タマネギ](2010/08/01 23:10)
[23] 第三部 第三話  吸血鬼[タマネギ](2010/08/02 01:18)
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[19454] 第十三話  名も無き丘で
Name: タマネギ◆52fbf740 ID:5ae333fe 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/08 23:10









第十三話  名も無き丘で













ホウ。ホゥ。

フクロウだろうか。鳥の鳴き声が聞える。
闇に包まれた森の中。
一人の男が、必死の形相で走り続ける。

「クソ!このっ!!」

手にする刀を一閃。

「ピギャアアアアア!」

耳障りな悲鳴と共に、目の前に現れたオーク鬼が崩れ落ちる。

ガサガサガサ

しかし、斬ったのはたったの一匹。後ろには未だ無傷のオーク鬼が1。2。3・・・10まで数えて、止める。キリがない。

再び。行く手を遮る様に人影が

「このっ!いい加減にぃ!」

何の躊躇いも無く振り下ろされた一撃は

「キャアアアアアアァァァ!」

見事に。敵を両断。
その蒼い髪が血に染まり、ゆっくりと地面に倒れた。

「ぁ・・・・・・あ・・・・・・り・・・ざ・・・・・・?」

自分が斬った相手を認識。和磨は、自らが手に掛けた少女を、呆けた様に見下ろし

「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
















ガバッ!

「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!」

悪夢から一刻も早く逃れようとするかの如く。凄まじい勢いで、上体を撥ね起こす。

荒い呼吸を整え辺りを見ると、こちらに背を向けて眠る侍従長。火は消され、空は僅かに闇が薄れている。日が昇るまでもうまもなくと言った所か。
そこまで確認し、ホっと。安堵の吐息。
先程まで背中を預けていた木に、もう一度体重をかけるたところ。ドっと、言い知れぬ疲労感押し寄せてきた。

「はぁ。まったく・・・何て夢だよ。くそ」

言いながら、前髪をかき上げ、額に浮かんでいた汗を拭う。
そこで、ようやく気が付いた。
先程、夢の中で自らが斬った少女が、自分の膝を枕にして、すやすやと。気持ち良さそうに寝ている事に。

「ったく。こんな所にまで付いてきやがって」

苦笑しながら、なんとなしにその美しい蒼髪を撫でる。

「ぅ~・・・ずまぁ・・・」

一体どんな夢を見ているのやら。何やらムニャムニャと寝言を言いながらヨダレを

「おいおい。簡便してくれよ」

口では文句を言いながらも、起こさない様に慎重に。そっとヨダレを拭う。

「やれやれ」

再び、彼女の髪を手で弄びながら、まだ暗い空を見上げた。

覚悟が足りていないのか。自覚が足りていないのか。経験が足りていないのか。自分には、一体何が足りていないのだろう?足りないものが多すぎて、検討が付かない。
覚悟はしたつもりだった。自覚も。経験は、積めば何とかなると思っていた。
それが、蓋を開けて見ればこの様だ。
たったの五匹。斬っただけで疲弊し、悪夢まで見る始末。本当に、自分に騎士なんぞ務まるのだろうか?
思い出すだけでも気分が悪くなる。あの、肉を斬った感触。断末魔の悲鳴。自らの手で、命を刈り取ったという、言葉に出来ない不快感。亜人。化け物相手にすらこの様では、もし人間が相手だったら・・・やはり自分には・・・・・・・・・

「だまれぇ・・・こぉのぉばかぁ」

「はぁ・・・本当に・・・」

お気楽な。気持ち良さそうに眠る姫君を見ると、少し。気が楽になる。

「んぅ・・・・・・ばるさみこす」

・・・・・・本当に。どんな夢を見ているのだろか?













そのまましばらく。特にする事も無く。かと言ってもう一度寝なおす気にもなれずに、このまま朝まで過ごそうかと。そう思っていた所で、突然。横になって寝ていたはずの、侍従長が飛び起きた。

直後。

周囲の見回りをしていたのだろうか。
姿の見えなかったカステルモールが、珍しく焦った様子で駆けて来て

「起きろっ!オーク鬼だ!オーク鬼の大群がすぐそこまで来ている!逃げるぞ!急げ!」

言いながら、クリスティナと共に手早く荷物を纏める。ただ事では無いその迫力は、彼の口にした言葉が真実である事を如実に表している。だから、和磨も疑う素振りも聞き返す事もせず、まず行動。

「マジかよっ!おい!リザ!いつまで寝てる!!起きろ!」

「ぅ~・・・ぁれ?・・・かずまぁ?・・・おやつはぁ?」

「えぇい!クリさん!コレよろしく!」

言いながら、ポイと。投げ捨てる様にしてクリスティナへパス。
決して、暢気にお約束のボケをかましてくれた姫君への八つ当たりでは無い。念のために。
そして侍従長は何事も無かったかの様に姫君をキャッチ。途中で「ふにゃあぁぁ!」とか何とか愉快な悲鳴が聞えた気がする。が、今はそれ所ではない。
さすがに、投げられて目が覚めた姫君が文句を言うが、和磨はそれを無視。カステルモールに詰め寄る。

「先生!フライで」

「いかん!未だ夜が明けてない。夜間の飛行は危険すぎる!」

「ならどうします!?」

「いいか?私が先頭に立って誘導する。君は殿を勤めたまえ」

「っ!・・・わかりました」

殿。隊列の最後尾で、敵を食い止める役目。
和磨は、特に文句を言うでもなく、指示に従う。何せ、これが適材であるのだから。本来、殿は捨て駒か、あるいは有る程度実力がある者でなければ勤まらない。だがこの場合。前方に敵が現れた場合、それを強硬突破する力も必要で。それを持つ者は、カステルモール一人。そして和磨は、いざとなればその健脚を持ってすれば、敵を振り切って逃げ切る事も出来る。であればこそ、必然的に和磨が殿。

カステルモールと和磨だけなら、無理に逃げる必要は無い。それこそ、和磨を囮として走り回らせ、そこをカステルモールが殲滅するといった様に、上手く立ち回って逆に敵を殲滅するくらいやってのけるのだが、ここには守るべき姫君が居るのだ。敵が都合よく自分達のみを襲ってくれれば良いが、そうはいかないだろう。多数による攻勢からの防衛に必要なのは、個人の力量よりも同じく数。たった二人でそれは不可能。
それが分かっているカステルモールは、だからこそ何のためらいも無く逃げる事を選ぶ。

「侍従長殿。よろしいか!?」

「えぇ。問題ありません」

最後の確認と共に。

「よし!では続け!」

カステルモールを先頭に。和磨を最後尾に。イザベラと、それを守るようにクリスティナを中央に置いて、四人は夜明け前の森を駆け出した。












「くそ!お前ら!いい加減しつっこいんだよ!」

追いついてきたオーク鬼の手を斬り付ける。
耳障りな悲鳴と共に、武器を取り落としたのを確認し、再び前を向きひた走る。
しかし、それでも後から後から。次々とオーク鬼は現れる。

「エア・ストーム!」

前方では、カステルモールが魔法を使い、竜巻を作り出し、数匹纏めて吹き飛ばしながら前進。道を切り開いて進む。
流石に、ガリアが誇る東花壇騎士団長。その力は圧倒的。だが、如何せん数が。

「姫様。お加減は如何ですか?」

「あ、あぁ。平気だ」

真っ青な顔。しかし、気丈に振舞う姫君を背負い、侍従長が後に続く。普段と変わらない無表情だが、僅かに焦りが見て取れる。

現在、オーク鬼の集団は大きく分けて二つ。
一つは、数匹単位で前方から現れる、恐らく足止め役と思われる者達。もう一つは、今も後方から追い上げて来ている十匹。いや、二十を超える大集団。こちらが主力と言った所か。
和磨は、突出してこちらに追いつきそうになったオーク鬼を斬り、また、自ら速度を落とし、集団の先頭を走るオーク鬼の足を僅かでも止めたりと、出来うる限りの事をしていたが

「先生!これ、一体何匹居るんですか!?」

「判らん!が、50は降らないだろう。周囲の。いや、下手をしたら森にいる全てのオーク鬼が集まってきているのかもしれん!」

「ごじゅ!?くそ!何でそんなに!!」

「分からん!ともかく今は走れ!夜が明ければフライでの脱出も可能だ!」

「はい!このっ!どけぇ!」

再び、寄って来た一匹の。今度は腕ごと斬り飛ばす。流石に、和磨も躊躇していられないのか。いや。それでもやはり、腕や足のみを狙っているのだから躊躇いは消えていないのだろう。

そのまま四人。木々を掻き分け、障害を薙ぎ倒し。ただただ全速力で走り続ける。
しかし、如何せん多勢に無勢。
丘陵に入った所で、上り道と、敵の圧力で少しずつ。速度が落ちてきて。
丘の頂上に達した所で、遂に均衡が崩れた。

「ぶぎゃあああぁぁぁぁぁ!」

一匹のオーク鬼が、和磨の横をすり抜け、中央に居た二人へと

「くそ!?」

後を追おうとするが、新手に阻まれてそれは出来ず。

そのまま、オーク鬼が二人に向け、棍棒を振り上げ

「姫様!」

背中に乗る姫君を突き飛ばし、侍従長はそのまま一撃を食らい、凄まじい勢いで吹き飛ばされる。

「クリスティナ!!」

突如突き飛ばされたイザベラだが、何とか起き上がり。
だが、オーク鬼はそのまま。今度は悲痛な叫びをあげるイザベラに向け、棍棒を振り上げ

「こんのぉ!舐めるなぁ!」

振り上げた所。
頂点に達した所で、レビテーションの魔法。絶妙なタイミングで使われた魔法は、すると。傍から見たら棍棒を振り上げ、すっぽ抜けた様に。

オーク鬼の棍棒が、面白い具合に宙を舞った。

だがしかし、それでも所詮一時凌ぎにしかならず。

「ぶぐるああぁぁぁぁぁ!」

棍棒を取り上げられたオーク鬼は、怒りを隠そうともせずに声をあげ、直接。華奢な女子供くらい簡単に握りつぶせるであろうその手を、イザベラへと。

カステルモールは動けない。
現在彼は、10匹ものオーク鬼に囲まれ、行く手を阻まれている。

クリスティナも動けない。
現在彼女は、直撃を食らい、吹き飛ばされた時の衝撃をどうにかしたのか。両の足でしっかりと立っている。が、二匹のオーク鬼に挟まれてやはり動けず。

和磨も、現在三匹のオーク鬼に囲まれ、身動きが出来無い。

だから、彼女を守る物は今は何も

「ぁぅぁ・・・」

その呟きに答える者も

「ぁずぁ」

最早、少女にはそれしか出来ない。恐怖でその場にへたり込んでしまいそうになるのを、気力で押堪えても。
意地で、敵から目を逸らさなくても。
それでも、もう彼女にできる事はただ、声を出すのみ。

それでも。それしかできないからこそ、最後にその名を。

ただ一人の使い魔を。

ただ一人の友人を。

ただ一人。信じる者の名前を呼ぶ。

ただ、信じる事しかできないからこそ。

其の一言に、想いを籠めて。





「かずま」


































「リザアアアアああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

















それは怒号か。悲鳴か。あるいは咆哮。

最早「音」としか聞き取れない程の大音量。
しかし、その音と共に。

「ぶぎゃ?」

今まさに、イザベラに触れようとしていた鬼の手が。腕がズルリと、根元から落ちる。
いつの間にか、オーク鬼とイザベラの間に。
反り返った奇妙な剣を構える黒髪の。


「はあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


銀色に輝く鋼の刃。美しい三日月の刃紋。

それが、そのオーク鬼が見た最後の光景。
和磨の。全力の刺突が。
真剣での、正真正銘全力。しかも、魔法により風まで纏わせた一撃が。オーク鬼の頭を、文字通り消し飛ばした。

一瞬。

何が起きたか理解でき無かったオーク鬼達。
そんな中最初に動いたのは、和磨の相手をしていた三匹の内、立ちはだかる様にして和磨とイザベラの間を隔てていた一匹。
その一匹が、慌てて振り返ると。

クルリと。

上半身だけが一回転して、元の位置に。胴体から血を吐き出しながら崩れ落ちた。
再び、オーク鬼達の動きが止まる。

だがそんな光景。一切興味が無いと言わんばかりに、実際。和磨にはそんな背景は一切気にならず。オーク鬼達を一瞥もせずに。手にした刀を地面に突き刺し。

「リザ」

恐怖に震えながらも、決して膝を折らなかった少女を。
気丈にも、最後まで敵を見据え、立ち続けた少女を。
自らの名を呼んでくれた少女を。



ただ思い切り。全力で。



力の限り抱きしめた。


















怖かった。

あのまま、何も出来ずに彼女を死なせてしまうのが怖かった。
自分のミスで、彼女を死なせてしまうのが怖かった。
何より、僅かでも。ほんの一片でも、それでも仕方ないと思ってしまう自分が怖かった。
ここに付いて来たのは彼女の意思で。だから、危険も承知なはずで。だから、それは仕方ないと。
僅かにでも、そんな事を思ってしまう自分が、どうしようもなく怖くて、憎らしくて。
何より、此処に来てもまだ、オーク鬼を殺したくないと思ってしまう自分が情けな
くて。許せなかった。

だけど。そんな自分を、最後まで信じてくれた人が居る。
彼女の最後。呟くような。蚊の鳴くような小さな声は。確かに、自分の耳に届いたのだから。

それは、呪詛の言葉だったのかもしれない。
もしくは、つい、何の気無しに出てしまった一言なのかも。
でも、そんな事は関係無かった。自分の。都合の良い様な勝手な解釈かもしれない。もう、それでも良い。

その一言で、自分を信じる事が、認める事が出来た。
まだ、こんな自分を信じてくれる人が居る。
名前を呼んでくれる人が居る。
だから、それに応えようと。応えたいと。応えてみせると。
そう思えたら、不思議と力が。胸が熱く、鼓動が早くなる。
躊躇うのはもう止めよう。躊躇って、結果後悔するよりも。躊躇わず、後で懺悔する方が余程良いと。そう思えたから。

だから決めた。

今は躊躇わずに刀を振ろう。
だけど、後で只管に懺悔しよう。
自らが奪う命から、決して目を背けずに。
必要以上に苦しませず、せめて、一瞬で刈り取ろう。
大切な物を無くすより、その方が、ずっと良い。



限界を超えて。立ち塞がるオーク鬼を、一切の躊躇無く斬り捨て、その横を走り抜け、振り上げられた腕を斬り飛ばし、頭部に刺突を。
無意識の内に、風で返り血を吹き飛ばす。
万が一にも、彼が好きな美しい蒼が、血の色に染まらないように。
そうしてたどり着いた場所には、守りたいと願った少女が。
応えたいと思った少女。

だから、思い切り抱きしめた。







「ぇ・・・ぁ・・・かずま?」

オーク鬼の手が伸び、それに怯え、震えていた所、突如現れた和磨。そのまま抱きしめられて。
僅かの間に色々な事が起こりすぎて、彼女の思考はフリーズ寸前だった。
しかも、和磨は思い切り抱きしめているのか。ものすごく痛い。

けど

「カズマ」

その痛みが、今は心地よくて。

和磨の温もりを感じられるのが嬉しくて。

強張っていた体の力が抜ける。

そっと。目を閉じた。





「え?」

ぼつり。耳元で和磨が呟いた。
何を呟いたのか、良く聞き取れなかったので聞き返そうとした所、何の前触れも無く。突然に、和磨は抱きしめていたイザベラを解放。

そのまま、背を向け。地に刺していた刀を手に取り一言。

「大丈夫」

周囲の者達は皆、動かない。
和磨がイザベラを抱いていた時間など、ごく僅かだった。が、それでも隙だらけで。
にもかかわらず、オーク鬼達は。そして、カステルモールも、クリスティナも。皆、動きを止めていた。

周囲の時が止まっているのでは?

そんな錯覚すら覚える中。一人、和磨が前に進み出る。

一歩。二歩。三歩。

しっかりと。大地を踏みしめ

四歩。五歩。六歩。

ザッザッザ。彼の足音だけが周囲に響く。

七歩。八歩。九歩。

明るみが差してきた夜空。彼の周囲に風が集う。

十歩。足を止めた。

そして、呟く。しかし、その一言は周囲に在る全ての耳に、しっかりと届く。

「来い」




その一言で、止まっていた時が動き出す。

先程から、異様な。圧倒される様な不思議な気配を撒き散らしていた和磨。そんな人間に気圧されて、思わず動きを止めていたオーク鬼達が、我に帰ったかのごとく、一斉に鳴き声をあげ、動き出す。

最初に、和磨の近くに居た一匹が、雄叫びをあげながら凄まじい速度で

「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

それ以上の速度で、和磨が接近。
一太刀で斬り捨てた。やはり、その一撃に一片の躊躇も無い。

さらに、周囲のオーク鬼達が次々と和磨に襲い掛かる。もはや、カステルモール。クリスティナ。イザベラの三人は眼中に無いといわんばかりに、ただ一人相手に全力で。

それでも。襲い来る鬼達を次々に。しかし確実に斬る和磨の動きは、先程とはまるで別人。フライとウインドの魔法を併用し、疾走。

圧倒的な速度で移動し、常に有利な立ち回りから、次々にオーク鬼達の首を。腕を。足を斬り飛ばす。
軽業師の様に木々の間を飛び交い、ついでと言わんばかりに切り倒した木で、オーク鬼を押しつぶす。

そんな中、何が起きているのか理解できず、唖然とするイザベラの下に、クリスティナとカステルモールがたどり着いた。

「姫様。ご無事ですか?」

「申し訳ありません。姫殿下。敵に囲まれ身動きが出来ず」

二人の言は右から左へ。彼女の目には、目の前で繰り広げられている戦いしか映っておらず。そして、それを見つめながら、彼女は先程の和磨の呟きを。恐らく、いや。間違いなく自分にしか聞こえていなかったであろう一言について考えていた。

「ありがとう」と。聞き間違い出なければ、間違いなく彼はそう言った。そして不思議と、何に対しての「ありがとう」なのかが彼女には理解できた。

信じてくれて。

信じさせてくれて。

呼んでくれて。

生きててくれて。

守らせてくれて。

気付かせてくれて。

決めさせてくれて。



ありがとう。



他にも色々。万感を込めた一言。
口に出していた訳では無いが。それでも、彼女には何故か、その意味が理解できていた。









今現在も。オーク鬼達の怒号と悲鳴の様な鳴き声と。和磨の雄叫びが周囲に響く。
オーク鬼の血が。肉が一方的に舞い散る。オーク鬼一匹殺すのを躊躇っていた和磨本人が、そんな光景を作っているとは、とてもではないが信じられないであろう。
さっきまでは、その声は恐怖を押し殺した様な。誤魔化すような叫びだったのが、今は逆。初めてカステルモールと戦った時の様に、信念。覚悟が込められた咆哮。

だが、それを見つめるカステルモールは、それが当たり前だと言わんばかりの表情で、薄っすらと笑っていた。

あの日。和磨に試したい事があるから付き合って欲しいと言われた日。それ以来、何度か和磨の言う”遊び”に付き合ってきた。
曰く、「漫画。創作上の登場人物の動きを真似ているだけ」との事。
そして、毎回別人の様に違う動きを見せる。お陰で、対処する此方は常に緊張を強いられていた。
本人が何でもない事の様に言うが、これはかなり高度な事だ。魔法を使って動きを真似る。その為に、どのタイミングでどの魔法を。どのような使用法で。それらを、その場の思いつきで考え、実行してしまうのだから。
そしてその戦い方こそ。発想力こそ和磨の強さだと。カステルモールは考える。
例えば、今も。最初の頃から和磨が使っているフライ《重量制御》の魔法。あのような使用法をする者は他に居ない。しかも、あの使用法の利点は、その奇抜さにある。似たような魔法に、ライトネス《軽量》という魔法が存在している。文字通り、対象の重量を減らし、軽くする魔法。だから、素人は彼が魔法を使っている事が判別できず。また、熟練のメイジも、だからこそ彼が使っている魔法はライトネス《軽量》だと思い。思い込んでしまうだろう。そこで、突然。フライ《飛行》を唱えていないのに宙を飛んだら?想定外の事態という物には、人間弱い物である。その隙に敵を倒すという手法が取れるのだ。

そもそもこの世界《ハルケギニア》の騎士の剣とは、「如何にして魔法を使うか」を前提としている。剣術で、詠唱の隙を無くす。また、時間を稼いで魔法を使う。それが大前提。
だが、和磨の剣は「如何にして敵を斬るか」である。木刀では切れないが、だからこそ、和磨は訓練で全力が出せた。和磨にとって、魔法とは手段の一つ。何より本人が、魔法以上に剣を好む為か、むしろ剣の為に魔法を使用している節があるが。

始祖から賜った偉大なる魔法を、剣術如きの下地にするとは。許されざる行為である。

ロマリアの神官辺りが聞いたらそんな事を言うだろう。
だが、何よりも。その柔軟性こそが大きな武器。常識に囚われず、何事も一度自分で試して見る。常識がある人間が、魔法より剣術を優先するはずも無いのだから。魔法が存在しない世界から来たからこそ、何よりも魔法に対する探究心も強い。だからこそ、試すのだろう。

それらを踏まえて、カステルモールは思う。
和磨は天才だと。剣のではない。
剣の才能は、良くてそこそこ。可もなく不可もなく。
和磨の剣は、鍛錬の積み重ねで得た物だ。ならば何かと。それは「学ぶ才」とでも言うのか。和磨は兎も角、物事に対する学習能力が非常に高い。最初にこちらの常識や文字等を教えた時も、文字はルーンの効果かと推察したが、それでも異常に飲み込みが良かった。
ただ、これは何も和磨に限った話ではない。
普通の人も、身に覚えがあるのではないだろうか?例えば、好きな漫画の世界観や設定。例えば、好きな芸能人のプロフィール。好きな選手、チームの成績。好きなゲームの攻略方法等。大なり小なり、人間。自身興味がある事に対する学習意欲という物は、素晴らしい物がある。それが、和磨は人より少しだけ高くて、人より少しだけ、興味を引くものが多かっただけ。
そして、興味が無い物に対しては人並みかそれ以下である。
現に、宮廷での政治の話をした時の和磨の反応は「そういうのは専門の人に任せましょうよ~」と。項垂れながらの抗議であった。
彼は、興味があるか。もしくは、必要に迫られなければ学習しようとはしない。
それは、産まれ持って得た先天的な才なのか。それとも、今までの生活で身に付いた後天的な才なのか。
そこは、別にどちらでも良い。大事なのは、その才があるという事。
だから、ここに連れて来た。
殺さざるを得ない状況に。
必要に迫られる状況に。

”だから”カステルモールは笑っていた。











オーク鬼達は焦っていた。

なぜ、自分達が押されているのか?
相手はたった一人。しかも、自分達より小さく細く、見るからにひ弱な生物。それが何故。獣の。オーク鬼達の言語で、困惑の言葉が飛び交う。
そんな中、一匹のオーク鬼が周囲を押しのけて現れた。

「ぷぎいいいいいいいぃぃぃぃ!」

彼こそ、この森の。オーク鬼達の王。
2メイルのオーク鬼が子供に見える程、その体は巨大。他のオーク鬼達は、動物の皮を体に巻き、棍棒を持っているだけなのに対し、何処から調達したのか。彼だけが鉄の鎧と錆付いた大剣を担いでいる。

周囲に居るオーク鬼達が、皆彼を仰ぎ見る中。
ただ一人。和磨だけが、そんな事知った事かと言わんばかりに、虐殺の手を止めずに、寧ろ。彼の登場で周囲のオーク鬼達の動きが鈍ったのをいい事に、次々とオーク鬼達の首を刎ねていく。

「ぶぎやあああぁぁぁぁ!!」

彼は怒り狂った。自らが姿を現したにもかかわらず、小さくてひ弱そうな生き物は、見向きもせず。あまつさえ彼の僕たちを殺して回っているのだから。
その怒りを隠そうともせず、巨体を持って凄まじい速度で、和磨目掛け突進。
大剣を、叩き付ける様に振り下ろした。

叩きつけられた大地が悲鳴をあげる。

が、既にそこに和磨の姿は無く。
一瞬どこへ消えたと、周囲を見回そうとして銀色の光が。
僅かに差してきた陽光を反射した三日月が目に入り、彼は気が付いた。
和磨は、地上から飛び上がり、彼の頭上に居たのだ。
だが、彼は和磨に対してこの時点で特に何も思わなかった。せいぜい、
良く避けたな。
程度。足場の無い空中で、自らの脅威となる攻撃など放てない事を、彼は理解していたのだ。仮に魔法を使おうとも、その前に叩き落せばいい。着地した所を、今度こそ確実にしとめてやると。

そんな事を思って、それが彼の最後の思考。

視界が回る。比喩ではなく、まるで自分が転がり落ちているかのように。

他から見れば、それは彼の首が飛ばされただけの事。

フライにより、空中で姿勢を制御して一閃。

だが、たったそれだけで。

周囲に居るオーク鬼達は、大混乱に陥った。










自らの王が討たれ、恐慌するオーク鬼達。何匹か、どうしていいか分からずに、ただ本能のままに走り出そうとした所

ズシン

彼らを遮る様に、木が倒れてきた。また、別のオーク鬼が動こうとして

ズシン

重苦しい音を響かせ、倒れた木が進路を塞ぐ。

彼らが気付いた時は、既に手遅れ。
オーク鬼達を囲むようにして、いつの間にか周囲の木々が倒されていた。それは、木材の牢獄。
だが、だからどうしたと言う事も無い。オーク鬼達の体長は2メイル以上。木が横倒しになっている程度、大した障害では無い。
そこで、一匹が木を乗り越えようとした時。

「炎球《ファイア・ボール》」

そんな言葉と共に、炎の球が飛来。倒された木に直撃し、燃え上がらせる。
その一発を皮切りに、次々と。炎の球がオーク鬼達を囲むようにして倒れている木に命中。

「ぷぎぃいいいい!」

周囲を炎に囲まれ、混乱が広がる中。一匹のオーク鬼が空を仰ぐと、そこには。
空に浮き、刀を振り翳す和磨。
一振りするごとに、その先端から炎の球が。
上空から打ち込まれる炎球は、かつて和磨が決闘をした、グレゴワールという騎士のそれには遠く及ばないほどお粗末な物。しかし、この場面では、人一人を一瞬で消し炭にする火力は必要無い。必要なのは、木を燃やせるだけの火力。そしてそれは、和磨の火球でも十分だった。

やがて、オーク鬼の群れは。一匹残らず、炎の海に飲み込まれた。

炎海の中から、獣達の断末魔が聞える。だから、和磨は手加減しない。ひたすら、上空から炎球を撃ち続ける。周囲の森に引火しないよう、そうなるように木を切り倒した。一定の距離をとって作った。作られた火葬場に。
全ての燃料に火が回ったら、今度は直接オーク鬼達に。遠慮。躊躇。容赦。一片無し。
せめて、少しでも苦しまずに逝けるようにと。

だから一切手加減しない。全力で。










やがて、声が聞えなくなった。周囲を炎で囲まれ、酸素が行き渡らず、窒息したのだろう。未だ炎は治まらず、一帯を燃やし続ける。
それは地獄の業火か。審判の炎か。
だが、やがて獣達の死体も含め、全てを燃やし尽くすだろう。

ゆっくりと。地上に降り立った和磨は、自らが作り出した。そんなオーク鬼達の墓標に、何も言わず。ただ黙って目を向けるのみ。



――――――――ごめん――――――――



心の中で、黙祷。
斬る事に躊躇わない代わりに、斬った後には懺悔を。死者に敬意を。それが、ついさっき決めた和磨のルール。
だから、こみ上げてくる不快感を押し留め、目を逸らさずに、自分が成した惨状をじっと見つめる。そこから目を背ける事は、許されないと。










そんな所に。



パチパチパチパチ



間の抜けたような拍手が聞えてきた。
























「いや、見事だ。予想以上だよ。素晴らしい」

パチパチと。やる気がなさそうな様子で拍手をしながら、カステルモール。
一体どうしたのだろうか?
明らかにいつもと様子が違うカステルモールを、イザベラとクリスティナ。二人揃って、不思議な物でも見るような視線を送る。和磨も。特に何も言わず、ただ見つめるのみ。が、本人はそれらの奇異な視線を全く気にも留めていない様子。
そして突如。その表情を引き締め

「だが、だからこそ危険だ」

片手にぶら下げるようにして持っていた剣を振り上げ、そのまま目標。呆気にとられているイザベラへと、何の躊躇も無く振り下ろす。

カキン!

間一髪。和磨が間に割って入り、刀で受けた。

「何のつもりですか?先生」

いつか。王城で国王を殴った時と同じような、全く感情を感じさせない声。

「ふむ。何のも何も。遅いか早いかの違いだよ。そこの簒奪者の娘に頭を垂れるのも今日までと。そう言う事さ!」

言いながら、至近距離から魔法。エア・ハンマーを。
対して和磨も、エア・シールドで防御。

「簒奪者の娘?」

「そうだとも!そこの小娘の父。現ガリア王は、オルレアン公を害し、王位を簒奪せしめた!優秀な弟を殺し、無能な兄が王座を掠め取ったのだ!」

人が変わったかのように激昂するカステルモールと、同じく人が変わったかのように抑揚の無い和磨。
近距離で魔法を撃ち合った衝撃で互いに後退し、和磨はイザベラを守るように。
カステルモールとの間に、刀を構えて立ち塞がる。

「それで、何でリザに剣を向けたんですか?」

「この国の為だよ。そこの小娘を、そして、やがては無能王を廃し。オルレアン公の遺児であられる、シャルロット姫殿下を再び仰ぐ為に。奪われた王位をお返しする為だ!」

ちらりと、和磨は後ろに居る少女に振り返ると。
彼女は、小さく。しかし確かに震えていた。先程のオーク鬼の時とはまた別の恐怖。
彼女の根底にある恐怖か。

再びカステルモールへ目を向ける。

「それで。だから、何でリザに剣を向けたんですか?」

「分からんかね?いいかな?このままでは。無能な王と、無能なその娘に任せておけば、この国は滅びてしまう。それだけは、させてはならないのだよ。この国の安泰こそ、オルレアン公のご意思なのだから!」

「・・・で?だから。それとリザに剣を向ける事に、何の関係が?」

ようやく、和磨の声に感情が表れた。ただ、それは抑えきれない何かが溢れ出しているような。先程からカステルモールの演説は、和磨の質問の答えとは程遠い物だったので、いい加減焦れたのだろうか。
しかし、それを全く気にしない素振りで、カステルモールは悦に浸りながら続ける。

「つまりだ。有体に言えば、邪魔なのだよ。無能は無能成りに、お飾りとして王宮で遊んでいれば良かったのだがね。最近は事もあろうか、国政に参加しようとまでしている。これはいけない。それこそ、国の一大事だ。派閥を作るまでは良いのだ。そうして現王派と対立でもしてくれれば尚の事。だが、無能が国政に参加した結果、国が。民が傷つく事だけは避けねばならん。それは、君にも分かるだろう?」

和磨は答えず、ただ沈黙。
それを了承と受け取ったのか、カステルモールは気にせずに。

「本来は、君にもっと早く。計画を打ち明け、我々。オルレアン派に引き込む予定だったのだがね。如何せん色々と、計算外の事態もあり、このような形になってしまった・・・そこで、改めて問おう。カズマ君。我等と共に来たまえ。君は、そんな無能姫より、シャルロット姫殿下の騎士に相応しい。その場合君を貴族に採り立てる事もしよう。褒賞も思いのままだよ。なに、安心したまえ。その無能は人知れず、勝手に城を抜け出した挙句、オーク鬼に食われたという事で処理できる。君に一切の責任は及ばないよ」

「それ、断ったら?」

「その場合は、致し方ない。カズマなる従者が姫君をかどわかし、森に入った所、オーク鬼に襲われた。と、筋書きを変更するだけだ。取り込めないなら切り捨てる。放置するには、君は少々危険なのでね」

しばらく、和磨は沈黙。

カステルモールとやりあった場合、まず間違いなく和磨は負ける。
それだけ、力の差は歴然。魔法のランク。経験。剣術の腕前。全てカステルモールが上なのだから。つまり、これは脅迫。従わないならこの場で斬ると言う。

白みがかって来た空。まもなく、夜が明け、日が昇るだろう。

そんな空を一度。仰いでから。やがて、ゆっくりと口を開いた。

「先生。俺、貴方には感謝してます」

色々世話になった。字を教えてもらった。この世界の常識や、知識も。寝床も用意してもらったし、食事も出してくれた。食事の席での会話は、彼の経験談は非常に面白かった。
そして、騎士見習いとして訓練に参加させてくれた事も。はっきり言って、イザベラとどちらを取るかと聞かれたら、恩の数で言えば圧倒的にカステルモールであろう。シャルロット姫とやらが誰かは分からなかったが。



だから。



だからこそ。









和磨は目を閉じ、構えを解いて刀を下げた。















それを見て、カステルモールの顔には笑みが浮かび、背中にイザベラが身を強張らせる感覚が伝わる。

そして、和磨は、ゆっくりと。目を開く。















「だから、一度だけ言います。杖を捨てて投降してください。俺に出来る限り、弁護しますので」

下げた刀をしっかりと握る。
それは、今までの正眼では無く。
下段。ただの下段ではなく、右下に刀をぶら下げるような。刀を地に引きずるような構え。

和磨の答えを聞き、ヤレヤレと。首を左右に振って

「勝てると思っているのかな?君が、私に」

「さぁ。やってみなくちゃ分かんないですよ」

「ふむ。一つ聞こう。何故、そこの小娘の為に命を賭ける?惚れでもしたのか?」



ニヤリと笑い、和磨。



「そうですね。惚れたのかもしれませんね」



予想外の返答に、和磨以外の全員が一瞬呆気に取られた。
しかし、そんな事は気にしない和磨が続ける。

「諦めないで、頑張って。必死になって、努力して。一歩ずつでも、しっかりと前に。そんな姿を見せられたら、力になりたいと。思うのが人情じゃないんですかね」

何だそっちか。
何処かから舌打ちが聞えてきた気がする。
またどこかからは、やっぱり。そんな事かと。溜息が聞えた気が。

「ふん。それも無駄に終わると決まっているのにかね?」

「無駄かどうか。無理かどうか何て、やってみなくちゃ分かんないですよ。それにね」

「それに、何だね?」

「決めたんですよ。ついさっきですがね。彼女の。リザの想いに応えようって」

俺の勝手な。一方的な決定ですけどね。
小さく笑う。

「そうか・・・残念だ。では、二人纏めて死んでもらおう」

そして、カステルモールは。東花壇騎士団長が剣を構えた。
今までの。訓練とは違った凄まじい気迫。
間違いなく本気。和磨も一切手は抜かない。
というより、抜けない。何せ、こちらは格下なのだから。



一瞬の静寂。



そして



だから、和磨は駆けた。全力で。

基本は、最初に戦った時と同じ。距離を取られれば魔法で押し負ける。接近しても、剣術で押し負ける。

だから、初撃に全てを賭ける。

彼我の距離は10メイルも無い。
フライ《重量制御》ウインド《風》。
それらを併用しての踏み込みは、容易くその距離を0にする。
そして、すくい上げる様に。
下段。下から、逆袈裟に。右脇から左肩へ抜ける剣線で刀を振り、切り上げる。

対して、カステルモールも剣を振りかぶり、上から叩き付けるように、全力で振り下ろす。

互いの剣と刀がぶつかる瞬間。

鉄と鉄のぶつかり合う、激しい金属音――――――――――――――――――カン――――――――――――――と。

双方の全力の一撃にしては、余りに小さく。

何故なら

和磨は、双方の得物が接触した瞬間。
刀を、敵の剣の軌道に合わせ、いなす。
同時に体を、すり足で左にずらす。
すると、刀はいなした勢いのまま、上段へと。
そのまま、勢いを殺さず全力で。しっかりと重心を移動させ、体重を乗せて。
上段から、袈裟斬りに。

「はあぁっ!」

気合。一閃。

遠慮容赦一切無しの一撃は、そのままカステルモールの体を、肩口から切り裂く。

一瞬の出来事。
誰もが予想しなかった結末。



僅か一太刀で、和磨がカステルモールを斬り捨てた。



かつて、決闘の際に刺突を見たカステルモールに「それが切り札か?」と問われた時。やんわりと否定した。何せ、アレは本当にただの突きなのだから。今使ったのが切り札と言えるだろう。必殺と言い換えても良い。和磨が、師から教わった唯一の剣の術。「裡返し《うちがえし》」と。そう師が呼んでいた。上段からの敵の一撃を、下段からの切り上げで受け流し、其の勢いを利用し、逆に相手に上段から打ち下ろす。

剣道の試合でもたまに使っていたが、試合では使いにくい技であった。なにせ、相手が上段から打ち下ろしてくれなければ、ただの逆袈裟切りになってしまうのだから。そして、こちらの世界に来てからは、一回も使っていない。別に隠す意図があ
った訳ではなく、単純に使う場面が無かったから。

だからこそ。その一撃に賭けた。普通に戦っても負けが見えているのだから。

初撃で。対応できない内に確実な一撃を。

そしてその賭けに、見事。和磨は勝った。












崩れ落ちる体。

その数二つ。

カステルモールと同時に、和磨も。

その場に崩れ落ちた。















相打ちか!?

イザベラは、そう思い駆け出そうとするが、すぐにそれは違うと判った。

「ぅ・・・っくぅ。ぐっ・・・なんで・・・どうしてっ・・・せんせぇ・・・」

その場で、和磨は刀を放りだし、崩れるように座り込み、嗚咽を漏らし泣いていたから。

優しかった。厳しかった。楽しかった。恩人で、でも、裏切って。だけど、決めたから。彼女を守ると。でも、斬りたく無くて。それでも、手加減できなくて。結局、斬るしかなくて。手足を狙えば。それはだめ。慣れない事をする余裕は、だから。でも

「ぁんで・・・ちくしょう!!くそぉ!」

もっと。もっと自分に力があれば。そうすれば、手加減できたかもしれない。でも、もうそれは手遅れ。

「っぁぁぁぁあああああああああああああ!!」

だから、和磨は思い切り泣いた。
決めていたから。斬ると。
そして、その後に泣けばいいと。だから、遠慮容赦一切無しに。恥も外延も知ったことか。ひたすらに声をあげ、涙を流す。



イザベラは、どう声をかけようかと悩み、止めた。今は泣かせてあげようと。自分の為に辛い思いをさせてしまったのが申し訳なくて。それでも、守ってくれた事が嬉しかったから。

だから、彼女は何も言わず。ただ、涙にくれる和磨を見守るのみ。

そんな彼女の頬にも。一筋の涙。































「ふむ。まぁそこまで泣かれるとはな。正直、思っていなかったのだが」

そんな所に、たった今両断されたはずのカステルモールが、どこか気まずそうな顔をしながら現れた。

「もう宜しいのですか?」

「えぇ。十分でしょう」

「左様ですか」

平然と対応するクリスティナ。彼女だけは、予め知っていたのだろうか?そういえば、先程からどこにいたのか?気が付けば、オーク鬼達を燃やした炎が消えている。彼女が消火していたのだろうか?

平然と話す大人たちを他所に、子供達は言葉が出ない。

イザベラは声が出なかった。驚きの余りに。
和磨も、その声は耳に入っていたが空耳と思い無視していた。

しかし、そんな主従の反応を意に介さずに、カステルモールはイザベラの下へ。
そして、片膝を付き頭を垂れた。

「姫様。カズマの試練の結果は、合格です。彼ならば、北花壇騎士としてやっていけるでしょう」

唖然とし、立ち尽くす姫君。
いつの間にか、その隣に控えている侍従長。何事も無かったかのように、姫君の涙を拭く。

そこまで来て、ようやく。和磨も顔を上げ、カステルモールに目を向けた。

「あ・・・れ?せん・・・せい?なんで」

「落ち着け。君が斬った私は、偏在だ」

風の偏在《ユビキタス》
風のスクウェアスペル。自分の分身を作り出す魔法。分身各々が思考を持ち、杖まで分身するので魔法まで撃てる。という、実に素晴らしい魔法である。

今さっき自らが斬ったはずの死体は、跡形も無く消え去っている。

つまり

「は、ははははははは。なんだ・・・じゃあさっきのはお芝居だったんですか」

色々ありすぎて、どこかおかしくなったのか。壊れたような笑いである。
だが、カステルモールは首を横に振り、否。

「違うな。先程の私の言葉は、紛れも無く、我が本心だ」

その一言で、笑っていた和磨も、呆けていたイザベラも息を呑んだ。

「どういう・・・事だ?」

「そのままの意味です。先程私の偏在が言った言葉は、全て偽り無い我が胸の内。そして、私がオルレアン派であり、未だに亡きオルレアン公に忠義を誓っているのも、また事実」

傅きながら、淡々と紡がれる言葉は。だからこそ、それが本心であると分かる。そして、分かるからこそ、何故。今言うのだろうか?
そんなイザベラと和磨の疑問を察したのか、カステルモールは続ける。

「本心ですが、少々訂正が必要ですな。本心”でした”と。そう言うべきでしょう」

そう。少し前まで。正確には、一週間と少し前。和磨が、国王を殴ったというあの日までは、今の言葉が偽らざる本音だった。
それまでは、カステルモールも考えを変える気など更々無かった。今まで遊び呆けていた無能姫が、国政に参加するなどあるまじき愚行。派閥を作るのは良いが、国政なんぞやらせたら国が。民が苦しむと。どんなに努力しようが、所詮魔法を使えない無能であると。
だが、あの決闘で。カステルモールは、和磨が勝つと思っていた。いや、信じきっていたと言って良い。例え、女子供相手という事で本気を出せずとも、普段騎士団の訓練で見せる動き。判断力。彼の能力があれば、杖を取り上げて取り押さえるのは容易いと。

「ですがあの日。姫様はカズマに決闘を挑み、そして勝った。明らかに姫様が不利なのにも関わらず、です」

それが切欠。だが、兆候は前からあった。
カステルモールとて、和磨の取り込みの為に様々な工作をしてきたつもりだ。なるべく食事を共にし、言葉を交わす。騎士団の仲間に事情を話し、騎士見習いとして受け入れる事で、仲間意識を持たせる。後は、厳しく。しかし、しっかりと鍛え上げてやる。その際、さりげなく勧誘するだけで、和磨の性格ならば労せずして味方に引き入れられるだろうと。

だが同時に、疑問にも思っていた。
その疑問は、和磨と接する毎に大きくなる。
つまり、自分のしている事は、しようとしている事は本当にオルレアン公の意思に添うのだろうか?と。

そしてある日。和磨に聞いて見たのだ。
ガリアの事情を。兄が、弟を害して王位を簒奪した事を、他の国の例え話しとして。
すると、意外な答えが返ってきた。
「そりゃ、その兄が正しいのでは?正当性もあると思いますよ」
何故と。問いかけると、自分は政治は苦手だがと。前置きしてから答えたのは、ごく当たり前の事の様に。
「だって、王権の正当性なら元々長男にあるんでは?それに、当時の王様が最後まで悩んでたって事は、兄の方も言われてる程無能じゃ無いって事を、王様が理解してたからでは?もし、本当に兄が無能なら。もっと早く弟を王に指名してたでしょ」
言われて、その通りだと思った。更に
「そんで、弟が優秀で、派閥ができてるなら、それは将来国を割る事にもなりかねないんでは?と。だから、早めに殺したんじゃないかな~とか。まぁ、想像ですけどね。そういう難しい政治の話は、専門の人に任せるのが良いですよ」
和磨の意見は、完全な第三者からの意見。詳しい事情も、当時の情勢も無視しての。しかし、だからこそ。不思議と説得力があった。
そして、一月ほど前。イザベラが派閥を作ったと聞き、内心ほくそ笑んだが、同時にこのままで良いのかとの思いもまたあった。
何せ、彼女がやろうとしている政策はどれも、皆ガリアの国の。民の為になる物ばかりだったのだから。勿論、それらは未だ草案段階であるが、それでも。カステルモールは、その発想に目を見開いて驚き、素直に感嘆した。
そして冒頭に戻り、決闘が切欠で思いを改めた。

「私は思ったのです。動機が何であれ、姫様は国の。民のための政策を行おうとしておられる。そして、姫様の常の努力は、必ず報われると。何せ、魔法が苦手なあの姫君が、カズマに勝利したのですから。努力と研鑽を怠らなかった姫殿下の、立派な勝利でございました。ならば。姫様が努力を続ける限り。そしてそんな姫様を、彼が支続ける限り。必ずや、このガリアを良き国にするだろうと」

それこそ、亡きオルレアン公の意思。
彼の公爵は、何よりもこの国を。民を愛していたのだから。

「ならば、自分の役目は。オルレアン公の意思を継ぎ、この国をより良い国にする事。そして、それを行おうとしている姫様を妨げるのでは無く、自らの力を姫様のお役に立てる事こそ最上と。そう、思い直したのです」

言い放ち、顔を上げる。
カステルモールのその顔は、今までに見たことが無い程、晴れ晴れとした顔だった。

今まで何度思ったか。このままで良いのかと。確かに、王は無能かもしれない。その娘も、以前は遊び呆けるばかり。だが、ここ三ヶ月で確実に変わってきている。それに、辛かったのかもしれない。自分を先生と呼び、慕ってくれる青年を騙し続けるのが。だから、今全てを打ち明けた彼の顔は、一切の憂いが無い物であった。

「・・・それで、いいのか?お前は。私の父は・・・それに、私はシャルロットを・・・」

「えぇ。証拠はありませんが、確かに陛下がオルレアン公を害されたかもしれませぬ。ですが、それは陛下の所業。姫様には関係ないと。それを、私はカズマから教えられました」

言葉では無く、行動で。

「それに、ここ三ヶ月程。さらに詳しく言えば、姫様がカズマを召喚してからは、シャルロット姫殿下に対しての姫様の行いも変化しておりましょう」

それも事実。
イザベラとしては、和磨と話をする事で、また、彼が共に居る事でストレスなり、溜め込んでいたいろいろな物を吐き出せた。だから、従妹姫にそれをぶつける事は、ここ三ヶ月無かった。魔法に対するコンプレックスも。少しでも使える様になってきた事で薄れてきていた。
もう一つ。そんな事をしている自分を、和磨に知られるのが嫌だったと言う理由
が大きい。何故かは分からないが、何となくそう思ったそうな。

「人は、変わる物です。それを、私は彼から学びました。姫様も、彼から様々な事を学んだのではありませんか?」

「あぁ。そうだね」

言いながら、ようやくその顔に笑みが浮かぶ。

「ですが、一つだけ。もし、姫様がガリアに仇名す行いを為されば、私は容赦なく、姫様の敵に回りましょう。お忘れなく。私が忠義を誓うのはただ一人。亡きオルレアン公のみである事を。公の望みは、ガリアの。民の安泰である事を」

再び、頭を下げた。

「以上です。数々のご無礼。平にご容赦を」

イザベラも、ここまで言われてカステルモールをどうこうする気は無かった。というより、今の彼女なら何もしないと、そこまで計算してのカステルモールの行動であった。
そして一言「いい」との返事を頂いたので、いよいよをもって、本題。

「姫様。私から一つ提案が」

「なんだい?」

「はっ。東花壇警護騎士団団長。バッソ・カステルモールの名に置いて!カズマ・ダテ。彼の者を、ガリア第一王女。イザベラ姫殿下の近衛騎士に推薦致します!」

近衛騎士。
文字通り、常に傍に控え、王族を守護する盾である。
近衛騎士は、ある程度の地位や爵位を持つ者。もしくは、騎士団長クラスの推薦を以って選定される。

そして今。東花壇騎士団長であるカステルモールが、カズマを推薦したのだ。

「えっと・・・どういう事だ?」

突然の推挙に、面食らう王女。

「先程の試練の結果も踏まえての推挙です。自らより圧倒的に力がある者が相手であっても決して屈しない志。また、甘言に耳を貸そうともしない意思。忠義。そして、彼の戦闘力。どれをとっても、近衛騎士として相応しい物かと」

「いや、それは。でも、何でいきなり近衛なんだい?」

「姫様。姫様は未だ、近衛騎士をお持ちで無い」

そして近衛とは、言ってしまえば、主たる王族個人の所有物。
いかにガリア王とて、第一王女の所有物を好き勝手にする権限は持っていない。
それは、他の貴族にすれば内政干渉に等しいのだから。もしそれを許せば、貴族に与えられている特権を害されると。そう考えて反発する者達が続出するだろう。
最悪、それこそ国を割っての争乱を招きかねない。

「つまり、北花壇騎士として無茶な任務を要求された場合でも、流石に全ては無理ですが、有る程度なら。近衛の任があると言い逃れができます」

なるほど。
確かに、そうかもしれない。

そう思い、イザベラはその場で黙考。

少しして。

分かったと。一言だけ言い、未だに座り込んで呆けている和磨の下へと。

「カズマ。話は聞いてたかい?」

「・・・あぁ、まぁ。途中良くわかんない部分もあったけど、大筋は」

近衛騎士に推薦された事と、その理由の部分も理解した。

「そうか。なら、その前に一つ。いや、二つ聞く。一つ。お前は前言ったよね?見ず知らずの国民の為に命を賭けたくないって。あの気持ちは、まだ変わってないかい?」

「あぁ。変わってない。苦しんでる人が居るって聞けば、可愛そうだとは思うけど。でも、自分の命を掛けてまで、見ず知らずの人を助けたいとは思わない」

嘘や誤魔化しを求めての質問ではない。
それを理解している和磨も、正直に胸の内を明かす。

「一つ。お前は、生き物を殺すのが嫌か?」

「嫌だ。極力殺したく無い。けど」

「けど?」

「・・・決めたからな。だから、大丈夫」

何を。

それは、言葉にしなかった。
けれでも、何かは伝わった様子だ。

再び、姫君は和磨の前で目を閉じ、黙考。

やがて、ゆっくりとその目を開く。

「お前の意思は分かった。だから、それを承知で言う」

そこで一旦止め

「本来、こういう儀式ってのはさ。豪華な衣装、綺麗な宮殿で、仰々しく飾り立てた言葉を並べるんだけど」

ニヤリと。不敵に笑う。
その笑顔は―――――本人は決して口にしないが―――――和磨が一番好きな笑顔。
何かを企んでるような。
イタズラ好きな子猫の様な。
活力に溢れる眩しい笑顔。
その笑みを見ると、彼女なら何でもやり遂げてしまうと思わせる様な。

「そんなのは、”私達”には相応しくない。だから、小難しい言葉や、古臭い作法抜きの”私”の言葉で云うよ」

そこで一度区切り、大きく息を吸い込んだ。

「私の為に刀を振れ。私の為に人を斬れ。私の為に命を懸けろ。他は一切関係ない。そうすれば、お前の罪は私が背負う。何百。何千。何万斬ろうと!私が全て、責任を持ってやる!だからカズマ!私の物になれ!!」













何ともまぁ。
随分と熱烈なプロポーズだろうか。











言いたい事を言い終わると、ゆっくりと、イザベラはその右手を差し出す。
その動作は、和磨が断るとは微塵も思っていないのだろう。自信に満ち溢れている。












和磨は、笑いを堪えるので必死だった。
あまりにストレート。剛速球ど真ん中。
変化や細工など一切無し。だけど、それを和磨が空振るとは一切思わない。思っていない。







だから。
その気持ちは、しっかりと伝わる。

ならば。

ならば自分も。
はっきりと、応えなければならない。

お話や物語。伝え聞いた昔話の騎士。もしくは武士達が、自らの主君の為に命を賭ける。
そんな場面を良く見かけるが、和磨は正直。憧れはあったが、自分にその気持ちは分からないと思っていた。
思っていたが、今。
今なら、その気持ちが分かる。
今尚目の前で笑う蒼の姫君になら。彼女の為なら、命を。無論、簡単に投げ出す気など更々無いが、それでも。彼女にならと。そう思えた。そう思わせてくれる。
彼女の為なら。











座り込んでいた和磨は、ゆっくりと立ち上がり、袴に付いた土埃を払う素振りも見せず。
放って置いた刀を拾い、風の魔法で血を飛ばし、鞘に収める。

―――カチン―――

刃が鞘に納まる。

そして、未だに不敵な笑みで、今度は高低が逆転し、こちらを見上げてくる姫君に向け、苦笑気味に笑った。



その顔は―――――こちらも、本人は決して口にしないが―――――イザベラが一番好きな顔。
何もかも、優しく包み込んでくれるような笑顔。
常に。何があっても支えてくれる。そう思わせる顔。
仕方ないな。そう言いながら、彼女の我侭を許容してくれる様な。

「俺も、自分の言葉で伝えるよ」

言いながら、目を閉じ。考えを纏め。深呼吸。そして、すぐに開く。

「俺はリザ。ただ一人の為に刀を抜く。それ以外では一切抜かない。そして、抜いたからには迷わない。絶対に。約束する」

そのまま、差し出された右手に、自分の右手を。

やがて、二つの手が重なり。

二人は、しっかりと。確かに。

朝焼けの中で握手を交わす。













こうして、伊達和磨という青年は。
ガリア北花壇警護騎士として。
ガリア王国第一王女の近衛騎士として。
カズマ・シュヴァリエ・ド・ダテとして。
ただ一人の主君に仕える事になった。












いつの間にか夜が明け、朝日が二人を照らす。

方や、返り血や土埃で汚らしい格好。
方や、道中で引っ掛けたのか。エプロンドレスは破れ、下に来ていた黒のワンピース姿で。こちらもボロボロ。

そんな二人。
蒼の姫君と黒の騎士は、互いに笑顔で握手を交わす。

あの日。

和磨が初めてこの世界に来た日。

二人は、これからよろしくと。握手を交わした。

その日から、丁度三ヶ月目の朝。

それとは違う。

今度のそれは、確かな契約。

ただ一人の主君として。

ただ一人の騎士として。

蒼の主従は、名も無き丘で。

朝焼けが二人を照らす中。

永劫の契りを交わす。



















後に。

この場面は、ハルケギニア各地の劇場で。また、多くの絵画。多くの物語の中で語られる事になる。

しかし、その殆どは、喧々豪華な宮殿で、着飾った黒髪の騎士が、片膝を付き恭しく頭を垂れ。美しい衣装をその身に纏った姫君が、跪く騎士の肩を杖で叩く。
劇中ではそこで、飾り立てた言葉が並べられる。

そんな風に語られる中、一つだけ。

異彩を放つ絵画がある。

タイトルは『ガリアの夜明け』
作者は不明。ただ『K』とだけ。

その絵は、朝焼けの日の光の中。
汚らしい格好の男と、ボロボロの服を纏う女が笑顔で握手を交わす。

ただ、それだけの絵。


だが、後の歴史家の中で少数だが。
こちらこそ、彼の主従の誓いの場面である。
と。主張する者達が居る。
それは、遠い未来に置いて。既に関係者が全て亡くなっている事もあって、小さな論争を巻き起こしている。
何せその場面に居合わせたという者達は皆、生涯その光景を口にしなかったのだから。



歴史の一ページを追い求め。今日も歴史家達の論争は続いているそうな。


















第一部 ――――完――――






















以上。ご愛読ありがとうございました。
タマネギ先生の次回作。「疾風のギトー」をお楽しみに。
それでは、ごきげんよう。

































あとがき。


まず謝罪を。
え?上の嘘完結宣言について?いや、それはどうでも。ごめんなさい。それも。
ともかく、ともかくです。このお話は、もっと。もっと盛り上げたかったのです!ですが!ですがっ・・・。私の筆力不足により、自身で思っている様にはできなかったOrz

だから次こそっ!次こそはっ!!

そう思いながら、蒼の姫君。続きます。

つ 永続トラップ「カステルモール」発動!
伏せカードにして、何かの時に発動させようとも思っていたのですが、あえてオープンにしました。

そして騎士の誓い。
原作ではサイト君が跪いたりしてますが、この二人には似合わないかなと。
最初は宮殿でとかも思ってたのですが、それよりも、こっちの方が”らしい”と。そう思えるのです。


そんなこんなで、第一部完結。
とりあえず、修正と加筆をかねて一話から読み直しです。
その後、続きの第二部をば。




嘘次回予告!! 嘘です。絶対に(ry

其の爪は全てを切り裂き。其の牙は全てを貫き。其の瞳は全てを見通す。
次回。ゼロの使い魔 蒼の姫君 第二部 第一話「壬生狼」・・・なの。





2010/07/08 修正


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