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No.19454の一覧
[0] ゼロの使い魔 蒼の姫君 土の国物語 (オリ主[タマネギ](2010/07/26 18:23)
[1] 第一話 二人の出会い[タマネギ](2010/07/07 21:51)
[2] 第二話 魔法・・・それは、人類に残された最後のアルカディア。人はそれを求め、数多の時を(ry[タマネギ](2010/07/07 22:02)
[3] 第三話   ハルケギニア[タマネギ](2010/07/07 22:17)
[4] 第四話   就職?[タマネギ](2010/07/07 22:26)
[5] 第五話   姫君の苦悩[タマネギ](2010/07/07 23:19)
[6] 第六話   魔法と印[タマネギ](2010/07/07 23:52)
[7] 第七話   騎士見習い[タマネギ](2010/07/08 00:08)
[8] 第八話   決闘と報酬[タマネイ](2010/07/08 00:36)
[9] 第九話   王の命令[タマネギ](2010/07/08 01:07)
[10] 第十話   リュティスに吹く雪風[タマネギ](2010/07/08 01:18)
[11] 第十一話   姫君の意思[タマネギ](2010/07/08 01:34)
[12] 第十二話   王の裁き[タマネギ](2010/07/08 22:37)
[13] 第十三話  名も無き丘で[タマネギ](2010/07/08 23:10)
[14] 第二部 第一話   使い魔  (一部修正[タマネギ](2010/07/27 15:53)
[15] 第二部 第二話   日常   (旧タイトル 新撰組 大幅に修正しました[タマネギ](2010/07/26 18:58)
[16] 外伝  異世界の事変[タマネギ](2010/07/10 12:48)
[17] 第二部 第三話   王。再び[タマネギ](2010/07/21 21:30)
[18] 第二部 第四話   魔法学院[タマネギ](2010/07/21 20:52)
[19] 第二部 第五話   休養[タマネギ](2010/07/21 20:52)
[20] 第二部 第六話   戦場[タマネギ](2010/07/24 08:50)
[21] 第三部 第一話  光の国[タマネギ](2010/07/26 20:06)
[22] 第三部 第二話  北花壇騎士[タマネギ](2010/08/01 23:10)
[23] 第三部 第三話  吸血鬼[タマネギ](2010/08/02 01:18)
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[19454] 第十二話   王の裁き
Name: タマネギ◆52fbf740 ID:5ae333fe 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/08 22:37








第十二話   王の裁き












すったもんだの末、和磨の辞職は取り消された。尤も、侍従長が未だ他に漏らして居なかったので、周囲はまったく変化無しだったが。
あの後。カステルモール、クリスティナによるお説教があり、それは日が昇るまで続いた。具体的には、和磨の思い違いが多々あり、それを修正させたとの事。あのまま何処かに行っていたら、それこそ、被害が拡大したかもしれないと。
和磨も、全面的に自分が悪いと自覚しているので、素直に聞いていたとか。


そして、驚くほどアッサリと。あの騒がしかった日から一週間と少しが経過。
最初、王政府からどんな罰が下されるかと、主従揃って身構えていたのだが、今の所まったく。何の音沙汰も無しで、肩透かしを食らった気分である。何事も無いのは大変喜ばしいのだが、国王を殴り飛ばしておいて何も無しと言う。そんな在り得ない事の方が不気味であり、もう「やるなら早くしてください」と言った心境だろうか。気のせいか。王の高笑いが聞えてきそうである。

そんなこんなで一週間。二人して胃薬の世話になりながら、気を紛らわす為にチェスやカード等をして過ごしていた訳だが(遊んでいただけとも言えるが)本日。ようやく、王政府から一枚の命令書が届いた。
知らせを受け、イザベラの執務室。
カステルモール。クリスティナ。和磨と集合した所で、イザベラが命令書を開封。

そこには、ただ一文。

『カズマ・ダテ。彼の者に騎士《シュヴァリエ》の称号を与え、北花壇警護騎士に任ずる』

「・・・これは、一体どういう事でしょうか」

静まり返った部屋の中。最初に口を開いたのは、カステルモール。

「陛下の真意。分かりかねますね」

侍従長が続く。

「あの~。ちょっと質問が。北花壇警護騎士って何ですか?」

和磨とて無知ではない。この国の事についてなら、カステルモールやイザベラ。クリスティナなどからある程度聞いている。
ガリア花壇警護騎士団。
所属する者は、総じてガリア花壇騎士《シュヴァリエ・ド・パルテル》と呼ばれる。
ヴェルサルテイルにある花壇を。王を守る騎士になぞらえた物で、東。西。南。と方角と、植えられた花の名前が冠された騎士団が三つ。即ち、東薔薇騎士団。南薔薇騎士団。西百合騎士団の三騎士団が存在する。
だが、北の名を持つ騎士団は存在しない。

「そうか。お前には話してなかったね」

そこから、イザベラが和磨に話す。
北の名を持つ騎士団は”公式”には存在しない。北側には陽光が当たらないという喩えからであるとか。
だが、実際には実在している。
それが、ガリア北花壇警護騎士団《シュヴァリエ・ド・ノールパルテル》。
これはガリア国内外から持ち込まれた要人暗殺・怪物退治から、貴族の家庭問題まで、大小様々な揉め事を内々に処理する機関である。番号で呼ばれた団員たちは自らの素性を隠しながら、与えられた命令を忠実に果たす。団員は実戦慣れした者揃いであるが、自分以外の誰が北花壇騎士なのか、どんな使い手なのかも知らない。
そして、その任務は通常の騎士のそれより遥かに困難で危険が多い。

「そして、その北花壇警護騎士団の団長がこの私だ」

「ふ~ん・・・要するに、汚れ仕事専門の部署って事ね。隠密お庭番とか。公安とか。つか、リザ騎士団長サマだったのかよ」

と、自身に分かりやすい例えで納得した所で、ふと気付いた。

「あれ?でも、何でそこに俺が?つか、国王陛下をブン殴っておいて、騎士叙勲ってどういう事さ?」

それが分かれば苦労は

いや、イザベラには、そしてカステルモールにも。恐らくだが、クリスティナにも。つまり、和磨以外。此処に居る全員、それが分かっている。
故、オルレアン公爵の遺児であるシャルロット・エレーヌ・オルレアン第二王女。
彼女は現在、北花壇警護騎士七号。雪風のタバサとして、過酷な任務に従事している。
即ち、王政府から「死んで来い」と言われているのだ。
そして、同じ様に今度は和磨を。

「・・・・・・カステルモール」

「はっ」

姫に呼ばれ、畏まる。

「カズマは。北花壇警護騎士として、任務をこなせる力があると思うか?」

「・・・正直なところ、判断しかねます。訓練の際の動きを実戦でもできるなら、戦闘力だけならばあるいは。しかし、その他の部分は未知数。ですが」

言いながら、キョトンとしている和磨へと視線を向ける。
それに釣られ、他二人の視線も集中。

「何よりも、経験の無さが致命的かと。私見ですが、今のまま任務に就かせた場合、内容にもよりますが、生還は期待できません」

沈痛な面持ちで語るカステルモール。
部屋の空気が重くなる。

「あ~、そんなにヤバイのか。まぁ、うん。聞いてる限りだとかなりマズいっぽいね・・・つまりアレだ。サバゲーやってる人に実銃持たせて「戦争してこい」ってな感じか・・・う~ん・・・」

実戦どころか、亜人一匹倒したことすら無い。というより、試合以外で剣を振ったのは、まぁ決闘はこの際除いて。先の喧嘩一回きりである。言うまでも無く、試合、訓練と実戦は別物。いくら訓練で動きが良くても、実戦で力が出せなければ意味が無いのだ。

さすがに、これには姫君も頭を抱えるしか無かった。
何せ、罰則では無く、これは恩賞なのだ。
内実はどうであれ、騎士叙勲。そしてガリア花壇騎士任命と。罰則なら減刑なり、別の形で償わせるなりと対応があるのだが。いくら何でも、何の理由も無く恩賞を断る事はできない。それも、王政府より直々に任命書が送られて来たのだ。万が一にも「彼にその力はありません」等と言おう物なら、それ即ち「国王の人を見る目が節穴である」と。そう宣言する様な物で。しかも、第一王女であり、王位継承権第一位の自分が。これは今度こそ、どんな事態になるかは予想も付かない。今度は王政府のみならず、諸侯も巻き込んで一騒動起きても不思議ではない。つまり、今ここでいくら頭を悩ませても、この命令に逆らう事は出来ないのだ。

そんな中一人。何やら思案していたカステルモールが口を開いた。

「姫様。私に一つ。提案がございます」

一斉に。視線が向くのを気にせず、カステルモールは続ける。

「彼に試練を課しましょう。私自ら、彼が北花壇警護騎士として働けるかどうかを審査します」

「出来ると。お前が判断したらどうする?」

「素直に命令に従えば宜しいかと」

「・・・もし、駄目だったら?」

「その時は、訓練中の事故に見せかけ、死んでもらいましょう」

その一言に、全員が息を呑む。

「あの・・・先生?」

「そのままの意味で受け取るな。あくまで、対外的にそのように処理するのだ」

「どういう事だい?」

「はっ。その場合は、死んだ事にして、顔と髪の色。それと名前を変えて、侍従として働けば良いかと。流石に、騎士見習いとして訓練に参加させる事はできませんが」

なるほど。
理解した。が、それは危険な賭けになる。
なにせ、王政府を。あの国王を騙す事になるのだ。万が一にもバレたらどうなるか・・・・・・・・・
何か他の手段は無いか。必死に脳細胞を働かせる。
だが

「んじゃ、それで行きましょう」

考え込むイザベラを無視し、あっけらかんと。いつもと変わらぬ和磨。

「カズマっ!そんな簡単に!?」

「だってさ。要は先生の試験に合格すりゃ良い訳でしょ?ならそれでいいじゃん。騎士様ってのは、あんま乗り気しないけどさ。ここまで来て我侭言うわけにもいかんでしょ」

ヘラヘラと。何でもない事のように笑う和磨を見て、自分がこんなに心配しているのにお前は!ってな感じの怒りが。

「本当に分かってるのか!?例え合格してもお前は!」

「分かってるさ。危険な。命がけの仕事をやらされるってんだろ?」

笑うのを止め、いつになく真剣な表情で。

「大丈夫。直接「死ね」って言われた訳じゃ無い。要するに、俺が任務を成功させてる限り、死なないで済むって事だろ?一度諦めて、それでも救われた命だ。むざむざと、あんな青髭如きにくれてやるもんか!」

不敵な笑みを浮かべ、不敬全開。
もし聞かれていたら・・・・・・。
彼の国王なら、ただ嗤うだけかもしれないが。

開き直っただけとも取れる和磨の宣言を聞き、口をパクパクと。
言いたい事が色々在りすぎて、言葉が出ないイザベラだったが。

「何だ。そんなに心配してくれるのか?」

挑発するような言葉に

「当たり前だろ!!」

思わず叫んで、ハっと。

「もう良い!知らん!勝手にしろ!!」

そのまま肩を怒らせ、ドカン。
思い切り扉を蹴り飛ばし、部屋を出て行ってしまった。
それに何事も無かったかのように続く侍従長は、もはやお約束。

残された和磨は、くつくつと。楽しそうに笑っている。

「・・・・・・本当に良いのだね?」

「くっくっくく。えぇ。先生。お願いします」

「承知した。ならば詳しい日程は後程。出かける準備だけしておきたまえ」

笑うのを止め、はい。と。しっかりと返事をする和磨の顔は、いつになく真剣であった。










そう言えば、明日でこっちに来て丁度三ヶ月か。

そんな事を思いながら、日課の千本素振りを終わらせ、支度を終える。
と言っても、特にいつもと変わらない。
紺色の道着。黒の袴。腰には木刀と。先日改めて受け取った日本刀。三日月宗近を差し。

「よしっ!」

気合を入れるため、パン。と。両手で頬を張った。

屋敷勤めの人たちと、すれ違いざまに軽く挨拶を交わし、玄関に。

「おはようございます。先生」

いつもの様に挨拶。

「うむ。おはよう。それでは行くぞ。準備は良いな?」

「はい!」

元気良く返事。
そのまま、外へ出ようとして

「待ちたまえ。その木剣は置いていきなさい」

「え・・・?」

「試練だと。言ったはずだ。すでに試練は始まっている。もう一度言うぞ。置いていけ」

常に無い迫力のカステルモールからの命令。
和磨は、素直に従う事に。
一度戻り、宛がわれた部屋に木刀を置き、再び玄関へと

「お待たせしました」

「うむ。では行こう。あまりお待たせると失礼だ」

「は?」

言葉の意味が理解できず、しかし、かといって取り残される訳にも行かずに、とりあえず後に続く。
そのまま歩き、屋敷の門を出ると、そこに二人のメイドさんが。

「おはようございます」

一人は、別に不自然では無い。
此処に居る事が不自然と言う意味では不自然かもしれないが、ともかく。
クリスティナ侍従長。
だがもう一人が

「遅い。何時まで待たせるんだ」

腕を組み、仁王立ちする蒼髪のメイド。
とてもメイドとして正しい教育を受けたとは思えない態度と言葉遣いの

「・・・・・・何やってんだよ。リザ」

「私はイザベラじゃない。エリザベータだ」

・・・・・・・・・・・・

何食わぬ顔で隣に控えている金髪に視線を送る。その顔は「何か?」とでも言いた気。その「何か?」が「何か問題でも?」なのか「何か文句があるなら言えやゴラ。潰すゾ」なのかは、大した問題では無い。というか、もうどこから突っ込めと?

「それで?先生。一体どこへ?」

結局、無視する事にしたらしい。
後ろから「おい!何だその態度は!」だの「ご主人様に対しての礼儀が!」だの云々。全て聞き流す。

「・・・うむ。本来馬で移動する予定だったのだが・・・その、何だ。とある事情で竜籠を手配して頂いた。とりあえず、乗りたまえ」

和磨、盛大に溜息。
”とある事情”と共に、竜籠に乗り込む。
クリスティナが御者台に乗り、手綱を握る。

「では、参ります」

一言。一匹の竜が空へと。













「それで、聞きそびれましたが。どこに行くんですか?」

「うむ。ここリュティスより、馬で二日程の距離にある森だ。そこには亜人。オーク鬼が生息している」

対面に座るカステルモールが、地図を取り出して指差す。

「つまり、自分にその亜人を倒せ・・・と?」

「そうだ。とりあえず、実戦を経験しない事にはどうにもならんのでな」

「・・・・・・分かりました」

そのまま、何事か考え込む和磨。
しばらく籠の中は無言に。

だが、いい加減。隣に座る蒼髪メイドの負のオーラに絶えかねた和磨が、とりあえず、疑問に思った事を聞く事に。

「あ~・・・リザ。王宮抜け出して平気なのか?」

「私はエリザベータだ。王女じゃない」

それで通すつもりなのか。
と、そこで窓越しに御者代から答える声が

「問題ありません。姫様のスキルニルを残して来います。万事、抜かり無く」

ピシャリと。
言うだけ言って窓を閉めた。

「いや、王女様が城抜け出すのはマズくねーか?」

スキルニル。というのがどんな物かは分からなかったが、以前。刀を買いに出かけた時は、リュティスの中だったから良かったのかもしれないが、今回は外。
しかも、亜人が出るという危険な森な訳で。

「私は王女じゃない。エリザベータだ」

「まだ言うか!?」

スパコーン!

思わずヘットドレスごと、その頭を引っぱたいた。

「何をする!人がせっかく付いて来てやったのに、さっきから無視するわ頭を叩くわと!」

「あー、はいはい。そうですね。そこについては、感謝してますよ」

少し前なら「どうせ暇だったんだろ?」とか何とか言っていただろうが、今は。
心配してくれているのが分かる。そこは、素直に嬉しいと感じるのだが、同じように。和磨も心配している訳で。
何せ、周囲を警護の騎士達で固められた王宮とは違うのだ。しかも、向かう先は危険な生き物が居る森。正直、付いてきて欲しくは無い。が

どうせ、言っても聞かないし。つか、ここまで来てる訳で。今更引き返せないか。それに

「そうだろう。だいたいからして、お前はもっと私を敬うという事をだなぁ」

何やら得意げに旨を張りながら、雄弁に語るご主人様を見ていると、とてもではないが「帰れ」とは言えないと。














しかし。
和磨は、ここで彼女を無理やりにでも帰さなかった事を、やがて後悔する事になる。



















「っはぁ!」

名も無き森の奥深く。
体長2メイル程の、二足歩行する豚顔のモンスター。
オーク鬼と切り結んでいるのは、黒髪の剣士。

そして、そんな一人と一匹を、少し離れた位置から見守る三人。

一行たちは、森の手前で竜籠から降りて、ここまで徒歩で来た。
着いた時は太陽が真上にあったのだが、現在は大分日が沈みかけ、空を茜色に染めている。時間がかかったのは、何も距離のせいだけではない。
某メイドモドキが「疲れた」「足が痛い」「まだ着かないのか」と。
まぁ、普段城から出ないお姫様に、獣道を掻き分けての散策は酷であろうが。
結果、道中何度か休憩を入れ、確か、五度目くらいの時。
いい加減和磨がブチ切れて、彼女に「レビテーション」の魔法を。
そのまま、その手を引いてズンズンと。
尤も、魔法をかけられ、宙に浮き、手を引かれるだけのご身分である姫君は楽しそうであったが。


そんなこんなで現在。
一匹のオーク鬼を発見し、カステルモールの命で、和磨一人でこれの相手をする事に。

本来。オーク鬼一匹は、人間の戦士五人に匹敵すると云われている。
つまり、和磨が一人で相手をするのは無謀。
だが、カステルモールはその事は和磨に伝えていない。クリスティナは知っているだろうが、彼女も言う気が無い様子。
そして、オーク鬼の名前と存在くらいしか知らないであろう姫君も、当然その事は知らず。
もし、彼女が知っていたらまず止めただろう。
尤も、止められてもカステルモールはやらせるつもりだっただろうが。
何せ、和磨に求められる物は、北花壇警護騎士として任務をこなせる力である。
最低限。オーク鬼くらい一人で倒せなければ、そもそもお話にすらならないのだから。
カステルモールが見る限り、騎士団の訓練で見せる動きができれば、オーク鬼の一匹くらい簡単に倒せるだけの実力がある。
それが、和磨に対する彼の評価だったのだが・・・・・・・・・。

「っく!」

実際は、やはりと言うべきか。
現在、和磨は苦戦中。
最初の一撃。
相変わらずの、素晴らしい踏み込みで一気に間合いを詰めた和磨だったが、そこからの動きは、今までの彼とはまるで別人。無論、悪い意味でである。

せっかく油断していた敵に対し、初撃で首なり、頭なりを狙わず、手に持っている武器を狙っての攻撃。
違う部分に。体に直接当たりそうになると、とたんに鋭さを失う斬撃。
それが、現在まで繰り広げられている戦い。攻勢に出る事無く、ひたすらに守勢。

「何をしている!さっさと斬らんかっ!」

いい加減焦れたカステルモールの怒号が響く。
それに反応したのか、遂に一太刀。

「ピギャーーー!」

耳障りな悲鳴をあげながら、胸から血を噴出すオーク鬼。

「浅い!もう一撃!」

再びの怒号に、和磨も咆えた。

「っ・・・ああああぁぁぁぁ!」

今度は、スパーンと。
その首を刎ね飛ばした。



「はぁっ!はぁっ!はぁっ!っぐ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

僅か数分の戦闘にも関わらず、普段なら在り得ないほどに息を切らせ、疲労を見せるる和磨。
そんな和磨を見下ろし

「周囲に他に居ないか調べてくる。それまで休んで良し」

言いながら、カステルモールは森の中へと消えていく。

ドカ

途端に、和磨は音を立ててその場に座り込んだ。

「・・・カズマ。平気か?」

和磨を気遣いながら、おずおずと声をかける少女もまた、足が震えていた。
さすがに、この距離で生の戦いを見た事は無いのであろうに。

「はぁ・・・はぁ・・・あぁ・・・何とか。ね」

自分は今、上手く笑えているのだろうか?
正直、舐めていた。
敵をではない。
それこそ、自分自身を。

剣を振り続けて約十年。今まで、人は当然な事として、動物を切った事も、また、剣を向けた事も無かった。当たり前だが、真剣を触ったことはあれど、扱った事など無いのだから。そもそも、百年以上昔ならともかく、現代の日本で剣を握るなど。いや、それ以前に剣道とは、人を切る為の技では無い。
師、曰く。剣道とは即ち剣により礼を学ぶ物也。
人を切る為の物ではなく、学ぶ為の物であると。
和磨は剣を振ること自体が楽しくて続けていたという経緯がある物の、その大本は違っていない。そして、現代日本の教育の賜物と言うべきか。和磨もまた、人並みの倫理観を持ち合わせている。

つまり。

オーク鬼達が、人里に下りてそこに住む人間達を襲っていると言う事なら。
自分達が他に食料が無く、オーク鬼の肉をも食料として確保せざるを得ない状況なら。
それらの状況なら、まだ躊躇いも少ないだろう。
だが、ここのオーク鬼達は森の中で生活しているのみで、人里には下りていない。
食料も、持ってきた分はまだ十二分にある。
現在、和磨がオーク鬼を切る理由はただ一つ。
自身の試練の為という、なんとも自分勝手な都合。何の罪も理由も無い生物を。それも、体長こそ違えど、頭があり、手足があり、二足歩行して、多少とは言え知性がある生き物を殺すと言う行為が。
この世界では、甘いと。一言で切って捨てられるだろう倫理が、和磨の剣を鈍らせる。
木刀なら、打撃のみで。命まで奪う事無く倒せただろうが。今和磨の手にしているのは真剣である。恐らく、カステルモールはそこまで考えて木刀を置いてこさせたのだろう。

覚悟は、してきたつもりだったのに・・・。
自分を救うと。笑いながら言ってくれた少女に、精一杯。報いるために。
人だろうと、何だろうと、斬り捨てると。
それは、所詮現実を知らないガキが、思いあがって息巻いていただけだったのだろうか。

物思いに耽っている所で

「来たぞ!次だ!」

森の中から、一匹のオーク鬼を連れたカステルモールが現れた。

「っく・・・そおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」

再び。刀を手に和磨は咆える。
心の中で、ひたすら相手に謝りながら。
その剣は、依然。鋭さが無い。











「っぁ!っ・・・っ・・・っは!・・・はぁっ・・・」

すっかり日が沈み、辺りが暗闇に包まれた所で、その日は暖を取り、休憩する事にした。
現在までで、和磨が倒したオーク鬼は五匹。
たった一人でこの戦果は、本来賞賛されてしかるべき物なのだが、和磨に対してそれが送られる事は無い。何せ、彼がこれから歩まなければならない道は、この程度が出来て当たり前の世界なのだから。

精も根も使い果たしたといった風体の和磨は、力無く近くの木に背中を預ける。

「ほら、水だ。飲め」

そんな和磨に、寄り添うようにして、甲斐甲斐しく汗を拭いたり、水を飲ませたりと。今初めて、その服装と行動が一致している蒼の少女。

「あぁ・・・・・・」

和磨はされるがまま。適当な返事を返すのみ。
イザベラとて、和磨の試験が如何に過酷か、判っているつもりだ。オーク鬼の事も。カステルモールやクリスティナは何も言っていないが、普通は五人で相手にする様な化け物である事も。それでも、彼女が一切口出ししなかったのは

「おい、本当に平気か?」

「あぁ・・・」

一重に、和磨を信じていたから。理屈ではなく、感情で。和磨なら大丈夫だと。
それでも、やはり王宮で待つのみというのは辛い。だから、クリスティナに無理を言って連れて来てもらった。危険でも、いざとなれば和磨がと。そんな事を思いながら。
しかし、現実はそう甘くない。
現に、目の前に居る和磨は、常の元気が何処へやら。疲労を隠そうともせず、殆ど身じろぎもしない。
だからせめて、今自分に出来る事をする。自分にできる事など、汗を拭き、水を飲ませてやる事くらい。他は、もう信じるという事だけ。だが、それだけでも良いと。
できる事があるなら、やるだけだ。










「如何ですか?彼は」

「このままでは駄目ですな。如何せん、躊躇いがありすぎる」

そんな二人に聞えないように、調達してきた材料を鍋に入れ、かき混ぜている侍従長の問いに、カステルモールがかぶりを振った。

「経験を積めば消えるのでは?」

「・・・どうでしょうか。そう簡単にはいかないかと」

何やら考え込むカステルモールに、彼女は「そうですか」と、一言だけ答えた。

その後、軽い夕食を採った後。余程精神的に堪えたのだろう。木に寄りかかるようにして、和磨が眠りについた。
次に、そんな和磨を世話していたイザベラもまた、何だかんだで疲れていたのか。和磨に寄り添うようにして、いつの間にか動かなくなり。やがて、小さな寝息が。
そんな二人に、風邪を引かないようにと。毛布を掛け、侍従長もその場で横に。
一人起きて火を見つめるカステルモール。
その胸の内は誰知らず。

パチ。パチ。バチ。バチン。

焚き火が撥ねる音が、夜の森に響く。
やがて、森は静寂に包まれ、住まう住民達は皆、静かな眠りに着く。
様々間思いを胸に抱いて。
























あとがき

以上第十二話です。
倫理云々をグダグダ語るつもりは無いのですが、やはりその部分に何も触れないのも不自然なので、少し。

ヒャッハー!汚物は消毒だ!
     |
     |
     |
     |
  場合によりけり。
     |
     |
     |←今この辺り
     |
NO!絶対ダメ!絶対!!

ななん さんにご指摘頂いた「カズマの逃亡による問題点」について。本文にちょこっと説教という形で書かせて頂きました。ご指摘ありがとうございます。

書いてて思ったのですが、竜籠って竜の手に(前足?)持たせた籠なのか。それとも、竜の背中に乗せた籠なのか。もしくは、竜を馬の様に見立てて、後ろに籠を引かせてるのか・・・確か原作でシエスタが「竜の顔怖い!」とか何とか言ってた気がするので、前足か背中かなぁ・・・



次回予告! 嘘です。絶対に(ry

迫り来る物は。悪意を以って。其の身を潜め・・・
次回。ゼロの使い魔 蒼の姫君 第十三話「契約」
君は、歴史の目撃者になる・・・


2010/07/08修正


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