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No.19353の一覧
[0] 【習作】ゼロの使い魔~盟約の流刃~(オリ主転生物)[スタロド](2010/07/08 18:21)
[1] 第1話 現実のち非現実[スタロド](2010/06/27 17:57)
[2] 第2話 一流貴族の風格[スタロド](2010/06/27 17:57)
[3] 幕間1 モンモランシ伯爵の日記[スタロド](2010/06/27 17:58)
[4] 第3話 10%は意外と当たる[スタロド](2010/06/27 17:58)
[5] 第4話 のどかな一点の雨[スタロド](2010/06/27 17:58)
[6] 第5話 領土視察[スタロド](2010/06/27 17:59)
[7] 第6話 早過ぎた顕現[スタロド](2010/06/27 17:59)
[8] 第7話 白き光は禍々しく (前編)[スタロド](2010/06/27 17:59)
[9] 第8話 白き光は禍々しく (中編)[スタロド](2010/06/27 18:00)
[10] 第9話 白き光は禍々しく (後編)[スタロド](2010/06/27 18:00)
[11] 幕間2 我が子の為に[スタロド](2010/07/24 17:44)
[12] 第10話 湖畔の人型はその後黙して・・・[スタロド](2010/06/24 22:51)
[14] 幕間3 移ろいし者[スタロド](2010/06/29 21:47)
[15] 第11話 赤い狼と先見の瞳[スタロド](2010/07/08 18:23)
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[19353] 第2話 一流貴族の風格
Name: スタロド◆d524341c ID:2a11c8c3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/27 17:57
 窓から秋の陽光が差し込む昼下がり、俺は自室のベッドの上で羊皮紙の冊子を眺めていた。

 紙の表面に踊っているのは日本語。身体がある程度自由に動けるようになり次第俺が書いた物だ。

 中には、“この世界”の未来や重要人物の情報がぎっしりと詰まっている。

 “ゼロの使い魔”はハマっていた時期があったので、かなり細かい所まで書きとめることができた。

 ルイズのことは勿論、ハルケギニアの危機からヴィリエやペリッソンの事までなどなど。

 おかげでかなりの量の羊皮紙を使ったけど。

 外伝は読んでなかったので、残念ながらそっちに関する情報はゼロだ。

 こんな事になるなら読んでおけば良かったと思ったが、こんな状況になるなんて誰が予想できるだろう。

 身を起こして備え付けの鏡を見てみると、そこには金髪翠眼の、端正な顔立ちをした“グラム・ルシッド・ラ・フェール・ド・モンモランシ”と言う名の3歳児。

 うん、普通に美少年。前世の自分の顔を思い出すと悲しくなってくる。


 ホント自我覚醒からの2年半は大変だった。

 言葉がわからないのもそうだけど、『目が覚めたら異世界。しかも架空』なんて状況だと分かって初めはパニック状態だった。


  転生だけでも理解不能なのに架空の異世界ってどゆこと!?
  どうなってんの!?俺物語の住人になっちゃったの!?
  つーか架空世界現実にしちゃったヤマグチノボルは神なの!?


 と、まぁ、こんな感じで意味のない思考がぐるぐる回ってた。

 でも、そのうちにグダグダ考えても始まらないと悟った。諦めたとも言う。

 『言葉を覚えなきゃならない』っていう第一の目標があったから、そっちに思考を切り替えられたというのもあるけど。


 ここで俺の家族構成を簡単に説明しておこう。

 父様は金髪碧眼の現モンモランシ家当主で、『水』のトライアングル。
 中々にプライドが高くカタブツで、確かに水の精霊を怒らせてもおかしくはなさそうな人だ。
 誤解されないように言っておくが、別に悪い人ではない。

 母様は茶髪翠眼の『土』のライン。
 柔和な見た目通り優しい人物ではあるが、その分怒ると怖い。

 そして8つ上のフレイ兄様がいて、『水』のラインだ。
 頭髪も眼の色も父親譲りで、11歳でラインになった事から優秀だといわれている。
 何より、兄様がいるお陰で、俺がこの家を継がなくて済むのが個人的には非常に有難い。面倒事はできるだけ避けたいし。
 兄の存在に感謝。

 最後に双子の妹のモンモランシー。原作にも登場する女の子だ。
 3歳児らしく元気いっぱいで、いつもその面倒を俺が見ているといった感じ。
 もうすっかり家族や使用人の間では、『しっかりした兄と元気な妹』といったコンビで見られている。
 おかげで俺にすっかり懐いて、これが中々可愛い。


 羊皮紙に書かれた原作知識の確認も終わったので、俺はその冊子を棚の中にしまった。
 ちなみに『使用人には絶対に処分するな』といってある。
 傍から見れば、小さな子供が奇怪な暗号を大量に書いた紙を心底大事にしているのだから、結構奇妙な光景だろう。

 しかし、原作知識は保存できてるから一安心ではあるものの、この世界が俺の知っている“ゼロ魔”と同じように進む保証はどこにもない。

 まず“モンモランシーの双子の兄”が存在している時点で原作と違う。
 一応ヴァリエール家やグラモン家など、主だった家がある事は確認できたが、どこでここに書いてある内容とずれるか分かったものではない。

 あ、それと、あの時のモノクルおじさんはやはりヴァリエール公爵だった。
 父様とはある程度面識があるらしい。


 これからの方針だが、理想を言えば、何事もなく平穏に暮らして行きたい。
 でもこれから問題が山積みなので、そうは言ってられないだろう。
 ジョゼフ王とか、大隆起とか、放っとけば世界が滅びかねないものもある。
 原作と全く同じように話が進むなら、むしろ手を出さない方がいいだろうが、少しでも乖離があるようなら、俺もある程度協力した方がいいだろう。

 そのためにはまず強くならないといけないが。

 考え事を一旦中断して、羊皮紙の束をしまった棚から、今度は幻獣図鑑を取り出す。屋敷の書斎から拝借してきた物だ。

 ようやく、こういう難しめの単語が出てくる本が読めるだけの言語能力が身に付いたので、取りあえず興味のあるこの世界の幻獣について調べようと思い、昨日からこの図鑑を読んでいるのである。

 本当は魔法から習得したかったが、この家では杖の契約は5歳から、というしきたりらしい。
 最初は不満だったが、“レビテーション”でも人が殺せる事を考えれば、むしろ5歳は早い方かもしれない。

 再びベッドに座り、図鑑を開く。


 当然というか何というか、“フェンリル”やら“ケルベロス”やら、原作には登場していない幻獣もたくさん存在しているようだ。

 中には人間と見た目が全く同じ亜人もいるらしい。
 身体能力が人間よりかなり高く、先住魔法も使えると書いてある。

 ……完全に人間の上位互換じゃね?

 なんて思っていると、唐突に部屋のドアがガチャっと開いた。

「おにーさまー」

 入ってきたのはモンモランシー。さっきも説明したが俺の妹である。

「なによんでるのー?」

 未だ少し舌足らずな言葉を喋りながら、こちらへテトテトと走ってきて、綺麗な碧眼で図鑑を覗き込んできた。

「幻獣図鑑だよ」
「げんじゅうずかん?」

 俺が微笑んで答えてやると、モンモランシーは可愛らしく小首を傾げて聞き返してきた。

 俺の喋り方については突っ込まないでほしい。
 これでも3歳児を精一杯演技しているのだ。自尊心が傷つかない程度に。

「うん。この世界の生き物がたくさん載ってるんだ」
「へぇー!ねぇねぇ、これはなに?おにーさま」

 モンモランシーが幻獣の絵を指して、目をキラキラ輝かせながら顔を近づけてくる。
 透き通るような金髪と、形の整った鼻や口。
 既に美少女としての片鱗が現れ始めている。

 ちなみに俺の金髪は、母様の茶髪も混じっているせいか、モンモランシーや兄様より色が濃い。

 俺がいろんな幻獣を見せてやると、その度にモンモランシーは楽しんだり、怖がったりと忙しく表情を変化させた。



 ――――――――――
 ―――――――
 ――――



 トントン

 日もだいぶ傾き、外が暗くなり始めた頃、部屋のドアがノックされた。

「どうぞ」、と返事をすると、「失礼します」とメイドのシリアさんが一礼して入ってきた。
 それからシリアさんは俺たちを見ると、和んだように顔を緩めた。

 今俺達は二人揃ってベッドに寝転がり、図鑑を読んでいる。
 といってもモンモランシーはもう寝入っているが。

「グラム様、モンモランシー様、夕食の準備が整いました」

 シリアさんが顔を引き締めて(完全に締まってないが)、要件を言う。

「ありがとうございますシリアさん。すぐにモンモランシーを起こして向かいます」

 俺がそう言うと、シリアさんは身を縮こまらせて、

「そんな、お礼など恐縮です」
 と言った。

 俺からしてみれば、俺達の生活を支えてくれている人達に礼を言うのは当然だと思うのだが。

「シリアさんもこの家を支えてくれているんですから、それくらいは当然ですよ」

 だからそう返したのだが、それを聞いたシリアさんは、ますます恐縮して部屋を出て行った。

 郷に入っては郷に従えというし、ある程度はこちらの階級制度も受け入れるつもりだが、ここまで身分差が酷いのにはまだ慣れない。
 慣れたくもないけど、と思いつつ、振り返ってモンモランシーをゆり起こす。

「うにゅっ」と声をあげてモンモランシーが目を開けた。

 取りあえず顔を洗わせて、俺たちは食卓へ向かった。



 ――――――――――
 ―――――――
 ――――



「明後日、皆でヴァリエール公爵家に出かける」

 夕食を食べ終わると、いきなり父様がそんな事を言いだした。

「グラムやモンモランシーと同い年のルイズ嬢があちらにもいて、お互い一度会わせてみたい、という話になってな。招待された」

 まぁ、よくある話だ。兄様とあっちの次女のカトレアさんも同い年だし。
 ここからヴァリエール領は結構遠いが、竜籠を使えば割と早く着くだろう。
 意外と早くメインヒロインと会うことになったな。

「あらあら、明後日とはまた急ですね」

 母様がまったく焦ってなさそうな、のんびりとした口調で言った。
 ヴァリエール公爵家という名を聞いて、兄様は少し緊張している。

「ばりえーるにおでかけ?」

 隣に座るモンモランシーが俺に向かってそう問いかけてきた。

「みたいだね。友達ができるかも知れないよ?」

 俺がそう返すと、モンモランシーは「ほんとに!?」と目を輝かせた。
 友達ができるのは初めてなので楽しみなのだろう。


 その後しばらく他愛のない話をして、寝る準備をすることになった。



 ――――――――――
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 ――――



 モンモランシ伯爵家は、ラグドリアン湖の一画をその領地に収め、代々王家と水精霊との、盟約の交渉役を務めてきた家系である。
 水精霊の力はトリステイン領全土に渡っており、水害や日照りの心配もなく、そのお陰で作物を安定して収穫できる。
 貴族の家には全て下水道が完備されているのも、水精霊の助けがあってこそだ。
 トリステイン全ての川は、水精霊によって清潔に保たれており、病人も他国に比べて圧倒的に少ない。
 他にも数えきれない程の恩恵をこの国はもらっている。
 この盟約のお陰で、今までトリステインは国力を衰退させながらも、未だ国として成り立っていると言っても過言ではない。
 だから国内の貴族の質がどんどん悪くなっているのもあるのだが……。
 そのような盟約を維持できるモンモランシ家は、地位こそ伯爵家であれ、実質的に公爵家にも並ぶ権力を持っているのである。



 ……とかなんとか父様は言っていたが……。

「ウチがこの家と同レベルとかあり得ないっての」

 目の前にそびえ立つは、ラ・ヴァリエール公爵邸という名の城。
 曇り空と相まって迫力が凄まじい。
 あまりの大きさにモンモランシ邸と比べるのもばからしくなってくる。

 何というか、貴族最高峰の風格を見せつけられた気分だ。
 モンモランシ家も伯爵の中では上の方なのに、こうも差がつくのか。

 竜籠から降りた家族の方を窺うと、兄様は俺と同じく唖然としていて、モンモランシーは「おっきなおしろ!」とか言ってキャッキャと騒いでいる。
 父様と母様はいつも通り。さすがだ。

 そんなことを考えていると、これまたでっかいゴーレムが跳ね橋を下してくれる。
 そのまま俺たちは中に招待された。



 ――――――――――
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 ――――



「グラム・ルシッド・ラ・フェール・ド・モンモランシです」

 教えられた作法で一礼をする。

 屋敷に入った俺たちは客間に通され、そこではヴァリエール家の家族が全員で迎えてくれた。

 親同士が軽く挨拶をすませ、今度は子供の自己紹介の番だ。

「モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシです」

 俺に続いてモンモランシーも礼をする。ちなみに兄様の紹介はもう済んだ。

 こちらの挨拶が済むと、今度はあちらの三姉妹の自己紹介。

 まず長女のエレオノールさんが口を開く。

「エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールですわ。よろしくお願いします」

 顔は笑って、そう言ってくれた。うん、顔だけは笑ってる。

 あの、エレオノールさん?どうして目が笑ってないんでしょう?
 どうせ笑うなら目も笑ってくださいよ。あと何ですか、その威圧感たっぷりのオーラは?
 公爵と公爵夫人は、子供に対してそのオーラは隠してますけど、エレオノールさんは隠しきれてませんよ?
 モンモランシーなんか、涙目で俺の後ろに隠れてますけど……。

「あらあら、お姉さまったら、そんな怖い顔をしては皆さんが怖がってしまいますよ。私はカトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」
「え!?怖い顔!?」

 聖母のような笑顔で優雅に一礼するカトレアさんと、自分の顔をペタペタ触っているエレオノールさん。
 二人とも対照的な美貌を持っている
 どちらも原作通りのようだ。

 まだカトレアさんはフォンティーヌ領は貰っていないのだろう。

 ふと兄様の様子を窺ってみると……、カトレアさんを見て赤くなっている。
 まぁ、モンモランシ家なら望みもあるし、頑張れ。似合わないけど。

 不意に視線を感じて前を向くと、カトレアさんがじっと俺を見つめてきている。
 ……なんだか自分の全てを見透かされているようで落ち着かない。

 転生者だってバレてないよな?

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」

 そんな俺の不安をよそに、ルイズが礼をしてくれた。
 原作通りのピンクがかったブロンドの髪と、鳶(とび)色の瞳。
 そして、ハルケギニアの未来を担う“虚無”の使い手。
 しかし、まだ杖も持っていない彼女は、今は普通の貴族の子女に見える。
 この子が将来“虚無”に目覚めることなど、誰も予想できないだろう。

 挨拶も終わったところで、各々親睦を深めるために談話が始まった。

 兄様がガチガチに緊張しながら、カトレアさんに話しかけようとしている。
 ムリだなあの様子じゃ。兄様引っ込み思案だし。
 美形で優しい所は評価できるんだけど、ヤワいんだよなー。

 モンモランシーとルイズも話しあっている。
 うん、どうやら早速仲良くなったみた―――――

「なによー」
「なによー」

 ―――いでもなかったっぽいな。いきなり一触即発かよ。

 慌てて俺が仲裁に入る。それを年長者達は微笑ましいとでも言うかのように眺めている。
 つーかあんたらも止めろ。

 今度こそ仲良くなったみたいで、俺は息をついた。

「ねぇ、グラムちゃん」

 名前を呼ばれたので振り返ると、そこにはしゃがんで目線を俺と同じくしているカトレアさんがいた。

 いきなり“ちゃん”付けですかー。3歳児だから仕方ないですけども。

「あなた本当に3歳児なのかしら?」

 心臓が跳ねた。
 いや、今までそのセリフは幾度となく言われてきたけど、カトレアさんのは明らかに言葉に含み持っているものが違う。

「僕は3歳ですよ」

 無駄だろうが、できるだけ無邪気な笑顔とともにそう返す。

 前世の記憶があるとは知られたくない。
 やっぱり他人からみれば少し気持ち悪いし、下手すればアカデミーに何されるかわからない。
 まず信じてもらえないかもしれないが。

 俺の言葉に引き下がるわけもなく、カトレアさんは首をかしげる。
 ピンチだ。軽く冷や汗が流れる。

「うーん、でも――ゴホッゴホッ」
「カトレアさん!?」

 いきなりカトレアさんが咳き込みだしたので、俺は驚いて声をあげた。
 皆も駆け寄ってくる。

「ちい姉さま、大丈夫?」

 ルイズが真っ先に駆けてきて声をかけた。



 それからカトレアさんはエレオノールさんに付き添われ、寝室へと帰ることになった。
 やはりこの世界でも体が弱いのだろう。

 助かった、と言うのは不謹慎だろうな。

 客間から出る間際、カトレアさんは俺の方を向いて「またね、グラムちゃん」と、にこやかに笑って、手を振って去って行った。
“ちゃん”付けは訂正しておくべきだったか。
 あの様子だと次会った時、また問い詰められるかも知れない。

 ……兄様、自分が話しかける事ができなかったからってそんなに俺を睨まないでくれ。

 公爵から、カトレアさんは生まれつき身体が弱いという説明と謝罪を受けた後、俺達は夕食を御馳走になった。

 ウチの夕食も豪華だが、公爵家のは十分その上をいっている。
“こことモンモランシ家が同等”などと言う父様はどれだけ自信家なのだろうか。

 夕食を食べ終わる頃には、外はドシャ降りになっていた。
 これでは帰る事ができない。

 仕方ないのでヴァリエール邸に一晩泊めてもらうことになった。
 これだけの豪邸なので、家族5人分+モンモランシ家の護衛が泊まるには事欠かない。



 俺に割り当てられた部屋に入ると、これでもかと言うほど広い空間が俺を出迎えてくれた。

 この屋敷の物置に藁敷いて寝てた才人はなんだったんだ。

 窓から外を覗いてみると、真っ暗な中から雨水が窓にぶつかり、時々来る雷が広大な草原を青白く照らした。
 なかなか不気味である。

 雷がうるさいなと思いながら、魔法のランプ(手動で点く)を消して眠ることにした。

 ランプを消すと部屋は真っ暗になり、俺はベッドに横たわった。


 ――――――――――
 ―――――――
 ――――


  ギイィ……。

 ドアが開く音がして、俺は目を覚ました。

 あたりはまだ真っ暗だ。窓を叩く雨の音も、まだ勢いが弱まっていない。
 遠くで雷が鳴っているが、その雷光が部屋に差し込む事はない。

 雷が鳴り止んだ後、キイィィっとわずかな音を立てながらドアが閉まった。

 ペタッペタッという足音が、暗闇の中ゆっくりとベッドに近づいて来る。

 かなり怖いシチュエーションである。俺は恐怖に駈られながら慌てて手元にあったランプを点けた。


「……モンモランシーか」

 枕を抱きかかえて立っているモンモランシーを見て、俺は安堵のため息をついた。

「こんな夜中にどうしたんだ?」
「あのっ……そのっ……」

 顔に流れた冷や汗を拭いながら、できるだけ優しく声をかけてやると、モンモランシーは体をもじもじさせた。
 俺が首をかしげると同時に、ひときわ近くで雷が鳴り、それを聞いたモンモランシーが「ひぅっ!」と体を竦ませた。

「あぁ、雷が怖いのか」

 それで眠れなくて俺のとこに来た訳だ。
 俺がそう言うと、モンモランシーは顔を赤らめた。なんともベタな子供である。
 さっきまでこのモンモランシーに恐怖していたのかと考えるとおかしくなり、思わず「ははっ」と笑ってしまう。

 その笑いが自分に向けられた物だと思ったのか、モンモランシーは怒ったようにプクっと頬を膨らませた。

「ほら、おいで」

 俺が手招きしてそう言うと、モンモランシーはベッドに潜り込んで、俺に寄り添ってきた。
 明かりを消して、少しの静寂の後、また近くで雷鳴が轟き、モンモランシーが体を強張らせた。
 暗くて顔が見えないが、多分涙目になっている事だろう。
 ゆっくり頭を撫でてやると、モンモランシーは安心したように息を吐いた。

「大丈夫?」
「うん。おにーさまがいるから、こわくない」

 そう言うと、モンモランシーはぴったりと体を俺にくっつけてきた。

 その後もしばらく頭を撫で続けてやっていると、規則正しい寝息が聞こえ始めた。
 どうやら完全に眠ったようだ。俺も安心して目を瞑った。



 翌朝、二人で添い寝している所を家族に見つかり、
 モンモランシ家の双子に関する微笑ましい話の一つになった事は、また別の話。





<あとがき>
 作中の「翠眼」という言葉は作者の造語で、その言葉の通り翠緑色の瞳のことです。



2010.06.08 初回投稿

2010.06.27 文体修正


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