「スザク。……俺は」
そう言った親友の目は、決意に満ちていた。
「ブリタニアが、覇道を歩む宿命を負うとしても――――その先の未来を、逃がしはしない」
遠く海洋の先の、生まれ故郷を見ながら。
凪の海に押し寄せたブリタニア帝国軍を眺めながら。
「人が運命に縛られない、自分達で歩む世界があるのならば」
戦争が始まる、その恐怖と緊張が国家を包む中、彼は言った。
聞いていたのは、自分と、生意気な従姉妹だけだった。
「決して壊される事のない、人と人との優しい世界を、人が維持していけるのならば」
親友は。
ルルーシュ・ランペルージは、宣言した。
まるで、世界に布告するかのようだった。
「俺は、――――この世界を乱してでも、其れを望もう」
コードギアス 円卓のルルーシュ 第一章『エリア11』編 その⑤
カレンが己を取り戻した時には、パイロットブロックの中で、大きく息を乱していた。
「……は」
今まで、人を殺した経験はある。だが、――今日は、疲れた。きっと直前の会話のせいだ。
常日頃からのゲットーの現実。ナンバーズと虐げられる民衆や、名誉になっても尚、煮え湯を飲まされる日本人達の姿。普段からの鬱憤が激情になって、特殊部隊らしい兵士達に銃を向けてしまった。
KMF用アサルトライフルから吐き出された数十発の12・7×9・9ミリ弾。KMF同士では致命傷になり得ないとはいえ、人間に向けて撃てば一発で命を奪える。集団に向けて連射をしても、ものの数分で蜂の巣になってしまう。
まして、全弾を消費してしまえば。
「……」
小さな呻きは、誰に向けた物だったのか。
息を整えて外を伺ってみれば、嘗て人間だった残骸が、転がっていた。
たった今、カレンが殺した、ブリタニアの兵士達だった。
「……」
我ながら、慣れとは恐ろしい物だと思う。
初めて人を殺した時は、自分が恐ろしくて、一日中震えて涙が止まらなかったのに。
その後は、怒りという言葉で感情を押し固めて、自分に言い聞かせるように戦っていたのに。
今の自分は、疲弊こそしているが、心の中の忌避感から既に薄れている。
気が付いたら銃を撃つ事も、刃で人を指す事も、体で相手を壊す事も、全てが出来るようになってしまっていた。
(……嫌な、慣れ)
カレンはサザーランドを操って、トラックに近寄る。
先程の騒ぎで、名誉ブリタニア人の兵士は逃げていた。リヴァルの姿も見えない。死体に混ざってはいないから、きっと一緒だろう。違ったとしても何も出来ない。
この場に居るのはアッシュフォード学園に通うお嬢様、カレン・シュタットフェルトではない。兄と共に神聖ブリタニア帝国に逆らう、紅月花蓮なのだから。
「…………」
遠くで、KMFが動く音が聞こえる。微かに響く振動は、小さな誘爆の証だろうか。
機体を運転席に寄せたカレンは、パイロットブロックをイジェクトし、素早く飛び降りた。そのまま華麗に着地し、着たままのドレスを翻して、運転席の扉を開ける。
事故の衝撃でひしゃげていた扉は軋み、カレンの強引な挙動で泣き声をあげる。
「……永田さん」
返事はない。いや、息の音すらも聞こえてこない。
彼の腹部からは、隠せない程の血が流れ出ている。抑えていた掌は垂れ下がり、ハンドルに寄りかかる形のまま、微動だにしない。
首筋に手を当てて、脈を見た後で――――カレンは静かに、開いたままの彼の目を閉じてやった。
「…………」
俯いて動かない永田号の姿は、KMFからでも見えていた。
けれども、それでも確認したかった。まだ生きているかもしれないという、一縷の望み。
戦いにおいては、縋ってはいけない希望を望んでしまったのは、きっと先の兵士達の言葉があったからだ。イレブン、そう呼ばれて虐げられ、使い捨てられる人々の存在を。
込み上げてくる“やるせなさ”に拳と心を震わせて、カレンは。
一瞬だけ瞳を閉じ、次の瞬間にはしっかりと見開く。
頬を叩いて、気合を入れ直した。
(今は……此処から、離れる事を優先)
死体を運ぶ余裕はない。彼の死に報いる為にも、せめて荷台の荷物と、カレンの命。この二つは確実に持って帰ろう。そう自分に言い聞かせる。
小さく気分を入れ替える為に息を吐いて、KMFに戻る。
いや。正確には。
戻ろうと、した。
「そこまでだ」
カチャ、と頭に固い感触が当たった。
(嘘)
その、余りにも唐突な変化に、呆気にとられた。
呆けたように止まるカレンは、暫しの後に――――何よりも、驚いた。
一体、いつ、どうやって、背後の男は、ここに来た?
驚愕。思考が凍った。驚きよりも、信じられないという思いの方が、強かった。いや、カレンとて人間だ。だから背後の人物を、KMFから降りるときに見逃していた可能性はある。
だが、まさか。
自分がこれほどに簡単に、背後を取られて。
それどころか、銃を向けられるまで気が付かない……!?
「そのままゆっくり、此方を向け」
有り得ない、という思いは人間の行動を縛り、外部の反応に従順にさせる。威圧感のある声ならば、尚の事。状況を把握できなかったカレンは、だから素直に、従ってしまった。
振り向いた先には、見覚えのある男が立っている。
それは先日、公園で遭遇した、紫の瞳を持つ美青年だった。
●
ゲットーの内部は、どのエリアでも大きく変わらないらしい。
荒廃しきった土地を眺めながら、アーニャは高速のままシンジュクを回る。機関損傷を防ぐ為、馬力とドライブ回転数を調節して最高速度から落としているが、それでも速い。普通のKMFの倍近いだろう。
グロースターは、シンジュクの北を走っていた。ジェレミア達の部隊に先行し、進路を北から南に、同時に僅かに西に向けている。ゲットーの中心が向かう先だった。
総督の指示で動く軍は、南方から中心を目指している。外縁部に沿ってKMFの囲いを構成し、それを徐々に縮めて行くという、数に物を言わせた広範囲の行動だ。
一見、効率が良いように見えるが、無秩序な雰囲気は隠しきれない。……いや、軍の運用は間違っていないが、戦場の最優先目的を、見誤っているのだ。
アーニャが時々行う、戦略シミュレーションゲーム的に表現するならば、『指定ターン以内に、指定された複数の場所に行く』――――というのが、今回の達成するべき目的。
しかし、カラレス総督は違う。彼の行動は『敵を全て倒す』という事に主題が置かれすぎている。
(……それが、出来るの?)
仮定で問い詰めてみる。『指定ターン以内に相手を全滅させ、尚且つ目的地に到達する』。それが可能ならば誰も文句は言わない。けれども彼の指揮する部隊には難しいだろう。
まず足が遅い。それに、隠れている敵を探す手間もかかる。仮に成功しても、その“先”に繋がらない。
間違ってはいないが、読み誤っているとは、そう言う意味だ。
『アールストレイム卿』
「……ん? 誰?」
通信が入る。ジェレミアか、と思って画面を見ると、見覚えのない軍人が映っていた。
プライドの高そうな、エリート風の金髪男性。きっと純血派の一員、なのだろう。
『は。ジェレミア卿から命じられました、キューエル・ソレイシィと申します。お指示を』
「……そう」
少しスピードを緩めたアーニャは、素早くパネルを操作し、戦場の様子を確認する。
爆発は複数個所。南の半分は総督軍に任せるから、北半分の現場に向かえば良い。ジェレミアは演習場(東)から西に進む軍勢の指揮を執るから……。
「キューエル。貴方は自戦力を率いて同行。中心まで言ったら、その後、西」
アーニャはこのまま、中心の爆発跡に向かい、その後、総督軍の方に抜ける事にした。
ジェレミアとキューエル、二人の軍は、何があっても対処できるように外縁部に向かわせよう。
南半分に向かうのが、自分とルルーシュの二人ならば――――仮にカラレスが余計な事態を引き起こしても、被害は最小限で済ませられる。その自信があった。
『あの、御無礼を承知でお尋ねいたします。卿は一人でも大丈夫、なのでしょうか?』
キューエルの疑問も、分かる。
ラウンズの中で、歴戦の戦士という雰囲気を持つには、若い人間が多すぎる。本来ならばアーニャは中学生だし、ルルーシュ、ジノも高校生。モニカは大学生。C.C.は年齢不詳だけど、外見だけは若い。
特にルルーシュだ。外見からしてか細いし、ラウンズの仕事も指揮的な仕事が多い。他のラウンズ並みの活躍を期待して良いのか、と誰もが一度は思うのだ。
「大丈夫」
アーニャは伝えた。大丈夫だから、ラウンズなのだ。
ルルーシュは体力がないが、アレで運動神経は良い。疲れるからやらない、と言うだけで、やろうと思えば優秀な成績を残せることを知っている。KMFも同じだ。
そもそも、アーニャが断言出来るだけでも――――乗馬が出来て、スクーバダイビングが出来て、射撃と自衛が出来て、母から剣と体裁きを習っている。持久力はラウンズ最下位(自分よりも、だ)だが、ごく短時間の運動能力を見れば平均と変わらない。
まして『ドルイドシステム』はルルーシュがいれば、KMFの常識を壊すような機能を発揮する。
「だから問題無い。それより、注意」
何でしょうか、と聞くキューエルに、明らかに異常な事実を、教えてやる。
演習場に一番近い場所から、中心部に向かい、既に複数個所の爆発現場を回っている。
大小合わせて、恐らく両手両足では効かない爆発だ。火薬ではない。化学薬品による所業だった。流石は技術大国・日本。名前が奪われても、その技術は地に落ちてはいないという事か。
だが、それより、なにより。
ゲットー内部に存在する抵抗勢力を、明らかに――――見誤っていたとしか、思えない。
「現場に――――ナンバーズの死体が、一つたりとも、無い、のは」
明らかに、異常すぎる。
作為的なまでに、誰もない。人の気配はあるが、非常にごく少数なのだ。
数多くの戦場を知るアーニャは、感じ取っていた。
シンジュクゲットー内部に渦巻く、何処か“危ない”予感と言うべき存在を。
●
事故を無関係と思わず、現場に来て正解だった。もう五分遅ければ、彼女はこの場から退散していただろう。冷静に、そう思った。
少女の殺気を受け流しながら、ルルーシュは銃を突き付けている。
昨日の穏やかな様相からは様変わりした、苛烈な瞳だ。
「やはり、な」
公園で出会った時から、普通の女生徒だとは思っていなかった。
何が有った訳ではない。だが、その立ち振る舞い。あるいは瞳に込められた物。そして別れに一瞬だけ触れた、掌の感触。小さな要素を重ねて、彼女がKMFに乗れる人間ではないかと推測した。
だが、何よりもルルーシュを捉えたのは、その髪だ。
朱色に近い、鮮やかな色。ブリタニア人でも珍しい、美しさよりも生命力を示す彩。
嘗て、枢木神社の近く。
軒を連ねた古びた商店街の八百屋の前で。
自分とぶつかった、桃を買って行った少女に、よく似ていた。
一度会った人間を忘れない事が、良い事か悪い事かは、置いておく。
「……無関係だ、と否定はしないのか?」
仮に少女が、無関係だ、と言い張っても逃す気はない。だが、極限状態での態度が、その人間の本音だ。
責任逃れをする人間ならば、ルルーシュは容赦なく引き金を引いていただろう。
(……誤魔化す気は、ないようだな)
銃の狙いは、頭ではなく腹だ。銃口に対する面積が大きい腹部ならば、相手の回避は難しい。
世界には、銃弾を回避できる人間がいる事を、ルルーシュは知っていた。
「恥じる真似は」
朱の少女は、吐き捨てるように言った。
「していない」
「なるほど。其処に居る“俺が承知していない部隊”も、お前が殺したのか?」
「――――そうよ」
ルルーシュの言動に、何か不思議な色を感じ取ったのだろう。だが、沈黙は一瞬だった。
「下等なイレブンが、御同胞を殺したのが気に食わないかしら?」
「いいや。戦場では誰もが平等に敵の弾に当たる。そして、撃って良いのは、撃たれる覚悟の有る奴だけだと俺は思っている。……そう言う意味では、君は合格だ」
この少女は、本当に良い目をしている。
逆光にあっても諦めない、燃えるような生命の力だ。
こうして銃を向けられている間でも、最後まで自分の命を捨てる事無く、全力で足掻こうとしている。
思わず、銃を下ろして逃がしたくなるような、そんな強さが有った。
行動が覚悟と信念に依っている、その証拠だ。
「名前を聞こうか」
「……人の名前を聞く時は」
「そうだな。……ルルーシュ。ルルーシュ・ランペルージだ」
「――――ッ!」
その名前に、少女の目が開く。まさか、という疑問が浮かび、小さく目を上下させ、言われてみれば、と事実を確かめる。そして一層に強い目で、此方を見る。
「直接顔を合わせても、案外、気が付かれない物だな」
小さく笑みを浮かべる。
有名人と同じだ。服装、ナイトメア。更には“いるに相応しい空間”が揃っていないと、ラウンズと認識されない事も多い。外を出歩いていても、私服にサングラスだったら、意外なほどに正体がばれない。
有名人が、あんな所にいる筈が無い、という思い込みがある。
シンジュクゲットー。騎士服を着て銃を向けている青年と言っても、その本人がラウンズ、という直球は逆に盲点だ。ブリタニアの常識を知っているだろう少女にしてみれば、特に。
「俺は自己紹介をしたぞ。名前は?」
「……紅月」
歯を噛みしめるように、少女は言葉を捻り出した。
こうして銃が向けられている以上、彼女は従わざるを得ない。
「そうか。では紅月。――――大人しく捕まって貰おう。何、殺すつもりはない」
身分を調べる必要もあるし、アッシュフォード学園の生徒を殺したら、ミレイが悲しむだろう。ルルーシュの泣かせたくない人間の一人だ。彼女は。
「安心しろ。約束を破るつもりはない」
これが総督ならば、さっさと撃ち殺せとなるのだろう。実際、彼女は強い。戦士としてのレベルも高い。特攻覚悟で抵抗されると抑えきれないかもしれない。
だがルルーシュはしなかった。彼女の、その力を惜しんだ、ともいえる。
ラウンズ内では有名な事だが、ルルーシュは人に甘い。敵には容赦が無いが、敵と判断するにも猶予がある。出来るだけ相手を理解しようとする。その甘さが、利点であり、そして、欠点だった。
「……本気?」
「ああ。――――これでも喧嘩や争い事は、嫌いだ」
「……天下のラウンズ様は、御立派、ね!」
声と共に。
思い切り腕が振るわれ、銃と頭部の間に相手の掌が入る。腕を後ろ手に。撃てば暴発する格好だ。
彼女はそのまま銃口を握り、凄まじい握力で銃を奪い取ろうとする。筋力勝負では分が悪い。
だからルルーシュは素直に銃を“渡した”。
そして、相手が構えるよりも早く、持っていた、もう片方の銃を突きつけた。
「!」
「ああ。良く言われる」
モニカには遠く及ばないが、射撃も結構、得意だ。
今度は顎に突き付けられた銃口に、少女は、悔しそうな顔をする。だが、如何にも為らない。敵の戦力を把握せずに戦いを挑んだ時点で、彼女の敗北は決定していたと言える。
彼女はそのまま、素直に銃を地面に落とす。
それを背後に蹴り飛ばして、ルルーシュは告げた。
「さて、今度こそ大人しくしていて貰いたいな」
圧倒的な優位を思い、ルルーシュは僅かに安堵の息を吐く。
だが、ルルーシュはすっかり忘れていた。
彼には数奇ともいえる宿命がある事を。
もはや運命や因縁と言っても構わない。
即ち、順調に行っている時程、彼の予想だにしない事象が、降りかかってくる事だ。
「……ルルー、シュ?」
小さな声で、そう呼ばれた。
呼ばれた。あるいは、反芻されただけなのかもしれない。
朱の少女ではない。もっと低い、若い男の声だった。
(……誰だ?)
周囲には誰もいない。銃を向ける騎士が一人。銃を向けられる少女が一人。運転席で動かない遺体が一つ。無残な死体が散乱し、その傍らには名誉ブリタニア人の兵士が――――。
(……ち、迂闊な!)
今になって気が付く。銃で腹部を撃たれた兵士。倒れていたその兵士に、出血が無い。
何かに遮られたのか。何か予期せぬ事態があったのか。
あの兵士は、まだ生きていた。
(……この女から手は放せない)
油断している間ならば兎も角、この少女が本気で自分に抵抗されれば、苦戦は必至だ。貧弱な自分でも相手を拘束する技術は、習得している。だが、長期戦になれば難しい。
こうして銃を向けている状態が揺らげば、簡単に優位は逆転する。
(如何する……?)
ルルーシュの頭が、凄まじい速度で回っている中、兵士は。
静かに立ち上がり、目の前の状況を確認して、戸惑ったように顔を振る。
「……ルルーシュ、だよね?」
ゲットーの事故現場で、貴族の令嬢が、騎士に銃を向けられている、という光景。起きたばかりで見れば、訳が分からなくて当たり前だ。
けれども、何を思ったのか。兵士はゆっくりと、自分の頭部を守るヘルメットを脱いだ。
「僕だよ、ルルーシュ。……スザクだ」
それで、全てが納得できた。
「――――え」
茶色の癖っ毛を持つ、青年。
穏やかな、戦争には似つかわしくない優しげな顔の、見覚えのある、男。
「……スザク、お前」
嘗ての幼馴染・枢木スザクがいた。
余りにも予測不可能な事実に、完全に一瞬、彼の意識が止まった。
そして当然のように、少女への注意が薄まった。
再度の機会を伺っていた彼女が、見逃すはずが無い。
「――や、あっ!」
その一瞬を、少女は突く。
身を回しつつ、下から跳ね上げる蹴りで、突き付けられていた拳銃を宙に弾き飛ばす。
ルルーシュの腕が弾かれ、体勢が崩れる。その隙に、少女は前に出た。素早く振り返り、バックステップで距離をとる。そして、同時、腕が振るわれる。
「! ちい! しまった!」
掌に走った鈍い痛みに、彼も再起動した。
少女の腕から伸びる様に、銀光が走る。ステップと共に投擲されたナイフだった。鈍い煌めきの刃は、ルルーシュの顔を正確に狙っていた。
――――躊躇、無しか!
反射神経は、そこそこある方だ。飛来する刃に対し、足を軸に体を反転させた。
高速のナイフは体を掠め、艶やかな黒髪が数本、挙動から遅れて切られていく。
現場の壁に当たり、キン、と鋼がなる。そしてルルーシュが体勢を立て直すのと、蹴り上げられた拳銃が地面に落下するのはほぼ同時だった。
これらが連続した僅かな間に、少女は、KMFに到達していた。
地面と金属の反響した音が消え去るよりも早く。
彼女はサザーランドへ乗り込み、待機状態から戻す。
機械の駿馬が、稼働した。
「……不味い! 隠れろ!」
其れだけを叫んだ。視界の隅、二人の唐突過ぎる攻防に、息を飲んでいた枢木スザクが己を取り戻す。
昔から優れていた運動能力を駆使し、急激な加速でサザーランドの死角、トラックの陰に入り込む。
彼も動いていた。KMFに射撃されれば死ぬ。例外は魔女だけだ。だから“この時”弾丸が発射され、それに中ればルルーシュは死んでいただろう。
だが、アサルトライフルは機能しない。恐らく弾切れだろうと当たりを付けていたが正しかった。カシンカシン、と空撃ちを数回繰り返した所で、遅れる事、二秒。朱の少女も気が付いた。
(反応が早いな……!)
よほど訓練されていないと、直ぐには体が追い付かない。ルルーシュが臍を噛む暇も無かった。
銃弾を再装填などしなかった。銃を虚空に投げ捨て、同時、スラッシュハーケンを打ち込む。高速で射出され、宙を走ったアンカーは、数秒前までルルーシュの頭が有った場所を通過する。
だが、KMFが銃を捨てる僅かな間。
間一髪で、ルルーシュはトラックの死角に体を潜り込ませる。
火花と共に――――現場を構成する壁が、ハーケンの威力で大きく罅割れた。
土煙が舞う。唸るような駆動音と、残響とが、息と共に消える。
(……危ない)
「……ふ、う」
スラッシュハーケンが戻されていく中、彼はようやっと少しだけ心を落ち着かせる。
僅かな攻防だったが、既に息は切れ始めていた。やっぱり肉体労働は向いていない。
本当に危なかった。いや、ラウンズと名乗った時点で危害を加えられると思っていたが、まさか此処まで普通に攻撃されるとは。よっぽどブリタニアに恨みがあるらしい。
「ねえ、」
輸送機の陰に、背中で張り付くようなルルーシュは、同じく隣に来た友人を見る。
枢木スザク。
嘗て彼が、この日本と言う土地に居た時に知り合った、友情を結んだ青年。
名誉ブリタニア人として、このゲットーで任務についていたらしい。
其処まで理解して、ルルーシュは唐突に思い至った。
――――いや、待て。
――――そう言えば、枢木スザクも同じではないか?
――――幾ら友人とはいえ、長年に出会っていない、この男が、絶対に信用できると何故、言える?
「スザク。聞きたい事は色々あるが、確認させろ。お前は敵か? 味方か?」
「は、……え? ……何で?」
訳が分からないよ、という態度で、此方を見た。
「何で僕がルルーシュの敵なのさ」
「――――ああ、もう良い。聞いた俺がバカだった」
これが演技だったら、朱雀はルルーシュより、よほど上手な演技が出来るだろう。
ブリタニアに対する感情は兎も角、スザク本人は“今、此処では”ルルーシュの敵ではないという事だ。
積もる話は山ほどあるし、言いたい事も山ほどある。出来れば呆れた溜め息も吐きたかったが、残念ながらそんな暇もない。
(ええい、仕方が無い!)
普通の人間なら、情報処理が追い付かず、混乱して終わる。だが忙しくとも対応が出来るのがルルーシュだった。ともあれ身を低くして、何時でも車体の下に入れるように準備をする。
敵が隠れて動かない事に気が付いたサザーランドが、此方を覗きこもうとした。KMFの全長は、約5メートルに届かない位だ。輸送機の影とはいえ、真上から覗きこまれたら露見する。
丁度今、少女とルルーシュは、トラックを挟んで立っている。
幸い事故の現場と言う事もあり、自在にKMFが動くには難しい。
だが、やはりKMFにはKMFだ。素手でKMF相手に喧嘩をして、勝てる者など、世界に一人だけだ。
(……まずは、この状況を改善しないと、何にもならん)
今は良い。運転席の近くに陣取っているし、輸送機が邪魔でKMFでは小回りが利かない。戦友の死体を気にせず、容赦なくハーケンを撃って来れる人間ではないだろう。あの少女は。
先程のあれは、多分、その場の流れだ。
得る事が出来た僅かな時間で、彼は策を練る。
「あの、御免ルルーシュ、全っ然、状況がつかめないんだけど」
「なに、お前に驚いてうっかり逃がしてしまったあの女は、エリア11の抵抗勢力だったという話だ」
「……僕のせい?」
「いや、油断した俺のせいだよ」
性格や態度は、全く変化していない。微妙に空気が読めない所もだ。相変わらずだな、こいつは。
軽口を叩きながら、ルルーシュは懐から携帯を取り出す。といっても電話ではない。言うなれば複合情報端末とも言うべき、KMFの頭脳と直結させた機械だ。
短縮ダイヤルで素早く、幾つかのメールを送信する。
「突破方法は?」
「あると言えば、あるな」
送って三秒。すぐさま返ってきた返信を確認して、しまう。
「スザク、確認だ。お前、何処まで動ける?」
「何処まで、って運動の事? 壁を走る位なら簡単だけど」
「……そうか。いや、なら言いたい事は一つだ」
腕時計で何かをカウントする様に、ルルーシュは秒針を見た。
「スザク。……すまんが、自分の身は自分で守ってくれ」
そう言って。
ひょいと、軽く身を躍らせた。
トラックの死角から姿を、まるで見せびらかすかのように、露わした。
(さあ、如何する?)
サザーランドの挙動が、少しだけ止まる。
あの少女は戦士だ。先程の、攻防の流れで攻撃するならば兎も角、一回戦況が膠着状態に陥ってしまえば、不利な相手に容赦なく攻撃が出来る性格をしていない。
ラウンズとはいえ、無抵抗の人間を相手に。KMFで躊躇わず攻撃出来る人間では、ないのだ。
その僅かな間。
(そして、その一瞬が……)
「命取りだ」
それで十分だった。
少女の背後から、突進する様に巨大な影が飛び込んできた。
「――!」
余りにも突然の出現に、機体を反転させる余裕も無い。
進路上のサザーランドを巻き込み、その影は縺れ合って地面に転がる。
盛大な激突音と、舞う土煙。火花が飛び、転がって大きな破片を撒き散らす。
飛び込んできた物は、ミストレスだ。
●
(……どうなって!)
そう、如何なっている。パイロットブロックの中で、カレンは盛大に毒付いた。
あのルルーシュという騎士。外見からは想像できないが、かなり強い。力よりも技で、それも弱点を技術で補うような戦いだが、対処能力が恐ろしく幅広い。
強者と言うよりも、巧者。
他の誰にも真似が出来ない、頭脳を駆使した戦い方。
突発的事態に弱いらしいが、スラッシュハーケンを予測して回避できるだけで十分、凄い。
「たく!」
それにしても、此方の動揺を承知でKMFの前に身を躍らせるなど、自殺行為も良い所だ。
(まさか、私の頭が冷えはじめた事まで……)
其処まで読んだのか。紅月カレンと言う人間の性格を見破り、その上であんな行動をしたのならば、やはり化物だ。並みの精神力ではない。その上で隙を突くなど、並みで出来るか。
倒れた機体を引き起こすと、飛び込んできた塊も又、動き始めた所だった。
その形が、露わになる。正体を見てやろうと、鋭い目で捉えて。
「……ちょ、っと」
その機体が判明した所で、カレンは再度、困惑の声を上げた。
本来ならば、この場に割り込んで来る筈のない機体だったからだ。
二足歩行。ランドスピナーは小さく、その割に胴体部分は大きなKMFだ。顔が犬(アヌビス、だったか?)に似た、黒と金を中心とした機体。新聞や写真で、数多く報道されているから、よく知っている。
ルルーシュ専用のKMF“ミストレス”。
「……ホント、どうなってんの、よ!」
“見えざる幻影”と呼ばれ、単体では円卓騎士の名を持たない、最強機体の一角を目の前に、カレンは言った。
KMFが突入してきた。これは良い。
だが、機体が飛び込んで来た時、デヴァイサーは外部に居た。
そして、たった今、ルルーシュ・ランペルージが機体に「乗り込んだ」と言う事は。
あの機体は、乗り手が誰もいない状態で、サザーランドに突撃してきたという事に、他ならない。
カレンの困惑を余所に。
『少し此処は手狭だな』
通信が入った。サザーランドの通信システムは遮断してある以上、それは外部音声だ。此方に声を届ける為の、機能。
自分の愛機を取り戻した為か、その声が弾んでいる。
(……ヤバイ)
前とは違う意味で、ヤバイ、と思った。
相手が騎乗した。其れだけで、周囲の環境が変わったかのようだった。
状況への困惑を、野生の勘と戦士の経験が、塗り替えた。額に浮かんだのは冷や汗だ。
デヴァイサー同士の戦いなら勝機はあっても、今、この状態では差があり過ぎる。
軍の汎用機体と、専門カスタム機。結果は火を見るより明らかだ。
『ここから出ようか、紅月』
乗っているのは間違いなく、あの優男。
だが機動は、カレンが今まで見た事のない、レベルだった。
ラウンズ、という立場を証明するかのような、常識外れの挙動。軍人でもこの動きに対応できる者は、そうはいない。帝国トップクラス、という認識を正しくカレンに示しながら、ミストレスは迫る。
そして、咄嗟にカレンが機体を下げ――――るよりも早く。
「ぐ、――っ!」
機体が“弾かれた”。
ガン! と何かに衝突し、そのまま後ろに押されていく。
自分と相手の間には、まだ少しの距離があるのに。
「!」
衝撃に体が軋み、自然と呻く声が上がる。何が起きたのか、分からない。
機体の全面を、まるで巨大な掌で引っ叩かれたの様だ。
見れば、胸部装甲に異常、ファクトスフィアに罅、機体の重心が崩れている。
まるで機体が、何かに激突したかのよう。
「く、あっ!」
機体を転ばさない、体勢を保つので精一杯だった。其れだけでも十分と言える。
そのまま、事故現場から青空の下に、カレンは機体ごと、見えない手で、押し流されていく。
薄暗い事故現場から、太陽の下の廃墟群に。強引に運ばれ、逃れる事も叶わない。相手の速度の方が、自分よりも早い。そしてのけぞる格好を続ける事になるからだ。
太陽の下に出た時、やっと光で見えるようになった。カレンは、現状を理解する。
自分と相手。その間に、薄い光の壁が展開されていた。
「――――これ、が、噂の」
全力で辛うじて残った足を動かし、必死にカレンは距離をとる。
損傷が大きすぎる。逃げる事もバランサー異常の今では、叶わない。
今の相手の攻撃だけで、自然と息が切れている。負担が其れほど、大きかった。
『そう。楯は、守るだけに非ず、と言った所だな』
余裕の笑顔が、見えるかのような、口調。
ミストレス。
その機体コンセプトは、“防御”。
ラウンズ最高の防御能力を生み出す機体固有のシステムが、世界で唯一搭載されている。そして、生み出された障壁の名を。
「絶対、守護領域――」
一説には、ラウンズ内で破った事のある者は、第一席にビスマルクのみ、とまで言われている。
分かってしまえば、相手のした事は簡単だ。機体の全面に守護領域を展開させて、そのまま前進した。それだけ。
強固な障壁を張ったまま、相手に突撃したから、サザーランドが障壁に弾かれたのだ。
守る筈の楯は、時に打撃を伴った壁になる、と言う事か。
「――機体の稼働率は、38パーセント。……武器、使用不可。FFCは稼働停止」
万事休すね、とカレンは、何処かで冷静に思った。
体も心も、焦れて燃えそうな筈なのに。
相手が礼儀正しく、見下す事無く接しているからか。
怒りに任せた突撃が取れる状態ではない。外より中を極め、慎重に万全を期して、相手に向かう。それで初めて倒せるタイプの騎士だ。
エリア平定を、個人の考えとは別に“仕事”として手を抜かずに行う。それが彼だろう。少なくとも、カレンの知識や今の接触からは、そう思えた。
だからブリタニア人として見た時に、明らかに、他とは違う。行動が悪辣では有っても、愚劣ではない。
多分、今この場でカレンが降参すれば、普通に受け入れるのだろう。
強者の余裕に、苛立ちが募る。
『さて。最後通告だ。――――命を無駄にするものではない』
……カレンは。
この時、心から死を覚悟した。
目の前の機体には、明らかにオーラが有った。帝国最高戦力であると、嫌でも身に積まされる空気。
専用機体や、守護領域という事実を差し引いても、乗っている彼の気迫が――身に迫るようだった。
彼は、本当に敵になってしまった場合、決して容赦をしないだろう。
この場で、心からカレンが決別を言い渡せば、それで終わりだ。数分持たずに、彼女は哀れ、悲惨な死を迎えるに違いない。そう。分かってしまう。嫌でも。
握ったレバーが、滑る。命の危機に、体がこれ以上無い位に、緊張していた。
乾いた喉で、答えを吐きだそうとした。
その時だった。
●
地面が、揺れた。
「……何、この振動」
微細な、地鳴りにも似た振動だった。
エリア11には地震が多発する、とは知識で知っている。
けれども、これは地震ではない。こんな奇妙な揺れをする地震が発生したら、学会がひっくり返る。
もっと別の、敢えて言うのならば地盤沈下や、崩落するビルの屋上に居る時に、似ている気が……。
「――――沈、む?」
そのワードが、引っかかった。
そう言えば、とアーニャは思い出す。
エリア11が、日本と言う名前だった頃、このシンジュクは大都会東京の一角だった。
地下には無数の列車が正確に走り、駐車場が地下から高層まで並んでいた。それに伴い、地下ストリートが網目以上に複雑に広がり、店舗やコンビニ、更には数多い店が並んでいたのだ。
ブリタニア領になった今でも、それらは残っている。
ゲットーのアンダーグラウンドとして、殆ど無法地帯的に、広がっている、らしい。
「まさ、か」
爆発の現場や、規模。そして現在ブリタニア軍の展開具合を照合する。
不味い、いや不味い程度ではない。このままでは軍は全滅する。
彼女は叫んだ。普段、決して大きな声を出さないアーニャにとって、有り得ない程の声だった。
……いや。
本当に、叫んだ人物が“アーニャ”だったのかは、誰にも分からない。
「全ブリタニア軍に通達! 直ちにシンジュクゲットーから退避! 円の外に出なさい!」
その瞳に、一瞬だけ赤い光が灯り。
アーニャが、まるで別の人間に見えた事を、現場の誰も気が付かなった。
●
(……なんだ?)
機体の中で、響いていた震動に、ルルーシュは意識を切り替えた。
守護領域が展開されている以上、サザーランドに負ける心配はない。だから相手から目を離さず、ブラインドタッチのまま情報を取り出す。
現状の部隊。アーニャの連絡。通達。ゲットーの状態。爆発の詳細。
明らかに法則性を見れる爆発状況。大小の爆発状況にゲットーの地図を重ね合わせ、部隊展開図も重ねる。当然ながら、広域に彼らは広がっている。
人が異常に少ないゲットー内部。隠れている彼らは何処に行った?
シンジュクでの活動を取り締まれてはいない。地下活動を潰す手間を、総督達は惜しんでいた。つまり準備期間は山のようにあった。
「……成る程、な」
(やってくれる……!)
戦略への義憤より、相手への感心が湧いて出た。
(まさか、本当に俺の予想した“最悪の策”を、実行してくるか……!)
ルルーシュは、ゲットーでの活動前に、相手が取って来るであろう策略を大凡50、考えて来ていた。
その中の、50番目。地形や戦場の形そのものを変えてしまう作戦を、相手は選んだ。ルルーシュが最悪と呼ぶ、抵抗勢力にとっては最高の作戦。
簡単な話だ。
無数の空間がある地下へ、適切に攻撃し、適切に支えを破壊して行けば良い。
入念な準備と、十分な回数さえ重ねれば、それで。
容易く、地盤は崩落する。
(……崩落まで、数分、か)
脱出する猶予を考えれば、直ぐにでも逃げた方が良い。
ルルーシュには、ゲットーでの崩落の規模が、どの程度になるのかが分からない。
ひょっとしたら紅月を捕えても十分な余裕があるかも知れない。この近辺は崩れないかも知れない。しかし“かもしれない”だけで確証はないのだ。
ナンバーズを巻き込む事を躊躇わず、ゲットー全域を沈めるかもしれない。
残念な事に、ルルーシュには土地勘が無い。この地で長年生活していれば多少はマシだったろうが、昨日今日来たばかりの人間では、全域や実態は知識として詰めるだけで限界だ。
紅月という少女は、良い戦士だが――――彼女の指揮官までは、読み取れない。
(……スザクもいる。――――残念だ)
現状を把握したルルーシュは、さっさと決断をした。
まあ、流れが悪かったという事にしよう。
これ以上、この場に居てもメリットは多くない。
彼女を追い詰めて逃がすのは、別に残念ではない。彼女にもよるが、多分、また会える筈だ。
アーニャには、既に「武装を軽くしておけ」と伝えてある。地盤沈下が発生した時、軽ければ被害を軽減できるし、早ければ退避出来る。本当に、その狙いが的中する、とは思っていなかったが……まあ、良い。
そんな時、そのアーニャの声がした。
『全ブリタニア軍に通達! 直ちにシンジュクゲットーから退避! 円の外に出なさい!』
通達はルルーシュにも届く。共通回線、敵に聞かれる事も気にしない、断固たる“命令”だった。
(……アーニャだが、アーニャでは無いな)
機体の中で、小さく笑う。
彼女がこんな大声で指令を発するなんて、珍しいを通り越して有り得ない。
そしてルルーシュには、こんな口調で命令を下せる、凛々しく優しい女性に、非常に覚えがあった。
相変わらずあの人は、戦場では絶好調らしい。
「紅月。今回は俺が引こう。……お前の指揮官に伝えておけ」
打つ手なしで、特攻でもしてきそうな空気の少女に、伝える。
考えてみれば、引いた所で問題はない。
元々、軍の演習中に襲撃がある、という部分に対策を取っていたのだ。軍への打撃を抑える事が目的だった。そう言う意味では、既に目的は達成されている。
今の命令で、全軍が迅速に撤退しつつある。密集して、しかも足の遅い総督軍が、何割被害に遭うかは不明だが、ジェレミア達は多分、大丈夫だろう。
相手の戦略は立派だった。
だが、その戦略への効果を、自分達が最小限に抑えた。
まあ、今回の戦いの治めどころとしては上々だ。自分の機体に被害はないし、相手も追っては来れない。これからの対策は、ゲットー崩壊後でも十分だろう。
機体を反転させ、スザクに逃げる指示を出しながら、彼は言った。
「気が変わったら俺に言って来い。俺の権限で、お前共々、相応の席を用意してやる、とな」
その言葉を最後に、ミストレスは立ち去った。
(……見逃された)
その事実に、カレンは。
瀕死のサザーランドの中、仲間が助けに来るまで、じっと拳を握っている事しか出来なかった。
皇歴2017年。
エリア11(旧名・日本)シンジュクゲットーで、ブリタニアへの抵抗勢力による、大規模攻撃が行われる。
戦闘の規模こそ小さかったが、ナンバーズの作戦は意外なほどに土地に効果を発揮。戦いにより、地下地盤の脆弱性も重なり、最終的にゲットーは崩落するまでになった。
後に『シンジュク事変』と呼ばれるようになる、この一大事件を機に、抵抗活動は激化。
この年、エリア11は動乱を迎える事になる。
それは、七年前に終わった筈の戦いに、再度の決着を齎す切欠となる戦いの始まりだった。
登場人物紹介 その⑧
紅月カレン
シンジュクを拠点に活動する反ブリタニア組織『紅月グループ』の一員。
グループ内では最もKMFの技術に精通しており、優れた身体能力も相まって、アタッカーや作戦メンバーを務める事が多い。
永田号と共に作戦活動に従事していたが、事故によって任務は完遂にならなかった。指示通り適切に行動していたが、偶然からシンジュク事変の最中、ルルーシュとの会合を果たす。一時は互角に張り合うが全て対処され、最後は見逃された。
一連の流れによって、ルルーシュへの感情は“凄い嫌な奴”で固定されたらしい。言葉が何処に懸かるのかは不明だ。
グループ名からも分かる通り、リーダーの紅月直人は実兄。その為、組織のメンバーの多くとは古い顔馴染みである。
父親はブリタニア貴族であり、彼女自身もハーフなのだが、表向きは伯爵令嬢。妾腹の為、表向きの母とは非常に険悪。実際に家に帰る事も少ないらしいが、実母がメイドとして働いているらしい。
因みに。遥か昔、本当にルルーシュと一瞬の会合を果たしていた事が、原作小説で語られている。
本編でも言われていますが、ルルーシュは、強者というよりも巧者です。
此処までラウンズとしてしっかり強い理由も、次回以降に語るので、お楽しみに。
シンジュク事変は終わり。
次回は、後始末とか、特派とか、本国との関係とかですね。
少しずつ世界観やルルーシュの環境を語りつつ、次なる大事件『サイタマゲットー』や『サクラダイト生産会議』に向けて色々と進んでいきます。間にオリジナルな事件が入るかも。
なんか、色んな意味で凄い人達の伏線が幾つかありますが、この話は基本、ギアス関係者は全部出ます。
アニメ本編、小説、ナナナ、ゲーム、別設定の漫画、連載中の「漆黒の蓮夜」まで。
それこそ、あんな人からこんな人までオールキャストなので、この先も楽しみにしていてくれると嬉しいです。
少しでも良いので、感想や、文句や、質問があったら下さい。基本、全部受け止めます。
ではまた次回。
(5月1日)