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No.19301の一覧
[0] コードギアス  円卓のルルーシュ 【長編 本編再構成】[宿木](2011/04/27 20:19)
[1] コードギアス  円卓のルルーシュ 序・中[宿木](2010/06/05 21:32)
[2] コードギアス  円卓のルルーシュ 序・下[宿木](2010/06/12 19:04)
[3] 第一章『エリア11』篇 その①[宿木](2011/03/01 14:40)
[4] 第一章『エリア11』篇 その②[宿木](2011/03/01 14:40)
[5] 第一章『エリア11』篇 その③[宿木](2011/05/05 00:21)
[6] 第一章『エリア11』篇 その④[宿木](2011/04/27 15:17)
[7] 第一章『エリア11』篇 その⑤[宿木](2011/05/02 00:22)
[8] 第一章『エリア11』篇 その⑥[宿木](2011/05/05 00:50)
[9] 第一章『エリア11』篇 その⑦[宿木](2011/05/09 00:43)
[10] 第一章『エリア11』篇 その⑧(上)[宿木](2011/05/11 23:41)
[11] 第一章『エリア11』篇 その⑧(下)[宿木](2011/05/15 15:50)
[12] 第一章『エリア11』篇 その⑨[宿木](2011/05/21 21:21)
[13] 第一章『エリア11』篇 その⑩[宿木](2011/05/30 01:50)
[14] 第一章『エリア11』篇 その⑪[宿木](2011/06/04 14:42)
[15] 第一章『エリア11』篇 その⑫(上)[宿木](2011/08/18 22:10)
[16] 第一章『エリア11』篇 その⑫(下)[宿木](2011/11/21 23:58)
[17] 第一章『エリア11』篇 その⑬[宿木](2012/06/04 22:47)
[18] 第一章『エリア11』篇 その⑭[宿木](2012/08/18 02:43)
[19] 第一章『エリア11』編 その⑮[宿木](2012/10/28 22:25)
[20] 第一章『エリア11』編 その⑯(NEW!!)[宿木](2012/10/28 22:35)
[21] おまけ KMF及び機体解説[宿木](2011/05/21 22:55)
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[19301] 第一章『エリア11』篇 その②
Name: 宿木◆e915b7b2 ID:21a4a538 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/01 14:40



 皇歴2010年。

 今から、七年前。
 兼ねてよりサクラダイトを巡って対立をしていた日本とブリタニアに、亀裂が入る。
 日本に滞在して技術交流をしていたブリタニアの民間人らが、日本陸軍内部の過激派によって殺害されたのだ。この事件に際してブリタニアの民衆は激怒。国内の機運は高まっていった。

 俗に言う「極東事変」である。

 ほぼ時期を同じくして、日本内部で反ブリタニアの活動が活発化。内閣は辞任に追い込まれた。そんな中、開戦派からの絶大な支持を受け、次期内閣総理大臣に就任したのが枢木ゲンブだった。
 悪化の一途を辿る両国の外交が決定的に乖離したのは、その年の夏の事だ。
 損害賠償と国際舞台での正式な謝罪。サクラダイトの輸出規制緩和を初めとする、98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの要求を、枢木ゲンブは挑発とも取れる言動で拒否。これが契機と成って、ブリタニアは日本に宣戦布告を告げた。

 8月10日。
 「第二次太平洋戦争」の始まりだった。

 当初は長引くかとも思われた戦争は、初めて実戦投入されたナイトメアフレームと圧倒的な物量さにより、ごく短期間で終了。余りの簡単な占領成功に、誰もが罠ではないかと勘繰った程だった。日本が勝利を飾ったのは、唯一、厳島での決戦のみである。
 終戦も間近となった頃、徹底抗戦の無意味さと己の失策とを悟った枢木ゲンブは、降伏勧告の意を込めて切腹。その死を持って、国内機運を収束させたと言われている。
 今も尚、背景には謎が多く残る戦だが、どんな経緯であれ、一つだけ決定した事が有る。即ち、支配国と従属国の序列が定まったのと言う事実だ。

 その日、日本はエリア11と名を変えた。






 コードギアス 円卓のルルーシュ 第一章『エリア11』編 その②






 トウキョウ租界は、工場を示す地図記号の様な形をしている。上空から見れば分かるだろう。大きな円と、その外縁部から放射状に延びる線とを、確認出来る筈だ。
 円は鉄道。線は国道。嘗て山手線と呼ばれた環状五号線。租界をぐるりと囲むこの鉄道路線と交差する様に、租界中心部から伸びる高速道路がある。

 ハネダから租界へ伸びる道路に、黒塗りの高級車が連なって走っていた。前後にはナイトメアフレームを搭載した護送車が走り、中心に居る人の価値を示す。その余りの厳重さと重々しさに、普通車は皆、道脇に車を止め、道を譲っている程だ。

 「カラレス総督。……少し、大袈裟すぎると思うが」

 その高級車の中で、ルルーシュは同席しているエリア11の総督へと声を懸けた。
 確かにラウンズの来訪と言う情報は、エリア制圧に大きな影響を与えるだろう。だが良い事ばかりでは無い。自国を愛する抵抗勢力は、その士気を削がれるか、あるいは暴発するか。しかしどちらにせよ、厄介事と揉め事を引き起こすのは間違いない。

 「何をおっしゃられますか、ランペルージ卿。貴方様に何かが有ったら国家の損失です。この位の出迎えは当然の事」

 そう言う、このエリア総督のカラレスは、果たして事実を理解しているのだろうか。
 無能ではないが有能からは程遠いというのが、ルルーシュの評価だ。言動や態度の各所に、ブリタニア至上主義が見て分かる。これは手痛く、足元を救われるまで……己の器に気が付かないだろう。

 「……時間の節約の為にも、最初から政庁に飛行艇を迎えるべきだな。今回は良いが、以後は気を付ける事だ。薬も行き過ぎれば毒になる」

 「……肝に銘じておきます」

 眼光に、静かに、押し出す様な声で彼は肯定した。権力志向の強い人間は、目上の人間には弱い。自己保身も強い。つまり、余計な文句を言って、相手の機嫌を損ねて、波並を立てようとは思わない。
 其れを知っているルルーシュは、それ以上に余計な事を言わずに外を見た。真っ直ぐに伸びる高速道路の両脇に、視界を遮る物は無い。有った筈の物は、全て失われているからだ。

 沈黙が下りる。運転手は元より何も口を開かず、車内の空気は良いとは言い難い。アーニャは後ろの車に乗っている。男だけの黒い高級車の後部には、ルルーシュとカラレスが、向かい合う形で距離を取って同乗していた。当然、面白くもなんともない。

 静かに進むリムジンが、徐々に租界へと近付く中、やがて窓の外の風景も変わって来る。
 整った、美しい近代建築の街並み。そしてそれとは対照的な、街の周囲に点在する、荒廃しきったスラムの如き土地。過去の栄華も今は昔、崩れ落ちたゲットーが広がっている。

 「……あれが、シンジュクゲットーか」

 おそらくは、嘗ては租界にも負けない街並みだったのだろう。けれども今は、名残を残すだけだ。ブリタニアの駐留軍が今も我が物顔で走り回り、住人は苦しい暮らしを強いられている。

 「はい。下等なイレブンには丁度良い住処でしょう」

 ルルーシュの言葉と目線に、機会を得たりとカラレスが口を開く。

 「……資料で読んだ所によれば、抵抗勢力が潜んでいると有ったが?」

 「その通りです。薄汚いテロリストの根城に相応しいとすら思います。奴らの執拗さときたらまるで鼠。廃墟に潜んで、見逃されている事も知らずに、各上の種族に姑息に手を出すのです。正直、ゲットーを丸ごと殲滅しても良いと私は思っております」

 「…………」

 その鼠に手を焼いている人間の言う言葉では無い。しかしルルーシュは声に出さず、返事もしなかった。その沈黙を、カラレスはどう受け止めたのだろう。

 「ランペルージ卿。実行なさいますか?」

 「遠慮しておく。ゲットーで無駄な弾を消費する程、酔狂な性格はしていない」

 即座に否定した。下手に自分の名前で実行されても嫌だった。人を殺している自覚は持っているルルーシュだが、殺人に快楽を見出す程に壊れているつもりは無い。
 そういう仕事は、ルキアーノに任せておけばいいのだ。あの吸血鬼は、いざ人を殺めるという時になると、周囲が“ひく”位に豹変する。まあ、それが敵の士気を挫く大きな力に成っているのだが――――趣味が良いとは、お世辞にも言えない。今でも止めて欲しいと思っている。

 「……ゲットーに潜む集団の規模は?」

 話題を変える。広がる廃墟の広さは、結構な物だ。この廃墟の群れは被害の規模こそ変わりながらも、サイタマまで長く続いている。サイタマゲットーにもテロの被害が、と言う言葉を、読んでいる。
 日本と言う国家の要地だったシンジュク。そして日本軍の一大駐屯地だったサイタマのアサカ。関東の大都市群は嘗て日本が侵略された時に、完膚なきまでに破壊され、そしてほったらかしだ。二つの伸びた棟が特徴的だった警視庁まで、無残に放られて既に七年である。
 誰かが入り込み、画策するには、時間も場所も十分過ぎるだろう。

 「不明です。軍を駐留されてはいますが、調査も芳しく有りません。ですが政庁に近い為か、数は多くないと思われます。むしろ他地域のゲットーの方が、状況は宜しく有りません」

 「……そうか」

 言葉を聞いて、困った物だ、と内心でぼやく。

 嘗てこの国を訪れた際、ルルーシュは無事だった都会の街並みを目にしていた。本国にも負けない程の高層ビル。その間を無数に走る、複雑に交差する道路。狭い国土を最大限に使用した、上と下に広がる大都会が、トウキョウ……ではない。“東京”と言う街だった。
 租界の外には、その痕跡が今も尚、残っている。そして、その痕跡を、恐らく最大限に利用して、彼らは活動しているのだ。

 上は良い。空だけだ。崩れた廃墟を幾ら使用したとしても、限界は有る。だが、地下だけはそうもいかない。
 無数に、数秒の誤差で走り回った地下鉄列車。衛生的だった水回り。無数の地下の目は、普通の人間には覚えきれないほどの複雑さと精密さを持っていた。例え路線図を持っていたとしても、部外者が把握するのは難しい。

 「……シンジュクゲットーの指導者は、優秀だな」

 ポツリ、と小さく呟いたルルーシュの声は、カラレスの耳には届かなかったようだ。

 「何でしょう?」

 「いや。……指導も兼ねての視察は、明後日の午後の予定だったな?」

 「は。ゴッドバルド辺境伯が、準備が万端だと息まいておりました」

 「そうか。期待しておこう」

 言葉の中に本心を混ぜて、誤魔化した。
 戦闘だけがラウンズの仕事ではない。重要任務に携わる皇族の護衛や、部下の指導もしっかりと仕事に入っている。ノネットが本国で行っている士官学校での訓練も、その一環だった。

 エリア11平定の命を受けた以上、その土地の軍隊の視察は、むしろ当たり前。オマーンを出発する前にその旨を伝えておいたのだが、エリア11の軍を任されているジェレミア・ゴッドバルドは、如何やらさぞかし張り切っているらしい。
 彼の事は昔から知っているルルーシュだ。空回りしていないかも心配だが、顔を合わせるのが楽しみだった。

 「政庁にお付き成られた後は、如何なされますか?」

 「そうだな……」

 ゲットーから、徐々に整った街並みへと変化する風景を横目で眺めながら、ルルーシュは僅かに考えて。

 「トウキョウ租界の見物をさせて貰う」

 そんな事を言った。




     ●




 エリア11政庁の屋上に程近い一室を、ルルーシュとアーニャは与えられた。勿論、部屋は別だ。皇室専門の部屋よりほんの少しだけグレードは落ちるが、将官クラスの個室で有る。

 ラウンズを軍の階級に当てはめると、最低でも少将以上と定められている。戦績や指揮技能の得手不得手によって多少前後する位だ。筆頭騎士のビスマルクが、帝国元帥と同じ程度の権力を有していると言えば、分かりやすいか。

 「俺は租界を見物に行くが……。アーニャ、如何する?」

 部屋で僅かな私物を整理した後、ルルーシュは尋ねた。折角、外出する気概があるのだ。折角ならば誘うというものだろう。

 彼は既にラウンズの騎士服を脱いでいた。しっかりと部屋のクロークに吊るしてある。今のルルーシュは私服だ。灰色のタイネックと黒のズボン、赤煉瓦を彷彿とさせる上着にサングラスという、一見すれば普通の高校生に見える格好をしている。
 少なくとも、諸外国を騒がせる帝国最強の一角には、とてもではないが見えない。

 「……眠い。休んでる」

 ラウンズ服を脱いで、バスローブの様な楽すぎる格好でごろりと横に成ったままのアーニャは、寝むそうにそう呟いた。
 エリア18からエリア11まで。丸一日かけての移動は、流石のラウンズでもストレスが溜まる。

 これが戦場ならば問題は無い。体力に自信が無いルルーシュでも、ナイトメアに騎乗していれば半日くらいは大丈夫だし、指揮や電算系だけならば二日までは頑張れる。しかしだからと言って、疲労を常日頃から貯め込み、抱えるつもりも無い。兵士も騎士も肉体が資本。休ませる時には休ませるし、気分転換は大切だ。
 最年少のアーニャだ。幾らラウンズ並みの体と言っても、当然、限界は近い。成長の余地が残されているからだろうか。一定以上の疲労が溜まると、キリが良い時にあっさりと眠ってしまう。

 「そうか。……じゃあ、行ってくる」

 「……わかった」

 ひらひら、と顔を向けて手を振った彼女だったが、その腕はパタリと落ちる。よっぽど草臥れていたらしい。オマーンでの作戦の後、此方に来るまで碌な休憩も無かったから無理も無い。
 仕方が無いな、と思いながらルルーシュは部屋に入って、布団を懸けてやる。見れば彼女は年相応の顔で目を閉じていた。何処となく、最愛の妹を彷彿とさせる。

 「良い夢を、アーニャ」

 耳元で軽く囁いて、ルルーシュは部屋を出る。
 さて、個人調査をしようか。




 政庁を出たルルーシュは、その足で近場のコンビニに入った。
 元々、日本と言う国家は仕事を馬鹿みたいにこなす傾向が有る。真面目と言うか堅物と言うか、……お陰でエリアと成った今でも、深夜まで働く人間は多い。そして、安い賃金を少しでも得ようと働く名誉ブリタニア人の為に、夜間営業型、年中無休の店舗も多かった。

 「これを頼む」

 ぽい、とカウンターの上に新聞を置いた。ルルーシュの目的は、情報だ。エリア11の現状を知る為に、取りあえず庶民の目線から取得する媒体が欲しかった。ブリタニアの新聞を一部。経済新聞を一部。名誉ブリタニア人用に発行される旧日本の新聞を一部。

 勿論最後の物は厳重な検閲の元で発刊されている。軍事や警察、経済活動までほぼ完全にブリタニアに掌握されているエリア11だが、日本の文化が全て壊滅した訳ではない。戦争で失われた遺産や景観も多いが、人間の手による文化は確かに残っている。……まあ、負けてもなお活動を続け、一層発展し続けるアニメーションや漫画文化は、ルルーシュの理解の範疇外だが。
 ともあれ、嘗ての大手新聞社は消え、同時に弱小新聞社がブリタニアの傀儡となって発行している状態だが、それでも購入者や読者は多い。過去の日本に想いを馳せる者が、それだけ多いという事だろう。

 小銭で買い物を済ませたルルーシュは、その足で、近くの公園へと入った。木陰に身を寄せ、ベンチの下で先程購入した新聞を開く。まずはエリア11の国内情勢の確認からだ。

 (ブリタニアの新聞は……俺達、か)

 一面に飾られている写真は、エリア18に関する話題だ。写真には、戦後処理に当たるコーネリアとギルフォード。ダールトンに、C.C.が写っている。現地で撮られ、本国へ送られ、其れが更にこの国に送られたのだろう。明日のこのページには、きっと自分とアーニャが躍っている。
 一面から社会欄に眼を移す。国民からの評価は、今は良い。一番知りたいのは、抵抗勢力の活動についてだ。

 (……一月前の、サイタマでの小規模衝突が、最後か)

 ベアトリスから与えられた情報を記憶から引っ張り出し、照らし合わせて確認する。
 租界から其れほど離れていない、サイタマ、アサカ周辺のゲットーでの軍との衝突を機に、回りでの事件は起きていない。毎日毎日、日本の何処かで衝突が起きているとは思わない。だが、規模こそ違うが二週間に一回は何処かで衝突が起きている、そうだ。

 それが、この一月の間、無い。
 つまり、……行動を起こさずに、何かに備えている。

 (……明後日には、軍の演習が有る)

 参ったな、と思う。文字列を追ってはいるが、思考は既に深い策動の闇の中だ。
 元々、この演習はルルーシュ達が来る前から計画されていた物だ。ラウンズとして指導に丁度良いという事で選ばれただけの話。彼らが来なくとも、演習は実行された。……この時期の符号は、偶然ではないだろう。

 現在、トウキョウ租界の周辺で危険視される抵抗勢力は三つだ。

 チバ、成田連山を拠点とする日本最大の組織『日本解放戦線』。
 サイタマゲットーを中心とする中規模グループ『ヤマト同盟』。
 中部地方に展開する、少数派だが過激で有名な『大日本蒼天党』。

 (……不確定要素が多い)

 だが、彼らに属さない少数勢力もいる。小規模な集団故に捕獲されにくい、地下活動グループだ。
 そして腐敗した軍や企業から武器を得ている彼らは、決して致命的では無い物の、一定の被害を出している。今迄のエリア11での行動の内、三割はそういう集団によるものだ。

 その彼らが、他の組織と同様に期を伺っている。……ならば明後日のゲットーでも、恐らくは今迄と同じ様に。いや、それ以上になりかねない。杞憂だ、と笑い飛ばせる程、ルルーシュは楽観論を有していないのだ。
 推測以上の、確信だったと言っても良い。平和主義者で人格者のルルーシュだが、争いを予見する事は苦手ではない。幼い頃から、不穏な空気を悟って、先手を打ってきたからこそ、今こうして生きていられる。

 騎士の嗅覚が、嵐の前の静けさを、嗅ぎつけていた。
 気配か、予感か、感覚か。ラウンズとして生きていたルルーシュの勘が、告げている。



 この国は、荒れるだろう。



 カラレスを初めとする総督府の人間が、気が付いていない筈は無い。しかし対策をしている節も無い。――――ジェレミア辺りは頑張っているかもしれないが、彼らだけで解決出来る程、生易しい問題ではない。軍のトップと言っても、独裁者ではないのだし。
 対策をしていない。つまり、対策をしない方が……都合が良いのだ。

 (……全く、本当に厄介な国だ)

 エリア11に潜む不穏分子を一掃する事は、決して難しくは無い。ルルーシュの知略を持ってすれば、意図も容易く実行出来るし、成功するだろう。

 しかし、其れでは何も変わらない。

 カラレスを初めとする連中を変えなければ、圧政を敷かれる人々の心は変わらない。そして、変わらなければ抵抗は何時までも続いて行く。エリア11を平定する為には、この地に対するブリタニアの行動を改める事が必要不可欠だ。

 だが、総督を初めとする連中を始末するのも、難易度が高い。

 上が変われば組織は揺らぐ。その揺らぎは、抵抗活動が活発なこの地では、思わぬ致命傷に繋がるかもしれない。そして何より――――今のルルーシュには、総督を強制送還したり、権力を奪取したりする権限が無いのだ。

 エリアの総督は皇帝に任命される地位。ラウンズのルルーシュの独断で処分するにしても、世間を納得させるだけの理屈が無ければならない。地道に確実に、出来る事を行って、期を見て事を運ぶ必要が有る。そうしなければ、自分にも皇帝にも波紋を呼ぶ。
 如何するか、と頭の中で複数のプランを立てていた時だった。



 「貴方達。……止めなさい」



 そんな、若い少女の声を聞いた。




     ●




 「ちょっと買い物、お願い出来る?」

 昼休み、私は廊下で声をかけられた。
 私の通うアッシュフォード学園には、実に面白い生徒会長がいる。面白くて、面白いだけじゃない。女性としても名家の息女としても、とても魅力的な人だ。温かな人間味が有って、貴族の人達が持つ差別意識も低い。

 名前を、ミレイ・アッシュフォード。

 名門アッシュフォード公爵家の令嬢でありながら、決してそれを鼻に掛けない人。同性の自分でも憧れる様な、武力とは違った性根の強さを持つ人だ。正直、学校内で逆らえる人はいない。生徒会に所属して、彼女の下で日々仕事をこなす私、シャーリー・フェネットも勿論、逆らえない。

 「リヴァルに頼もうかとも思ったけど、二日前にも頼んだしね。バイクの調子も悪いみたいだから」

 同じく生徒会に属するリヴァル・カルデモンドは、ミレイ会長への憧れ故か、好んで自分から付き従っている。ただ、そのせいか愛車が調子を崩したらしい。修理に出すそうだ。
 口では文句を言いつつも、快く動いている彼を見ていると、自分らも手を貸そうと思いたくなるから、不思議だ。どんな人間相手にも臆せず付き合える、というのがリヴァルの最大の利点だろうか。

 「良いですよ? 何を買ってくれば良いんですか?」

 窓際に寄りながら、会長と話をする。
 本来ならば貴族と平民。私達は敬語に成るべきなのだが、ミレイ会長は学校内で堅苦しいのは止めにしよう、と言っている。だから私達も軽い口調で返す。
 アッシュフォード学園に通う何人かの貴族の生徒達の中には、割と階級差を意識する者もいるのだけれど、会長は別だ。お陰で生徒会は、毎日毎日、とても楽しく過ごせている。
 それでいて意外な程に広い人脈を持っているのが、この人の凄い所なのだ。オレンジさんとか。

 「はいこれ。纏めておいたわ。今月末の猫祭りで使うカチューシャと化粧道具ね。衣裳や大道具は手配済みだけど、生徒会で身につけるのはシャーリー、貴方に一任します。全員に似合う奴、五人分ね?」

 携えた一枚紙を、ファイルと一緒に渡してくれる。

 「御金は領収書貰って、生徒会名義でお願い。先方も、慣れてるから大丈夫だと思うけど」

 「えと、何か注文は有りますか?」

 「いいえ。あ、一人で大変だったら、カレンを連れてって良いわよ。店までもそう遠くないし。放課後直ぐに出れば、遅くならない内に帰って来られるわよね?」

 「はい。大丈夫だと思います」

 アッシュフォード学園生徒会メンバーは五人。会長、リヴァル、ニーナ、私、そしてカレンだ。会長の元、カレンが副会長、私が庶務、リヴァルが書記、ニーナが会計として動いている。

 本当はもう少し人数を増やそうか、とも話し合ったのだけれど、断念せざるを得なかった。ニーナが怯えず、まともに会話ができる男子生徒はリヴァル以外に殆どいない。それに、アッシュフォード公爵家に、カレンの家――――シュタットフェルト伯爵家が揃った生徒会だ。繋がりを求めての生徒が、大半だった。
 生徒会を、権力者同士の結び付きにはさせません、というのが会長の御達しが出て以来、新メンバーは入って来ない。まあ今の所、困りはしていないし、必要だったら誰かをスカウトすれば良い、そうだ。

 「分かりました。それじゃ、放課後ですね」

 「ええ、お願いね」

 会長と話を終わらせた私は、そのまま足でカレンの所へと向かった。

 カレン・シュタットフェルト。名前の通り、シュタットフェルト伯爵家のお嬢様だけれど、会長と同じく親しく付き合える女の子だ。私の友達である。
 私と同じクラスで、その清楚で儚げな雰囲気の為か、高嶺の花とも言われている。成績は良いのだが、病弱な為か何かと学校を休みがち。家の事も有って敬遠されていたのを、会長が見かねて生徒会に引っ張り込んだのが、今年の春の事だった。
 カレン自身、本国の実家との折り合いが良く無いらしく、会長という話し相手が出来た事が嬉しいらしい。前よりも明るくなって、生徒会に出てきている。

 (……屋上、かな?)

 体が弱いらしいカレンは、強い日差しを嫌っている。ただ外の空気を吸うのは好きらしい。お昼時になると、散歩も兼ねて屋上に出て、数分をして帰って来る。
 今から行けば、多分、丁度落ち合えるだろう。私はそう思って屋上への階段を上ったのだ。






 屋上でカレンと上手い具合に接触した私は、首尾よく放課後の手伝いをお願い出来た。
 猫祭りについては、苦い笑顔だったけれど、家では絶対に出来ない体験ですから、と言っていた事を思い出す。会長からこっそり言われたが、本国のシュタットフェルト家は、余り良い噂が無いそうだ。権力がしっかりしているから排除されないが……カレンはカレンの苦労が有るのだろう。

 学校を出て、余り家の事には触れないように気を使いながら、一緒に会話をする。中身は色々だ。もう時期やってくるテストの事とか、来月のイベントは何だろうとか、会長とオレンジさんの関係の謎とか、成立したエリア18の事とか。

 「エリア18、ね……」

 「何か、気になる?」

 「ううん。……何でもないわ」

 何でもない、と言ってはいたけれど、カレンの顔は複雑そうだった。貴族と言う立場で、しかも病弱な彼女だ。弱肉強食を謳う国是について、何か、彼女なりの思う所が有るのかもしれなかった。

 会話をしていたからか、移動時間は短かった気がする。私達は直ぐに店には到着した。エリア11のサブカルチャーとは凄い物で、例えブリタニアに支配されていても消える事無く残っている。いや、むしろますます広まっている。嘘か真か、本国でも密かにブームだそうだ。
 そんなコスプレ衣裳を扱う租界の店で、適当な衣裳を見繕う。耳と、尻尾と、髭と、メイクセットの不足分と……。しっかりと言伝通りに選んで、頼む。結構なお金になってしまったけれども、会長は問題無いと言ってくれる筈だ。

 アッシュフォード公爵家は、ナイトメアフレーム開発の第一人者である。元々、福祉目的の民生用機械「フレーム」を開発していたのだが、それが黎明期の軍事兵器「ナイトメア」と結びつき、現在、ブリタニア戦力の中核を成すナイトメアフレームへと変化して行った。
 だから、開発特許を初めとする利益のお陰で、アッシュフォードは超の上に超が幾つも重なるお金持ち。イベント好きの会長や、その血の原因であるルーベン理事長が浪費をしても、使いきれない位の財を蓄えている。人をお金で判断する気はさらさら、無いのだけれど。

 「うーん。……カレン。この耳はニーナに似合うかなあ?」

 「良いと思うわ。髪の色と合わせた方が目立たないし」

 店に入って、約二十分。会長に、私のセンスに任せる、とか言われてしまった以上、適当な物を買って帰る訳にも行かず、結構しっかりと吟味をしていた。
 こうして買い物をしていると、カレンも貴族では無い、普通の女の子に見える。彼女の私生活を知らない私だけれど、こうして出かける事はきっと少なかったのだ。こうして買い物を一緒に出来る、という点だけでも、会長がカレンを生徒会に招いた意味が有ると思う。

 「こんなものじゃないかしら」

 「うん、私も良いと思う。……あ、お会計をお願いします」

 それから更に二十分の後、私達は店を出た。春の陽気に思わず目を細めてしまう。学校を出た時間が早かったおかげで、まだ太陽は高い。夕暮れ時までもう一時間、と言ったところだろう。
 包んで貰った紙袋を手に、二人で歩く。これから学園まで帰るのだけれども、其れほど急ぐ必要も無い。こんな良い天気の日に、さっさと帰るのはもったいないのだ。

 「そうだね。有難うカレン。お陰でとても助かったよ」

 「……良いわよ、別に。私も楽しかったから」

 静かに微笑むカレンだ。そう喜んで貰えると、私も誘った甲斐が有るという物だ。これからもちょくちょく、許されるのならば誘ってみようと思う。会長に相談してみるのも、良いかもしれない。
 清々しい空気を吸って、一つの公園に差し掛かかる。政庁から少し離れた自然が豊かな公園だ。園内には屋台が並び、連れ添って歩くカップルや家族連れも多い。

 ただ、やはり名誉ブリタニア人の肩身は狭いのだろう。天気とは裏腹な、何処か挙動が不審な、翳りの有る表情なのがこの国に住んでいた人達だ。

 彼らへの扱いに対して、間違っていると――――シャーリーは、思っている。けれども、それで何が出来る訳でも無い。何かをしようにも動けない。見ない振りしか出来ないのが、現実だった。

 ふと、どなり声を聞く。

 「テメエ、俺が誰だかわかってんのか!?」

 声と同時に、肉を打つ音が響く。公園の一角で屋台の店主が、ブリタニアの若者達に絡まれていた。服が汚れたとか、何か文句を付けて楽しんでいる。
 その光景は、正直、悲しい光景だ。見るに堪えない。……少なくとも、人道を知る者ならば行わない。人間が人間を虐める姿など、見ていて気持ちが良い物では無い。同じ事は、普通の市民ならば思う。
 しかし……如何にも出来ないのだ。

 何も出来ない自分が、悲しい。

 特定の誰かが名誉ブリタニア人でも、受け入れる自信はある。友達に成れるだろう。けれども、不特定の見ず知らずの相手の時に、いけないと分かっていても、つい目を反らしてしまう。火種が自分に降り注ぎ、今の平穏を崩される事を想像すると、如何にも動けない。
 公園内の皆がそうだった。囲まれ、暴行を受ける相手に対して、誰も何も言えない。一歩踏み出す勇気が有ればいいのだろう。しかし……。

 迷うシャーリーと同じ様に、公園内の誰もが葛藤を抱えたまま、動けない。……いや、一人だけ、動いた者いた。



 「貴方達。……止めなさい」



 カレンだった。




     ●



 夕刻。

 ルルーシュがエリア11政庁の自室に帰宅したのは、夕日が西の空を照らし始めた頃だった。

 「お帰り、ルルーシュ」

 「ああ。良く休めたか?」

 足音を聞き付けて、アーニャがひょこ、と顔を出す。表情に変化は無い様に見えるが、しっかりと昼寝をしたお陰か。意識は随分とはっきりしているようだ。

 「ん。掛け布団、ありがと」

 「ああ」

 如何いたしまして、と返しながら、部屋に入る。コートとコンビニの新聞を机の上に置いた。

 椅子に腰かけて、一息を入れる。
 短い間では有ったが、其れなりに有益な情報を手に入れる事が出来たと思う。明後日の軍事演習に対して、色々と布石を打つ必要性を把握出来ただけでも十分過ぎる利潤だろう。だが、それ以上に……中々、とても興味深い事実を、手に入れた。
 公園で男を助け、代わりに絡まれたあの少女。

 「アーニャ。……桃は好きか?」

 「……桃? 果物の?」

 「そうだ」

 「好きだけど。……それが何かした?」

 「……いいや。別に」

 首を傾げて、不思議そうな顔をするアーニャに、ルルーシュは何も言わず、曖昧な笑みで誤魔化した。

 記憶の中の一場面を引っ張り出して適応させ、そしてその場面には桃が出て来たという、それだけの話だ。向こうも恐らく、“気が付いてはいない”だろう。

 公園での一場面。友人が引き止めるのも断って、割って入ったあの少女。
 流石に、名門学校の子女に言われれば強く出れなかったのだろう。屋台の男から手を引いた。代わりに彼女がちょっと付き合えよ、と絡まれた――――が、此方はルルーシュが割り込んだ。外見は高校生でも、中身は百戦錬磨の騎士だ。その辺の悪ぶった者が叶う筈も無く、眼光であっさりと引き下がってくれた。

 (しかし……随分と)

 猫を被るのが上手い、そう思う。
 割り込んだルルーシュに対する瞳は、並みの貴族の子女では得られない色だった。

 『……私を助けるならば、さっきの人を助けるべきだと、思うわ』

 言葉こそ丁寧だった。静かだったから、背後から駆け付けた亜麻色の長い髪の少女も、多分、聞こえていなかっただろう。小さな言葉だったが、中に含まれた色は……友好とは、多分、違う。
 去り際に、さり気無く握手をして別れたが――――。

 (……ふむ)

 少し真剣に、彼女の現状を調べた方が良いだろう。
 ほんの二秒だけ、挨拶代りに触れた掌の感触を、思い出す。



 あの手は、間違いなくナイトメアフレームを駆る者の手だ。



 「あ、そうだルルーシュ。モニカからメールが来た」

 「……ん? 分かった。内容は?」

 機密情報局にも声をかけようか、と考えていたルルーシュは、再度、アーニャに引き戻される。
 ベッドに腰掛け、足をぶらぶら動かして枕を抱えていたアーニャから、はい、と手渡された物。画面にメールが映る、赤色の携帯電話だった。

 「シュナイゼル殿下から伝言。『本国への帰り際に、そっちによって特派を置いて行くよ。有効に使ってくれたまえ』――――だってさ。良かったねルルーシュ。これで、本格的に整備が出来る」

 「……ああ」

 システムを全力稼働させて、あの機体を使いたくは無い。使わない事を願っている。
 だが多分、そうもいかないのだろうと、ルルーシュは思った。


 嵐が近い。











 登場人物紹介 その⑤

 カラレス

 圧政を敷く現エリア11の総督。
 典型的なブリタニア貴族。公爵家に生まれ、軍人を経て政界に入った。その後、権力や人脈を使って本国で名を売り、四年前からエリア11の総督へと就任した。
 自己保身と上昇志向が強く、他人種に対して排他的。権力者には弱い。エリア11では区別と称して大々的な人種隔離政策を行い、弾圧している。元が軍人である為か、「純血派」を強く贔屓している。
 当然、ルルーシュが嫌いなタイプの人間だが、更迭するにも相応の理由が必要なので、仕方なく時期が来るまで(悪事の証拠を握るまで)は放っている。




 用語解説 その③

 アッシュフォード学園

 エリア11、トウキョウ租界に開かれた名門私立学校。
 学校長はルーベン・アッシュフォード公爵。現在の生徒会長は、ルーベンの孫娘ミレイ・アッシュフォード。ナイトメア開発による潤沢な資金の元、初等部から大学部まで通える敷地や設備、寮を有しており、また格式高さとは無縁の自由さが魅力。
 租界に置いては、ブリタニア人だけでなく、意外な事に名誉ブリタニア人からも評判が良い。というのも、彼らでも入学可能であるから。数は少なく構内での派閥問題やトラブルも多いが、名誉ブリタニア人の生徒も在籍している。

 因みに、アッシュフォード家はルルーシュとも当然、顔馴染み。












 段々と役者が揃いつつ有ります。アッシュフォード学園、政庁関係者、特派、そしてカレン。
 軍の演習で何が起きるのか、其れをお楽しみに。
 帰省中なので投稿スピードは遅いですが、しっかりと書いているので気長にお待ち下さい。

 ではまた次回!

 (3月1日投稿)


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