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No.19301の一覧
[0] コードギアス  円卓のルルーシュ 【長編 本編再構成】[宿木](2011/04/27 20:19)
[1] コードギアス  円卓のルルーシュ 序・中[宿木](2010/06/05 21:32)
[2] コードギアス  円卓のルルーシュ 序・下[宿木](2010/06/12 19:04)
[3] 第一章『エリア11』篇 その①[宿木](2011/03/01 14:40)
[4] 第一章『エリア11』篇 その②[宿木](2011/03/01 14:40)
[5] 第一章『エリア11』篇 その③[宿木](2011/05/05 00:21)
[6] 第一章『エリア11』篇 その④[宿木](2011/04/27 15:17)
[7] 第一章『エリア11』篇 その⑤[宿木](2011/05/02 00:22)
[8] 第一章『エリア11』篇 その⑥[宿木](2011/05/05 00:50)
[9] 第一章『エリア11』篇 その⑦[宿木](2011/05/09 00:43)
[10] 第一章『エリア11』篇 その⑧(上)[宿木](2011/05/11 23:41)
[11] 第一章『エリア11』篇 その⑧(下)[宿木](2011/05/15 15:50)
[12] 第一章『エリア11』篇 その⑨[宿木](2011/05/21 21:21)
[13] 第一章『エリア11』篇 その⑩[宿木](2011/05/30 01:50)
[14] 第一章『エリア11』篇 その⑪[宿木](2011/06/04 14:42)
[15] 第一章『エリア11』篇 その⑫(上)[宿木](2011/08/18 22:10)
[16] 第一章『エリア11』篇 その⑫(下)[宿木](2011/11/21 23:58)
[17] 第一章『エリア11』篇 その⑬[宿木](2012/06/04 22:47)
[18] 第一章『エリア11』篇 その⑭[宿木](2012/08/18 02:43)
[19] 第一章『エリア11』編 その⑮[宿木](2012/10/28 22:25)
[20] 第一章『エリア11』編 その⑯(NEW!!)[宿木](2012/10/28 22:35)
[21] おまけ KMF及び機体解説[宿木](2011/05/21 22:55)
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[19301] コードギアス  円卓のルルーシュ 序・下
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/12 19:04




 コードギアス 円卓のルルーシュ 序・下








 ・『魔 王』が入室しました。




 ・魔 王 「俺が一番か? ――まあ、時間まで結構あるから仕方が無いか。……空いた時間で書類を裁く事にする。何かあったら呼べ」

 ・魔 王 「…………」

 ・魔 王 「……………………」

 ・魔 王 「……………………………………」

 ・魔 王 「全く……ん? この書類は――」

 ・魔 王 「……………」

 ・魔 王 「――またか。懲りない奴だ」

 ・魔 王 「……………………」

 ・魔 王 「……………………………………」

 ・魔 王 「………………………………………………………」




 ・『吸血鬼』が入室しました。




 ・吸血鬼 「ああ。俺が二番か。――ルルーシュ? いるのか?」

 ・魔 王 「……ああ。いるぞ」

 ・吸血鬼 「なんだ。機嫌が悪そうだな」

 ・魔 王 「…………」

 ・吸血鬼 「――あー。……なあ、ルルーシュ。自他共に認める通り、俺は戦争が有れば其れで良い。交渉、政治、条約、規範、法律。実を言えば、階級にも興味は無い。一番、自由に戦える。一番、戦場に近い役職だから、この地位にいる」

 ・魔 王 「…………」

 ・吸血鬼 「皇帝陛下に、実力と因縁を買われてラウンズにいるが、宮仕えは大の苦手でね。帝国の行事は愚か、普通の社交界でも荷が重い。いわゆる根っからの戦狂いで、血狂いだ」

 ・魔 王 「……………………」

 ・吸血鬼 「俺は戦争が有って、戦場に有って、血と殺奪の中に有れば、其れで良い。狂っている自覚はある。――だから殺しという点では、ラウンズでトップクラスの自信はあるぜ? 相手を殺害し、傷つけ、泣き叫ばせる、という点ではヴァルトシュタイン郷にも負けないさ。その分、他が壊滅的だがな」

 ・魔 王 「長々と語って、何が言いたい」

 ・吸血鬼 「つまり俺には、書類仕事も、全くに出来ないと言う事だ。論理的だろ?」

 ・魔 王 「論理の前に倫理を学べ。――お前が、裁く筈の書類を、俺に、押しつける事への、良い訳になると、思うのか?」

 ・吸血鬼 「ああ、だから怒ってるのか。気にするなよ。適材適所と言う言葉が有るだろ。自慢じゃないが、お前が五枚を裁く間に、俺は一枚だけ裁けるぞ」

 ・魔 王 「威張るな。まず謝れ。むしろ今からお前がやれ。……大体、同じ任務に着いていた筈のモニカはどうした。彼女がお前の行いを許すと思わないが」

 ・吸血鬼 「怒るなよ。こう見えて、少しは感謝をしてる。感謝だけだがな。……モニカならばシュナイゼル殿下の所だ。今回の中東での活動報告をしている。時期に来るだろうさ」

 ・魔 王 「そうか。……話を戻すが。お前は僅かな書類も俺に任せる訳か」

 ・吸血鬼 「俺を見縊るなよ、ルルーシュ。これでも実は半分になったんだ」

 ・魔 王 「ほう。……まさか、送る前に、お前が半分を始末したと言うのか。だったら感心するが」

 ・吸血鬼 「うんにゃ。俺の手際が余りにも悪いと言う事でな。モニカの奴が不満を言いながら片づけた。俺がしたのは書類の一番下にサインをしただけだ。本来の仕事の半分は彼女が始末した。ルルーシュには、残った半分を頼んだ。つまり俺は半分の仕事をしたのではない。全然、仕事をしていないんだな、これが」

 ・魔 王 「――……怒っても良いか?」

 ・吸血鬼 「もう怒られたんでね。悪いが我慢してくれ」

 ・魔 王 「……ああ。だから頭の針スタイルが潰れているのか。自業自得だな。いい気味だ」

 ・吸血鬼 「ああ。痛くて硬くて、序に重い拳だったよ。髪を整えようにも、実はまだ瘤が引いてない。ほら、頭の上に氷嚢が乗っているのが見えるだろ?」

 ・魔 王 「シュールだな。そのままでいろ。……まあ、確かにあれは痛い。しかも他の女性陣より威力は落ちても、性質が悪いのも確かだな。殴った後のモニカは何時も涙目だ。こっちの心を痛くするからな。あれは卑怯だと思う」

 ・吸血鬼 「ま、実際は殴った際の心の痛みとか、癇癪を起したとか、そんな可愛い理由じゃないけどな」

 ・魔 王 「ああ。殴った時に自分へ返るダメージが大きいだけだ。その表情のせいで、最初は誰でも勘違いする。自分が悪かったか、とな。……まあ、俺もそうだった」

 ・吸血鬼 「女性陣は一発で見抜いたっぽいけどな。……まあ、あの涙目が被虐心をそそる訳だ。理由がどうあれ、何時、如何なる時であれ、涙って言うのは俺には甘露だね」

 ・魔 王 「……おい。お前な。……それじゃまるで」




 ・『C×C』が入室しました。
 ・『あにゃ』が入室しました。




 ・C×C 「女にちょっかいを掛けないと気が済まない小学生の餓鬼か?」

 ・あにゃ 「――要するに、変態?」

 ・吸血鬼 「……唐突に参加したと思ったら、第一声から厳しいな、おい」

 ・魔 王 「いや。……流石に、少し付き合えないぞ」




     ●




 薄暗い空間の中に、一つの光源が有った。

 周囲を頑丈な金属板で覆われた、長方形の空間。圧迫感をエル窮屈な空間は、ナイトメアフレームのパイロットブロックだ。空調性も居住性も完備していない、戦争の為の立体の中に、光が灯っている。
 光の源は、操縦者の目の前に映る、モニターだった。
 ナイトメアフレームの前面部分を覆う様な画面。搭乗者の上半身以上も有る画面は、青。起動を示すブリタニア文と、操縦者しか知り得ない暗証番号の入力画面が、画面に映っている。
 画面中央に開かれたウインドウは、通常ならば外部の様子を伝え、敵を打ち倒す死神の眼へと変化する。しかし、今は違った。
 画面は、搭乗者の入力を待っているのだ。
 始動鍵を差し込まれ、稼働状態の一歩手前に保たれたナイトメアフレーム。その操縦者は、画面手前に備え付けられた情報入力用のコンソールを叩き、幾つかの短文を刻んだ。

 『××××××××××××』

 打ちこまれたパスワードを認識し、画面が飛ぶ。程なくして開かれたウインドウには、十二と、複数に句切られた窓が浮かんでいた。
 一つ一つは大きくない。しかし、映る画面の奥に、確かに相手の顔を鮮明に捉えている。それは同時に、自分の状態も相手に伝わったと言う事だ。
 回線が繋がり、同時に、言葉と声が、飛んでくる。




 ・吸血鬼 「前から思ってるけどさ。俺の扱い酷いよな?」

 ・あにゃ 「別に。……普段は皆が少し、他より軽く扱ってるだけ」

 ・C×C 「良いじゃないか。構って貰えるだけ。お前が血に狂っている事も変態な事も、取りあえず共通認識と言う事で完結しているんだ。ハブられるよりは良いだろう? ……ふむ、ところで」

 ・吸血鬼 「どうした?」

 ・C×C 「腹が減ったな。此方は夜の十時半だ」

 ・魔 王 「不死者が空腹感を得る事に対する突っ込みは置いておくぞ。そう言うと思って、夜食は準備しておいた。外を見てみろ。近くに置いてある筈だ」

 ・あにゃ 「私の分も?」

 ・魔 王 「ああ、そうだよ」

 ・吸血鬼 「……相変わらず年下の女に甘い奴だな」

 ・魔 王 「馬鹿な事を。俺は女性には優しく有れと教えられただけだ」




 相変わらずの会話だな、と思う。この会話だけを聞いて、帝国最強達の会話だと理解出来る者は、殆ど居ないだろう。其れほどに彼らの会話は、穏健で、権利とは無関係な空気を有している。

 此処は、通常の情報交換とは全く別の、一種の隔離空間だった。

 ラウンズを含めた限られた一部のみが入れる、電脳世界の一室。専用の人工衛星を使用した回線に、徹底した情報機密の元に開催される、ナイト・オブ・ラウンズの秘密会談。

 専用のナイトメアのみが有する回線を使用。この時ばかりは外部モニターも不可能になる。情報探索は重罰だ。ラウンズが己の機体に乗り、己のパスワードを打ち込む事で初めて参加が出来た。

 宮廷の権力闘争も、此処には絶対に入り込まない。

 戦の事後報告と共に開催されるこの活動。

 通称を『円卓会議』と、呼ばれている。




     ●




 ・『開拓者』が入室しました。




 ・開拓者 「ん、なんか盛り上がってるな」

 ・魔 王 「来たかジノ。そっちは寒いか?」

 ・開拓者 「寒いのなんのって、ツンドラ気候を舐めてた、って感じだな。こっち朝だし。ブリタニア領とはいえアラスカはきつい。で、どんな状況だ?」

 ・C×C 「ああ、これが夜食か。頂くぞ。――……もぐ。――何。何時も通りだ。……はふ、変態吸血鬼に厳しい言葉が寄せられているだけさ。……ごくん」

 ・あにゃ 「もぐもぐ。……前の会話を、見れば良い。……まぐまぐ」

 ・開拓者 「ふーん。……ま、如何でも良いか。で、アーニャ。それが夜食か?」

 ・吸血鬼 「無視かよ」

 ・C×C 「ふぁふぇ……ごくり。何故、私に聞かない」

 ・あにゃ 「そう。C.C.のピザと、私の辛いの。ルルーシュが準備しておいた。……美味しそうでしょ? と、これ見よがしに自慢をしてみる」

 ・開拓者 「C.C.は語るから嫌だ。――良いなー。欲しいなー。ルルーシュ、俺の分も」

 ・魔 王 「金は払えよ?」

 ・開拓者 「ちぇ。アーニャとかC.C.とかにはサービスして、俺には金取るのか」

 ・C×C 「私もアーニャも、少しは払っている。――美味いな。あむ」

 ・魔 王 「喰いすぎてイルバル宮の台所にダメージを与えた奴が言うな。管理をする役人が泣いただろ。……それに、無駄な出費は基本的に避けるべきだ。唯でさえ俺達のナイトメアには、湯水のように金が使われているんだぞ」

 ・C×C 「もぐもぐ」

 ・あにゃ 「はむはむ」

 ・吸血鬼 「そうだな。ヴァィンベルク卿は、もう少し加減と言う物を知るべきだ」




 ・『泥っち』が入場しました。




 ・魔 王 「エルンスト卿。真夜中にご苦労」

 ・泥っち 「いや。暇だから構わないさ。……で言わせて貰うが、私の意見を一言で言えばこうだな。―― ”お前が言うな” 。」

 ・C×C 「――ふう、御馳走様。……そうだな。確かに言ってる事は正論だが、そんな感じだぞ。ジノの食い意地が台所に直撃するのも問題だがな。大部屋の壁を毎
回穴だらけにするナイフ練習は止めろ。痛むし、埃がピザに悪い」

 ・あにゃ 「第一、機体損傷率が一番大きいのはルキ。……戦法を学習しないで被弾する。あ、ルルーシュ。美味しかった。また作ってね?」

 ・魔 王 「ああ。暇を見つけてな。で、突撃馬鹿は、悪癖に対して言う事は?」

 ・吸血鬼 「……なあ。このさ。俺の発言に対して、打てば響く様に返って来る暴言の嵐を、どうすればいいと思う?」

 ・開拓者 「俺に聞くなよ。……そうだな。苦笑えば良いんじゃねえの?」




     ●




 画面には、十二の窓枠が表示されている。

 十二の枠が円を描き、時計のように各窓枠が置かれている。天頂部に一という数字が置かれ、其処から右回りに二、三、と続き、十二まで。時計の文字盤と違うのは、本来十二が置かれる位置に一が置かれ、一文字ずつ左にずれている事だろうか。

 三つの窓枠には、空席を示すバツ印が張られ、黒い画面の中に浮かんでいる。

 三つの窓枠には、まだ参加していない証拠である、席を示す数字が泳いでいる。

 残る六つに、現在入室中の、各自の顔が浮かんでいた。
 パイロットブロックに備え付けられたカメラが、リアルタイムで相手の情報を伝えてきている。

 相手の顔しか見えない状況だ。しかし会話は出来る。顔色を伺う事も十分に出来る。何よりも、唯の一方的な通信に成らず、全員で開く事が出来る事が、一番大きなメリットだ。

 各地にいるラウンズ達には、当然、時差の影響がある。ゆえに会議は、ブリタニア標準時で昼十二時と指定されていた。例えば、最も時差の影響が大きく、十二時間の差が有るのが、インド洋を航行中の船舶内にいるドロテアだ。彼女でも、深夜十二時という成人ならば普通の時間に参加出来る。
 ラウンズの権限を持ってすれば、難しい事では無い。




 ・吸血鬼 「というかよ。C.C.とか中でピザ食って、匂いが付着しないのか?」

 ・魔 王 「俺も忠告したんだがな。……何と答えたと思う?」

 ・開拓者 「大方あれだろ。ピザの匂いだったら染み付いても良いじゃないか、とか」

 ・C×C 「良く分かったな。一言一句、同じだぞ」



 一見すれば、昼休みの学生達の会話だった。他者から見ても、それは事実だと言うだろう。確かに、休みの会話で有る事に間違いは無い。平穏とは程遠い、戦と戦の間の物であるというだけで。

 彼らの会話に加わる様に、新しく窓枠が光った。

 新たな剣が、参加したのだ。




     ●




 ・『虎殺し』が入室しました。




 ・虎殺し 「やあ、元気が良くてなによりだ」

 ・泥っち 「エニアグラム卿か。その様子だと、体力が有り余っているようだな」

 ・C×C 「ああ、ボワルセルに行っていたんだったな。……どうだ、新人達は」

 虎殺し 「ああ。教官の真似ごとをしていて思ったが、やっぱ未熟者ばかりだ。今迄が放蕩に生きて来た貴族の餓鬼も多くてね。私の訓練に最後まで着いて来たのは三割だ。相当にセーブをしたんだけどね」

 ・魔 王 「――三割か。……因みに、訓練レベルは?」

 ・虎殺し 「んー……。アーニャで何とか、評価Aを上げられるレベルかな?」

 ・吸血鬼 「となると、ルルーシュだと合格ギリギリなレベルか」

 ・あにゃ 「――其処で、私?」

 ・虎殺し 「ま、ルルーシュは除くべきだろうからねえ。となると、アーニャかモニカしか比較対象が無いのさ。体力的には下から数えた方が早いだろう?」

 ・あにゃ 「……そうだけど」

 ・開拓者 「気にするなよ、アーニャ。アーニャもモニカもルルーシュも、体力の代わりに高性能の頭脳が有るんだ。ナイトメアの技量も高いし、些細なことだって」

 ・魔 王 「そうだな。俺よりも体力があるんだし、良いじゃないか」

 ・C×C 「その理屈で納得する事と、慰めるのはどうかと思うがな……」

 ・吸血鬼 「ルルーシュは無さ過ぎると思うがねえ。運動神経は良いし、自衛や射撃もかなり出来るのに、なんで体力だけ壊滅的に低いのか、分からん」

 ・開拓者 「頭が優秀すぎる代償かもしれないぞ。頭に全部成長する余地が行っちゃったんじゃねえの?」

 ・虎殺し 「その理屈だとベアトの扱いに困るな。……理由は無い、で良いんじゃないのか?」

 ・泥っち 「いやいや。其れにしては成長しなさすぎるぞ」

 ・C×C 「マリアンヌの腹の中に置いてきて、それを妹が吸い取ったのかもしれんぞ」

 ・あにゃ 「……それだ」

 ・吸血鬼 「ああ。其れは有るかもしれないな」

 ・開拓者 「今迄で一番可能性の高い説だな」

 ・虎殺し 「凄く納得できるな、それは」

 ・魔 王 「……おい。お前ら――」




 ・『モニカ』が入室しました。




 ・魔 王 「其処まで言―――――――!」

 ・モニカ 「どうやら間に合いました!」

 ・魔 王 「――――…………」

 ・あにゃ 「…………モニカだ」

 ・C×C 「モニカだな」

 ・モニカ 「御免なさい。シュナイゼル殿下のイスラム過激派の裏工作に関して、色々と片付ける必要が有りまして。……あ、ルルーシュ。後で報告書を送るので、確認して下さい」

 ・魔 王 「……………………」

 ・泥っち 「……毎回、思うが」

 ・虎殺し 「ああ。ルルーシュが反論しようと口を開いた瞬間に来るなんて。本当に、タイミングが良いんだか、悪いんだか」

 ・開拓者 「いや。多分、天性の物だろ。主に運的に」

 ・吸血鬼 「空気を読まないというよりも、空気を塗り替えるって感じだな。タイミングは良いけどよ」

 ・モニカ 「……あの、私が何かしました?」

 ・C×C 「いいや。お前は相変わらずだな、と言うだけの話だよ。な、ルルーシュ?」

 ・魔 王 「――ああ、良い。もう良い。……気にするな。ああ。……モニカの入室で、華の咲いた無駄話が、終わった、と言うだけだ」

 ・モニカ 「いやそれ、凄く気にしますけど」

 ・あにゃ 「あ、そう言えばモニカが言ったけど、時間」

 ・泥っち 「ああ、確かに話に熱中していたが、此方も丁度、深夜だな」

 ・吸血鬼 「ふむ。憩いの時間は此処までにしますかね」

 ・開拓者 「そういやヴァルトシュタイン卿は? まだ来てないみたいだけど」

 ・虎殺し 「大方、何か仕事だろう。……待つのもアレだな。始めようか。C.C.、お前が一番、位階が高い。進行と解説は頼む」

 ・魔 王 「……資料を送るぞ。確認してくれ」

 ・C×C 「――ふむ。苦手だが仕方が無い。では此処からは真面目な話だ。今回のアラビア半島攻略に関わっての話と、いこうか。――ルルーシュ。資料を画面に表示する事は?」

 ・魔 王 「ああ。少し待て。今している。…………ほら、良いぞ。俺が一番に来て、せっせとした準備の成果を感謝しろ」

 ・吸血鬼 「ああ、一番に来てた理由はそれか……」




     ●




 ナイト・オブ・ラウンズの『円卓会議』。

 本来ならば、古代にアーサー王が開催した時と同様に、向かい合い、円卓の机の上で皇帝を囲って行う行事だった。しかし領土と利権の拡大を巡る業務に勤しむラウンズ達は、決して暇ではない。
 正確に言えば、普段はかなり暇だが、一度、戦となれば各人が世界各国に飛ぶ。全員が全く別のエリアにいる事も、決して珍しい事では無かった。

 事実、今現在。C.C.、ルルーシュ、アーニャはアラビア半島。ジノはアラスカ。ドロテアはインド洋。ルキアーノとモニカは東ヨーロッパにいる。
 本国には二人。ノネットは今回の作戦に参加していないが、士官学校に呼ばれていて手が離せない。帝国最強の『第一席』、ビスマルクに至っては、毎日毎日、皇帝、皇族との面倒事に追われている。

 最大で十二時間の差が存在しているにも拘らず、会議は開かれる。それが意味するところは、其れほどにアラビア半島の攻略が、重要な要件で有る、と言う事だ。

 最も、彼らが日々の面倒な重圧から解放される、数少ない時間の一つでも有る、という似合わない理由も、共通認識として存在するのだが。




 十二の枠が構成する円の中心。大きくとられた空間に、一つの図が浮かび上がった。
 赤と青を中心に構成された一枚の地図だ。赤色はアラビア半島。青色は海原。その中には、都市を示す黒の三角形と、ブリタニア軍を示す黄色の軍団が置かれていた。
 右上に数字が現れる。小さな表示は、デジタルの日付だ。二か月前の日付から始まるカウントと共に、徐々に画面が動いていく。過去から現在へと、状況が推移して行くのだ。

 アラビア半島攻略の、一連の動きだった。

 オーストラリアを出発した軍団が、微妙に進路を変えて半島に接触。そこから複数に展開された部隊の片方が、南方へ。もう一方が海上艦隊と共に広がり、南を制圧した軍団と合流する。大軍団は瞬く間に北へと駒を進め、暫くの後に、砂漠へと進軍。直ぐに土地全体を塗り替えた。
 エリアの成立。日付は、本国標準時で一日前を示している。

 『さて、今見せたのが、ここ二か月の、今回のコーネリア殿下の作戦だった。裏でシュナイゼル殿下も動いた事もあり、オマーン王国はブリタニアの属国、エリア18となり、支配されたわけだ。基本だな』

 本人は苦手と言っているが、C.C.の説明は淀みが無い。年長者が子供に言い聞かせるように、丁寧だが流暢な言葉で語って行く。ラウンズの面々も、既に知っている情報だからだろうか。質問をする者はいない。

 『ラウンズに関して言えば、私とルルーシュ。アーニャが戦場に投入された。インド洋上のドロテアが補給物資の輸送艦隊の護衛だ。モニカとルキアーノが、シュナイゼル殿下のサポートだな。……一番最後が必要ないと思うのは私だけではないだろうな』

 『…………其処で皆に、一斉に頷かれると、俺は凄く空しいんだが』

 『気にするな。慣れる事だ。……さて』

 各々が送られた情報には、ここまでは報告が記されていた。
 逆に言えば、これ以上は、普通の軍人に示す事の出来ない、上級レベルの情報であると言う事だ。自然と、普段は飄々としている面々も、真剣な顔に成る。

 『――――ここからが本題になる』

 言葉と同時、半島の地図が拡大される。オマーンを端の方に位置させ、砂漠全体を示す様な画像。

 広大な、ルブアリハリ砂漠だ。




     ●




 ・C×C 「知ってもいるだろうが、私の機体、エレインは少々特殊な作りだ。機体には、ハドロン砲と情報収集機能しか有していないからな」

 ・開拓者 「空戦用ナイトメアフレームの、唯一の試作品にして、欠陥品のエレインか。良く言ったもんだよな。幾度と無く再建造されているから、同じ様に伝説に数多く出現する『湖の乙女』、なんだろう?」

 ・C×C 「ああ。現在のナイトメアフレームには未実装の、サクラダイト繊維を編み込んだ可動部を使用している。コックピットブロックへ覆い被さる様に機体が組まれ、その間に発電機能を有する繊維パッケージが嵌められているんだ。だから機体の割に、抱えるエネルギーは膨大だ。ハドロン砲とは別の部分で大量に動力を使用出来る」

 ・泥っち 「アッシュフォードの開発した、マッスルフレーミングだったな。ナイトメアを動かす人工筋肉を、飛行用ナイトメア試作機に埋め込んだ、と。形状が戦闘機に近い事は、兎も角として」

 ・虎殺し 「その恩恵が、化物的な情報収集機能だったな?」

 ・C×C 「そうだ。ナイトメアに有り得ない……有るまじき機体だが、私だからこそ、エレインの力が発揮できると言っても良いだろうな。繊維フレームを介する事で、通常のナイトメア以上の機動力と自己発電による情報機能の使用。そして――」

 ・あにゃ 「ギアスの、増幅効果」

 ・C×C 「そうだ。ラウンズは知る、超一級の極秘事項。ギアスに関しての効果がある」




 ギアスという単語に、一同は反応する。
 しかし、その中に恐れや脅威への懸念は無い。
 通常では有り得ない、異能の力の存在を、彼らは知っていた。
 同時に、所詮は一人が持ち得る力でしか無い事も、熟知していたのだ。




 ・泥っち 「ああ。……確かに、超級の秘密だな。その割に、意外と多くの者が知っているが……少なくとも、一般庶民と、一般軍人。一般貴族には、絶対に漏らしてはいけない物だろうな」

 ・吸血鬼 「欲しがる者に限って、使い方を間違えるに違い無い、しなあ」

 ・C×C 「その辺りは機密情報局の管轄だな。……話を戻すぞ。サクラダイト繊維の特殊回路、通称を『ギアス電動回路』は、寄生型ギアスには効果は無い。しかし、結界型ギアスの効力を増大させる性質を持っている。使用出来るギアスは――機情の命名を借りるのならば――《ジ・オド》《ザ・ランド》《ザ・パワー》《ザ・スピード》……となるか」

 ・開拓者 「割と強いよな、あいつら。模擬戦してみたら勝ったけどさ」

 ・C×C 「ラウンズの実力ならば、相手がギアス込みでも勝てるだろうレベルだよ、彼女達は。……さて、寄生型ギアスは無理だが、結界型ギアスならば、私一人で発動出来る事も承知の上だろう。理由を含め詳しい説明は省くが、他者にギアスとして発動されなければならない、という制限は有るが、逆に言えば ”他者に発現されさえすれば” 私は結界型ギアスを、イレギュラーズと同等か、それ以上の精度で使用出来る」

 ・あにゃ 「それ、ちーと?」

 ・魔 王 「ああ、紛れもないチートだな」

 ・C×C 「まあな。ギアスの説明も長いから省くぞ? 総合すれば、私がエレインに機乗する限りは、情報を得る事は非常に易いと言う事だ。情報を整理するだけの機能も搭載されている。安全性の変わりにだがな」

 ・モニカ 「色んな意味でC.C.以外には扱えない機体だよね、あれ」

 ・吸血鬼 「ラウンズの機体でピーキーじゃない機体は無いけどな。ルルーシュのしん…………あー、本名を、何だっけ。――まあ良いや。ミストレスですら、コマンド入力だし」

 ・C×C 「まあな。……さて、で愈々に本筋だ。オマーンへの侵攻作戦の最終段階での事に成る」

 ・虎殺し 「首都マスカットを陥落させてからの話だな?」

 ・C×C 「ああ。コーネリア殿下とルルーシュ、アーニャに地上を任せ、私は戦場の上空で、情報戦に勤しんでいた。結界型ギアス《ザ・ランド》での周辺の策敵と、敵性情報の入手。非常に簡単だった。相手の『切り札』……もとい、虎の子の陸上艇バミデスは、周囲の影響で読めなかった。しかし、戦況の大半は認識できていたと思う。実際、戦力は過剰だったしな……。私の砲撃は最後だけだったから、何も問題は無かったんだ。ところが――」

 ・泥っち 「……なるほど。増幅した結界型ギアスで、何かを見つけてしまったと言う訳か。それも、ラウンズを招集し、皇帝陛下にも渡りを付ける程の、物」

 ・C×C 「ああ。最初は規模が大きすぎて、逆に気が付かなかったがな。冷静にギアスを使用したら明白だったよ」

 ・開拓者 「《ザ・ランド》ってのは……地脈と、物質構造の解析、だったよな。確か。……となると……砂漠の砂の下に、何かあったのか?」

 ・C×C 「鋭いな、ジノ・ヴァインベルク。……そうだ。聞いて驚くなよ?」




 ・C×C 「ルブアリハリ砂漠の地下に、巨大な空間があった。間違いなく近代以降の、人工物だ」




     ●




 ルブアリハリ砂漠の地下に、巨大な空間が存在した。

 荒唐無稽な話だが、一笑する者はいない。各人、其々に心当たりが有るのだ。
 その一言で、ラウンズの面々の、真剣さの中にあった余裕が、消える。

 「一応、尋ねるぞ。C.C.。……それは、かつて地下に埋もれた遺跡である、という訳では無いな?」

 C.C.と共にいたルルーシュは既に聞いていた様子だ。しかし、手を挙げて発現したドロテアの疑問は、アーニャも含めた全員に、共通する意見だった。

 「ああ、ほぼ間違いが無い。……ルルーシュ。変えてくれ」

 魔女の言葉に、ルルーシュが操作をする。拡大されたアラビア半島の砂漠に、一つの影が落ちた。
 アラビア半島の砂漠に刻まれた陰。それは、エレインが読み取った空間だ。南はオマーンとイエメンの境界近く。東はコーネリアが残存兵力を叩いた辺り。北はと西は、測定が不能。
 陰に見える全てが、地下の空間。小国を遥かに超える敷地を有している。

 「サウジアラビアの領空深くまで続いていてな。エレインの性能を持っていても、北方と西方の詳細は不明だ。だが、判明している部分を、概算で適当に計算しただけでも、恐らくシリコンバレー以上……サンフランシスコ・ベイエリアを凌駕する体積を持っている。地下で高度を稼げない分、横に広がったのかもしれない」

 地下数百メートル以下。流動する砂の下に存在する。
 これ程に巨大な空間が昔から存在するのならば、一般民衆にも多少の情報が伝わっていなければ奇妙だ。正確で無くても、口伝や説話として残っているのが自然だった。しかし、それは無い。過去の遺物にしても規模が大きすぎる。
 すると、残された可能性は、自然と限定される。
 帝国最強の六人の顔を見渡して、C.C.は断言する。

 「ここ最近――それも恐らく数百年以内に、何者かが秘密裏に建造した、と言う事に、他ならないな」

 その言葉に、やはりルルーシュとC.C.以外の一同は静かに頷く。幾人かは呻き声を上げ、困惑を表に出す。

 「ただのガランドウの筈が無い。中に色々とあるだろうな。工場や、居住区や――恐らく、人間も、だ」

 半島の地下に眠る、巨大な人工空間。庶民が空想する、浪漫に心を震わせる内容だが、ラウンズにとっては違う。
 オマーン侵攻の『裏の理由』を知るナイト・オブ・ラウンズ。戦場の剣達には、この所業を行える相手に、心当たりが有ったのだ。しかし、有る程度の情報を有している彼らも、驚愕している。

 彼らの予想を遥かに超えていたからだ。街一つ、ならば、まだ理解が出来る。しかし、ブリタニア本国工業地帯――世界レベルの工場ラインが砂漠の下に有る、と言われて、驚かない方が変だ。
 ルルーシュ・ランペルージであっても、予め情報を聞いていたから、落ち着いているだけである。

 その困惑した空気を打ち破った物が有る。




 ・『ベアト』様が入室されました。




 「なるほど。事情は把握しました」

 それは、一人の女性の声だ。冷静で感情を読ませない、静かな声。
 ラウンズの物では無い。しかし、この会議を傍聴する事が出来る役職に着いている存在だった。

 「その施設についての詳しい話は、またにしましょう。正確な情報を掴めた後の方が、混乱が少ないでしょうからね」

 全員の画面に浮かぶ、相互交信の、十二のウインドウ。円を描く剣達の枠の、より中心近くに現れた顔が有った。
 それは、ラウンズよりも女性が上位に有ると言う証明だ。

 「先を続けて下さい。C.C.」

 鉄面皮。感情を隠した小さな微笑と、雰囲気を和らげる眼鏡。しかし、その奥で猛禽類の様に油断なく光る瞳。一見すれば優しそうな、更に良く見れば鉄の様な女性。
 この場にいる面々で、彼女を知らない物はいない。

 「ああ。分かった」

 現れた女性は、ベアトリス・ファランクス。
 ナイト・オブ・ラウンズへの命令権を持つ、帝国特務局長にして、皇帝筆頭秘書官。
 要するに、上司だった。




     ●




 ・C×C 「さて、この巨大建造物を地下に勝手に、秘密裏に作り上げた『組織』については皆が良く知っているだろうから、説明を省くぞ。重要なのは、今後の方針だ」

 ・ベアト 「ええ。其れが何よりも重要でしょう」

 ・C×C 「まず、報告をしておく。恐らく、この建造物について、多少の情報を有していたオマーンの第一王子。彼は自分で自分の首を絞めて死んだ。一回締めると、まず解けない特殊な結び方をしていて、死体は、とてもじゃないが見れた顔じゃなかった。アーニャが気分を害した程だ」

 ・あにゃ 「うん。……あれは、凄かった、……色とか、色とか、色々と」

 ・C×C 「一見すれば自殺に見える。しかし実際は、条件を満たすと自殺する様に命令されていた訳だ」

 ・虎殺し 「……ってことは、だ」

 ・泥っち 「相手方にも、やっぱり居る、訳だな」

 ・魔 王 「……ああ。恐らく、俺と同じタイプの、ギアスユーザーだろうな」

 ・吸血鬼 「……面倒だな。つまり口封じ、だったんだろ?」

 ・C×C 「そう言う事だ。――第一王子は首都陥落後も、暫くは身を潜めていた。その間にギアスで命令された、のだろう。……此処だけの話だがな。実は確保の後にルルーシュが、知っている事を話せ、と尋問したんだ。ところが返ってきたのは、沈黙だった」

 ・あにゃ 「そうなの?」

 ・魔 王 「ああ。アーニャには話さなかったけどな。短時間だったが、確かに俺が尋問したよ。正面から ”相手の目を見て” な。しかし返答は無かった。知らなかった、のでは無いだろう」

 ・開拓者 「……ルルーシュ。つまり相手は、答えられなかった、のか?」

 ・魔 王 「いや。……これは推測だが、答えない様に命令されていた、が正しいだろう。寄生型で、かつ命令系のギアスは一人に対して一回、という制約が付随する事が多い。しかしそれは、命令の内容で幾らでも乗り越えられる ”今から言う命令を遵守しろ” 、とでも最初に命じれば、複数の条件を植え付ける事は容易いからな」

 ・虎殺し 「あくどいな。……手掛かりは消されたか」

 ・C×C 「ああ。全てではないが、大きな手掛かりを消された」

 ・ベアト 「――では、小さな手掛かりは有ると?」

 ・C×C 「ああ。……一応、分かっている事は有るんだ。例えば、コーネリア殿下が市街の残存戦力を叩いている間、休む前に簡単にだが、上空からマスカット市街を調べてみた。断言はできないが、恐らく地下水道の分岐から、地下空間へと通じる道が存在する、んだと思う」

 ・魔 王 「推測が立ち、第一王子を問い詰めようとしたが、その前に自殺をされた訳だ」

 ・あにゃ 「なるほど。……第一王子が地下通路のルートを知っていた可能性は大きかった、と」

 ・泥っち 「そうだな。砂漠地帯では水源の確保は何よりも重要だ。地下水路を整え、その中に秘密の隠し通路を構成して、砂漠下の大空間と繋げる事は、理論的には可能だな。問題は経済的な面か。第一王子が単独で行うとした場合、かなり厳しいが……」

 ・C×C 「因みに、他の物で自殺した者はいない。残りの王族が子供と言う事もあるがな。……ちょっと話がずれるが、オマーンの権力の実権は、かなりの部分で第一王子に移動していたらしい。特に、財政面は、ほぼ彼に掌握されていてな。第一王子の懐に入っていた金は万では効かないんだ」

 ・吸血鬼 「じゃ、あれか。こっそり別の場所に金を懸けても、表に出ないと」

 ・C×C 「そうだ。……今回のブリタニア侵攻に際して、強引に即位を実行しようとした計画も見えてきていてな。……まあ、要するに、何かを企んでいた第一王子は侵攻と共に失脚。秘密がばれる前に殺害された。で、子供と先が短い老人が、オマーンの残った王族だ。国内の宮廷のゴタゴタも、侵略成功の原因かもしれん」

 ・虎殺し 「……話を戻そうか。オマーン国内の財源が、提供されていて、かつ第一王子の独断に近い物だった、と仮定をするのならば……ならば、地下の存在を知っているのは、オマーンだけじゃないな。アラビア半島の諸国も、認知しているんだろう。既知にあるのはオマーンと同様に、政府の限定された一部、数人なのだろうが、各国で協力して金を出し、その上で隠している。ブリタニア帝国の監視の目を擦り抜けるほど、巧妙に」

 ・開拓者 「しかも、ギアスを使用しなければ発見できなかった以上、他国を問い詰める事は難しい、か」

 ・C×C 「ああ。ギアスで発見した、という理屈を持ちだすのは、外交的にも機密的にも禁止だ。となると、軍事的に発見したとなる。しかし、最新鋭人工衛星でも発見出来なかったんだ。此方の技術を越えるレベルだったのだろうが、大きな秘匿性を有した設備の立証は、難しい。百歩譲って国家が此方との交渉で認めたとしても、利権が絡んだ、得た恩恵に関しては間違いなく黙秘を選ぶ」

 ・ベアト 「必然的に、他国の協力はまず得られない。本国の中でも、直接に調査に関われるのは機情とラウンズだけでしょう。特務局ならば、私が声をかけて動かす事も、出来ますが……」

 ・泥っち 「それでも人数的に苦しいのは間違い無い。対して、相手の敷地は広大だ。しかも、情報が存在しない、手探りの状態。その上でオマーンの地下水路から、設備に至るルートを探索し、設置されているだろう防衛線を乗り越える必要もある。―――厳しいな」

 ・魔 王 「……だがそれでも、手掛かりと言えば手掛かりだ」

 ・ベアト 「……そうですね」

 ・魔 王 「厳しい事には違いない。だが、第一王子の自殺から考えて、今尚も、地下空間内に重要な手掛かりが残っている事は間違いない。到達するまでに証拠は隠滅される。新たな拠点に移動される可能性も高い。其れでも尚――調べるべきだ、と俺は思うぞ」

 ・ベアト 「その旨は、皇帝陛下にお伝えして、采配を得ましょう。……次の手掛かりは?」

 ・C×C 「……第一王子の周辺を洗ってみた結果、一つの興味深い点があった。――気が付いたのはアーニャだ。……説明を頼む」

 ・あにゃ 「分かった」




     ●




 アラビア半島の地図に代わって、画面に映った物が有った。

 それは、簡潔に纏められた標だ。オマーン国家の財政の一部。第一王子の支出を中心に記された部分である。専門家が見れば、第一王子の挙動を読み取る事が出来るだろう。
 その中の複数の場所に、見やすいように色付けがされている。




 ・あにゃ 「……オマーンのデータベースを漁ったら、気が付いた」

 ・モニカ 「何を?」

 ・あにゃ 「この、色が付いた部分に、注目」




 ピコ、と現れた小さな矢印が、標の一部を動く。

 「第一王子の支出の中、他国との交流費用が有る」

 其れだけならば、不思議では無い。国政に関わる者として、諸外国との交際費は必要不可欠だ。

 「通常の平均交流費よりも、僅かに多い。けれども、実際に諸国に出た回数は、むしろ少ない」

 「……秘密裏に動いた、と言う事か?」

 「其れだけならば、良い」

 国家予算を公に出す事が少ないブリタニアだ。実力主義と階級社会が、記録の改竄に拍車を懸けている。
 大層な名目で誤魔化し、その裏では費用が別の方向に流れる事など珍しく無い。ダミー会社の費用を横領する。庶民に流れる税金を官僚が不正に奪う。エリアの地方総督が直々に裏金と利権を吸い上げる事もある。

 しかし、そこら辺は匙加減を間違えなければ、黙認される事が多い。庶民の規範と成るべき貴族が、率先して行っている以上、撲滅は不可能だ。

 幸いな事に、中央に近い権力者ほど自制する方向に有る。皇帝や宰相、ラウンズを初めとする、国家の中枢ほど金の使い方がまともで、利権を無駄に獲得しようと考えない。
 無論、いざ、使用する時は、存分に使用するのであるが。

 「問題は、接触相手が――」

 新たに表示される情報。其処に記されていたのは、外国との交流に関しての物だ。
 有ったのは、アラビア諸国や、欧州。中国。総じて言えば、ブリタニアの支配が及んでいない地域だ。

 しかし、其れ以外にも、記された記録が有る。その場所は。

 「――エリアにも、及んでいる、と言う事」




     ●




 ・開拓者 「ちょっと待て。つまりアレか。口を封じられた第一王子とやらは、秘密裏にエリアにも出張っていた、と……何だよ、それ」

 ・モニカ 「そのままの意味だね。……うん。キナ臭い」

 ・虎殺し 「キナ臭い、では、済まないな。山火事並みに臭うぞ」

 ・ベアト 「納得しました。つまり、そのエリアが、第一王子の知っていた情報と関わりが有る可能性は、高いと」

 ・あにゃ 「確定情報では無いけれども、そう言う事」

 ・C×C 「ベアトリス。実は明日にでも伝えようかと思っていたんだ。そのエリアへの、ラウンズの派遣を要請するつもりだった。オマーンの攻略は済んだし、暫くすれば補給艦隊と一緒にドロテアが合流する。一か所に四人も必要が無いからな」

 ・魔 王 「痕跡を消そうと相手が動く可能性は有るが、それならば此方も相手の尻尾を掴み易い。幸いな事に、そのエリアは抵抗活動も活発だ。エリア昇格の為の援軍、という名目ならばラウンズを派遣しても良いだろう」

 ・ベアト 「ええ。その辺りも合わせて、皇帝陛下に打診致します」




 ・『ONE』が入室しました。




 ・ONE 「遅れて済まぬな。もう終了か?」

 ・ベアト 「ヴァルトシュタイン郷、お疲れ様です。――簡単に説明しますと、今回のオマーン侵攻によって、ルブアリハリ砂漠の地下に、 ”例の組織” の研究施設「らしき物」が有る事が、C.C.卿のギアスで確定しました。その調査と並行して、彼らが密かに手を伸ばしている可能性のあるエリアに、ラウンズを派遣するべきだ、と言うのが、今回の会議ですね」

 ・ONE 「了解した。礼を言おう」

 ・吸血鬼 「……で、肝心のそのエリアは? 何処なんだ?」




 全員の視線を受けて、ラウンズ最年少の少女は、ゆっくりと語る。




 ・あにゃ 「場所は――――エリア11」




 世界最大のサクラダイト産出国にして、最も抵抗活動が大きな、極東の島国。


 かつての名を、日本と言う、国家だ。














 登場人物紹介③

 ベアトリス・ファランクス

 皇帝筆頭秘書官 兼 帝国特務局(機密情報局とは別組織)長官。
 帝国宰相やナイト・オブ・ワンにも匹敵する権力を有する、難攻不落の鉄の女性。帝国最高頭脳の一角。
 元ナイト・オブ・ラウンズであり、C.C.の先代。つまり第二席に着いていた経歴も持っている。
 ノネット、コーネリアと同じく、マリアンヌの弟子。アリエスの離宮にも良く出入りをしていた。


 (補足)

 原作の小説に登場。
 ギアスR2では、出奔したコーネリアを背後から支えていた。彼女が黒の騎士団に鹵獲された後、シュナイゼルに事情を伝え、救出を要請してもいる。
 その死に関して言及されていないが、皇帝ルルーシュにギアスで支配された後、降格。他の皇族共々、投下されたフレイヤで死亡したと思われる。








 用語説明 その①

 ナイト・オブ・ラウンズ。

 ブリタニア語ではKnight of Rounds.
 神聖ブリタニア帝国最高戦力。皇帝直属の『円卓の騎士』。
 最強の代名詞。
 その権力は皇族と同等の扱いであり、皇帝の勅命を受ければ、皇族以上の権力の行使も可能とする。
 彼らより上位に位置する者は、皇帝、特務局長、宰相と数人だけ。
 完璧な実力主義であり、実力さえ伴っていれば、ブリタニア国家の中で、最も人種や出生に拘らない職場かもしれない。
 今現在は、全十二席の内、1・2・3・4・5・6・9・10・12の九席が埋まっている。

 使用されるナイトメアフレームは、揃いも揃ってピーキーな機体であり、扱える者は少ない。名前の大抵は『アーサー王伝説』から取られている。
 『第一席』で、帝国最強と言われるビスマルク・ヴァルトシュタインを除き、実力はほぼ横並び。特定の条件下によって、互いの勝敗は簡単に引っ繰り返る。

 実は、一から十二とは違う、表に出ない階位が存在しているとか、いないとか……。










 6月12日 投稿










 これにて序章は終了。次回からは第一章『エリア11』編に成ります。
 特派とか、赤い彼女とか、学園組とか、色々出て来ると思うので、お楽しみに。

 PS 如何にか『境界恋物語』の完結までの目処が経ちました。内容を書いては消し、書いては消しの繰り返しですが、しっかり最終回に向けて動いているので、気長にお待ち下さい。


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