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No.19301の一覧
[0] コードギアス  円卓のルルーシュ 【長編 本編再構成】[宿木](2011/04/27 20:19)
[1] コードギアス  円卓のルルーシュ 序・中[宿木](2010/06/05 21:32)
[2] コードギアス  円卓のルルーシュ 序・下[宿木](2010/06/12 19:04)
[3] 第一章『エリア11』篇 その①[宿木](2011/03/01 14:40)
[4] 第一章『エリア11』篇 その②[宿木](2011/03/01 14:40)
[5] 第一章『エリア11』篇 その③[宿木](2011/05/05 00:21)
[6] 第一章『エリア11』篇 その④[宿木](2011/04/27 15:17)
[7] 第一章『エリア11』篇 その⑤[宿木](2011/05/02 00:22)
[8] 第一章『エリア11』篇 その⑥[宿木](2011/05/05 00:50)
[9] 第一章『エリア11』篇 その⑦[宿木](2011/05/09 00:43)
[10] 第一章『エリア11』篇 その⑧(上)[宿木](2011/05/11 23:41)
[11] 第一章『エリア11』篇 その⑧(下)[宿木](2011/05/15 15:50)
[12] 第一章『エリア11』篇 その⑨[宿木](2011/05/21 21:21)
[13] 第一章『エリア11』篇 その⑩[宿木](2011/05/30 01:50)
[14] 第一章『エリア11』篇 その⑪[宿木](2011/06/04 14:42)
[15] 第一章『エリア11』篇 その⑫(上)[宿木](2011/08/18 22:10)
[16] 第一章『エリア11』篇 その⑫(下)[宿木](2011/11/21 23:58)
[17] 第一章『エリア11』篇 その⑬[宿木](2012/06/04 22:47)
[18] 第一章『エリア11』篇 その⑭[宿木](2012/08/18 02:43)
[19] 第一章『エリア11』編 その⑮[宿木](2012/10/28 22:25)
[20] 第一章『エリア11』編 その⑯(NEW!!)[宿木](2012/10/28 22:35)
[21] おまけ KMF及び機体解説[宿木](2011/05/21 22:55)
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[19301] 第一章『エリア11』篇 その⑫(上)
Name: 宿木◆e915b7b2 ID:21a4a538 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/18 22:10

 租界から北東に一時間も進めば、都会の喧騒も遠い緑溢れる空間に着く。

 元々、エリア11に住んでいた国民は、働き者だ。家庭を顧みずに仕事に邁進する様は、経済成長期には社会主義国家と間違えられた程である。その名残は今も健在で、名誉ブリタニア人は基本的に働き者だし(働かないと生きていけないのだが)、日々の疲れを癒すスポットも当然ながら存在した。

 「と言う訳で、日々の慰労も兼ねてやってきました!」

 「あのー会長」

 「なあに? 皆、折角来たんだからテンション上げて行きましょうよ」

 静かに走るリニアモーターカーの中で、妙に騒がしい空間があった。個室に集っているのは何れも高校生で、男子が一人、女子が三人だ。最も、集団に色めかしい空気は無い。

 全員を纏める金髪の美女が、ミレイ・アッシュフォードである。

 他の三人は彼女の後輩だ。名門アッシュフォード学園の生徒会役員達は、個室を借り切って、六人掛けのシートに四人で座っている。その中で、おずおずと手を挙げた、通路側に座る唯一の男子。リヴァル・カルデモンドが、恐らく全員が思っていただろう疑問を口に出した。

 「その、大丈夫なんですか? 治安とか」

 「大丈夫、大丈夫。ナリタ連山は立ち入り禁止だけど、ナリタは広いもの。貴方達だってこっち来るとき空港を利用したでしょ? チバまで行って、其処から先は安全な場所を巡れば良いの」

 会長が、オッケイ? と顔を近づけると、その迫力と美貌に押されたリヴァルが激しく肯定した。顔が近いのもあるが、あるいは好いている女性の顔が至近距離にあって動揺したのかもしれない。彼がミレイに報われない恋心を宿している事は、大体承知の上だ。

 「そりゃあ、理屈ではそうでしょうが」

 「リヴァール! 男子の癖に色々言わない! ニーナだって文句を言わないんだから!」

 見れば確かに、ニーナは黙っていた。
 窓際に座る眼鏡の地味な空気の少女。ニーナ・アインシュタインは『ミレイちゃんが其処まで言うなら……』と、不安を隠しながらも読書中だ。そんな彼女を安心させるように、通路側の少女が言う。

 「大丈夫だよ。意外とブリタニアの施設も多いから、治安維持にも力が入ってるってさ」

 美少女だ。亜麻色の長い髪を持つ、健康的な明るい女子である。

 「そうなの?」「そうなのか?」

 ニーナとリヴァル。二人から異口同音に言われた彼女は、頷く。

 「うん。お父さんが、ナリタで働いてるから。夜に暗い所を出歩かなければ、何も問題は無いって」

 休日で人も多いし、その分、危険は少ないだろう。
 人混みを狙って攻撃が行われるようなら、その土地は末期だ。テロリスト達だって、何時日本人に被害が出るか分からない、雑多な集団に攻勢を仕掛けはしない。それだけの理性は、“まだ”残っている。
 そんな事を、父親の判断を借りて彼女は説明した。

 「……有難う、シャーリー」

 「うん! まかせて!」

 ニーナに笑顔を返す彼女の名は、シャーリー・フェネットと言った。






 コードギアス 円卓のルルーシュ 第一章『エリア11』編 その⑫(上)






 「本日はラウンズが、揃って休暇を取ってる、って聞いたけど。……あ、その資料貸して?」

 「はい、どうぞ。――――ええ、私も休暇中ですよ。報告だけ聞いたら外に出るつもりです」

 「ふうん。モニカはどこか行きたい場所有るの?」

 「そうですねえ。……取りあえず銃砲店に顔出したいなとは思ってますけど」

 休日に銃砲店というのは、中々変な趣味だなあとマリエル・ラビエは思ったが、口には出さなかった。自分の趣味、機械弄りも真っ当の範疇とは言えない。

 数多の戦場を駆けるラウンズ。ともなれば支給品だけでは用が足りない事もあるかもしれない。そう言った場合を防ぐ為、大抵休日の暇を見計らって個人で手筈を整えるのが習慣だった。処々の道具を経費で落とせるし――本音を言えば、誰だって死にたくないから、万全に己で準備をして戦場に行きたい。
 モニカの場合、銃は得物であって友人でもある。だから、休日に愛銃を伴い出かけることも多かった。

 「でも良いの? 軍とか政庁とか」

 「ええ。ゲットーの方も一段落しましたし、復興支援は後日の計画表が出てからです。ルルーシュもアーニャも、そして私も、エリア11に来てから働き詰めでしたから。……ここらで大きく休みを取ろうということになりました」

 最近は、アーニャの監視が厳しいお陰で、軍の自浄作用も働きつつある。

 政庁上層部、というかカラレス一派への対策も掴めてきた。抜かりの無いルルーシュは、まず周囲の切り崩しから初めている。効果が出るまではまだ時間が必要だろうが……本国からマオと一緒に連れて来た機密情報局員を上手に動かして、手綱を握ろうと画策しているようだ。
 相手も負けてはいない。情報を表に出さないよう、彼らは彼らで仕事と称して証拠の隠滅をしている。まあ、これは困った事だが――――全てが悪い事、と言う訳でもない。悪事の証拠が無くなるのは困るが、監視の目があるからか真面目に仕事をしてくれており、政庁内の仕事の処理も早くなっている。
 ただ、証拠が消えると動きが奮わない部署も出るのも当然で。

 「……元から居た機情は?」

 「難儀している様ですね」

 ヴィレッタ・ヌゥも努力しているようだが、政庁の不穏分子の洗い出しには至っていない。これは彼女の手腕より、相手の数が多いからだろう。連中が本気で邪魔をしている面もある。兵站部署に危険性を感じたジェレミアが、彼女に協力する形で軍の内部監査をこっそり行い始めている事が、幸いか。

 政治、経済への監査はヴィレッタと機情が進め、軍内部での監査はジェレミアと純血派が進めている。ヴィレッタの背後にはルルーシュが居るし、ジェレミアの背後にはアーニャが付いている。後者は、飽く迄もジェレミアの個人的な行動に過ぎないが――――ま、牽制にはなるだろう。
 そもそも内政など、ベストを尽くしても簡単に良くはならない。ラウンズの仕事は政治じゃないし。

 もう暫くすれば、本国から副総督が派遣されるらしい。
 その人物に期待と言った所だ。

 「……別に私はどーでも良いけどね。エリア11が衛星エリアだろうが矯正エリアだろうが」

 「興味はありませんか?」

 「ない。……と言うより、エリア11に私事を持つと、嫌でも嫌いになっちゃうから。だから考えないようにしてるだけ。余計なことを考えるとランスロットに支障が出るし」

 マリエルは、自分は、技術者で科学者で整備士だ。そう言い聞かせている。父レナルドが設計し、師ロイドが形に直し、そして自分が組み立て、独自のシステムを盛り込んだ息子ランスロットだけを見ていたい。見ていないと、色々と渦巻く心に囚われてしまう。
 感情の向ける先を変えてはいけない。全力で完璧に仕上げる。それが、機体の命を預かる整備員の義務だ。乗り手が日本人だろうと、ここがエリア11だろうと、ナイトメアに関わる根幹を変える人間は特派には居ない。マリエルも、ロイドも、……多分セシルも。

 「……そう言えば、GXの方は?」

 「ん、ああ。それなら――――えっと、こっちに」

 マリエルの心境を読み取ったのか、モニカは話題を変えてくれた。
 貴族や権力者の中には、他人の都合をお構いなしに言動を奮う人間が居るが、ラウンズはそう言う人間とは無縁だ。変態だったり変人だったり奇人だったり魔人だったり人外だったり、色々普通ではないが、基本的に一本芯が通った人間である。芯の通り具合がアレな事は否定しがたいが。

 そんな事を思いながら、資料を引っ張り出す。
 特派には基本的に研究馬鹿しかいない。幸い、整理整頓や、数字を扱う細かい仕事は、得意なセシルが全てやってくれている。一番地味かもしれないが、彼女がいなければ特派は首が絞まって動けなくなる、其れ位の雑務を引き受けてくれているのだ。
 今も、直ぐに見つかる場所に中間報告書が置いてあった。

 「えっとですねえ。まあ、外装の比較と基本構造、破損パーツからの予想くらいしか終わってないんですが……」

 カサリ、と引っ張り出した紙を読みながら、彼女は言う。
 舐めるような、睨むような、兎に角真剣な態度だった。

 「……“予想通り”です」

 「……そう」

 答えを聞いて、肩を落としてモニカは大きく息を吐く。
 GX量産型が敵側にあるとサイタマで分かった時から懸念していた事だが、やっぱりだったか。

 「不味いね」

 「ええ、危ないですよ。今直ぐに危ない訳ではなく、この機体が相手方に多くあるならば、ですが」

 互いに頷きあって、マリエルは書類を仕舞い込む。
 何がどう危険なのか。それは、彼女達だけが分かっていれば良い事だった。

 「取りあえず、ルルーシュが帰ってきたら話をしましょう。時間はありそうです」

 「うん。……あ、そうだ。訊ね忘れてたけど、三人は今、何処に?」

 「デートに出かけました。マオは護衛です」

 ルルーシュとアーニャは、交際している訳ではない。

 アーニャが、ルルーシュの宿題に答えを出した「ご褒美」として、『じゃあ休みの日に一緒に遊びに行って?』とお願いしたのだ。年下の少女に弱いルルーシュが、そのお願いに抗せる筈もなかった。
 ただ、全部が全部アーニャの力だった訳ではなく、モニカの助力もあった。だからマオも一緒に、護衛と言う名目でくっついて行ったという訳だ。
 あれでルルーシュは、当然の如く競争率が高いのである。……まあ、マオの場合は、ルルーシュよりも、ルルーシュに御執着の魔女の方が気になっているから、なのだが。

 「……場所を聞いたんだけど」

 「あ、そうでしたか」

 それは失礼、と天然なのか業となのか、今一良く分からない態度で誤魔化された。
 科学者の質問に、帝国十二番目の剣は、怪しい笑みを浮かべて軽い口調で語る。

 「ナリタですよ」

 …………。
 ……………………なにそれ。

 「……本当にデート?」

 マリエルの質問に、モニカは笑顔で誤魔化して答えなかった。




     ●




 「良い天気だ。絶好の行楽日和だな」

 「うん」

 さんさんと降り注ぐ太陽と、爽やかに広がる青空を見て、ルルーシュは隣のアーニャに言った。

 騎士服ではなく私服。タンクトップと短いズボンの、おへそを出した可愛い恰好をしている。それでいて活発さは失っていない。普段は纏めてある髪型も、少し梳かしてバレッタで止めていた。
 しっかりとおめかしをした、気合いの入った姿だ。

 「可愛いぞ? アーニャ」

 「……ん」

 ありがと、と恥ずかしそうに彼女は返した。なんとなく、彼女の態度が夢見る乙女チックになっているのは気のせいではないだろう。髪だけでなく、空気も頬も桃色だ。初々しいという表現がぴったり合う。

 対するルルーシュも、意外と気合いを入れている。顔を覆う帽子に加えて、服装自体は色合いも地味だ。だが、腕時計や宝飾品の使い方が良いし、しかも高級品。何を着ても様になるから美形はお得である。

 人気が多い。緑の自然に包まれたこの土地は、租界で得た日々の疲れを癒すスポットとして人種に問わず大人気である。含まれるフィトンチッドは、ルルーシュにもアーニャにも有り難い。

 「ルルーシュ。アイス食べたい」

 「ああ。買おうか」

 本日、ルルーシュとアーニャは、二人で仲良くお出かけ。有体に言ってしまえば、デートである。
 最も、ルルーシュの頭の中にデートという単語があるかは別だ。
 アーニャはデートを希望しているが、ルルーシュは可愛い後輩と出かけているとしか思っていない、かもしれない。

 「……これ、僕が居て良いのかなあ」

 二人の後ろで、同じく私服のマオが小さく呟いたそうな。
 彼女の頭の中には、馬に蹴られてなんとやら、という言葉が連想されていた。




 ラウンズ内における恋愛は、注意と言う扱いになっている。

 ラウンズは皇帝の騎士であり、何よりも皇帝の意向に従わなくてはならない。だから皇帝よりも何かを優先してはいけないし、許されないのだ。……ただ当の皇帝シャルル自身が前例を破ってしまった部分があるし、今時の流行に即して、古来ほど厳しく制限されている訳ではない。

 が――それでも、恋愛には注意するように言われている。
 立場上、「何時」「誰に」「何処で」狙われるか分からないし危険も多い。時間も不規則。恨みから身内が巻き込まれる可能性もある。誰かと恋愛関係になるなら、それを見越して覚悟の上で行えと言う事だ。

 権力的には優れていても、一人の人間として異性と付き合うには、むしろラウンズの立場は邪魔なのだ。

 ただ、例外もある。
 皇族の誰かとラウンズの間に関係が構築されて、皇帝がそれを許して晴れて結ばれた、という事例は数少ないが存在する。また、男女ともに帝国内で似通った地位に居た為、結婚したり籍を入れたりしても、不都合は増えないという事例もある。

 総じて言えば「伴侶が自身を守れる権力者」ならば、大体成功するのだ。
 それは、つまり。

 ――――私がルルーシュをゲットしても、大丈夫。

 そう言う事だ。

 この際だ。正直に、はっきりと言おう。
 アーニャ・アールストレイムは、ルルーシュの事が好きである。家族や兄妹のような、ではなく、はっきりと好きである。ブリタニア語で言えば、Loveだ。

 幼い頃からルルーシュの周囲には、女っ気が有った。マリアンヌに魅かれて集まった人々は、軍人も多かったが、女性も多かった。まず魔女。次に《閃光の弟子》であるコーネリア、ノネット、ベアトリスの三人。コーネリアに付いて来たユーフェミアと、公爵家のミレイ。そして当のアーニャ。ナナリー達家族を除いても、ルルーシュの周りには美女、美少女が見事に揃っていた。

 勿論、今でも彼女達とルルーシュの関係は良好だが、関係は違う。《閃光の弟子》達は当然のことながらLikeであって、可愛い弟分という扱い。その一方で、今でもミレイはさり気なく想いを寄せていたりもする。ユーフェミアは……ちょっと分からないが、Love寄りなのは間違いない。
 アーニャも同じだ。愛している、という重い言葉までは“まだ”言えないが。

 ――――意外と、狙いが激しいし。

 ラウンズ、美男子で、母が元帥で、皇族とも覚えがある。ちょっとシスコンとマザコンの気があるが、女性には優しいし家庭的でもある。血筋だけで言えば庶子だが、むしろ家に取り込んで箔を付けるには丁度良い。ともなれば、ルルーシュの元に女を送り込む動きが多いのは当たり前だ。

 都合の悪いことに、過去のルルーシュはミレイと許嫁になってしまっていたが、今では解消されてしまっている。毎月毎月、ルルーシュの所に『一度お会いして頂きたい』という連絡がかなり来る。当のルルーシュが辟易する程だ。
 つまり、誰がルルーシュの隣を射止めるのか、実は水面下では熾烈な争いが繰り広げられている。
 因みに目下の所、最も彼に近い位置にいるのはC.C.だろう。

 ――――C.C.には、勝てないけど。

 あの魔女には勝てない。ちょっとでもルルーシュの事を知れば、あるいは見れば分かる。距離感が他の誰よりも曖昧なくせに、繋がりが異常に強い。付かず離れず、けれども魔女はルルーシュの事を決して見逃さない。そばにいる、という言葉が彼女ほどに会う存在もいるまい。
 幸いなのは、二人の間にあるのは恋愛関係ではない事か。ルルーシュの隣にいる点で、あの魔女に勝つ事は出来ない。だが、間違っても恋愛には発展しない。二人の間にある物は、彼らの言葉を借りるならば『共犯者』だからだ。
 そう、つまり。つまりだ。

 ――――正妻の座は、狙える……!

 無表情な顔の中で、キラン、と目を光らせる。
 アーニャの場合は、年齢的、あるいは今迄の関係的にちょっと不利な気もするが、夢を見るのは本人の自由だ。以前、マリアンヌに話したら『頑張んなさい』と笑顔で言われた。あの反応を見るに、アーニャがゲットしても笑って受け入れるだろう。
 そして多分、魔女も色々煩い事は言うまい。例えルルーシュに本妻が居ようが愛人が増えようが、己の立ち位置を譲らせないからだ。逆に一緒に他の女性陣と、ルルーシュを弄り倒す方に行く。

 ――――その為には、下準備。

 少しずつで良いから、仲良くなっていこう。
 こういう平日で、少しでも良いから距離を詰めるのだ。別に今日一日でルルーシュを押し倒す所まで行く気はない。そういうのは、もっと育ってからだ。
 しかし態々、ルルーシュを遠くから見ていて、鳶に油揚げを攫われるのも嫌だった。攻撃に出るときは本気で攻撃する。強引でも押す。それがアーニャのスタイルだ。恋愛でもKMFでも同じだった。
 まずはとりあえず。

 「ルルーシュ、手、繋いで」

 「ああ。人混みだし、はぐれても不味いか」

 アーニャの企みを知ってか知らずか、仕方ないな、という態度でルルーシュは手を差し出した。
 掌を握って、白魚の様な、アーニャよりも細くて綺麗な指と絡める。その動きに、一瞬だけルルーシュの手が固まったようだったが、直ぐに戻って平然と歩き始めた。
 本当は腕を組みたいのだが、アーニャはまだ背が足りない。だから手で我慢だ。

 「何処か行きたい場所は?」

 「……じゃあ。……写真を撮れる場所」

 アーニャは記録を残す事に拘りを持つ。彼女の昔からの癖だ。

 「そうか。それなら展望台に行こう。丁度良い距離にある」

 道際に立っていた案内表示を眺めてルルーシュが言う。
 簡略化されたナリタの地図に載っているのは、大雑把な歩道と車道。観光名所と行き方だ。数人掛けのロープウェイに乗って、上まで行けば展望台。そう地図には書いてあった。

 「歩いていこうか?」

 「……ううん。乗る」

 二人きりで散歩も魅力的だったが、ルルーシュが山頂まで到達できる体力を持っているとは思えない。かくしてアーニャは、十数分の間、想い人と二人きりで個室という、若い乙女には十分に魅力的な体験をする事になった。
 無表情の裏で、アーニャが心で飛び跳ねていた事は、言うまでもない。






 因みに、そんな二人の様子を見ていたマオは、自分の場違いさと立場に、仄かな虚しさと呆れを抱えて、肩を軽く落として個人行動に移していた。頭を小さく振って、『なんで僕はこんなとこに来ちゃったんだろう……』と自らの境遇を嘆きつつ、一人で雑踏に消えて行った。

 別に護衛を放り投げたのではない。周囲の様子で気になる事があったのだ。

 その後、彼女が本気で洒落にならない事件に巻き込まれるのは、また次の話。






 「ルルーシュ。楽しい?」

 「ああ。楽しいぞ。気分転換にはちょうど良いしな」

 成田山の頂上へ向かうリフトの中。傍らのアーニャに言われてルルーシュは頷いた。これは本当だ。客観的に見てもかなり可愛い知人と行動していて、楽しくない訳がない。
 横に座ったアーニャは、顔にこそ内心を出していないが、何時もより浮かれている。ルルーシュとしても連れて来た甲斐があったと言う物だ。

 懐から双眼鏡を取り出す。かなりの高級品だ。老舗のメーカーのハンドメイド。ルルーシュは、こういう実用的な品には気前よく金を払う。それを手に、ルルーシュは少し遠くの成田の斜面を見た。
 数キロ先。緑に覆われた山肌の所々に覗く土。その肌色の中に、ルルーシュは微かな車輪の跡を捉える。軍のKMFではない。車幅や数からすれば、ほぼ間違いなく『日本解放戦線』の活動後だ。

 ――――いる、な。

 それだけを確認して、双眼鏡を外す。昼間の内から行動をしはしないだろう。ルルーシュが気真面目に働くタイプと言っても、この状況で無駄に調べる気は無い。テロリストが確かに動いている事さえ確認できれば、今日の所は御の字だった。
 ガタ、とリフトが軋む。降車までもう少しか。

 「ジェレミア達に、仕事を全部任せて来てしまったのは、少し不味かったか?」

 「大丈夫。……ジェレミアだし」

 「そうだな」

 貴族からの軍人は、決して肉体ばかりではない。ブリタニアにおいては、頭脳も相応の成績を残さなければ上には立てないのだ。頼んだ仕事なら確実に実行できるのがジェレミアと言う男だった。

 自分の見た物を誤魔化す様に微笑んで、ルルーシュは立ち上がる。
 個室から降りると、灰色の駅だ。緑は豊かだが、余り資金が無いのか、建物自体は割と古びている。きっと戦前から続けて使っているのだろう。平日と言う事もあって、見える範囲での人は少ない。

 「ルルーシュ。手、もう一回」

 「ああ。良いぞ」

 手を繋いだまま展望台に向かう。人混みも随分と解消されていたが――ルルーシュも又、アーニャの手を放す気はなかった。何と言うのだろう。ルルーシュの無意識の癖のようなものだろうか。

 愛する妹達の手を話した過去の経験が、今でもルルーシュを縛り付けている。不安なのだ。繋ぎとめておかないと、何処かに行ってしまいそうで。
 “あの時”、手を話した妹が、如何なったのかを知っているからかもしれない。

 「…………」

 自然と口を閉じてしまったルルーシュをみて、アーニャは何も言わず――――否、何も言えなかった。
 幼馴染の立場は伊達ではない。
 ルルーシュが何を考えているかは、曖昧では有るが読み取れる。ナナリーほどに鋭敏ではないが。
 アーニャとて、過去に何が有ったかは知っている。それこそ人並み以上に良く知っている。事件の渦中に居たと言って良いレベルで、関わっていたのだから。

 言葉を話さず、二人は展望台を昇り切った。

 「……良い風だな」

 「うん」

 木造の展望台に出ると成田の山が目に入った。
 日本の山は険しいが美しい。島国で、大陸プレートの重なる位置にあるからだろう。本国より小さな土地に多くの山が密度濃く広がっている。成田連山もそんな一つだ。
 外から攻めにくく、守り易い。地の利は当然あちらにある。水質資源が豊富で、昔からある山だ。抜け道もブリタニアでは読み切れない。職業軍人としての性に億劫さを感じながらも、ルルーシュは相手方の思考をなぞる事を止められなかった。
 ラウンズは、好むと好まざるとに関わらず、人殺しの天才だ。

 ――――自分も、な。

 自嘲して、空気を吸い込み、大きく吐き出す。

 「こうして景色を見ているとな。結局、世界が変わったのではなく、自分が変わったんだと、そう思うよ。……何時でもどこでも、世界自体は変わらない。きっと」

 「……ルルーシュ。その話、枢木スザクにもした?」

 「なんだ。聞いていたのか?」

 思わず口を付いて出てしまった言葉は、確かに屋上でスザクに話した内容と同じだった。柄でもない。
 これでは、遊びに来たとはとてもではないが言えないではないか。

 「ううん。偶然。……御免」

 人気がない事は確認していたし、ジェレミアに頼んで人払いを命じてはいた。
 生身で会話が聞こえた筈がないのだが、アーニャは別の耳で会話を聞いてしまったのだろう。

 「良いさ。別に。――――日本に来て、暇な日だからかな。普段よりも感傷的だ」

 「……そう」

 ルルーシュは、こう見えて意外と感情的だ。冷徹・冷酷に振舞えるが、決してそれだけではない。むしろ心は繊細だ。その心を、冷酷に変えなければならなかった、だけの話で。

 目を閉じて、少しだけ回想と悔恨に耽るルルーシュを横目に、アーニャは写真を撮る。
 特派特性の携帯端末は、あらゆる意味でアーニャには必要な道具だ。KMFにも、日々の生活にも、あるいはラウンズで割り当てられた仕事にも、全てにおいて。
 彼女の始まりは、自分の妙に断裂する記憶を守る為だったか。

 「……ルルーシュ」

 優に十五分は佇んでいただろう。一頻りの休息の後、アーニャが促した。可愛らしく、手で袖を掴んでいる。移動しようと言う合図だ。

 「ああ、行こうか」

 どうにも、考える時間が有ると余計な事まで考えてしまう。盲目的に動けとは決して言われないが、悩み、一人で抱え込み過ぎるのも悪い事だと、上からしっかり教わっている。
 今度こそ、普通に観光を楽しもう。
 そう決意を新たに立ち上がった時だった。

 「……あれ」

 ふと、展望台に上って来た集団がいた。
 数は四人。年齢は高校生……つまりルルーシュと同じくらい。服はカジュアルで、学校の部活かグループが遊びに来たというのが一番しっくりくる光景だ。それだけならば、別に何と言う事は無かったのだが。

 「え、アレ?」

 先頭に居た、金髪の美女が気付いた。
 とても見覚えのある、顔をしていた。

 「……あ」

 ポツリ、とアーニャも呟く。
 よく見れば、四人組の内、三人は――ルルーシュが見た事のある顔をしていた。租界の中と、新宿ゲットーで。髪の長い少女は絡まれていた所を救ったのだし、陽気そうな男子は、つい先日ゲットーで危機を潜り抜けた学生ではないか。

 そこに居たのは、アッシュフォード学園生徒会メンバーだった。




     ●




 走る列車の中で、皆は楽しく話をしていた。
 回る場所や基礎知識から、生徒会メンバーの話へとシフトしている。

 「でも、残念でしたね、カレンは来れなくって」

 「そうねえ……」

 生徒会のメンバーは、この他にもう一人いた。
 カレン・シュタットフェルト。エリア11で活躍するシュタットフェルト家の御令嬢だ。ミレイのアッシュフォード家よりは弱いにしろ、本国でも結構な人脈を持つ名門である。
 そのもの静かな態度と儚げな容貌もあって、学園では高嶺の花として知られている。

 「やっぱり調子、悪いの? ミレイちゃん」

 カレンは、学校を良く休む。体が弱くて調子を直ぐ崩してしまうのだ。

 学内では良く誤解されるが、ミレイが彼女を生徒会に誘ったのは、別にシュタットフェルト家との繋がりだとかそう言う事ではない。学校を多く休む――――しかも貴族の彼女。彼女は周囲に溶け込めるのか、学生として生活できるのか。そう言う事を心配して、純粋な善意で誘ったのである。
 それが分かったからこそ、カレンも入ってくれたのだ。

 当人は欠席が多い事に引け目を感じているようだが、彼女達が気を悪くする事はなかった。
 ニーナの質問に、いいえ、と彼女は返す。

 「調子は、割と戻っているらしいけど……、なんか、御実家と折り合いが悪いみたいね」

 「そうなんですか? 会長」

 大貴族には庶民には分かり難い問題が多いのだろう。
 まあ、リヴァルもニーナも、平均的な一般家庭かと言われれば微妙に首を傾げるような家だったが。

 「お爺様から聞いた噂だけれどね。カレンからも、私の所に電話があって、少し学校を休ませて下さい、って。体調は良さそうだったけど、声に迷いが有ったわ。心配なんだけどね……」

 カレンからミレイの所に電話があったのは、租界でミーティングをした日から少し経った頃だ。

 かなり深刻に悩んでいるのか、ミレイが家に訊ねて行こうか、あるいは力になってあげようか、と話を持ちかけたのだが、丁寧に断られてしまった。
 カレンは芯が強い。だからミレイとしては不安になるのだ。何か鬱憤を貯め込んで、何処かで破裂してしまわないか。芯が強いという事は、何かの拍子で折れてしまう可能性も高いという事なのだ。
 強いと、固い。そして脆い。それらは表裏一体だ。ミレイは経験で知っていた。

 「空気が良いって聞いて、計画したのに……」

 「そう言わないの、ニーナ。当のカレンも、かなり真剣に謝ってくれてたわ」

 どことなく不満そうなニーナを諌める。
 カレンの中は踏み込めないミレイだが、彼女が多少なりとも生徒会に心を開いてくれている事は分かる。
 電話口で、同行できませんと告げたカレンの声の中には、罪悪感が有った。

 「でも会長、また別のイベント考えましょうか。やっぱり全員いないと、嫌ですし」

 「そうね、リヴァル。ニーナとシャーリーも、また別の計画を話し合いましょう。カレンが出てこれる日に合わせてお祭りをするか、あるいは休日用の、体への負担が少ないプランを立てるか」

 「分かりました」

 少しだけ重くなってしまった空気を払拭する様に、ミレイは敢えて明るく声を上げた。

 「さ、もうチバに着くわ。降りる準備をしましょ」

 ミレイの号令が全員に響いたのとほぼ同時に、車両内にアナウンスが流れた。




 それから十分後。
 車掌と駅員に見送られつつ、荷物を片手に全員が駅から外に出ると、暑い夏の到来を予感させる日差しが降り注いでいた。これは、絶好の観光日和だ。

 「良い天気ですねー」

 「ええ、そうね」

 女子三人に男子一人。しかも女性陣は皆見目麗しい、となるとリヴァルに嫉妬の視線が向けられる物だが、そうはならない。男子が女子を引き連れているというよりは、貴族の子女が友人と召使を連れて遊びに来ているようにしか見えないからだ。ミレイのお陰だ。

 因みに、これは学園でもほぼ同じ認識であり――――リヴァルの性格も相まって、それほど周囲からは羨ましがられていない。リヴァルも自分の境遇を楽しんでいるので、要するに平和と言う事だ。

 「さて、それじゃあ行きましょうか」

 アッシュフォード学園生徒会メンバーの行動コースは、安全性と快適性を重視した物だ。というか、ナンバーズへ過剰な拒否感を持つニーナは、そうしないと中々首を縦に振らなかった。まあ、これはニーナの悪い部分なのだが、その“背景”を考えれば無理もない事なので、仕方がない。

 駅の出口に向かうと、高級そうな車が停車していた。予め手配しておいたアッシュフォードの車だ。車の脇には、黒服に身を包んだ隙のない男が立っている。彼は、出てきたミレイ達を見て。

 「お待ちしておりました」

 静かに頭を下げた。

 「ええ。安全運転で宜しく」

 「お任せ下さい、お嬢様」

 ミレイのそんなやり取りに、彼女はやっぱり貴族なんだなと一同が感心する。

 ナリタ周辺にはハイキングやトレッキングも行えるよう道路が整備されていて、自分の足で回れる。だが、計画の立案時『歩き続けるのはカレンには大変だろう』と却下され『じゃあ車で回るのが基本』と言うことになった。しかし疎開からずっと車で動くのも良くない。それでは旅行にならないのだ。だからチバまでは列車で動き、名所間の道中は車で回り、名所は自分の足で見て来る。そう決まっていた。

 なんか妙に無駄な出費をしている気がするが、浪費癖はミレイのみならずアッシュフォードの悪癖みたいなものだ。財布の口は緩くて気前が良い、とも言える。それで助かっている人も結構多いから、まあどっちもどっちだった。
 楽しめれば、それで良いのである。

 「私の家で、昔から働いてくれているヴォルグさん。今日の運転手をお願いしたわ」

 有難う、お世話に成ります。……等々。ミレイの言葉に、三者三様の言葉が運転手へ返る。ヴォルグは静かに微笑んで、主の友人三人に礼をして車へ促した。

 「では。お乗りください」

 荷物をトランクに仕舞った後、運転席へと乗り込む。席に座った彼の首筋には火傷の痕が見えた。
 アッシュフォードの家に仕えているのだ。きっと色々、彼の過去にもあったのだろう。

 「お嬢様。どちらに?」

 「展望台までお願い。折角、自然が豊かな山の麓に来たんだもの。景色と自然を楽しみたいわ」

 ミレイの言葉は、むしろ自然を満喫しに来た人間ならば、至極当然の話。

 「畏まりました。……では、出発致します」




 そう、だから。

 だから彼らと、二人の騎士が遭遇したのは、ある種の必然だったのかもしれない。








 「あの、会長。お知り合いで……?」

 思わず、停止してしまった美人生徒会長の様子を見て、リヴァルは恐る恐る、質問をした。
 目の前にいる男性……いや、年齢的には自分と同じ位の男子。見るからに貴族然とした態度の青年は、傍らに可愛らしい少女を伴っている。どちらも、何処かで見た事が有る様な、無いような、そんな顔だ。
 固まっているのはシャーリーも同じで、小さく『あの時の……』と声に出していた。一体何が有った。
 リヴァルの言葉に、はっと起動したミレイは。

 「ええ。――此方は」

 そう言って、二人を紹介する。

 「アラン」

 だが、ミレイが名乗るよりも早く、青年が口を開いた。
 穏やかに笑うその姿は、確かにアッシュフォードの知り合いでも全くおかしくは無い。

 「アラン・スペイサー。……なに、ただのミレイの知人だ」




 アラン・スペイサー。
 ……印象だけ言えば、何処にでもある、まるで偽名の様な名前だった。














 用語解説 その16

 ナリタ

 千葉県成田市周囲に存在する山々。
 ブリタニアの認識では『ナリタ』=『日本解放戦線』の本拠地であり、目下最大の駆逐目標である。
 ただ、別に極度に治安が悪い訳ではない。むしろ市街にはブリタニア軍がかなりの数が駐留しており、連山以外の場所の治安は強制的に保たれていると言っても良い。ブリタニア軍の施設や自然を売りにした観光名所も相まって、人間の数はかなり多く、租界程ではないが、かなり賑わっている。
 シャーリー・フェネットの父、ジョゼフはこの地にあるブリタニアの施設で、地質学の研究を行っているらしい。




 登場人物紹介 その16

 アラン・スペイサー

 ルルーシュの偽名の一つ。表向きは貴族スペイサー家の長男となっている。ブリタニアの国籍も(偽造だが)所得しており、この名目で密かに行動する事も多い。
 謀殺された貴族の名前を、ギネヴィアを通じて買い取ったらしい。本物のアランはルルーシュと似ても似つかない放蕩者で、友人や部下もいないか、あるいは一緒に始末されたそうだ。
 アニメ第一期で、ヴィレッタに対して名乗り、KMFを奪っていた。












 アッシュフォード学園生徒会との交流フラグが立ちました。
 お久しぶりです。スランプと、最近、色々と忙しい為、中々更新出来ませんでした。去年までのスピードが懐かしく思えます。でも、完結はさせるので、長い目で見守っていて下さい。

 次回は……シャーリーへのフラグ、マオのピンチ、そして『零』の重要な動き、な予定です。
 なるべく早くお届けしたいと思います。

 (8月18日・投稿)


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