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No.19301の一覧
[0] コードギアス  円卓のルルーシュ 【長編 本編再構成】[宿木](2011/04/27 20:19)
[1] コードギアス  円卓のルルーシュ 序・中[宿木](2010/06/05 21:32)
[2] コードギアス  円卓のルルーシュ 序・下[宿木](2010/06/12 19:04)
[3] 第一章『エリア11』篇 その①[宿木](2011/03/01 14:40)
[4] 第一章『エリア11』篇 その②[宿木](2011/03/01 14:40)
[5] 第一章『エリア11』篇 その③[宿木](2011/05/05 00:21)
[6] 第一章『エリア11』篇 その④[宿木](2011/04/27 15:17)
[7] 第一章『エリア11』篇 その⑤[宿木](2011/05/02 00:22)
[8] 第一章『エリア11』篇 その⑥[宿木](2011/05/05 00:50)
[9] 第一章『エリア11』篇 その⑦[宿木](2011/05/09 00:43)
[10] 第一章『エリア11』篇 その⑧(上)[宿木](2011/05/11 23:41)
[11] 第一章『エリア11』篇 その⑧(下)[宿木](2011/05/15 15:50)
[12] 第一章『エリア11』篇 その⑨[宿木](2011/05/21 21:21)
[13] 第一章『エリア11』篇 その⑩[宿木](2011/05/30 01:50)
[14] 第一章『エリア11』篇 その⑪[宿木](2011/06/04 14:42)
[15] 第一章『エリア11』篇 その⑫(上)[宿木](2011/08/18 22:10)
[16] 第一章『エリア11』篇 その⑫(下)[宿木](2011/11/21 23:58)
[17] 第一章『エリア11』篇 その⑬[宿木](2012/06/04 22:47)
[18] 第一章『エリア11』篇 その⑭[宿木](2012/08/18 02:43)
[19] 第一章『エリア11』編 その⑮[宿木](2012/10/28 22:25)
[20] 第一章『エリア11』編 その⑯(NEW!!)[宿木](2012/10/28 22:35)
[21] おまけ KMF及び機体解説[宿木](2011/05/21 22:55)
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[19301] 第一章『エリア11』篇 その⑩
Name: 宿木◆442ac105 ID:21a4a538 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/30 01:50
 『スザク君。それじゃあ、やってくれる?』

 「はい」

 サイタマゲットーの外れ。特派が待機する旧大宮駅近くの空き地に、スザクはいる。
 既にゲットーでの戦闘は終結し、後始末に追われていた。治安維持は純血派が、書類仕事は政庁が担当することになったそうで、今もゲットー内には帝国のKMFが走りまわっている。

 それを遠く横目に見ながら、スザクは自分の仕事をする。セシルからの指示でランスロットを動かす。目の前に鎮座するのは鹵獲した敵機体。これからパイロットブロックを力ずくで引っ張り出すのだ。

 通常、KMFのパイロットブロックは緊急時に射出される仕組みになっている。場合によっては作動しなかったり、作動しても飛び出した先が悪かったり、と確実な生を保証する物ではないのだが、脱出機能が付いていることは確かだ(因みに、ランスロットには付いていない)。パイロットブロックは機体の背面に、長方形で収納されている。乗り降りは基本的に、乗っている本人が行うのだが、機体に問題があるときに備えて、外部からでも強制イジェクトができる。
 相手が下りようとしない時にも、使えるという事だ。

 『分かってるとは思うけど、気を付けてね?』

 「はい」

 頷いて、ゆっくりと鹵獲機体――――GX量産機に、近寄った。
 鹵獲した際、相手の乗員には、『投降しろ、出ないならば強制的に出す』と伝えてある。通信機が壊れた様子はない。だから言葉は聞こえた筈だったが、返ってきたのは不気味なほどに静かな沈黙だけだった。その後も何回か声をかけたが、全て徒労に終わり、結局、強引に、という結論になったのである。

 相手は動かない。両手両足の関節部を壊してあるから当たり前だが、ファクトスフィアも腰も動いていない。何をしてくるか分からない状態だ。念の為、ロイド、セシル、マリエル。そして意気軒昂と戦場から帰還したモニカ・クルシェフスキー。全員、トレーラーの中で様子を見ている。

 「……行きます」

 動かない相手に近寄って、腕を伸ばす。ガチャとロックを外して、ブロックを外に引っ張り出した。
 正確には、引っ張り出そうと、した。

 「!」

 瞬間。




 ――――ドン! と音を立てて、機体は盛大に爆発した。




 「……っ!」

 警戒をしていなければ、きっと損傷していただろう。ランスロットの胴体と右手首は、鎧と手甲のように展開されたブレイズルミナスに覆われて無事だ。
 巻き上げられた機械の破片が、黒煙を裂いてパラパラと降りかかる。地面に、ゴトリと落ちたブロックは黒く焦げ、中の人間は確認するまでもなく生きてはいない。予め自爆を予想して、空き地で注意して作業していたから、周囲の誰にも被害は出ていなかった。

 『……予想通り、かな』

 『エル。あの解析、お願いね』

 『あー、枢木准尉? もうこれ以上爆発しないだろうから、その量産機、ハンガーに入れてくれる?』

 『ちょ、ロイドさん……』

 少しだけ寂寥感を含んだマリエルの呟きも、淡々としているラウンズの指示も、普通に作業続行を支持するロイドの言葉も、咎めるようなセシルの声も、少しだけ遠い。

 (……いや、被害は有った。日本人が、一人)

 一瞬、誰も傷ついていないと、そう思ってしまった己を諌める。
 自爆だった。






 コードギアス 円卓のルルーシュ 第一章『エリア11』編 その⑩






 モニカが執務室に戻ってきたのは、もうお昼をかなり過ぎた頃だった。

 色々な意味で悲惨な状態になってしまったGX量産機の解析を、お願いねと特派に頼んだ、までは良い。その後、ランスロットのデータ整理と機体整備で追われていた彼らに、愛機ベティウィアの調整までも頼んだのが――――悪かった。

 『私はランスロットをやる。セシルはデータ整理と書類仕事をやる。ロイドさんはGXの解析をする。私達は、超忙しいの、モニカ。……OS《エネヴァク》の調整をやって欲しいなら、愛機くらいは自分でやってってくれない? 道具は使って良いから』

 自分を掴む親友の笑顔は、実にイイ笑顔だった。思わず寒気を感じたほどだ。仕方なく愛機と主武装を自力で調整していたら、あっという間に時間は経っていた。いくらモニカが親友で、マニュアル整備が可能なスキル持ちとはいってもだ。ラウンズに機械弄りをさせる辺り、マリエル・ラビエも変人だ。
 まあ、そういう遠慮のなさが、彼女を好む理由の一つなのだけども。

 「お腹、空きましたね……」

 朝、携帯食を口に入れただけで、何も食べていない。戦場を走りまわっていたお陰でぺこぺこだ。

 作業の途中でセシルが気を利かせて昼食をくれたが、これは丁重にお断りしておいた。彼女の料理の腕は十分に聞いている。彼女の腕を知らなかったらしい枢木スザクが、手渡された料理を一口食べた後に、それまでの笑みを凍らせたのをみて、正解だと悟った。
 差し出された料理は、何の変哲もないライスボウル。ただ、中にはブルーベリー。温かいお米にブルーベリージャムは、想像するだけで不釣り合いだ。もう少し味付けを考えて欲しい。例えばそう。砂糖で甘めにして、牛乳と一緒に煮込む……とか。いやいや、そうじゃない。

 「……お腹、好きました」

 もう一度、呟く。空腹の為か、米を使った料理レシピを頭の中に浮かべながら、モニカは部屋に入った。取りあえず、服を着替えてご飯を食べよう。近場の何処か、美味しそうな店で。

 執務室は、元々ルルーシュが与えられた部屋だ。三人で三室使うのも効率が悪い、とモニカとアーニャも一緒に利用している。既に「溜まり場」のような空気で、堅苦しい政庁の執務室の実感は少ない。

 「……おかえり」

 「ええ。ただいま、です」

 部屋の中には、アーニャが一人。なにやら難しい顔をしてパソコンの画面に向かっていた。
 モニカは取りあえず、壁のハンガーにマントを懸け、堅苦しい恰好から逃れる。防弾・防刃使用のマントは、実は意外と重いのだ。女子は、前にも後ろにも重りを抱えているから、肩がこる。

 「あ、今日はジェレミア達と一緒じゃないんですね」

 「……飽きた」

 「あらら」

 両腕を伸ばす。戦闘と整備で、随分と疲労が溜まっていた。今日は良く眠れそうだ。
 考えてみれば、アーニャがエリア11に来訪して、もう一週間だ。その一週間の間、ずっと純血派と一緒にいるのは流石に辛いだろう。幾ら貴族が多くても、所詮はむさ苦しい男たち。むしろ、よく一週間も頑張って監督出来たと思う。

 「任せたのは、治安維持」

 「サイタマとシンジュクですか?」

 ぐいー、と重い足を延ばしながら訊ねた。

 「そう」

 アーニャと違って、モニカは彼との親交はない。ゲットーで動きを見ていただけだが、かなり巧みな機体操作だった。狙撃をするにしても、かなり真剣に狙い撃たないと倒せないだろう。
 歴戦の猛者になると、モニカが狙い撃つその瞬間に、気配を第六勘で感じ取って回避する、なんてことも行うから困る。ビスマルクとか魔女とか、反則技を使用しているんじゃないだろうか。
 まあ、そんな話はさて置き。

 「政治とか、出来るんです?」

 「……意外と」

 へえ、とモニカは少し感心した。
 優秀な軍人で有能な政治家。どちらか片方ならば、という人間は多くとも、両方をこなせる人間はブリタニアでも少ない。現在は九人いるラウンズでも、精々半分だ。
 アーニャが言うには、ジェレミア・ゴッドバルドは、政治的活動こそカラレスに一歩劣ると言っても、十分実務もこなせる人材らしい。戦闘後の治安維持ならば、大丈夫だろうとのことだった。

 「で、アーニャは何を?」

 さっきから質問ばっかりだなあ、と思いながら訊いてみると、意外な答えが返ってきた。

 「……宿題」

 「宿題? 誰からのですか?」

 「ルルーシュ」

 言葉が少ないアーニャとの会話は、慣れているラウンズでも把握しきれない事があるが……短い単語の、ぶつ切りの会話を繰り返して整理した所、アーニャはルルーシュから宿題を出されているらしい。

 「……難しい」

 「頑張ってください」

 むむむ、と考えている少女を見ると、つい頬が緩む。
 隣室に入った。執務室と個人の私室は隣り合っているのだ。ベッド以外に殆ど使用されていない部屋の、片隅に置いてあったスーツケースから適当な私服を見繕う。取りあえず食事だ。

 「アーニャ。これからご飯を食べに行くんですけど、一緒に行きます?」

 「……お昼は、終わってる」

 民間人の中に紛れ込めそうな、ラフな格好に着替えて執務室に入り直す。
 アーニャは変わらず、焦点の合わない瞳と可愛い眉を一生懸命に顰めて、宿題を考えていた。

 「じゃあ、お茶でも良いですよ。奢ってあげます。……宿題も、手伝ってあげますし」

 「じゃあ、行く」

 宿題を手伝ってくれると聞いて、ちょこん、とアーニャは立ち上がる。PCの画面を落とし、繋いであった端末を引き抜いて懐に入れた。

 無表情に見えるけれども、アーニャはこれで中々、お年頃だ。普段はラウンズとして振舞っているけれども、地は普通の女の子。其れを知っているからか、ラウンズは皆、さり気なくアーニャに手を貸している。あの“いけ好かない”吸血鬼だって……まあ、少しは。

 因みに。アーニャの端末は、メイドイン特派。普通の携帯と比較しても大差ない大きさだが、性能は段違いだ。ラウンズでも特に優秀な機能を搭載していて、通話、写真、メールと言った当然のものから、KMFとの相互リンク、緊急時の自爆機能まで。用途に限って言えば、PCと比較しても遜色ないレベルに仕上がっているのだ。ラウンズは全員、専門の携帯や通信端末を支給されていて、カスタムも自分で好きに(仕事の為、ならば)行える。モニカもしっかり、肌身離さず懐にしまってあった。

 「何か食べたい物、あります?」

 ラウンズの騎士服は、基本的に仕事服だ。私事の時まで身につける必要はない。面倒だ、という理由で服を選ばない馬鹿野郎も、実はいたりするのだが、まあそれはそれ。
 ジーンズにTシャツ、変装用の伊達眼鏡のモニカは、ワンピースルックになったアーニャを見た。

 「……苺パフェ」

 「良いですねー。それじゃあ、行きましょう」

 実に、小さな女の子らしい返答を聞いて、頬を緩める。
 電子ロックの執務室に鍵を懸けて、二人は仲良く、連れ添って歩きだした。




     ●




 その日、紅月カレンは珍しくも悩んでいた。


 別に、常の如くエネルギッシュな生徒会長から無理難題を押し付けられたとか、そういう訳ではない。というか、それはカレン・シュタットフェルトの悩みであって、紅月カレンである時は考えないようにしている話題だ。あの学園は楽しい。テロリストとして活動をし、日本人として生きるか死ぬかの淵に立たされている自分でも感じてしまうくらいに、楽しいのだ。

 だからカレンは極力、アッシュフォード学園生徒会のカレン・シュタットフェルトである事実を、心に封じている。そうでなければ、兄や仲間を見捨てて、あの場所に入り浸ってしまいそうになる。日本人である矜持が、何処かに消えてしまいそうになるからだ。
 実を言えば、兄は、カレンにそれでも構わない、そう言ってくれていた。

 『カレン。お前は選ぼうと思えば、何時だってテロ活動なんか止められるんだ』

 むしろ将来を考えるのならば、その方がずっと良いに決まっている。
 けれども、カレンはそれを断った。日本人とブリタニア人という、二つの血が混ざった己は――――結局、前者を取った。生まれ育った記憶は、自分を日本人と見ていたし……それに、兄は日本人のままだ。

 何を考えたのかは知らないが、母は名誉ブリタニア人になっている。まあ、あの女のことは置いておくにしてもだ。どっちにしろ自分は、一人だけが与えられた特権を行使する性格ではない。

 だからカレンは、テロ活動に勤しんでいる。時にはアッシュフォードの情報網とシュタットフェルトと言う家柄を利用し、時にはKMFで出撃し、時には銃を持って戦い、時には――人を殺めている。

 (……人殺し、か)

 最近、どうにも調子が狂う。
 自分のしている事に悩みを持っている訳ではない。だが、気分がどうにも優れない。
 あの『シンジュク事変』の前。通行人を虐めていたブリタニア人を止めようとした時に、出会った男。
 シンジュクゲットーで遭遇した、帝国最強の騎士。ラウンズの五番目の剣。
 ルルーシュ・ランペルージと言う男に出会って以降、妙に――――気分がすっきりしない。

 見逃されている、からだろうか。

 シンジュクの後、兄の頼みで裏方役に回り、危険を承知で租界に顔を出しても、何も起きなかった。軍人が待ち構えているならば、逃げるか、いっそ相討ちに持ち込んでやろうと意気込んでいたくらいだったのに、拍子抜けするほど、何も無かった。
 いや、あるにはあったか。

 『カレン。……ル、じゃなかった。ランペルージ卿が、前のお礼を兼ねて、貴方の家に顔を出したいって。……えっと、分かる?』

 彼女にしても随分と意外な申し出だったのだろう。事情は知らない筈のミレイから、そう言葉を聞いて確信した。あのルルーシュと言う男は、間違いない。自分を見逃している。
 最初に出会った時が、アッシュフォードの学生としてだった。そこから辿ればカレンを捉えるのは容易だ。しかし、あの男はそれをしなかった。ということはきっと……何か、企んでいるのだ。

 『その話は、俺が皆に上手に伝えておく。――――お前に態々、遭いに行くと伝えたって事は、直ぐに捕まえようとしないってことだ、と思う。多分な。……ランペルージ卿は人格者で有名だし、まさか本邸で乱暴な真似は働かないだろう。向こうも何か考えが有るはずだ』

 兄に相談した所、そう言われた。
 どちらにせよ、カレンに取れる手段はない。殆ど全ての情報を、相手に握られているに等しいからだ。……会長には、租界で偶然出会いました、と誤魔化しておいた。これは別に嘘じゃない。

 あのいけ好かない男を、嫌でも意識せざるを得ないというのが、一つ目の悩みだ。






 日本人の抵抗活動は、ここ一週間で様変わりした。

 ラウンズが来てから、租界周辺のテロ活動は一気に縮小傾向にある。
 なにせ相手は帝国最強の騎士だ。相手の示威行為に見事に嵌っているのだろうが、ネームバリューとは恐ろしい物で、活動を見合わせる組織がかなり多い。

 方法も上手だった。例えば、サイタマゲットーの攻略戦を行う前に、ラウンズはまずメディアを通じて住民に避難を呼び掛けていた。次に、無抵抗の場合は攻撃をしないとも宣誓した。……Hi-TVエリア11支局を利用されて行われた宣誓の通り、サイタマにおける民間人の被害者はゼロだった。それでいて、『ヤマト同盟』は壊滅だ。
 これで、相手を恐れない方がおかしい。逆らわなければ被害に遭わない。そう意識するだけで、抵抗活動を行う気概は減るからだ。幸いにも兄は『相手が強いことは承知の上だ』と、特に恐れてはいない。しかし、兄は兄で何かを考えている。

 それが、カレンを悩ませる二つ目の問題だった。

 『……あー。皆、集まって貰ったのは他でもない。率直な意見が欲しい。――――『紅月グループ』は、このままで良いかどうか、だ』

 シンジュクでの一件が終わって、暫く立った時に、兄はメンバーを集めてそう言った。

 『実は。……先のシンジュクでの手並みを見て、是非とも俺達に加わって欲しい、とスカウトを呼び掛けてきた組織が有る。……『日本解放戦線』、と名乗ってはいた』

 凄えじゃねえか、とその一言で湧きあがったのは、玉城だけだった。
 兄の煮え切っていない口調と、勿体ぶった言い方に、誰もが次の言葉を待っていた。

 『だが、本当に『日本解放戦線』なのかどうかは分からない。……電話の相手は、サイタマでの騒動を予期していた節がある。なんらかの形で、エリア11の同胞と関係がある相手であるのは間違いないんだが――――敵か味方か、それがはっきりしない。はっきりしない以上、早計には飛び付けない』

 事情を飲みこんだ玉城が、じゃあどうするんだよ、と相変わらずの変り身の早さで言うと、それだが、と兄は全員に言った。

 『今度、……俺は、そいつに会いに行くことになった。罠の可能性もある。だから、扇は残していく。他に同行したい者があれば、言って欲しい。何人かは連れていけると思う』

 勿論、カレンは志願をした。仲間内で最も運動能力に優れるカレンならば、邪魔にはならない。いざという時の護衛も兼ねている。だが正直、展望は見えないと言っても良い。
 それにだ。相手に会いに行くことは、余り不満はない。だが、兄がリーダーを務めてきた『紅月グループ』が、他の組織と一緒になって消えて行く事。それは少し……嫌だ。
 子供じみていることは自覚している。けれども、言ってしまえばグループは、これまでのカレン達の歴史で足跡だ。合流しなければ消えてしまうという、その一歩手前に置かれている状態で、えり好みは出来ない。しかし、やっぱり抵抗がある。

 言ってしまえば、組織を生かすか、中の個人を生かすかだ。兄の指揮ではないと動きたくない、という人もいる。逆に、ブリタニアを倒せるならば何処だって良い、と言う人もいる。カレンは感傷的には前者に近い。出来れば、今の『紅月グループ』を上手に生かす様な、そんな形になってはくれないか、と淡い希望を抱いている。
 抵抗活動の未来も、グループの未来も、どちらも先行きは良くない。しかし抵抗活動を諦めてブリタニアに飼い慣らされる事は、もっと嫌だった。……カレンは母とは違うのだ。

 一見すれば未来が保障されているカレンの、しかし人には言えない未来の問題。それが二つ目の悩みだ。






 そして、三つめ。
 ある意味、一番……厄介な問題が、今、目の前で起きている。

 「ルルーシュが宿題を出した時、彼はエリア10の地図を見ていたんですね?」

 「そう」

 「そして、その時、語られていた問題は、エリア10とエリア11間の密輸について」

 「……(こくこく)」

 目の前に座っている二人組の会話が、耳に飛び込んでくる。

 普通の服に身を包んだ女性と少女。金髪碧眼の美女は、クラブハウスサンドを二皿ぺろりと平らげ、桃色の髪の美少女は、はむはむと苺パフェと食べている。頬に付いた生クリームを、置かれていた紙ナプキンで拭ってあげる姿は、一緒にお出かけ中の姉妹のようだが。

 「良いですか、アーニャ。注目するのは、エリア10の農業と社会システムです」

 「……詳しく、お願い」

 どう見てもナイト・オブ・ラウンズでした。

 ……どうしてこうなった。本当に。カレンは、顔に表情を出さず、外を眺めた格好のままだ。しかし内心では、本気で頭を抱えたくなった。何か自分には、ラウンズという存在に縁が有るんじゃないだろうか。

 偶然。そう偶然だ。今日は学校の事情で、午前授業で終わった。普段通り(カレンの場合は、怪しまれないように、だが)生徒会に顔を出した所、ミレイ会長が。

 『良いお天気だし、今日は外でお茶しながら、今度のお祭りについてミーティングしましょ!』

 と言ったのだ。制服姿で集まるのも何なので、各々、一旦自宅か自室に帰って集合。私服に着替えて午後二時半。場所は、リヴァルお勧めの隠れた名喫茶店。正直断ろうか、とも思っていたのだが……寸での所で、それは不味いと思いなおした。
 先の問題がある。ルルーシュ・ランペルージからミレイ会長に、自分の話題が出た。となれば当然、彼女は自分を探るだろう。其処まで行かずとも注目することは間違いない。だったら、極力、怪しまれる行動はとれない。

 ミレイ・アッシュフォードが善人なことは知っている。カレンも色々とお世話になってもいる。生徒会に誘われるとき、ハーフでも全然気にしない、とも言ってくれた。しかし、だからと言って、一緒に反旗を翻してくれはしないだろう。

 『……分かりました。二時半ですね?』

 だから、打ち合わせを了承して、指定された場所に来た。指定時刻よりも一時間も早く。理由は――――ただ単に、あのシュタットフェルトの家に居たくなかったからだ。時間が早いことは承知だった。

 けれども、その行動は裏目に出てしまった。大誤算だ。
 ピーク時も過ぎた筈なのに、狭い店は思った以上に混雑していた。暫くは一人で静かに座っていられたのだが、途中で相席をお願いしますと言われてしまった。……そして、頷いた結果が、これだ。

 たおやかな外見に似合わない、政治の話を、彼女達は続けている。
 大きな声ではないから、他の席の人間には聞こえていない。けれどもカレンは目の前だ。目線こそ外を向いているが、体は向かい合っているに等しい。考え事をしていると嫌でも耳に入って来る。

 「エリア10は元々、複数の国家でした。王位制を確立していた為に、ブリタニアともそこそこ仲が良かったタイとカンボジア。軍事政権による実質支配が行われていたミャンマー。20世紀後半から、ブリタニアとフランスの間にあったベトナム。……寄らば大樹の陰、とさっさと中華と繋がったラオスは置いておきましょう。ともあれ、今言った四つの国家は、ブリタニアとしても支配をしやすい国家体制を持っていました」

 「……うん」

 「つまりそれは、ブリタニアのエリアになった後でも、衛星エリアに早くなれると言う事です。……幸いブリタニアとの戦争は、どの国家も望んでいませんでした。タイ、カンボジアは王族の権威の保証を要求して降伏。ミャンマーはもっと単純で、軍事指導者が向こうから諸手を挙げて降伏しました。――――フランスは、四面楚歌で分が悪い、と最後の仏領インドシナから撤退。これでベトナムも入手しました。……で、エリア10が成立した訳です。約、ええと……10年くらい、昔でしたか」

 「……それで?」

 運ばれてきた、店で一番高いコーヒーを静かに飲みながら、ラウンズの十二番目は、六番目に答える。
 見れば、苺パフェは既に空で、長いスプーンも器に斜めの状態だ。ラウンズ最高の火力を有し、しかもシンジュクで兄の策略を見抜いた人物とは――――その小動物ちっくな様子からは、全く伺えない。
 少しだけ、カレンの悩む要素が増える。

 「エリア10と一纏めにされたことには、メリットとデメリットがあります。ルルーシュの宿題に絡むのは、デメリットの話。……支配前と支配後で、大きな変化が無いという事は――つまりブリタニアの属国に置かれても、一般市民の活動はそれほど変化をしない、という意味と同じですよね? ……軍事政権に支配されていたミャンマーにおいて一般市民は弾圧されていました。経済大国には程遠く、前途有望な発展途上国でしかない。特に、田舎の農民の生活は非常に苦しかった」

 エリア10は、中華連邦・インド軍区とは睨み合いが続いている。軍事的に一番力が強かった旧ミャンマーが、良い具合に牽制になっている格好だ。皮肉にも、過去に軍事国家として脅かしていた周囲の土地を、エリア10となった今、守っていることになる。
 流通や文化交流を初めとして、エリア10の発展は目覚ましい。これははっきりとメリットだろう。だが一方で、其々の国内が抱えていた問題が、エリア全体に広がってもいるのだ。

 そう、モニカ・クルシェフスキーは語って。

 「当時も今も、農民の取れる方法は限定されています。農業を諦めて都会に出るか。あるいは、“農業における効率”を上げるか。後者を選んだ場合の、行える手段を想像してみて下さい。作業効率を上げる。あるいは、もっと単純に“売れる商品”を栽培する」

 「……あ」

 アーニャ・アールストレイムは、ピクリと反応した。傍から聞いているカレンには、どう何が繋がるのかがさっぱり不明だったが、きっと何か彼女なりに悟ったことがあるのだろう。
 思いついたらしい何かを、携帯に素早く打ち込んでいく。

 「私が言えるのは、此処までです。でも、ここまで考えれば、答えはすぐそこですよ。――――さ、お腹も一杯になったし、そろそろ帰りましょうか。……あんまり外をうろついていると、エルとか辺境伯とか、働いている皆に悪いですしね」

 「……うん」

 画面から顔を上げた彼女は、まだ少し名残惜しそうだったが、最後の一言に頷いて立ち上がる。

 クルシェフスキーも、意外とおしゃれに気を使うのか。品の良いバッグから財布を取り出しながら、カレンに一言

 「お騒がせしました」

 そう挨拶して、席を立った。彼女の反応から見れば、多分、カレンの正体には気が付いていない。ルルーシュから自分の事を聞かされている様子もなさそうだ。……もしかしたら見逃されたのかもしれない。けれども、カレンは手出しをする気にはならなかった。

 カレンが小さく頭を下げて見送ると、二人は仲良く並んで、代金を払い、店の外に出て行く。明るい租界の雑踏に紛れて、彼女達の姿はすぐに見えなくなってしまった。
 後に残るのは、まだ時間までもう少しの余裕があるカレンと、空のパフェの器。二枚のお皿と、コーヒーセットだけ。

 先程から今迄。もしもこの場に、『日本解放戦線』とか『大日本蒼天党』のメンバーがいたら、相討ち覚悟で彼女達に危害を加えたのかもしれない。不意打ちには十分だ。けれども、そう。

 そんな気分ではなかった。
 言葉にすれば、それだけになる。

 カレンはブリタニアを憎んでいる。
 けれども、少なくとも――――目の前の苺パフェを、小さな笑顔で美味しそうに頬張る少女と、それを優しく見守る保護者に、銃を向ける事が出来る程、腐ってはいない。もしも行ったら、カレンは自分に絶望するだろう。

 甘いのかもしれない。自分の命一人で、帝国最強の騎士を葬れる。そう言われれば、実行する日本人はいるだろう。けれども……それは間違っている気がするのだ。

 戦場で遭遇すれば敵。戦場で出会う相手に容赦はしない。そして敵には敵の生活が有って人生がある。分かっている。自覚している。だから今日の会合は、目の前に、その事実を突き付けられただけの話だ。改めて自分の立場を思っただけの事。
 そう言い聞かせる。

 「あ、カレン。早かったね、一番?」

 「……え。あ、シャーリー。……御免、少し考え事をしてて」

 集合時間も近くなって、生徒会のメンバーが集まってきた頃になっても、カレンの心は晴れなかった。まるで袋小路ばかりの迷宮に幽閉されたかのようで。


 紅月カレンは、悩んでいる。
 答えは見えない。




     ●




 サイタマゲットーでの事件が終わった、翌日。

 アーニャは妙にむずがゆさを感じて、まどろみから覚醒した。何かが頬を撫でている。人の手より暖かく、ざらりとした湿っている物。いや、撫でているというか、舐めているのか。こそばゆい感触は柔らかく、同時にちくちくとしていて、まるで獣の舌と毛が顔に触れている様な……。

 「……エカテリーナ?」

 本国のアールストレイム邸で、毎朝目覚まし時計の代わりを務める愛猫を思い出す。いや、ここはエリア11だ。彼女が居る訳が無い。考えながら静かに目を開けると、見えたのはサイベリアンではなく、右目の周りだけ妙に色が濃い黒猫だった。
 野良猫ではない。その特徴的な模様に見覚えがある。

 「……アーサー?」

 なんで彼が此処にいるのだろうか。
 猫の名はアーサー。ブリタニア本国で、イルバル宮に住み着いている黒猫だ。別に飼い猫ではないのだが、賢く人懐こいので、皆に可愛がられている。何時の間にか住み着いていて、神出鬼没で、しかも……こちらの言葉を理解している節まであった。
 C.C.やルルーシュは、彼の事情(猫に事情と言うのも変な話だが)を承知しているらしいが、アーニャは知らない。彼女にとっては、アーサーは可愛く頭の良い黒猫だ。

 「……起こしてくれた?」

 「にゃあ」

 呟きに、まるで肯定するように彼は頷いて、ベッドから音もなく飛び降りる。そのまま、とことこと歩いて、器用に部屋から出て行ってしまった。見れば扉は開いている。
 きっと誰かが彼を嗾けたのだ。猫が自力でドアノブを回せるはずもない。モニカだろうか。

 起き上がったアーニャは、中途半端に開いた扉を一旦、しっかりと閉じる。
 身支度を整える。猫柄のパジャマを脱いで、騎士服に。大きな姿見で自分の裸身を見ると、まだまだ子供の体だ。年齢的には、中学生。14歳なのだが、発育は……遅い。アーニャの周りにいる女性陣が、妙にスタイルが良いということもあるのだが――――それでも、同学年と比較しても、低めだろう。

 「…………」

 なんとなく悲しい気分になったが、気を取り直す。

 そういえば本国でマリアンヌ様が言っていた。アーニャの成長が遅めなのは、鍛えている反動だから、らしい。体が完全に出来あがっていない状態で、並みの騎士以上の身体能力を無理に手に入れてしまった。だから体に負担が懸かっていて、ホルモンバランスが良くない……だったか。

 『健康に異常はないわ、アーニャ。……貴方の年齢で、体が“出来過ぎている”のは、喜べないけどね。時間をおけば、ちゃんと女の子らしく発育するから、安心しなさい』

 まあ、今はそれを信じるしかない。
 髪を梳かして纏め、アーニャは部屋を出た。

 向かう先は食堂である。
 当たり前の話だが、ラウンズともなれば食事も簡単ではない。外出したり、あるいはいっそ自炊をして食べる分には良いが、政庁の一室で食事をするとなると面倒だった。服装にも態度にも気を使う。仲間以外の他人の目があるのだ。――因みに、イルバル宮は専属の料理人が居るが、料理好きなメンバーで、ローテーションしてもいる。一番腕が良いのはルルーシュだった。

 食堂に入ると、そのルルーシュが座って食事をとっていた。

 「ああ、おはよう。アーニャ」

 「お早う。……ルルーシュ、何時帰って来たの?」

 「昨日の夜だ。アーサー達と一緒にな」

 口元に小さく笑みを浮かべ、紅茶を静かに飲むルルーシュだが、その目は少し眠そうだ。

 話をする。何でも、サイタマでの異変を聞きつけて、輸送機と補充要員と共に急いで乗り込んだは良い。しかし輸送機の中ででも色々あったのだという。本国の家族と短時間ではあるが話をしたり、合間合間で仮眠をとったりと、多少は気分転換をしていたらしいが……移動は十三時間。体内時間を調節するのも大変だろう。

 椅子に腰をおろしたアーニャは、運ばれてきた朝食を見る。
 クロワッサンとベーコン。卵とサラダ。付け合わせにチーズと、果物と甘いものが幾つか。吟味された素材を利用した、極々普通の朝食だ。御供は、健康と発育に良い牛乳である。
 ラウンズと言っても贅沢品ばっかり食べている訳ではない。確かに王室御用達の宮廷料理にも触れているが、特別な行事がある訳でもない平日の朝っぱらから、そんな豪華な食事をとりはしない。
 パンをちぎりながら、話しかけた。

 「ルルーシュ。宿題の答え、分かった」

 四日前に出された『宿題』。それは、エリア11の抱える諸問題において、密輸関係として密接な繋がりを持つ物は何か、という事だ。昨日。モニカからヒントを貰ったお陰で答えが導けた。

 「……言ってみると良い」

 面白そうな顔になったルルーシュに答えを促されて、アーニャは口を開く。

 「エリア10の山岳地帯は……麻薬の一大生産地」

 どう? と顔を伺えば、ルルーシュの顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。

 「正解だ。……エリア10。もとい、旧ミャンマー。その東部に位置する、シャン州とメコン川流域は世界有数の麻薬・覚醒剤の製造地域。通称を『黄金の三角形(ゴールデン・トライアングル)』だ。ブリタニアの支配下に置かれた今でも、政治システムは大きく変わっていないからな……。軍部の強権の下、旧ミャンマーの農民は生活水準を上げる為、麻薬栽培に手を出す家が多い」

 そして、とルルーシュはゆっくりと告げた。




 「麻薬は、エリア10で商品化され、エリア11に持ち込まれる。……リフレイン、と名を変えてな」




 エリア11の問題は、複雑に絡んでいると前にも語ったが、その通り。
 非常に困ったことに、とルルーシュは、フォークに刺さったトマトを口に運んで語る。

 「リフレインは適量ならば自白剤として使用が可能だ。だから軍でも需要がある。分量さえ誤魔化せれば、合法だ。――――そんな事が出来る役人は、必然的に軍の兵站担当になる」

 「……」

 なんか、何処かで聞いた話だ。
 エリア11において、テロリストに武器を下ろしている容疑が懸かっている部署も、同じだった。

 「リフレインは多幸感を増大させる種類の麻薬だ。酩酊、過去の懐かしい幻覚も伴ってな。反乱したくとも出来ない日本人には飛ぶように売れる。売れれば当たり前だが金になる。横流しをした分の資金回収になるし、序に言えば懐にも入る。――――そして依存性が高い麻薬を手に入れる為に、嫌でも日本人は売人に頭を下げるというわけだ」

 「……よく、出来てる?」

 「そう。よく出来ている。腹が立つ位に」

 金の亡者ほど、自分の利益を守る方法は狡猾だ。そうルルーシュは付け加えて、フォークを置いた。
 そうして、怪しく瞳を輝かせる。陰影が濃い、底知れない表情。ありていに言えば……悪い顔だ。長い付き合いのアーニャには、なんかまた悪巧みをしてるなあ、と分かる。

 「……策が?」

 「策じゃない。だが、大規模の戦略的に、布石は打てる。――――その為の人材も、一緒に連れてきた」

 ……そう言えば、さっきアーサー“達”と言っていた。
 機密情報局の人間を連れてくる、とは言っていたが、誰を招いたのだろう。

 「誰?」

 アーニャの問いかけに、軽く肩を竦めたルルーシュは、質問には答えず一言。

 「今頃、特派でGX量産機の話でも、しているんじゃないかな」

 そう言った。




     ●




 定刻の三十分前に、枢木スザクが特派に出勤すると、ハンガーには鹵獲したGX(と言うらしい)量産機が『二台』並んでいた。

 ……あれ? 思わず頭を捻る。おかしい。確か昨日の早朝、サイタマでスザクが鹵獲した機体は一体だった筈。他は全てクルシェフスキー卿に倒されていた。他の部署が鹵獲したという報告も無い。
 よくよく見れば、格納庫に並ぶ片方は、後部が大きく破損した機体。ブロックごと爆発して、内部が滅茶苦茶になった機体だった。自爆で主要な内部機構は壊されても、KMF全てを吹っ飛ばすには至らなかったのだ。

 『関節部とか、外装から辿れる部分は辿るから。残骸からでも結構、分かる事は多いんですよ?』

 そう言ったマリエル・ラビエの態度が、妙に怖かった。眼の光と良い、口元の笑みと良い、わきわきと動いていた指と言い。舌舐めずりこそしていなかったが、あれは得物を前にした狩人の目つきだ。解剖を楽しむ態度だ。きっとマッドの血が騒いだに違いない。

 まあ、それはともかく。
 スザクはもう片方のGXを見た。一見すれば同じだが、こちらは綺麗だ。損傷も汚れもない。外装も……殆どは同じだが細かい部分で違う。増えた側には、細々としたオプションパーツに、肩周りの武装が付いてもいる。明らかに特注、それも乗り手様に調整された現役機体だ。

 「あー気になる? それ」

 「あ、おはようございます、ロイドさん」

 二機を比べながら見ていると、背後から声をかけられた。またトラックに泊っていたのだろう。髪は乱れっぱなし、白衣もよれよれで汚れっぱなし。欠伸をしながらという、随分と適当な外見で登場のロイド・アスプルンドだった。

 ゲットーでの一騒動の後、特派はフル回転していた。クルシェフスキー卿の愛機ベティウィアだけは、卿本人が自力で整備をしたようだが、それでも仕事は山積み。戦い終わった乗員のスザクが一番暇だった程だ。見ているだけなのも嫌だったので、力仕事を手伝い、一日を終えたのだが――――。

 「徹夜ですか?」

 「んー、まあね。昨日君達が帰った後に、マリエル君とついつい話し込んじゃってねぇ。そしたらランペルージ卿が、これを届けてくれたんだよ。君達起こすのも悪かったから、僕とマリエル君と、あとセシル君でやっちゃったけど」

 セシル君は寝てるよ、と最後に補足する。
 お世辞にも美容と健康に良い環境ではないのだが、流石は彼女も特派の一員なのか。このトレーラーで生活することに抵抗感はないらしい。

 「はあ。……え、ル、じゃなかった。ランペルージ卿、帰って来られたんですか?」

 「うん。昨日の夜遅くにね。自前の輸送機と、これと部下と、あと猫も一緒」

 ……なんか最後に変な単語があったが、気にしないことにした。
 ロイドに、目の前の整備された機体の話を聞いてみる。

 「本国から来た、で良いんですよね。あの汚れていない方は」

 「そうだよ。機密情報局で限定使用されてる第七世代相当のKMF、GX01-M。長くなるから説明はまた今度にするけど、数少ないブリタニア制GXシリーズだ」

 「GX01……」

 声に出して呟いた。
 これはつい昨日聞いた話だが、GXのGは第三世代KMFガニメデ(Ganymede)を露わすそうだ。
 発展系らしくガニメデとは近い。両肩が頭上に飛び出て、全体的な身体のシャープさを持つ。ガニメデ系列でGX。本国生産のKMFには全て型番が振られるから、GX01が正式名称、と。

 「……あれ、じゃあMは何です?」

 当然ともいえるスザクの。




 「イニシャルなんだよ」




 「え?」

 その疑問に答えたのは、ロイドではなかった。
 もっと幼い少女の声だ。勿論、声に訊き覚えはない。そもそも今のスザクの周りに幼い少女はいない。過去だって年下の少女と言えば、あの小生意気な従姉妹だけだ。

 「僕達のGX01には、それぞれ乗員のイニシャルが付いてるの。A、D、L、M、Sってね。……分かった? 枢木スザク」

 コツコツ、と足音を響かせて、奥から現れた影が有る。……自己紹介もしていないのに、何で相手は自分の名前を知っているのだ? と一瞬思ったが、ロイド達から聞いたのだろうと納得した。

 「そして、この機体は僕の機体」

 と言う事は――――。

 スザクの前に現れたのは、少女だ。身長はスザクより頭一つ低く、体格は身軽そう。足取りは猫のようで、外見に合わず戦闘能力は高そうだ。
 何よりも目立つのは髪だろう。色素の薄い白髪だ。東洋系の顔立ちと妙に似合っている。
 機密情報局の制服に身を包んだ、まだ若い、中学生くらいの少女だった。

 彼女が、このGX01-Mの、乗り手と言う事か。

 驚いているスザクに、少女は自分の胸に手を当てて。




 「僕はマオ。機密情報局員の、マオだ」




 そう、名前を告げた。














 登場人物紹介 その14


 マオ


 機密情報局の一員である少女。普通、マオは『苗字』の筈だが、名前は不明である。彼女自身も名前は、実は覚えていないのかもしれない。
 東洋系の顔立ちをした白髪の美少女。自分の事を「僕」と呼ぶ。砕けた口調が多いが、言葉の最後に「の」が付く事が多い。「僕にとってはそんなこと、どうだって良いの」……こんな感じで。
 C.C.とは、ルクレティアを初めとする他の機情の同僚同様に、色々と複雑な関係。
 マリアンヌから命令を受け、愛機GX01-Mと共にエリア11に来た。彼女が推薦するだけあってかなり優秀。初対面でスザクの名前を呼んだが、別にロイドから聞いた訳ではなく、純粋に彼女自身が持つ力だ。

 実は、行方不明の兄がいる、らしい。






 用語解説 9


 GX01

 機密情報局が運用する第七世代型KMF。

 作中で語られたように、GXのGはガニメデ、Xは系列を意味している。
 最後の01は、RPI(Royal Panzer Insanity。皇立機構歩兵)を示す番号。これは量産機には必ず付随する数字である。例えばグラスゴーなら11。サザーランドならば13がRPI。海軍使用のKMFには、RPIのPがM(恐らくMarineの意味)でPMIと表現され、特派の嚮導兵器ならRPIはZと表現される。

 GX01は現状、処々の事情によって帝国内では数えるほどしか運用されていない。その為、運用機体にはRPIの最後に、乗員のイニシャルが付けられている。
 エリア11にあるのはMでマオの機体。GX01のLが、エリア18にいるルクレティアの機体。その他、A、D、Sの三機が本国にある。……その内、彼女達も出てくるだろう。














 ルルーシュの補佐官は、マオたん。
 ナナナでは最後、肉体が崩壊してしまった彼女(女の子!)ですが、この話は別に機情を裏切っていませんので、死ぬ心配は余りしなくて大丈夫です。C.C.との関係も伏線ですし。

 カレン達が出会う予定の謎の相手とか、リフレインとか、副総督とか、まだまだ色々もありますが、そろそろルルーシュとスザクに、一回しっかり会話させましょう。……ギアス界隈では、あの二人の関係が×で繋がることが異常に多いですが、この話は普通に友情です。絶対。超友情では有りません。

 レポートとテストに追われ、中々速度が戻りませんが、なるべく早くお届けします。

 ではまた次回!

 (5月30日・更新)



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