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No.19301の一覧
[0] コードギアス  円卓のルルーシュ 【長編 本編再構成】[宿木](2011/04/27 20:19)
[1] コードギアス  円卓のルルーシュ 序・中[宿木](2010/06/05 21:32)
[2] コードギアス  円卓のルルーシュ 序・下[宿木](2010/06/12 19:04)
[3] 第一章『エリア11』篇 その①[宿木](2011/03/01 14:40)
[4] 第一章『エリア11』篇 その②[宿木](2011/03/01 14:40)
[5] 第一章『エリア11』篇 その③[宿木](2011/05/05 00:21)
[6] 第一章『エリア11』篇 その④[宿木](2011/04/27 15:17)
[7] 第一章『エリア11』篇 その⑤[宿木](2011/05/02 00:22)
[8] 第一章『エリア11』篇 その⑥[宿木](2011/05/05 00:50)
[9] 第一章『エリア11』篇 その⑦[宿木](2011/05/09 00:43)
[10] 第一章『エリア11』篇 その⑧(上)[宿木](2011/05/11 23:41)
[11] 第一章『エリア11』篇 その⑧(下)[宿木](2011/05/15 15:50)
[12] 第一章『エリア11』篇 その⑨[宿木](2011/05/21 21:21)
[13] 第一章『エリア11』篇 その⑩[宿木](2011/05/30 01:50)
[14] 第一章『エリア11』篇 その⑪[宿木](2011/06/04 14:42)
[15] 第一章『エリア11』篇 その⑫(上)[宿木](2011/08/18 22:10)
[16] 第一章『エリア11』篇 その⑫(下)[宿木](2011/11/21 23:58)
[17] 第一章『エリア11』篇 その⑬[宿木](2012/06/04 22:47)
[18] 第一章『エリア11』篇 その⑭[宿木](2012/08/18 02:43)
[19] 第一章『エリア11』編 その⑮[宿木](2012/10/28 22:25)
[20] 第一章『エリア11』編 その⑯(NEW!!)[宿木](2012/10/28 22:35)
[21] おまけ KMF及び機体解説[宿木](2011/05/21 22:55)
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[19301] コードギアス  円卓のルルーシュ 【長編 本編再構成】
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34 次を表示する
Date: 2011/04/27 20:19

 コードギアス 円卓のルルーシュ 序・上




 砂丘と共に拡がる灼熱の世界があった。

 世界最大の半島・アラビアに広がる、ルブアリハリ砂漠。ブリタニア語で「空虚な一角」と意訳される世界最大級の砂砂漠。広大な敷地と比較して、その地に住む人間の都は、余りにも小さかった。
 天上から照らす太陽は光量を緩める事は無い。幾重にも重なる砂の山を映し、大地から照り返した光が、周囲をさらに過酷な環境へと変えていく。
 大地に這うように茂る草が、乾燥した風で煽られる。蜘蛛、げっ歯類、そして彼ら植物しか、砂漠の中では生きる事は叶わない。古来には存在したと言われる文明も、既に砂の中に埋もれている。
 普段ならば乾燥した匂いしかしないだろう、その吹きすさぶ風に。

 (死の、臭いだな……)

 濃密な、死の香りが充満していることを、彼女は空気から読み取った。





 無数の兵器が蹂躙する熱砂の大地。
 戦争を遥か眼下にして、飛行する影が有る。野鳥では無い。より巨大で、より武骨な、鋼の塊が飛んでいるのだ。それは、上昇気流と強風、生み出された雲を切り裂き、上空を旋回する一隻の戦闘機だった。
 より正確に言えば、戦闘機風の「何か」だった。

 並みの、そして普通の戦闘機では無い。特筆すべきはその大きさだろうか。
 巨大なのではない。その真逆。非常に「小さな」機体だった。ナイトメアフレーム輸送機であるVTOLに比較して、二分の一程度。恐らく全長でも八メートルも無い。超小型の機体は、しかし――それ自体も、普通では無かった。

 優雅に、しかし高速で飛翔する機体は、カタカナの”コ“の字に近い。コの字の両端には艦砲が備え付けられ、二つの角を覆う様に六枚の飛翔翼が取り付けられている。中心線に沿う様にパイロットブロックが置かれ、その内部で操縦者を取り囲むのが、無数の計器類だ。そして、その計器が映す物は、唯の情報では無い。神経伝達によって情報を得る、乗組員を限定する特別仕様だった。
 武器と機構が飛びきりに優秀だが、その性質故に、通称を『空飛ぶ棺桶』と呼ばれる、カスタム品。
 ブリタニア帝国でも扱える者など――――扱い、死なずに戦場から帰還出来る者など、一人しかいない、稼働兵器。

 名を、エレイン。

 神聖ブリタニア帝国の最高戦力《ナイト・オブ・ラウンズ》所属の機体だ。
 そのデヴァイサーである彼女は当然、ラウンズの一人である。





 両足で機体を巧みに操縦し、ファクトスフィアで眼下の情勢を読む。戦況の確認をしながらも、神経伝達で情報を処理。腹面・背面と両翼・尾翼の下に付けられたカメラからの情報は多いが、処理をする動きは淀みなく、決して高速ではないが、確実だった。

 (……戦況の優勢は、変わらず、か)

 砂漠の中で、二つの軍勢が争っている。上空から見れば一目瞭然。三角形の頂点をぶつけ合う形で激突した両軍の内、先端が欠け、劣勢に置かれているのが相手。より鋭角にと近付き、相手を分断しようと動いているのが、此方の軍勢だ。
 紅紫の機体が、勇壮に大槍を振るい、その戦陣で踊っている。

 (――――敵の動きは……)

 陣形は似通っていると言っても、保有する戦力に差が有り過ぎる。相手は申し訳程度に布陣を構築しているのに対し、自軍は更に両端から挟み込む形で展開している。分断した相手を挟みこむ布陣だ。
 劣勢が窮地に変化し、追い込まれた相手が、三方向からの攻撃で壊滅するまで、多くの時間は必要ない。





 ルブアリハリ砂漠の東。アラビア海に面した王国・オマーン。首都をマスカットに持つこの国家が、ブリタニアの標的だった。

 アラビア半島を支配する為に、絶対に奪取しておくべき戦略的重要拠点である。
 オマーンは、東アフリカ・中東・ペルシア湾岸・インドを結ぶ航路を有している。また南部の港町、サラーラには経済特区や大規模輸送コンテナが置かれ、各地に物資の運搬している。港町は、敵にとっても味方にとっても、必要不可欠な場所である事は、素人にも理解出来るだろう。
 アラビア半島を攻略する為の足懸り。

 この侵攻作戦に加わっている軍人は、そう指令を受けていた。





 (……まあ、其れが表の理由だがな)

 高度を飛行しながら、窮屈なコックピットの中で息を吐く。外見こそ戦闘機だが、操作室はむしろ、今尚も眼下で猛威を奮う機動兵器・ナイトメアフレームの物に近い。
 両足で機体を稼働させ、両腕で攻撃操作を行う。その仕組みが、戦闘機へとシフトしているだけだ。勿論、飛行であるのだから、バランス感覚は直立歩行以上に要求される。
 しかし単純に言ってしまえば、この『空飛ぶ棺桶』ことエレインは、搭乗者の両足さえ完璧に動けば、空を飛べるのである。故に、普通に飛んでいるだけならば、両手は空く。

 (――――しかし、暇だな)

 一通りの情報処理を終え、地上で指揮をしている相方に転送する。返信が来る事を期待してはいない。あちらも戦闘の最中だ。ぐ、と思い切り腕を伸ばしながら、彼女は一息を付いた。

 オマーンを支配する『裏の理由』。
 その理由を知る物は、帝国本土でも一握りしかいない。
 皇帝、宰相、筆頭秘書官、ラウンズと、皇族の一部。世界全土で合計しても、三十人もいないだろう。この戦闘区域で該当するものと言えば、自分達ラウンズ。そして、地上で先陣切って突撃を敢行している、帝国第二皇女のコーネリアだけだ。

 (……しかし、過剰だな。戦力が)

 頭を切り替えて、現状を読み直す。
 この場合の戦力とは、数では無く質だ。十二本の剣の内、三人もの人数が、この地に派遣されている。たった一人で戦況を塗り替え、戦術で戦略を覆す、帝国最強の戦力が三人。過剰の例えは間違いでは無い。

 (本国でも、暇だったが……)

 珍しくも、戦場で暇だった。

 コーネリアの行動は巧みであり、その実力を示していた。上陸作戦を成功させ、重要拠点を次々と陥落させ、首都マスカットの軍勢を打ち破り、結集した残存兵力を、今現在、叩いている。この間に使われた期間は、およそ二月だ。
 確かに消耗はあるし、慣れない砂漠地帯の気候や進軍、戦闘で疲労も重なっている。だから、援軍として皇帝が派遣を命じたのも、理に叶っている。ラウンズが三人も来訪すれば、必然的に兵の士気は上がる。多少の逆境も問題には成らない。

 だが、それでも三人は多かった、と思う。少なくとも、今現在、左側面からの部隊を率いているラウンズ第六席のアーニャ。彼女の仕事は、他の人物でも出来る。他のラウンズが出払っている今、一人だけ、あるいはビスマルクと二人だけで本国に置きっぱなし、と言うのも可哀想なので連れて来たのだが。

 (……私が変われば、良かったな)

 手持無沙汰になった第二席は、再度、息を吐いた。





 ブリタニア軍が優位に進めていた理由の一つに、オマーンの混乱が有る。

 戦略的に重要視されるオマーンだが、アラビア諸国にとってもそれは予想の範疇だ。苦戦は予想されていた。アラビアの攻略の正負は、欧州にも影響を与える。故に、この戦争の結果は、世界的にも注目を集めていた。

 地の理を有する海軍戦力。イエメン、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、クウェート、バーレーンなど、オマーンの陥落に寄って危機を迎えるアラビア半島の国家による、豊富な陸上支援。そして近場に補給基地を有する航空、陸上戦力。
 これらを相手に、容易く攻略出来るという予想は立たない。

 まして、ブリタニア軍は、本国からオーストラリア、インドネシアを経由している。長旅をして来たブリタニア軍隊と、入念に準備をして迎え撃つオマーンの陸海空の戦力。
 最終的には数と人材、性能で勝るブリタニアに軍杯が上がるにせよ、時間が懸かるだろう。犠牲も大きく成るというのが、大方の予想だった。

 だが、その予想を、完璧に覆して見せたのが、外交情勢だった。
 半島と大陸の間に存在する、ペルシア湾とオマーン湾。その二つの湾を繋ぐ、ホルムズ海峡。オマーン海軍の主力が置かれたこの地が――襲撃されたのである。


 仮想敵国として長年にオマーンが動向を伺っていた、イランだった。


 ブリタニアの来襲に向けて部隊編成に追われ、数多くの兵力が集結していた時期だっただけに、被害は甚大だった。海軍兵力の数割と、優秀な将官、更には集められていた多くの物資が人員と共に失われた。
 このイランの攻撃に激怒したアラビア半島の国家達だったが、報復を決意する暇も無かった。イランの敵対行動の真意を知る事も無く、オマーンはブリタニアとの戦争状態に突入したのだ。

 ブリタニアの上陸作戦を妨害する役割を担った海軍戦力。受けた痛手、そしてイランの抑制の為に、より多い兵力を取られたオマーン海軍の危機は、そのまま国家消滅の危機に繋がった。
 予想を遥かに下回る損害でコーネリア率いるブリタニア艦隊の上陸作戦は成し遂げられ、展開された大部隊による電撃戦で、南方の要地・サラーラは陥落。集積された支援物資はブリタニア軍に徴発され、その影響が首都の敗北に結び付いたのだ。





 (そしてオマーンは、もう時期に、エリアと呼称される事になる)

 砂の大地の中。随分と戦力が減った事を、金色の瞳で彼女は確認する。
 イランがオマーン海軍を襲撃した理由は、未だに発表されていない。だが、帝国中枢に近い存在は知っている。明確な言葉にはされていないが、断言出来る程に、確信を持っていた。



 イランのオマーン襲撃の裏で暗躍していたのは、帝国宰相のシュナイゼルだ。



 (大方、イスラムの過激派に、発破をかけたのだろうな)

 あの顔と、交渉術。そして裏工作と情報操作。取引と相手への利益。辣腕を振って、言葉巧みに他者を操り、政治の影響を戦場に持ち込む。帝国有数の頭脳を有する彼だからこそ出来る業だろう。
 シュナイゼルの知略。コーネリアの軍略。そして其処に、自分達ラウンズの援軍だ。勝てない筈が無い。慢心している訳でも、傲慢に思っている訳でもない。
 空中から戦況を眺めるラウンズ"最年長"の少女は、事実を確認して。

 (――――ん?)

 違和感を覚えた。自然と両手が、操縦桿を握る。鮮明な情報を得るよりも早く、先程までとは違う雰囲気に、真剣な戦士の瞳に変化する。同時、旋回軌道を変化させ、地上への攻撃準備へと。
 現皇帝が若い時分から、戦場に身を置いていた。その肉体が、本能で動く。

 「索敵から戦闘状態へと移行。神経伝達……切断。――砲撃準備、両門へと充填を開始。加速準備……完了」

 情報収集用の神経回路を停止。肩口から頭を覆っていた機械を背後に送る。彼女専用の精神接続回路――――ギアス伝導回路は、エレインの戦闘には邪魔でしか無い。両足で機体を水平に操ったまま、両腕でシステムを操作し、数秒で準備を終える。

 「戦闘、か?」

 その声に呼応するように、ヴン、と機体が咆えた。より大きな動力を生み出そうと、ユグドラシルドライブの中で、コアルミナスが回転を始める。それは瞬く間に高まり、機体に活力を与えていく。
 緑髪をかき上げ、様子を伺いながら、警戒を強める彼女の下。




 視界の中で、数十のナイトメアフレームが吹き飛んだ。




 「――――なるほど。……切り札。否、隠し玉、か」

 予想が的中した事を知る。
 獰猛な笑みを見せながら、彼女は確認した。最前線のコーネリア、彼女に従う騎士、ギルフォードは一瞬の判断で回避していたが、中央後列で皇女の後を追っていた二十機ほどが大破している。損傷具合から見ても、デヴァイサーは生きてはいないだろう。

 「……なるほど」

 状況は其れほどに難しくは無い。圧倒的優勢を誇っていたブリタニア軍に、唐突に出現した大型陸戦艇が、一斉砲撃を放ったのだ。
 全体を覆う保護色。そして、上面部をネットで覆われた姿は、今の今迄、砂丘の中に潜んでいた事を此方に示していた。無数の機動兵器を隠れ蓑に砂の中に隠れていれば、発見はされ難い。機体の持つ熱量は熱砂で隠され、展開された部隊が策敵を妨害する。
 中々に、理に叶っていた。

 (悪くは無い、が)

 今迄の行動は、ブリタニアの中枢戦力を引き寄せる為の罠だったのだろう。押されている事を承知の上で、引き寄せる策に出だ。そして突出した所を、殲滅出来る威力の砲撃で、叩く。
 砂の中から姿を見せた、大型陸上戦艦。その数は凡そ、四つ。

 「だが、千載一遇のチャンスを、逃したな」

 砲撃がコーネリアに被害を与えていれば違っただろうが、そう甘い話は無い。
 一般兵ならば兎も角、コーネリア程の技量が有れば、巨大な砲塔から発射される弾道など、回避できる。不意を付かれたとしても、火線上から対比する程度は容易いだろう。
 発展第五世代のグロースターの、しかも専用機体。ラウンズに劣るとはいえ、魔女と、帝国の先槍だ。その異名も実力も、伊達では無い。
 戦場に何も支障が無い。障害が増えただけだと、判断をする。

 「戦術の間違いだな」

 四艇全部を一斉に姿を見せるのは、愚策でしか無い。五艇目が隠れていると言ったら少しは感心するが、その様子も無い。四艇も有るのならば、一艇を囮にしてでも、より確実な勝利を求めるべきだった。

 「指揮官の器が知れるが。……面倒だな」

 彼女の周囲に居る指揮官は、誰も彼も優秀だった。コーネリアも、シュナイゼルも、そして今は既にいない、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアも。帝国最高レベルと比較すると、相手が可哀想かもしれないが。
 何れにせよ、チャンスを活用出来なかった時点で、相手の敗北は決まっていた。後は、あの陸戦兵器をどの様に倒すかだ。

 三本の巨大な足で身を支え、ホバー走行をする巨体。従来の戦車を遥かに超えるだろう。戦艦にも似た格好は、鈍重だが防御力は高い。攻撃力も、連発されれば被害が大きく成るだろう。自軍の消耗を避ける為にも、素早い始末が要求される。

 コーネリアに従っていた戦力は、今の砲撃で被害を受け、立て直すまでに時間が懸かる。だが、一艇ならば、前線の二人で如何にか出来る。

 左翼にはアーニャ・アールストレイムがいる。グロースターを改造した機体だが、大丈夫だろう。

 そして右翼は、もっと心配していない。

 『――――見ていたな?』

 「ああ」

 通信が入った。先に情報を送った共犯者も、同じ事を考えていたらしい。
 目の前のメイン画面に映るのは、彼女の相方だ。ラウンズ第五席の席に座る、戦場の魔王。コーネリアの副官、アンドレアス・ダールトンと共に右翼に展開していた青年だった。
 黒髪に、紫水晶の瞳。誰もが認める、圧倒的な美貌。不遜な笑みを浮かべ、冷静なまま、彼は言う。

 『恐らく、あの中の一艇に、この戦場の将がいる。オマーンの王族は、既にマスカットで確保しているからな。……軍のトップに近い、誰かだろう』




 右翼の正面で、展開されたナイトメアフレームを打ち倒し、巧みな操縦で進む、漆黒の機体が有った。彼女の乗るエレインと同じ、漆黒の彩色に金の縁取りを持つ、鋼鉄の人形。
 グロースターよりも洗練されたフォルム。両腕のソードスラッシュハーケンと、大型のランドスピナー。専用攻撃にこそ乏しいが、代わりに多くの兵器を扱えるだけの万能性と、防御力を有している。
 その上、未完成ながらも搭載された電子解析システム「ドルイドシステム」によって、多量の情報処理だけでは無い。キーボードによるコマンド入力操縦を可能にした、世界でも類を見ない機体。

 名を、ミストレス。

 やはりこれも、乗り手を非常に選ぶ、専用機体だ。





 『私とダールトン、グラストンナイツで一艇は沈める。左翼はアーニャ。中央一艇はコーネリア殿下とギルフォード。残った一艇は――――』

 「ああ、任せろ。ルルーシュ」

 青年に向かって、彼女は言う。皆まで言わずとも十分だった。
 エレインの操縦席の中で、金の瞳に、私を誰だと思っている? と浮かべて。




 C.C.は笑った。




     ◇




 足を踏み込む。機体が下を向き、地面へと滑降を開始する。重力よりも速く、後方に噴き出すブースターが加速を後押しする。地上へと向けて、滑降する様に。

 頭の上に有った蒼い空が消え、目に映るのは褐色の不毛地帯。

 見る者が見れば、流星のような弧を描き、エレインは地上へと急降下していく。

 浮遊感を感じたのは一瞬だった。落下よりも早い加速に、体に重圧が懸かる。眼下に見えていた大地は、見る間に迫る。這っていた蟻がナイトメアと把握され、それが人型に変わり、形状と、手に握られたスピア、翻る帝国旗までもが、鮮明に。

 重力加速度を越える、凄まじい加速力。その中でも失われない旋回性能。慣性と遠心力による加重は、視界を暗く閉ざすだけでは無い。搭乗者の意識と、気絶した操者の命を容易く奪う。高すぎて扱えない機体性能も、このエレインが『棺桶』と呼ばれる理由。

 肺の中から空気を捻りだし、その苦痛を跳ね返す。

 空気抵抗に喧嘩を売り、安全設計を無視し、脱出機構もパラシュートのみ。防御は紙。有する加速力と機動力は帝国最高逢だが、戦闘よりも「操縦」で、乗組員に大きな負担をかける。

 だが、魔女には通用しない。

 風を切る音が聞こえた。砂漠から立ち昇る上昇気流を切り裂く六枚羽が、その風よりも早く機体を運んでいく。

 下へ、下へと。急な坂を滑り落ちる様に飛ぶ機体の中、意識が歪む事は無い。

 足に込めた力を緩めない。速度を落とす事は無い。熟練の足裁きだけで高速飛翔の機体を完璧に操り、その速度を保ったまま、魔女は両の手で、攻撃の準備を始める。

 一切の迷いは無かった。体に染みついた動きは、指先に目を向ける事も無く仕事を行う。

 既に充填が完了した主砲の、発射に向けての動きだ。左手で内壁に備え付けられたコンソールを叩き、砲撃シークエンスに移行。機体正面の戦場を映していたメイン画面の中に、無数の円と、主砲の軌道。そして標的の敵性情報が反映される。

 ギシ、と小さく機体が悲鳴を上げる。微細な振動は、加速したエレインが空気の層へとぶつかり始めている証拠だ。気体から流体へと移り変わる速度。

 音速の壁。

 これ以上に無理を重ねれば空中分解をしかねない。

 ――――変わらない、な!

 だが、己が愛機の名を呼び、魔女は心内で声を上げる。この感覚は毎度のことだ。

 速度を緩める事は無い。緩める事が出来ないのだ。下手に緩めると壊れてしまう。だから速度を保ったままにする。

 機体性能を犠牲にした欠陥品。それでも尚、彼女がこの『湖の貴婦人』を使うのには、理由が有る。

 地面へと特攻を仕掛ける様に、鋭角のまま、地面に向かい。

 ――――――!

 寸前で、思い切り、機体を引き揚げる。

 地面に先頭を向けた機体を、水平に。

 爆発的な加速力を有する、超電導回路のブースターを大地に向けて。

 両肩が外れそうな、首が壊れる程の重圧に、歯を食いしばる。ビギッ――という音は、身体への異常の証明だろう。だが機体に問題は無い。所詮は不死身の肉体。怪我も骨折も問題の無い肉体だ。だからこそ、この怪物を扱える。

 動力稼働率は、殺さない。

 六枚の翼を変形。戦闘機の翼から、鳥の持つ翼の形へと。左右三枚ずつ、重ねられた翼は、大きな抵抗と浮力を発生させ、機体に負荷をかける。

 急激な制動に、叩き下ろされる様な暴風が加わり、衝撃と共に散って行く。

 その中で、墜落軌道を描くエレインを、強引に――――水平軌道に、持って行く!

 ぐ、と沈み込む圧力が懸かった。下方向のエネルギーを、伸び上げる様に。抑え込むのではなく、その速力を持って、向きを変更する様に。

 追われた空気の層が、展開していた敵性機体を押し返す。大気を切り裂く烈風が、砂を巻き上げ、視界を覆う。

 相手が怯むその一瞬の間に、機体は地面との平行移動を取り戻した。数分前と違うのは、高度のみ。

 圧力から解放された動力が、再度の加速を一瞬で生み出す。

 至近距離で発生した暴風が、陣形を乱し。

 ――――抜く!

 一瞬の硬直と、その隙間を縫って、機体は駆けた。

 風も、巻き上げる砂も、置き去りに。

 低空高速飛行のまま、加速する。

 慣性を無視した強引な挙動。しかし機体が壊れる事は無い。外層が悲鳴を上げても支障は無い。火器管制も狂わず、攻撃にも影響は出ない。だから、問題が無い。

 搭乗者が常に万全ならば、この欠陥品は一級品の戦力に変化するだけのスペックを、有している。





 地表寸前。高度は数十メートルの位置。地上からの砲撃を覚悟し、この低空まで下がって来なければ、攻撃が出来なかったのには、理由が有った。

 第一に主砲門の角度がある。多少の角度は修正が可能とはいえ、情報収集を行った高高度から主砲で地上を狙う事は出来ない。戦闘機にとって、地面を攻撃する手段は限られているのだ。
 即ち、爆撃を行うか、地上用の装備を備えるか、機体に角度を付けて地上を狙い撃つかだ。

 コの字型の機体。先端の二門の主砲以外に存在する攻撃武装は、両翼下に装着された対地上攻撃用のミサイルが僅かに四発と、六翼から射出される短距離ハーケンのみだ。
 だが、大火力を誇る二門の主砲が、他の武装を補って余り有った。

 主砲を、ハドロン砲。
 加粒子を放出する、帝国内でも最高峰の火力を誇る武装が、地上攻撃の要だった。

 だが、欠点もある。大多数の軍勢相手でも壊滅を齎すこの兵器は、燃費が悪い。そして、威力と範囲が広大な為、味方にも被害を出し易い。
 故に、軍勢同士が激突する戦場においては、収縮状態での運用が基本になる。

 ホースの先端に圧力をかけた光景を想起すれば良い。収縮して発射した場合、射程が伸びる。貫通力も上がる。しかし同時に、自己に掛かる抵抗も大きくなる事が理解出来る筈だ。

 エレインは、最低限の構成で成り立っている。
 二門のハドロン砲。主砲を放つ為の動力源が二つ。機体を動かす為の動力。飛行とバランサー用の六枚羽。そしてギアス伝導回路を内蔵した、魔女だからこそ扱える情報機構。防御を極限まで擦り減らし、安全設計もギリギリだ。緊急時の、自動での脱出装置すら無い。

 故に、軽い。空を飛行する以上、推進力と比較して軽いのは当然だが、エレインは軽すぎる。
 その軽さ故に――――絶大な威力を誇るハドロン砲を撃つと、反動で後ろに下がってしまうのだ。

 だから、反発を防ぐ為には、発射する際に、事前の加速が必要となる。
 加速をしなければ安全性は格段に上がる。しかし、発射の反動で後退していく機体が、正確に砲撃を対象に命中させられる筈が無い。
 なにより、後退した事による停滞と、再度加速する為の時間が無駄だと、魔女は考えた。

 一撃の試し打ちならば、無駄を発生させても良いかもしれない。だが、此処は戦場で、不測の事態を常に考慮する必要がある。

 世界は、何が起きるか、分からないのだから。





 ナイトメアフレーム一流技能を持ってしても、戦場に出て、操り、帰還する事は自殺行為と言われた、エレイン。

 ――――だからこそ、不死身の魔女に、相応しい。

 全長五・四七メートル。駆ける機動兵器と違いの無い大きさの機体を繰り、陸上戦艦へ。
 火線軸上に味方の姿は無い事を確認し、主砲を向ける。

 左翼の揚陸艇が炎上した。連続する爆音の向こう。黒煙に紛れて、重武装の砲撃火器類に身を包むアーニャの機体を確認し、魔女は自分の仕事を開始する。
 火線軸上に、味方機体は無い。画面に映る陸上戦艦を、主砲は完全に捉えていた。
 陸戦艇を援護しようと、幾つものナイトメアフレームが周囲に展開している。全滅を目前にした兵達が、地上を必死に駆け、命中率を気にせずに銃口を向ける。
 懸命に抗う機体と乗者達に、僅かな憐憫を感じ。

 「――――済まないが、無駄だ」

 神技的な技量で機体を制御し、最小限の動きで対空砲撃を回避し、魔女は操縦桿の砲撃ボタンを押した。
 躊躇う事無く、実行に移した。

 見る物に不吉な物を感じさせる、血の色にも似た一撃。
 機体の咆哮と共に放たれた赤黒い粒子砲は、一直線に宙を裂く。
 予定射線と寸分違わず軌道を描く、ハドロン砲の一撃は――――。






 ――――守っていた援護機体もろとも、陸戦兵器バミデスを、完膚無きに焼き払った。









 皇歴2010年。
 神聖ブリタニア帝国のアラビア半島への進軍の結果、オマーン王国は滅亡。
 エリア18と名を改め、支配下に置かれることとなる。














 登場人物紹介①

 C.C.

 神聖ブリタニア帝国の最高戦力、皇帝直属《ナイト・オブ・ラウンズ》の第二席。
 緑髪・金眼の美少女だが、本名を初め、年齢、出生など、その経歴は謎に包まれており、正体を知る物は数えるほどしかいない。
 現皇帝シャルル・ジ・ブリタニアが即位する以前よりもラウンズに所属しており、帝国の上層部の多くとは旧知の仲らしい。

 搭乗機体は「エレイン」。
 名前の由来は、アーサー王に聖剣を授けた『湖の貴婦人』『湖の乙女』から。





 6月3日 投稿
  14日 修正



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