現時刻は夜9時少し前。
クラス全員が行ってくれた新担任歓迎会&転校生歓迎会はとっくに終わり、学校の校舎自体にもほとんど人がいない状況だ。
教室の中は7時頃まで飲めや歌えの大騒ぎ(勿論アルコール無しで)だったのだが、何名かが行なった完璧な掃除によって朝と同じくらいに戻っていた。
ちなみに歓迎会自体は大成功と行っても過言ではない。
料理を得意とする者が各自作って持ってきた料理は美味であったし、宮崎のどかや雪広あやかといった面々からのプレゼント授与も滞りなく行われた。
バンドをやっている者たちは教室でのミニステージで全員のテンションを振り切らせもしたし、新担任2人も転校生である徐倫もクラスメイトとのコミュニケーションが取れた。
クラスの補佐を手伝ってくれるタカミチやしずなも参加し、教室は大賑わい。
ネギは生徒たちにもみくちゃにされながらも喜んで歓迎され、喧しいことは嫌いなはずなのに承太郎の顔には笑顔が浮かんだ。
最初は煩わしく感じていた徐倫も、歓迎会が終わるころには皆とほぼ完全に打ち解けていたのには、承太郎が我が事のように喜んだほどである。
……終始承太郎とは口を利かなかったが。
閑話休題。
しかしとうに歓迎会は終わって、さらには帰宅時間は過ぎているのに、教室の中には承太郎、ネギ、明日菜の3人が居残っていた。
明日も授業があるのに何故こんな時間まで教室にいるかというと、承太郎とネギにとって予測しうる限り最悪の事態が起こってしまったからだ。
本来ならば『正体がばれた』事によって、歓迎会の前に終わるはずだった明日菜の記憶の消去。
だがそれは為されず、今もなお明日菜には魔法に関する記憶が存在している。
その対処をするために残ったのだが、そこから発展して分かった『もう一つの最悪』のせいでこんな時間まで残る羽目になったのである。
「ああもう、空条先生にお礼をもっかい言おうと思って探していたら、こんなことになるなんて……」
「それはこちらも同じだ。というより誰がこんな事態を予想できる」
現在、承太郎は副担任用の椅子に腰掛けてこめかみに手を当てている。
明日菜は自分の席に座っており、さっきから納得がいかないと言って机をバシンバシン叩いている。
「大丈夫ですよアスナさん。僕たちがそんな目にあわせたりはしないですから」
ネギはそんな明日菜をなだめようとしているが、効果はいま一つのようだ。
さて、ここで3人が行おうとしたのは、明日菜と担任2人それぞれの希望を一致させること。
明日菜は胡散臭い魔法使いの事情に巻き込まれたくはない。
2人は正体がばれたことを隠滅して、明日菜を元の日常に戻したい。
なら一番手っ取り早いのは明日菜の今日1日の記憶をすっぱりと消してしまうことなのだが、『もう一つの最悪』がそれを阻んでいた。
「……恨むのならば、生まれ持っていただろうその特異体質を恨んでくれ。
認識阻害といった『日常的な魔法』には反応しないが、『本体の体に影響をなす魔法』を完全に無効化するその体質を」
それではどうしてこうなったのか、少し時を戻してみよう。
7時間目 魔法先生とスタンド先生!⑤
夜7時10分くらい、歓迎会が終わって帰ろうとしていた明日菜にかけられたのは「話があるから少し残れ」という承太郎の言葉だった。
勿論無視してこの場で帰るなり魔法を暴露するなりもできたのだが、「学園長からのお願いについて話がある」と先んじて言われてしまい、周りのクラスメイトやタカミチは気を利かせてさっさといなくなってしまった。
「ご愁傷様ですわー」という委員長のありがたいお言葉や、「アスナー、私はもう了承しとるからなー」という親友の言葉がドップラー効果でしか聞こえない。
タカミチですら「ははは、帰るのが遅くならないようにねー」という言葉を残して一目離した隙に消えていた。
学園長、信用無し。
まぁもともと詳しい話を聞かせてもらうために教室に連れてきたはずが、教室で歓迎会をすることを忘れてしまっていたため、図らずも誘導してきた形になった明日菜。
そうしてうやむやのままに歓迎会を進めることになってしまい、詳しい話を聞けずじまいになっていたのである。
毒を食らわば皿まで、数少ない意味まで覚えている諺が頭をよぎった明日菜はあえて踏み込んで行くことを決めた。
……結果としては藪をつついて蛇を出すの方が正しかったが。
とりあえず事情の説明を始めてから15分、大体7時半を回ったところ。
「それじゃあ、もう一度確認するわよ?
ガキンチョは立派な魔法使いとかゆーものになるために、麻帆良に修行に来た『魔法使い』。
空条先生はこのガキンチョを補佐するために呼ばれた、超能力が何らかの形として出せる『スタンド使い』。
そんでもって、これが一般人にばれると魔法仮免許没収、最悪はオコジョに変えられて刑務所生活……これでいいのよね?」
「ああ、その認識で構わない。意外と物分かりが良いようで助かる。
ちなみにオコジョにされるのは魔法使いであるネギ先生だけで、わたしはもともと外部協力者だから謹慎処分程度で済むだろうな」
「……生まれて初めて位に頭脳的な物で褒められたのに、物凄く嬉しくないわ。というか分かりたくなかったわよ、こんな事ー!」
3人の他には誰もいない2-A教室に、説明を聞き終わった明日菜の叫びが響き渡る。
「ちょ、ちょっとアスナさん!? いくら教師が一緒にいるとはいえ、本来ならこんな時間に生徒が残ってるってばれたら不味いんですって!」
「はん、良いんじゃない? そうすれば担任のあんたが責任を追及されるんだから」
ネギは突然大声を出したことに焦るが、明日菜は取りあおうとしない。
パンツ消去の加害者と被害者という絶対的なイニシアチブがある以上、決して強気に出ることができないのが痛いところである。
「……うう、どうしてこんなことになっちゃったんだろう」
「仮にも担任が生徒の前で泣くなーっ! 私だって高畑先生にあんな姿見られて泣きたいわよ!」
夕方の事を思い出してさめざめと泣くネギに、明日菜は先程から終始怒りっぱなしだ。
さすがにいい加減話が進まないと思ったのか、承太郎が先を促す。
「ネギ先生、うなだれている場合じゃないぞ。先程のようにならないようにしっかりとした準備をお願いする。
ともかくここまで説明したのは良いがやることは夕方と一緒だ。神楽坂、記憶を消させてもらうぞ」
ここまでネギと承太郎が明日菜に事情を話したのは、結局ここに行き着く。
つまり、『何故正体を知ってしまった者の記憶を消さなければならないのか』である。
夕方のばれた瞬間では一刻も早く対処しなければと思ってあのような対応になってしまったが、その場で失敗してしまった以上はある程度協力してもらわないとまずい。
記憶を消さないといけない事情の説明、魔法を知ってしまった場合のメリットとデメリット、それらを示したうえでの記憶消去の提案である。
「やるならやるでさっさとして下さい。明日も新聞配達があるから早く寝たいんです」
もちろん、魔法使いになんて係り合いになりたくない明日菜は記憶消去を受け入れた。
……受け入れたのだが――
「何でまた衣服の一部が吹っ飛ぶのよー!?」
――お約束というかなんというか、またしても明日菜の衣服が吹っ飛ぶ。
だが承太郎が事前に提案した危機回避策は功を奏したようだ。
その内容とは、明日菜はジャージを着た状態で、ネギは記憶消去魔法をかける部位を人物指定ではなく頭の方だけにしておくというものだ。
結果、明日菜の着ているジャージの首回りが綺麗に吹き飛ぶだけで済んだため、被害は明らかに少なくなっている。
それでも着ていた服が吹っ飛んだことには変わりないので怒るが。
「……ネギ先生、呪文に間違いがあったりとかはしていないか?」
「いえ、そんなはずはありません。
念のために魔法教本を読みながら詠唱しましたし、そもそも記憶消去は魔法学校の中でもかなり初歩の段階で教わる呪文なんです。
こんな風に衣服がはじけ飛ぶなんて、戦闘用の『武装解除』くらいしかありません」
「洋服を吹き飛ばす戦闘魔法って……いや確かに有効的ね、というかえげつなさ過ぎない?
素っ裸で戦えとか言われたら戦うどころじゃないし、まず社会的に死ぬわよ」
「その魔法が暴発した可能性は……なさそうだな。
呪文が一致しているのであればその魔法が発動するはずだし、魔法学校を首席卒業できる人物がそんな初歩的なミスを犯すとは思えん」
その後何回かかけ直してみたものの、結局記憶消去魔法は明日菜に効くことはなかった。
また、魔法をかける度にジャージが破れて行くのかと思いきや同じ場所に同じ魔法をかけているなら同様の場所が破れるらしく、最初の時と破れ方はほとんど変わらなかった。
「……やっぱり駄目です。ここまで効かないとなると、もしかしたら魔法への対抗力が強い特異体質かもしれません」
「となると他の種類の魔法を試してみないことには分からんな。
ネギ先生、神楽坂、もう少しだけ実験に付き合ってもらうぞ。まずは攻撃魔法から――」
そして約1時間後の8時50分頃。
「――よし、めぼしい魔法は使ってみたか。ご苦労だったな、2人とも」
「「つ、疲れた……」」
紙束を持った承太郎は満足げな顔をしており、対照的にネギと明日菜は疲労困憊という風に机に突っ伏している。
理由はかれこれ一時間、ネギが知っている限りの魔法を片っ端からかけていき、その反応の仕方をひたすら書きとめるという作業が続いたからである。
「すまない、子供の頃『刑事コロンボ』が好きだったせいか、細かいことが気になると夜も眠れなくてな。
周りの者からはやり過ぎだとか容赦無いとか言われる程で、それが高じて海洋学者になった様な物だ。
だが収穫はたくさんあったんだ、許してくれないか?」
「うー、魔法の使い過ぎで疲れましたー。でも確かに収穫はたくさんありましたから大丈夫です」
「収穫が多いと私は大変なのよ!
せっかく空条先生に頂いたジャージはもうボロ切れになっちゃってるし、私の体が特殊なのも分かっちゃったし……」
承太郎が言うように、細かい部分が気になってしまったせいでここまで時間がかかってしまっていた。
同じ魔法でも射出する数や魔力の込め方、範囲指定でどのように効果の差が出るのかをいちいち試したのだ。
結果は『頭が痛くなる』ようなものであったが。
攻撃魔法の『魔法の射手』に『武装解除』、『眠りの霧』や『風精召喚』はほぼ無効化を確認。
魔法の射手や武装解除は当たった瞬間にその威力を分散させるようだが、力を分散させる分だけ衣服が吹き飛ぶようだ。
眠りの霧は効かないばかりか「煙い!」と腕の一払いでかき消し、風精召喚を用いた分身は見分けがつかなかったものの殴ってみたら消滅してしまった。
逆に、『身体強化』といった人体操作系の魔法と回復系の魔法は効果が出ている。
それと、魔法の効き目がある場合には衣服は吹き飛ばされない様子。
「さて、ここまでの実験で分かったことは3つ。
1つ目、『神楽坂は自身に悪影響、もしくは敵意を持って与える魔法を無意識のうちに無効化できる』。
身体強化や回復などが効果ありだったのは、体に良い影響を発生させるからだろう。
2つ目、『無効化した時に体の表面へ魔力が分散され、その影響で衣服にダメージが入る』。
こちらに関しては実験で使った魔法の属性、種類がネギ先生の使える物だけであるから何とも言えないが、おそらく他の属性等でも同じ反応をするだろう。
3つ目、『認識阻害や魔法による変装といったものは見破れない』。
ただし認識阻害についてはこれを意識したために効果がゆるくなってきており、変装は物理ダメージを与えると解除される」
手元の資料を見ながらスタープラチナを使って黒板に一つ一つの特徴を書いていく。
かなりの達筆で書いているところを見るに、精密動作性の無駄遣いである。
「うーん、聞けば聞くほど異常さが際立ちますね。完全に魔法使いにとっての天敵ですよ、この能力。
アスナさんは本当に魔法についてご存じなかったんですか?」
「至って普通の学生生活を送ってきた私が知るわけないでしょ。魔法なんて絵本とかゲームの中でしか知らないわよ」
これだけ魔法使いキラーな能力を持っているにもかかわらず、今まで魔法の存在を知らなかった明日菜。
ネギならばこの事実を『奇妙な偶然』として深く考えなかっただろうが、ここに一緒にいるのは承太郎であり、やはり単なる偶然とは考えていなかった。
「……『引力』か」
「ん? 空条先生、何ですかその『引力』って」
「いやいやアスナさん、多分理科の授業で習ってるはずですよ。
2つの物体の間に働く相互作用の1つで、引き合う力のことです。例を挙げるなら磁石のくっつこうとする力ですね」
「いやそうじゃなくて。空条先生は何となく違う意味で言ってるように感じたから……」
「ほう、神楽坂は観察眼が良いようだな。神楽坂の言っている通り、わたしが今呟いた『引力』とは本来の意味合いとはだいぶ違う」
さて、と言いながら体の向きを2人の方に変え、承太郎は語り始めた。
「『引力』というのはスタンド使い同士あるいは強い力を持つ者同士の間に発生する力だ。
強い力は別の強い力を呼び寄せていき、思いもよらない出来事を発生させていく。人によっては『運命』と言うやつもいるがな。
今回の場合だとネギ先生とわたしがこのクラスに来たことによって、神楽坂の能力が引かれ合ったのだろう」
エジプトまでの旅、杜王町事件、イタリアにいるDIOの息子、海洋冒険中の海賊の襲来。
承太郎はスタンド使いであるが故に、今までの人生で様々な危険がその身を襲っている。
楽しかったことや悲しかったこともあったし、時には仲間として出会い、時には決して相容れぬ敵として多くの人物と出会ってきた。
『偶然』なんて陳腐な言葉で今までの出会いを括られたくはないが、『運命』ならば許容もできるものだ。
もちろん、大切な仲間と死に別れたということだけは決して認められない部分ではあるが。
「力を持つものは死ぬまでその力に悩まされ続ける。例え無人島に住み続けていたとしても、人生の中で一度は別の力を持ったものと出会うらしいからな。
そのせいか何時、何処で、誰に出会うのかが分からなくてノイローゼになってしまったものがいるほどだ」
「……魔法を使うものの心得にも『力に飲まれるな』という言葉があります。
ただ単純に力に執着しすぎるなという意味ではなく、もしかしたらこの事も指していたのかもしれませんね」
「ということはもしかして私ってばこれから先、受難続きってこと!?」
「結論から言ってしまえばそうなるな」
「うわぁ、とっても聞きたくなかったわ、その結論……」
これから確実に受難が起こると宣言され、明日菜はがっくりとうなだれた。
そして冒頭のシーンへとつながるのである。
「さて、ここでわたしから神楽坂に提案がある」
話すことや実験することも終わり、停滞していた空気に承太郎が切り込みを入れる。
「結局のところ、わたしたちは魔法がばれたことが周りに伝わらなければそれで良いんだ。
記憶を消す方法が今のところ無い以上、秘密を守ると約束してくれるのならこのまま普段通りの生活を送ってくれていい」
「ちょ、空条先生!? 確かにばれちゃったのはミスですが、嘘をつくのは良くないと――」
「ならこのまま修行をやめにするか? 2度とチャンスはないと聞いたが」
「あうう、でも~!」
生真面目なネギは承太郎の提案に乗り気ではないが、修行をやめたいかと聞かれたらやめたくないに決まっている。
納得できないという表情をしているが反論が出来ないため、仕方なくその提案を通すことになった。
「うーん、本当ならゴネたいけど、空条先生からのお願いなら仕方ないです。でもそれだと私だけが損してませんか?」
「それなら対価は考えてある。
内容は『神楽坂の悩みやピンチを、わたしたちの能力がばれない程度にサポートする』というものだ。
力は死ぬまで付き纏われるものだが、使用方法さえ誤らなければ助けにはなるからな。これで良いだろうか?」
「人の役に立つために魔法を使うのも修行のうちですから、僕はその提案に賛成します」
魔法を無効化する能力が数奇な運命からネギと承太郎にばれてしまった以上、他の人物にも直に露見する可能性は限りなく高い。
もし悪い魔法使いとやらに情報が流れ、挙句捕まえられてしまった場合、戦闘中の盾扱いにされてしまったり、下手すると実験動物扱いされて解剖される可能性だってある。
そうなる前に明日菜を守るものが必ず必要になってくる。
また女子中学生は多感な時期であるために数多くの悩みがあるだろうことを考え、過程を吹っ飛ばしてでも解決させてやりたいためでもある。
「……仕方ないわね、その提案受けさせてもらいます。いきなり襲われて気付いたら解剖されてたとか嫌だし」
どちらにしてもこのままじゃ埒が明かないということは理解しているので、明日菜は比較的穏便に提案を受けることにした。
頭は弱いが空気は読める乙女なのである。
「ただし! 助けてくれるって言ったんですから、私と高畑先生の仲を取り持つことは日常的に手伝ってくださいね!」
「は、はい! タカミチと仲良くなりたいんでしたら、僕としてもお手伝いしたいと思います」
「ふっ、やれやれだ。倫理的に正しいとは言えないが出来る限り手伝うことにしよう」
こうしてここに、担任2人とその生徒の間に奇妙な同盟が組まれたのであった。
夜の9時を過ぎているというのに、街は店の明かりや街頭によってまだまだ明るい。
思ったより人影も多いが、2月の夜の寒さで身を縮こませているためか数が多いという風には見えない。
そんな中を、承太郎たちはのんびりと話しながら駅へ向かっていた。
「あーあ、街はいつも通りの光景なのにどこか違って見えるわ」
「おそらく認識阻害魔法の効きが弱くなったから、普段は気にも留めていなかった部分が見えているんだろう。
世界樹の方を見てみると良い、違和感が凄まじいことになると思うぞ」
「どれどれ……あーホントだー。よくあんなもんに対して不思議さを感じなかったのか、今更ながら少し怖いわね」
「魔法を悪くばっかり言わないで下さいよー。
知識や経験が必要ですけど、さっき空条先生が言った通り正しく使いさえすれば物凄く便利なんですから」
「ふーん、例えばどんな?」
「掃除を自動でやってくれたりします!」
「うわ、確かに便利よそれ。早朝に新聞配達してる間、木乃香にばれないようにやってもらえるなら助かるわー」
取り留め無い話ばかりであったが、3人の間には少なくとも夕方の時のような険悪さは感じさせていない。
それに明日菜の今の一言で、ネギとの関係に良い兆しが見え始めているのが分かる。
「木乃香さんにばれないようにって……もしかして泊めさせてもらえるんですか!?」
「あくまでも仕方なくよ。
このままあんたを野宿させるのも寝覚めが悪いし、他の誰かの部屋に泊めさせたとしてもそっから魔法がばれたら世話無いわよ」
それに、と言いながらネギと承太郎より前へ出てから振り向く。
「アンタと空条先生は私の事守ってくれるんなら、どっちか片方が私の近くにいた方がいいじゃない?
それに、アンタはほっとくと際限なく魔法をばらしちゃいそうでハラハラするのよ。だから私もフォローくらいしてあげる」
勝気な顔でウィンクをする明日菜の顔はネギにとても近くて、ネギの顔は恥ずかしさから真っ赤になっていく。
承太郎はそんな2人の様子を見て、思ったよりも相性がいいのかもしれないと思っていた。
「それでは今日からよろしくおねがいしま……ふぇ……」
「あれ、なんかどっかで同じことがあった様な。えーと、で……で……デジタルがするんだけど」
「……おしいところまで行ったが間違っているぞ、神楽坂。恐らくデジャブと言いたかったのだろうが、奇遇だな、わたしも同じような事を考えていた」
……のだが、そこはやっぱりネギ・スプリングフィールド、良いところでやらかしてしまうのであった。
「ハクシューン!」
「きゃあー! ああもうやっぱりかー! 洋服が吹っ飛ばないのは良かったけど、それでもパンチラはいやー!!」
「……やれやれだ」
寒空の下、明日菜は風によって捲れ上がったスカートを必死に押さえつけながらネギをはたき、承太郎は承太郎でスタープラチナを使って帽子が飛ばないように押さえていた。
どちらかというとスタンド出してまで風に抵抗する承太郎の方が必死である。
(退屈はしなさそうだが、さてどうなるかな)
また言い合いを始めた2人を見ながら帽子を整え、承太郎はこれからについて思案し始めるのだった。
空条承太郎――ネギ、明日菜と秘密を共有する。
様々な種類の魔法を間近に見て、学者としての好奇心が滾ってきている。
ネギ・スプリングフィールド――承太郎、明日菜と秘密を共有する。
同居人となる明日菜への印象を『乱暴だけどいい人』に変えた。
神楽坂明日菜――承太郎、ネギと秘密を共有する。
この日からネギを同室で泊まらせることを許可した。
だが、木乃香や他のクラスメイトに魔法をばらさないようにする苦労を背負うことをまだ知らない。
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│To Be Continued >
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