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No.19077の一覧
[0] スタンド先生ジョジョま!(ネギま×ジョジョ)【停止】[Tonbo](2016/09/06 21:19)
[1] 導入部  始まりの引力[Tonbo](2013/12/21 13:21)
[2] プロローグ 奇妙な依頼【ここまで改訂】[Tonbo](2013/12/22 11:28)
[3] 1時間目 空条承太郎!協力者に会う[Tonbo](2010/09/19 00:09)
[4] 2時間目 学園長に会いに行こう[Tonbo](2010/09/19 00:09)
[5] 3時間目 魔法先生とスタンド先生!①[Tonbo](2010/09/19 00:10)
[6] 4時間目 魔法先生とスタンド先生!②[Tonbo](2010/09/19 00:10)
[7] 5時間目 魔法先生とスタンド先生!③[Tonbo](2010/09/19 00:10)
[8] 6時間目 魔法先生とスタンド先生!④[Tonbo](2010/09/19 00:11)
[9] 7時間目 魔法先生とスタンド先生!⑤[Tonbo](2010/11/04 14:45)
[10] スタンドデータ①[Tonbo](2011/03/24 20:48)
[11] 8時間目 暗闇の迷宮①[Tonbo](2010/12/06 13:48)
[12] 9時間目 暗闇の迷宮②[Tonbo](2010/12/06 13:57)
[13] 10時間目 徐倫の新たな日常[Tonbo](2010/09/19 00:13)
[14] 補習1回目 New Power Soul[Tonbo](2010/09/19 00:13)
[15] 11時間目 長谷川千雨は普通に暮らしたい①[Tonbo](2010/11/16 23:37)
[16] 12時間目 長谷川千雨は普通に暮らしたい②[Tonbo](2010/11/16 23:51)
[17] 13時間目 誇りと行進曲①[Tonbo](2010/09/19 00:15)
[18] 14時間目 誇りと行進曲②[Tonbo](2010/09/19 00:16)
[19] 15時間目 誇りと行進曲③[Tonbo](2011/02/14 00:51)
[20] 16時間目 誇りと行進曲④[Tonbo](2010/09/27 17:28)
[21] 17時間目 AWAKEN――目醒め①[Tonbo](2010/09/19 00:17)
[22] 18時間目 AWAKEN――目醒め②[Tonbo](2010/12/06 14:13)
[23] 19時間目 世界からの解放――ストーン・フリー①[Tonbo](2010/09/19 00:18)
[24] 20時間目 世界からの解放――ストーン・フリー②[Tonbo](2010/11/08 17:09)
[25] 21時間目 世界からの解放――ストーン・フリー③(大幅改訂)[Tonbo](2010/09/19 00:19)
[26] 22時間目 イッツ・ア・ワンダフル・ワールド[Tonbo](2012/02/20 18:18)
[27] スタンドデータ②[Tonbo](2011/03/29 13:57)
[28] 断章 Missing Link①[Tonbo](2010/09/20 12:18)
[29] 補習2回目 Make or Break[Tonbo](2010/11/08 16:36)
[30] 補習3回目 Someday[Tonbo](2011/04/25 23:48)
[31] 23時間目 桜通りの吸血鬼(ファントムブラッド)①[Tonbo](2010/10/11 23:38)
[32] 24時間目 桜通りの吸血鬼(ファントムブラッド)②[Tonbo](2010/10/18 00:23)
[33] 25時間目 桜通りの吸血鬼(ファントムブラッド)③[Tonbo](2010/12/02 12:03)
[34] 26時間目 桜通りの吸血鬼(ファントムブラッド)④[Tonbo](2010/11/03 23:33)
[35] 27時間目 作戦会議[Tonbo](2010/11/08 16:44)
[36] 補習4回目 What I’m made of...[Tonbo](2010/11/16 22:39)
[37] 28時間目 小さな来訪者[Tonbo](2011/02/23 23:20)
[38] 29時間目 仮契約[Tonbo](2011/03/24 00:33)
[39] 30時間目 英雄と悪者①[Tonbo](2010/12/13 11:46)
[40] 31時間目 英雄と悪者②[Tonbo](2010/12/13 14:06)
[41] 32時間目 それぞれの準備、それぞれの戦い[Tonbo](2011/01/19 11:38)
[42] 33時間目 真夜中の闘劇①[Tonbo](2010/12/26 10:26)
[43] 34時間目 真夜中の闘劇②[Tonbo](2011/07/11 16:00)
[44] 35時間目 たったひとつの冴えたやり方[Tonbo](2011/01/17 15:03)
[45] 断章 Missing Link②[Tonbo](2011/04/13 10:43)
[46] 補習5回目 Kiss On My List[Tonbo](2011/01/25 20:03)
[47] 補習6回目 Bout a Wish[Tonbo](2011/02/08 10:18)
[48] 補習7回目 My Sweet Passion[Tonbo](2011/02/13 11:13)
[49] ここまでの時系列[Tonbo](2011/02/13 13:46)
[50] 36時間目 京都、そして任務[Tonbo](2011/02/24 09:49)
[51] 37時間目 悪夢の超特急①[Tonbo](2011/03/15 17:25)
[52] 38時間目 悪夢の超特急②[Tonbo](2011/04/13 11:16)
[53] 39時間目 悪夢の超特急③[Tonbo](2011/04/11 12:48)
[54] 40時間目 京の街並みの中で[Tonbo](2011/05/16 20:15)
[55] 41時間目 揺れる心・揺るがぬ心(修正)[Tonbo](2011/07/06 11:49)
[56] 42時間目 強襲・復讐・逆襲①[Tonbo](2011/07/13 23:20)
[57] 43時間目 強襲・復讐・逆襲②[Tonbo](2011/08/20 09:54)
[58] 44時間目 『明』/ファースト・ラブ[Tonbo](2011/09/10 18:03)
[59] 45時間目 『暗』/ファースト・ブレイク[Tonbo](2011/10/15 08:27)
[60] 46時間目 騒がしい夜(ワイルド・ハント)①[Tonbo](2011/10/24 11:19)
[61] 47時間目 騒がしい夜(ワイルド・ハント)②[Tonbo](2012/02/21 01:48)
[62] 48時間目 騒がしい夜(ワイルド・ハント)③[Tonbo](2012/02/20 16:38)
[63] 49時間目 迷いの罠と迷わぬ殺意①[Tonbo](2012/02/21 01:48)
[64] 50時間目 迷いの罠と迷わぬ殺意②[Tonbo](2013/12/21 13:21)
[65] 特別講習 バオー“麻帆良”来訪者![Tonbo](2011/04/01 00:00)
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[19077] 12時間目 長谷川千雨は普通に暮らしたい②
Name: Tonbo◆ddbb7397 ID:af78a2fb 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/16 23:51
光に包まれて進んだその先トンネルの先は、何も無い白い空間だった。

何処までも白一色で、僅かな黒ずみさえも確認することは出来無い。

上を見ると天井があるのだが、周囲には地平線が広がっており、その果ては見えない。

果てに見える地平線に丸みが無いため、この空間は完全な直方体で構成されている事だけは分かる。

それと、この空間に何も無いというのは語弊かもしれない。

少なくとも自分たちという存在と、満足に呼吸できるだけの空気はある。

まぁ結局のところ単なる言葉遊びではあるが、そうでも思わなければやってられないというのが承太郎の正直な思いだ。

「……今まで様々なスタンドを見てきたが、割とトップクラスに凄まじい能力だな、これは」

何しろ果ての無い世界が目の前に広がっているのだ。

流石の承太郎でもここまで『異質な空間』は見た事が無い。

空間からは湿度は全く感じず、気温は高くもなく低くもなくといったところ。

今まで走っていた路地の寒さからすると、湿度面以外は些か快適である。

しかしおかしなことに、湿度を感じなくても乾燥しているとは思えないのだ。

(DIOの屋敷の時のような違和感は、ここからは感じない。これが自然な姿なのか?)

空間を変質させる能力は程度はどうであれ、どうしても違和感を生じさせてしまうものだ。

だがこの空間からは、少なくとも何かを変えたような歪さは感じない。

と言っても、そもそもただただ白い空間から異質感は感じているのだが。

それに、どうも生者が住んではいけない気がするのだ。

どうにも機械的というか、それがこの異質感の正体なのかもしれない。

「うわー、広いですねー。もしかして此処があの世ってやつなんでしょうかー?」

「相坂でも分からないあの世が、わたしに分かるはずがないだろう。
そもそもお前はある程度は能力を推測していたし、それに追手から逃れるためにあの世に言ってどうする」

さよはここをあの世だと言ったが、今までの会話から推測した能力からするとその可能性は考えられない。

それはさよも分かっているのか、「冗談ですよー」とぽやぽやした表情で笑っている。

緊張感が足りなさ過ぎるきらいがあるので、スタンド使いとしての教育が必要だなと考えた。

「長谷川、大体予想は付いているのだが一応聞く。ここは一体どこなんだ?」

能力にあたりは付けているのだが、詳しいところは本人に聞かなければ分からない。

そのため、此処に連れてきた本人である千雨がいるだろう方向を見る承太郎だったが、いつもの仏頂面が何故か呆れ顔になる。

理由は、千雨のある意味悲惨な状態のためだ。

「ぜー、ぜー……し、死ぬっ! インドア派に、ゴホッ、50メートル以上走らせるんじゃねぇよ、畜生……。
さっき追いかけてきてた奴らが分かったら、絶対に此処で恥ずかしい目にあわせてやる……」

真っ白な地面から顔を上げる事も出来ず、息も絶え絶えに呪詛を吐く千雨。

最低限のプライドだろうか地面に倒れこみはせず、プルプルと体を揺らしてはいるが四つん這いの状態だ。

その様はどこか生まれたての小鹿を連想させる。

先程の100メートル程度の軽いダッシュでここまで息を上げるとは、もはやもやしを通り越してスプラウト並みの弱さである。

これはもう貧弱具合がインドア派とかそういう次元じゃないと思うのだが。

しかも追跡者に八つ当たりをしようと言うのだからタチが悪い。

何をする気か分からないが、少なくとも何か大切なものを失うようなことであるのは間違いない。

「まぁ、その……なんだ。とりあえず落ち着いてくれ、長谷川」

「……顔の加工かメイクでプライバシーだけは最低限確保するのは良いとして、格好は露出の高い……ブツブツ」

承太郎の頼みは残念ながら聞こえていないようである。








「……!?」

ネギを追跡している人物は、今日の場合は2人いる。

背の高い者と少しだけ背の低い者なのだが、どちらもフードの付いた黒いローブを深く着こんでいるために、表情や性別を見た目から判断するのは難しい。

現在、走りが魔法による強化で速くなっているネギの姿を常に捉え易いように屋根の上へ行き、建物を飛び移りながら追っていた。

そのうちの片方、背の高い方が、突如として感じた妙な悪寒によって急に立ち止まってしまう。

もう一人の追跡者は後ろから付いてくるように走っていたので、あわや激突といった状態だったが、立ち止まった追跡者をさらに飛び越えるようにして避けた。

「ど、どうしたんですかお姉さま!? 急に立ち止まってしまったらネギ先生を見失ってしまいますー!」

「ご、ごめんなさい、愛衣。少し気になる事があって……」

どうやら2人とも女性、それに声色からすると結構若いようだ。

『お姉さま』と片方が呼称されたことから、姉妹なのだろうか?

「……って愛衣、このままじゃ振り切られるから先に行って!」

「は、はい! それでは先に行かせていただきます!」

背の低い追跡者――愛衣と呼ばれた少女――は『お姉さま』からの指示で迅速に追跡を再開するが、その『お姉さま』は立ち止まったまま、先程感じた悪寒の大本を探そうとする。

屋根の上にいるためにこちらを視認できる場所は限られてくるので、それらしい人物が居ればすぐに分かるはずだと思ったためだ。

しかし視認できるだろう場所には誰もおらず、また下に見える道からの視線も感じない。

ただ単に気のせいと捨て置くにもどうにもしまりが悪いが、見つからないものは見つからない。

結局、何の手がかりもつかめないまま一分後には追跡に戻る事になった。

(……何だったんでしょう、とても……とても嫌な感じがしましたわ。
何か後々にとてつもない辱めを受けるような、予感とも言うべきおぞましい何かを……)

だが謎の人よ、その『予感』という認識は間違いだ。

あなたが何かしらの恥ずかしい目に合うのはもはや確定事項であり、これはあらゆる並行世界における不文律なのだ。

この運命はどんなラブトレインでも飛ばす事が出来ず、既に脱出不可能チェックメイトである。

南無。








さて、場面は元の白い空間に戻る。

体から行き場の無い呪詛をありったけ吐きだしてすっきりした顔の千雨、それを見てドン引きしている承太郎とさよがそこには存在した。

気のせいだろうか、この何処までも白い空間の中で千雨の周りだけが黒く霞がかって見えるのは。

『よいしょっと。……ふぅ、演出のために黒い霞プログラムの実行完了しました』

『僕たち偉いですか? ねぇちう様ー!』

訂正、本当に黒い霞が出ていたらしい。

下手人である2匹の可愛い姿形のネズミは、僕らやり遂げました感を小さな体を余すところなく使って表している。

具体的にはポージングレベル2だ、手足が短いから完成はしていないが。

そんなポージングを継続しながら良い仕事したとばかりに目を輝かせる2匹を見て、千雨はゆっくりと満面の笑顔を向けた。

「しらたき、ちくわぶ……お前ら今日の夕飯抜きな」

『『ごめんなさい』』

しかし口から出てきたのは死刑宣告。

2匹はその言葉を受けて迷うことなく土下座に移行した。

千雨はため息をつきながら、土下座している2匹を視界から外して承太郎たちの方に向き直る

「ったく、どうしてこう緩い性格になっちまたんだろうな、こいつら。
……んで空条先生、此処が何処なのかって質問してたよな?」

「……一応聞こえてはいたのか」

「一応な。んで、先生は此処は何だと思うんだ?」

質問を質問で返す千雨だったが、特に気分を害した様子もなく承太郎は周囲を見ながら答えた。

「通常とは別の空間なのは分かるが、何かを介して行うようだったな……推測するに、何かしらの電子機器の中か?」

その答えに千雨は「まー合ってる」と一言だけ返し、両腕を前に出しながら軽く肘を曲げて構えをとる。

すると空中に半透明な二面型のキーボードとディスプレイが現れ、それを高速でタイピングし始めた。

タタタタと一切途切れないタイピング音から、相当のパソコン技術を持っている事が窺い知れる。

その打ち込みには一切の無駄な要素が無く、動作の流れからは洗練された剣……いや、宝石のような鋭い輝きを感じた。

「私の能力を行使するために必要な条件は二つ。
一つ目は、『出入り口として設定する電子機器の電源がその時点で使用できる状態に移行できる』事。
二つ目は、『その電子機器が私の手の届く範囲にある』事」

タタンッ。

気持ちの良いくらい軽快な音を立て、今まで継続されていたタイピングが会話の最後に合わせて途切れる。

同時に、承太郎たちを取り囲むように無数のディスプレイが表示されていく。

ブラウザクラッシュの様に際限なく画面が現れ、すわ此処まで来て攻撃してくる気かと承太郎とさよは戦闘態勢を取る。

「おいおい、気が早ぇえよ。しっかり表示された画面を見ろ、ただのデモンストレーションだ」

そんな二人を見て血の気が多いなと思いながら注意を促す。

確かに良く見てみると、表示されているのはごく普通のホームページや今の時間に放送されているテレビ番組などである。

それらが周り一面に表示された中心、不遜な態度で腕を組んだ千雨はその『力』の在り方を示す。

「私のスタンド名は『プリズム』、能力は『電脳世界に出入り出来る』事。
ようこそ、世界中の夢見がちな奴らオタクが心から入ることを望んだ電脳世界へ」








12時間目 長谷川千雨は普通に暮らしたい②








「さて、こんな状態じゃゆっくり話も出来ねぇな。ちょっと模様替えするから待ってろ」

このまま立ちっぱなしで話をするのは面倒だとでも思ったのだろう。

一体何をするつもりなのかは分からないが、千雨は再度キーボードを操作し始めた。

目測で二十を超えた時点で数えるのをやめたディスプレイ群は一斉に消え失せ、代わりに家具のカタログの様なものが千雨正面のディスプレイに表示される。

いや、カタログと言うよりも箱庭ゲームのエディット画面の方がより近いかもしれない。

先程の操作した際の結果を考えれば、千雨はこの空間に自由に干渉できるのだろう。

模様替えという言葉から察するに、落ち着けるように椅子やテーブルでも出してくるのだろうか。

「一応和装とか洋装とか南国風とか色々設定できるけど、どうする?」

「どうする……と言われてもだな……」

突然に「今日の夕飯、和食と洋食のどっちにする?」みたいなノリで言われても、常識的に考えてついていけない。

「はいはい! 戦前では洋装に馴染みが無かったので、洋装でお願いします!
それと、もし出来るのなら物語に出てくるようなお嬢様チックな物が良いです!」

……お構いなしに注文できる者が居たようだが。

まぁ、さよにとっては誰かと触れ合える機会があれば積極的に行きたいんだろう。

長い間の孤独から解放されたのだ、これくらいはしゃいでも罰は当たらない。

そう考えて、承太郎も千雨も特に何も言わなかった。

「……あいよー。という訳でプリズム、外のネギ先生が女子寮に着くまでそんなに無いから、七人全員で働きな。
それと、構成待ちついでに各自の自己紹介しとけ」

そう言いながらまたキーボードをたたきだす千雨。

指示を受けて横一列に並んだ七匹のネズミ達は、それぞれ承太郎たちの前に一匹ずつ出て挨拶をしていった。

『はいです! 僕はだいこんです、よろしくー』『うう、しらたきです』『きんちゃくともーしますー』『……ちくわぶです』

『ねぎなのだー』『はんぺんです、以後おみしりおきをー』『こんにゃくでーす』

「うわー、とってもかわいいです。私もこんなスタンドが良かったなー」

元気良く挨拶してくるプリズムの姿は、可愛いものが大好きな女子中学生にはたまらないものがあるのだろう。

ただし、夕飯抜き宣告をされた二匹は元気が無かったが。

それは一先ず置いておいて、さよは我慢できなくなったのか、だいこんを手元に持っていって撫でまわしている。

ちなみに「良ぉおーーーしッ!よしよしよしよしよしよしよしよしよし」という狂気じみた撫で方ではなく、普通にハムスターの撫で方である。

撫でているさよも、撫でられているだいこんも非常に気持ちよさそうな顔をしている。

その様子を見て『次は僕ー』とか言って他のプリズムもさよの前に順番待ちしている始末だ。

そんな風に代わる代わる数分間撫でていたのだが、千雨の作業が終わった様で終了となった。

「んーっと、こんなもんかな。ほらプリズム、気持ち良いのは分かるが準備しろー」

「ええー!?」

「いや相坂、ええーじゃねぇよ。こちとらいい加減立ちっぱなしなのが辛いんだよ。
お前らも名残惜しそうにしないでさっさと準備だ」

『……了解しました』

「ほー、余程夕飯がいらな『準備完了しました!!』よろしい」

見事な飴と鞭によって一瞬でプリズムを自らの周囲に配置させる。

今正に撫でられていたこんにゃくも、どういう原理か分からないが一瞬でさよの手から抜け出していた。

ミスタに、というかセックス・ピストルズに見せてやりたい光景だ。

……見せたところでどうにもならないだろうが。

「さーてさっさとやるぜ。このフィールド構成プログラムをコンパイル完了後にすぐ起動だ」

先程まで操作画面となっていたディスプレイが球体へと転じ、宙に浮かぶそれをそれを取り囲むようにプリズムが飛ぶ。

取り囲みながらプリズムは、各自のサイズに合ったディスプレイでプログラムを動かし始めた。

『はーい! 念のためのデバッグかんりょー』 『異常無ーし!』 『コンパイル開始します』 『3……2……1……コンパイル完了しました』

しらたき、はんぺん、だいこん、ねぎがプログラムを使用可能に出来るよう調整を行う。

『お客様たちの居る範囲にプログラムの適用をしないように実行しますー』 『空間が揺れます、注意ー!』

ちくわぶとこんにゃくが承太郎たちに悪い影響が及ぼされないように環境の設定をする。

『箱庭プログラム、起動しまーす』

最後にきんちゃくがプログラムを起動させた。

余談ではあるが、きんちゃくだけ楽そうに見えるが、パソコンのCPU代わりなので一番負荷がかかっていたりする。

それはそれとして、プログラムが起動されると承太郎たちの居る場所以外が急激に変化していく。

端的にどう変化しているのかと言えば、真っ白い空間が某不思議の国に迷い込んだ少女のお茶会シーンになったのである。

周囲は森に囲まれ、テーブルの上には紅茶のポットやケーキが乗せられているが、どうも見た目だけの背景データ扱いの様だ。

「そんじゃま、ここに座って話そうぜ。洒落た紅茶なんてのは出ないがな」

そんな様子の変化に慣れ切っているのか、千雨は特にリアクションも見せずにとっとと高級アンティークのようなの椅子に座る。

「……確かに相坂の要望通りの内容になったな」

「すごいです! 長谷川さん、ありがとうございます!」

承太郎は能力のスペックにほとほと呆れているのだが、対照的にさよはテンションがうなぎ登りだ。

ここら辺が若さの違いなのかもしれない。

……冷静に考えてみるとさよの方が年上だが。








「さてと……何から聞きたいですか?」

そこまで大きくないデザインテーブルで三人は席に着き、やっと話し合いの出来る体勢となった。

アリ○のお茶会な感じなので、何処までも話し合いに向かない空間ではあるのだが。

「……まずはスタンドの覚醒した時期だな。それと、この場は学校とは関係ないから敬語はいらん」

「あー、了解。でも聞くのはやっぱりそっからだよなぁ」

ぽりぽりと頬をかき、若干言いづらそうにする。

結局のところ、スタンド使いはそれを見る事の出来ない一般人には理解されないものである。

そのためか、スタンドの覚醒で周りとの調和がとれなくなったり情緒不安定になってしまうことが多いのだ。

そんな状況は本人にとっては忘れたい事柄になってしまうため、とにかく話したがらない。

承太郎だって暴走したスタープラチナを悪霊だと勘違いして、周りに迷惑をかけないために警察に厄介になったのは当時の仲間にすら隠している黒歴史になっているほどである。

「まぁ聞きたい事を言わせたのは私だし、話す事にするわ」

話したくないですと言うオーラを出しながらも律義に話し始めるところから、意外に真面目なのか。

飲み物の入っていない飾り物のティーカップを弄びながらその先を紡ぐ。

「まだスタンドを知覚していないものの、良く分からないまま能力が発動したのは麻帆良に来る前の5歳くらいの頃だったな。
ほら、1997年に起こった世界規模のサイバーテロがあっただろ? 多分相坂には分からないと思うけどさ」

確かにそのような事件があった事を露知らないさよは恐縮してしまう。

「あうう、確かにその当時はずっと教室に憑いていたから、学校周辺で起こっていることしか分からなかったんです」

「大丈夫だ相坂、わたしが概要だけ教えてやる。
『SPIDER』というコンピュータウィルスによって全世界の発電所や経済ネットワークに影響を与えた事件があってな。
これによって発生した損害は結構な物で、ネットワークシステムの発展に力を入れざるを得ない事が分かった教訓とも言うべき事件だ」

突如発生し、急速に解決したこの事件。

皮肉にもこの事件によってインターネットが注目されブームを巻き起こしたので、IT革命の起爆剤とも言われているのである。

「ちなみに解決したのは当時の最高レベル女性型AIだぜ。
ただ意図しないとはいえ、AIとウィルスが戦ってる部分が全世界の映像を表示できる機器で流されてたんだよ。
あれはまずいよなー、誰か一人でも録画してたら今でもアウトだったし」

「……? 流れていた映像はわたしも見たが、その話はわたしも初耳だな」

「ん? まぁちょっと知り合いが事件関係者だったから、詳しく当時の状況を聞いてな。
それよりも能力が発動した事だろ? 続けて良いか?」

「ああ、頼む」

承太郎としてはそこの部分を掘り下げたかったようだが、機会はまだあるので後々に回すことにする。

「その戦っている映像を親のパソコンで見ててさ。当時の私は何を思ったのか、『戦っているお姉ちゃんの応援に行く!』って強く祈ったんだよ。
そしたらパァーッと眼の前が光って、気付いたら画面と同じところに居てなー。まぁものの十秒くらいで元居た部屋に戻ってたけど」

「無自覚の能力行使か。確かジョルノにも同じような事があったと……ああ済まない、こちらの話だ」

生まれついてスタンド素質が高いものは、スタンドが見えなくてもその能力に出来る事であれば無意識に発動させる事がある。

この場合は理解していないままに、電脳空間へ直にAIの応援に行こうとしたのだろう。

「で、そんなこと親に言っても信じてもらえる訳もないし、寝ぼけて見た夢なんじゃないかって当時は考えた訳よ」

今度は飾りのリンゴをぽんぽんと放り投げながら話を続ける。

もしかしたら何かをいじって無いと落ち着かないのかもしれない。

「……スタンド能力を自覚するに至ったのは、麻帆良学園小等部1年になってからだ。
覚醒理由は簡単だよ……私の言動が周囲に理解されなかったから」

「それはまさか……」

「考えてる通りだよ。
『スタンド使いは認識阻害が効きづらい』から、私が認識できる異常を誰もが気のせいとか見間違いとか言いやがったんだ」

パリンと、この場に似つかわしくない音が鳴る。

発生源は千雨の手で、リンゴをかたどっていた物は今やドット状に分解されていた。

「大体普通に考えておかしいだろ! 何なんだよ、車より早い人間とか人型ロボットとかさ!
いちいちあれがおかしい、これがおかしいって指摘したら駄目か!? ああおい、人を狼少女扱いしやがって!
『車より速い人なんか居るに決まってるじゃん』とか『あの子がロボットに見えるとかおかしいよ』とかお前らがおかしいわ!
友達だった奴らも教師も、挙句の果てに両親すら胡乱気に私を見てくる始末だしよ! てめぇらについてるその両目をちゃんと機能させやがれ!!」

……どうやら相当腹に溜めこんだものがあったらしく、完全にプッツンしてしまったらしい。

承太郎たちが居るのにも構わず、テーブルの上にあるオブジェクトを片っぱしからデータに戻しているこわしている程だ。

仗助と同じで周りが完璧に見えていない様子である。

話を聞いている限りでは、おそらく認識阻害結界の効果が薄かったため、麻帆良で起きている全ての異常をしっかりと感知出来てしまっていたが故の悲劇だったようだ。

周りに合わせて認識を鈍らせればよかったのだが、どうしても納得がいかなかったのだろう。

千雨は子供ながらに朱に交わろうとせず、自分の色を貫いたのだ。








「はぁ、はぁ……。あー悪い、取り乱したな」

プッツンしたまま時間が経過するものと思いきや、サザエさんヘアーと違って速い時間で再起動を果たした。

発散するのは慣れているのだろうか、既にすっきりとした表情を見せている。

「まーそんな環境だったせいで学校に行っても面白くもなんともないしさ。
家にこもってパソコンとにらめっこする日々が続いた訳よ」

「パソコンとにらめっこ……そんな機能があるんですね!」

瞬間、空気が凍る。

「……相坂、シリアスな部分だから少し喋らないでくれるか?」

「え? あの、空条せ「相坂?」わ、分かりました!」

有無を言わさずに眼力でさよの発言を押しとどめる。

このファインプレーには機嫌の悪い千雨も思わず親指を立てた。

「そんで、ちょっと辛くなって部屋で泣いてた時があってよ。『私が正しいのに、何でみんな見て見ぬふりをするんだ!』ってな。
そしたら私以外誰もいないはずの部屋で、急に私を慰める声が聞こえてきたんだ」

『それが僕たちプリズムの誕生の瞬間だったんでーす』

「なるほど、強い感情によって覚醒か。この場合は『不条理な現実への反抗』がキーになっているな」

ただ能力を考えると、『誰にも理解してもらえない現実からの逃避』の心での覚醒かもしれないが、こればかりは本人にしか分からないだろう。

いや、もしかしたら本人でも良く分かっていないのかもしれない。

自分の精神ほど分かりやすくて理解しづらい物は無いのだから。

『でも生まれて初めてした事が本体を泣きやませる事だとは思いませんでしたね』

『『私の友達になってくれるの?』とウルウルした眼のちう様は可愛らしかったですよー』

「わー! そこまで詳細な事を話さんでいい!」

プリズムの余計な一言によって真っ赤になりながら怒るが、いじられ慣れていないのか勢いが無くなっている。

承太郎たちは微笑ましい目線を送るだけだった。








「はい、この話終わり! 次の質問!」

未だに真っ赤な顔を継続させたまま、千雨は怒っているのか恥ずかしいのかいまいち判断しかねる状態だ。

でもこの場合は後者だと思う。

「次の質問はですね、一応能力を詳しく知りたいんですけど」

「……一応聞くが良いのか、長谷川?」

何となく今の雰囲気なら話しても大丈夫だと思ったさよが、普通ならスタンド使いに聞いてはいけない質問No.1を出す。

スタンド使いが能力を知られることは弱点を知られることと同義なためだ。

しかし今回に関しては既に千雨の方から能力を明かしても良いとのことなので聞いたのだ。

「別に構わねー。走ってるときにも言ったけど、私のプリズムには戦闘力は無いんだよ。
いや、この空間に連れてくれば戦闘とか出来るんだけど、正直そんなことしている間にボコられて終了だからなぁ」

肩を竦める長谷川と、恐縮して縮こまるプリズム達。

どちらにしても余りにも戦う気概と言うものが感じられなかったので、承太郎は真意を探るまでもなく言葉に嘘が無い事を理解していた。

「さっき簡単に説明した通り、私の能力のメインはあくまでも『電脳世界への出入り』だ。
オプションとして、この空間に干渉できる特殊なキーボードとかディスプレイを出せたりするけどな。
でも実際の作業とかは自分自身のプログラミング技術とか、プログラム構成を頭で理解してないと駄目だったりするんだ」

『だからこそ僕たちが居るんです!』

『ちう様がまだまだ未熟だった頃は、あれやってこれやってというのを代理でやってたんですよー』

どうだ偉いだろうと胸を張ってるが、体が小さくて迫力が無いし、何より小動物的可愛さの方が勝っていたのでシュールだ。

「それなら今展開されている空間の設定は……」

「私がちゃんと作ってるぞ。ただこの空間に合うようなコンパイルが通常用だと出来ないから、最後にはプリズム頼りになるけどな」

事も無げに言うが、ただの女子中学生がここまでプログラミングできるのは異常ではないだろうか。

「ちなみにハッキングもクラッキングもプログラミングも、超優秀な『先生』と『師匠』に教えてもらったから結構なレベルで出来るぜ?
日本の国家施設設備くらいなら気付かれずに進入出来るから、そんな訳で麻帆良のデータベースに侵入するのは朝飯前ってこと」

「ほう、それくらい出来るならSW財団が情報部の人材として欲しがりそうだな」

「……そういえば空条先生ってSW財団がバックに付いてるんだっけか。んじゃあ就職先が決まらなかったら世話にでもなるかな」

そうすりゃ楽できるなんて言いながら笑っているが、SW財団はS○NYやMicr○softに入るよりも倍率が厳しい企業として有名だ。

入社試験に合格した者が落選した者から逆恨みで殺されるという事件まで裏では起きている程の価値なのに、ずいぶんと気楽に考えるものだと承太郎は逆に感心した。

(ふむ、それなら人材部の者にしばらくの間一枠を開けてもらうか)

この時、まさか冗談半分で言った言葉で、後々に本当に財団に入る事になるとは千雨は全く思っていなかったのだった。








「それではこちらからの質問は次で最後だ」

経過した時間を考えると、そろそろ外で疾走しているだろうネギ先生が女子寮に着く頃だ。

とりあえず知っておきたかった能力の詳細を聞けたので、他に聞きたい事は本来なら無かったのだが、今までの会話からどうしても一つだけ気になる事があったのだ。

「……どうしてプリズム達に『ちう』という名前で呼ばれているんだ?」

「あー、それはわたしも気になりましたー」

「う……それについてはちょっと。……絶対に話さなきゃ駄目か?」

此処に来て初めて、千雨が話したがらないという事態になった。

これはスタンド能力という一番ヤバい情報をあっさり明かした千雨らしからぬ反応だ。

「いや、話したくなければ別に――」

『別に良いんじゃないですか、ちう様。平仮名で『ちう』って入れて検索しちゃえば、一発で判明しちゃうんですから』

『謎のベールに包まれたNo.1ネットアイドル! その正体は長谷川千雨様なのです!』

「おあーっ!? 何勝手に暴露して……ってコラァー! わざわざサイトを晒すじゃねぇ!」

承太郎は別に良いと言おうとしたのに、勝手にプリズムがテンションを上げて盛大に暴露しだした。

慌てた千雨が何処からともなく出したハリセンで暴露した2匹をスパコーンと叩くが、残っているプリズムが千雨のサイトを空中に表示させていってしまう。

これがもう出てくる出てくる。

一般的(?)なメイド服やバニーガールといった衣装から、おそらくアニメ作品のキャラクターであろう衣装まで山のような画像ページが羅列されていく。

幾つかは世間の流行りなんて全く知らない承太郎とさよで良かったと思える作品のキャラの恰好までしている始末である。

主に日曜日にやってる作品とか。

まぁ作品の内容が分からなくても感じ取れる部分はある。

「……綺麗だとは思うが、周りにばれないようにすることだな」

「大丈夫ですよ、長谷川さん! これだけ可愛いならクラスの皆に見せても恥ずかしくないですって!!」

「……先生、お褒めの言葉と御忠告ありがとうございます。だが相坂、お前は駄目だ。どう考えてもこんなん見せたら私が恥ずかしいわ!
何より、私はあの変態の巣窟なクラスに馴染みたくないんだよ!」

千雨はあまりの怒りにうぎゃーと頭をかき乱し、未だに作業を続けるプリズムへ向かって何処からともなく取りだした大鎌を振りかぶる。

おそらく攻撃プログラムなのだろうが、プリズム達を攻撃して自分に反動は出ないのだろうか。

キャーキャー言いながら逃げるプリズムを追いかけながら、千雨は明日菜も驚いてしまうんじゃないかという声量で叫び声を上げた。

「私はあくまでも平穏無事に、普通に暮らしたいんだよー!!」

おそらく、その言葉はスタンド使いである限り無理だろう。

つまり死ぬまで出来ないという事だ。

「人の夢と書いて儚いんですよ」

「相坂、お前が言うと非常に意味が重いし、何より長谷川の前で言うな。本気で消されてしまうぞ」

幸いにして、聞こえていなかったようである。
















「あれ、なんだろう……時の向こう側が見えます」

「はーい、お疲れさん。んじゃ、私は部屋に戻るから」

現在、麻帆良女子寮の玄関部分。

電脳空間組はネギが到着したのを見計らって帰還し、ちょうど玄関で分かれるところだ。

ちなみにネギは追手を撒く事に成功したようだが、余りの疲れに見てはいけない様なものを見ている状態だ。

魔力で体を強化しているネギでも全力で走り続ければ疲れるのは当たり前なのだが、この時点では魔力の調節が甘いために余計疲れているのである。

しかしそんなヤバげなネギをスルーして部屋に戻ろうとする千雨は血も涙もないというかなんというか。

「だ、大丈夫ですかネギ先生!? あうう、長谷川さんも部屋に戻らないでくださいー!」

「嫌だ。私は魔法使いが大っ嫌いなんだよ。まー認識阻害を取っ払ってくれれば好きになるかもな」

バッサリと切り捨てて部屋に戻ろうとする千雨だったが、何かを思い出してネギの方へ振り向く。

「そーいやネギ先生ってパソコン持ってます?」

「あはは、ここが幸福な世界なんですねー。……ガクッ」

「ああ、ネギ先生!?」

「…………。(サッ)」

どうやら疲れが頂点に達したせいで意識が飛んだらしい。

流石にこれには罪悪感が出たのか、千雨は目を逸らして見なかった事にしようとする。

気絶して答えられなくなったので再度、しかもそそくさと帰ろうとするものの、今度は承太郎が声をかけた。

「……ネギ先生がノートパソコンを持っているのを見た事があるが」

「あ、ああ分かった。そんじゃ、さっきまでの会話をムービーで送っとくから、説明に関してはそれでチャラってことで、メンドイし」

「了解した、後で伝えておこう。アドレスは――」

「アドレスは聞かなくて良いのかとか愚問ですよ。相手を指定さえすれば、後はプリズムがやってくれますから」

『おまかせー』

「……そうか」

つくづく、この情報化社会において最強の能力なんじゃないかと承太郎は思う。

戦闘も苦手と言っていたが、不意を突かれて電脳空間に強制移動させられた後、デリート処理でも適用させられたらどうなる事か。

……多分「面倒くさい」とか言って戦闘せずに真っ先に逃げるだろうが。

「ならこれで用事は済んだな。それでは、私は帰るとしよう。ネギ先生については相坂に任せても大丈夫だな?」

「はい、長谷川さんの時と同じように運んでいきます。神楽坂さんたちの部屋で良いんですよね?」

「その通りだ、よろしく頼む。それではまた明日、調子が良かったなら教室でな」

そう言って承太郎は女子寮を後にした。

残されたのはこっそりポルターガイストを利用してネギを軽々持ち上げるさよと、心底疲れましたと表情に出している千雨。

「……帰るか」

「はい、それではまた」

女子寮の寮監さんに挨拶をしながら、2人はそれぞれ行くべき部屋に向かうのだった。

しかしこの時のさよの発言について、千雨はもっと意味を推し量るべきであった。








「あー疲れた。さっさと飯食って寝たいわ」

行儀悪く大口を開けて欠伸をしながら部屋に戻ってきた千雨。

なんだか色々あり過ぎて、明日の学校はサボりたい気分である。

(調子が悪いって言って休もっかな。徐倫だったら口裏合わせてくれそうだし)

靴を脱ぎ捨ててリビングのドアを開けると、もはや見慣れた光景になっているソファに寝そべる徐倫と既に用意された料理、そして妙に大きな荷物が千雨を出迎えた。

「あー、お帰りー。 悪いわね、先に帰っちゃって。
本当なら同室の私が一緒に居た方が良かったんだけど、部屋の掃除とか食事の用意とかあったから別の人に頼んじゃって。
お詫びの印に弱った胃でも食べれるようなもん作っといたから」

「の割にゴマ油の香りが……あー中華粥か。普通の粥って好きじゃないから良かったわ」

「おかずも軽いのにしといたから、もうチョイしたら食べましょ」

「あ? なんで今すぐじゃないんだ?」

「いいからいいから、とりあえず席についといて」

何故かは分からないが徐倫が妙に機嫌が良く、されるがままに食卓に着く千雨であったが、何かこのままじゃヤバいと頭の中で警報が鳴っている。

このまま何もしなかったら絶対に後悔するというのは感じ取れるのだが、もはやどう動いてもどうにもならないという確信の方が強い。

そもそも考えてみたらそれらしい事はあったのだ。

『朝一に話しかけて来たり』、『保健室に連れてってくれていたり』、『帰り道を一緒にしたり』と、向こうからの接触は妙に多かった。

今思い返してみると朝の時にわざわざ話しかけてきたのも、何か伝えようとでもしたのかもしれない。

極めつけは『不自然に運び込まれている荷物』だ。

最近これと似たような状況を見たはずだ。

そう、今月初めに合った徐倫の入室の時に。

やっぱり夕飯を食べないで寝ようと思って立ち上がろうとした瞬間、ピンポーンというありきたりなインターホンの音が部屋に響く。

先程別れたタイミングを考えると、確かにこれくらいのラグはあるだろう。

「さよでしょー? 鍵開いてるから入ってきていいわよー」

「お、お邪魔しまーす」

やっぱりというか何というか。

大方の予想通りに、入ってきたのは相坂さよであった。

「千雨はさよの事よく知ってるんだっけか。なら自己紹介とか大丈夫よね。
という訳で、今日から『同じ部屋』だから仲良くしましょ」

「待て、いや待って下さい。つーかどういうことだよ相坂ァ!」

納得のいかない千雨ではあったが、徐倫の発言から既に内堀まで埋められている事は察してしまっている。

つまりは悪あがきである。

「いやー、すっかり話すのが遅れちゃいましたけど、今日から私はこの部屋で過ごすことになったんです!
よろしくお願いしますね、長谷川さん」

「休学から復帰したのは良いけど部屋が決まって無くて、それで昨日は仕方なくあいつとママが住んでる家に泊ってたらしくてさ。
そしたら和食が大得意なのが判明して、それなら『徐倫に美味しい和食をを食べさせて、ついでに教えてあげて!』ってことでママにここに入るのを勧められたんだって。
丁度良いじゃん、ここって元々三人部屋だから余裕があるし」

「……もうどうにでもなってくれ」

もう駄目だ。

そう完全に理解した千雨に出来る事は、慣れることと諦める事だけだった。

(もしどっかにいやがるんだったら神様、私に普通の暮らしを下さい。もしくは死んでください)








『引力』は空気を読まずに厄介事を引っ張る。








長谷川千雨――突然増えた同居人のための心労で、次の日学校を休む。
          体調が戻ってからは電脳空間にあるスタジオで、うっ憤を晴らすために片っぱしから衣装データを着て撮影を行った。
          その後1ヶ月間はブログランキングで、2位との差を2倍以上付けてぶっちぎり1位を独走した。

相坂さよ――千雨&徐倫の部屋にIN!
        千雨の能力を使えばイタリアに毎日のように行ける事を知ってからは、事あるごとに能力の使用を迫るようになる。

空条徐倫――千雨とさよの様子から仲は良好と判断。
         後日、さよの作った和食を食べて「……ママの作る和食より美味しい」と言ったらしい。

空条承太郎――数日後から妻が作る和食が増えたことに困惑。

ネギ・スプリングフィールド――目が覚めたら風呂場で、明日菜に頭を洗われていた事に困惑。


┌―――――――┘\
│To Be Continued   >
└―――――――┐/  

後書き:
ちょっと話のつながりが悪い部分があったので11時間目もちょこっとだけ本文が変わってます。

あれ?と思われたなら、いったん別窓で開いてみてください。


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