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No.1904の一覧
[0] 虚仮威し(H×Hトリップ)[とくな](2006/05/20 10:49)
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[1904] 虚仮威し(H×Hトリップ)
Name: とくな
Date: 2006/05/20 10:49




 ステーキ定食を全部食べきったのは間違いだったかも知れない。
 少しもたれ気味の腹具合にそんな事を考えながら、それでも久しぶりのまともな食事だったから、まぁ良いだろうと思い直す。
 大衆食堂の一室がエレベーターになっていた事自体に苦笑して、青年は部屋を後にした。
 薄暗い中にかなりの人数がいるのを見て取り、同時に今いる場所が地下トンネルの仲田という事に気付いた。
 一呼吸置いて、周囲から一瞬向けられた視線に、少しだけ背筋が粟立った。
 170センチという長身で細身、濃紺色のスリーピースという自分の姿は、其処に立つ人々からすれば少しふざけた格好に見えるのだろうと見当をつける。
 ふっと視線を逸らされて、軽く安堵の息を吐いた。
 垂れ気味の目と基本的に大振りな顔のパーツのおかげで、穏和な印象を与える自分の顔立ち、そのおかげなのだろう、さほど高い能力を持っていないと見なされたはず。
 そこでやっと余裕が出来て、青年は周囲に軽く視線を向けた。
 此処に来るまでの間にも、かなりの数の受験者達を見かけてきた。
 殆どは一般人に毛が生えた程度の者ばかりで実際此処に来るまでにリタイアしている。
 だから、此処に来る事が出来た洞察力や思考力、実際に見て取った身体能力からすれば、普通の職業に就けば、即一流と呼ばれるであろう力を持っているのだと判断できる。
 それだけの力量があってなお、ハンターになりたがる事が理解できない。
 そんな洞察を続ける気もなくなって、高い天井を見上げる。
「……ふぅ」
 そして、青年・タカアキ=ムラセは、何処までも深いため息を吐き出した。
 こんな所に来てしまった自分に、来なければならなかった状況に、ため息を吐く事しかできないのだ。
 元々、タカアキにはハンターになるつもりなど毛頭無かったのだから。
 『此処』に来てから、念を覚える課程で幾度か手伝わされた師の仕事。
 それで知らされた。ハンターの世界では命が呆れるほどに軽いのだと。
 死にたくなかったから、生きて『還り』たいから。
 だからこそ、念能力を覚えて、ハンターとは出来るだけ関わり合いになりたくなかった。
 …………それでも、
『ハンターでなければ手に入らない情報があるし、入れない場所がある、許されない行動があるんだぜ?』
 師の言葉が心に浮かび上がる。
 それが真実だと解っていた。
 どうやら世界でも名うてのハンターであるらしい師の行動は、どう考えても法規に反する行動が多かったのに、捕まるような事は一度もなかったから。
 それでも、できればハンターになど、なりたくはなかったのだ。


「や、お兄さんハンター試験は初めてかい?」
 物思いに沈んでいたところに不意に声をかけられて、タカアキは顔を上げた。
 小柄で小太り、団子鼻の無精髭を生やした男が此方を見上げている。
 それが自分の防御範囲のぎりぎり外側だという事に、少しだけ安堵した。
 其処より内側に入ってこられて、しかもその事に気付けない等という事になれば、命を落としても誰にも文句は言えないのだから。
「俺はトンパ。ハンター試験のことなら何でも聞いてくれ、何しろ三五回も受験してるんだからな」
 そう言ってニコニコと笑うトンパ。
 その笑顔はあまり悪い物にも見えなくて、タカアキも笑顔を見せる。
「三五回ですか、凄いですねぇ」
 だから、何となく思った事を思ったまま口にする。
 ハンター試験にも命の危険が付き物だと、師には聞いていた。
 だから、三五回の間に命を落としていなかったという点だけでも、トンパはそれなりの実力の持ち主なのだろうとそう思えた。
 逆に、それだけの能力があるのならば、ハンターに拘らなくてももっと良い仕事に就けるのではないかと、そんな事も思ってしまう。
「しかし、そんなにまでして、ハンターになりたいモノなんですかね?」
 だから、気がつけばそんな言葉を口にしていた。
 危険極まりない世界に、足を踏み入れたがる人間の気が知れない。
「そんな事は当たり前だって。お兄さんだってハンターになるために来たんだろ?」
 そう言ってにやりと笑うトンパに、曖昧な表情で頷く。
 ……自分のように、ハンターになんてなりたくないと思っている人間の方が、『此処』では少数派だという自覚があったから。
「ま、それは於いといて、お近づきの印って事でジュースでもどうだい?」
 にこりと笑ったトンパが、懐からジュースの缶を取り出して差し出してくる。
 それは『此処』ではかなり有名なボンジュースの二五〇ミリ缶で、タカアキ自身かなりお気に入りのもの。
 それにさっきの食事でまだ口の中に肉の味が残っている気がして、飲み物が欲しいとは思っていた。
「ん、いや遠慮しとく」
 だが、そんな好意を受け取るには、タカアキは念の世界に浸りすぎていた。
 手渡した食べ物や飲み物を口にさせる事が発動条件となる念能力の存在も、絶対にないとは言い切れないと知っていた。
 一見したところ、トンパのオーラは常人レベルで念を覚えているようには見えない。
 だが、見ただけで解らないようにしているのはタカアキも同じ事だった。
 呼吸するように意識することなく纏を行えるタカアキだが、今の様に念能力者がいるかも知れない現状では、そんな事をする気にはなれない。
 念能力者だと気付かれれば、どんな目に遭うか知れたものではないのだから。
「別に遠慮する必要はないって」
 ニコニコと笑顔のまま差し出してくるトンパに、無言で軽く首を横に振ってみせる。
「……まあ、本気でいらないってんじゃしょうがないか。じゃ、俺はちょっと他の所行ってくるから、縁があったらまた後でな」
「それじゃ、縁があれば」
 軽く手を振って別れ、それから溜めていた息を吐き出した。
 ……正直、人との接触は苦手だった。
 どれほどそっくりに見えていても、自分とは違うのだと解っているから。




 暗闇の中、時間の経過も解らぬままに、タカアキは気息を整える。
 何があっても即座に反応できるように。
「ぎゃぁああああっっっ!!」
 そして、いきなり聞こえてきた悲鳴に、慌てて視線をそちらに向けた。
 二の腕の半ばから先を喪った男性が、跪いていた。
 なのに血は吹き出ておらず、その事にまず訝る。
 ……凝で見ればなにか解るかも知れない、そう思いながらも不意に聞こえてきた声にそんな気持ちは霧消した。
「……さぁ……仕掛けも…………」
 その声音は陰惨な喜びに濡れていて、その言葉を放った男は、形容しがたい格好で嬉しそうに笑っていた。
 右頬に星、左頬に涙の様なペイントを入れた男の不気味な笑みに、背筋がざわりと粟立つ。
「ヒソカだ……」「今年も来やがったのか……」「…………関わりあいにならねえ方が良いぞ」
 ひそひそとざわめきが漏れ聞こえ、男がヒソカという名前だと知る。
 だが、そんな些細な事よりも、念能力者であることを誇示するかのように悠然と纏をしてみせる事に、まず怯えた。
 この場所で纏を行って念能力者を刺激すると言う行為だけで、他の念能力者を歯牙にもかけていないのだと理解できたから。
 その後に来たのは、そのオーラの質と量に対する感歎だった。
 ただ纏を行っているようにしか見えないのに、自分が堅を行った時よりもなお強固に感じられた。
 そして、最後に得たのは、紛れもない恐怖。
 ヒソカのオーラからは、まるで血に染まりすぎてどす黒くなったような、不気味な印象を受けとったから。
 だから、必死で間合いを取った。
 どんな試験があるのかは解らないが、もし候補者同士でやり合う状況にでもなれば確実に殺される。
 それが理解できる自分に、だが立ち向かえるレベルにはほど遠い自分に、思わず泣き言を言いたくなる。
 纏をしていなくて良かったと、心からそう思った。
 あの男なら、あの程度の距離でも此方の纏に気付いていたはず。
 何の理屈もなく確信して、また深いため息を吐いた。
 あんな化け物じみた相手がいる以上、ハンター試験不合格は確実だろうなと、そう思ったから。


 …………ふぅと、もう一度ため息を吐き出す。
 今更じたばたしても何も始まらない。
 師の言ったとおり、ハンターにでもならなければ、きっとこのまま取り残されるのだから。
 ……探すべき能力は理解していても、探すべき相手がはっきりしていない。
 ハンターの情報網は緻密で正確だと聞いているから、今はその言葉に望みを託すしかないのだ。
 例え、一縷の望みでも、全く何もないよりはマシだから。
 もう、これ以上悩むのは時間の無駄だと、そう思い切る事に決めた。
 その瞬間。
「……でさ…………」「……ふ~ん……」「なるほど……ということか……」
 ふと、先ほどのざわめきとは違うタイプの囁きが、耳に聞こえてきた。
 何となく。
 本当に何となく。
 そのうちの一人の声に聞き覚えがあった気がして、タカアキは視線をそちらに向ける。
 最初に目についたのは、異様な長身にスーツを纏った青年……と言っても、二十代前半くらいだろう。
 小さな丸眼鏡状のサングラスをかけて、手に持つのははハードアタッシュケース。
 念能力者では無いのだろうが、それでも見て取れるオーラの総量はなかなかの物。
 念を覚える前の自分と比べてもまだ多いと、そう感じられた。
 次に、金髪の青年……と言うには少々若いように見える相手に視線を向ける。
 一見女性的とも思える美貌にどこか民族衣装じみた服装と、町中を歩いていても相当目を惹かれるであろう相手。
 ただ、オーラがいまいちはっきりとしない。
 強い事は一目で読みとれた。念を覚えれば、必ず一流と呼ばれるであろうとそう思える。
 なのに、すこし違和感がある。
 その理由がはっきりしないまま、最後の一人を見つめて、心臓が妙な音を立てた。
 二人の間に立って、楽しそうに話している少年。
 『此処』に来た頃の自分と多分同じくらいの年齢。
 そんな事よりも重要なのは、その顔立ちと纏っている空気が、師によく似ていた事だった。
 まさかという想いが最初に来た。
 聞いていた。
 師に、子供がいる事は。
 そして、言われていた。
 もし師の子、ゴンに出会っても自分の事は絶対に教えるんじゃないと。
 師の言に逆らって、まともな目にあった事は一度もない。
 だから従うつもりではいたが、きっと出会う事はないと初めからそう思っていた。
 なのに、今、すぐ傍にいる。
 少し慌てて少年達から間合いを取る。
 下手に関わり合いになれば、絶対に手助けをするであろう自分の性格が理解していたから。
 此方に気付いたそぶりも見せず、とても楽しそうに話し合う三人の姿に、なんとなく羨ましさを覚えた。
 此方に来てから、あんな風に笑いあえる友達は出来なかったから。
 自分は『此処』ではあまりにも違うもの。
 自分の事を受け容れられるものなど、滅多にいやしない。
 その滅多にいない例外がこの世界で初めてあった師だった。
「……ふぅ」
 もう一度ため息を吐いて、意識を纏めた。




 不意に、目覚まし時計のベルのような音が鳴り響く。
 それがハンター試験の始まりの合図だと気付いて、タカアキは気合いを入れた。
 死にたくない。
 『還り』たい。
 時間がどれほど過ぎていても、可能性がどんなに低くても、『還る』場所は『其処』でしかないのだから。






後書き
初めまして(解る人にはこんにちは)
何となくH×H中編始めてみました。
多分五~六回で終わる予定です。
……しかし、トリップ物なのに、主人公がその世界の事を一切知らないなんて無茶は、流石にあまりいないでしょうね。
では、また後日。


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