「一番好きな桜の咲き時は?」
正門にある桜を見上げ、幼なじみの加奈は何気なく僕に尋ねた。
一分咲きと答えると「物足りないね」と言われた。
七分咲きと答えると「満足出来るの?」と返された。
満開と答えると「欲張りだね」と笑われた。
葉ざくらと答えると「ひねくれている」と注意された。
花も葉も全て散った後と答えると、返事をしてくれなかった。
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正しい主人公の倒し方 第零話
~さくら、さくら、来年咲きほこる~
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毎年綺麗に咲き誇るこの桜の木の下には、いくつの死体が埋まっているのだろう。
僕が生まれてから毎年、この桜はピンク色に染め上がる。少なくても17体は埋まっていそうだ。
この桜は毎年僕たち学園生を喜ばせる。維持費も掛かるが、それ相応の働きをしてくれている。
それに比べて僕はどうなのだろう。食費分の働きをしているのだろうか。
去年の僕は何をしていたのか。いや、何もしていなかった。
価値にするなら、桜の下に埋まる死体より劣る。何もしていない。
僕は死体じゃない。
だったらそれ相応の働きをみせるべきだ。それしかないじゃないか。
また無意義な一年を過ごすべきではない。僕は変わって見せる。
自然と頬が緩む。これからなすべきことが僕の前に無数に広がっている。
隣を歩く加奈は不思議そうに僕を見る。
彼女は運がいいのかもしれない。僕が新しく生まれ変わる瞬間を目の当たりにしたのだから。
「突然ニヤニヤし出したけど大丈夫?」
「大丈夫さ。僕が変わっただけだから」
「えっ? どこが変わったの?」
「これからさ」
これから僕がどう変わるのか僕だって知らない。
けど、変わって見せる。この満開の桜は一ヶ月もしたら散る。
けれども、一年したらまた咲き誇る。ならば、桜に見てもらいたい。
満開になった時の君と一年経った時の僕のどちらが人の役に立つか。
桜舞う中、僕は新たな決意を胸に刻み、加奈は僕の頭をしきりに心配していた。