『おめでとう! たつやは かいぞうにんげん に しんか した!』是非ともBボタンを連打したかったが、どうやらこの進化は石的なもので進化したものだったらしい。妹を守るため、美少女を守るため、目前の敵を倒すため・・・色々理由を付ければ、謎のパワーアップに説得力を持たせることは可能なのか?覚悟完了!と息巻いたはいいが、あれは熱くなりすぎたのだ。ほら、ビビ○ン声のあの人も砂漠の虎に言ってたじゃん。『アツクナラナイデ!マケルワ!』と。少なくとも勝ったが、勝ったということは冷静になる時間も得たということである。嗚呼、何故俺は熱くなりすぎたとはいえ――『俺が卑怯者なら死体を損壊しすぎた貴様は下劣で鬼畜な破綻者だな。反吐が出るぜ』などと挑発的な中二セリフをしたり顔で言ってたのだろうか。嗚呼、何故だろうか。あの時の熱くなっていた自分がずいぶん前、だいたい1年半以上前の出来事に思えてしまう。1年半もあれば全盛期過ぎるしね。あのころは良かったと振り返れるしね。うんうん、あの時俺は若かったんだよ。しかしそれはおそらく気のせいである。すべては数十分前の出来事であり、目撃者も多数。台詞は全部聞かれており、彼女らの記憶に残る。秀逸な台詞ならば以後も語り継がれてネタになるが、中途半端な言葉は恥ずかしいだけである。人の記憶には残らないが、自分の記憶には残る。そして死にたくなる。っていうか死んでいた。そしてこの姿である。螺旋の拳と言ったはいいが、ドリルじゃん。いや、ドリルじゃん。男のロマンと言ってる場合じゃない。ドリルじゃん。しかも利き手がドリルじゃん。回るじゃん。手のひらくるくるじゃん。更になんかさっき、小さなドリルがたくさん出たじゃん。危ないじゃん。ドリルパンチとか言ってる場合じゃないじゃん。これ日常生活に不便じゃん。あとビームも確か出たよね?これもついさっきの事なのに2年以上前の気がするね。不思議だね。いや、ビームじゃん?光学系兵器じゃん?こっちが必殺技で良くない?ドリルよりサイコ○ンの方がなんかスマートな気がするけど何故ドリルになったんだ?若さゆえの過ちなのか、更新データ1.09とやらが粗悪品なのだろうか?うん、きっと。いや確実に後者であると確信している。っていうかなんなの?確か使い魔のルーンって使い魔死んだら消えるってルイズの授業で言ってたよね?ならこれはなんなの?明らかにルーンとかそういったレベルじゃないだろうこれは。《無論、愛の力です》何か聞こえたような気がするが、おそらく過剰なストレスによる幻聴に過ぎない。おそらく次は幻覚を見ることになるだろうから、早めの対策を練った方がいいと思う。何せ一度死んでいるのだ。そのストレスは精神を壊すことになるだろう。帰ったはいいが廃人なんて笑い話にもならない。そもそも改造人間になって帰るモチベーションにも影響が及ぶ。《こちらで暮らせばいいじゃないですか》えー、やだー。だってこの世界、生きたまま焼かれるんだぜ?《そちらもあまり変わらないでしょうに》・・・・・・「と、まあ幻聴聞こえるレベルの状態なのだが、俺は大丈夫なのか?」「どこをどう捉えれば大丈夫という結論に至るのか不明な状態で何を言うのかしら?」「右手ドリルだしな。貫くぞワハハー」「大丈夫、もう私は貫通済みよ!」「虚勢を張って下ネタとは、名誉について考えさせられる発言だな」『私はお前に貫かれたがな』「この流れでその発言はアウトだろ・・・火の精霊の品格を問われるぞ」『皮肉だったのに何故か憐れまれている・・・』人同士のコミュニケーションは難しい。種族が違うなら尚更だ。おお火の精霊よ。これに懲りずどんどん人間とコミュニケーションをしていただきたい。そのうちこの会話の意味がわかるから。そして理解した後に貴女が『人間ごときに穢された!くっ・・・!殺せ!』と言うようにになったら貴女は人間を理解しはじめたということになるだろう。そうなったら俺は何をするわけでもなく放置するが。「とにかくこれで火と水と土か。あとは風だけど・・・」「風の精霊が今芳しくない状態であるのはエルフの間でも有名よ。あのせいで浮遊する大陸もあるじゃない」浮遊大陸アルビオン。空中を浮遊する大陸。彼の故郷。麗しきアンリエッタが暴走する切欠となったであろう彼の死は惜しまれるべきか。風の精霊に会うためにはそこに行かなければいけないのか?「そういえば今、風の精霊が芳しくないから大陸が浮遊してるっていうけど、アルビオンって何時から浮いてんの?」「少なくとも私が生まれる前から浮いてたわね。かなり昔と思うけど」「そんなに長く芳しくないのかよ」「この星からすれば私たちの種族が誕生して今までの時間なんて一瞬みたいなものよ。精霊にとってもほぼ同じでしょう」考えるだけ無駄じゃないの?と肩をすくめるルクシャナ。「火の精霊も同じように長く生きてきたのか」「そういうこと」「高齢者虐待をやってたんだな俺は」「貴方って人間の屑ね」「老人は若者に未来を託すべき」その老人に丸焦げにされたので文句は言う権利はあるはずである。「さて・・・もういいかの?」でっかい水竜・・・通称『海母』が語りかける。わが妹とティファニアは俺とルクシャナの軽口の叩き合いに戸惑っているようだ。「ここにはいくらいても構わん。面白い見世物も見せてもらったしの。好きなだけいるがいい。潮の匂いはきつかろうが」「そうさせてもらうわ。身を隠すにはちょうどいいからここで休みましょう」洞窟の奥へ戻る海母。その姿はすぐに消えた。そこらに落ちていた海藻などを集めて火をつけた。これで真琴たちも暖が取れるだろう。イルカが捕まえてきた魚介類を焼いて食べた。別に刺身にしても良かったのだが醤油がないんや・・・。「これからどうすればいいんだろ・・・」真琴がぽつりと言った。「どうするって・・・」ティファニアが俺を見る。が、改造人間になってもご飯は食べられることの喜びに俺は感動していた。たぶん体内でバイオ燃料化するんじゃなかろうか?「とりあえず今日は寝ましょ」ルクシャナがあっさり言う。確かにここまでの疲労度は並大抵ではない。「その提案に賛成するよ。でも夜這いするなよ」「貴方が言うのそれ?そこまで堕ちてはいないわよ。少し女の子に頼りにされていい気になってるんじゃないわよ童貞くん」「童貞の何が悪いの?」「ここで純真な質問を投げかけないでよ」『オメーら、一応純真な乙女っ娘もいるのに何言ってやがんの』ついに無機物にまで注意されてしまうほど堕ちてしまった俺とエルフ熟女(笑)。ここからどうするか。まずやゆっくり休んでいい案を考えよう。脳には休息が必要なのだから。そもそも俺たちは誘拐されてきたのだ。トリステインに帰るためにルクシャナは立場を犠牲にしてまで脱走に協力している。でもここは絶海の孤島だし、外で情報収集しようにも、そんなことをすれば追手に見つかるとのこと。陸地についても真琴やテファを連れて砂漠横断は難しいという結論は出た。どうにも悲観的になる。食べ物はイルカが取ってくれる。水は雨水を魔法にかけることで飲料用とした。その他生活用の水は水の精霊石の力で補った。え?飲料にできなかったのか?できるよ?ただ男の股間から出た真水を飲ませるってどうよ?ルクシャナも脱出方法を考えているが「そのうちなんとかなる」の一言のみで使えない。目の前にはイルカと戯れる妹と爆乳美少女。嗚呼、イイ笑顔だなぁ~。最近テファたちは海の中によく潜っている。真琴も魔法の杖の指導のもと魔法をちびちび使えるみたいだ。水中呼吸の魔法を利用し、彼女たちは海へ潜っている。魚たちが寄ってくると妹が興奮して報告している姿は可愛らしかった。テファは水と相性が良いらしくすぐに自在に泳げている。環境は人を変えるというものだ。「あのさ」『なんだい相棒』「今日で俺たちがここに来て何日だ?」『今日で5日目だね』「海で泳ぐ女たち・・・そして男一人今日も飯の支度に励む」『そうだな。相棒の腕も上がったんじゃないのか?』「ああ、食材は確かに採ってきてくれるよ。でも魚料理オンリーだな」このまま続くと俺は職人街道一直線のような気がしてならない。『でも嬢ちゃんたちはおいしいおいしいって言ってくれんじゃねえか』「調味料は塩オンリーなのにか」『・・・』「なあ」『あん?』「いや・・・俺は恵まれてるのか?」『どういうことだね?』「美女が水着同然の格好で過ごしている中に男一人いることがだよ」『一般的には羨ましがられるシチュエーションじゃね?』「・・・」『どうしたね?』「・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」『うおっ、どうしたんでぇ、相棒!そんなため息なんてついちまってさぁ!?』「・・・ああ?聞きたいか?」『おう』「今日も女たちは海へダイビングで楽しみ、俺は飯を作る」『おう』「昨日も作った。一昨日も作った。多分明日も作った」『明らかに未来を過去のように言ってるがそうなるだろ』「多分、明後日もその次の日も次の日も俺は飯を作り続ける。この洞窟で」『はあ』「毎日毎日同じことの繰り返しで生きてる気がしないんだYO!」『そんなことねえよ相棒!相棒生きてるよ!なあ相棒!お前も遊べばいいんだよ!』「遊ぶぅ~?」『そうさね!こんな洞窟でも片手間に遊ぶことは出来らぁ!なあ相棒、古典的だが水切りをしようじゃねえか!』「水切りだって?そんなことで俺は生きてる実感を得ることができるのかい?」『その通りさ!水切りだって拘れば何回石が跳ねたか、技術を磨き記録を伸ばすことの喜びを実感できる!そりゃもう生きてる感満載よ!』「え~?そういうものか~?確かに小さいころは川辺で遊んだけどさ~、一介の青年が水切りで生の実感を得れるかぁ~?」『いいからいいから~デルフを信じて~♪いいからいいから~デルフを信じて~♪』俺は手ごろな石を手に取り海面に向かって投げた。1、2、34567・・・8・・・8回だった。『おう、8回か。次はフォームを変えたりして工夫してみな!』「しなれ俺の腕!」などと言ってみたり。石は9回跳ねた。ちょっぴり嬉しい。『おうおう!楽しくなってきやがった!さあ相棒、次は10回を目指そうぜ!』なんだか楽しくなってきたかもしれない。これが生きている実感というものなのか?過去の自分を超えていく実感。それはまさしく生きているものだけにしかない感覚。俺はこの石を持った手に、過去の自分を粉砕する力を込めた。さあ、切り裂くように唸れ俺の腕!そして俺の思いに応えてくれ名もなき石よ!石が俺の手から離れる。いい感触である。石が水面へ飛び込み、跳ねる。勢いはある。跳ねる。跳ねる。勢いはまだある。跳ねる。跳ねる。跳ねる。俺の意思を汲み取るかの如く、石はまだ跳ねる。跳ねる。まだ勢いはある。跳ねる。まだいける。跳ねる。石は『まだいけるぜ!』とばかりに9回目の跳躍を果たした。俺には名もなき石の姿が宝石に見えた。今確かにあの石は輝いている!さあ、10回目の跳躍を見せてくれ!「お待たせ~!今日は大きなエビが採れ・・・あべしっ!?」ごしゅっ!という音が鳴り響く。力なく落ちる俺の石。ぽちゃんという音が無常に響く。続いて突然飛び出してきたルクシャナの手から逃れる大きなエビ。すぐに沈んで見えなくなった。ルクシャナはエビが落ちたにも関わらず、白目を剥かんとしている。頭部には哀れ瘤でも作ってしまっている。遅れて水面にテファと真琴が現れる。「タツヤ!ルクシャナがエビを採ってくれて・・・!」「貝もたくさんとれたよ!・・・ってあれ?」二人もルクシャナの異常に気付く。まずい、もう沈み始めている。このままではいかん。せめて意識を!俺は叫んだ。「エビが落ちたぞ!すぐに戻れ!メシ抜きだぞ!」その言葉に沈みかけたルクシャナは覚醒した。しかしすでに頭半分沈んでいたので彼女は右手を挙げ了解とばかりにサムズアップをした。そして彼女はそのままゆっくり海に沈んでいった。ルクシャナを追う様ににテファと真琴も海に潜っていった。その姿を見送った俺は無機物に語りかけた。「人がダイビング中に水切りは危険ということが実感できた」『おう。それが生きてるって証拠さ』「良い子はマネしちゃダメってやつだな」『実に教育によろしいな』「道徳授業に採用されるかな」『されたらいいな』「・・・ルクシャナにはあとで謝ろう」『・・・そうだな』大人になるって―――生きるって難しい―――こうして改造人間になって6日目も無事に過ごせましたとさ。・・・なにも進展していねえ・・・(つづく)