ガリアを騒がせていた吸血鬼はこの幼い娘であった。この娘にワルドやエレオノールは叩き伏せられてシエスタと真琴は危険に晒された。今は縛られ猿轡を噛まされている状態だが、俺はこの吸血鬼の処遇をどうするべきか考えていた。ワルドは殺すべきと言い、エレオノールは実験用に捕獲と言い、シエスタは俺に任せるといい、真琴は殺すのは駄目とか言ってます。「・・・っていうかコイツ吸血鬼で生命力高いんだろ?どうやって殺すんだ?」「火竜山脈の活火山の火口に放り込めば確実だ」真顔でワルドはそう言う。まあ、やたらカッコつけてやられたから私怨も入ってるんだろう。なんとも器の小さな男で困る。その辺をゴンドラン爺さんにつけ込まれてるんだろう。「それに実験動物として保護といっても吸血鬼を抑えられるんですか?」「やり方は結構あるけど聞きたい?」「・・・・・・いえ」黒い笑みを浮かべるエレオノールが非常に怖い。魔法研究所が何を調べているのかは知らんが実験動物という響きから碌な目にはあわんだろう。何かマッドな奴もいそうな感じだし・・・。そういえばゴンドラン爺さんはそこの偉い人じゃねーか。・・・・・・この吸血鬼の不幸な末路が思い浮かぶのは確定的に明らかである。「で、シエスタは本当に俺に判断を任せて良いのか?何か文句とかないのかい?」「主の意見を立てる私は非常に優秀なメイドとは思いませんかタツヤさん」「俺は君の意見が聞きたかったのにそれを俺に丸投げとか軽い失望感を覚えました」「私の判断が間違っていたというのですか!?そんなバカな!!?」大体意見を聞いてるのに俺の判断に任せるという意見は論外だろう。殺さないで欲しいとか言ってる真琴未満じゃん。「お兄ちゃん・・・」真琴はただ俺を見つめている。見た目は自分と同じ歳ぐらいの女の子をこうして拘束しているだけで心を痛めているのであろうか?だが生かすにしてもどう説明するんだ?生かして解放とか論外すぎるだろうよ。そもそも放っておいてこういう騒ぎになってるんだよ。村や町を壊滅する力があるから退治を頼まれてるのだ。そう考えるとワルドの意見が最もまともである。この村においておくのは無論論外だ。俺たちが戻るのは吸血鬼を退治した時なのだ。とはいえエルザが犯人だったんだよと公表すれば公開処刑は免れない。人間と吸血鬼、どちらも生きる為に行動しているのに敵対するしかない関係である。エルザ本人も言っていた。メイジに両親を殺されていると。彼女は生きて野放し状態ならばまたメイジを優先的に狙う活動をするのだろう。この村に留まらなくても別の村で吸血鬼騒ぎが起こるだけじゃないか。「で、お前は結局どうするのだ?この吸血鬼の実力は分かったろう。このような性質の悪い輩は危険だということもな」「見た目は幼女だけどここにいる面々より長生きな分したたかだし、教育等で変わることは期待しない方が良いと思うわ」「でも、それでも殺しちゃうのは・・・!」「コイツは既に幾人もの人間を殺し、その屍を利用し更に被害を増やしていった。そのような者に同情は無用だ」ワルドが真琴の意見を切り捨てる。いや、お前も一応何人もの人殺してるよね。レコン・キスタは屍も利用したよな?「ほう?ワルドそりゃあ元レコン・キスタの人間としてのお前が言える立場かよ?」「俺は一般論を述べたまでだ」「帰ったらゴンドラン爺さんに同情ナシの仕事を課せと言っとくか?」「貴様汚いぞ!?」「同情は無用ですって言ったのお前やん。なら温情措置をあまりかける必要もなくね?」「なくね?じゃないよ!?今の発言ナシ!例外もありうる!」「この髭保身に走りましたよお姉さん。どう思います?」「ワルド、語るに落ちたわね!大人しく母様の前に生贄として立ち、私を守りなさい!」「アンタも保身に走りまくってるではないか!?俺には妻がいるんだ、命を投げ出すような真似はもうしたくないわ!」「ねぇそれ嫌味?私にはそういう守るべきものが何もないから命を投げ出しても良いじゃないとか言いたい訳?きぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」エレオノールが癇癪をおこしてワルドの首を絞める。ワルドは顔を青ざめさせて抵抗しているがエレオノールの剣幕に押され泡をふきかけていた。その様子を見てもなお、心配そうな目で俺を見る真琴の頭を俺は撫でた。俺の肩の上にいるハピネスは大きな目で俺を見つめていた。その視線は俺がこの吸血鬼をどうするのかを見極めているような視線だった。「決めたよ」俺がそう言うと皆の視線が集中した。俺は刀を抜きエルザの首元に突きつける。真琴の息を飲むような様子が見えたその時、気を失っていたエルザがゆっくりと目を開けた。縛られ、猿轡を噛まされ、更に包囲されて刀を突きつけられているこの状況で彼女に打開策もある訳もなく、ただのガラス球のような空虚な視線をただ俺に向けていた。今まで彼女は食事と称して人間を嬲り殺しにしている側だった。それが今はどうだ。彼女は嬲り殺しにされそうな状況ではないか。動く事も喋る事も叶わず喉元に刃物を突きつけられ首を刎ねられようとしている。自分がやっていたのは食事。人間だって他の動物を食べて生きながらえているじゃないか。それを他の動物は食べられて幸せなんて下手な正当化をして、他の動物が自分達を食べるのは悪としている。こんなふざけた事がまかり通って自分は殺されてしまうのか?人間の敵とかいう人間が勝手に決めた理由で私は殺されるの?エルザはかつてそれで殺されそうになった。忘れもしないあの人形のような少女。彼女に焼かれ殺されかけたのだ。そして今度は首を刎ねられようとしている。今度はメイジではないが貴族であるこの男に。『真琴を傷付けようとしたお前は俺にとって極悪でしかないんだよ!』・・・嗚呼、そうか。この男は自分にとって大切な人を自分に傷付けられようとしたから自分を悪としたんだっけ。・・・ならば私だってそうだ。大切な両親を殺したメイジは自分にとっての悪。ならばメイジを積極的に殺している自分はその悪を排除しているだけ・・・そういうことなのではないのか?悪を排除して何が悪いと言うのか?人間の戦争だってどちらもどっちなのに一方を悪と断罪して戦ってるじゃないか。・・・なら、私はこの男にとっての悪なら・・・殺されても仕方ないのか・・・?エルザはそんな事を思いながら達也をじっと見た。他にも無数の視線を感じる中、彼女は達也を見ていた。肩にハーピーの子どもを乗せて彼は自分を見下ろしていた。戦いには勝者と敗者が存在し、勝者の意見は敗者は覆す事はできない事はエルザも分かっていた。自然界での敗者の末路は死。いよいよ来るべき時がきたのだ、とエルザは感じたのだった。間抜けな最後だと思う。完全な水とはいえどう考えても尿を浴びせかけられ気絶し自由を奪われ首を刎ねられるとは。口をふさがれ身動きも取れない。抵抗の仕様もないし命乞いも出来ない。いっそ一思いにやって欲しいなと思いながら、彼女は終わりを覚悟した。人が本当にわかり合う事ができるのならば戦争など起こりようもない。人間関係など妥協と譲歩と探りあいなどの集合体である。俺がルイズと何とかやっていけるのも杏里と恋人関係になれたのもそんな要素が絡んでいると思われる。まあそんな難しいもん俺はよく分からんのだが外交とかその探りあいが重視されてるんじゃないかと思う。その探りあいで優位に立てたほうが人間関係も外交でもリードできるってことらしい。まあ確かにやたら友達になりましょうとかいう奴は不気味だし、俺とルイズも最初は寝首を掻こうとして返り討ちにあわせるような間柄だった。だが小さく純粋な子ども達には本来そういう考えは通用しない。彼らは好きなものは好きで嫌いなものは嫌いという事をはっきり言う。年を取るにつれて嫌いな理由とか好きな理由とか理屈っぽくなっていくのは成長の証なのか或いは・・・。まあ人類の思想やら進化を俺が語るなど傲慢にも程があるな。やめよう。さて、このエルザの目から察するに彼女は死を勝手に覚悟しているようだ。ワルドなんかは既に殺す気満々だし、エレオノールやシエスタは俺の判断を黙って見ている。唯一真琴が唇を噛み締めて俺を見ている。・・・いや、肩に乗っているハピネスの脚が捕まる強さが増している。正直痛いのでそんなに力を入れなくていいから。「ワルド」「何だ」「今一度確認するけどさ、俺は男爵位貰った貴族だよな?」「ああ。認めたくはないがな」「エレオノールさん」「何よ?」「そもそも領主クラスの貴族の屋敷ってどのくらい給仕さんっているんですか?」「・・・個人差はあるけど最低でも10人はいるわよ?」「なら全く問題ないな、シエスタ!」「え!?何で私なんですか!?」俺はうろたえるシエスタを他所に言った。「このロリ吸血鬼を俺の二人目のメイドにするから!」「何だと!?」「ええ!?」「タ、タツヤさん!?本気なんですかというかどうしてですか!?私のご奉仕が不足だとでもいうのですか!?だから言ってくださればそれこそ下の世話でも何でもする意気込みの私だけじゃご不満なんですか!?」「下の世話はせんで宜しい!」「クソっ!!」悪態をつく我が専属メイド。何がクソだおい。下品だろうが。「その前に吸血鬼を側に置くなど正気の沙汰とは思えん!人間と絶対相容れんと言われているのに・・・」「相容れんとか言ってたエルフと前ガリア王はちゃんと交流できてたじゃん。それになワルド」俺は刀を納めて呼吸を整えて言った。「敵を引き込むなんてことは今にはじまった事じゃねえじゃないかよ」「む・・・」「私は正直身の危険を感じるから反対ね。おちおち屋敷で寝られもしないから」「アンタはいい加減そろそろ実家に帰るべきでは?」「い、嫌よ!帰ったら嫌に清々しい笑顔のカトレアに迎えられて勝手に仲間宣言される事が目に見えているわ!!」「で、でもタツヤさん!その子が夜な夜なド・オルエニールの皆さんを襲うかもしれないじゃないですか!」シエスタの抗議にはワルドは苦々しげに答えた。「・・・夜な夜な?そんな事は不可能だ。夜中一人で出歩けばあの領地は蚯蚓とか土竜とかに遭遇する可能性が高いし、第一畑の警備の者が多数いるのにこんな幼女が歩いていれば直ぐに保護されてしまう・・・夜中の婦女子や子どもの出歩きは基本禁止だからな」「俺が言うのもなんだがあそこは魔境だからな」テファには悪いがそんなところに孤児院があり、ちゃんと経営が成り立っているのはマチルダや領内の皆さんのご協力があってこそです。最近は魔物の扱いに長けたジュリオも来たし、徐々に人が増えている。巨大蚯蚓が暴れ、巨大土竜が跋扈し、人々が逞しく、子ども達はのびのび暮らしているド・オルエニールに今更幼女の吸血鬼が増えた所でどうだというのだ。むしろプロデュース次第では永遠の幼女キャラで売り出してそっち方面の人々の女神的扱いにも出来るんだぜ!やらないけど。公爵家の娘のルイズが何をどう間違ってか、人気のキャバ嬢(?)になったこともあるじゃん。そう考えれば吸血鬼のメイドなんてありふれてんじゃない?特に俺の故郷では。嗚呼、素晴らしき日本民族!問題は吸血についてだがワインかトマトジュースで誤魔化せ!塩分濃い目で。駄目なら土竜か蚯蚓の血でも吸っとけ!「何を言っているのか分からんという顔をしているぞ?」俺を見つめるエルザの瞳に困惑の色が見えている。そりゃそうだろう。殺されると思っていたら自分を給仕にすると言い出したのだから。人を欺き人を殺してきた自分を知った人間が取る行動ではない。俺は構わずエルザの猿轡を外した。「どういうつもり?逃がすなら兎も角、吸血鬼を側に置いておくと言うの?」「逃がすという選択肢はないね。逃がせば別の村で吸血騒ぎを起こすんだろうお前は」「どうして私を殺そうとしないの?おにいちゃん言ったじゃない。私を悪だって。人間は悪人を殺すのはいいんでしょう?」「悪だから殺すとは一言も俺は言ってないんだが?」「でも人間と吸血鬼は」「共存できない?」「正体を知ったからには生きて行けないでしょう?常識じゃない、ハルケギニアでは」「残念だったなぁ、エルザ。世の中には例外もあるという事さ」「・・・あなたたちは私を殺しに来たんじゃないの?」「退治しに来たな」「なら」「お前の生殺与奪の権利はこちらにあるしな。それに吸血鬼退治の任務は完遂した」「・・・私は生きているのに?どう説明するのよ」「お前さんぐらいの歳の給仕ぐらい世の中には結構いるんだよおばさん。何、村の人にはこの髭が給仕としての見込みがお前さんにあると判断したとか何とかでっち上げて連れて行くさ。吸血鬼は灰にしたからもうでないとか言って安心させたあとにな」俺はワルドを指差しながらそういった。ワルドは頭を抱えていたが無視した。「どうして・・・そこまで・・・同情でもしたの?」「するかなんちゃって幼女。こちとら人材が欲しいんだ。この際吸血鬼だろうがエルフだろうが話が通じるなら何だって構わん。エルザ、こういう形で大変申し訳ないが、お前の命は俺が預かる。お前は俺の屋敷の警備のメイドとして雇う。不届き者が領内に現れたらそいつの血を吸ってもいいぞ?」ゴンドラン曰く最近密偵らしきものが領内をうろつき蚯蚓や土竜に襲われ畑が荒され迷惑しているらしいからな。そういう奴が来て領内を荒すというなら此方にも対応策が必要だ。領内の事は毅然と対応すべきである。それが領内の治安を守るための最善の策だろうと思う。そういう奴を追い払うのと俺の屋敷の警護及び巨大生物から領内の女子どもを守る役割も果たしてもらいたい。この領内に仕事を求めて無断で入る奴は皆無だ。何せ散々事前連絡ナシでの訪問はお断りしているからな。基本アポなしで面接できるほど無用心ではないのだ。まあ、行動力がヤバイエレオノールやカリーヌやらは無断で領内に入ってそうだが。「同情とか殺されそうになった相手に感じるほどお目出度い思考はしていないぜ、俺は。ただ、今欲しい人材がお前だっただけだよ」「・・・」ワルドとマチルダの時もそうだった様に必要な人材が目の前にいればそれまでの立場がどうあろうと採用するのが当領地の人事である。そこは非情のビジネス戦略(笑)の筈だったのだが何故か現状は和気藹々としている。コレは妙である。「・・・わたしは人間をいっぱい殺してるのよ?危険とは思わないの?」「思う」即答である。「おにいちゃんってバカ?ならどうして・・・」「お前はそこの真琴が危険人物と思うか?真琴も一応牛とか豚とかの肉を食べてきてるんだぜ?お前は言ったよな?吸血鬼の吸血は食事で生きる為に必要だと。それ自体は悪の行為じゃないとお前は自分で言ってたじゃん」「でも私が吸血したら人は死ぬわ」「馬鹿か貴様。それはお前が吸いすぎなだけだろうこの偏食女。ちゃんと肉も野菜も穀物も食え!足りない鉄分はミルク及びレバーで補え!あとそれっぽい飲み物を飲め成人ロリ!その代わり土竜の血は飲んでいいといっているんだよ」「嫌よ、私人間の血がいいもん」「貴様高級志向だろうがセレブ気取りは許さん。庶民の味は時に高級料理を超える!」「土竜の血が庶民の味なんて聞いた事ないわ」「そりゃそうだ、適当に言ったんだから。そもそも貴様のような卑劣な鬼畜外道は土竜の血で十分だ」「ならお前の食べる料理も土竜の血で十分だろう」ワルドが帽子を直しながら言った。そっくりそのままお返しします、その言葉。あと俺に吸血衝動とかはないから。この勧誘ははっきり言って賭けなのは分かっている。吸血鬼が大人しく人間の庇護下におさまるなんてハルケギニアの常識では考えられない。だけどよ、テファはエルフと人間が分かり合えた結果の産物じゃん。子どもを作るとまでは絶対無いがエルフと人間でそこまでやれたんだから人間と吸血鬼がそれなりにいい関係で暮らせる場所があってもいいじゃん。宗教上の理由?馬鹿を言うな!俺たちが祭ってる神様はブリミルじゃないだろう!ブリミル教の教えなど知らぬ存ぜぬ!「ぴぃ・・・」ハピネスが軽く鳴いて俺に頬擦りしてきた。その表情は嬉しそうだった。どうやら彼女は俺の決定を気に入ったようだった。「エルザ、分かり合おうとは言わない。俺たちはなんせ歩み寄ってすらいないんだからな」俺は一気に刀を抜き、エルザを拘束している縄を切断した。「お前のこれからはお前が決めろ。戦うなら今度はワルドの意見が反映される。逃げるなら今度の刺客は恐らく優しくないぞ?何せお前の容姿は報告するからな。だがメイドになるならそれなりに譲歩はしてやるよ」「・・・選択肢はないようなものね・・・」エルザは目を閉じた。「わかった。元々わたしはおにいちゃんにまけちゃったんだもん。わたしの命はもうおにいちゃんのものよ。煮るなり食べるなりすればいいじゃない」「た、食べるなりですって!?破廉恥な!?」「お前が言うのかシエスタ!?」「食べたら完全に腐れ外道だなおい」「外見はロリでも中身が腐ってるとでも言いたいのかワルド?」「誰がそのような賞味期限偽装のような事を言ったか!?」「あら、おにいちゃん?わたしは永遠に食べごろよ?」「黙れ売れ残り」「それは私にも喧嘩を売っているのかしら?」エレオノールが暗い目をして俺に迫っていた。俺は冷や汗をかいて彼女に言った。「い、いや、そんな事はないよなワルド!」「そうだな、エレオノール様はもはや産業廃棄物・・・ではなく瑞々しい果実ぐほぁ!?」哀れワルドはエレオノールに殴り飛ばされた。まだ三十代にもなっていない女性に産業廃棄物はないだろうよ・・・。「タ、タツヤさん!私は今が旬で食べごろです!」「そっか。じゃあそういう事でエルザは今日から俺のメイドね。帰ったら服のサイズを測るんでよろしく」「おのれエルザ!貴女のせいでタツヤさんと私のいけない主従計画が破壊されてしまった!!」どんな計画だそれ!?あと人のマントで涙を拭くのは辞めてもらえませんかシエスタさん。エレオノールさん、ここは人の家ですから勝手にお酒を持ち出して飲まないように!「やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだ!」真琴が満面で可憐な笑顔を浮かべ訳の分からん事を言って抱きついてくる。肩の上ではハピネスがぴーぴー鳴いている。お前ら騒ぐなよ・・・一応まだ夜明け前なんだぞ?一気に日常の空気に戻った俺たちを目を丸くして見ていたエルザに俺は気付いた。「エルザ」「・・・何?」「土竜の血はマジで飲めよ?」「冗談じゃなかったの・・・?」冗談だと思っていたお前の神経を疑う。こうして俺たちはイザベラからの任務を一応遂行したのだった。報酬は結構なお金(予定)と吸血鬼の幼女(詐欺)だった。得したのかどうかは分からないが、何とかなった。後は王宮で任務完了の処理してトリステインに戻るだけだ。・・・カリーヌが帰ってればいいんだけどなぁ・・・。その前に姫さんが余計な任務を追加していなければいいのだが。(続く)