エズレ村は鬱蒼と生い茂る森を背後に抱いた,小川に挟まれた小さな村である。村にはわずかばかりの畑が広がっているだけの寒村である。まるで俺が来た時のド・オルエニールである。・・・蚯蚓はいないよな?かつてこの村はミノタウロスの脅威に曝されていた事もあったらしい。そのミノタウロスの撃退したのが他でもないタバサである。・・・よく分からんがタバサって凄いんだなと俺が感想を漏らすとワルドに呆れられました。だが一難去ってまた一難とは良くいうものである。今度は村近くにに屍人鬼が目撃されたとの話が舞い込んだらしい。屍人鬼がいるという事は近くに吸血鬼が存在しているという事だ。「そういう訳で皆の衆、吸血鬼に会ったら背を向けて逃げずに視線を合わせながら徐々に後退するんだぞ!」「タツヤさん、それはグリズリーに会った時の対処法です!?」「そもそも擬態しているのだから誰が吸血鬼などわからんだろう」現在俺たちが滞在しているのは村の外れに住む婆さん、ドミニクの家である。彼女はタバサを知っており、話の流れでタバサの名を俺の口から聞くと宿の提供を買って出てくれた。まあよくもこんな怪しげな5人と3匹(ハピネスとテンマちゃんとワルドのグリフォン)に友好的にできるものだ。婆さんと一緒に暮らしているジジという少女と真琴もすぐに打ち解けていた。「屍人鬼が出たのはつい最近なんですか?」「ええ・・・戦争中に見たという者が居まして・・・それから数日中に従軍中の兵士様達が被害にあわれまして・・・」「村人の中で吸血鬼にやられたと思われるものはいないのか?」「此処最近は人の出入りが激しくて・・・戦火で家を失って逃げ延びたもの・・・孤児やら軍人やら最早何処で吸血鬼が来たのかは分かりません」「戦乱に紛れてこの村近くに現れたという事ね・・・」「・・・村の内部で疑心暗鬼が発生しているだろうな。村人が暴走する前に手早く見つけたいものだ」「簡単に言うけど勝算はあるのかしら?」「正直俺でも吸血鬼の相手は難しい面があるな」ワルドは渋い表情で呟く。人間と違い吸血鬼の生命力は凄まじいものがあるらしくまともに討伐するにはかなりの重労働らしい。吸血鬼の奴とまともに戦うつもりなど最初からない。当たり前の事である。「・・・元から居る村人で居なくなったという方はいらっしゃいますか?」「いえ。元々この村にいる者達は戦争が終わってからほとんどこの村に帰っています。ですがこのまま吸血鬼騒動が続けばまた過疎化が進みます・・・」「戦乱から逃げ延びてきた者は何処に?」「村の東にある寺院で暮らしています」「・・・その中に吸血鬼がいるんじゃねえの?」「・・・その可能性は高いだろうけどそれなら妙ね?少なくとも戦時中にその吸血鬼は寺院に入ったのにどうして寺院の人々を屍人鬼にしていないのかしら?」「明確な被害者が兵士のみと言うのも気になるな」「・・・軍人・・・或いは貴族らしき人間を襲うとでも言うの?」・・・見た目が貴族に見えない俺は兎も角、見た目は完全な貴族のワルド、完全無欠な貴族のエレオノールは顔を青くする。貴族や軍人狙いってどんだけバトルマニアな吸血鬼だよ。何?武道派?ガチムチとでもいうのか!?嫌やー!万一血を吸われるならガチムチ兄貴よりセクシーなおねーちゃんがいいー!!「襲われた兵士は屍人鬼になった筈。それはどうした?」「はい、他のメイジの兵士様達が討伐されました」「それで終わりと思ったらこの辺で屍人鬼が目撃されたのかぁ・・・やっぱり村にいるのかな?」「そう見ていいだろう。恐らく潜んでいる可能性が高いのはその寺院だろうが、あくまで可能性だ」「そうね。仮に騎士や貴族を倒す為に吸血鬼がその身を護る為難民たちが居る寺院に居るとしたら何でその人々を屍人鬼にしていないのかも気になるわ」・・・いや、確かにそれも気にはなるんだけどね?俺は頭を掻きながらワルドたちに尋ねた。「・・・吸血鬼は騎士やらメイジを襲うんだろ?だとしたらせめて尻尾を掴む為に囮が必要だよな」「え」「・・・お前が囮になるんじゃないのか?」「何言ってんのこの髭。何で俺が人を超えた存在に対して単身、身を挺さなきゃならんのだ?」俺が出て行った所で特に何ができる訳でもなく逃げ回る事しか出来んぞ?未だに無駄なく出来る効果的な攻撃とか無いからな、俺は。「吸血鬼はそもそも女性の血を好むんだろ?メイジの女性はエレオノールさんだけど、この人に何か会ったらこの村ごとラ・ヴァリエール家に消されかねない。従ってエレオノールさんが囮になるのは駄目だ。シエスタと真琴に至っては論外だな。で、残るは俺とお前だ、ワルド」「二人で囮になると言うのか?」「ほぼ正解。俺とお前で吸血鬼、最低でも屍人鬼を炙り出す。討伐できるかどうかは二の次だな」ガリアとしては討伐してもらわないと困るのだろうが、トリステイン貴族の我々がそこまでする義理はあるのでしょうか?まあ、中途半端に痛めつけたら復讐しに来るかもしれない事を考慮し、可能ならば討伐できたらいいな。無論、その前におれ死ぬかもしれないが。しかし吸血鬼とはいえ俺の命を簡単に取らせはしない。奪うならどうぞワルドの血でも吸ってくださいな。翌日、俺たちは戦火から落ち延びてきた人々が暮らす寺院を訪問する事になった。とりあえず一番強そうなワルドを吸血鬼討伐の貴族として、エレオノールを彼の妻、俺とシエスタはワルドに仕える従者、真琴はワルド達の養女と言う設定で突撃した。こういう事を提案したのは俺である。御免、保身を図ったんだ。相手がメイジを襲うなら、それっぽい格好をしたワルドを前面に出そうと。ワルドの妻設定にエレオノールは凄い難色を示したが、説得の末渋々了解してもらった。名目的には吸血鬼を退治しに来たから、後は自分たちに任せて欲しいという挨拶のようなものである。「想像以上に戦争は人々に傷をつけているようね」「ああ。全く未来を担う子供達にこのような表情をさせるとはな」「・・・・・・そうね」ワルドとエレオノールは寺院内で死んだような目でいる子どもを見るたびに憤りを感じていた。シエスタと真琴はそんな子供達に一人ずつ声を掛けていた。真琴はペットと称したハピネスを子供達に紹介してニコニコ笑っていた。シエスタはタルブの歌だろうか?歌を子供たちと一緒に歌っていた。この行為がどれだけ戦火から逃れた子供たちに届くのだろうか?なお、俺はというと―――「ねぇねぇアンタ、本当にあの貴族様は大丈夫なのかい?」「吸血鬼相手には今迄数々のメイジがやられたと聞くぞ?」吸血鬼相手にワルドが戦えるのかどうか不安になっている大人たちに囲まれ質問攻めされていた。「大丈夫ですよ。旦那様が勝てないのは奥様だけですから」俺は営業スマイルで大人たちにそう答えると大人達はホッとしたような様子のものと疑わしげな目をする者が半々であった。「お願いだよ!私たちは戦火から逃れて消耗してるんだ!このうえ吸血鬼まで出没してしまったら・・・私たちは何に希望を見出して生きればいいんだい!」弱り目に祟り目とはよく言ったものだが希望なんて人に与えられるものじゃないだろ。大の大人がそんなだから子供たちが不安になるんだろうよ。見ろよ。来た時はあんなに暗い顔していた子供たちがシエスタたちの周りに集まって歌ったりハピネスを可愛いとかいって撫でたりしてるじゃねえか。一時的な気晴らしかもしれないけど子ども達は何とか生きようとしているじゃねえか。しっかりしろよ大人たち!希望なんてすぐそこにあるじゃんかよ!だから死んだ魚のような目で俺を見るなよ。「お気を確かに奥さん。確かに世の中は嫌な事だらけですが絶望するほど腐ってもいません。旦那様も全力をお尽くしします。ですから皆さんも皆さんに出来ることを行なってください。皆さんがそのような状態では子どもたちは塞ぎこんだままです。物事の復興には気力が必要なのですから、空元気でも子どもたちには塞ぎこんでいる所を見せないで。それが皆さんが今、やるべきことだと私は思います」何と言う偽善的発言だろうか。自分で言ってて吐き気を催すが、かといってこの大人達の他人任せの希望取得願望にも気持ち悪さを感じる。少なくともド・オルエニールにはこんな人はいないな。鍬とかで巨大蚯蚓に立ち向かう元気な老人ばっかりだし。希望も絶望もそこら辺に転がっているだろう。俺は杏里との関係に幾度か絶望しかけたが諦めずに生きてたら案外何とかなったぞ?そりゃぁ願うだけじゃ人生上手くいかない事も多々あるだろうけど願わない人間より願う人間の方が強いだろ。大体こいつらぽっと出のシエスタと真琴があっさりと子ども達の支持を受けている事に何も感じないのか?「・・・ん?」俺が大人たちに疑問を感じていると、部屋の隅に毛布を被ってうずくまっている子どもがいた。その子どもは他の子ども達の輪に混ざることなくただじっとしていた。「・・・あの、すみません。あの子は一体?」俺は周りの大人の一人にあの子どもの事を尋ねた。なんにせよぼっちの子どもは此方としては気になるのだ。名ばかりだが孤児院の設置を許可した身だしな。「ああ・・・あの子も戦火で両親を亡くしてるんです。何でもメイジに両親を殺されたとかで・・・彼女自身も身体に火傷を負わされたんですよ。全く戦争の混乱とはひでえもんですよ」「メイジに?」「ええ。おそらく野盗の類でしょうがね。多分メイジが来たんで怖がってるんでしょう・・・実は最近屍人鬼を見かけたのもあの子なんです。それからは外も出歩かなくなっちまって・・・」元々両親の殺害により精神を病んでしまった様子であったのに更に恐ろしいものを見たせいかもはやその幼い心は限界を迎えているらしい。時たま空虚な笑みを浮かべるなどの行動が見られ、この寺院でも腫れ物を扱うような状況だそうだ。俺は説明を聞くとうずくまっている子どものもとに向かい、目の前に座った。声もかけず、俺は無言でうずくまる子どもを眺める。そして俺は自分で作ったパンを取り出し食べ始めた。これは昨日寺院に行くと決定してから急遽大量に焼いたパンの余りものである。何の変哲もないコッペパンである。我ながら上手くできたが、無性にジャムかマーガリンが欲しい。パンを食べながら戦災孤児を無言で見つめる貴族の従者という光景に周りは憤りを覚えるかもしれない。このクソ外道と罵られるだろうな。何でパンを恵んでやらんのだとか言ってな。だがそんな善人の皆様の至極真っ当な意見に逆らう俺カッコいいとかは思ってはいないから。何で何も意思を表さない奴にパンを恵まなきゃならんのだ。他の子どもたちは『パン持ってきたけど食べる?』とシエスタが言ったら喜んで食べるとか言ってるぞ。食欲のないものに豪華な料理を出しても意味はないじゃん。今は戦後の時期なので飽食とか言ってる場合じゃない所もあると聞いている。改めてみると毛布の隙間から子どもの手が覗いている。腕辺りには火傷の跡らしきものが見える。子ども相手にエグイ真似するもんだな。俺がそんな無責任な感想を抱いていると目の前の子どもが顔をあげていた。そこで初めて子どもの性別がわかった。可愛い女の子ですよみなさん。だがその女の子の瞳は濁っているように見えた。「おにいちゃんは・・・・・・」か細い声で少女は俺に問う。「おにいちゃんはメイジなの?」「違うよ」嘘はついていない。俺は貴族の称号を戴いてはいるが魔法は一切使えないからだ。「まあ旦那様・・・あの偉そうな髭のオッサンはメイジだけどね。とっても強いメイジなんだぜ」これも一応半分ぐらい本当である。嫁の尻に敷かれているが。俺はそんなことよりこの少女にパンを渡した。虫の鳴くような声でいる少女にはとりあえずパン食わせてまともに喋る元気をやるべき。まあただのコッペパンでドンだけ元気になるんだと言う話だが。少女はパンをじっと見つめていたが、しばらくして食べ始めた。「このパンも小麦とかからつくられているんだよね」「いきなりどうした嬢ちゃん」「おにいちゃん、動物も植物もみんな生きているんだよね」「ああ」「ここで出るスープの中に入っているお肉も、魚もみんな生きてたんだよね」「そうだな」「全部殺して食べるんだよね」「うん」「どうしてそんなことするの?」「食えるから」「え?」生きる為とか難しい話になるのであえて言わない。だってそうだろうよ、古来より動物はそれが食べれるからその命を頂戴し糧とするのだ。「食ってみて美味しければ更にそれを食べる。でも考えなしに食べると食料はあっという間に底をつく。だから人間は畑やら牧場やら作って自ら食料を生産しようとしてんだよ。だが動物にはそんな技術を持っていないからねー」美味しいものに人は飛びつくと考えて俺の領地は農業や畜産業を中心に貿易しようかなとか考えてるのだ。食べられるために生まれた生命・・・まあ実際そういう犠牲の上で人間は繁栄しているのであるからきっちりとその命に感謝はしなきゃな。大体そんな殺したくないとかいってる奴は餓死一直線だろ、サプリメントとか無いじゃんこの世界。「・・・じゃあさ、吸血鬼も同じなんじゃないの?」「吸血鬼にとって人間の血が美味いかは知らんが、そうだな」「だったら、その吸血鬼も生きる為に血を吸ってるんだよね?それの何処がいけないの?」「うーん、生きる為なら仕方がないというんだけどさ、草食動物だって肉食動物に襲われると逃げたり抵抗したりするんだ。植物だって自衛の為に棘やら毒やらもっているものも多いしな。草食動物からすれば自分たちを食べる肉食動物が憎いはずさね。だが現実に生物は食べないと死ぬんだ。人間にとって人間が肉とか魚や野菜を食べるのは最早当たり前の事であってそれをわざわざ非難する奴は少ない。何せ普通に食べる分なら被害など無いんだからな。だが他の生物・・・この場合吸血鬼かな、そいつらが人間の血を吸う事は悪というのは自分たちに被害が来るからさ。だから人間はその脅威に怯えるか立ち向かうかして取り去ろうとする。捕食される奴は捕食者を正しいとは決して思わないからな。自然のルール的には全く問題ないんだぜ?例えば吸血鬼が単に肉が主食なら正に人間と共存はできるんだろうな。牛肉とかあげればいいし」結局お互いに折り合いがつかないからこのような関係になったのだ。だから敵対関係になっている訳である。まあ相当度量の広い人が吸血鬼と愛し合うとか漫画とかではよくあるが、この世界の吸血鬼は死ぬまで血を吸うらしい。蚊程度後の摂取量ならまだ良かったのに一度に一人をご馳走様するからいけないんだ。更に言えば死者を操って手駒にするとかブリミル教的に考えてアウトだろう。此処がトリステインだったら姫様のトラウマ再燃吸血鬼は消毒だ状態になるから助かったとも言えよう。「・・・人間と吸血鬼の食生活の違いで人間にとって吸血鬼は悪になったの?」「考えてみな、蚊に血を吸われた程度で人間はイラつくんだぜ?それが全部とか殲滅対象に立候補しているようなもんさ」要は死なない程度に吸血並びに主食をちょいと変えるだけで大分印象は変わる。そんなに血が欲しいならレバーを食えレバーを!「蚊もだね、生きる為に吸血するんだが、その際感染症とか残すから次々殺されてるんだ。でも一向に絶滅はしない。奴らは進化の過程で音も無く俺らに近づき血を吸うかようになったからだ。これは種の保存の為の進化と言えよう。考えようによれば蚊も人間にとって殲滅対象になる生物だ。だが、奴らのせいで命を落とすケースは可能性としては低めだ。虫が嫌がる対策をすれば刺されるのを防ぐ事もできるしな。だが吸血鬼には万民が簡単にできる撃退法がない!そのうえ相手は高い知能を持っている。これは人間たちは怖がるよ。頭脳明晰な捕食者ほど厄介なもんはないからな」「・・・吸血鬼も生きたいのに・・・」「だから難しいのさ。吸血鬼はその性質上、人間の血をご馳走としているらしいからな。人間に干渉しなければ美味しいご飯にありつけやしない。しかし人間は食わせる気など毛頭ないからな。相手のほうが実力が上である以上、人々は怯えて疑わしきを罰して自分たちに危害を与えかねない存在をやたら排斥するのさ」テファは今でさえ普通に学院に通えているがその前までは極力人目に触れない場所に住んでいた。ハーフエルフである彼女は別に人間に危害を加えたりはしない。一部の男子諸君のジュニアには危害与えすぎだが。危害を全く与えない友好的な存在だと分かったから彼女は友人に恵まれているのだ。だが、吸血鬼はそうではないらしい。よほどの変わり者、例えば血より赤ワインが大好きな吸血鬼とかでない限り共存はありえない。人間は捕食される側に居続けるには少々知恵を付けすぎたのだ。「だが・・・君の両親を殺し、君の身体に火傷を負わせたメイジは仕方ないで済まされるものじゃないと俺は思うぜ?」こんな将来有望そうな女の子の玉のお肌に傷をつけるとかトンでもねえ輩がいる。何処の世界においても幼女は世界の宝であり、汚されてはならん存在なのだ。何?男の子は?男の子は泥まみれで遊びまくるくらいが丁度良いんだよ!「ま、俺たちは正義の味方とかじゃないから、与えられた仕事をするだけだよ。まあするのはあそこの旦那様だけどね」「・・・お仕事で吸血鬼を殺すの?」「さあ?俺は分からないよ。旦那様はお優しいひとだからねぇ~」そう言って俺はにやけながらワルドを見る。ワルドは俺を睨み返した。「まあ旦那様も名誉やらお金やら正義感とか色々考えているらしいからね。すぐに終わると思うよ」「・・・そう」「ああ。そういや嬢ちゃんの名前を聞いてなかったなぁ、こりゃいけないな、紳士たるもの素敵なレディの名も聞かないとかやっぱり駄目だなぁ」「・・・エルザ」「俺はタツヤ。ヨロシクなエルザ。お前さんは美人ちゃんなんだから笑わないと駄目だぜ~?」そう言って俺はエルザの頭を撫でた。何か妙な視線を複数感じるのだが、無視しておこう。俺は別にロリコンじゃない。杏里が別格なだけで美女は老若問わず好きなんでね。「・・・パン、ありがとう」俺はエルザの頭から手を離してできるだけ笑顔を作って言った。「暇が出来ればもっと美味しいパンをあげるよ」そう言って俺はワルドたちのもとに戻った。結局エルザの笑顔は見れないままである。まあ、いいか。俺は寺院の外で周囲を警戒すると言って外に出た。そこで俺は大きく深呼吸をした。『どうした相棒よ。ちびっ子と楽しくお喋りして緊張したか?』喋る鞘がそう言って茶々を入れてくる。成る程、額には冷や汗とも思える液体が発生している。「ちげーよ無機物」俺は気のない返答をして自らの両手を見た。フィッシングの二つのルーンは淡く輝いている。先程エルザを撫でた時に発生した光だ。勿論、光が発生したという事は、エルザに対し愉快なルーンが反応したということである。『吸血鬼エルザ:幼女のように見えるが貴方より年上。つまり合法ロリ。その美少女ぶりを武器にして油断している所をガブリ。コイツは存在自体が武器のような生物である。一般的に人間とは共存できない。勿論屍人鬼も操れます。これまでいくつもの村を壊滅させている可愛い振りしてやり手の幼女【年上】である。貴方がペドフィリアでは無い事を切に願っているのですよ!!そうですよね達也君は幼女愛好家ではないですよね・・・?そうですよね?』後半は何故か仕事放棄してるような解説である。奴は死してなお俺をどうしたいというのだ!?とにかくルーンは吸血鬼を武器として認証した。姫様のときの事があるので別に驚きはしないが。またやりにくい容貌の殲滅対象だが・・・襲われるならメイジのワルドじゃね?「命がかかる以上、共存は難しいねぇ・・・我ながら陳腐な表現だな」俺はストックしていたオニオンパンを齧りながら自らの発言を反省するのだった。(続く)