カルカソンヌにおける戦闘によって教皇ヴィットーリオの戦死とガリアの新女王の即位の衝撃はトリステイン魔法学院にも伝わっていた。聖戦は終結したのだが、戦争は何処が勝ったのか分からない状態だった。せめてもの救いはあの狂王がガリアの王ではないという事だろう。というのが一般的見地であった。何せジョゼフはハルケギニアを灰にしようと考えていたのだ。誰よりも国を愛していた男は以後、悪魔として語られることになってしまうのだ。教皇の戦死によって学院は暫く喪に服していたのだが、この度授業を再開する運びとなった。「此度の戦は正に青天の霹靂じゃった。ハルケギニア全土を巻き込みかねない戦は、我々を恐怖のどん底に叩き落したものじゃ」芝居がかった挙動でオスマン氏は魔法学院本塔二階の舞踏会ホールで演説を行なっていた。生徒達は神妙な顔で彼の声に耳を傾けている。実際この度の戦争で生徒達はガリアに襲われるのではと戦々恐々としていた。いくら魔法学院の教師達が頼もしいとはいえ、数の暴力には敵わない。しかしその不安は杞憂であり、実際は早い段階で聖戦は終結した。誰のお陰という訳でもない。大将を討ち取ったから討ち取ったものが戦争を全て終わらせた英雄となり得ないように。この戦争では英雄は誕生しなかった。英雄は確かに戦場にいたにも拘らず、市民はそれを知ることはなかった。「戦争の結果、失ったものも決して小さいものではなかった。だが、我々は今こうして無事に生きておる!教皇聖下が召されようとも神は我々を見捨ててはいないという事じゃな。陰謀あればそれを砕く鉄槌ありとはよく言ったものじゃ。狂王の陰謀を終焉へと導いた勇者たちは諸君らも知る者たちじゃ!それでは紹介しよう。水精霊騎士隊と始祖の巫女たちじゃ!」達也を除いた水精霊騎士隊とルイズとティファニアが正装した格好で頬を染めてそこに立っていた。彼らを称える大きな叫びの中、少年少女たちは照れくささで鼻を掻く者、俯く者、手を振るもの、投げキッスをする者などがいた。魔法学院の生徒からすれば自分達と同年代の者達がガリアの戦争での功績をあげたのが知らされていたのだ。彼らは一応初陣で華々しい(?)活躍をして、終戦に導いた事を評価されているのだ。彼らには華々しい活躍の事しか聞かされていないため、そこまでの犠牲は知る由もない。愛に生きた異種族の友人の死、未来を若き女王に託しジョゼフの片腕をもいだ男の死、そして教皇の死。悪魔として死ぬはずであった男は、国を愛する英雄として生かされた。更に言えば今のガリア女王はその娘なのだ。双方痛み分けで終了したあの戦は英雄などいない戦いだと思っていた。だがどうだ。魔法学院に戻れば自分達は英雄扱いではないか。確かに自分達は戦場でわけの分からない英雄ごっこに興じたが・・・。そうか・・・誇って良いんだな。戦争から生きて帰れるのは。「水精霊騎士隊万歳!万歳!」万歳の合唱がなかなか止まない。ギーシュはどれ程自分達は彼らの希望となってるんだと苦笑した。レイナールは騎士隊の名誉の向上に満足げだし、マリコルヌは主に女子に向かって手を振っている。ティファニアは恐縮して縮こまってしまっているし、ルイズはクールぶっているが明らかに口元が緩んでいる。その様子を見てオスマン氏は満足げに頷き、少年少女を祝福した。「うむうむ、わしは諸君らが自分の事のように誇らしい。何せ君たちはこの魔法学院学院長のこのわしが手塩にかけて育てたのじゃからな。君らはわしが育てたといってもよいだろう」おいコラ。このジジイは一体唐突に何を言っているのだ?アンタは授業とか受け持っていないだろう?このジジイのウケ狙いとも思える発言に、歓声も段々小さくなっていく。ギーシュはこれは不味いと思った。この悪くなっている空気、オスマン氏が何をしでかすか・・・!「は、はい!オールド・オスマンの教育の賜物であります!」直立するギーシュを見てオスマン氏は感動した面持ちでギーシュに近づいた。「ギーシュ君。君は実にいい奴じゃな。わしはその謙虚な姿勢に感動を覚える。やはりその謙虚さが慢心を生まずこの度の戦果を生み出す原動力となったのであろう。そんなリーダーの鑑の君にわしからご褒美をあげよう」やはり恩は積極的に売っておくべきである。オスマン氏は何か勲章を自分達に授ける気なのだ。ダイヤ付きの黄金宝杖でも貰えるんだろうか?それだったら自分達の出世は約束されるのだが・・・。しかしギーシュの期待とは裏腹に、オスマン氏の言葉は違っていた。「抱いていいよ」瞬間、歓声は一瞬で止み、何故か一部で黄色い歓声が上がった。ギーシュは一瞬、何を言われているのかが分からなかった。・・・あ、ああ!そういう事か。オスマン氏はこう言いたいのだ!生徒である自分達は自分の子も同然だから、親として子を称えるが如く抱擁でその偉業を称えようと!つまりはそういう事かふざけるなこのジジイ!!ギーシュのただならぬ様子に気付いたのか、オスマン氏は「ふむ」と言ってしばらく考える素振りを見せた。「お、おお!これはうっかりしておった!このようなジジイに抱きしめられるなど思春期男子には逆に苦行じゃな!いやいやすまんすまん。わしとしたことがうっかりしておったわ。少し待ってもらおう!」そう言ってオスマン氏はギーシュ達にその場に留まる事を命じたあと、ホールから出て行った。しばらくして現れたのはオスマン氏ではなく、何故かきわどい下着を着けた妙齢の女性だった。「待たせたのぉ!さあ、この魅惑の肢体に飛び込んでくるがよい!!」「Oh・・・」マリコルヌが鼻を押さえながら声を漏らす。水精霊騎士団は全員あの女性が恐らく何らかの魔法で女性に化けたオスマン氏であることは分かっていた。そうあれは中の人はジジイなのだ!それは分かっているのだ!だが、だが!ティファニアまでとはいかないがその母性的で豊満なバスト。超安産型なヒップ。瑞々しいとまではいかないが成熟した大人の女性の肢体に思春期の少年達は前かがみにならざるを得なかった。「が、学院長!?何を考えてるんですか!?」レイナールが学院長の暴挙を批難するが彼も前屈みである。「抱いていいわよ?ほっほっほ」「喜んでェーーー!!」マリコルヌが至福の表情でオスマン氏の下へいこうとする。オスマン氏は素晴らしい笑顔で手を広げている。「やめろ!マリコルヌ!!姿はあれだが中は老人の男だぞ!?」「レイナール。例え中身がどうであれ、今僕が見ている妙齢の女性に僕は抱きしめられたいと思う!!中身がジジイだろうがいいじゃないか!」「お前はそこまで女性に餓えていると言うのか!見損なったぞマリコルヌ!」「黙れレイナール!そりゃぁ僕だって希望とすればティファニア見たいな女の子ときゃっきゃうふふとやりたいがそれをやったら僕は、僕は人間として駄目になってしまう!だが見たまえ!あの妙齢の女性はあちらから抱いてやると言っているんだ!これはチャンスだろうが!君だってあの姿にマイサンが反応しちまってるじゃないか!」「こ、これは僕が未熟が故の反応だ!若気の至りと反省すべきだが、僕には自制心がある!」「素直になれよレイナール!例え男でも良いじゃないか・・・」「仮にも英雄扱いされているんだぞ僕たちは!?慎め!」「英雄は色を好むというじゃないか!!」「大衆の前で事に及ぶ英雄が何処にいるか!!」「ここにいるぞ!!」「止めろ、二人とも!見苦しいぞ!!」ギーシュが醜態をさらすマリコルヌとレイナールを一喝した。突如の大声にルイズは目を丸くしていた。「学院長、お気持ちは嬉しいのですがお戯れはおよし下さい。我々は女王陛下の騎士。当然のことを行ったまでであります。それに、私を抱きしめてよいのは我が愛する女性のみでございます」ギーシュの発言は会場の歓声を受けるには十分であった。ギーシュの恋人であるモンモランシーは怒ったような声で、「な、ななな、何を言い出すのよアイツは・・・!!??」「顔がだらしなし過ぎるわよ、貴女」キュルケが呆れたようにモンモランシーに指摘する。モンモランシーの顔は茹蛸のように赤くなっており、眉尻は垂れ下がっていた。はいはい、ごちそうさまですね。キュルケが肩を竦めて再び前を見ると、オスマン氏が何故かミセス・シュヴルーズにとび蹴りをぶちかまされていた。オスマン氏が化けていたのは若かりし頃のシュヴルーズだったのだ。この戦の恩賞はオスマン氏の抱擁などではなく、隊長であるギーシュはシュヴァリエの称号。隊員は白毛精霊勲章を頂いた。ルイズたちにはこの大変な時期の宗教庁からトリスタニアのジュノー管轄区司教の任命状が授けられた。まさしく将来が約束されている面々であるが・・・。「私も一応、あの戦争で働いたんだけどねぇ・・・」キュルケは若干自分の扱いに不満を持っていた。まあ、ゲルマニア人の自分がトリステインの勲章をホイホイ貰うのもどうかとは思うのだが。「しかし、あの馬鹿は何処にいるの?ルイズはいるのにいないじゃない」モンモランシーはこの場にいてもおかしくない達也を探しているようだ。・・・忘れそうになるが達也は魔法学院の生徒ではないのでいなくても全然問題はないのだが。割れんばかりの拍手の中、キュルケたちは達也の処遇について話していた。「タツヤはすでにシュヴァリエで土地持ちなわけだけど彼には何の褒美があるんでしょうね」キュルケは今は恐らく自分の領地にいると思う達也を思って溜息をつくのであった。俺は何時までもこの世界にいるつもりはないし、テファが完全に世界扉の魔法を使いこなしたその時に帰るつもりだ。この時点の騎士という称号も日本に戻れば無用の長物である。無用なものである筈なのに今、この目の前のガリアの姫さんは何と言いましたか?「・・・申し訳ありませんが、聞き間違いと思いますので今一度お願いします」「んん?何だか期待していた反応じゃないわね?」玉座で首を傾げるお嬢様は、ガリアの新女王のイザベラである。タバサに会えるかと思えば彼女は別の仕事で今不在である。「泣いて喜ぶと思ったのに変わっているのねぇ、貴方」そりゃあまあ、今の発言を例えばギーシュが聞けば大層喜ぶはずだ。彼だけではなく一般的な騎士レベルの貴族の者なら喜ぶ話であろう。ただ例外というものは全てにおいて存在する訳で。玉座の間には俺と護衛のワルドの二人が通されていた。エレオノール達は別室で待機という形になっている。無論ハピネスは真琴に預けられている。「・・・正直俺も耳を疑っている。一応もう一度聞いて確認したい」ワルドが小声で言う。そうだな。正直俺も同感だ。確認作業は必要だしな。此処に来て挨拶して吸血鬼討伐の話を簡単にした後、大隆起の話を少しした。それがある程度終わったあとに、唐突にイザベラは俺にこの話を切り出してきたのだ。「仕方がないわね。じゃあもう一回言うわ。トリステイン女王アンリエッタからタツヤ・シュヴァリエ・イナバ・ド・オルエニールにこの度の戦争に対しての恩賞が出ています。現在トリステインは人事異動の為に直接女王から恩賞を授ける事が難しい状況です。なので暫定的にガリアにてその恩賞を授けるようお願いいたしますとのことよ。それでその恩賞の内容は以下のものよ。此度の戦争での貴方の戦果は目覚しいものがありました。よってトリステイン王政府は協議の結果、タツヤ、貴方にその活躍に見合うはずの名誉を用意しました。つまり!ちゃんと聞いときなさいよ?タツヤ、アンタはこれより騎士ではなくなるわ!」イザベラは俺を指差して高らかに言った。その芝居がかった挙動に後ろにいるドゥドゥーなどは苦笑している。せっかく一国の女王がノリノリでこんな馬鹿な挙動を行なっているのだから俺たちもそれに付き合うべきだ。決して一回目に無反応でイザベラが涙目になったからするんじゃないぞ?「な、なんだってーーー!??」「うわははははは!!ざまあみやがれ小僧!お前に貴族など不似合いだったのだー!」ワルドが凄い棒読みの台詞を仰々しく(?)言う。それにしてもこのマダオ、ノリノリである。「タツヤ、君が貴族でなくなっても、俺が小間使いで雇ってやるぜー」「その前に私を脱がした責任を生涯かけて償わせてやりますわー」この馬鹿兄妹も棒読みでこの茶番に付き合っている。物凄くフレンドリーな玉座の間である。ガリア大丈夫?「うふふふ。皆、早とちりはいけないわよ?何せタツヤは貴族じゃなくなるわけじゃないしね」「なんだって?姫さん、それは一体どういうことだい?」俺はアメリカのB級ドラマのようなノリでイザベラに尋ねた。いやもう、オチは分かっているんだけどな。「何せタツヤはこれよりシュヴァリエではなくバロン、つまり男爵を名乗ることを許されたのだからね!」「名乗らん!」「却下よ!」俺の抗議は即座に切り捨てられてしまった。おいィ!?平民出身の貴族がそんな簡単に男爵とかなっていいのか!?騎士だけでも色々なしがらみとかあるのに男爵とかいよいよヤバイんじゃねえの?というかマジで俺を元の世界に帰す気ねえだろトリステイン王家というかアンリエッタは。「本当なら男爵用の礼服とか支給すべきなんだけど、トリステインは今、少し面倒な事になっているらしいから後日支給するとのことよ。あと男爵の身からすれば破格の役職だけどタツヤ、貴方をトリステインとガリアの親善大使にする話も持ち上がっているけど?」「それは勘弁してください」「そう。ならその話はナシの方向で進めとくわ。えらくトリステインのお偉方に気に入られているようね」「あまり気に入られすぎても困るんですがね・・・」そう遠くないうちに変える算段だからな俺は。まあ・・・精霊の頼みごとについては考え中だが。「お前が子爵まで上り詰めたら俺は泣く」「テメエは何を言ってんだ、元子爵」お前が子爵の座を失ったのは自業自得だろうが。「ところで貴族階級の事を俺は良く分からんのだが?男爵は騎士の上で子爵の下でいいのか?」俺がワルドに聞くと、ワルドはやれやれと肩を竦めて俺に教えた。「それぐらい常識だと思うがな。まあいいだろう。貴族の階級は大雑把に言って一番下に騎士がいる。続いて男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵、大公とかに続いていく。まあ大公などは王族とかがなっていることが多いから省くとして、お前は二番目に低い爵位を貰ったという事だ」「ん?ちょっと待ってくれその順番からするとルイズの親父さんって相当偉いやん。よくもまあそんな人の娘の許婚になれたなお前」「・・・思い出したくもないが此方も膨大な根回しを行なったのだよ。そうでもないと子爵のおれに公爵の娘を貰う約束など取り付けられるはずもあるまいて」その膨大な根回しを一瞬で崩壊させて今に至ると。「ザマアミロとでも言いたいか?だが現実は良く出来た美人の嫁を貰っているのだよ俺は。ザマアミロ!!」「その結果公爵家の怒りを買い、公爵夫人の影に怯え、公爵の長女にいびられる毎日と」「正に天国と地獄を往復するかのような人生とは思わんか」「正直ざまあみろと言わざるを得ない」「俺は一体何処で人生を間違ったと言うのか!?」ワルドは頭を抱えて項垂れた。貴族の根回しなんて俺には無縁だと思っていたんだがこれからはそういう事も考えないといけない立場になったのだろうか・・・?・・・阿呆か。俺に政治的能力など期待できないしオルエニールの状況だって様々な人の協力で成り立っているのだ。この上貴族の根回しもしろとか嫌過ぎる。やれと言われても出来ません。そう言うのが得意そうなゴンドラン爺さんにちょびっと立ち回りは教えてもらおうかな?「まあ・・・正直貴方に男爵位を与えることについて反発する勢力も現れるかもしれないってのは確かかもね。ゲルマニアならともかくトリステインでは平民が男爵位まで貰えたってことは少なくとも私は聞いたことないから。調べれば一人はいるかもしれないけど」「そんな大変な身分だからなりたくないって言ってるのに・・・」「トリステインが嫌になったらガリアに来れば良いじゃない」ルイズの使い魔と言うのが基本身分な俺がそんなことをすれば俺はラ・ヴァリエール家に総力を持って追われそうです。「誘いは嬉しいですがね、お心だけ受け取っておきましょう。しかしトリステインって今人事異動中なんですか?」「そうね、貴方も男爵だし知っておいたほうがいいかもね」イザベラは最早他人事のようにトリステインの現状を言うため口を開いた。「ロマリアの宗教庁は次期教皇にトリステインのマザリーニ枢機卿を指名したわ。全会一致でね」「・・・やはり・・・か」ワルドが呟く。マザリーニってあのアンリエッタの執務室にいたおじさんだよな?・・・凄い人だったんだなあの人。「ワルド、何でやはりなんだ?」「前ロマリア教皇・・・ヴィットーリオがその位に就けたのはそもそも枢機卿がロマリア教皇の座を辞退したからだ。その時はヴィットーリオ派とマザリーニ派が存在した為それが許された面もあったのだ。だが今は違う。擁立する候補がいないのだ。本来若い教皇がこんな形で死ぬとは想像していなかったのだろうな」「代わりがいないからトリステインの枢機卿をいきなり教皇にするのか?」「トリステインにもうまみがある話だからな。昨今の枢機卿は女王に対して真の忠誠を誓ったと言う話もあるしな」「ロマリアとの関係がよくなるとでも言うのか?逆に枢機卿とか国の内部事情を知っている奴が他国のトップになったら弱みを握られたと思わないのか?」「無論そのような点で反対もあったはずだろうな。まあしかしそのような理由ならばお前の爵位を与える為の儀をやっている場合ではないな」そもそも枢機卿は教皇に次ぐ役職なので彼が教皇になっても何の不思議もない。・・・あれ?何でそんな人がトリステインの内政をやっているの?勿論トリステインにも内政専門の部門はあるわけで、それまでその部門を取り仕切っていたのがマザリーニで・・・。ちゃんと内政に強い人材も育てような、トリステイン。だがゴンドラン爺さんはやらんぞ。「ヴァリエール公爵が後任とかだったら俺は泣くぞ」「あの人娘と離れるとかしないだろ」「甘いな。娘に甘いからこそトリステインの内政部門に来て、人事に口出して娘達を秘書とかにするくらいの行為は平気でやるぞ?」そうしれっと言い放つワルド。その発想はなかった。「まあ決まってもいないことを仮定するのは此処までにして、今日は疲れたでしょう?連れの人も呼んで食事にしましょう。吸血鬼の依頼は明日からだし今日は休みなさいな。言い忘れてたけど、歓迎するわよタツヤ」「俺ごときに直々のご歓迎のお言葉、真に恐悦至極でございます」「ええ。それじゃあ夕食にしましょう」そう言って立ち上がるイザベラ。何か今日も大変な一日だった。正直過剰評価もいい加減にしてもらいたいものだが、断っても無駄なので受け入れよう。早めに帰ればその辺は有耶無耶になるだろうからな!「・・・まるで友人以上の扱われ方だな。本当にお前はガリアで女王とナニをしたんだ」「ナニはしていないな」「素で返すな馬鹿者」ワルドに小声で怒られてしまった。「何をコソコソしているの?女王を一人で歩かせるつもり?エスコートはするべきよね?」「だとよドゥドゥー。気が利かないなお前」「何でだ!明らかにお前に言ってるだろう!?」「お前、俺がガリアの城の食事場所なんざ知っていると思うか?」「前を歩くからお前が陛下をエスコートしろや男爵様!!」「エスコートする為の礼法が足りません」「そんな事は気にしなくていいからひとまずあの方のお手を取って歩幅に合わせて歩け。全く・・・」ワルドは呆れたように俺に言う。うーむ、いいのだろうか?俺には彼女がいるんだが・・・まあお偉いさんをエスコートするのは紳士の嗜みなんだろう。なるほど、これも仕事か。仕事ならまあ、いいんだろうな。まあ、女性の手を取るのは少し照れるのだが。「という訳なので姫さん。お手を拝借」「礼法もクソもないわねぇ。何その誘い方?」イザベラはそう言って笑いながら右手を出した。俺はその手を取ってぎこちなさ過ぎるエスコートを開始した。まあ、もう片方の手はすぐに真琴に占領されてしまったのだが。男爵とか騎士とかである以前に俺はコイツの兄だ。それが、俺の誇るべき称号なんだ。(続く)