何か大変な事を水の精霊に頼まれた訳ですが、俺たちの本来の仕事はガリア女王に謁見することである。しかし運悪く道に迷ってしまったので俺は一応の友人であるタバサの実家の別荘に滞在しているのだ。・・・何を言っているのか分からんと思うが、事実だから仕方ない。ガリアからの迎えは数日中に来たが、迎えはタバサではなかった。「・・・お前一人じゃなかったのかよ」「遠足気分で来られても困るんですが」俺たちをわざわざ迎えに来たのは『元素の兄弟』のドゥドゥーとジャネットだった。一応ガリアの精鋭であるこいつらが何故俺の迎えに来たんだ。というかタバサはどうした。「お前な、シャルロット様は一応は王族なんだから北花壇騎士以外にも色々忙しいんだぞ?」「陛下も最初はシャルロット様を迎えにしようと考えていたのですけど、何せ多忙ですしね」「多忙なら俺を呼ぶなよ。ガリアとはあんまり関係ないだろう」「何言ってるんだ。ガリアの王権が一応交代した原因を作った奴が関係ないはずあるか」俺は壊すだけの存在でありたいのだが、どうもこいつ等は再生まで俺を扱き使おうと企んでいるようだ。というかガリアの事はガリアで何とかしてほしいものだがこいつ等は俺を逃がすつもりはそもそもないようである。ああ!何てことだ!偶然出会った姫さんは地雷だったのだー!いやまあね、一応美人さんだから会うだけなら別に構わんのだよ。恋人がいるとはいえ美女を観賞して評価するのは男の性である。女性の方だって夫とか恋人と買いながら男性アイドルとかにお熱の奴なんて珍しくもなんともないだろう。そういう訳なので俺がイザベラの姫さんに会うだけ、しかも呼ばれて会いに行くだけならば何ら批判される事は無いはずである。愚痴を言いまくる俺を見かねたのか、ワルドとエレオノールが口を挟んできた。「解せんな。何故立場的には他国の領主でなおかつ貴族の使い魔でしかないこの男をガリア女王がわざわざ呼び出すなどと。外交にしてもこの男にそれほどの価値があるとは思えんぞ?」「王族の血統とかならば分かるのだけれど、話を聞いてれば戦場で偶々出会っただけの関係なのでしょう?」「口約束とはいえ、『力になる』みたいなこと言っちゃったしな、俺」「こういう政治的な問題になると口約束だけでは効力は薄いでしょう?ちゃんとガリア王女と貴方との盟約の書状がガリアとトリステインで認可されないと・・・」「ああ、それは問題ありません。今回のタツヤの件につきましてはトリステイン女王陛下からも認可を受けて召集をかけていますわ」「はあ!?」アンリエッタが俺がガリアに行く事を認めただと?よもや色々面倒くさくなって俺をガリアに押し付けるつもりなのか!?おのれトリステイン首脳陣!お前ら俺を元の世界に戻す気ないんか!無いんだな!?「そういう訳だから僕らは大手を振ってお前を城に連れて行けるのさ。何、用件が済んだらトリステインに戻れるさ!」「そういえば用件の詳細をまだ教えてもらっていないな。護衛である以上、そのくらいは把握しておきたいのだが」「本当は陛下から直接承るべきなのでしょうけど・・・どちらにせよ決定事項なので此処で言っても構わないでしょう」ジャネットは俺を見て軽い溜息をつきながら言った。「戦争後の治安は不安定なのは分かるでしょう?ガリア全土の現在の情勢は極めて不安定なのです。現在ガリア王政府は全力で治安の回復に努めています」「その治安の回復に俺を駆り出すつもりなのかよ。辞めてくれよガリア臣民の人身掌握とかガリアの人で・・・」「話は最後まで聞けよ。治安の回復は僕らでやっている。だがそれに人員を割きすぎて本来の魔物退治とかに向ける人員が不足して、現状傭兵を雇ってそれに割り振るしかないんだ」「・・・おい待て。今何といった?魔物退治?傭兵?」「お前たちガリアはこの男に魔物退治を依頼すると言うのか?」「何、魔物といってもドラゴンとかじゃないから安心して欲しい」「ふむ、村などで悪さをするゴブリン退治レベルか?それならば危険も・・・」「いや、ワルド。仮にゴブリンだとして、俺を呼ぶほどのものなのか?」「ゴブリンは弱いけど、群れて行動するとなかなか厄介な存在よ。まあ、とはいえそれ程の脅威ではないから・・・」「・・・残念ながらゴブリンではありませんわ」「何?」「タツヤ。陛下がお前に退治して欲しい魔物は『吸血鬼』だそうだ」「チェンジで」「酒場で気に入らない女が接客してきた時のようなノリで断るな!?」「兄さん・・・そのような酒場に何時行ったんですか・・・?」「!?・・・しまった!!?」「ふっ・・・迂闊すぎるな。そういう言動でボロを出すと俺のようにいつの間にか両腕が切り落とされた挙句田舎で巨大生物と畑の平和を守るため戦い、孤児に父扱いされる過酷な人生を送る羽目になる」「前半はともかく後半は全然過酷じゃないわよね。何それ貴方、自分は今幸せの絶頂ですとでも言いたいわけ?」「今正に首を貴女に締められ不幸のどん底に叩き落されかねない状況に陥っている男、ワルドです・・・おごごご・・・」エレオノールにネックハンキングツリーをされているワルドを無視しつつ、俺は吸血鬼について二人に詳しく聞いてみた。「ところで吸血鬼ってどんな風貌をしてるんだ?やっぱり人間と比べて犬歯らへんが長く鋭いのか?」「それがな、見た目は人間と変わらない容姿なんだ。血を吸う直前まで牙は引っ込んでる。そのだな、お前の肩で寝ているハーピーと違って特に容姿も変えずにその状態でいるから始末に悪い」「ドラゴンのような見た目で判断できないタイプの魔物ですからね。騎士団でも探し当てるのに苦労するのよ。此方の呪文でも正体は見抜けないし」「聞けば聞くほど無理任務の臭いがプンプンするんだが」「いや~、戦争を終わらせた功労者の君ならば吸血鬼の一匹二匹、チョロいじゃないのかと陛下は考えたんだと思うぜ」「俺一人で戦争を終わらした訳じゃないんだが」「それは百も承知だが、あの時のロマリアの気運は『ガリア王討つべし』だったのに、殺さずに生け捕りにした挙句トリステインの勝利とか言って『聖戦』自体を有耶無耶にした元凶はお前じゃんよ。いやね、正直僕もお前にはそれなりの感謝はしているんだぜ?」「結果から見れば貴方は聖戦で失われる筈だった何千何万の命を救ったことになりますね。まあ、やり方は眉を顰める程の卑劣っぷりでしたが」「その結果を陛下は評価してるし、お前との縁もあって吸血鬼討伐を依頼してるんだ。光栄な事だろう」「いや、だからそういうガリア領内のことはガリアの兵で対処してくれと。何でそんなステルス能力含んだやばそうな相手を倒すとかを俺に頼むの」俺との縁があるからといって吸血鬼討伐を頼んでどうする!?「かつてシャルロット様もこの任務を行い、見事達成しているぞ」だからお前も出来るんじゃないかとイザベラは思っているようだが過大評価すぎる。大体領内の巨大生物の対応にも追われているんだぞ俺たちは!?ワルドなんかその巨大生物討伐の責任者である事もあってさっさとド・オルエニールに帰りたいに違いないのに何故にそんな時間がかかりそうな任務を・・・。・・・エレオノールは問題外だな。帰ったら母親が待ち構えてるし。どうせ時間稼ぎ及び功績を残すためにこの任務に賛成する立場に立つんだろう。「ぴぃ・・・?」考え込む俺の顔を覗き込むハピネス。此方の不安が分かっているのかは俺には詳しくは分からないが『そんな顔しないで』とでも言いたげに小さな頬を摺り寄せてくる。「タバサが相手した吸血鬼と俺が相手する吸血鬼は同じじゃないだろ」タバサがそもそも実力で俺に劣るとは到底思えない。だが、もしかしたら今回の吸血鬼はタバサが相手した吸血鬼より悪質かもしれないのだ。ワルドやらがいるとはいえ、無事に倒せる相手ではないようだ。「吸血鬼は確かにまあ、危険だとも。先住の魔法は使うのもそうだが、何より吸血した人間を操る事が出来る」その辺は俺が想像する吸血鬼像と大差は無い。問題はその能力で吸血鬼は街一つ全滅させる事は珍しくないという事だ。目に見える巨大蚯蚓とかの対策は容易に出来るのだが、姿が見えない相手への対策は難しいものがある。そんなヤバイ奴を討伐とか何考えてるのでしょうか?ドゥードゥーは頭を掻きながら俺に言ってきた。「場所は以前、ミノタウロスをシャルロット様が討伐した近くの村、エズレ村だ。全く、折角ミノタウロスがいなくなったというのに不運な村じゃないか」「と言われても俺はそんな情勢など知るわけがないのだが」「その不運な村にお前は行くんだぜ?」「そんな不運な村に行かされる俺たちは更に不幸なのだよ!?」「はっはっはっは!更に経歴に箔がつく事なのに何処が不幸なんだ?」「ならテメエが行けや!?」「俺は今の地位で満足なんだよね」「そういう現状維持最高的な言葉は人間から向上心を奪うと知るがいい!!」向上心の欠片もない俺が言える立場ではないのだが、此処は言わせて貰う。吸血鬼相手とかご勘弁!何とか姫さんを説得して任務の取り消しを所望したい!タバサには多分風竜のシルフィードがいたから勝てたんだ!うんそうに違いない!ワルドもエレオノールも難しい表情で俺を見ている。そのことから吸血鬼がいかに危ない存在という事は想像できる。「・・・陛下は貴方に多大な期待を寄せられています」「・・・?俺は姫さんにそこまで気に入られることは・・・」「あの方は今まで友人はいなかったんだ。俺たちはあくまで騎士だし、シャルロット様との仲もギクシャクぎみだ。前王時代の陛下はいつもしかめっ面だったよ。俺たち兄弟は歳も近かったし、陛下の話し相手にはなれたんだが・・・友人にはなれなかったんだ」「貴方と出会った際、実を言えば陛下は貴方をかなり警戒しておられました。ですが貴方は陛下には危害は加えていないどころか護っていましたし、陛下が救いたかった前王の命も取らずに戦争を終わらせました。それに対して貴方は特に褒美を要求しなかったではありませんか。陛下はそれに対して貴方に親愛の情を抱くことになったのです」いや、だってさ。あの時は生き残る事しか考えてなかったし、変に恨みを買いたくなかったし。娘の前で父親殺すとか、凡人のメンタルでは耐え切れないから。何かやたら『背負う』とか『俺を恨め!』とかイケメンな考えの奴らには怒られそうだが、そんなもん背負いたくないから。・・・まあ、ジョゼフの男性器官は殺しちまったかもしれんが、それで父の(股間の)仇!とか言われて追われるとは思わんしなぁ・・・。それにしてもあの姫さんは俺に友情を感じているのか?いやまあ別に構わんが、いくら友情を感じてるからって限度があるでしょうに。・・・ふむ、それにしても一市民の俺が王族レベルの人に友情を抱かれるまでになったのか。異世界だけど。男女の友情は都市伝説とか言うがルイズとかキュルケとかテファとかベアトリスやタバサとか普通に女友達じゃん。ん?姫様?あの人は仕事上の付き合いじゃん。何言ってんの?杏里だって少し前までは女友達のカテゴリだったんだぞ?今は恋人だが。王族が友人となった事で俺に何かメリットはあるのだろうか・・・?・・・とりあえず他国の仕事を押し付けられるデメリットは判明したが。「まあ、話はここまでにしてとりあえず王都に向かいましょう。陛下は貴方をお待ちしていますから」「随分と気に入られているようだな、ククク」生温かい目で俺を見て笑うワルドが心底ムカつく。エレオノールは物凄い目で俺を睨み、『う・ら・ぎ・る・の・か』と口パクで言っていた。裏切るって何が?「お兄ちゃん、今度は何処にお出かけするの?」真琴が無垢な笑顔を浮かべて俺に尋ねてくる。「ああ、今度はお城にこのお兄ちゃんたちと一緒に行くんだよ」「そうなの?」真琴がドゥードゥー達を見ると、ジャネットは微笑んだ。真琴はそれを見ると深々とお辞儀をして元気よい声で、「お兄さん、お姉さん、よろしくお願いします!」と言って満面の笑顔を咲かせた。それを見たドゥードゥーは俺の耳元で言った。「・・・あの子、お前と全然似てないな」「正真正銘俺の妹だ。邪な感情を持ったら俺はお前を大海原に突き落とす」「俺は年下は3歳下までしか許容しねえ!!」「兄さん・・・自分の性癖を怒鳴ってどうするんですか・・・」ジャネットは頭を抱えて兄の妄言に突っ込んだ。男が自分の性癖を暴露したのならば同じ男の礼儀として性癖をばらさねばならん。「そんなわけで人生の先輩、ワルド氏の性癖のカミングアウトをお楽しみください!」「俺は母性溢れる女が好きだ!って何を言わせるのだ!?」「言わせといてなんだがそれにピッタリの嫁がいるお前を俺は殺したいです」「理不尽な殺意を護衛に向けるな!?」「私は背が高くて実家がウチより裕福で容姿端麗で優しくて私の言うことを笑顔で肯定してくれる殿方がいいわね」そんな妄言を言っているから婚期をブッちぎってしまうんですよ姉さん・・・。「私はお兄ちゃんがいいー!」と、嬉しい事を我が妹は言うのだが、将来これは彼女の中で黒歴史となる発言になるのだろう。「ぴぃ!」そう鳴いて俺の顔に擦り寄るハピネス。ペットに懐かれるのは別に構わんが空しい。「私の理想の人はもう、目の前にいます・・・きゃっ!言っちゃった!」「いかんぞシエスタ。ワルドはマダオだが一応妻持ちなんだ。不倫はいかんぞ不倫は」「畜生!!どうしてそのような結論に至るんですか貴方は!?」半泣きで俺に詰め寄るシエスタ。面白い。「私はしっかりした人がいいです。世話のかかる殿方はごめんですから」ジャネットは兄を見ながらそんな事を言う。当の兄は冷や汗を掻きながら渇いた笑いをあげていた。「と、場の流れで自分の理想の異性をカミングアウトする皆さんでした。お前ら、場の空気に流されるなんてこの先の吸血鬼相手に大丈夫なのかよ」「いきなり醒める事を言うな!?」「タツヤさん!タツヤさんの理想のタイプはどのような女性なのですか!?」「いい紳士というのは秘密を着飾るものだぞ、シエスタ」「貴様のような紳士がいるか!?この小悪党!!皆言ったんだからお前も言え!」「聞こえんなぁ~?ワルド、お前の発言から俺は確信したよ。お前はマザコンだな」「違う!?俺は他人と比べて母に対する敬意が強いだけだ!?」それがマザコンです有難う御座いました。気にするな。俺だってシスコンですから。俺の性癖に対する尋問を続けつつ、俺たちはガリアの王都に向かっていった。向かうと言うか連行というか・・・とにかく俺はイザベラの姫さんと恐らくタバサと会うことになるのだ。にしても吸血鬼か・・・。十字架の概念がこの世界にあるのか分からんから十字架は使えんな。なら日光!と言いたいが夜しか活動せんだろうな。・・・と、なると・・・。・・・いつの間にか退治すること前提で考えている自分が悲しい。(続く)アイマス2より私は勇者30 SECONDの方が楽しみで仕方ない・・・と思ったら何だか大変な事になってるようですな。