ロマリアとガリアの戦争は終わった。レコンキスタとの戦争の際、ガリアが漁夫の利の得たように今回はトリステインが漁夫の利を得るというある意味趣返しにガリアの中枢は苦笑いを隠せなかったらしい。トリステインの目的は聖戦の中止であった為その目的は達せられた。ガリアもジョゼフが引退し、王座をタバサではなく娘のイザベラに引き継がせた。ジョゼフは隠居生活に入るという。問題は教皇を失ったロマリアである。教皇ヴィットーリオの戦死はロマリアならずハルケギニア全土に衝撃を与えたと同時に聖戦のジンクスの信憑性をますます強めてしまった。戦争である以上、教皇も死ぬ恐れはあったとはいえまさか本当に死ぬとは夢にも思わなかったのだ。ロマリアの民衆、特に孤児や難民達は彼の死を大いに嘆き悲しんだ。ヴィットーリオが貧民層や孤児たちの救済に尽力していた事は厳然たる事実であり、彼らにとっては希望が失われた状態なのだ。「此方の計画の進行が大幅に遅れるよ。何せ陣頭指揮を執るはずだった人物がいなくなったんだからね」目を腫らしたジュリオが力なさげにそう言った。主のいない執務室で彼はヴィットーリオがまとめていた書類を片付けていた。「恐るべきはエルフの行動の速さね」「速いというより的確さに驚かされるよ。聖下を直接狙ってくるなんてね」ジャンヌというエルフの女剣士によってヴィットーリオは殺害されてしまった。単身戦場に乗り込み、教皇の殺害を行なうとは大胆不敵というか何と言うか。ルイズは改めてエルフの強大さを感じたのである。「で、何で俺たちはまだトリステインに戻れないんでしょう?」他の皆はもう既にトリステインに帰ったというのに俺とルイズにテファと真琴及びシエスタは未だにロマリアにいる訳だ。「ルイズやティファニアは『聖女』だからね。戦後も民衆を元気付ける仕事があるのさ。こういう結果に終わってしまって民衆は動揺してるからね」「戦後復興のシンボルにするのか?」「そこまで大層な事は考えていないよ。ただ、祭り上げた以上、急にいなくなられても困るんだ。教皇が亡くなった以上、民衆は崇める対象を求めるのは当然だからね」なお、教皇が死んでしまった為、世界扉で帰還するという目論みは崩壊した。何かテファも使えるようになったらしいが水晶玉程度の大きさが限界だった。つまり、現状俺が元の世界に戻るにはテファの成長待ちしかないのだ。「それに今ロマリアから出たら君は無事に君の領地にいけないと思うんだが」「アンタ本当にガリアの王女に何したのよ。連日勧誘の連絡が来てるのよ」「さあ?タバサがいるからじゃないか?」なお、タバサは現在ガリアにいる。北花壇騎士である彼女は新王女即位の為の準備に駆り出されているのだ。イザベラに思う所はあるのかもしれないが、イザベラも暇でなくなった以上タバサに嫌がらせをする暇などないのだ。むしろ積極的に彼女の力を借りようとしているらしく即位の儀のその日までタバサが魔法学院に戻る事はなさそうなのだ。まあ、元々タバサの親父はガリアでも人気があったらしいからその娘をどうこうしたら色々不味かったんだろう。「なあ、ジュリオ」「なんだい?」「あの教皇さんがエルフのいる聖地奪還に拘ったのは何でだ?」「・・・言える所までで良いかい?」「あんまり難しい事は面倒だし、大事な所だけ言ってくれ」「ああ。まずこのままではハルケギニアは未曾有の大災害に見舞われる所から話そうか」「災害?」「ああ、アルビオン大陸は知っているな?あの浮遊大陸はかつての災害によって浮かんだものなんだ。地下にある風石の力によってね。その時はアルビオン大陸だけがああして浮かんでいるんだが、最近の調査で分かったんだが、現在ハルケギニア中に埋まった風石が飽和してしまっている。このままじゃハルケギニアの大地はあちこちで浮き上がる。これは我々と魔法研究所が共同で出した結論さ。このままでは将来ハルケギニアの半分は人の住める土地ではなくなる」「風石を採掘しまくりゃいいじゃん」「僕らもそれを考えているんだがそれをするには莫大なコストと技術がいる。残念ながら僕らの技術では大量の風石を採掘する事なんて無理なんだ。それこそエルフの力でも借りないと。しかしエルフは此方を見下しているし、此方の協力をしようとしないからね」「だからと言って聖地を奪還したところでさ、お前らに何が出来るんだよ」「・・・聖地には扉がある。君が乗っていた「せんしゃ」や銃などは全て君の世界のものだ。そしてそれらは全て聖地の扉付近で見つかっている。あれほどの技術は僕らの世界の常識を当に超えている。そこに僕らは目をつけた」「・・・もしかしてとは思うけどさ、その扉がある聖地を奪って扉の向こうの世界の技術を貰うとか考えてないよな」「その技術を貸して貰うまでさ」「お前ら、自分の世界の事は自分で何とかしろよ」「事は急を要している。情けない話だが現状では君たちの世界に希望を託すしかないんだ」「勝手に希望を託すなよ。少量とはいえ風石は採掘できる技術はあるんだろうが」「だからそれじゃあ足りないんだって。まあ、聖下が亡くなった以上その計画も頓挫しちゃったよ」「ぶっちゃけいきなり『異世界からきました、助けて!』と言われても助けるかどうか知らんがな」「冷静に考えれば頭おかしいと思われるわね。私もタツヤを最初そんな感じで見てたし」お前は携帯電話に対して異様に怯えてたけどな。「まあ、大陸が浮遊して住む所がなくなって超ヤベェという事は理解したよ。要は地下に埋まった風石を何とかしなくちゃならなくてそのための技術が欲しいんだけど現状ないってことか。爆破すりゃいいんじゃないの?」「地下でか?それこそ危険だよ。飽和状態になっている風石に爆発の衝撃を地下で与えたらそれこそ地上は大災害に見舞われる」「結局掘り起こして地上で処理が一番か」「なお、強力な魔法の衝撃で取ろうというのは無しだぞ?」「ジュリオ、お前の能力はどんな動物でも扱える事だったよな」「・・・何だい、いきなり」「・・・アンタまさか・・・」ルイズが冷や汗を垂らしながら俺に言う。「ジュリオ、お前をド・オルエニールに招待しよう」「ああっ!?やっぱりー!?」「・・・?どういうことだい?こんな時に君の領地に行っても・・・」「人というのは今持てるもの全てを駆使して頑張るべきだ。俺の世界に頼る前に、この世界で可能な事全てをすべきだと思う」現実にはウルトラ●ンはいない。世界の危機はその世界に生きる人々で何とかしろ。その世界に生きる者、あるもの全てを駆使してその世界の危機は凌ぐべき(キリッ「お前らの世界の底力はお前の思っている以上に力強いんじゃねえのか?」「た、タツヤ・・・」「いいこと言ったように言ってるけどアンタは関わり合いになりたくないからそう言ってるだけでしょう」「俺はこれ以上この世界で戦いたくないんだけど。帰りたいし」「生きるという事は戦うことよタツヤ。世界がどうであれ貴方は戦うべきなのよ」「熱でもあるのかルイズ。本心を言えば真琴をナデナデする権利をあげてもいいぞ」「こんなクソ忙しい時に自分だけ帰りますとか許されると思ってる?逃がさないわ」あっさり本音をいいやがったぞこの女。「俺は定時で帰りたいんだーー!!?」「オーッホッホッホ!私の使い魔であるからにはキビキビ働いてもらうわよ!」「俺が働いた分だけお前が楽できるのか」「その通りよ」「有給休暇を申請する」「私を見殺しにするつもりか!?」「見殺しとか人聞きの悪い。お前にはお前を聖女様と崇める哀れな民衆達が構ってくれるじゃないか。寂しくなんかない」「嫌だ!アンタがいないとマコトもいなくなるじゃない!私はマコトの魔法の先生ぶりたいの!」ルイズが真琴の魔法を見たとき、鼻血を噴出した事を俺は思い出していた。折角座学が優秀なので家庭教師として真琴につけようとも考えていたのだが、その鼻血によって考えは霧散したのだった。「・・・君が治める領地に、現状を変えるかもしれないものがあると言うのか?」実質俺の領地を治めてるのはゴンドラン爺さんな訳だが、俺は一応自信ありげに頷いた。「・・・いいさ。どうせ聖下が亡くなった以上、僕はすぐにお役御免でロマリアから追い出されかねない身。男からの誘いというのがなんとも味気のない話だが、乗ってやろうじゃないか。だがルイズ達は出来ればここに残して欲しいんだがな。人々の希望を取り戻すにはまだ時間が・・・」「教皇一人死んだ程度で無くなる希望なんて希望じゃないだろ。確かにあの人の存在は大きかったのかもしれないけど、それで全てを諦める理由にはならないはずじゃないか?残された奴らは小さな幸せ見つけてダラダラ生きてりゃいいんだよ。しっかり生きようとするから余計な荷物を背負う事になるんじゃねえの?」よくその人の分まで生きろとか言うけど、そいつの人生背負ってまで生きるなど並大抵の人間ではできない。俺は俺として、ジュリオはジュリオとして、ルイズはルイズとして生きればいいのだ。まあ、それでも背負って生きる奴を俺からどうこう言うつもりなど勿論無いのだが。死んだウェールズやフィオの人生を俺は背負わない。ただ、二人の想いは受け取った。俺はそれを胸に抱いて生きていくんじゃないかと思う。まあ、この二人は背負わなくても取り憑いているわけなのだが。「まあ、戦後の混乱期の今だからこそ、聖地ロマリアのお手並み拝見といきましょう。いい加減私もトリステインに帰りたいし、テファだってそう思ってるんじゃない?」「・・・僕らは君たちを散々利用してきた」急にジュリオはそう呟く。その表情は暗かった。「特にタツヤ、君は殺されかけた。他ならぬ僕に」「そうだな」あの日の事は今思い出しても腸が煮えくり返る思いだ。「答えて欲しい。何故君はそんな僕に希望を提示してくれるんだ?普通見捨てるか殴るか殺すとか・・・それなりの処置をするんじゃないのか?」「アホかお前、そりゃ何ていったってお前に利用価値があるからに決まってんだろうよ。それに殴るとかはもうやったじゃん」「利用価値・・・か」「お前な、こちとら豊かな領地じゃないんだ。親切心のみで勧誘とかしないさ。ド・オルエニール領民はほぼ全員何かしら働いている。孤児院にいる子どもですら農業に携わっている。それがどういうことか分かるか?人手が足りないんだよ人手が。成長しようにも肝心の農業はある障害によって成長を阻まれてるんだ。それを何とかする為の力をお前は持っていた。だから勧誘してるんだよ」ゴンドラン曰く、俺にはもっと有名になって有能な人材を集めて欲しいらしいのだが、正直勘弁してほしい。確かに有名な人物には有能な者も集まるとか言う話は聞いたことあるけどさぁ・・・。有名になったらなったで腕自慢のチンピラメイジも来るじゃん。巨大生物見て逃げてたけど。まあ、怪獣決戦はあの領地ではよくあることだし・・・。黙り込むジュリオに俺は尋ねた。「なぁ、ジュリオ。こんな事聞くのは変だけどさ、お前は恋人はいるか?」いれば好待遇で迎えれるのだが、よく考えればこいつはロマリアの坊主である。しかし返答は坊主の概念を一蹴するようなものだった。「・・・いるよ」その時のジュリオの表情は何処か申し訳なさそうであった。・・・何この反応?「なら、その彼女も連れて来いよ。若い夫婦は大歓迎だから」「・・・僕は・・・彼女を連れて行く資格などない男だよ・・・」そう呟くジュリオの表情は自嘲の笑みが浮かんでいた。だが、貴様の資格がどうだなど俺が知った事ではない。恋人がいるならいるで幸せにしてやれ。離れていたら彼女は不安だろうがよ。一緒にいてやれよ、同じ世界にいるんだろう?「そんなの知らん。連れて来い」「話聞いてた君?」「駄目よジュリオ。恋人がいるといった以上、コイツは式の日取りまで計画するわ」「そこまでせんわ馬鹿者!?あのな、恋人なら資格云々とか言ってんじゃねぇよ。掻っ攫ってきやがれ」「・・・わかった。ならばお言葉に甘えるとしようか。あまりの可憐さに嫉妬するなよタツヤ」ジュリオはそう言うと肩の荷が下りたかのような笑みを浮かべた。その後、ジュリオは外出許可を取りに部屋を出て行った。それに続いて俺とルイズも、テファたちが待つ部屋に戻った。そこで俺はテファ建ちにド・オルエニールへ戻る事を伝えた。ようやくトリステインに戻れる事もあり、テファはホッとした様子であった。「そんなわけなので、シエスタ、弁当を準備してくれ」「喜んで!」「あ・・・私も手伝うよ・・・」テファが席を立とうとした瞬間、シエスタは鬼気迫る表情で言った。「やめて!?タツヤさんは私に頼んだんです!この手柄は渡しません!?」「え、ええ!?」困惑するテファ。というか手柄ってなんだシエスタ。「これは試練!そう!タツヤさんの専属メイドとしてタツヤさん及び皆さんのお腹を十分に満足させるお弁当を私が単独で作れるかという愛の試練なのです!この試練に人の手を借りてはメイドの名折れ!これは私のメイドとしての主への忠誠心と愛情が試される機会なのですよ!?その機会を妨害しようだなんてティファニアさん・・・恐ろしい女!!」「シエスタお姉ちゃん、お料理はみんなで作った方がたのしいんだよ?」「ええ、そうですねマコトちゃん。それも事実です。でもね、女には退いてはいけない時があるんですよ・・・」歴戦の戦士のような雰囲気でそう言う我が専属メイド。我が妹はそんなシエスタに感心したように目を輝かせていた。「いいよ、テファ、真琴。手伝いたいなら手伝いな」俺はオロオロするテファに助け舟を出すように言った。しかしそれに納得のいかないシエスタは涙目で言った。「タツヤさん!?私だけじゃ物足りないと言うんですか!?」「色々誤解を招きそうな言い方をするな!?」「いいから早く作りなさいよあんた達・・・」ルイズが頭を押さえながら呟いた。それは俺も同感である。不服そうに弁当の用意をしに行く女性陣を見送り、残されたのは俺とルイズのみだった。「まさかアンタが人の恋路を後押しするとは思わなかったわ」「お前は俺をどう見ていたんだよ?」「愉快犯?」「可愛い振りしてお前は酷い事を俺に言うよね、性犯罪者」「ストレートに酷い事を私に言うわよねアンタ」「人間素直が一番だろう」「本音と建前を覚えろ貴様ー!うがー!!」「ワハハハハハ!お前相手に建前何ぞ勿体無さ過ぎるわ!!」「おのれタツヤ!何処までも私を馬鹿にして!あ、そうか、そういうことかー」急にルイズは気持ちの悪い笑みを浮かべた。「むっふっふっふ、やはり私は罪な女ね。そしてやはり流石私ね」「急になんだよ」「タツヤ!アンタはどうやら好きな娘には意地悪をするタイプね!」「・・・は、恥ずかしい・・・」俺はあまりの恥ずかしさに顔を覆った。「フフフ、図星ね!ああ、好きな女性がいても惹かれる自分の容姿が怖いわ!そしてタツヤもかわいい所が・・・」「恥ずかしい・・・痛い勘違いをしてどや顔で悦に浸ってる主が使い魔として恥ずかしい・・・ッ!!」「やめろおおおおおお!!!指の隙間から哀れみの視線を私に向けるなああああ!!?そんな生温かい目で私を見るなああああ!!」叫びながら壁に頭を打ちつけこの悲しい現実から意識を飛ばそうと努力するルイズの姿が余計に悲しい。そんな主従を眺め(?)ながらこの二人との付き合いはそれなりに長い喋る鞘は呟く。『成長せんね、こいつ等は』ジュリオが外出許可を得て戻ってきた頃にはルイズは頭に大きな瘤を作っていた。・・・・・・どうやら現実からは逃れられなかったようで部屋の隅っこでいじけていた。「・・・何があったんだい?」「勘違いの末の自己嫌悪中です」そこに人数分の弁当を持ってシエスタたちがやって来た。戦争は終わり、平和がスキップしながら戻ってくるのを感じた。(続く)